今回はタイトル通り試験+オリジナルイベントです。
定期試験
七耀歴1206年 7月4日
気候は完全に夏になり、セミが鳴き出した。
そんな中、キリコたちは宿命の敵との戦いに備えていた。
[キリコ side]
「ううう………!」
「ユウナさん……」
「気持ちは分からなくもないけど、今はそれどころじゃないだろう?」
「ったく、そもそもてめえが言い出したんだろが……」
「大丈夫ですよ。わからない部分は遠慮なく聞いてください」
「………………………」
俺たちは今、Ⅶ組の教室で勉強会をしている。
明日の定期試験はトールズ第Ⅱ分校生徒にとっては避けては通れない。
一応、創立1年目ということもあり落第ということはないらしいが、それに胡座をかく者はいない。
また、ここ第Ⅱ分校にはユウナやティータのように帝国以外からの留学生がいる。
ユウナ曰く、仕送りの量が増えるか減るかは試験の成績にかかっているとのこと。
そこでユウナの提案でここ数日、こうして勉強会を開いている。
幸い部活は全て活動が中止しているので復習の時間は取れている。
俺としても成績が悪いというのは避けたい。
分校長であり推薦人のオーレリアに何を言われるかわからないからな。
「つまり、弾道が右回転の場合、弾丸は右に逸れるんです。この計算式は……」
「こうですね?」
ミュゼとアルティナは数学に取りかかっていた。
「アッシュ、獅子戦役に関係のある皇子を上から答えてみろ」
「ああ?マンフレートから始まって、アルベルト、ドライケルス、オルトロス、グンナル、ルキウスだろ?」
「敬称くらいつけろ。だが全部合っている」
クルトとアッシュは帝国史を進める。
「ええと……こう?」
「違う。それは工兵部隊だ。機甲部隊を動かして、背後から仕掛ける。ここは出ると言っていたはずだ」
俺はユウナに軍事学を教えていた。
「……………………」
休憩中、ユウナはぐったりとしていた。
「さすがに詰め込み過ぎたかな?」
「何もしないよりは良いかと」
「とにかく、試験範囲内は押さえておきましょう」
「そこら辺はなんとかなんだろ」
「そうだな」
分校とはいえトールズに入学できる以上、ユウナはそれほど成績は悪くない。
ここの水に馴染んだ今でも努力を欠かしていない。
事実、ユウナのこの姿勢が他の生徒のカンフル剤になっている。
今回の試験も要所さえ押さえれば、上位に食い込むことも可能だろう。
「そういえば小耳に挟んだのですが……」
「なんだい?」
ミュゼの発言にクルトが不思議そうに聞く。
「今回の試験は本校と同時期に行われるとか」
「らしいですね」
「ハッ、どうせ皇太子が一位の出来レースなんだろ?」
「それは……」
アッシュの言葉にクルトが詰まる。
「ない、とは言い切れないだろう」
「キリコさん……」
「だが、それがどうした」
「え……!?」
「出来レースだろうとなんだろうと、俺たちが気にすることではないだろう」
「……そうですね」
「まずは己との勝負、ですね」
「……ああ、そうだな。それに、伝統あるトールズがそんなことをするとは思えないしね」
帝国時報によると、セドリック皇太子は品行方正、どのような人間にも手を差しのべる人格者だと言われている。これは煽り記事だろうがな。
リィン教官が聞いた話によると、あの傲慢さは完全に鳴りを潜め、奉仕活動にも積極的に参加しているらしく、早くも帝国の未来は安泰だと言う者もいるそうだ。
また、俺たちがラマール州で演習を行っているのと同時期にノーザンブリアでの公安活動というもので一定以上の成果を上げたらしい。
慢心がなくなった以上、アッシュの言う出来レースはないと考えられる。
「……そろそろ休憩も終わりだ」
「そうだな」
「ユウナさん、起きてください」
「おやつの時間ですよ~」
「あほか……」
その後、ユウナをしゃんとさせた俺たちは勉強会を再開し、見回りのトワ教官が声をかけるまで教室にいた。
[キリコ side out]
「試験は全体で4日間で行う。相談にのるのは構わんが、不正に加担するような真似はしないように」
「もちろんです」
「はい!」
「んなことしてもそいつのためにならねえからな」
教官室ではリィンたちが定期考査の打ち合わせをしていた。
「にしてもよ、まさか本校と全く同時にやるなんてよ」
「一応、本校に準拠する形を取っているからな」
「そういえば、シュバルツァーら旧Ⅶ組は本校で上位だったそうだが?」
「マジかよ!?」
「ええ、エマ、マキアス、ユーシスは上位三人になりましたから」
「しかも、エマちゃんとマキアス君が同点一位だったもんね」
「ほう?大したものだ」
「ははは……スゲェな………」
ランディはもはやお手上げだった。
「リィン君も確か上位に入っていたよね?」
「トワ先輩こそ、学年別では毎回一位だったそうじゃないですか」
「……どっちもスゲェよ………」
「コホン……その辺にしてもらおうか」
ミハイルは咳払いをして、リィンたちを向かせる。
「なお、今回の試験は成績と同時に本校と分校の平均点も発表されるとのことだ」
「やはりそうですか……」
「煽るねぇ~~」
「これもトールズの伝統なんでしょう」
「競争心を煽ることでやる気を引き出す。良いか悪いかはさておき」
「Ⅷ組じゃ早くも結束してるぜ」
「Ⅸ組の子たちも一丸となってます」
「なるほどな。Ⅶ組はどうだ?」
「そうですね……」
リィンは腕を組む。
「ユウナは早くも対抗意識を燃やしてますね。クルトはそれに次ぐ感じですが、アルティナ、アッシュ、ミュゼ、キリコはいつも通りですね」
「ハハッ、想像できるな」
「フフ、それは何より。それならば試験が終わり次第、機甲兵教練と特別演習に移れるというものだな」
「各自そのことをしっかり頭に入れておくように。以上で打ち合わせを終える」
ミハイルは打ち合わせを終わらせ、オーレリアと共に教官室を出ていった。
「あいつらもだが俺らもハードだよな……」
「あははは……すっかり慣れてしまいましたね……」
「とにかく、明日からは忙しくなります。頑張りましょう」
「だな」
「そうだね」
リィンたちも明日からの定期考査に向けての最終チェックに取りかかった。
「それで、キリコ。この問題なんだが……」
「この手順だ」
「なるほどな。ふう、覚えることが多いな」
「仕方ないさ。明日から試験だからな」
夜、キリコはウェイン、スタークと勉強をしていた。
「そろそろ寝よう。あまり詰め込んでも覚えられないしな」
「待ってくれ。ここだけ書いてから寝る」
「わかった。俺はもう寝るよ」
「終わったら電気を消せ」
「ああ、わかった」
その後、ウェインが軽く筋トレをしようとしたのでキリコとスタークは本気で止めさせた。
7月5日
帝国史
(獅子戦役でマンフレート皇太子を暗殺した皇子……)
クルトは黙考し、第四皇子オルトロスと解答。
(これで合っていたはずだ)
数学
(この数式から導き出されるのは……)
ミュゼは迷わず右回転で発射された場合、右にそれると解答。
(バッチリですね)
7月6日
軍事学
(この図式は……)
アッシュは主力が敵と交戦中に、すぐ後ろから攻撃と解答。
(ケッ、こんなの楽勝だろ)
7月7日
政治経済
(ええっと、この専門用語は……)
ユウナはキャピタルゲインを選ぶ。
(これが正解ね)
芸術
(この曲のタイトル………)
アルティナは迷いつつ、空を見上げてと解答した。
(これで合っているはずです)
7月8日
サバイバル
(飲料水の採り方の正しい手順………)
キリコは迷いなく、布、砂、木炭、小石の順に解答した。
(飽きるほどやってきたことだ)
こうして、4日間に渡る定期考査が全て終わった。ある者は解放感に包まれ、ある者は絶望感を抱いた。
HR後
リィンは話もそこそこに教官室へと戻って行った。
「づ、づがれだ………」
「はは、お疲れ」
クルトはユウナを労う。
「にしてもよ、なんか引っかけ多くなかったか?」
「特にリィン教官の帝国史ですね」
「一見正解のようで、年代が全然違うというのはありましたね」
「獅子戦役勃発のところだな」
「え……974年じゃないの……?」
「お前………」
「ユウナ、それはトールズ士官学院が創立した年だよ」
「獅子戦役は七耀暦947年だ」
「授業で出たはずですが」
「う……そ………」
ユウナは思いきり落ち込んだ。
「まあまあ。たくさん勉強会をしたんですから結果はついてくるはずですよ」
「落ち込むのは早いと思います」
「うう…………」
ミュゼとアルティナが慰める。
「明日から部活ですね」
「よーし、久しぶりにフルスイングしちゃうんだから!」
「もうそろそろ40アージュに到達です」
「僕もチェスに触れるのも久しぶりだな」
「まっ、俺は変わんねぇけどな」
「キリコさんも技術部に?」
「ああ(そういえば、次の機甲兵教練は成績発表後と言っていたな。それにしても、格納庫の奥が広くなっている。博士は何を持って来る気だ?)」
「おっと、僕もそろそろ行くよ。みんなも行くだろ?」
「あっ、そうだ」
「そうですね。そろそろ」
「ふふ、楽しみですね♪」
「チッ、めんどくせーな」
「?」
キリコ以外が教室を出ようとした。
「どうかしたのか?」
「あっ、そういえば分校長が呼んでましたよ。すぐに分校長室に来るようにだそうです」
「分校長が?わかった。それより──」
「いいから!ほら、分校長待ってるわよ!」
「お、おい……」
キリコは教室から締め出された。
(なんのつもりだ?まあいい、分校長室だったな)
キリコはユウナたちの動向が気になりつつ、オーレリアの元へと向かった。
「来たか」
「何かご用ですか?」
「なに、たまには労ってやろうと思ってな」
「………………………」
キリコ警戒心を露にした。
「………何に警戒してるかは聞かん。実を言うと、先月のことだ」
「………………………」
キリコはオーレリアの前に座る。
「先月はご苦労だった。そなたの所業は別として、あのバラッド侯を引きずり下ろすことができた」
「あれは成り行きです」
「だとしても、あの方の狙いどおりになった」
「ミュゼ、ですか」
「ああ。内戦の後、あの方から連絡を受けてな。私もその時までミルディーヌ公女の存在すら知らなかった」
「……あの魔女も?」
「元々魔女殿とは内戦前から面識はあった。公女とも面識があったのは驚いたがな」
オーレリアは紅茶を口に含む。
「……一つだけ聞きたい」
「なんだ?」
「イーグレット伯爵家に俺を紹介したのも何かの計略か?」
「そうだ、と言いたいところだが、そなたを紹介したのは実績があるからだ。政府の狗にされるくらいならば、こちら側に呼ぶのが上策と思ったからよ」
「結局のところ、政治か」
「否定はせん」
「はっきりさせておく」
「?」
「俺は誰の下にも付かない」
「……そうか」
オーレリアは一瞬寂しげな笑みを見せる。
「確かに、そなたは本来人の下に付くような男ではない。かといって、人の上に立つことを望むようにも見えん。まるで、雲の如く縛られぬことを望んでいるように思える」
「……………………」
「キュービィー………」
「?」
「あの方の力になってほしい」
オーレリアはキリコの顔をまっすぐ見る。
「……………………」
キリコは紅茶を一息に飲む。
「ふ、少々喋り過ぎたな。もうそろそろ約束の時間だ」
「時間?」
「そろそろ寮へと戻るとしよう」
「……………………」
「では行こう」
キリコとオーレリアは学生寮へと向かった。
「?」
キリコは何かの気配を感じ取った。
「そなたから入るがよい」
「………………」
キリコは寮の玄関の扉を開ける。すると───
「おめでとう!!」
「!?」
キリコはクラッカーの破裂音とともに迎えられる。
「時間ピッタリですね♪」
「分校長、お疲れ様です」
「何、構わん。それよりいつまで呆けておる。そなたは今宵の主役であるぞ」
「主役?」
キリコは生徒たちの方を向く。
『キリコ(君)(さん)、誕生日おめでとう!』
生徒たちは総出で言った。
「………………」
キリコは開いた口が塞がらなかった。
「あの、7月7日はキリコさんの誕生日だとお聞きしたものですから」
タチアナはおずおずしながら言った。
「本当は昨日行うべきなんでしょうけど」
「ああ、試験は今日までだからねぇ」
マヤとレオノーラが肩を竦める。
「とりあえずサプライズは大成功ね」
「ふふっ、隠し通すの大変だったんですよ?」
ゼシカとルイゼがハイタッチする。
「……そうか」
キリコは状況を飲み込めた。
「すまないな」
「良いんだよ。仲間だからな」
「仲間の誕生日くらい祝わないでどうする」
スタークとウェインが肩を掴む。
「そういや、キュービィーは18歳なんだろ?」
「ユウナさんたちより年上なんですよね」
「一応、僕たちⅦ組の中で一番誕生日が早いんだな」
「わたしが最年少なのに変わりありませんが」
「コラ、アル。とにかく、おめでとう!」
Ⅶ組が祝う。
「よーし、全員注目!」
ランディが全員を向き直させる。
「今日は試験も無事終えたし、キリコの誕生日だ!みんな、今日は無礼講だ!」
「皆、飲んで食べて英気を養うがよい」
『おおっ!』
「………まったく」
「ふふ、今日くらい良いじゃないですか」
ため息をつくミハイルをトワが取りなす。
「みなさーん、料理が出来ましたよ!」
ティータが食堂から出てきた。
食堂には、色とりどりの料理や様々な飲み物が並んでいた。
「おっ、美味そう!」
「ダメだよ、シドニー君。まずは主役が先」
サンディがシドニーを窘める。
「よし、主役はこっちだ」
「主賓は上座と決まっているからな」
「キリコさん、こちらですよ!」
「お、おい……!」
キリコはグスタフとフレディとカイリにテーブルの上座に連れていかれた。
「全員揃ったな。では、乾杯といこう。キリコ、音頭を頼む」
リィンがキリコに促す。
「……………」
キリコはグラスを手に持ち、全員もそれに倣う。
「今日はわざわざすまないな。これからも、仲間として頼む。乾杯」
『乾杯!!』
その後、生徒たちはジュース、教官たちはアルコールを片手に料理に舌鼓を打った。
料理研究会が腕によりをかけて作った料理はどれも絶品であり、キリコも食べる量はいつもの比ではなかった。
途中、軽音部の演奏も余興として登場し、大いに盛り上がった。
皆、試験が終わった反動からか、時間が経つのも忘れ、結局全員がベッドに入ったのは日付が完全に変わった頃だった。
次回、新Ⅶ組+1がとある危機に陥ります。