英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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知る人ぞ知るあのイベントです。


交錯①

7月9日 午前9:00

 

キリコたちⅦ組特務科はアインヘル小要塞に集められていた。

 

「ふああっ」

 

「さすがに眠いです」

 

「夕べは騒ぎ過ぎたかな……」

 

「一応、近隣の方々には許可は得ているそうです」

 

「………………」

 

「キリコ君も眠い?」

 

「いや、何をさせられるかと思ってな」

 

「小要塞での攻略はいつも通りですが……」

 

「毎回毎回趣向が変わるからな──」

 

「すまない、待たせた」

 

「すみません、遅れました!」

 

要塞入り口からリィンとティータがやって来た。

 

「遅いですよ!」

 

「すみません!調整に手間取ってしまって……」

 

「いやいや、ティータは悪くないから」

 

「…………………」

 

リィン教官がわかりやすく落ち込む。

 

「それより調整って?」

 

「そういえば完成したらしいな」

 

「キリコさん、ご存知なんですか?」

 

アルティナが不思議そうに聞く。

 

「これです!」

 

ティータが右手を掲げる。

 

すると、ティータの目の前に赤い機械が顕れた。

 

「ええっ!?」

 

「これは……」

 

「オーバルギア、だったか?」

 

「はい!ZCFとラインフォルト社の共同開発の試作機。その名もオーバルギアⅢです!」

 

「以前、格納庫でティータさんが造っていたものですね?」

 

「へぇ?なかなか面白そうだな」

 

アッシュはポンポンと叩く。

 

「ちょっとアッシュ!壊したらどうすんのよ!?」

 

「大丈夫ですよ。耐久性もテスト済みですから」

 

「教官、もしかして今回の小要塞攻略は……」

 

「ああ。このオーバルギアⅢのテストも兼ねている。今回の小要塞攻略は、俺たちⅦ組特務科とティータを入れた8人で──」

 

「いや、6人だ」

 

シュミット博士が待ったをかける。

 

「博士?」

 

「キュービィー、シュバルツァー、貴様らにはオペレーターをやってもらう」

 

「オペレーターですか?」

 

「俺もですか」

 

「私の計算ではキュービィーを除くⅦ組と弟子候補で釣り合いがとれる。貴様らを入れてはテストにならん」

 

「………わかりました」

 

「すまないが、今回は君たちのバックアップをさせてもらう」

 

「ハッ、上等!」

 

「僕たちの成長を見せる時だ」

 

「腰を抜かさないでくださいよ?」

 

「ハハッ、楽しみにさせてもらうよ。ティータ、君の成果も見せてもらう」

 

「わかりました!それにこれは私だけじゃなく、アリサさんも関わってますから」

 

「だいたいは聞いているよ。それに何でも、フルメタルドッグからもヒントを得ているとか」

 

「そうなんですか?」

 

「ローラーダッシュによる機動力はな」

 

「そろそろ始めるぞ。いつまで油を売っているつもりだ?」

 

シュミット博士の言葉にユウナたちは頭を切り替え、LVMAXへと向かった。

 

 

 

「LVMAX……」

 

「確かに徘徊している魔獣も前回よりも強い……!」

 

「本気でかかる必要があるわね……!」

 

ユウナたちは闘志を燃やす。

 

「調子は良さそうだな」

 

「はい、バッチリです!」

 

「なるほど。ティータさんが乗り込むんですね?」

 

「なんかカッコいいかも……」

 

ユウナがオーバルギアⅢを見つめる。

 

『よし、そろそろ攻略に入ってくれ』

 

『おそらく、今のお前たちなら突破できるだろう。油断だけはするな』

 

天井からリィンとキリコの声が響く。

 

「ああ、もちろんだ」

 

「せいぜい指咥えて見てな」

 

「オペレート、よろしくお願いします」

 

「キリコさんに見られている……なんだか緊張しますね♥️」

 

「あ~ハイハイ、とっとと行くわよ」

 

ユウナたちは出発した。

 

 

 

[キリコ side]

 

「…………………」

 

「気になるか?」

 

「ええ」

 

改めて俯瞰で見てみると、相当なレベルだ。

 

放たれている魔獣はこの辺りでは見ないほど手強く、ユウナたちも苦戦している。

 

だが、ユウナたちも成長している。

 

先月のジュノー海上要塞での死闘から確実に変わった。

 

演習の後、ユウナは「見ていることしかできなかった」と悔しがっていた。

 

その言葉はⅦ組はもちろん、Ⅷ組、Ⅸ組にも響いた。

 

鍛練場にはクルトやⅧ組の他に、スタークを始めとするⅨ組生徒も集まるようになった。

 

本来主計科は戦闘にはあまり関わらないのだが、自主鍛練をするようになってからはランディ教官でさえ唸るほど腕を上げた。

 

また、精神的にも成長したように思える。

 

その証拠に戦闘訓練で弱音を吐く者は一人もいなくなり、積極的に動くようになった。

 

中には打倒本校と言う者もいるが、それはまだ早いだろう。

 

 

 

(ユウナたちの動きは悪くない。そして──)

 

『い、いきます!』

 

オーバルギアⅢが唸りをあげ、魔獣を圧倒する。単純なパワーなら中型魔獣など比ではないかもしれないな。

 

(それにしても、似ているな。いつの日か造られるかもしれないな。戦争と混乱をもたらす、ATかそれに準ずる兵器が)

 

「キリコ?どうした?」

 

「いえ、なんでも」

 

「そうか……。まあ、無理はしないようにな?」

 

「はい。それよりユウナたちは?」

 

「そろそろ中間だな」

 

「……改めて見ると、長いですね」

 

「確かにな。だが、いいペースだ。これなら予想タイムより早く最奥に到達するかもしれないな」

 

「今のあいつらなら可能でしょう」

 

「そうだな。よし、後半分だ。気を引き締めてくれ」

 

リィン教官はユウナたちにマイク越しに告げる。

 

「後半はさらに複雑な造りになっている。ここで行き詰まるボンクラでないことを期待する」

 

博士は憎まれ口を叩く。

 

『だ、誰がボンクラですかっ!?』

 

『落ち着いてください』

 

『ああ。見返せばいいじゃないか』

 

『あったり前よ!』

 

予想通り憤慨するユウナをクルトとアルティナが諌める。ユウナは先ほどよりやる気に満ちている。

 

(まさかとは思うが、憤慨させることでやる気を引き出しているのか?)

 

「どうした?」

 

「……いえ、別に」

 

「まあいい。キュービィー、そこのボタンを押せ」

 

言われたとおりボタンを押すと、画面が暗くなった。ユウナたちも突然のことに混乱していた。

 

「これは……!?」

 

「見てのとおり視覚は一時使えなくなる。キュービィー、奥の解除装置までフォローしてやれ」

 

「……了解」

 

俺は暗闇の中戸惑うユウナたちのサポートに専念した。

 

なんとか解除したは良いが、ユウナの機嫌は大分悪くなり、ミュゼとティータがなんとか諌めていた。

 

 

 

その後、順調に攻略しユウナたちは最奥に到達した。

 

「タイムは悪くない。後は魔獣を倒せばクリアだな」

 

「何が出てくるか、ですが」

 

「……まあな」

 

画面に目をやると、大型魔獣との戦闘が始まっていたが、今のあいつらなら問題はなさそうだな。

 

クラフト技にアーツ、戦術リンクによる連携。精神的な成長がプラスになって、精度が前回とは比べものにならない。

 

だが──

 

(連携のタイムラグがほとんどゼロに近い。何が起きている?)

 

戦術リンクと言えどもそこにはタイムラグが存在する。物理攻撃からアーツではなおさらだ。

 

「………………」

 

リィン教官も不安を感じ取ったらしい。

 

最終的にユウナたちは全員一致のバースト攻撃で魔獣を倒した。

 

だが戦闘が終わっても戦術リンクが働いている。ユウナたちもこれには動揺を隠せないようだ。

 

すると、ARCUSⅡから強い光が発せられ、ユウナたちが光に包まれる。

 

「これは……!」

 

ようやく目が慣れると、そこにはミュゼとティータ以外が倒れていた。

 

「ユウナ、クルト、アルティナ、アッシュ起きろ」

 

『う、うう……』

 

『な、何よ今の……』

 

『クソ……眩しいな』

 

『外傷はありませんが……』

 

『え?』

 

『はい?』

 

「?」

 

何かおかしい。ユウナたちが発した言葉が引っかかる。

 

「ユウナ、立てるか?」

 

『う、うん。立てるけど……』

 

なぜかクルトが立ち上がる。しかも女の口調でだ。

 

『僕たちは魔獣を倒した。そして光に包まれて……』

 

逆にユウナは男の口調だ。

 

「アルティナ、大丈夫か?」

 

見かねたリィン教官がアルティナに声をかける。

 

『はい、大丈夫です』

 

アッシュが珍しく敬語を口にした。

 

『へ?なんで敬語?』

 

『おい、何でヴァンダールが出てくんだ?』

 

アルティナはいやに目付きも口も悪い。

 

『ええっ!アルティナちゃん!?』

 

『な、なんだか様子が……?』

 

ユウナ?たちは大いに戸惑っている。

 

『ちょ、ちょっと待って!?な、なんであたしがいるの!?』

 

『そ、そういう僕こそ……!』

 

『なぜわたしがわたしを見下ろしているんでしょう?』

 

『どーなってんだ?』

 

『えーーっと……これってもしかして………』

 

『もしかしなくても……ユウナさんたちは今…………』

 

 

 

『入れ代わってる!?!?!?』

 

 

 

『なんで!?なんであたしクルト君になってるの!?』

 

『落ち着け!ってなんで僕が僕をなだめてるんだ!?』

 

『初めて見る風景です』

 

『そりゃあな。チビにはわかんねぇだろうな』

 

『私たちは無事みたいですね』

 

『幸か不幸か、途中でラインが途切れましたね』

 

………………………何がどうなってこうなった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

リィンはユウナ?たちにエントランスに戻って来るよう告げ、キリコと共に待っていた。

 

「あれはいったい?」

 

「説明はする。それまで……って来たか」

 

ユウナ?たちが戻って来た。

 

「うっ…うっ…うう……」

 

「ほら、泣かないで」

 

クルト(ユ)はユウナ(ク)に慰められていた。

 

「何もかもがでかく見えんな」

 

「アッシュさん、大股で歩かないでもらえると」

 

アッシュ(アル)がアルティナ(アッ)を窘めている。

 

「やはり問題はARCUSⅡ?でもそうとしか……」

 

「ティータさん、転びますよ」

 

ぶつぶつ言うティータをミュゼが注意した。

 

「ええっと……無事で……何より……」

 

「これのどこが無事だって言うんですかぁぁぁっ!?」

 

クルト(ユ)はリィン教官を怒鳴る。

 

「なんで……なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよぉぉぉぉ!このクラス呪われてるんじゃないのぉぉぉぉ!?」

 

クルト(ユ)は泣き出した。

 

「なぁ、シュバルツァー。なんでチビウサと俺が入れ代わんだよ?」

 

「アッシュさん、お願いですから今は喋らないでください」

 

「さ、さすがに見たくないような……」

 

「あ?」

 

「凄むな」

 

アルティナ(アッ)をユウナ(ク)が窘める。

 

(いよいよ訳がわからないな)

 

「教官。説明を願います」

 

アッシュ(アル)がリィンを促す。

 

「あ、ああそうだな。おそらく原因は君たちのARCUSⅡ。そして、擬似的なオーバーライズだろう」

 

「オーバーライズ?」

 

「そもそも戦術リンク機能はリンクを結んだ両者の絆によって発動されるものなんだ。互いに信頼してなければ戦術リンクは本来の性能を発揮できない。最悪使用が不可能になる」

 

(なるほどな)

 

「キリコも含め、君たちは力を合わせて乗り越えてきた。そこには大なり小なり絆が存在するはずだ。戦術リンクのいや、それ以上の性能を引き出すくらいにな」

 

「それとなんの関係があんだよ」

 

「性能を発揮し過ぎた結果、ラインを結ぶ者同士の精神がシンクロを通り越して入れ代わった、ということだ」

 

「なるほど。それを引き起こすほど、僕たちの絆が固いということですか」

 

「喜ぶべきか否か、だな」

 

「それにしてもずいぶん詳しいんですね?」

 

「いや、実を言うと、俺も学生の時に経験があってな。俺とアリサ、ラウラとフィーの中身が入れ代わるなんてことが起きたんだ」

 

「経験済みでしたか……」

 

「続けるぞ。その後、そのデータはラインフォルト社の技術者に解析され、新たな機能として誕生した。それがオーバーライズだ」

 

「先ほどのようにタイムラグ無しでの行動がとれるんですね?」

 

「でも……ARCUSⅡには実装されていませんよね?」

 

「おそらく、旧Ⅶ組だからこそできたことなんでしょう」

 

「そのとおりと言えばそうなんだろう。とはいえ、戦術リンクが使える以上、その可能性は懸念すべきだった。本当にすまない」

 

「まあ……起こってしまったことは仕方ありません。それよりどうやって過ごすかですね」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

クルト(ユ)が飛び起きる。

 

「なんですか?」

 

「なんですか?じゃないわよ!あたしに一生クルト君でいろっての!?」

 

「いや、そこまで否定することか……?まあ、戻れるに越したことはないんだが」

 

「ユウナさん、いえこの場合はクルト・クロフォードさんでしょうか?」

 

「ひっぱたくわよ!」

 

「まあまあ。でも、教官は戻れたんですよね?その時はどうしたんですか?」

 

「それなんだが………」

 

リィンは言いづらそうに口を開く。

 

「俺たちの時は本校の旧校舎の試練を乗り越えてなんだ」

 

「試練?」

 

「以前仰っていたヴァリマールの?」

 

「その途中の階層でな」

 

「今から本校に行けってか?」

 

「さすがに無理かと……」

 

「そんな………!」

 

クルト(ユ)の顔が絶望に染まる。

 

(そもそも、それがまだあるという保証もないしな)

 

「とにかく、一旦戻ろう。トワ先輩なら何か知恵を貸してくれるはずだ」

 

「それしかなさそうですね」

 

リィンたちは小要塞を出た。

 

「…………………」

 

キリコは小声でミュゼに話しかける。

 

(わざと切ったのか)

 

(ええ。視えたので)

 

(そうか)

 

(でも残念です。できればキリコさんと……すみません、なんでもないです)

 

(……………………)

 

キリコとミュゼはリィンたちを追いかける。

 

 

 

「…………………………………」

 

報告を聞いたミハイルは額に青筋をたてていた。

 

「………………シュバルツァー」

 

「は、はい…………」

 

「君はあれかね?騒ぎを起こすことがⅦ組特務科だと勘違いしていないかね?」

 

「い、いえ……そんなことは………」

 

「とにかく」

 

ミハイルは恨みがましい目を向ける。

 

「私はこれから原隊に戻らなければならん。明日までに元に戻しておくように。さもなくば──わかっているな?」

 

「りょ、了解です!」

 

「よろしい」

 

ミハイルは教官室を出ていった。

 

「ふーーーーーーっ!」

 

「あはははは…………ご苦労様」

 

「さすがにおっかねぇな」

 

「いえ、ミハイル教官の立場を思えば仕方ないですよ」

 

「にしても、マジで入れ代わってるんだな。ええっと、ユウナ・ヴァンダールにクルト・クロフォードにアルティナ・カーバイドにアッシュ・オライオンか」

 

「本当にハッ倒しますよ!?」

 

クルト(ユ)がランディに掴みかかる。

 

「わ、悪かったよ。とにかく落ち着け!な!」

 

「ううう………」

 

クルト(ユ)が引き下がる。

 

「コホン……それでリィン君はどうするの?」

 

「ARCUSⅡについてはアリサを頼るしかありません。問題はどうやって戻すかですね」

 

「オーバーライズ、だったか。まさかそんなもんがあるなんてな」

 

「リィン君たちⅦ組だからこそできたので、ARCUSⅡには組み込まれてなかったんですけど、まさか同じことが起きるなんて」

 

「トワ教官もご存知なんですか?」

 

「うん。私やリィン君がまだ本校にいた頃だね」

 

「なるほどな」

 

ランディが腕を組む。

 

「それでなんですが何かいい知恵はないでしょうか?」

 

「うーーん………エマちゃんはどうかな?」

 

「エマ?…………なるほど、魔女の秘術ですか」

 

「可能性はありそうですね」

 

「ここまでくりゃオカルトだの言ってられねぇな」

 

「とにかく、連絡してみます」

 

リィンは一旦教官室を出てエマとアリサに連絡を取った。

 

数分後、浮かない顔で戻って来た。

 

「リ、リィン君?」

 

「ま、まさか──」

 

「いや、来てくれることにはなったんだが、エマは今ルーレにいるらしくてな。リーヴスに着くのはどんなに急いでも夕方になるそうだ」

 

「夕方……ですか」

 

「今11時半ですから少なくとも四、五時間後ですね」

 

「ルーレからだと、帝都行きの飛行船でだいたい四時間。そこから列車に乗り換えて一時間前後だから計算は合っているな」

 

「そればっかしはなぁ……」

 

「そ、それはいいんですよ!それよりどうするんですか!?今日部活あるんですよ!?」

 

「? 部活なら出れば………ああ、そういうことか……」

 

「察してんじゃないわよ!!」

 

「まあまあ。今日は茶道部は休みなのである程度フォローできるかと」

 

「余計に不安なんだけど……」

 

(今考えてみれば……あの時は相当無茶なことしてたんだな………)

 

リィンはかつての実体験を思い出した。

 

「教官?」

 

「どうかしたの?」

 

(不埒なことでしょうか)

 

「いや、俺も今の君たちみたいに知恵を絞ってたな、と思ってさ」

 

「とにかく、部活をどうするかですね。一番良いのは休むことでしょうが」

 

「あの分校長が認めるとは思えねぇしな」

 

「関係ない、の一言で片付きそうですよね」

 

「とにかく、ユウナちゃんとアルティナちゃんは私とミュゼちゃんでフォローするよ。ティータちゃんは技術部の方に行くんでしょ?」

 

「すみません……本当は何かお手伝いしたいんですが……」

 

「ううん、気にしないで。小要塞攻略を手伝ってくれただけでも十分だもん」

 

「決まりだね。リィン君にランディさん、すみませんが」

 

「気にしないでください」

 

「そっちは任せた」

 

リィンとランディはそれぞれ動き出した。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「わかってると思うけど………変なことしたらタダじゃおかないわよっ!」

 

「も、もちろんだ……!」

 

「んなことしねぇよ」

 

「キリコ君は格納庫に?」

 

「ええ。機甲兵教練で何か搬入されるようなので。何か聞いていますか?」

 

「ううん、聞いてないけど」

 

「そうですか」

 

キリコは格納庫へ向かった。

 

「あっ、私も行きます。失礼します」

 

ティータはキリコを追って行った。

 

(とりあえず、こちらが終わったらキリコさんの所へ行きましょう。もしかしたら、これが最後かもしれませんし……)

 

 

 

[ユウナ(ク) side]

 

やっぱり落ち着かないな。

 

あの後目隠しと耳栓までされて着替えさせられたはいいが、このテニスウェアというのはかなりスースーする。

 

もちろんスカートなんて初めて履いた。女子はよく平気でいられるな。

 

もちろん僕はテニスなどやったことはない。

 

というより、テニスは女子スポーツというのがおおよそのの見方だ。

 

将来的には男子の参入もあるらしいが、それはまだ先だろう。

 

今回は僕とゼシカの試合形式だ。

 

ゼシカがボールを高く上げ、ラケットで打つ。

 

 なんとか反応するも追いつけなかった。

 

(こんなに速いのか!?)

 

ルイゼがボードに15と書く。なるほど、テニスは15点も貰えるのか。

 

ここからは集中していこう。

 

次に打ったボールの落ちる地点は……ここだ!

 

素早く落下地点に移動し、ラケットを水平に振る。

 

 ボールはゼシカの足元に落ちた。

 

ゼシカは棒立ちで動けなかった。

 

「すっご~~い!」

 

「今のは……ヴァンダール流の……!?」

 

しまった。ついいつもの癖が出てしまった。

 

「なるほど。そういうことか……」

 

ゼシカが近づいて来る。

 

(バレたか……)

 

「今の、クルト君の真似よね!」

 

「へっ……?」

 

「スポーツに武術を応用するなんてやるわね。さすがにクルト君みたいに細かくはいかないでしょうけど」

 

「うんうん♪カッコよかったよ!」

 

「え、ええっと……」

 

「いいわ、本気でやりましょう。それにルイゼもテニスだとキレがあるものね」

 

「ふふふ、経験者だもん♪」

 

とりあえず、勘違いしてくれたみたいだな。

 

 いいだろう、由緒正しきシュライデン流の技、みせてもらおう。

 

[ユウナ(ク) side out]

 

 

 

[クルト(ユ) side out]

 

「どうした?さっきから上の空だぜ?」

 

「な、なんでもないよ。ハハハ………」

 

うう……チェスなんてやったことないのに。それに大丈夫かな……クルト君……。

 

「? まあいいや。それよりクルト、どうしたら俺はモテると思う?」

 

「……とりあえず、性格を直したら?後、口数も多いし、ヘラヘラするのも止めた方がいいよ。後やたらめったら女の子に声かけるのも控えた方がいいし、何より誰かの物真似とか良くないと思うよ。後、その香水も止めたら?匂いがキツいし、なんかイヤだから」

 

「……………………………」

 

シドニー君がすごく沈んでる。

 

「ええっと……」

 

「良いんだ、クルト。ハハハ………」

 

「……………」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

シドニー君は泣き叫びながら行ってしまった。

 

ちょっと言い過ぎたかな?

 

まあ、シドニー君も顔は悪くないから性格さえなんとかなればモテるんじゃないかな?

 

ああ、早くアリサさんとエマさん来ないかなぁ……。

 

[クルト(ユ) side out]

 

 

 

[アルティナ(アッ) side]

 

チッ、なんか動きづれーな。

 

なんか眠くなったと思えばいきなり水着になってるしよ。薬でも嗅がされたか?

 

とりあえずプールに行くと、ウェインとスタークとレオノーラが準備運動をしてた。

 

まあ、足がツッちまうのはダセェからな。

 

「よーし、それじゃ、始めようか」

 

「スターク、負けんぞ」

 

「最初から飛ばすと後半がキツいぞ」

 

水泳部ってのはこんな感じなのか。

 

「さて、アルティナ。目標の40アージュいってみようか」

 

「…………………」

 

正直メンドくせーが、やるしかねぇか。

 

つーか、政府の諜報部員がカナヅチってどーなんだよ。

 

「そう!その調子!いけるよ!」

 

(………うるせーな…………)

 

そういや、お袋もこんな感じだったな。変にお節介焼きで、ズボラでガサツでメシマズで。

 

そういや、しばらく食ってねぇな。あのマズイメシ。

 

「よっしゃ、これで40アージュ達成!」

 

「ついにいけたな」

 

「うぐっ……まだまだ!」

 

ウェインの野郎は飛ばしてやがる。

 

「そろそろ休憩するかい?」

 

「……まだいける」

 

「そ、そうかい?まあ、無理はしないようにね?」

 

とりあえず、いけるとこまでやるか。

 

[アルティナ(アッ) side out]

 

 

 

[アッシュ(アル) side]

 

「……………………」

 

タチアナさんが一心不乱に何かを書いています。

 

まあ、私は文学はわからないので見ても仕方ないのですが。

 

それにしても、退屈ですね。とりあえず、窓を開けましょう。

 

「あっ!」

 

窓から風が吹いて、タチアナさんが書いていた原稿用紙が飛びます。

 

「おっと……」

 

「ダ、ダメぇぇぇぇっ!!」

 

拾おうとした原稿用紙をタチアナさんがひったくります。

 

そのままタチアナさんが行ってしまいました。タチアナさんがあれほど取り乱しているところは初めて見ました。

 

しかし、なぜ原稿用紙の片隅にクルトさんとアッシュさんとキリコさんらしき絵が描いてあったのでしょう?

 

やっぱり文学はわかりません。

 

[アッシュ(アル) side out]

 

 

 

午後1:50

 

「ユウナさんたち、大丈夫でしょうか?」

 

「さあな」

 

オーバルギアⅢのチェックをするティータはアインヘル小要塞のデータをまとめるキリコに問う。

 

「Ⅶ組全員のARCUSⅡは試験前にいじったが、不調は見られなかった」

 

「先ほどアリサさんから連絡をいただきました。どうやら向こうも想定外だったみたいです。なんとか私たちで中身を調べられませんでしょうか」

 

「無理だろうな。以前聞いたが、ARCUSⅡの内部機構は完全にシークレットだそうだ」

 

「バラすことはできても、不調の解明までは不可能ですか……」

 

「それに戦術リンクのこともある。今は待つしかない」

 

「そうですか………」

 

「すみません、少しいいでしょうか?」

 

「あれ?ミュゼちゃん」

 

ミュゼが格納庫にやって来た。

 

「どうした」

 

「先ほどの戦闘で照準が狂ってしまったようなので、見ていただけませんか?」

 

「……わかった」

 

キリコはミュゼの魔導騎銃を調べ始める。

 

「………整備はマメにしているようだな」

 

「わかりますか」

 

「だが、そろそろ限界だろう。買い替えることをすすめる」

 

「そうですか。なら仕方ありませんね」

 

ミュゼは魔導騎銃をしまう。

 

「キリコさん」

 

「なんだ?」

 

ミュゼは体を捩らせながらキリコに話しかける。

 

「キリコさんは夏至祭はご存知ですよね?」

 

「ああ」

 

「誰かと……行かれた事は……?」

 

「ない。そもそも夏至祭に行った記憶はない」

 

「そ、そうですか……」

 

(ミュゼちゃん、もしかして……?)

 

「それでなんですけど……その……もし、よければ……」

 

「?」

 

(ミュゼちゃん、ファイト!)

 

「わ、私と一緒に──」

 

「ここが格納庫か」

 

「思ったより大きい」

 

「ほう、大したものだな」

 

「フフ、他の士官学校よりは大きいかもしれません」

 

格納庫の扉が開かれ、4人が入って来た。

 

「!?」

 

「何か言いかけたか?」

 

「い、いえ!なんでもないです!」

 

「?」

 

(ああもう!後少しだったのに!)

 

ミュゼは心の中で訪問者たちを呪った。

 

「キュービィー。おや、ラッセルにイーグレットもか」

 

「キリコにミュゼだったな。三ヶ月ぶりだな」

 

「ティータも久しぶり。アガットには会ってる?」

 

「分校長?」

 

「ラウラさん!フィーさん!」

 

やって来たのはオーレリアとラウラとフィー。そして、顎髭の男性だった。

 

「そなたがオーレリアの言っていた、キリコ・キュービィーか。娘からも聞いている」

 

(ラウラさんのお父さん……そっか、この人が……)

 

「………………」

 

「おっと、まだ自己紹介が済んでいなかったな」

 

顎髭の男性は胸を張る。

 

「アルゼイド子爵家が当主、ヴィクター・S・アルゼイドだ。よろしく頼む」

 

(シュバルツァー男爵閣下同様、貴族派において中立派を掲げる方ですわね。そしてオーレリアさんやウォレス少将と並ぶ達人の一人)

 

アルゼイド子爵はキリコに右手を差し出す。

 

「あ……」

 

「父上………」

 

「オーレリアと互角に戦ったほどの相手だ。礼を尽くすのは当然であろう」

 

「生身でやり合ったわけではありませんが」

 

「機甲兵とて道具でしかない。重要なのは如何にして勝利したという結果だ。そしてそこに善悪はないと言ってもよい」

 

「そういえば、以前キリコさん仰ってましたよね。「戦場、というより戦闘はゲームではない。決まったルールがあるというわけではない」って」

 

「そなたの言うとおりだ。戦術一つ取っても様々な形で存在する。真っ向勝負も不意を突くことも一つの手段でしかない」

 

(………耳が痛いな)

 

(昔のラウラなら拒絶してたね)

 

頬をかくラウラにフィーが付け加える。

 

「キュービィー、師が手を差し出すなど滅多にありはせぬぞ?」

 

「………………」

 

キリコも右手を出し、互いに握手した。

 

「ふむ、良い眼をしているな。気性も悪くなさそうだ」

 

「……どうも」

 

 

 

アルゼイド子爵は次にティータを見た。

 

「そなたは初めて会うな」

 

「は、はいっ!リベールから来ました、ティータ・ラッセルと申します!」

 

「ほう?南のリベール王国からか」

 

「はい。あの、分校に来る前にカシウスさんが言ってました。帝国の光の剣匠と呼ばれる方は自分よりも強い剣士だと」

 

「ほう。あのカシウス殿にそう言われるとは恐悦至極だ。いつか、手を合わせてみたいものだ」

 

「リベールの剣聖、カシウス・ブライト……!」

 

「一時期は大陸に4人しかいないとされるS級遊撃士。西風の旅団がリベールで活動しなかった最大の理由だね」

 

「そういえばラッセルはカシウス・ブライトの子どもたちと親しい間柄らしいな?」

 

(カシウス・ブライト………確か百日戦役で大反攻作戦を成功させた軍人だったか)

 

(カシウス中将とそのお子さんたち、そしてクローディア王太女殿下。いずれ合いまみえる時が来るでしょうね)

 

ミュゼは少し先の未来を視た。

 

そしてそれが遠くない日であることをひしひしと感じた。




次回、光の剣匠に挑みます。
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