機甲兵搭乗時は会話を【】表記に修正します。
[キリコ side]
俺が目が覚めた頃には夕方になっていた。俺は倉に目をやった。
皆、死んでいた。
なかには、男か女か、子どもか年寄りかもわからない者もいた。
彼らを目にした時、俺の心に怒りが宿った。
(奴らに、地獄を見せてやる!)
俺は彼らに必ず戻ってくると告げ、導力車に乗り込む。
2日前に雨が降ったから足跡を辿ることは容易い。ここからそう遠くないだろう。
拠点に行けば武器や弾薬は唸るほどあるだろう。できれば、アレに乗ってみたいが。
俺はただ、前だけを見つめながら車を走らせた。
奴らの拠点にたどり着いた時には既に日がくれていた。
俺は車を人目につかない場所に隠し、様子を伺っていると、妙な奴がいた。
そいつは一番派手な天幕の様子を探ろうとしていた。
俺はそいつの後ろに近づき、ナイフ首筋に押し当てた。
「動くな。」
「クッ!見つかったか!」
「殺しはしない。多分、アンタと目的は同じだ」
「何をワケのわからないことを…あれっ?君、もしかしてあの時の?」
俺を知っているのか?俺は初めて見た顔だが。
「なんで君がこんな所にっと、見張りがくる。少し離れよう。ついてきてくれ」
「わかった」
男と共に移動する。
「一応、挨拶しとくか。俺はライル・フラット。帝国正規軍第九機甲師団の中尉だ。」
「キリコ、キリコ・キュービィー」
「よろしくな、キリコ。それでなんでこんな所に?」
「ここから北東にある村から来た。村人は俺が留守の間に全員奴らに殺された。」
「そうか、クソッ!ヴェインの野郎」
「ヴェイン?それが奴の名前か…」
「あぁ、極端な貴族至上主義で有名な男さ。奴にとって平民は命令はおろか気まぐれで殺しても構わないと本気で信じてる。恐らくお前さんの村も…」
そうか…。やはり、その手の部類か。予想はしていたが、改めて聞かされると反吐が出てくるな。
「それにしても、あの時保護した赤ん坊と敵の拠点で再会するとはなぁ。人生ってのはわからないモンだな。」
「…ッ!?では、俺を保護した軍人とは…」
「あぁ、俺だぜ。……で?こんなところで何してる?まさかとは思うが…」
「そのまさかだ」
「バッ、バカ野郎!ここは戦場なんだぞ!子どものくる場所じゃない!とっとと帰るんだ!」
「そうはいかない。俺にはやるべきことある」
「気持ちは解るが落ち着け。だいたい君に何ができッ!?」
俺は咄嗟に持っていたナイフをライルの後ろにいた貴族連合軍兵士に投げつけた。ナイフは敵の喉に正確にヒットした。
「た、助かったよ。ありがとう…じゃなくて!き、君は今…」
「あのままなら俺もアンタも今ごろ銃で撃たれていた。ところで弾薬庫はどこにある?」
「あぁ、それなら西の……じゃなくて!今俺の話聞いてた!?って、どこに行くの!?」
「今アンタが言った場所だ。恐らくそこには機甲兵もあるはずだ。アンタはアンタで任務を遂行するといい」
「だからそうじゃなくて…あぁ、もうわかったよ!俺について来てくれ。君の言うとおり俺の任務は密偵だ。貴族連合軍にトンデモない最低野郎がいるって情報がはいってきてな。ソイツを監視してたんだ。だがそれもたった今終わりだ。罪状は領民虐殺、放火、機甲兵の私的運用。できれば無傷で拘束したい。その手伝いをしてもらいたい」
俺が頷くと、ライルは「作戦を開始する」と言って弾薬庫へと歩を進めた。
待っていろ。俺が必ず、地獄を味わわせてやる。
[キリコ side out]
[ライル side]
はぁ、なんでこんな事になったんだろ?
実家とも言えるパルミス孤児院で別れてから10数年ぶりに再会したらまたお守りときた。
俺はそう思いながら後ろからついて来るキリコを見た。
不思議な少年だと思った。
聞けば、16歳だという。背格好は少年のそれだが、眼が違った。
まるで、歴戦の戦士を思わせる眼だった。
先程、兵士を投げナイフで倒した時も冷静そのものだった。
だが自分も同じように冷静に振る舞えるだろうか?
まぁ、肝を冷やすのもこれっきりだろう。
そうこうしているうちに弾薬庫に着いた。
俺は彼に隠れているよう指示して様子を伺う事にした。
なるほど、確かにこの数は流石だな。
これだけの量をかき集めるのに一体何人が犠牲になったんだろうか。
それに機甲兵もそれなりに揃えている。
情報ではカイエン公にとっくに切られてるらしいが。さて、どうするか…。
この時俺は気づいていなかった。
キリコが何をしようとしていたかを。
そして肝を冷やすのはこれからだったことに。
[ライル side out]
[キリコ side]
ライルに隠れているよう言われたが、俺にそんな時間はなかった。
隠れているフリをしながら、俺は装備を整える。
すると、あるものを見つけた。
導力式の銃だが大きく、重い。威力はなかなかのようだ。
それにしてもこの銃、前世で俺が使っていた得物に酷似している。
バハウザーM571アーマーマグナム
装填数は三発と少なく、射程も短いがATはおろか装甲車両にすら穴をあける代物だ。
妙な愛着が湧き、これも持っていくことにした。そして目当てのものを見つけた。
汎用型機甲兵《ドラッケン》
特殊な機能を持たない代わりに扱いやすく、機体スペックもなかなかだ。
さらに、鎧のような堅牢な装甲も心強い。
とはいえ流石にATのような旋回性は期待できそうにないが。
俺は迷わず、ドラッケンのコックピットに乗り込んだ。
中は思っていたほど狭苦しくはない。
俺はそのままエンジンを起動、機体を立たせる。
ライルが呆然としているが構ってるヒマはない。
側にあった機甲兵用のライフルを手にした瞬間、俺の体に懐かしい感覚がよみがえってきた。
殺らなければ殺られる。生き残りたければ引き金を引くしかない。
俺は今、戦場に還ってきたのだ。
[キリコ side out]
一体何が起きている。
領邦軍兵士たちは困惑するばかりだった。
味方である筈の機甲兵がなぜ、自分たちに銃口を向けている。
放たれた銃弾が弾薬庫を吹き飛ばした瞬間、ようやく自分たちのおかれた状況を認識する。
「て、敵襲っ!」
「機甲兵が奪取されましたっ!」
「弾薬庫に被弾!装甲車両も半数近く大破!」
「ええい!見張りは何をしていた!」
「何分、真夜中ですので…ぐわぁ!!」
「閣下はこんな時に何をしているのか!」
「そ、それが準備が整うまでなんとかしろとのことです…」
「ッ!?…ええい、残存する装甲車両と機甲兵で食い止めろっ!敵は賊軍一人だ。ドラッケン一機破壊してもかまわん!」
導力通信を介して副官の怒号が鳴り響く。自分たちをなめた報いを与えろと。機甲兵はそのための安い犠牲だと。
だがその判断は遅すぎた。
彼らが相手にしているのは、かつて神すら滅ぼした男なのだから。
キリコはドラッケンの堅牢な装甲を当てにしてローラーダッシュを巧みに使いこなしていた。
ミサイルが飛んでくれば、機体をスピンさせ、いなすように避ける。
装甲車両が機銃を撃ってくるも機甲兵の装甲に通用するはずもなく、機甲兵用ライフルで破壊する。
敵の機甲兵が構えてるところをショルダータックルで崩し、一回スピンした勢いでドラッケンの右が顔面を捉える。
「どうなってる!?奴は一体!?」
「あ、あんな動き、聞いたことがないぞ!?」
「機甲兵を扱えるのは我々貴族連合軍だけのはずだ!それをどうやって!?」
「だ、だめだ。もう機甲兵はない」
「あ、アイツは化け物だ。敵いっこない!に、逃げ…ぐあぁ!」
【敵前逃亡は例外なく死刑だ!】
怒号と共に現れたのは、紫色をした、指揮官型機甲兵《シュピーゲル》と二機のドラッケンだった。
紫の機甲兵はメイスで逃げようとした兵士を叩き殺した。
「か、閣下!?これは一体…」
【知れたこと。臆病者は我が配下に必要なし。特に敵前逃亡する者はな】
「し、しかし…」
【そして貴族である私に歯向かう者は居てはならない。私に意見した貴様は反逆者だ。その罪、万死に値する!】
「ま、待ってください!!私はただ…」
【一度ならず二度も逆らうか!この私、ヴェイン・ジギストムンドに!】
【アイツだ】
キリコの心に闘争心が宿った。奴だけは生かしておけない。キリコはヴェインに向けて銃弾を放った。
それに気づいたヴェインはシュピーゲルの機体を反らして回避する。
【貴様…この私に銃を向けたな。よかろう、まずは貴様からだ。穢れたサルの末路を教えてくれようぞ】
【………………】
【ドラッケン二機は下がれ。私が良いと言うまで手出しはするな】
そう言って、ヴェインは護衛の二機を下がらせる。
キリコとヴェイン、向かい合った距離は約70アージュ。
それはまさしく決闘だった。
だがキリコの心は冷静そのものだった。
キリコはただ、相手を見据え操縦悍を握りしめた。
[キリコ side]
奴は頭に血が上っているようだが、俺は自分でも驚くほど冷静だった。
戦場は勿論、バトリングでも滅多になかった状況を俺はただ受け入れるだけだった。
そして、奴に勝てる。
この自信だけが俺の胸に満ち溢れていた。
俺はライフルで牽制しながら、奴との距離を測った。
60、遠い
50、まだだ
40、まだ遠い
30、構えを解く
20、構えを変える
10、もう少し…!
5、今だ!
俺は奴の懐に潜り込み、タックルをかます。
奴は予想もしていなかったのかまともにくらう。
倒れたところを、出力を上げた機甲兵用ライフルで両手足を封じる。
そして俺は狙いをコックピットに定める。
その時、奴は何か喚いていた。
【バ、バカな、こんなバカなことがあってたまるか!私は貴族だぞ!貴族がサルに劣るなど!!】
【…………】
【何をしている!さっさとこいつを殺さんか、この役立たず共が!】
【【………】】
【な、なんだ貴様ら!命令が聞こえんのか!】
【ええ、伯爵殿、その命令は聞けないであります】
【なっ…!?】
ドラッケンのコックピットが開いた。
カメラをズームして見てみると、そこにはライルともう一人の兵士がいた。
どうやら奴は護衛が入れ替わっていたことを気づいていなかったようだ。
【ま、待て!金をやろう。いくらだ、いくらでも払う。だ、だから…】
【……言いたいことはそれだけか】
【た、たのむ…助けてくれ!私には妻も子もいるんだ、こんな所で死ぬ訳にはいかないんだ!】
【どこまでも身勝手だな】
【キリコ、聞こえるか?ライルだ。残念ながらジギストムンド伯爵は戦死、上にはそう伝えておくよ】
【わかった。】
【そ、そんな……】
俺は怒りを覚えた。見苦しい迄の命乞い、金で解決しようとする浅ましさ、身勝手な理屈、もうウンザリだ。
ライルの言葉に後押しされ、俺はシュピーゲルの持っていたメイスを振り上げた。
狙いを定めた時、俺の頭にクエント人の戦友の顔が浮かんだ。
かつてクメン王国内乱の末期、俺とフィアナを敵に売り渡そうとしたあの無能にとどめを刺したあの言葉がよみがえってきた。
【あんたは人間のクズだな!】
俺はメイスを振り下ろした。何か叫んでいたが、どうでもよかった。
やっと仇が討てた。それだけでよかったのだ。
[キリコ side out]
第九機甲師団が到着したのは、太陽が昇る頃だった。
ライル中尉と僚友クラムは早速、師団長のゲルマック少将に報告していた。
本作戦は自分たち二名と有志による協力者によって成功したと。
そのためキリコはゲルマックに呼び出されていた。
「協力者というから期待していたが、子どもではないか。私も見くびられたものだ」
「い、いえ閣下。こう見えて彼は…「自分はライル中尉殿の指示に従っただけです」そう、私の指示に…って!?」
「ほぉ、そうなのか?」
「はい。機甲兵に乗ってその場を動かず敵の目を釘付けにする、全て中尉の作戦です」
「えっ?えっ?えっ!?」
「なるほど、よくわかった。ライル・フラット中尉、よくやったな。ご苦労だった」
「は、はい…」
「そして君もだ。なんという名前かね?」
「キリコ・キュービィーです」
「よろしい、キリコ君よくやってくれた。だがしかし、なぜ君はここに?」
キリコは迷ったがこれまでのことをかいつまんで説明した。
「そうだったのか。育ててくれた両親と村のために…」
「クソッ、もう少し早く着いていればこんなことには…」
周りの将官たちも皆、同情していた。すると、ゲルマックは思い立ったように君に告げた。
「キリコ君。君さえ良ければ第九機甲師団で働かないか?」
「か、閣下!?」
「おっと、勘違いしないで欲しいが何も兵士としてではなく、メカニックとしてだ。今、我が第九機甲師団は人手不足でね。正直、猫の手も借りたいほどなんだ。それに機甲兵を動かせるテストパイロットも必要だ。どうだろう、君さえ良ければなんだが」
「……わかりました。引き受けます」
「おぉー、やってくれるか!ありがとう。早速だが、機甲兵の解体作業を手伝ってくれたまえ」
「はい……」
こうしてキリコは第九機甲師団のメカニック兼テストパイロットして働くことになった。
ここで過ごした1ヶ月がキリコの運命にかかわることになるとはまだ、誰も知らなかった。
やっと終わりました。