英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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短いです。


密談

午後 18:30

 

5号車で作業するキリコはヒンメル霊園での出来事を思い返していた。

 

 

 

[キリコ side]

 

「…………………」

 

クロウ・アームブラストの墓を見舞った後、帰ろうとした時にユウナが金色のブローチを拾った。

 

ミュゼによると、間違いないなくアンゼリカ・ログナーが身に着けていた物だそうだ。

 

その時に初めて墓の違和感に気づいた。

 

周りの墓と違って土がやわらかい。まるで最近掘り起こしたかのように。

 

ただ事ではないと判断したリィン教官はトワ教官とミハイル教官を呼び出し、墓守りの立ち会いの下、墓を掘り起こすことを決めた。

 

掘り起こす途中で俺は更なる違和感を覚えた。

 

普通、墓を掘れば腐敗臭や死臭などの特有の臭いがするはずだ。

 

 そういった臭いはおそらくⅦ組の中で俺が最も嗅ぎ慣れている。

 

だがクロウ・アームブラストの墓からはそれが感じられない。

 

ある程度掘り起こし、棺桶を開けて見ると中は空っぽだった。

 

周りは絶句したり、女神に祈っているが、俺は構わず棺桶に近づく。

 

その時に気づいたが、何かがあった形跡はあっても、棺桶そのものから死臭がしなかった。

 

この事を教官たちに報告したが、さすがに信じられないようだ。

 

 とりあえず棺桶を埋め直し、俺たちは演習地に帰還した。

 

なお、この事は口外することは厳禁だと念を押された。

 

 

 

(仮に棺桶を入れ替えたとしても臭いは勿論、痕跡を完全に消し去るのは不可能。だがあの棺桶はずっと埋まっていたように見える)

 

(クロウ・アームブラストは旧Ⅶ組やトワ教官らの立ち会いの下に埋葬されたという。その時点で死体はあった。だが棺桶から死臭は全くしない)

 

(……リィン教官たちが埋めたのは死体ではなかったとでも言うのか?)

 

そうなると、おそらくアンゼリカ・ログナーは重大な何かを知った。そして連れ拐われた。

 

現にアンゼリカ・ログナーは行方知れずだという。

 

生死も不明だが、おそらく後者だろう。

 

(ミュゼなら何か知っていると思うが、今は放っておいてもいいか)

 

ミュゼの異能なら何か掴めるかもしれんが、彼女はあまりそれに頼りたくはないらしい。

 

それにアンゼリカ・ログナーのことで思う所があるらしく、ため息が多いように見える。

 

今は自分の仕事を進めるしかない。そう結論づけた俺はティータが呼びに来るまで機甲兵のメンテに没頭した。

 

 

 

19:40

 

「キュービィー候補生、今すぐ作業を中断してついて来るように」

 

夕食を終え、ミッションディスクの調整を行っていると、ミハイル教官が息を切らしてやって来た。

 

「何かありましたか?」

 

「なんでもいい。とにかくついて来るように」

 

普段のミハイル教官とは思えないほど急かしてくる。ここは大人しくついて行くか。

 

数分後、俺はミハイル教官と共に演習地を出て、近くに停められた導力車の前にやって来た。

 

「連れて来ました、大佐」

 

「……ご苦労」

 

(大佐?ミハイル教官の上司ということはTMPか?)

 

俺が怪訝な表情を浮かべていると、ミハイル教官が戻るようだ。

 

去り際に「相手は情報局大佐だ。粗相のないように」とだけ言った。

 

どうやら大佐とやらは俺に用があるらしい。

 

 (それにしても情報局か……)

 

「入ってきたまえ」

 

「……失礼します………!?」

 

俺は導力車に乗り込む。そこにいた軍人に俺は愕然とした。

 

「はじめまして………いや、久しぶりだな。キリコ」

 

 

 

「……ロッ……チ……ナ………?」

 

 

 

俺の目の前にいる軍人。

 

神の眼を名乗り、ギルガメス、バララント、マーティアル教団を渡り歩き、俺を追い続けた男。

 

ジャン・ポール・ロッチナだった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「久しぶりだな、キリコ・キュービィー」

 

「なぜ……ここにいる……?」

 

「お前に会いたくてな。こうしてアーヴィング少佐に骨を折ってもらったのだ」

 

「………………」

 

キリコが警戒をさらに強めるも、ロッチナは肩を竦めただけだった。

 

「私はお前と争うつもりはない。少なくともモンテ=ウェルズのような救いようもない愚か者とは違うと自負しているつもりだ。今回来てもらったのは情報交換だと思ってもらっていい」

 

「情報交換?」

 

「ああ。ずいぶんと活躍していると聞く。私からのプレゼントも気に入ってくれたようだな」

 

「プレゼント?ではフルメタルドッグはお前が?」

 

「そうだ。詳しくは省かせてもらうが、とある研究所と私の共同研究により作成された図面を意図的にシュミット博士に流した。その後完成した機体は直接お前に届けるつもりだったが、色々と想定外の事態が重なってな。あのような形での引き渡しになったのだ」

 

「見た目が気に食わない」

 

「どうせなら愛着がある方が良いと思ったのでな」

 

「…………………」

 

 

 

「まず聞きたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「お前がここにいることだ」

 

「………正直、わからない」

 

「何?」

 

「ヌルゲラントでお前と神の子が旅立った後も私はお前たちを追い続けた。だが熱意とは裏腹に、先に尽きたのは私の寿命だった。最期を迎えたのは確かメルキアだった。だがどういう訳かこの世界に生まれ変わった」

 

「………………」

 

「38年前、私はルスケという一帝都市民として生を受け、父母の元で育った。17歳で今のトールズ本校に入学し、卒業後は正規軍に入隊。このまま一軍人として歩んで行くものだと思っていた。だが………」

 

突然ロッチナは口をつぐむ。

 

「およそ18年前、訓練中に突如として頭痛が襲った。気が狂うような激痛に悶え、苦しんだ末に私は全て思い出した。ギルガメス連合メルキア軍大尉にして、バララント宇宙軍大佐にして、汎銀河宗教結社マーティアルにて触れ得ざる者の編纂を執っていた、ジャン・ポール・ロッチナであるとな」

 

「18年前だと!?」

 

「そう、お前が転生してきた辺りだ。異能者であるお前の出現が原因だと私は考えているが」

 

「………………………」

 

キリコは茫然自失になった。

 

「それから私は権謀術数を駆使して同僚や上官を蹴落とし、出世を重ねた。それと平行してお前を探し続けた。わざわざD∴G教団のロッジにまで手を伸ばしたくらいだ」

 

「D∴G教団………クロスベルの教団事件のか?」

 

「当時、D∴G教団の信徒どもは大陸各地で子どもを誘拐して様々な人体実験を行っていた。その暴挙を止めるべく、リベールの高名な遊撃士が教団の殲滅作戦を提案。他の連中はともかく、私はキリコがいるのではと作戦に加わった」

 

「………………」

 

「私が担当したロッジでは筋力や神経系を秘薬で無理やり強化する実験をしていた。だがロッジに居るわけがなかった。当のお前は帝都近郊の孤児院にいたのだからな。灯台下暗しというやつだな」

 

「秘薬?」

 

「グノーシスというらしい」

 

「何?」

 

「知っているのか?」

 

「いや……(どうやら魔弓の言っていたもののようだな。おそらく魔弓は俺をD∴G教団の関係者か何かと思ったようだな))

 

「……その後私は情報局に転属し数々の手柄を立て、大佐の地位に付いた。苦労したぞ?今まで何人の友が犠牲になったことか」

 

「心にもない言葉を信用しろと?」

 

「フフフ、そうだな」

 

ロッチナは面白そうに嗤う。

 

 

 

「内戦が起きた時、お前が貴族連合軍をから畏れられていると知った時も私は心が躍った。ようやくお前が歴史の表舞台に出てきたとな。だからこそ、内戦終結時に私はお前に関するあらゆる記録を破棄した。狭く小さな戦場ではなく、広く大きな戦場に行かせるためにな」

 

「俺を第Ⅱ分校に入れるためにか?」

 

「第Ⅱ分校については正直、賭けだった。だからあの黄金の羅刹がお前を推薦した時は驚いたよ。それにしても笑わせてもらった。お前が学生になると知った時はな」

 

「……………」

 

キリコの怒りの感情を察したロッチナは話は続ける。

 

「お前の活躍は第Ⅱ分校からの報告書である程度把握している。特にラマール州ではわざわざ手と金を回した甲斐があったというものだ」

 

「なんだと?」

 

「あの阿呆だよ」

 

「…………チャールズ・ジギストムンドか?」

 

「ああ、偽名で支援者を名乗ってな。貴族と聞いただけで信用するとは、阿呆の考えることはわからんよ」

 

「俺を殺させるためにか?」

 

「お前の実力を測るためにだ。後先考えない破綻したあの阿呆はうってつけだからな」

 

「……………」

 

「結果は上々。やはり異能者としての力は健在だったな。まあ、お前の本当の力はこんなものではないだろうがな」

 

「お前は何を企んでいる」

 

「私はただ、見たいのだよ。神でさえ御せなかった異能者が動乱の足音が響くこの世界で何を成すのかを」

 

「……………」

 

「そのためなら共和国のスパイをわざと見逃すことくらいわけない」

 

「……連中を引き入れたのか」

 

「ああ、そうだが?」

 

「…………………」

 

「軽蔑するかね?」

 

「別にどうでもいい。だが、何も知らないあいつらを巻き込んだことは別だ」

 

「フフ、自身の命すら武器か道具にしか思わん男がそこまで言うか。まあ、それなりに責任は取るつもりだ」

 

ロッチナは満足げに腕を組んだ。

 

 

 

「聞きたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「お前が情報局に属しているのはわかった。その情報局は何を企んでいる」

 

「企む?」

 

「情報局員はそのほとんどが鉄血宰相の飼い犬というらしいが」

 

「フッ、アランドール少佐やリーヴェルト少佐はともかく、少なくとも私はオズボーン宰相には恩義は感じていない」

 

「そうか」

 

「その様子だと信用していないな?」

 

「少なくともな」

 

「オズボーン宰相もか?」

 

「……言葉とは裏腹に何か隠している……そんなやつを全面的に信用できると思うか?」

 

「………………」

 

キリコの言葉にロッチナはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「何がおかしい」

 

「いや、さすがの洞察力と言っておく」

 

「ただの勘だがな」

 

「それとお前の疑問だが、情報局とて金魚の糞というわけではない。このところ、鉄血宰相は独自に動いていてな、掴みきれていないのだよ」

 

「………………」

 

 

 

ロッチナは懐中時計をチラリと見た。

 

「……そろそろ戻った方が良いんじゃないか?明日も特務活動で忙しいんだろう?」

 

「………最後に俺の質問に答えろ」

 

「なんだ?」

 

「やつは………ワイズマンはこの世界にいるのか?」

 

キリコの問いかけにもロッチナは眉一つ動かさない。

 

「………実を言うと、お前を呼び出したのはその事を聞こうとしたんだが、お前も知らないか」

 

「お前の役目はやつの眼だったはずだ」

 

「この世界に来てから探しているのだが、その形跡がまるでない。おそらくワイズマンは転生、というより存在していないのだろう」

 

「………アストラギウス出身で他の連中は?」

 

「そちらもわからん。もしかすると、私のように自身が何者であるか気づいていないのかもしれん。後は気づいていても知らんふりをしているのかもな」

 

「…………………」

 

キリコは完全には納得しなかったが、黙って腰を上げた。

 

「行くのか?」

 

「ああ」

 

「また会える日を楽しみにしている」

 

(冗談じゃない)

 

キリコは導力車を降り、演習地へと戻って行った。

 

「…………………」

 

ロッチナは車内からキリコの背中を見つめる。

 

(やはり変わらんな。私と話している時も隙を見せなかった。我ながら、なかなかの信用の無さだ)

 

(生まれながらのPS、異能者、触れ得ざる者。この閉じられた世界でいったい何をなしてくれるのでしょうな。我が主、ワイズマン………)

 

 

 

演習地へ帰還したキリコはミハイルにかいつまんで説明をした。

 

その後シャワーを浴びたキリコは部屋のベッドに横になった。

 

(ロッチナが転生していた。だがそんなことはどうでもいい。もし、この世界にあいつが、フィアナがいるとしたら……)

 

キリコはそう思いかけて、首を横に振った。

 

(……あいつは、フィアナは惑星ジアゴノのアレギウムで、俺の腕の中で寿命が尽きた。あの時の光景も最期の言葉も忘れたことはない。だがあいつは死に、もう会うことができない。そう割り切ったはずだが………未練………なのか………)

 

キリコはそっと眼を閉じた。




次回、新旧Ⅶ組全員が集結します。
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