英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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原作と構成メンバーは違いますが、アルゼイド子爵との戦闘です。


交錯②

「まさか……子爵閣下がいらしていたとは……」

 

アルゼイド子爵がラウラ、フィーと来ていると知ったリィンは慌てて格納庫へ飛んで来た。

 

「久しいな、リィン。逞しくなったものだ」

 

「お久しぶりです、閣下。まだまだ修行の身ですよ」

 

「フフ、謙遜しなくても分かる。彼のような教え子と共に切磋琢磨しているようだな」

 

「キリコ、失礼はなかったろうな?」

 

「はい」

 

「心配はいらぬ。それよりリィン、表のユウナのことだが」

 

「…………ユウナがどうした?」

 

「何?今の間」

 

「リィン?」

 

フィーとラウラが疑いの目を向ける。

 

「…………二人とも、落ち着いて聞いてくれ」

 

リィンは事の詳細を話した。ラウラとフィーは唖然とし、アルゼイド子爵は苦笑いを浮かべ、オーレリアは呆れた。

 

「……まさか我らと同じことが起こっていたとはな。なるほど、ヴァンダール流の体捌きが使えるはずだ」

 

「ユウナとクルト、アルティナとアッシュがそれぞれ入れ代わったんだね?」

 

「ああ。正直、俺も全く頭になかったよ。あの機能は搭載されてなかったとはいえ、懸念すべきだった」

 

「仕方ないよ。そもそもあれは不測の事態。気にしろって言う方が無茶」

 

「まったく、そなたらは毎度騒ぎを起こしてくれるな」

 

「す、すみません……」

 

「で?戻す算段はつけてあるのだろうな?」

 

「はい。エマが来てくれるそうです」

 

「ほう、深淵の魔女殿の妹分か。ならば問題はないな」

 

「やっぱり知ってるんだね」

 

「内戦時に同じ軍門におられたそうだが」

 

「魔女殿とは初の会合でお会いしてな。まさか帝国オペラの蒼の歌姫と同一人物だとは思わなんだ」

 

(すごい会話………)

 

(ふふ、私たちは入れませんね)

 

(…………………)

 

 

 

「それより──」

 

アルゼイド子爵は真顔になり、リィンとオーレリアの方を向く。

 

「かの槍の聖女と剣を交えたそうだな?」

 

「お耳が早いですね」

 

「ラウラから聞きましたか」

 

「私も驚いている。我が祖先と共に戦場を駆けた槍の聖女が生きていて、オーレリア殿やリィンたちと槍を交えたなど……」

 

「ヴィクターさんとラウラさんのご先祖は鉄騎隊の副長を務められたそうですが」

 

「その通りだ。そして、我らの名前のSはリアンヌ・サンドロットから戴いたものなのだ」

 

「そうなんですか!?」

 

ティータは驚きを隠せなかった。

 

「アルバレア家の若殿から聞いたがオーレリア、そなたは聖女殿から認められたそうだな?」

 

「まだまだです。聖女殿はかつての、と仰ってましたから」

 

「フ、もはや力の落ちた身では羨ましい限りだ」

 

「落ちた?」

 

「ああ。煌魔城で火焔魔人との死闘において、肺を少々焼かれてな。剣筋が鈍り以前ほど力を出せなくなった」

 

「あ……」

 

「父上………」

 

「…………………」

 

リィンたちは顔を伏せる。

 

「フフ、そんな顔をするな。私がおらぬとも、アルゼイド流が絶えることはない。我が娘も皆伝に至ってくれたしな」

 

「閣下……」

 

「とはいえ、隠居するにはまだ早いのでな。それに新Ⅶ組についても知りたかったのだ。まあ、今回は無理があるだろうが」

 

「本当に申し訳ありません……」

 

リィンは力なく謝罪した。

 

「構わぬ。いずれ会う日も来よう。その代わりと言ってはなんだが、リィン、クラウゼル。そして我が娘よ。そなたらの力を見せてもらいたい」

 

「!」

 

「そう来るか……」

 

「父上………」

 

「……わかりました。分校長、鍛練場を借ります」

 

リィンは力強く頷く。

 

「ならば、Ⅶ組の者たちを連れて行くがよい。キュービィー、イーグレット。すぐに連絡を取れ」

 

「了解」

 

「了解しました」

 

キリコとミュゼは仲間たちに連絡を取る。

 

「それとシュバルツァー。オルランドも呼ぶがよい」

 

「ランディさんもですか?」

 

「そうだね。ランディはかつて赤い死神って呼ばれてるほどの実力者だからね」

 

「最初に会った時から相当の強者と思っていたが………」

 

「よかろう。その者も呼ぶといい。オーレリア、案内を頼む」

 

「わかりました。シュバルツァー、準備を整えておけ」

 

オーレリアとアルゼイド子爵は格納庫から出て行った。

 

「え、えーっと………」

 

「すまぬ。父上は一度決めると行動が早いのだ」

 

「即断即決が信条と仰っていたからな」

 

「俺たちは見学ですか」

 

「そうだな。見るのも修行の内だ。キリコはあまり興味はないかもしれないが、見ておくといい。達人がどういうものなのかを」

 

「……………」

 

キリコは鍛練場へ向かった。

 

「ではお先に参ります」

 

ミュゼもその後を追う。

 

「ティータは格納庫に?」

 

「いえ、これから寮の食堂でサンディちゃんたちと待ち合わせしているので」

 

「わかった。二人も夕飯食べていくんだろ?」

 

「あいにく、父上と共に夕方には帝都にいなくてはならぬのでな」

 

「私も帝都でアガットと待ち合わせだから。エマにはよろしく言っといて」

 

「そうか、わかった。それじゃ、行こうか」

 

「うむ」

 

「ヤー」

 

リィンたちも鍛練場へ歩き出した。

 

 

 

「まさか、光の剣匠閣下が来られているとは……!」

 

「ヴァンダール………てめえ、そんな眼してたか?」

 

「ラウラさんのお父さん……カッコいい……!」

 

「ユウナさん、その姿では控えた方が良いかと」

 

それぞれの部活から新Ⅶ組が集合した。

 

「…………………」

 

(キリコさん、完全に視界から消していますね)

 

「………これは、なんとまあ…………」

 

「………すごいね…………」

 

「あーーー、あまり気にしないでくれ」

 

唖然とするラウラとフィーをリィンがなんとか取りなす。

 

「つーかよ、俺だけ場違いじゃねぇか?」

 

呼び出されたランディはぼやく。

 

「すみません。さすがに3人だけではキツ過ぎるので」

 

「ヤバいってのは分かるよ。叔父貴や聖女さんみてぇに半端じゃねぇってのはな」

 

「そういえば、クロスベルでやり合ったことあるんだよね?」

 

「手加減されてボロ負けだったけどな」

 

「ティオ主任によると、兜を砕いたとか……」

 

「ほう?相当の腕前と見受けるが」

 

「いやいや!六対一っスから!」

 

興味を抱いたアルゼイド子爵にランディはブンブンと手を振る。

 

「まあよい。では始めよう。だがその前に」

 

アルゼイド子爵はキリコを見る。

 

「そなたも加わるとよい」

 

『え!?』

 

「キリコを、ですか!?」

 

アルゼイド子爵の言葉に新Ⅶ組やリィンも思わず仰天した。

 

「父上!?」

 

「初めて会った時からそなたが気になってな。僅かな隙も見せぬその振る舞い。年の頃17、8と見たが、とてもそうは思えぬ」

 

「…………………」

 

「キリコ君………」

 

クルト(ユ)は心配そうに見つめる。

 

「チッ……(マジでムカつくぜ。あいつが戦うって時に疼きやがる)」

 

アルティナ(アッ)は舌打ちをし、片目を押さえる。

 

(確かに初めて会った時からそう思っていた。入学以来、鍛練を欠かしたことはなかった。同期の中でも腕が上がったと信じたい。だが、キリコにだけは追い付けそうにない。どれだけ鍛えても、越えられそうにない何かがある……)

 

ユウナ(ク)はキリコの背中を見つめる。

 

(やはり不可解です。会ったことはないのに、なぜキリコさんのことを知っているのでしょう)

 

アッシュ(アル)は入学以来感じている既視感に疑問を抱く。

 

(アルゼイド子爵の言うとおり、キリコさんの実力、特に精神面は明らかに年相応ではありません。キリコさん、本当に何者………いえ、何者でもいいんです。側にいてくだされば……)

 

ミュゼは手を胸の前で祈るように合わせる。

 

「……………………」

 

キリコはリィンたちの後方に付く。

 

「キリコ……」

 

「配置は間違ってない。リィン、ラウラ、ランディが前衛、私とキリコが後衛でいいね?」

 

「そうだな」

 

「決まったようだな。では──」

 

アルゼイド子爵が大剣を取り出す。

 

「ッ!」

 

「宝剣ガランシャール……!」

 

「な、何あの剣!?」

 

「あれが宝剣………」

 

「鉄騎隊の副長、つまりラウラさんのご先祖が用いたと言われる剣……」

 

「フフ、来るがいい」

 

アルゼイド子爵は宝剣を構える。

 

「参ります!」

 

リィンたちはアルゼイド子爵に全力でぶつかって行った。

 

 

 

「ぬん!」

 

「……クッ!」

 

「なんつーパワーだよ、このオッサン!?」

 

アルゼイド子爵の洗練された技にキリコとランディは苦戦を強いられる。

 

「な…な…な……」

 

「あれが……光の剣匠……」

 

「以前見た時と変わりません……」

 

「チート過ぎんだろ……」

 

(キリコさん……!)

 

新Ⅶ組も言葉が出なかった。だが──

 

「キリコ!大丈夫か!」

 

「問題ありません」

 

「そなたは外から攻めよ。こちらは私とリィンでやる!」

 

「了解」

 

「ランディ、私たちはキリコと逆から。アタックは任せた」

 

「はいよ!そんじゃ、反撃といきますか!」

 

旧Ⅶ組とランディとキリコは折れなかった。

 

「突貫させてもらうぜ!デススコルピオン!」

 

ランディが赤いオーラを纏い突貫する。

 

「くっ…!やるな……!」

 

「今だ!」

 

「サイファーエッジ!」

 

「アーマーブレイク」

 

アルゼイド子爵の動きが止まった隙を突いて、フィーとキリコがクラフト技を叩き込む。

 

「なかなかやる。だが!」

 

アルゼイド子爵の横薙ぎの斬撃にキリコとフィーが吹っ飛ばされる。

 

「くっ…!」

 

「やっぱりバケモノだね……!」

 

「まだまだいくぞ!」

 

続けざまにキリコに宝剣を振り下ろす。キリコはそれをかわし、胸部めがけてハンタースローを放つ。

 

「甘いっ!」

 

「…………」

 

しかし、剣の腹で防がれる。だがそれがキリコの狙いだった。

 

「隙あり!」

 

「ここだっ!」

 

アルゼイド子爵の両脇からラウラとリィンが仕掛ける。

 

「蒼裂斬!」

 

「神気合一。秘技・裏疾風!」

 

ラウラの飛ぶ斬撃と神気合一を発動したリィンの裏疾風がくり出される。

 

「ぐっ!」

 

アルゼイド子爵は素早く下がるが、裏疾風の二刀目はかわせなかった。

 

「もう一度仕掛ける。アーマーブレイク」

 

「心得た!獅子連爪!」

 

キリコはラウラとラインを繋ぎ直しクラフト技を仕掛ける。

 

「行くぜ、フィー!」

 

「ヤー!」

 

ランディとフィーのリンクアタックが体勢を崩したアルゼイド子爵に炸裂する。

 

「やるな………。? リィンはどこだ……?」

 

「あんたの背後だ」

 

「!?」

 

キリコの指摘にアルゼイド子爵に隙ができる。

 

(子爵閣下………いきます!)

 

神気合一を解いていたリィンは太刀を構える。

 

 

 

「心頭滅却、我が太刀は無。見えた!うおぉぉぉぉっ!斬!七の太刀・刻葉!」

 

 

 

落葉を進化させたリィンのSクラフトが勝負を決める。

 

「フッ……見事だ……」

 

アルゼイドは膝をついた。

 

 

 

「勝った……」

 

「見事だ」

 

トワとオーレリアは喜びを露にする。

 

「な、なんとか勝てたな……」

 

(ギリギリだがな……)

 

ランディとキリコは肩で息をしていた。

 

「ホントにパワーが落ちてるの?」

 

フィーはアルゼイド子爵に疑いの目を向ける。

 

「余計な力が入らない分、剣捌きはむしろ上がっているかもしれないな」

 

「ああ。父上は私の鍛練と同時に型の稽古に没頭しておられたからな」

 

リィンとラウラは得物を支えに立ち上がる。

 

「ホ、ホントに規格外ね…………」

 

「基本に立ち返ることでさらなる強さを手に入れられたのか……」

 

「理解不能です……」

 

「バケモノが……」

 

「アッシュさん、失礼ですよ」

 

新Ⅶ組が内容に圧倒されていた。

 

「そなたらの力、見せてもらった」

 

アルゼイド子爵が立ち上がった。

 

「娘はもちろんだがリィン、腕を上げたな。そなたが皆伝に至る日も遠くなかろう」

 

「過分なお言葉、ありがとうございます」

 

リィンは頭を下げる。

 

「クラウゼルにオルランドだったか。そなたらも大したものだ」

 

「どーも」

 

「いやぁ、結構ギリギリでしたけど……」

 

フィーは手を後ろにやり、ランディは頭はかく。

 

「そして、そなただが……」

 

「………………」

 

アルゼイド子爵はキリコの眼を見つめる。

 

「眼を見れば分かる。やはり相当の修羅場を潜り抜けているようだな」

 

「………………」

 

「そなたのことはオーレリアから聞いている。機甲兵戦とはいえ、初めて自身を打ちのめした強者だとな」

 

「あの時はたまたま隙ができただけです」

 

「運も実力の内であろう」

 

「師よ、そろそろお時間では?」

 

オーレリアはどことなくムスッとしていた。

 

「ふむ、そう言われればそうか。リィン、それにオルランド。善き一時だった」

 

「こちらこそありがとうございました」

 

「あざっした!」

 

「ではな。娘よ、行こう」

 

「はい。リィン、またいずれな」

 

「私もそろそろ行くね」

 

「フィーちゃん、ありがとうね」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

「ん」

 

ラウラとフィーはアルゼイド子爵と共に鍛練場から出て行った。

 

 

 

ラウラたちがリーヴスを発ってから数分後──

 

「す、すみません!遅くなりました!」

 

「ふーん?なかなか難儀なことになってるわね」

 

「エマ!?それにセリーヌも?」

 

鍛練場にエマとセリーヌが駆け込んで来た。

 

「夕方くらいになるのでは?」

 

「……ラインフォルトの高速艇で飛ばして来たのよ」

 

後ろからアリサが入って来た。

 

「アリサ、来てくれたのか」

 

「2ヵ月ぶりね。ARCUSⅡは私の管轄だもの。それより、本当にごめんなさい。ユウナたちには苦労かけたわね」

 

アリサはユウナ(ク)たちに頭を下げる。

 

「いえいえ!わざわざありがとうございました!」

 

「今回のは完全に想定外のことだそうですから仕方ありませんよ」

 

「それより、何かあったの?やけに荒れてるけど」

 

「ああ、それはな」

 

リィンは先ほどまでの事をアリサとエマに説明した。

 

「ラウラさんとフィーちゃんにアルゼイド子爵閣下が来てたんですか?」

 

「どうやら入れ違いになったみたいだな」

 

「そうみたいね。でも、また会えるわよね」

 

「そうだな……」

 

「そうですね」

 

アリサの言葉にリィンとエマは感慨深げに同意した。

 

 

 

「んで?どうすりゃ元通りになんだよ?」

 

「はいはい。それを今からなんとかしようっての。エマ、さっさと始めましょう」

 

「ええ。皆さん、こちらに来てください」

 

エマはユウナ(ク)たちを整列させる。

 

「では、精神が入れ代わった方同士、向かい合って手を繋いでください。術が終わるまで絶対に離さないでください」

 

エマの指示で、ユウナ(ク)とクルト(ユ)、アルティナ(アッ)とアッシュ(アル)が互いに手を繋いだ。

 

「セリーヌ、手伝って」

 

「任せて」

 

セリーヌはエマの真正面に移動した。

 

「始めるわ」

 

「では………」

 

エマは魔導杖を取り出す。ユウナ(ク)たちの足元に魔法陣が顕現した。

 

「分けただれた魂魄よ……正しき主の元へ還りたまえ……」

 

エマが呪文と唱え終わるやいなや、魔法陣から閃光が迸る。

 

「皆さん!手を離さないで!」

 

「失敗したら、二度と戻らないわよ!」

 

『!』

 

エマとセリーヌの言葉に手を強く握る。

 

そして、閃光が収束する。そこには手を握り合った4人がいた。

 

「ユウナ、クルト、アルティナ、アッシュ!大丈夫か!?」

 

リィンが4人に問いかける。

 

「ん……終わった、の?」

 

「そう、みたいだな……」

 

「あ…………」

 

「ユウナさん、クルトさん!」

 

「え……」

 

ユウナはあーあーと声を出し、確信した。

 

「も、戻った……戻ったぁぁぁぁっ!」

 

ユウナは跳び跳ねて、喜びを露にした。

 

「ははっ、見慣れた高さだな……」

 

「そっちも同じみてぇだな?」

 

元に戻ったアッシュがクルトの肩を叩く。

 

「アッシュにアルティナも戻ったようだな」

 

「まーな」

 

「…………………」

 

「アルティナちゃん、どうしたの?」

 

トワが憮然とするアルティナに話しかける。

 

「また小さくなりました」

 

「その気持ち……よく分かるよ。女神様は本当に不公平だよね……」

 

トワはうんうんと頷く。

 

「魔女ってスゲェな……」

 

「ええ。本当に」

 

腕を組むランディにリィンが同意する。

 

 

 

「それじゃ、みんなのを預かるわね」

 

分校の校門前でアリサは新Ⅶ組全員のARCUSⅡを預かった。

 

「よろしくお願いします」

 

「当分、不便だな……」

 

「仕方ないだろう。また同じことになったら手に負えなくなる」

 

「アップデートだけですからそれほどかからないはずです」

 

「おそらく2日くらいだろう」

 

「そうね。オーレリアさんから聞いたけど、水曜日の機甲兵教練までには間に合わせるわ」

 

「本当にすまないな。わざわざ来てもらって」

 

「いいえ、お役に立てて良かったです」

 

「こういうことは金輪際止めてよね」

 

「ふふ、セリーヌさん。気持ちよさそうに言っても効果はないと思いますよ?」

 

憎まれ口を叩くセリーヌはミュゼの膝の上で撫でられていた。

 

「アリサはこのままルーレに?」

 

「ええ。一旦戻るわ。エマは帝都に行くのよね?」

 

「はい。帝都地下の霊脈が気になるので」

 

「霊脈?」

 

アッシュが首をかしげる。

 

「東方で言う龍脈。大地の下を流れる霊的な力のことだ。霊脈が活発になると様々な現象が起きる。君たちも見ただろう、クロスベルやラマール州に顕れた幻獣を」

 

「またオカルトかよ……」

 

アッシュは頭をかいた。

 

「以前、エマさんが言ってたけど……」

 

「それについては帝都に行ってみなくちゃわからないわ。エマ、そろそろ行きましょう」

 

「もう行ってしまうんですか」

 

ユウナが名残惜しそうに言った。

 

「ごめんなさい。何か分かれば連絡します。ではリィンさん、また」

 

「ええ、また会いましょう」

 

エマとアリサは第Ⅱ分校を出た。

 

「また会いましょう、か」

 

「教官、もしかして……」

 

「ユウナ」

 

「それ以上は野暮ですよ」

 

クルトとミュゼが止めた。

 

「……………」

 

「どうしたよ?」

 

「長い一日だと思ってな」

 

「ちげぇねぇ」

 

アッシュはキリコの言葉に同意した。

 

これにて、今回の騒動は幕を下ろした。

 

 

 

翌日 7月10日

 

「ううううう……………」

 

「…………………………」

 

ユウナとアルティナが震えながら歩いて来た。

 

「二人とも、どうしたんだい?」

 

「便所ならそこだぞ」

 

「ク……クルト君………昨日、何したの……?」

 

「昨日?テニス部に出たよ。意外と面白かったよ。武術の体捌きも応用できたし、いい経験になった」

 

「絶対……それよ……!」

 

「えっと……ユウナ?」

 

「………筋肉痛か?」

 

「ええ、そうよ……!今朝から足がパンパンに張っているんですけど!?」

 

ユウナは憤慨した。

 

「もしかして、アルティナさんも?」

 

「………体がバラバラになりそうです…………」

 

アルティナは手すりにつかまりながら答えた。

 

「そういえば、アッシュは水泳部だったな。何したんだ?」

 

「あ?100アージュ泳いだだけだぜ?」

 

「100アージュ!?」

 

クルトは仰天した。

 

「つーかチビウサ。政府の諜報部員がカナヅチってどうなんだよ?」

 

「だからといってやりすぎよ!」

 

「マヤさん経由で知りましたが、レオノーラさんがすごく興奮してらしたとか」

 

(夕べ、ウェインが悔しがっていた理由はそれか)

 

「……………」

 

アルティナは恨みがましくアッシュを睨む。

 

「んー、困りましたね。今日は確かランディ教官の訓練の授業がありましたよ」

 

「そうだな」

 

「……掛け合ってみようか?」

 

「大丈夫……なんとかするわ……」

 

「お願いします……」

 

ユウナとアルティナは対照的に答えた。

 

「とりあえず、アッシュは何かお詫びしないとな」

 

「当然ですね♪」

 

「チッ、しゃーねーな。昼飯ぐれぇ奢ってやるよ」

 

「できれば、ルセットのパンケーキを所望します」

 

「わーったよ」

 

アッシュはぶつくさ言いつつも了承、そのまま寮を出た。

 

「そろそろ行くぞ」

 

「肩貸そうか?」

 

「大丈夫よ。アル、お願いできる?」

 

「はい。クラウ=ソラス」

 

アルティナはクラウ=ソラスを出し、ユウナと共に乗る。

 

「ではお先に」

 

アルティナとユウナを乗せたクラウ=ソラスは分校に向かった。

 

「仕方ない。僕たちも……っと、すまない、シドニーがまだみたいだ。先に行っててくれ」

 

クルトは落ち込むルームメイトを呼びに寮に戻った。

 

「行くぞ」

 

「はい♪」

 

ミュゼはキリコの左腕を掴む。

 

「離れろ」

 

「ああん、キリコさんのいけず♥️」

 

キリコはミュゼと二人で登校した。

 

ちなみに、ユウナとアルティナは不憫に思ったランディの計らいで、特別に見学が許された。




これにて、新Ⅶ組版メンタルクロスリンクはおしまいです。

次回、機甲兵教練です。

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