英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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旧Ⅶ組最後の一人が登場します。


ブリオニア島②

「な、なんなの……これ……」

 

「巨大な……騎士人形……!?」

 

探索を進める一行は騎神に似た意匠の巨大な像を発見した。

 

そのあまりの大きさに圧倒され、ユウナたちは言葉が出なかった。

 

「これがブリオニア島の……」

 

「知っているんですか?」

 

「ノルド高原にこれと同じようなものがあるんだ。現地の人々はそれを守護神として崇めているんだ」

 

「ノルドの守護神……」

 

「確かにそんな風格はあるわね……」

 

「叔父上からも聞いてはいたが、どうやって彫ったんだろう……」

 

「こんなもん人間に出来んのかよ?」

 

「ノルドだけでなく、各地に巨石文明の跡が残っているからな。おそらく、古代ゼムリア文明の業なんだろうな」

 

「古代のロマンですよね」

 

(さすがに古代クエントの超文明とは比べ物にならんだろうがな。考えてみればとてつもないものなんだろうな)

 

(焔と大地の至宝………。教官や皆さんが真実にたどり着くのはもう少し先のことでしょうね)

 

ミュゼは物体を見上げながら未来を見た。

 

 

 

「これってなんだろ?」

 

巨像の近くに祠のようなものがあった。

 

「教官、それは……」

 

「ああ、ペンダントが反応しているな」

 

リィンはエマから貰ったペンダントを取り出した。ペンダントは祠と共鳴しているかのようだった。

 

リィンは思いきって触れてみた。すると、祠が輝き出した。

 

「これは……!」

 

「祠が光った?」

 

「それだけじゃなさそうだ」

 

キリコは祭壇の場所の方角を指さした。

 

「なんだ?」

 

「もやがかかっている?」

 

「おそらく、完全に顕現させるにはまだ不足のようですね」

 

「そうだな。とにかく、島全体をまわってみよう」

 

リィンは同じような祠を探すことを決めた。

 

(やはり勘や洞察力はアッシュやキリコ以上。いや、まるで何が起きるのかがわかっているかのような……。ミュゼ・イーグレット、本当に何者なんだ?)

 

 

 

リィンたちは島の西側の海岸にやって来た。

 

「綺麗……」

 

「これは見事だな」

 

「水平線がどこまでも広がっています」

 

「へえ?悪くねぇな」

 

「確かに泳ぎたくなってしまいますね」

 

ユウナたちが感動している一方で、リィンは祠の在処を感じとっていた。

 

「向こうか」

 

「あの洞窟だと?」

 

「ああ。みんな、そろそろ行こうか」

 

リィンたちは洞窟へと向かい、祠に触れた。

 

 

 

次にリィンたちは滝の場所にやって来た。

 

「ここは涼しげですね」

 

「そうだな」

 

「魚もいるし、バカンスかなんかで来たいなぁ~」

 

「ふむ。サバイバル実習なんかには向いているかもな」

 

「確かに環境としては最高かもしれませんね」

 

「喧騒からも離れているし、修行にはピッタリだな」

 

「教官にクルト君……他に何かないの?」

 

「ほっとけよ、剣術バカなんだからよ」

 

「何?」

 

「クルト、いちいち反応するな。アッシュも煽るんじゃない」

 

「へいへい」

 

「………はい」

 

クルトは渋々といった形で矛を収めた。

 

「それより教官、ペンダントはどうですか?」

 

「ああ、多分あれだな」

 

リィンは滝の裏にある祠を指さした。

 

「あんな所に……」

 

「一応、歩いて行けるみてぇだな」

 

「それじゃ、魔獣に気をつけながら進もう」

 

リィンたちは魔獣を退けながら、祠を活性化させた。

 

 

 

最後の祠は集落跡にあった。

 

「人が住んでいたんですね」

 

「ああ、500年ぐらい前にな」

 

「500年前だと暗黒時代が終わった頃ですか」

 

「七耀の教えが大陸に広まり、各地の戦乱が終息したと言われていますね」

 

「女神だろうとなんだろうとすがれりゃいいんだろうよ」

 

(女神、か。ここもアストラギウスも変わらないな)

 

「とりあえず、おおまかな所は試験に出すからな。みんな、復習は怠らないようにな?」

 

「なんで今言うんですか……」

 

「そういえば来月、試験か……」

 

「まあ、大丈夫でしょう」

 

「うーん、高得点取れるのでしょうか……」

 

「嫌みかてめえ……」

 

(予習復習は問題ない。後は出題範囲か)

 

「まあ、先のことは考えても仕方ない。今はできることをやろう。ほら、あそこに祠があるぞ」

 

リィンたちはテンション駄々下がりのユウナを立ち直らせ、最後の祠を活性化させた。

 

 

 

全ての祠を活性化させ、祭壇のあった場所へ戻ると、大きな建造物があった。

 

「な………」

 

「どうなっているんだ?」

 

「祠を活性化させたためでしょうか?」

 

「あれは、精霊窟か?」

 

「精霊窟?」

 

「帝国の伝承のドワーフと妖精が作り上げたと言われるものだ。見た目にはわかりづらいが、中は広大な空間が広がっている。内戦時に帝国東部に三ヶ所顕れたんだ」

 

「そういえば兄上や叔父上に聞いたことがあるような」

 

「最奥にはヴァリマールの太刀の材料となるゼムリアストーンが安置されていたとか」

 

「へ、へぇ………」

 

「ったく、またオカルトかよ」

 

(これも魔術なのか?ペンダントはもう反応していないようだが)

 

(この先で待っているのは……)

 

ユウナたちが変化に驚く中、ミュゼは拳を握りしめる。

 

「…………………」

 

リィンは黙考し、ユウナを見据えた。

 

「特務活動はここまでとする」

 

「は……?」

 

「ここまで?」

 

「どうやらこの先には尋常じゃない何かがいるようだ。君たちの手に負える相手じゃないだろう。君たちはこのまま帰投してもらう」

 

(尋常じゃない何か……おそらくは……)

 

「ふざけないでください!」

 

ユウナが吼えた。

 

「また足手まといとか言うんですか!あたしたちがそんなに頼りないですか!」

 

「教官のおっしゃるとおり、僕たちは未熟です。ですが、教官でさえ手におえない何かが待っているのはわかります」

 

「一人だけで動くのはⅦ組のやりに反すると思います」

 

「人に散々言っときながらてめえが破ってんじゃねぇよ」

 

「ご自分の言葉には責任を持つべきかと」

 

「みんな………」

 

リィンはばつの悪そうな顔をした。

 

「たまにはあたしたちを頼ってください。そりゃ、旧Ⅶ組の先輩たちに比べたら頼りないかもしれません。けど、あたしたちだってマシになってるはずです!」

 

「少なくとも入学時点ではかなり成長しているかと思います」

 

「…………………」

 

リィンは押し黙る。

 

「それで?行くんですか?」

 

キリコは既に戦闘体勢にはいっていた。

 

「なんだよ、てめえもやる気かよ」

 

「ああ」

 

「キリコまで……………わかった、君たちの力を借りたい。全員、覚悟を決めろ」

 

『……(コクン)』

 

ユウナたちは表情を引き締め、頷いた。

 

「いいだろう。なら──来い、ヴァリマール!」

 

数分後、ヴァリマールが飛んで来た。

 

「教官……」

 

「念のためにな。ヴァリマール、何か分かるか?」

 

「あの奥からとてつもない力を感じる。ゆめゆめ油断するな」

 

「わかった。危なくなったら呼ぶ。それまで待機しててくれ」

 

「心得た」

 

ヴァリマールは片膝をついた。

 

「トールズ第Ⅱ分校・Ⅶ組特務科。これより精霊窟の探索を行う。何が待ち受けているかわからない。もう一度言う。全員、覚悟を決めろ!」

 

『イエス・サー!』

 

 

 

精霊窟の中はリィンが言うほど広大ではなかった。

 

だが、奥から流れてくる圧倒的な気配をユウナたちはビリビリと感じ取っていた。

 

「なんだか、空気が重い……」

 

「圧倒的な強者……そんな感じがする……」

 

「ハッ、面白くなってきたな」

 

「この感じは……」

 

「キリコさん?」

 

(感じているんですね……。最強の力を……)

 

「総員、お喋りはそこまでだ。得物を構えておけ」

 

リィンはそう指示を出し、自身も抜刀した。

 

「行くぞ……!」

 

リィンは扉を開けた。

 

 

 

扉の先には鉄機隊の三人と甲冑姿の騎士が待っていた。

 

そしてその背後には巨大な白銀色何かが鎮座していた。

 

「遅かったですわね」

 

「ッ!アンタたちは……」

 

「リィン……」

 

「ミリアム!?」

 

リィンたちは駆け寄った。

 

ミリアムは光り輝く蔦のようなもので拘束されていた。

 

「ゴメン、ドジっちゃった……」

 

「ミリアムさん!」

 

ユウナは蔦に触れようとした。

 

「止めておけ。触れればタダではすまんぞ」

 

剛毅のアイネスが止めた。

 

「大丈夫よ。動けなくしただけだから。傷一つつけていないわ」

 

魔弓のエンネアが澄ました顔で言った。

 

「クッ……」

 

「こっちは大丈夫だよ………。それより気をつけて!奥にいるのは結社の使徒だよ!」

 

「何!?」

 

リィンたちは奥にいる騎士を見やった。

 

「はじめまして、Ⅶ組特務科。我が名はアリアンロード。結社身食らう蛇の使徒第七柱を冠する者。もっとも、キリコ・キュービィーとは昨夜ぶりですが」

 

「………………」

 

「なっ!?あ、あなた……マスターが話しているのにその態度はなんですか!!」

 

キリコは一言も口にしなかったが、それは神速のデュバリィの逆鱗に触れた。

 

「しかも……昨夜はよくもやってくれましたわね!乙女の頭に一撃を食らわせた挙げ句腹パンするとは……!あなたには血も涙もないんですの!?」

 

「………………」

 

「それだけならまだしも、マスターの前で恥をかかせて………!この怒りはいったいどこに「言いたいことはそれだけか」……!?」

 

キリコは口を開いた。

 

「あの時間帯は防犯上、二号車しか開放されていない。二ヶ月前ならまだしも、このことは全員が熟知している。したがって六号車のドアを開けようとするのはこれを知らない侵入者だけだ」

 

「確かにな」

 

「そしてもうひとつ……」

 

キリコは前に出てアーマーマグナムをデュバリィに向けて発砲した。

 

「なっ!?」

 

デュバリィは盾で防ぐが、アーマーマグナムの威力に二、三歩下がった。

 

「俺は女だろうと容赦はしない。俺たちの邪魔をするなら殺す」

 

「キ、キリコ君……」

 

(威嚇……違う。本気の殺意……)

 

「この………無礼者が………!」

 

怒りに震えるデュバリィは構えた。

 

「その生意気な口、二度と叩けなくしてやりますわ!」

 

「デュバリィ」

 

アリアンロードがやんわりとデュバリィを止めた。

 

「しかしマスター!」

 

「デュバリィ、戦場で取り乱したり、ましてやペラペラと囀ずったりするものではないと教えたはずですが?」

 

「それは………」

 

「下がりなさい。キュービィーも銃を一旦納めていただけませんか?」

 

「……………」

 

キリコは仲間のいる所まで下がり、銃を仕舞った。

 

「キリコ君……」

 

「……………」

 

(キリコさん………)

 

すると、アリアンロードが前に出る。

 

「部下が醜態を晒したこと、お詫びします」

 

「こちらこそ、教え子の暴挙、お許し願えると」

 

リィンとアリアンロードは互いに謝罪した。

 

「率直にお聞きします。貴女方はいったいここで何を?」

 

「無論、実験のためです。内容は言えませんが、幻焔計画の一部とだけ申しておきます」

 

「またそれかよ……」

 

「……背後のは神機ですね?」

 

「はい。神機アイオーンtype-α。今は眠っていますが」

 

「やっぱり……。あれはクロスベルを襲った……!」

 

ユウナは思わず構える。

 

「先月と先々月に現れた神機の最後の機体か!」

 

「確か前の二機にはない特異な機能を備えているとか?」

 

「フフ、ご想像にお任せします」

 

「………………」

 

アリアンロードはリィンたちに向き直る。

 

「我々はあなた方と敵対するつもりはありません。今回ばかりは手を引いてもらえませんか?」

 

『!?』

 

リィンたちは目を見開く。

 

「て、手を引けって……」

 

「意味がわかりません」

 

「……貴女方の企みを見て見ぬふりをせよと?」

 

「ざけんなよ、オバハン」

 

「ちょ!?それは失礼でしょ!?」

 

アッシュの暴言をユウナが諌めた。

 

「貴様……!」

 

「さすがにオイタが過ぎるわね……」

 

アイネスとエンネアがアッシュを睨み付ける。

 

「二人とも」

 

「「っ!………ハッ」」

 

アリアンロードの一声に二人は大人しく下がる。

 

「それで答えは?リィン・シュバルツァー」

 

「………………」

 

「言いたいことはわかりました。ですが、はいそうですかと引き下がるわけにはいきません」

 

リィンは口を開いた。

 

「これまで結社の実験を見てきた限り、どれもこちらに害を為すものばかりでした。おそらく、今回の実験もその類いだと判断せざるを得ません」

 

「……………」

 

「それにここで手を引くことは後々まで悔いを残すことになるでしょう」

 

「…………手を引くつもりはないと?」

 

「ええ」

 

「……………」

 

「貴女が結社最強だというのは肌で感じてわかります。ですが──」

 

リィンは太刀を向ける。

 

 

 

「トールズの意志を受け継ぐ者として、Ⅶ組の一員として、全力で抗わせていただきます!!」

 

 

 

「教官……!」

 

「僕たちも同じです!」

 

クルトたちも得物を構える。

 

(………なるほど。あの方と同じ眼をしています。そして彼らもまた、強い眼をしていますね)

 

「やる気みたいね♪」

 

「ひ、雛鳥風情が……!」

 

「面白い……!」

 

鉄機隊も応戦の意志を見せる。

 

「意気やよし。では──」

 

アリアンロードは鉄機隊に目をやる。

 

「デュバリィ、アイネス、エンネア。星光陣の使用を許可します」

 

「マスター……」

 

「彼らに教えてあげなさい。強者とはなんたるかを」

 

「「「ハッ!」」」

 

敬礼とともに鉄機隊の足元に金色のラインが浮かぶ。

 

「なっ!?」

 

「あれって、戦術リンク!?」

 

「どうやら全く同じではないようですが」

 

「ハッ、面白れぇ!」

 

「まずは一人を狙いましょう。それで半減するかもしれません」

 

(普通ならあの弓使いだろう。だが、それも向こうは折り込み済みのはず。それにあのうるさい女は俺狙いだろう)

 

キリコの予想通り、デュバリィはキリコに深い敵意と殺意を向けていた。

 

「総員、これより戦闘を開始する!これまでとは次元が違う相手だ、全員で生きて帰るぞ!!」

 

『イエス・サー!!』

 

 

 

[キリコ side]

 

星光陣とやらは原理的には戦術リンクと同様のものと言えた。

 

三人の内誰かが攻撃を仕掛け、残りのどちらかが追撃する。

 

問題は連携の高さだった。

 

こちらは出会って二ヶ月程度だが、向こうはおそらく年単位。

 

連携が高いということは互いの呼吸や距離を知っているということだ。

 

本気の連中に俺たちは劣勢を強いられることとなった。

 

 

 

「くらいなさい!」

 

「グッ、速い……!」

 

「そこだっ!」

 

「チッ!馬鹿力が!」

 

「これはどうかしら」

 

「っ!近づけない……!」

 

スピードで翻弄する神速、パワーで圧倒する剛毅、遠距離から狙撃する魔弓。

 

元々の技能の高さと星光陣による連携。こちらにとって厄介この上ない。

 

だがこちらとてただやられてやるつもりはない。

 

少しずつではあるが、ユウナたちも対応しつつある。

 

なら俺の役目は………。

 

「アーマーブレイク」

 

「なっ!?」

 

「クルト!」

 

「わかった!テンペストエッジ!」

 

「あたしも続くわ!クロスブレイク!」

 

体勢を崩した剛毅にクルトが竜巻のような斬撃、ユウナがガンブレイカーの打撃を浴びせる。

 

「隙だらけよ……」

 

「遅い」

 

魔弓がユウナに狙いを定める。すかさずハンタースローで魔弓の狙いを狂わせる。

 

「くっ……!」

 

「隙だらけです♥️」

 

「崩れました」

 

間髪入れず、ミュゼとアルティナがアーツを叩き込む。

 

「クッ!おのれ……!」

 

神速が俺に狙いを定め、一気に詰める。

 

「ハアッ!」

 

リィン教官が太刀を切り上げ、神速の剣を弾く。

 

「このっ!」

 

「もらった!」

 

アッシュが神速に得物を振り下ろす。それを盾で防ぐが、そこを狙いアーマーマグナムを放つが、かわされた。

 

「甘いですわ!」

 

「二の型、疾風!」

 

「って、きゃああああっ!」

 

教官の追撃は捌けず、受けた。

 

向こうが質ならこちらは数で対抗する。俺はその起点に徹する。正直、ぶっつけ本番だが功を奏した。

 

「はぁ…はぁ…。な、なんとか凌いだわね」

 

「キリコさんのフォローがなければ危なかったですね……」

 

「マジで戦闘に特化してやがんだな」

 

「………………」

 

「油断するな。まだ終わっていない」

 

「ええ、むしろここからでしょう」

 

教官とアルティナは表情を崩さない。

 

ここからが本番だろう。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「…………(ギリギリ)」

 

デュバリィは歯軋りをしていた。

 

「キリコ・キュービィー。これほどの手練れとはな……」

 

「この戦場は完全にキリコ君が支配しているわね。リィン君や他の子たちが動きやすいようにフォローに回り、こちらの攻めの手を削ぐ。なかなか憎い演出ね」

 

「黙りなさい!!」

 

デュバリィが吼える。

 

「デュバリィ?」

 

「あんな……あんなもの……認められるはずありません!」

 

「だが現にこちらの動きは抑えられている」

 

「道化師殿や紅の戦鬼殿が夢中になるわけね。マスターも兜を脱ぐくらいだし」

 

「ま、待ちなさい!どういう意味ですの!?」

 

「言葉のとおりだ」

 

「マスターはキリコ君の目の前で兜をお脱ぎになったの。そういえばデュバリィ、気絶してたのよね」

 

「………………」

 

デュバリィは頭をガクリと落とした。そして体が震え始めた。

 

「どこの……馬の骨とも……わからない……者を……マスターが……お認めになった?そして私はお役に立てず……気を絶していた?」

 

「なんだ?」

 

「何ぶつくさ言ってやがる?」

 

リィンたちも動きを止める。

 

「私はマスターの僕。マスターの盾。マスターの剣。その私を差し置いて………。そんな……そんなもの……

 

 

 

そんなこと認められるものですかぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

デュバリィから闘気の奔流が溢れ出す。

 

「ぬおっ!?」

 

「な……!」

 

「ぶちギレ、というやつですか」

 

「ただの逆恨みですね」

 

「黙りなさい!!」

 

(面倒なことになったな)

 

デュバリィはゆっくりと構えた。

 

「死になさい!」

 

「っ!」

 

デュバリィは目にも止まらぬ速さでリィンたちに襲いかかる。

 

「は、速……」

 

「見えなかった……!?」

 

「神速の技、とくと目に焼き付けなさい!プリズムキャリバー!」

 

デュバリィは再び構え、三体に分け身する。その三体はリィンたちに無数の斬撃を浴びせた。

 

斬撃の嵐が止む頃にはリィンたちは全員膝をついていた。

 

「あ……ぐっ……!」

 

「捉えきれない……」

 

「クソが……!」

 

「内戦の時より速い……!」

 

「…………………」

 

そんな中、キリコは立ち上がる。

 

だが意識は朦朧としており、気力だけなのは誰の目にも明らかだった。

 

「あなただけはただでは殺しません。己の身を弁えぬその罪。地獄で悔い改めなさい」

 

(……な……に………?)

 

「聞こえてもいませんか。ならば………」

 

デュバリィは構えた。

 

(地獄で……だと?なら間に合っている………!)

 

「死ねぇぇぇぇっ!」

 

デュバリィは一気に距離を詰め、剣をキリコの頭上に振り下ろそうとした。

 

(俺はまだ死ねない!)

 

意識を取り戻したキリコはデュバリィの懐に潜り込む。

 

「な……!まだ……!?」

 

「地獄なら飽きるほど見てきた」

 

キリコは腰のナイフを抜き、デュバリィの右足に深々と突き刺した。

 

「ぎ……ぎぃやああああああっ!?」

 

予想外の反撃にデュバリィは絶叫した。

 

「足が……足が……足があああっ!?」

 

パニックになったデュバリィは盾でキリコを突き飛ばす。だがそれは悪手だった。

 

突き飛ばされた衝撃でキリコの手握られていたアーマーマグナムが暴発。

 

放たれた弾丸は地面に弾かれ、デュバリィの首元を掠める。

 

「あ……あ……あ……あ……!?」

 

錯乱したデュバリィは過呼吸に陥った。

 

「デュバリィ!?」

 

「いかん!」

 

アイネスとエンネアが懸命にデュバリィを落ち着かせようとした。

 

「……………」

 

キリコは壁にもたれながら立ち上がろうとした。

 

『キリコ(君)(さん)!?』

 

リィンたちがキリコに駆け寄る。

 

「キリコ君!?大丈夫なの!?」

 

「ああ……」

 

「全く……無茶をしすぎです!死ぬつもりだったんですか!?」

 

「死ぬつもりはない……」

 

「人の気持ちくらい考えてください!」

 

ミュゼがキリコを叱責する。

 

「ったく、死に損ないが……」

 

「ほら、肩に掴まってくれ」

 

クルトとアッシュが肩を貸した。

 

キリコは二人に支えられ立ち上がり、アリアンロードを見据える。

 

「………………」

 

アリアンロードはアイネスとエンネアから手当てを受けるデュバリィを一瞥し、キリコたちの方を向いた。

 

「まさかデュバリィを退けるとは。見事……と言いたい所ですが、これは違うでしょう」

 

「………………」

 

「キリコ・キュービィー。貴方は命を粗末にし過ぎるきらいがあると見なさざるを得ません」

 

「………………」

 

「しかも、この上私と戦うつもりですか?」

 

「え!?」

 

「眼を見ればわかります。なぜです?」

 

「ここでお前をどうにかすれば、後が楽になる。そう思っただけだ」

 

「それは己でなく仲間のためですか?」

 

「………………」

 

「なるほど、その傲慢なほどの意志。ここで砕いておく必要がありそうですね」

 

「っ!」

 

「遂に来やがるか!」

 

「結社最強……!」

 

ユウナたちは得物を構える。

 

「忠告はします。我が言葉に従いなさい」

 

「!」

 

キリコの体がビクンと反応する。キリコはフラフラとアーマーマグナムの銃口をアリアンロードに向ける。

 

「断る」

 

「キリコ……?」

 

キリコは一呼吸入れ、言い放った。

 

 

 

「たとえ神にだって、俺は従わない……!」

 

 

 

「!」

 

アリアンロードは再び冷や汗をかいた。

 

(この感じは……!やはり危険過ぎる!)

 

アリアンロードは巨大なランスを取り出した。

 

「!?」

 

「な、何あれ……!?」

 

「ランス……だと……!」

 

「この場で果てなさい」

 

アリアンロードはランスを構える。

 

「させない!」

 

リィンは太刀を構え、神気合一を行おうとした。

 

「教官……!」

 

「ダ、ダメです!」

 

「全員、退却しろ!殿は俺が引き受ける!」

 

「何言ってやがんだ!」

 

「全員で生きて戻るんです!」

 

(間に合って……)

 

ユウナたちはリィンを思い留まらせるように説得し、ミュゼは必死に祈る。

 

「これで…………!?」

 

突然、閃光がアリアンロードに襲いかかる。アリアンロードはランスで防御した。

 

『!?』

 

ユウナたちは呆気にとられる。

 

「間に合ったか……」

 

「あ………」

 

「ああっ!」

 

声のする方向には十字の槍を携えた褐色の肌の偉丈夫が立っていた。

 

「あの人は……」

 

「もしかして……」

 

「旧Ⅶ組の……?」

 

褐色の偉丈夫はリィンの所に駆け寄る。

 

「無事か、リィン」

 

「ガイウス!」

 

「少し待ってくれ。ハアアアッ」

 

ガイウスの背後に何かが浮かび上がり、ユウナたちの傷が癒える。

 

「あ……」

 

「これは、アーツ?」

 

「いえ、それとは異なるようです」

 

「ふふ。さて、次は……」

 

ガイウスは続いてミリアムを拘束していた蔦を消した。

 

「ふーーっ、ありがとうガイウス!」

 

「これでよし」

 

「ほう。なかなか面白い力を持っていますね」

 

「鋼の聖女殿にそう言われるとは光栄だ」

 

ガイウスは落ち着いた表情で十字の槍を構える。

 

「ガイウス・ウォーゼル。義により助太刀する」

 

「ボクも戦うよ!」

 

ミリアムも白い戦術殻アガートラムを顕現させる。

 

「ア、アルと同じ……」

 

「ガーちゃんだよ。アーちゃんのクーちゃんと同型機っぽいらしいよ」

 

「クラウ=ソラスです。いい加減覚えてください」

 

アルティナは不愉快と言いたげな顔をした。

 

「なら俺らもやるぜ」

 

「ああ、回復した今なら……!」

 

「ふむ……さすがに不利ですね」

 

アリアンロードはランスをしまった。

 

「え!?」

 

「いいでしょう。この場は手を引きましょう」

 

「マスター!?」

 

「我らにはやるべきことがあります。これ以上は無用です。それにデュバリィを看なくてはいけません」

 

「……わかりました」

 

「仰せのままに」

 

アイネスは応急処置を済ませたデュバリィを担ぐ。エンネアは転移の魔法陣を顕現させる。

 

「では、またいずれ」

 

アリアンロードたちは転移して行った。

 

 

 

『…………………』

 

残されたリィンたちは呆然としていたが、早めに立ち直り、乗って来たボートに乗りこんだ。

 

その途中でガイウスとユウナたちは互いに自己紹介をした。

 

「ガイウスさんって留学生だったんですか?」

 

「ああ。ノルドの地でゼクス殿から推薦を受けてな。外のことを知るいい機会と思って受けたんだ」

 

「叔父上から話は伺っています。狼の大群をその槍で蹴散らしたとか」

 

「ただ無我夢中でやっただけなのだがな。それより──」

 

ガイウスは気を失い、座席に横たわるキリコを見た。

 

「キリコさん………」

 

「無茶しやがるぜ」

 

「……………」

 

「………情けないな」

 

リィンが口を開いた。

 

「教え子がこんなにボロボロになるまで無茶させて、肝心な時に見ていることしかできないなんてな」

 

「教官……」

 

「それは私たちだって同じです」

 

「仲間に、キリコにばかり負担をかけて……僕たちはなんのためにいるんでしょう……」

 

「みんな………」

 

「……………」

 

ボートの中は沈黙に包まれた。すると──

 

「…………うっ…………」

 

「あっ!」

 

「キリコ!」

 

キリコは目を覚ました。

 

「キリコさん、わかりますか!?」

 

「あ、ああ」

 

「良かった~~!」

 

ユウナはへなへなと崩れ落ちる。

 

「すまない、キリコ。また君に無茶をさせてしまった……」

 

「気になさらず」

 

「大丈夫か?」

 

「アンタは確か……」

 

「ガイウス・ウォーゼル」

 

「キリコだ」

 

「こんな時になんだが、よろしく頼む」

 

「ああ」

 

キリコは差し出された手を握る。

 

「おや?あれは……」

 

アルティナが指さす方には篝火が灯っていた。

 

「そうか。オルディスの夏至祭が始まったんだ」

 

「確か、鎮魂の灯籠でしたか」

 

「うーん、万全なら見て行きたいけど………」

 

「俺のことは気にするな」

 

「気にしない方が無茶ですよ」

 

「だったら、コイツん家で待ってろよ」

 

「では、監視役は私が」

 

ミュゼが挙手した。

 

「必要は……」

 

「あ・り・ま・す」

 

ミュゼは微笑みながら凄む。

 

「フフ、キリコ君の負けね」

 

「ミュゼ、任せるぞ」

 

「了解しました。ではおじいさまに連絡を」

 

 

 

キリコはイーグレット伯爵家でコーヒーを飲んでいた。その傍らにはミュゼがいた。

 

「逃げたりはしない」

 

「監視役ですから♪」

 

「………………」

 

キリコはコーヒーを飲み干し、本棚から一冊を手に取る。すると、不意にミュゼが声をかけた。

 

「………キリコさんは」

 

「?」

 

「どうして無茶をするんです?」

 

「なんでだろうな」

 

「お願いですから……あんまり無茶をなさらないでください」

 

「………頭に留めておく」

 

「約束してください」

 

「約束?」

 

「はい………」

 

「保証はできないな。やつのような強敵ならなおさらだ」

 

「そう……ですよね………」

 

ミュゼは俯いた。

 

「…………俺はかつて、目の前で大事なものを失った」

 

「はい……」

 

「もうあんな思いはしたくない」

 

「キリコさん………」

 

ミュゼはキリコの顔を見つめる。

 

「お嬢様、キリコ様。皆様がお戻りです」

 

タイミング良く、セツナが声をかける。

 

「あっ、はい(はぁ、時間切れですか)」

 

「わかった」

 

キリコは本を戻し、リィンたちの所へ向かった。

 

その後、演習地に戻ったキリコたちは報告をリィンに任せ、それぞれの部屋のベッドで泥のように眠った。

 




次回、ジュノー海上要塞に向かいます。
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