英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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最強に会う前に血塗られた真実が語られます。


月下

Ⅶ組は合流したアンゼリカとサラとともに帰路についていた。

 

二人は北ランドック峡谷道で調査しており、そこで猟兵とは異なる武装集団がいた形跡があることを告げた。

 

「すると、やはり猟兵ではないと?」

 

「ええ。落ちていた薬莢からの判断だけど、かなりの旧式ね。猟兵ってのは装備にも妥協はしないから、今入り込んでいる団とは完全に別と考えていいでしょう」

 

「ただ、野盗にしては統率とれている風に見えた。むしろ軍の一個師団に思える」

 

「いったい何者なんでしょう?」

 

「……………」

 

 

 

「この辺でいいか」

 

不意にアッシュが停車した。

 

「どうかしたのか?」

 

「なんかあったの?」

 

「………そろそろ聞かせろや。あいつらの言ってた残党ってのについてよ?」

 

『!』

 

「………………」

 

ユウナたちは驚くが、キリコは変化はなかった。

 

「気になってたんだがよ、なんでお前は猟兵に狙われんだ?」

 

「………………」

 

「しかも、殺しじゃなくて生け捕りってのがひっかかる。そういう時ゃみせしめってのが相場だ」

 

「………………」

 

「なあ、キュービィー。残党ってのは貴族連合軍じゃねぇのか?」

 

「………………」

 

「貴族連合軍……!?」

 

「確かにキリコは第九機甲師団にいて、戦ったそうだが」

 

「……フィーやアガットから聞いたわ」

 

「どうなんだよ」

 

「………おそらくな」

 

「キリコさん……」

 

キリコは導力バイクから降りる。

 

「ユウナ、クルト、アルティナ」

 

「?」

 

「以前、お前たちに俺が内戦に関わったことは話したな?」

 

「う、うん」

 

「確か……住んでいた村がジキストムンド伯爵の私兵から脅迫を受けていたところ、作戦行動中の第九に助けてもらったとか」

 

「おいおい。その話、おかしくねぇか?」

 

アッシュが待ったをかける。

 

「お前、帝都の仮設住宅にいたんだろ?だったら住んでいたっつう村ってのはどうなんだよ?」

 

「あれっ!?そういえば……」

 

「こいつの親は?ダチは?知り合いが一人もいねぇなんて変だろ」

 

「確かにそういった話は聞いた事がないが……」

 

「言われてみれば変ですね」

 

「すまない。あれは嘘だ」

 

「なっ!?」

 

キリコはユウナたちに頭を下げる。

 

「う、嘘って……」

 

「実際は違う。俺は助けられてなどいない」

 

「どうして……!」

 

「すまない」

 

キリコは再度頭を下げる。

 

「キリコ」

 

「はい」

 

「俺はサザーラントでライル大尉から辛い話になると聞いた。ユウナたちに伏せていたのもそのためなんじゃないか?」

 

「……ええ」

 

「その……キリコ君……」

 

「わかっている」

 

「あ……」

 

「いい機会かもしれないな。だが、いいのか?」

 

「……覚悟はできている」

 

「教えてください」

 

「聞かせろや」

 

「………………」

 

「………わかった。全て話そう」

 

 

 

その後、キリコはⅦ組とサラ、アンゼリカに内戦に関わった経緯を包み隠さず話した。

 

無論、それ以前のことは何も話さないよう言葉を選んだが、ユウナたちを茫然自失させるには十分過ぎた。

 

 

 

「……そして俺はその後分校長に推薦される形で第Ⅱ分校に来た。そこから先は知っての通りだ」

 

『…………………』

 

リィンやサラやアンゼリカは黙って話を聞いていた。

 

「そんな……そんなことって………!」

 

ユウナの溢れる涙を止められなかった。

 

「ばかな……」

 

「……………」

 

クルトは拳が真っ赤になるほど握りしめ、アルティナはどう反応していいかわからなくなった。

 

「クソッタレが……」

 

アッシュは拳を岩盤に叩きつける。

 

「………ぁ……………」

 

ミュゼはキリコの顔を見ることができなかった。

 

「……そうだったのか………」

 

リィンはキリコに近づいた。

 

「すまない。トラウマを抉るようなことをしてしまって」

 

「構いません」

 

「君は、貴族が憎いかい?」

 

アンゼリカはミュゼを支えながらキリコに聞いた。

 

「いや、貴族が憎くて軍に志願したわけじゃない。ジギストムンドを殺した時点で復讐は済んだ。軍に入ったのはゲルマック少将からメカニックとして誘われたからだ」

 

「キリコ……さん………」

 

「そうか……」

 

「ねぇ、キリコ君……」

 

ユウナがおそるおそる声をかける。

 

「何だ?」

 

「もしかして……前に言ってた、大切なものを奪われたことがあるって……」

 

「……………そうだな」

 

「そっか………」

 

ユウナは顔を伏せる。

 

「………ありがとう、話してくれて」

 

「気にするな」

 

キリコはいつもの口調を変えずに言った。

 

 

 

 

「おそらく、連中は近いうちに仕掛けてくるだろう」

 

「狙いとしては領邦会議か……」

 

「……やはりそうですか」

 

「残党がキリコ君の言うとおりなら、そうかもしれないわね。こうなりゃ、あたしも一肌脱ぐわ。ギルド方面に話を通してみるわ」

 

「サラ教官……」

 

「私もユーシス君やパトリック君たちに伝えておこう。もちろん、キリコ君の過去を省いてね」

 

「お姉様……」

 

「君たちはどうするの?」

 

サラはユウナたちに聞いた。

 

「当然、やりますよ!」

 

「ユウナ……」

 

「確かに、どう受け止めていいかわかりませんけど、あたしたちは仲間です。仲間が狙われているのに指咥えて黙ってられませんから!」

 

「僕もです。キリコがどんな人間かはわかっているつもりですから」

 

「わたしもⅦ組の一人ですから」

 

「ここまできて今さらイモ引けるかよ。俺らの邪魔すんなら蹴散らしてやるぜ」

 

「貴族の一人として、オルディスを愛する者として。何よりⅦ組の一員として、見過ごすことはできません」

 

新Ⅶ組は全員顔を上げた。

 

「君たち……」

 

「ふふっ、素敵な後輩に恵まれたわね♪」

 

「リィン君たち旧Ⅶ組に少しも劣らないね」

 

「ええ。彼らなら彼らなりのⅦ組を作ってくれると思います」

 

 

 

「とにかく、演習拠点に行きましょう。トワ先輩やランディさんとも話さなくてはいけませんから」

 

「そういえば、あの闘神の息子も君やトワの同僚なのよね?」

 

「ええ。やはりご存知でしたか」

 

「昔ちょっとね」

 

サラはかつて起きた赤い星座とのこぜりあいを思い出した。

 

「フフフ……私のトワ♥️一年半でどれほど可憐になったのやら……。さぁ、ぐずぐずしないで行こう!フルスロットルで突っ走るぞ!」

 

アンゼリカは頬を染め、導力バイクのエンジンを吹かす。

 

「落ち着きなさい」

 

(相変わらずだな……この人は……)

 

(何なんだ、このオンナ……)

 

(ふふ、アンゼリカお姉様は乙女だけのハーレムを築いておられですから♥️)

 

(理解不能です)

 

(大丈夫よアル。きっとアンゼリカさんだけだと……)

 

(ところがどっこい。俺の一つ上にはアンゼリカ先輩より濃い人がたくさんいるぞ)

 

(嘘だと言ってください……)

 

ユウナは深くうなだれた。

 

 

 

導力バイクを走らせ、リィンたちは演習地に戻ってきた。

 

「まさかアンちゃんやサラ教官とまた会えるなんて思わなかったよ」

 

「私もさ!会いたかったよ、トワ」

 

「久しぶりだな、紫電の姐さん」

 

「あなたもね、ランディ。フィーから聞いているわ」

 

「まったく、先月に引き続き……」

 

トワとランディは歓迎ムードだが、ミハイルはぶつぶつ言っていた。

 

「シュバルツァー、とりあえず報告してもらおうか」

 

「ちょい待ち。なんでユウ坊とミュゼの目の下が赤いんだ?」

 

「何かあったの……?」

 

ランディとトワが心配そうに見つめる。

 

リィンはユウナたちに顔を洗ってくるよう命じた。また、キリコに同席してもらえないかと言いづらそうに聞くと、キリコは承諾した。

 

ただならぬ雰囲気に人払いをしたトワたちはリィンの報告とキリコの過去を聞いた。

 

 

 

「マジかよ……」

 

「そんな……ことが……」

 

「報告書で拝見したが、それほどとはな」

 

トワたちは二の句が継げなかったが、ミハイルはおもむろに口を開いた。

 

「……それで、その残党とやらはこちらに攻めてくると?」

 

「分校単体という可能性はなさそうですね。キリコ君だけでなく、領邦会議も視野に入れていると見るべきでしょう」

 

「連中にしてみれば、今の貴族たちも復讐の対象かもね」

 

「そんな!?」

 

「完全に逆恨みですね」

 

「政府に尻尾を振ってんじゃねぇよ、ってか?」

 

「愚かな……」

 

「貴族の負の一面だね。プライドが高いゆえに自分が正しいと信じて疑わない」

 

「それではダメだと思います。美点ばかりを見つめても、理解しあえるはずがないのに」

 

「そうよね。間違っているなら止めないと!」

 

「ああ。もう僕たちだけの問題じゃなさそうだ」

 

「見過ごせません」

 

「みんな……!」

 

「やれやれ。こうなったら止まんねぇぞ、こいつら」

 

「とにかく!」

 

ミハイルが机を叩いて静める。

 

「猟兵や貴族連合軍残党についてはTMPや地方軍の方でも探りを入れる。君たちⅦ組特務科は明日の特務活動のことだけを考えて行ってもらう。以上、解散」

 

ミハイルはブリーフィングルームを出て行こうとドアロックを解錠した。すると、分校生徒たちがなだれ込んできた。

 

「なっ……!?」

 

「お、お前ら……!」

 

「聞いてたの!?」

 

「す、すみません。どうしても気になって……」

 

代表してスタークが謝罪する。

 

「自分たちも同じ気持ちです。このラマール州に危機が迫っているなら、見過ごすことはできません!」

 

ウェインの言葉にその場の全員が頷く。

 

「わかっているのか、俺は──」

 

「それ以上言うな。第一、何ヵ月寝食をともにしてると思っているんだ」

 

「キリコに何の落ち度もないことくらいわからない俺たちじゃない」

 

ウェインとスタークが親しげにキリコの肩を叩く。

 

「キリコさんにいなくなられたら技術部が回らなくなっちゃいますよ」

 

ティータが微笑みながら言った。

 

「ハハッ、キリコの負けだな」

 

「ええ」

 

リィンはランディの言葉に同調した。

 

その後、分校生徒たちはミハイルの説教を受け、演習後に反省文の提出を命じられた。

 

 

 

「?」

 

その夜、キリコは一人で作業をしていたら、妙な気配を感じ取った。

 

キリコは銃を取り、窓を開けた。

 

「ヤッホー、来ちゃった♪」

 

「……………」

 

キリコは侵入者に無言で引き金を引こうとした。

 

「わあっ、待って待って!あたし今丸腰だから、何も持ってないから!」

 

「舐めているのか?」

 

「違う違う、本当に会いに来ただけだから!貴族連合軍の残党についてだから!」

 

「何?」

 

「気になるでしょ?とりあえず入れてよ」

 

「………さっさと入って来い」

 

「ありがとう!そんじゃ、おじゃましま~す」

 

窓から侵入者──シャーリィ・オルランドが入って来た。

 

 

 

「うふふ、久しぶりだね♪」

 

「……そうだな」

 

キリコは飲み物を出した後、シャーリィに背を向け、残りの作業をこなしていた。

 

「やっぱり、すごいなぁ。さっきから全然隙がないんだもの。一本くらい取れないかなぁって思ったけど、こりゃ無理だなぁ」

 

「……………」

 

キリコはデスクからペンダントを取り出した。

 

「返しておく」

 

「あっ!まだ持っててくれたんだぁ。嬉しいなぁ。でもまだ持っててよ。また会えるかもしれないし♪」

 

「……………」

 

キリコはペンダントをしまい、シャーリィの方を向いた。

 

「それで、連中は?」

 

「ああ、残党のこと?なんかオルディスを狙ってるみたいだね」

 

「やはりか……」

 

「うん。指揮をとっているのがチャールズ・ジギストムンドとかいう元貴族。キリコだけじゃなく、バラッド侯ってオジサンも標的みたいだね」

 

「どちらも復讐の対象か……」

 

キリコはシャーリィの情報から考察をたてる。すると、ある疑問が浮かぶ。

 

「猟兵を雇っていたようだが、そちらはわかるか?」

 

「それなんだけどさ~……灰色のお兄さんたち、ニーズヘッグを退けたでしょ?それで一方的に契約を破棄しちゃったとか、最悪だよ~」

 

「……俺が殺したヴェイン・ジギストムンドは極端な貴族至上主義者だった。高位猟兵と言えど、その辺の扱いは変わらないようだな」

 

「あ~やだやだ。実力もないくせにプライドだけ立派って始末に負えないんだよね」

 

シャーリィはうんざりした表情で言った。

 

「それで連中は?」

 

「多分、潜っているんじゃない?決行はおそらく会議だと思うよ」

 

「だがTMPや統合地方軍もいる。正面からでは無理なはずだ」

 

「だろうね。機甲兵かなんかで攻め落とすつもりなんじゃない?」

 

「横流しの旧式機体なら裏ルートで入手は可能か?」

 

「たぶんね。まあ、ウチはあんまり使わないけど」

 

「そうか。情報提供、感謝する」

 

「ううん、気にしないで。キリコだったらいいから。それに──」

 

(……待て)

 

キリコは黙るようハンドサインを出す。シャーリィもそれにコクコクと頷く。

 

キリコがドアの方を向く。ドアがガタガタと鳴る。

 

キリコは静かにロックのついてる方へ行き、シャーリィに鉄パイプを投げ渡す。

 

鉄パイプを受け取ったシャーリィは頷き、構える。

 

互いに頷き合い、ドアロックを解錠した。

 

 

 

「やっと開きましたわ。さぁ、さっさとマスターのとごっ!?」

 

 

 

侵入者にシャーリィが鉄パイプを振り下ろす。よろけた瞬間、すかさずキリコがボディブローを叩き込む。

 

「あれ?嘘?」

 

「こいつは……」

 

キリコたちの足元には泡を吹いて気絶した鉄機隊筆頭・神速のデュバリィがいた。

 

 

 

騒ぎを聞きつけ、駆けつけたトワたちは状況に開いた口が塞がらなかったが、すぐに冷静になった。

 

「…………なるほどな。それでこいつがいるのか」

 

「ま、まさか貴族連合軍残党の情報を持って来たなんて……」

 

ランディとトワが驚く横でシャーリィはキリコが出した缶ジュースの飲んでいた。

 

「まったく……Ⅶ組特務科は騒ぎを起こさないと気がすまないのか……!」

 

「? そういえばユウナたちは?」

 

「それがね、リィン君を追いかけて行ったみたいなの」

 

「リィン教官を?」

 

「情報収集でラクウェルに行ってるんだよ。あいつらそれで抜け出して行ったみてえなんだ」

 

(あいつら、懲りていないのか……)

 

キリコは仲間たちの行動力に呆れ果てた。

 

「それで、なんでデュバリんがここにいるんだ?」

 

「デュバリんって……」

 

「そういえばマスターがどうとか言っていましたが」

 

「何!?」

 

「本当か!」

 

ランディとミハイルが驚愕した。

 

「え、えっと……?」

 

「知っているんですか?」

 

「蛇の使徒と呼ばれる結社の幹部の一人で"鋼の聖女"の異名で知られている」

 

「結社でも最強と呼ばれていて、一年半前にクロスベルで戦ったんだが、手加減された上でボロ負けだったんだ」

 

「鋼の聖女……そういえばレポートか何かで読んだことが……」

 

「…………」

 

キリコはロープで縛ったデュバリィを肩で担ぐ。

 

「キリコ君?どうしたの?」

 

「突き返して来ます」

 

「ええっ!?」

 

「こいつのマスターとやらは俺に用があるみたいです。戦闘をしに行くわけではないので心配は無用です」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「まあ、話は聞いてくれる人だから心配はいらねぇと思うけどよ」

 

「許可できるわけがなかろう。こいつは即刻TMPに引き渡す。紅の戦鬼、貴様もだ」

 

「うーん、別にいいよ。ただし、ウチと聖女さんと戦争するつもりならだけど♪」

 

シャーリィが殺気を放つ。

 

「グッ……」

 

「ですから、俺が行ってきます。これ以上面倒が増えても困るので」

 

「でもキリコ君。場所分かるの?」

 

「こいつに案内させます」

 

キリコはシャーリィに視線を送る。

 

「うん、いいよー」

 

「しかしだな……!」

 

「まあまあ、ミハイルの旦那。シャーリィの言うとおり、下手したらラマール州が戦火に包まれるような事態になっちまう。ここはキリコに任せておきましょうって」

 

ランディがミハイルを押し留める。

 

「キリコ君、一つだけ約束しなさい。絶対に帰ってくること。守れますね?」

 

「イエス、マム」

 

キリコは軍隊式で返事をし、シャーリィの案内で鋼の聖女の待つ場所へと向かった。

 

 

 

「あそこにいる人だよ」

 

「……わかった」

 

指定の場所では、月明かりに照らされ輝く甲冑を纏った人物が背を向けて立っていた。

 

さらに横には鉄機隊に属する剛毅のアイネスと魔弓のエンネアがひかえていた。

 

「こんばんは、よい月夜ですね」

 

「…………」

 

「なぜここに貴女がいるのかはわかりませんが、聞くのは野暮でしょうか?紅の戦鬼」

 

「あはは……なんでわかったの?」

 

「フフフ」

 

鋼の聖女はゆっくりと振り返る。

 

そして白目を剥き、気絶したデュバリィを見た。

 

「……デュバリィがなぜそうなったのかは聞きません。どうせ力ずくでことを起こそうとしたのでしょう」

 

「躾くらいきちんとしてもらいたいな」

 

「おっしゃるとおりです。紅の戦鬼、すみませんが介抱してあげてください」

 

「はーい」

 

シャーリィは地に下ろし、ロープをほどいた。

 

「さて、私は……」

 

「その前に兜を取ったらどうだ?」

 

「…………」

 

「こんな時間に人を呼びつけて迷惑ぐらい考えてもらいたいものだな」

 

キリコは鋼の聖女から背を向けた。それが鉄機隊の怒りに触れた。

 

「無礼な!!」

 

アイネスはハルバードをキリコの頭上に振り下ろす。

 

「!」

 

キリコはそれを重心移動で真横にかわす。

 

「なっ!?」

 

避けられたことに動揺するアイネスにキリコは逆手に持ったサバイバルナイフを首にあてる。

 

「アイネス!このっ……!」

 

エンネアが矢をつがえようとした。

 

だが、キリコ相手には遅かった。

 

キリコは左手でアーマーマグナムを構え、エンネアに2発の弾丸を撃った。

 

1発目はつがえた矢を破壊し、2発目は弓を弾き飛ばした。

 

そしてキリコは銃口を向け続ける。

 

「ば……ばかな………」

 

「嘘……でしょ………」

 

二人は今起こったことが理解できなかった。

 

同時にキリコに対し、恐怖に似た感情を覚えた。

 

アイネスは僅かでも動けば、即座に首を掻き切られるイメージに押し潰されそうになっていた。

 

銃口と殺意を向けられたエンネアは金縛りに陥っていた。

 

僅かな無駄もないキリコの技量は鉄機隊を封殺したのだった。

 

(すごいすごい!やっぱり最高だよ、キリコ!あたしだってあんなにスマートにできないよ!あぁ、やっぱりあたしの目に狂いはなかった~♥️)

 

未だ覚めないデュバリィをよそに、シャーリィは頬を染め、身をもだえさせていた。

 

 

 

「二人とも、下がりなさい」

 

「し、しかし……!」

 

「彼は礼儀の話をしているんです。確かに夜分に呼び出したのにも関わらず、礼儀に欠けていましたね」

 

鋼の聖女はゆっくりと兜を脱いだ。

 

「あ……」

 

「マスターが兜を……」

 

兜の下から、金髪の女性が顔を現し、月夜に美しく照らされた。

 

「部下の非礼は謝罪します。手を引いていただけますか?」

 

鋼の聖女の言葉を聞き、キリコはサバイバルナイフとアーマーマグナムをしまった。

 

解放されたアイネスとエンネアは震えながら主の元へと戻る。

 

(この二人の心を折るほどの……。なるほど、カンパネルラが勧誘に踏み切ったのも頷けますね)

 

「挨拶が遅れました。身喰らう蛇、蛇の使徒第七柱アリアンロードと申します。夜分にお呼びして申し訳ありません、キリコ・キュービィー」

 

「別にいい。要件とは?」

 

「そちらにいる紅の戦鬼や道化師が貴方のことを熱心に口にするので直に会って見たかったのです」

 

「…………」

 

「実際に会ってみて驚きました。先ほどアイネスとエンネアの技をいなしただけでなく、逆に追い詰めるとは。そちらのデュバリィも含めて鉄機隊は執行者に肩を並べるほどの実力を持っています」

 

「殺気を感じただけだ。それに運良く射程範囲内にいた。それだけだ」

 

「なるほど(一片の迷いのない心、優れた技量、高い身体能力。心技体揃った強者ですか)」

 

アリアンロードは微笑んだ。

 

「それにしても初見で兜を脱ぐのも久しぶりですね」

 

「?」

 

「古来より、戦場で武人の素顔をさらすのは強者に対する礼儀とされています。その点では貴方は強者と言えるでしょう」

 

「買いかぶりだ」

 

「フフ、そこは誇るべき点ですよ。貴方がもし口だけの半端者なら仕置きをせねばなりませんから」

 

「………………」

 

「ですが、いくつか解せない点があります。貴方の眼は少年のそれとは大きくかけ離れています。年若さには不釣り合いな覚悟、そして深い喪失を感じます」

 

「また、貴方の反応速度は常人を上回っています。普通の人間ではそこに至るには困難でしょう」

 

「………………」

 

「キリコ・キュービィー、貴方はいったい……」

 

「………質問で返すようで悪いが」

 

「………どうぞ」

 

「アンタは永遠に戦い続けなければならなくなったら、どうする?」

 

「っ!」

 

アリアンロードはキリコの問いに答えようとした。だが、口にできなかった。

 

「そろそろ帰らせてもらう」

 

「………はい。本日はご足労かけました」

 

「………………」

 

キリコは元来た道を通って帰って行った。

 

「………………」

 

アリアンロードはキリコの背中を見つめていた。

 

(彼と眼が合った刹那、私はアレの気配を感じた。まさか私が冷や汗をかくとは……)

 

「キリコ・キュービィー、貴方はいったい……」

 

 

 

「シュバルツァーを追いかける!?それに何の意味がある!」

 

キリコが戻ると、ユウナたちが説教を受けていた。また、隣にはアンゼリカとクレア少佐も同席していた。

 

「あっ!おかえりなさい!」

 

「キリコ、戻ったのか……」

 

「キリコ、鋼の聖女さんはどうだったよ?会えたんだろ?」

 

「なんですって!?」

 

ランディの言葉にクレア少佐は驚愕した。

 

「は、鋼の聖女って……!」

 

「結社の使徒に?」

 

「兄上から聞いたことがある。結社最強の槍の使い手で、槍の聖女リアンヌ・サンドロットの再来と言われる……」

 

「先月お会いした刧焔と並ぶ人物だとか」

 

「どんなバケモンだよ……」

 

「いっぺんに喋るな」

 

キリコはユウナたちを押し留める。

 

「キュービィー候補生、報告してもらおう」

 

「はい」

 

ミハイルに促されキリコは先ほどのことを話した。

 

「マジ?」

 

「ええ」

 

「鉄機隊の二人と互角に……」

 

「そういやお前、二大猟兵団や結社に誘われてたよな?」

 

「ええっ!?そうなの!?(フィー、そんな大事なことを……!)」

 

アッシュの言葉にサラが驚愕する。

 

「キリコ君は執行者クラスの実力者ということか。なるほど、オーレリア殿が推薦したのも頷けるね」

 

アンゼリカが納得したように笑みを浮かべる。

 

「さすがキリコさんですね♥️」

 

「それはいい。それより、お前たちはサザーラントの演習から懲りていないらしいな」

 

「だ、だって……」

 

ふて腐れるユウナを尻目にキリコは仲間たちに告げた。

 

 

 

「お前たちの頭は飾りか?」

 

 

 

『………………』

 

ブリーフィングルームにいた全員がポカンとした。

 

「詳細はレポートを回すので。俺は寝ます」

 

「あ、ああ……お疲れ………」

 

キリコはリィンに告げ、ブリーフィングルームを出た。

 

その瞬間、ユウナとアッシュの怒号とランディとサラとアンゼリカの吹き出す声が聞こえたが、キリコにはもはや知ったことではなかった。

 




キリコはOVAとかでも普通の状態で弾丸をかわしていたのでハルバードや矢ぐらいならかわせますよね?

気づけばもう50話なんですね。
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