英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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少し遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。今年も頑張ります。

ラマール篇最終話です。


カイエン公爵

[キリコ side]

 

俺たちは神機アイオーンtype-αⅡの撃破に成功した。

 

ゼムリアストーンの太刀の刀身を消失されるというアクシデントが起きたが、全員の意志が集中し、太刀の刀身と化した。

 

ヴァリマールの力なのか、戦術リンクが起こした奇跡なのかはわからない。

 

確かなことは、全員で力を合わせて神機を倒したということだ。

 

「や、やったぁぁぁぁっ!」

 

「ユウナ……」

 

【あの神機はクロスベル事変の引き金といえるものです。きっとユウナさんも思うこと所があったのでしょう】

 

【なんでもいい。ああなっちまえばガラクタだ】

 

「そうですね」

 

ユウナたちは勝利に沸いているがまだ油断はできない。

 

「皆、浮かれるのは尚早だ。戦はまだ終わってはおらぬ」

 

空気を察したのか、オーレリアが締める。

 

【……………】

 

先ほどから操縦管を動かしているが、反応がない。

 

どうやらコンプレッサーなどが限界のようだ。

 

(ここまでか)

 

俺は機体を降りて、備えることにした。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「まさか神機が敗れるとは………」

 

「マスター、あの力はいったい………」

 

「あれも彼らの力なのでしょう(ヴァリマール……あの時と変わりありませんね。ドライケルス………)」

 

リアンヌはかつての戦友にして、愛した人物を思い浮かべた。

 

「神機は倒しました。槍の聖女殿、聞きたいことは山ほどありますが、せめて結社の実験のこと、幻焔計画について教えていただけませんか?」

 

「サザーラント、クロスベルに続いて、今回で三度目にとなる実験。その真の狙いとその先に何があるのかを」

 

リィンはリアンヌの目をまっすぐ見つめる。

 

「リィン教官……」

 

「そうね。遊撃士としても、ぜひとも教えていただきたいわね」

 

サラもそれに続く。

 

「それには及びません」

 

リアンヌは右手を掲げた。

 

「え?」

 

「なんだ……?」

 

 

 

「出でよ──≪アルグレオン≫!」

 

 

 

神機の近くに魔法陣が顕れ、銀色の影が姿を現した。

 

「なっ!?」

 

「あれって!」

 

「騎神!?」

 

リィンたちは目を見開き、驚きを隠せなかった。

 

「マス……ター……?」

 

「………………」

 

鉄機隊の二人は思考すら止まった。

 

銀色の騎神?はリアンヌのものを模したランスで神機を破壊し始めた。

 

ものの数分で、神機は完全に破壊された。

 

『……………………』

 

リィンたちは呆然と眺めるしかできなかった。

 

(教官、猟兵王、仮面の男、そして槍の聖女。騎神もしくはそれらしいのはこれで4つ。いや、帝都に現れたという緋の騎神とやらも入れて5つ。いったい何だ?騎神とは………)

 

キリコは銀色の騎神?を見ながら思考を巡らせた。

 

「灰の起動者──リィン・シュバルツァー」

 

「!」

 

「先ほどの問いですが、深淵殿の意を汲むか、それとも組み替えるか。いずれ相まみえるまでにそれぞれ、答えを出しておくとよいでしょう」

 

「え……」

 

「い、意味わかんないんだけど……」

 

(後……一月………)

 

「そしてここから先は"巨イナル一"に関わりし者の領域……」

 

「なに……!?」

 

「その言葉は……!」

 

「俺たちがあの夢幻回廊の果てで耳にした……!?」

 

「…………!」

 

リィンたちはリアンヌの口にした巨イナル一という言葉に愕然とした。

 

「今日のところはこの辺りで失礼します。アイネス、エンネア、参りましょう」

 

「「………………」」

 

「二人とも」

 

「は、はいっ!」

 

「ただいま参ります!」

 

二人は慌ててリアンヌの隣に行く。

 

「リィン・シュバルツァー、心しなさい」

 

リアンヌたちは転移して行った。

 

「ま、待て!」

 

リィンの声が虚しく響く。

 

 

 

その後、ランディ率いるⅧ組戦術科とオルディスから戻った統合地方軍による後始末が始まった。

 

無力化した猟兵たちを捕らえ、残った人形兵器を全て駆逐した。

 

Ⅶ組は北ランドック峡谷から戻ったウォレス少将に事の顛末を報告していた。

 

「なるほど。そんなことがあったか」

 

「そちらも無事で何よりです。あの火焔魔人と渡りあったとか」

 

「ああ。正直、閣下とやるより堪えた。光の剣匠閣下はよく退けたものだ……」

 

(ラウラさんのお父さんなんだよね……)

 

(帝国における剣士の頂点に立つお方だよ。分校長の師にもあたるそうだ)

 

「フッ、そなたでさえ手こずるか」

 

「まあ、次は勝ちますがね」

 

(化けモンが……)

 

(アッシュさん、失礼ですよ)

 

ミュゼは小声でアッシュを諌める。

 

「それにしても、またお前と会うとはな」

 

「内戦で一度お目にかかって以来ですね」

 

ウォレス少将とガイウスが顔を合わせる。

 

「ガイウスさん?」

 

「少将の使うバルディアス流はノルドの騎馬槍術がルーツとされているんだ」

 

「へえ………」

 

「また、あらゆる帝国武術の流れを汲んで完成されたとお聴きしています」

 

「だからこそ羨ましい。純粋な騎馬槍術を扱うウォーゼルがな」

 

「いや、まだまだ未熟です。今でも父には及びません」

 

ガイウスは苦笑いを浮かべた。

 

「ガイウス………」

 

「俺も未だ兄上には及ばん。だが、いずれは乗り越えられよう」

 

「……そうだな」

 

「えへへ……!」

 

「ったく、アンタたちときたら……」

 

「フフ、頼もしい限りではないか」

 

リィンたちのやり取りを見たオーレリアは満足そうに微笑む。

 

(やっぱり大変ね、この人たちを超えるのは……)

 

(だが、いつの日か……!)

 

(超えてみせましょう)

 

(ギャフンと言わしてやるか……)

 

(ふふっ♪)

 

(………………)

 

ユウナたちは改めて、超えるべき壁を再確認した。

 

 

 

「分校長、こっちは終わりましたっと」

 

ランディが報告にやって来た。

 

「うむ、ご苦労。シュバルツァー、すまんが後は任せる」

 

「わかりました」

 

オーレリアはウォレス少将と共に地方軍の元へと向かった。

 

「ランディさん、お疲れ様です」

 

「おう、そっちもお疲れ」

 

「どうでしたか、そちらは?」

 

「いや~~、参ったぜ。序盤は押してたんだが、途中からシャーリィが来やがってよ。アガットと二人がかりでなんとか退かせたよ」

 

「あの後、合流したんですね」

 

「ああ、演習地に来たんだってな?他にもミハイルの旦那とトヴァルってのがカンパネルラとかち合ってたぜ」

 

「トヴァルさんが……」

 

「分校のみんなは大丈夫なんですか?」

 

「全員無事だ。手傷を負ったのはいるが大したことねぇ。後で顔見してやれよ。列車砲も一つ残らず取り返したんだからよ」

 

「ホッ、良かったぁぁ……」

 

「赤い星座は?」

 

「あいつらはさっさと撤退した。さすがに捕らえるのはキツイしな」

 

「A級遊撃士3人でも手に余る相手だものね。はっきり言って遊撃士協会総出で戦争やるつもりでなきゃ」

 

「まあ、それくらいが妥当だわな……」

 

「マジかよ……」

 

「さすがは最強の猟兵団の一つですね……」

 

 

 

「にしても、あの聖女さんがなぁ……」

 

ランディは腕組みした。

 

「ええ。正直言ってまだ信じられませんよ。槍の聖女と言えば、子供のお伽噺にもあるくらいですから」

 

「男子のみならず、女子にとっても憧れるでしょうからね」

 

「やっぱ結社が絡んでんじゃねぇのか?」

 

「そこはわかりませんよ。裏のことだって完全に把握してるわけじゃありませんから」

 

「それもだけど、結社の計画よね……」

 

「いずれ分かること、か。またどっかでやらかそうってか」

 

「やれやれ。先手が打てないと歯痒いね」

 

「とにかく、あたしたちもなんとか追ってみるわ。君たちは君たちのできることを優先してちょうだい」

 

「そうだな。来月試験だしな」

 

「なんで今言うんですかぁぁぁぁっ!?」

 

ユウナは大きく落胆した。

 

 

 

午後 8:30

 

「方々、よろしいですな!?」

 

帝国領邦会議が再開され、多くの事案が決定した。

 

そして会議の目玉である次期カイエン公爵を決める事案にて、その最有力候補たるバラッド侯は力強く演説する。

 

「現公爵の罪状はほぼ確定。極刑は免れようとも、二度と返り咲く事は叶いますまい!ならば、早急に次期カイエン公爵を推挙する必要があるのです!四大名門を揃え、我々貴族全体が生き残るためにも!」

 

『…………………』

 

だが、会議に出席した貴族たちの視線は冷ややかだった。

 

「な、なんだその目は……!?分かっているのであろうな!?儂はカイエン公爵を継ぐ唯一の──」

 

「バラッド侯………実は貴方に対する不信についていくつか報告を受けているのですよ」

 

「不信……だと!?」

 

「度重なる公費の私的乱用、傍若無人の振る舞い。それだけならいざ知らず。此度の襲撃において何の指揮も対策も取らず、あまつさえ己のみやり過ごさんとした行動。果たして次期カイエン公爵に相応しいと言えるでしょうか?」

 

ユーシスが立ち上がる。

 

「カイエン公爵は四大名門の筆頭格。それゆえに相応の責任が問われるもの。各方面からの報告を聞く限り、我々としてもその資質を疑わざるを得ません」

 

アンゼリカがユーシスに続く。

 

「四大名門の現当主、並び当主代理として結論しました。バラッド侯──次期カイエン公爵候補から貴公を正式に外させていただく」

 

「なお、これはここにいる出席者全員の総意でもあります」

 

ハイアームズ侯爵とイーグレット伯爵が最終通告を渡した。

 

「しかしだな!現カイエン公爵は後継ぎなどおらんのだぞ!だからこそ、儂に白羽の矢が立ったのだ。それはここにいる者全員が承知のはずだ!それを分かっていて──」

 

バラッド侯は吠えるが、ハイアームズ侯をはじめ、ユーシス、パトリック、アンゼリカ、オーレリア、イーグレット伯爵夫妻は落ち着いていた。

 

「ならば……登場していただきましょう。お入りください」

 

ハイアームズ侯はウォレス少将に合図する。

 

ウォレス少将は会議場の扉を開けた。

 

「……失礼します」

 

扉から緑色の長い髪の少女はおしとやかに入って来た。

 

「な……なんだあの娘は……!?」

 

バラッド侯は呆然とした。

 

「まあ、なんてお美しい……」

 

「どなただ?あの方は……」

 

貴族たちは記憶を辿るが、思い出せなかった。

 

 

 

「現カイエン公爵が姪、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します」

 

 

 

緑髪の少女──ミルディーヌは優雅に挨拶をした。

 

「ミルディーヌ?」

 

「もしや……!」

 

「おお!現カイエン公の兄君であるアルフレッド公子の忘れ形見か……!」

 

「確か、公子殿は奥様と共に海難事故で亡くなられたと聞くが……」

 

「ご立派になられて……!」

 

出席者たちはミルディーヌの姿に見とれる。

 

ミルディーヌはそのままバラッド侯の方を見る。

 

「お久しぶりです。大叔父様」

 

「ミ、ミルディーヌ………」

 

「トールズ第Ⅱ分校を潰す。なかなか大それたことを仰いますね?とてもその後に失禁なされた方のお言葉とは思えませんわ」

 

「な、なぜそれを……!?」

 

「ご自分の胸にお聞きください」

 

ミルディーヌはにこやかな笑みを浮かべる。

 

「あっ………!」

 

バラッド侯はミルディーヌとミュゼを重ねて合わせる。

 

「な、な、な……!?」

 

すると、ハイアームズ侯が立ち上がる。

 

「こちらにおられるミルディーヌ公女はバラッド侯よりも爵位継承順が上であります。私、ハイアームズ侯爵はミルディーヌ公女を次期カイエン公爵に推挙したいと思います」

 

「賛成ですわ!」

 

「善きかな!」

 

「異議なしだ!」

 

出席者全員が起立し、拍手喝采する。

 

この時点でバラッド侯の爵位継承は完全に潰えたのだった。

 

「………………」

 

すかさず、ハイアームズ侯爵が前に出る。

 

「なお、ヴィルヘルム・バラッド侯爵の弾劾をここに宣言します。衛兵」

 

二人の衛兵がバラッド侯を抱え、連れて行こうとした。

 

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁっ!そんな茶番が認められるものかぁぁぁぁっ!」

 

バラッド侯は衛兵二人を振り切り、ミルディーヌに詰め寄ろうとした。すると───

 

「………………」

 

「この小娘が───あっ!?」

 

突然、柱の陰からスーツを着てサングラスをかけた男により、バラッド侯は投げられ、叩きつけられる。

 

「え───」

 

さらにスーツの男はバラッド侯を素早く組伏せる。

 

「うぎゃっ!」

 

頭を押さえつけられ、関節を極められたバラッド侯は動けなくなる。

 

「なっ!?」

 

「フフフ……」

 

出席者たちが驚くなか、オーレリアは立ち上がり拍手した。

 

 

 

「さすがはミルディーヌ公女、いやカイエン公専属護衛人。見事な腕前だ」

 

 

 

オーレリアは声高らかに言った。

 

「おおっ!そうであったか!」

 

「なんと鮮やかな!」

 

「いやはや、素晴らしい護衛人をお持ちだ」

 

「やや年若いようにも思えるが、大した問題でもあるまいて」

 

出席者たちはまたもや拍手喝采を浴びせる。

 

(え?え?え!?)

 

ミルディーヌは何が何だかわからなかった。

 

「なっ!?」

 

「彼は……!」

 

「………♪」

 

ユーシスとパトリックは呆気にとられるが、アンゼリカはにんまりと微笑む。

 

「ウォレス少将、護衛人殿。手数をかけるが、バラッド侯を早急に連れていってもらいたい」

 

「了解した」

 

「…………」

 

イーグレット伯爵に促され、ウォレス少将と護衛人はバラッド侯の両腕を持つ。

 

「待たれよ」

 

出席者の貴族が護衛人を呼び止める。

 

「護衛人殿。せめてお顔を拝見させてはもらえないだろうか」

 

「……………」

 

「護衛人殿。サングラスを外してもらえぬか?」

 

オーレリアに促され、護衛人はサングラスを外した。

 

「おお……」

 

「凛としていて、物静かな雰囲気をお持ちの方ですわね……」

 

「先ほどの技、よほどの鍛練を積まれたのだろうな……」

 

「うーむ、ミルディーヌ公女、いやカイエン公が羨ましい……」

 

(や……やっぱり…………!)

 

ミルディーヌは頭がクラクラした。

 

そこにいたのは、ミルディーヌ──ミュゼのクラスメイト、キリコ・キュービィーだったからである。

 

 

 

数時間前

 

「護衛人、ですか?」

 

「そうだ。そなたにはミルディーヌ公女の護衛人を務めてもらう」

 

「お断りします」

 

「拒否は許さぬ」

 

「なぜですか」

 

「そなたは先の内戦にて貴族連合軍に畏れられるほどの存在。事実、地方軍内でもそなたをよく思わぬ者もいるほどだ。中にはそなたを排斥しようと企む者がいても不思議ではあるまい?」

 

「……………」

 

「だが、帝国貴族の筆頭足り得るカイエン公爵の専属護衛人ということならば話は別だ。先ほど言った者たちも納得せざるを得まい」

 

「俺である必要はないはずですが?」

 

「そなたでなくてはならんのだ。カイエン公爵家の未来のためにな」

 

「何?」

 

「なんでもない。気にするな。それより、受けるか否かを答えよ」

 

「………………………………………………了解」

 

オーレリアの反論を許さない姿勢にキリコは渋々ながら引き受けた。

 

 

 

(わけのわからないことに巻き込まれたな………)

 

キリコはサングラスをかけ直し、意気消沈するバラッド侯を連行した。

 

「………………」

 

ミルディーヌは呆然としていた。

 

「カイエン公?如何なされましたか?」

 

「えっ!?い、いえ、なんでもありません」

 

「そうですか。では、そろそろ初めましょう。これからの貴族の在り方について」

 

「……ええ。それでは初めましょう。共和国のこと、国家総動員法についてを……!」」

 

頭をなんとか切り替えたミルディーヌは出席者たちに追加の議題として、これから帝国で起こらんとすること、政府の思惑について話し出した。

 

 

 

「キリコさん!!」

 

会議を終えたミルディーヌは離れた場所でコーヒーを飲んでいたキリコに詰め寄った。

 

「なんだ?」

 

「なんだ?じゃありません!!ど、どうしてここにいるんですか!?」

 

「オーレリアに連れてこられた」

 

「ええっ!?」

 

「気になるなら後ろの四人に聞いてみろ」

 

そう言われたミルディーヌがバッと振り向くと、満足気に腕を組むオーレリアとわざとらしく口笛を吹くアンゼリカ、渋い顔をするユーシスと苦笑いを浮かべるパトリックがいた。

 

「み……皆さん………」

 

「いやはや、お披露目は大成功でしたね」

 

「真相を聞いた時にやっと理解しましたよ」

 

「地方軍に畏れられる存在なら、こちらに引き込んでしまえ。なるほど、これなら反発も抑えられるでしょう」

 

「ちなみに、イーグレット伯爵閣下もこの事はご存知です」

 

「な…な…な……!」

 

ミルディーヌは顔が一段と真っ赤になった。

 

するとキリコは帰り支度を始めた。

 

「キ、キリコさん!?」

 

「仕事は終わった。帰らせてもらう」

 

「おっと、そうはいかんぞ。護衛対象を捨てて行くつもりか?」

 

「さすがに見過ごせないね」

 

オーレリアとアンゼリカがキリコを抑える。

 

「自分の言葉には責任を持つべきだろう」

 

「それに、仕事はまだ終わってなどいない。これからささやかながら夜会がある。お前が護衛人だと言うなら、公女を警護する義務がある」

 

パトリックとユーシスが責任論でキリコを説得にかかる。

 

「……………」

 

キリコは苛つきを覚えるも、冷静に努める。

 

「まあ、アルバイトだと思えば楽なものさ」

 

「キリコさんをお姉様と一緒にしないでください!」

 

「フフ、カイエン公も帰れとは仰らないのですね?」

 

「そ、それは……その………」

 

ミルディーヌは口ごもり、キリコをチラチラと見る。

 

「おっと、そろそろお時間ですね」

 

「ふむ、そうでしたな。では参りましょうか」

 

「待ってください!まだ理解が……」

 

「…………」

 

キリコは立ち上がり、ミルディーヌに近づく。

 

「キ、キリコさん……その………」

 

「次の、ご命令は?」

 

「は?」

 

ミルディーヌはキョトンとした。

 

「次の、ご命令は?」

 

キリコは誰がどう聞いても解る棒読み口調で聞いた。

 

「「~~~~…………!!」」

 

「「………………」」

 

「っ~~~!」

 

オーレリアとアンゼリカが必死で笑いをこらえ、ユーシスとパトリックが唖然とする中、馬鹿にされていると察したミルディーヌは怒りを覚える。

 

「さっさと行きますよ!ぐずぐずしないでついて来なさい!!」

 

「了解致しました、カイエン公爵閣下」

 

「下手なお世辞は結構です!」

 

「カイエン公、あまり大きな声は」

 

「あなた方もです!これはカイエン公としての命令です!」

 

ミルディーヌはそれだけ言って部屋を出た。キリコたちもそれに続いた。

 

その後、夜会を終えたキリコとミルディーヌはイーグレット伯爵夫妻とメイドのセツナとリーファともに、カイエン公爵家城館で一晩過ごした。

 

 

 

6月20日

 

演習を終えて、帰る日が来た。帰り支度を終えたリィンたちⅦ組は旧Ⅶ組やパトリック、アンゼリカと話していた。

 

「キリコ君って夕べどこにいたの?」

 

「そういえば姿が見えませんでしたね」

 

「分校長から少し小言を言われた」

 

「小言?」

 

「バラッド侯の一件でな」

 

「やはり問題があったのか……」

 

「まあ、銃で恫喝してたもんな。ジジィの寿命縮めたんじゃねぇか♪」

 

「報告を聞いた時は本当に気を失いそうになったんだが……」

 

「説得している時間がなかったので」

 

「まあまあ。ユウナ君たちにも言ったんだが、キリコ君がああしなくても私がブチのめしてやろうと思ったんだ。だからリィン君が責任を感じることはないよ」

 

「は、はぁ……」

 

「そういえば、バラッド侯はどうなったんですか?」

 

「弾劾を受けて信用は地に堕ちたと言ってもいい。今は屋敷で謹慎を命じられているが、あれくらいで懲りる人じゃないしね」

 

「罰せられないんですか……」

 

「いや、謹慎というペナルティだけでも十分な効果がある。当面は誰にも相手にされんだろう」

 

「面子の問題だろうしな」

 

「そういうことだね」

 

「なるほどね。それでミュゼは?キリコ君は知らない?」

 

「さすがに知らん」

 

「そうですか……」

 

「あいつは家が伯爵なんだろ?会議に出てたんじゃねぇのか?」

 

「そうか。確か会議に出席できるのは伯爵位以上の貴族だから……」

 

「………………」

 

クルトたちが納得している横で、ユーシスは顔を背けた。

 

「ユーシス?」

 

「リィン、しっかりな」

 

「あ、ああ……」

 

「んー?」

 

「ふむ?」

 

(何か知ってるの?)

 

(さて?)

 

アンゼリカは微笑む。

 

 

 

「寂しくなるのぉ」

 

「あなた……」

 

「おじいさま……おばあさま……」

 

イーグレット伯爵夫妻はミュゼを抱きしめました別れを惜しんでいた。

 

「お嬢様、私もついて行ってよろしいでしょうか?」

 

「セツナさん、貴女が離れてはおじいさまたちが困りますわ。それにリーファさんの教育係でしょう?」

 

「お、お嬢様……」

 

リーファはどぎまぎしながら話しかける。

 

「本当に……ありがとうございました!」

 

「リーファさん、頑張ってくださいね。貴女の淹れた紅茶、楽しみにしています」

 

「はいっ!」

 

リーファは感謝とともに深く頭を下げた。

 

「ミュゼよ」

 

「はい……」

 

「大変なのはこれからじゃろうが……次に戻る時を楽しみにしておる」

 

「はい……」

 

 

 

その後リィンたちはもう一度再会することを話し、ミハイルに急かされながら列車に乗り込んだ。

 

 

 

「キリコさん……」

 

演習から帰還した夜、誰もいない寮の食堂でミュゼはコーヒーを飲んでいたキリコに声をかける。

 

「………これはこれはカイエン公、私めに何かご用でしょうか?」

 

「本当に怒りますよ?」

 

「…………………」

 

キリコはコーヒーのおかわりを淹れる。

 

「……目論見通りというわけか」

 

「まさかキリコさんが出てくるとは思いませんでしたが……」

 

ミュゼは自ら淹れた紅茶を一口飲む。

 

「キリコさんにばかり負担をかけてしまってますね……。本当に申し訳ありません」

 

「それはもういい」

 

キリコはコーヒーを啜る。

 

「キリコさんは………」

 

「?」

 

「キリコさんは帝国をどう思いますか?」

 

「どうとも思わないな」

 

「どうとも、ですか?」

 

「俺は貴族だとか革新だとかそんなものはどうでもいい」

 

「そうですか……」

 

ミュゼは目を伏せた。

 

「お前が何とどう戦おうとしているのかは知らん。俺には関係のないことだ」

 

「………………」

 

キリコはコーヒーカップを洗おうと、キッチンの流しへと向かおうとした。

 

「…………………です」

 

「?」

 

「貴方が……いないと……ダメなんです……!」

 

ミュゼはキリコを追いかけ、背中から抱きしめる。

 

「離せ」

 

「もう少しだけ……こうさせてください………」

 

「………………」

 

「……怖いんです………」

 

「………………」

 

「私はきっと……取り返しのつかないことをしてしまう……。そう思うと……押し潰されそうで……」

 

「………………」

 

「どうかお願いです……キリコさん……」

 

「………………」

 

「私の……側にいてくれませんか?」

 

「………………」

 

キリコは無言を貫く。すると──

 

「ご、ごめんなさい!わ、私は……その……!」

 

急に我に返ったミュゼは耳まで真っ赤になった。

 

「おい………」

 

「さ、さ、さ、先ほど言ったことはど、どうか忘れてください!お、おやすみなさい……!」

 

ミュゼはそのままの勢いで出ていった。

 

「………………」

 

キリコは一息ついて、ミュゼのカップを流しで洗った。

 

 

 

(バカバカバカ!わ、私……何てことを………!)

 

ミュゼは自室のベッドの中で先ほどの自分を責めた。

 

(ううう………これからキリコさんにいったいどんな顔をすれば………!)

 

結論から言えば、キリコの態度は翌日以降も何ら変わらなかったため、ミュゼは安堵とともにしこりのようなものを感じていた、




ラマール篇はこれで終わりです。

次回、第四章ヘイムダル篇が始まります。
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