7月15日 午前 5:30
分校生徒を乗せたデアフリンガー号は東へと進んでいた。
[キリコ side]
「やっぱり旨いな。キリコのコーヒーは」
「まさかアイスもできるとは思わなかったよ」
「飲まないだけで出来ないわけではないので」
「なるほどな。お代わりをくれ」
俺は今食堂車でリィン教官、トワ教官、ランディ教官にコーヒーを淹れている。
リィン教官とランディ教官はホットコーヒーだがトワ教官はアイスコーヒーを注文した。
「到着したら忙しくなるからな。今のうちにリフレッシュさせとかねぇとな」
「……リフレッシュもほどほどにしておくようにな」
前の車両からミハイル教官がやって来る。
肩を落としているところからまたオーレリアか博士に何か言われたのだろう。
「私にも一杯くれ。ホットでいい」
「わかりました」
力なく座ったミハイル教官にホットコーヒーを出す。
「~~~………ふむ、旨いな」
「どうも」
「なんかあったんすか?」
「ずいぶんお疲れのようですが」
「なに、いつものことだ。今回の演習はトールズ本校と合同で行われるというのに分校長と博士は相変わらず不在だからな」
「ミハイル教官……」
生徒である俺がいる前でこぼした愚痴にトワ教官が同情する。今までになく面倒なことになるな。
「ちょいと長くなるな」
「キリコ、洗い物は俺がやっておくから自分の準備をしておいてくれ」
「了解」
俺はリィン教官に後のことを任せて5号車へ向かった。
「あ、キリコさん。お疲れ様です」
5号車ではティータがオーバルギアⅢのメンテを行っていた。
「メンテは夕べ終えたんじゃなかったのか?」
「えへへ、ちょっと気になる所があったので」
「そうか」
俺は俺でやることがあるしな。
端末を開くと、メッセージが入っていた。
「………………」
「キリコさん?どうかしましたか?」
「……新たな武装が搬入されるらしい」
「へえ。どんな武装ですか?」
「……七連装ミサイルポッドとあるな」
「はい?」
ティータは唖然としていた。当然の反応だろうな。
「ミ、ミサイルポッドって本気ですか!?」
「文面を見る限りな。手持ちではなく外付けの武装のようだ。空いている右肩に装備させればなんとかなるだろう」
「えーーっと………フルメタルドッグの武装って確か……」
「固定武装のアームパンチ。手持ち武器のへヴィマシンガンにソリッドシューター。外付けの武装にガトリング砲、二連装対戦車ミサイル、三連装スモークディスチャージャー、そして七連装ミサイルポッドだな」
「…………………………」
遂に言葉も失ったか。
「よくそんなに扱いきれますね……」
「コントロールボックスの精度を高めているからな。武装が増えたところでマイナスにはならない」
「でも武装を増やした分、機動力は落ちますよね?」
「弾薬を使いきった武装は即座にパージできるように組んである。デッドウェイトの問題も克服済みだ」
「すごい……!」
「大したことじゃない。俺がやっているのはありあわせをまとめているに過ぎない。すごいのはお前の方だ」
「私だってそうですよ。何もない所からオーバルギアⅢを作ったわけじゃありませんから」
「そうか」
すると、列車の速度が落ちる。
「着いたんでしょうか?」
「いや、ここは帝都駅だ」
窓の外を見ると間違いなく帝都駅だ。
演習地は確か南オスティア街道の外れのはずだ。
そう思っていると放送が入る。
『生徒のみんなに連絡です。一度、ホームに集合してください。繰り返します。一度、ホームに集合してください』
「集合、ですか?」
(本校と合同……そういうことか)
俺は放送の指示通り、帝都駅のホームに降りた。
俺たちがホームに降りると、それに合わせたかのように紅い列車が入って来た。
「あ、あ、あの列車は……!?」
「まさか……アイゼングラーフ号!?」
確か皇族や政府高官専用の列車がそれだったな。
何でもオズボーン宰相の異名と爵位から取られたらしいが。
分校生徒たちが呆然とする中、アイゼングラーフ号から紅い制服の本校生徒たちが降りてきた。
その中からセドリック皇太子と金髪の軍人が教官たちの前にやって来た。
「第Ⅱ分校の皆さん、お久しぶりです」
セドリックは笑顔で挨拶をした。周りはともかく、見下している素振りは見当たらない。
「殿下こそ、ご無沙汰しておりました。ナイトハルト中佐もお久しぶりです」
「君もな。ハーシェルも久しぶりだ」
「お久しぶりです!サザーラントでの演習以来ですね」
(確か第四機甲師団のエースと呼ばれる軍人だったか)
セドリックとナイトハルト中佐は教官たちと話した後、俺たちの前にやって来た。
「君たちと会うのも久しぶりだね」
「はい。ご無沙汰しておりました」
クルトが代表して受け答えを務める。
「畏まらなくてもいいよ。それより今回の特別演習と公安活動は合同で行われるのは知っているかい?」
「え……!」
「殿下、それは……」
「隠すことはないと思います。どのような内容であれ、誠心誠意務めるだけですから」
「殿下……」
「以前のいざこざを水に流してくれとは口が裂けても言わない。お互いに最良の結果を出せるよう協力し合おう」
セドリックはクルトに右手を差し出す。
「クルト、いずれ元通りにしてみせる。そのためにもこの演習を乗りきろう」
「殿下……はいっ!」
クルトは両手でセドリックの右手を握る。
「他のみんなもよろしく頼むよ。同じトールズに属する者としてね」
『イ、イエス・ユア・ハイネス!』
分校生徒たちのほとんどがセドリックに敬礼した。ウェインあたりは涙ぐんでいるな。
最後にセドリックは俺の前に来た。
「キリコも久しぶりだ。君の活躍は聞いているよ」
「大したことはしていない」
「フフ、それでこそ君だ」
セドリックは真剣な面持ちで俺を見る。
「キリコ……僕は君に、Ⅶ組に負けてから努力を怠らなかったつもりだ。もし可能ならもう一度僕の挑戦を受けてほしい」
『!?』
周りがざわつくが、セドリックは意に介していない。
「機甲兵で、か?」
「もちろんだ。できれば生身でもだけどね」
「………確約はできないが、それでいいなら受けよう」
「勿論だ。無理を言っているのは百も承知だ」
「……ユウナたちも構わないな?」
「もちろんよ。あたしたちだって強くなってるんだから」
「白黒つけんなら望むところだぜ」
「燃えてきましたね」
「交流戦という形ならなんとかなるかと」
「わかりました。今の僕の全力をご覧にいれて差し上げます」
「わかった。その時が来るまで」
セドリックは右手を差し出す。
「ああ」
俺もセドリックの手を握る。
その瞬間、本校側から凄まじい敵意の視線を受けるがどうでもいい。
「ありがとう、キリコ」
その後セドリックは教官たちと握手をし、敵意を示す本校生徒たちを諌めながらアイゼングラーフ号に乗り込む。
俺たちも教官たちの指示に従い、デアフリンガー号に乗り、演習地へと出発した。
[キリコ side out]
演習地に着いた分校生徒たちは演習拠点設立を終え、朝食後にそれぞれの場所へ集まった。
リィンたちⅦ組もブリーフィングルームで打ち合わせを行っていた。
「皇太子殿下も仰られたように今回の演習は本校と合同となる。本校の活動は我々とは根本的に異なる。皇太子殿下はああ言われたが、くれぐれも邪魔だけはせんようにな」
ミハイルはⅦ組が頷いたのを確認した後、キリコの方を向く。
「キュービィー候補生、君という者は……!」
「……あの場で断った場合どうなりますか?」
「ぐっ……!」
ミハイルはキリコの指摘に詰まる。
「第Ⅱ分校の立場はかなり悪くなるかと」
「下手すりゃ第Ⅱ分校を潰す口実与えちまうよな」
「それってかなりヤバいんじゃ……」
「あの場ではたとえ不本意でも受けるしかないと思います」
「ええい……!皆まで言うな!」
ミハイルは疲れきった顔で言い返す。
「とにかく、君たちは広域哨戒と現地貢献に務めてもらう。ではシュバルツァー、Ⅶ組特務科はまず帝都へ向かえ。その後帝都駅でさらに詳しい説明がされる」
「帝都駅ですね、わかりました」
「何か質問はあるか?」
「いえ、大丈夫です。Ⅶ組特務科、出発します」
「よろしい、では行きたまえ」
リィンたちは出発前に主計科テントで準備を整える。
「それにしても皇太子殿下の方から挑戦してくるなんてな」
「少なくとも本気のようだ」
「んで?勝算はあんのかよ?」
アッシュは新たな得物の感触を確かめながらキリコに聞いた。
「前回のように舐めてかかってくるはずはない。おそらく真正面から全力でくるだろう。ならこちらはいつも通り連携で対応する」
キリコは戦術プランを組み上げる。
「それにしてもなんか変わったよね。あの皇子様」
「ユウナさん、失礼ですよ。ですが、凛々しくなられましたね」
「傲慢さは嘘のように影を潜めましたね」
「キリコに負けてから相当努力されてきたんだろう。心構えにも変化があったんだろうな」
「なんだよ。役目取られて悔しがってんのか?」
「正直ね。でもそれはいいんだ。僕も僕自身の想いを殿下にお伝えするつもりさ」
「クルト君……」
「まあ、少なくともあいつらを黙らせたら痛快だろうぜ。見たかよ、キュービィーと皇太子が握手した時のあいつらの顔♪」
「敵意、いえ殺気に近いかと」
「確かに痛快かもね」
「……………」
「ほら、そろそろ切り替えてくれ」
リィンが手をたたいてユウナたちを振り向かせる。
「皇太子殿下の申し出は今はおいといてくれ。これからⅦ組特務科は帝都へ向かう」
『イエス・サー』
「あっ、待ってください!」
リィンの後ろからサンディが引き止める。
「どうした?」
「あの、Ⅶ組のみんなに頼みたいことがあるんです」
「なんだ?言ってみてくれ」
「実は、キノコを探してきてほしいんです」
「キノコ?」
「はい。ムーントリュフという種類なんですが、あたしの故郷の料理に必要なんです」
「君は確かアルスターの出身だったな。カイやティーリアや町の人たちはお元気か?」
「はいっ!内戦の時は本当にありがとうございました!」
(そういえば、以前任務で訪れました)
アルティナは内戦時の記憶を掘り起こす。
「それでそのムーントリュフというのが必要なんだな?」
「はい、この料理には欠かせない材料なので。本当は自分で採りに行きたいんですが……」
「いいのよ、サンディだって忙しいんだし。あたしたちに任せてよ」
「それで、どういう場所に生えるんだ?」
「基本的にはあまり日の当たらない場所に生えるの。とりあえず二つほどあればいいかな」
「わかった。演習のついでに探してみる」
「お願いします」
サンディはそう言って炊事場に戻った。
「改めて、出発しよう」
『イエス・サー!』
Ⅶ組特務科は導力バイクに跨がり、南オスティア街道に出た。
「見えてきたな」
リィンは帝都南門を見つめる。
「クロスベル市より人が住んでいるのよね?」
「ヘイムダルの人口はおよそ80万人。大陸屈指とも言われている」
「クロスベル市がおよそ50万人、ティータさんの故郷であるリベールの王都グランセルが30万人とされてますね」
「ひぇ~~!想像できない……」
リィンとアルティナの説明にユウナは驚きを隠せなかった。
「そういや、お前は帝都にいたんだよな?」
アッシュはクルトに聞いた。
「ああ、実家があるからね。それにヴァンダール流の道場もあるんだ」
「なら案内は任せたぜ」
「いや、さすがに知らない区画もあるから。教官はご存知なのでは?」
「確かに帝都には実習で来たことはあるんだが、帝都東側が担当でな。今回もそうなるかわからない」
「なるほど」
「キリコさんも帝都に住んでらしたんですよね?」
「厳密には帝都西側の近郊の孤児院でな」
「あ………」
「キリコさん……」
ユウナとミュゼの顔が暗くなる。
「気にしなくていい。だが案内は期待するな」
「う、うん」
「………………」
「……そろそろ到着する。みんな、脇に着けてくれ」
リィンの指示でユウナたちは導力バイクを門の脇に駐車した。
「皆さん、時間通りですね」
「え……」
「クレア教官!?」
門でリィンたちを待っていたのはクレア少佐だった。
「お久しぶりですね、皆さん」
「もしかして帝都駅に?」
「はい。皆さんをお迎えに参りました。こちらの車両にお乗りください」
「わかりました。お世話になります」
リィンたちはクレア少佐と共にTMP専用車両に乗り、帝都駅に直行した。
「失礼する」
「すみません、お待たせしました」
「殿下……!」
「第Ⅱ分校の皆さんもご苦労様ですわ」
「…………………」
(何よ、あの態度)
(前よりはあからさまではなさそうですね)
リィンたちⅦ組は帝都駅にある会議室に通された。
その5分後にナイトハルト中佐、セドリック、エイダ、フリッツら本校生徒が入室してきた。
セドリックたちはリィンたちに向かい合うように座った。
エイダとフリッツはキリコに鋭い視線を向けるが、当のキリコは意に介していなかった。
(おーおー、睨まれてやがる♪)
(図太いというか、強心臓というか……)
(どこ吹く風って感じね……)
「……揃われたようですね。ではお入りください」
「失礼するよ」
会議室に入って来たのはカール・レーグニッツ帝都知事だった。座っていた者たちは一斉に立ち上がる。
「レーグニッツ知事……」
「お久しぶりです、レーグニッツ帝都知事」
「皇太子殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
レーグニッツ知事はリィンたちに近づく。
「リィン君たちも久しぶりだね」
「お久しぶりです。さっそくですがトールズ第Ⅱ分校、特別演習開始を報告させていただきます」
「確かに。頑張ってくれたまえ。時間もないので僭越ながら始めさせてもらうよ。座ってくれたまえ」
レーグニッツ知事がホワイトボードの前に移動し、セドリックたちとリィンたちは着席した。
『帝都にスパイ!?』
レーグニッツ知事からもたらされた情報にユウナたちは驚愕した。
「ス、スパイって本当なんですか!?」
「うん。実は先日、帝都の地下でそれらしい集団を捕捉したのだが逃げられてしまったんだ」
「そんなことが……」
「レーグニッツ知事、その集団というのは……」
「おおよそではありますが、十中八九共和国の特殊部隊かと思われます」
「鉄道憲兵隊や帝都憲兵隊の手を振り切るとは相当の相手ですね」
「それなんだが、妙な報告が入ってね。追っている途中で姿をくらませたそうなんだ。曲がり角を曲がった時には影も形もなかったとね」
「影も形も?」
「リィン君も知っているとおり、帝都の地下は暗黒時代から存在する。隠し通路などの当時の仕掛けが今も稼働しているというのも報告を受けている。だが件の集団はそういった仕掛けが全くない場所で消えたらしい」
「アーツとかではなく、ですか?」
「アーツの場合、何らかの跡が残ります。アーツを使った形跡などは?」
「報告書では発見されなかったそうだ」
レーグニッツ知事は眉間にシワを寄せる。
「本来ならばさらに人員を投入するべきなんだが、夏至祭が迫る現状では難しい。そこで」
レーグニッツ知事は立ち上がり、セドリックたちとリィンたちを見据える。
「殿下たちトールズ本校とリィン君たち第Ⅱ分校の合同で帝都東西の哨戒をお願いしたい」
『!』
セドリックたちとユウナたちの顔が引き締まる。
「具体的には本校が東側、分校が西側を担当してもらいたい。この帝都を守るためにどうか力を貸してほしい」
レーグニッツ知事は頭を下げる。
リィンたちⅦ組は互いに頷き合い、レーグニッツ知事の方を向く。セドリックたちも同様に向いた。
「トールズ本校、承りました」
「トールズ第Ⅱ分校、しかと承りました」
「ありがとう。殿下もリィン君たちも」
「どうやら決まったようですな」
『!?』
突如、重く厳かな声が響く。
「な………」
「オズボーン宰相……」
「閣下……」
「………………」
会議室に入って来たのは鉄血宰相の異名で知られ、革新派の旗頭として帝都民に絶大な人気を誇る人物、ギリアス・オズボーンだった。
「オズボーン宰相、どうしてこちらに?」
「こちらに少々用がありましてな。ついでと言っては大変恐縮でありますが、殿下のご尊顔を賜りたく」
オズボーン宰相はセドリックに恭しく頭を下げる。
「ありがとうございます、宰相閣下。此度の一件、本校と分校の垣根を越え、全力を尽くさせていただきます」
「さすがは殿下。その力強い御言葉、感服したしました。君たちも殿下のお力になるようにな」
「「は、はいっ!」」
エイダとフリッツは緊張した面持ちで返事をした。
「そして──」
オズボーン宰相はリィンたちを見る。
「……っ………!」
オズボーン宰相の目を見たユウナは気圧されそうになった。
「ご無沙汰してます。宰相閣下」
「久しぶりだな、黒兎。ミリアムがずいぶんと寂しがっていたぞ」
「……………」
「軍警学校出身者にヴァンダール家の若者。ラクウェルの悪童に伯爵家令嬢。なかなか粒が揃っている。そして──」
最後にキリコを見る。
「かつて内戦で獅子奮迅の武功を挙げ、結社の蛇どもや貴族派の亡霊を退けてきたという稀代の逸材。キリコ・キュービィー君とは君か」
「逸材かどうかは知りませんが、キリコ・キュービィーは俺です」
「フフフ、なかなか面白いな。君ほどの逸材ならば分校にも多少は期待して良さそうだ」
『!』
ユウナたちは拳を握りしめるが、オズボーン宰相の纏う覇気の前に口を閉ざすしかなかった。
「閣下、そろそろお時間です」
「そうか。では殿下、ご武運をお祈りいたします」
「わざわざありがとうございました、宰相閣下」
「…………………」
リィンも無言ながら礼をした。
「フフフ……」
オズボーン宰相は一瞬キリコを見て、会議室を出ていった。
「?」
「ゴホン、とにかく」
レーグニッツ知事は咳払いをし、セドリックたちとリィンの方を向く。
「両校の働きに期待させてもらう。以上だが、何か質問は?」
『………』
「ではこれで失礼させてもらうよ。クレア少佐、例の物はリィン君たちに」
「かしこまりました」
クレア少佐は敬礼をし、レーグニッツ知事を見送る。
「では僕たちも失礼します。リィンさん、Ⅶ組のみんな、互いに頑張ろう」
「もったいなき御言葉」
「では失礼いたします」
「失礼する」
セドリックたちも会議室を出た。
「シュバルツァー、新Ⅶ組。武運を祈る」
「中佐も頑張ってください」
「ああ」
ナイトハルト中佐もセドリックたちを追う。
リィンは気落ちするユウナたちを促し、会議室を出た。
「皆さん、お疲れ様でした」
「は、はい……」
ユウナは悔しさがこみ上げる。
「何も言えませんでした。言いたいことがたくさんあったのに……」
「ユウナさん………」
「凄まじい迫力だったな。確かに殿下でなくとも惹かれてしまう何かがあるな」
「全てをのみ込む焔、いい得て妙ですね」
「…………………」
(宰相の迫力に完全に呑まれているな。だがなんだ?この感じは)
キリコは何か引っかかるような感覚を覚えた。
「みんな、大丈夫か?」
リィンがユウナたちに声をかける。
「リィン教官……」
「気持ちはわからなくもない。俺も初めて会った時も君たちと同じような気持ちになったからな」
「そうなんですか……?」
「ああ」
リィンはユウナたちの顔を見渡す。
「だがそろそろ切り替えておいてくれ。もう演習は始まっているからな。それに今回の特務活動は言わば帝都からの依頼だ。気持ちを引き締めて望んでもらいたい」
「そ、そっか!」
「謎の集団が暗躍しているということでしたね」
「確かに帝都からの依頼ですね」
「一人残らず取っ捕まえりゃいいんだろ?」
「忙しくなりそうですね」
「いつものことだ」
ユウナたちは気持ちを切り替える。
「皆さん……」
クレア少佐は微笑み、封筒を取り出す。
「クレア少佐、それは……」
「今回、皆さんにやっていただく依頼です。それと件の集団が目撃された場所に近い地下の入り口がある場所が記された書類です。お受け取りください」
「確かに」
リィンは封筒を受け取る。
「では私はこれで失礼します。皆さん、演習の成功をお祈りいたします」
クレア少佐は敬礼し専用車両に乗り込んで行った。
「クレア少佐、やっぱり憧れるなあ……」
ユウナは去っていく車両を見つめる。
「とりあえず、どうしますか?」
「そうだな。まずは駅を出よう。そこで内容の確認をしよう」
「そろそろ人が増えて来ましたしね」
「ヴァンクール通りへはあちらから出られますね」
「ぼちぼち始めようぜ」
(いよいよか)
リィンたちⅦ組特務科は期待と不安を胸に、演習を開始した。
『演習とやらは始まったのだな?』
「……ええ。予定通りです」
『リーヴェルト少佐は通常業務を。監視は君の部下数名にやらせるがいいだろう。どんな些細なことでも報告させるようにな』
「……了解しました。ルスケ大佐」
次回、依頼に取りかかります。