英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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夏至祭

7月17日

 

暗黒竜との戦いから一夜。

 

キリコを含めた第Ⅱ分校生徒たちは帝都競馬場で執り行われる表彰式に出席していた。

 

また、その両隣にはトールズ本校と旧Ⅶ組も揃っていた。

 

 

 

[キリコ side]

 

皇帝ユーゲントⅢ世の言葉に拍手しながら俺は昨日の戦いを思い返していた。

 

(新旧Ⅶ組による三段階の討伐作戦。あそこまでは良かった。だが暗黒竜の最後の抵抗には骨が折れた。だからこそ、フルメタルドッグのリミッターを外したわけだが、やはり耐圧服無しでは堪えたな)

 

(あの時は全員が暗黒竜に目がいっていたからリミッターを外したことは気づかれなかった。機甲兵教練は勿論、神機との戦いでも外すことはなかったが、さすがは伝説の化け物ということにしておくか)

 

 

 

(回復術とやらを受けても、まだ体が重く感じるな)

 

俺は拳を開いたり閉じたりを繰り返す。

 

新旧Ⅶ組総掛かりでの戦いの爪痕は確実に残っている。

 

だが第Ⅱ分校生徒は式に出席するべく、重い体を引きずりながら準備を進めなくてはならなかった。

 

そして、最も過酷だった俺たちⅦ組特務科はベッドから起き上がれないほど疲弊していて、特にアルティナは半死人の様だったらしい。

 

強靭な生命力を有する異能者である俺でさえ、完全に回復していなかった。

 

リィン教官がミルスティンとセリーヌを呼んでいなければ俺はともかく、ユウナたちは立つことさえままならなかったかもしれない。

 

 

 

演説を終えたユーゲントⅢ世が壇上を降り、本校と第Ⅱ分校両校に帝国特別功労賞が授与されることになった。

 

向こうは間違いなくセドリックだろう。こちらはおそらく……

 

「キュービィー候補生、君の出番だぞ」

 

「……は?」

 

突然、後ろからミハイル教官から肩を叩かれる。

 

「何も聞いていませんが?」

 

「すまん。本来ならばシュバルツァーを代表とするつもりだったのだが、分校長のご指摘でな。英雄《灰色の騎士》ではなく、一学生の方がふさわしいとな。話し合いの末、君を分校代表にするということになったのだ」

 

ご指摘という名の横暴か。オーレリアの真意はわからんでもないが、事前に一言くらいあっても良いだろう。

 

「………俺である必要が?」

 

「実を言うとだ、君ならと第Ⅱ分校内でも特に反対意見は出なかったのだ」

 

「…………………」

 

前を見ると、Ⅷ組戦術科とⅨ組主計科全員が頷いていた。さすがにⅦ組特務科は知らなかったようだが。

 

「伝えていなかったことについては謝罪するし、文句ならば後でいくらでも聞こう。だがここは折れてもらいたい。さあ、時間だ。行け」

 

「………………了解」

 

ミハイル教官の滅多にない申し訳なさげな態度に、仕方なく引き受けることにした。

 

 

 

(やっぱりキリコが第Ⅱ分校の代表か)

 

列の前に出て待っていると、セドリックが小声で囁いてくる。

 

(甚だ不本意だがな)

 

(あはは……)

 

こうしている間にも授与式の準備が進んでいく。

 

(面倒なものだな)

 

(一応言っておくけど、くれぐれも父上や周りの人たちの前では出さない方がいいよ)

 

(そこまで馬鹿ではないつもりだ)

 

(そうだったね。おっと、始まるようだよ)

 

ユーゲントⅢ世が壇上に上がった。その瞬間、周りに控えていた政府、軍関係者。そして本校第Ⅱ分校生徒たちの顔が引き締まる。

 

最初にセドリックが上がり、勲章を受け取る。さすがに動作に無駄がないな。

 

『続いて第Ⅱ分校代表者、壇上に』

 

俺は前を見つめながら壇上に上がる。

 

「新たなるⅦ組の一人であるそなたにこの勲章を渡すこと、余は嬉しく思う」

 

「……勿体なき御言葉」

 

俺は当たり障りのない言葉を選び答えた。

 

「トールズ士官学院本校と第Ⅱ分校。そしてトールズ旧Ⅶ組。此度のそなたらの働き、大儀である。これからも精進することを期待する」

 

『イエス・ユア・マジェスティ!』

 

ユーゲントⅢ世の言葉に俺とセドリック、そしてその場にいた全ての人間が返事をした。

 

[キリコ side out]

 

 

 

授与式を終え、ユーゲントⅢ世らが帰って行き、本校と第Ⅱ分校はそれぞれ解散したがキリコたちⅦ組特務科はある人物と話をしていた。

 

「お久しぶりですね、シュバルツァー君」

 

「はい、お久しぶりです、ベアトリクス教官。いえ、今は学院長でしたか」

 

「この人が本校の学院長……」

 

「なんだか優しそうなおばあさんね」

 

「ユウナさん。この人は元軍医大佐として名を馳せた方ですよ」

 

「死人返し(リヴァイバー)の異名を持っていらっしゃる凄腕だそうですよ?」

 

「やっぱタダモンじゃねぇな、このバーさん」

 

(死人返し。確か暴れる負傷兵を力ずくで押さえ込んで敵味方問わず治療を施したというらしいが)

 

「古い話ですよ」

 

ベアトリクスは改めてユウナたちの顔を見る。

 

「なるほど、かつてのシュバルツァー君たちに良く似ています」

 

「かつての?」

 

「ええ。どんな困難にも屈することなく、前を向いて行こうとする。そんな眼をしています」

 

「ベアトリクスさん……」

 

「あなたたちも、この帝国で自分たちにしかできない事を成そうとしているのでしょう?」

 

「はい!」

 

「それがⅦ組ですので」

 

「その想いがあればきっと道は拓けるでしょう。頑張ってくださいね」

 

『はい!』

 

ベアトリクスはユウナたちの返事に満足し、本校生徒らの所に戻って行った。

 

「ハッハッハ。さすがはシュバルツァー君の教え子たちじゃのう」

 

ベアトリクスと入れ替わりに2アージュはありそうな軍人がやって来た。

 

「あ、貴方は……!」

 

「ヴァンダイク名誉元帥閣下!?」

 

ヴァンダイク元帥の登場にクルトは驚きを隠せなかった。

 

「お久しぶりです。元帥閣下」

 

「うむ。シュバルツァー君は久しぶりじゃな。そして初めまして、新しいⅦ組の諸君」

 

「は、初めまして!」

 

「お噂はかねがね……」

 

「楽にしてくれて構わんよ。君たちに会うのを楽しみにしとったしな」

 

「あたしたちに、ですか?」

 

「君たちの活躍はそれなりに聞いておる。それに元々儂はオリヴァルト殿下の申し入れで旧Ⅶ組設立に一枚噛ませてもらっていたのでな」

 

「そうだったんですか」

 

「まあ、儂がしたことはシュバルツァー君たちに旧校舎の探索を依頼したことくらいじゃがの」

 

「ヴァリマールが封印されていたという」

 

「さすがに灰の騎神が出てきた時はたまげたがのう」

 

「コホン。元帥閣下、そろそろお時間です」

 

ヴァンダイク元帥の後ろにはクレイグ将軍が立っていた。

 

「おお、そうじゃった。君たちとはもう少し話していたいが、用事があってのう」

 

「いえ、わざわざありがとうございました」

 

「それでなんじゃが、シュバルツァー君。すまんが少々時間をくれぬか?」

 

「……わかりました」

 

ヴァンダイク元帥の真剣な眼差しにリィンは了承した。

 

「……本日は自由日とする。夏至祭を楽しむのも良し。体を休めるのも良し。好きに過ごしてくれ。ただ、今夜バルフレイム宮で式典が行われることは忘れないでくれ」

 

「わ、わかりました」

 

「では、解散」

 

リィンはヴァンダイク元帥らと共に競馬場の内部に入って行った。

 

 

 

競馬場を出たユウナたちはリィンの動向を気にしつつも、夏至祭を楽しむことを決めた。

 

「それじゃ、あたしたちもここで解散ね」

 

「わかった。僕も実家に顔を出すつもりさ」

 

「わたしはミリアムさんとスイーツ巡りをします」

 

「俺はテキトーにその辺ぶらついているわ」

 

ユウナたちは思い思いに行動し始めた。

 

「………………」

 

「あの……キリコさん……」

 

帰ろうとしたキリコをミュゼが呼び止める。

 

「なんだ」

 

「今日は、何か予定はあったり……しますか?」

 

「いや、特に何もない。なぜそんなことを聞く?」

 

「その……この間言いそびれたことが……ありまして……」

 

「?」

 

(大丈夫。昨日のことに比べれば……)

 

「どうした?」

 

「あ、あのっ!」

 

「?」

 

ミュゼは息を吸い込む。

 

 

 

「わ、私と今日一日、夏至祭を回りませんか!」

 

 

 

「夏至祭を?」

 

「はいっ!お願いします!」

 

ミュゼは大きく頭を下げる。

 

「……他のを誘えば良いだろう」

 

「キリコさんと一緒に回りたいんですっ!」

 

「………………」

 

キリコは目を瞑り、腕を組む。

 

「あ、あの……」

 

「……………わかった」

 

「え……今……」

 

「わかったと言っている」

 

「本当ですか!?」

 

「何度も言わせるな」

 

「ご、ごめんなさい!つ、つい興奮してしまって」

 

「………………」

 

(や、やりました……遂に、遂に誘うことができました)

 

ミュゼは両手を胸の前で祈るように組んだ。

 

「何をしている」

 

「いえ、何でもありません。それではキリコさん、まずはヴァンクール大通りに行きましょう」

 

「わかった」

 

ミュゼはキリコの左腕に寄りかかる。

 

「………離れろ」

 

「今日はこうしていたいんです……」

 

「………………」

 

キリコとミュゼは並んで競馬場を後にした。

 

 

 

[ミュゼ side]

 

キリコさんとデート。

 

キリコさんに恋していると自覚してから、何度も想像しました。

 

本当なら私服で回りたかったのですが、もうどうでも良くなりました。

 

隣にキリコさんがいる。それだけで満たされていくんです。

 

思えば、こういう風に殿方とこうして歩くのは生まれて初めてかもしれません。

 

私は小さい頃に両親を喪い、叔父の手によって女学院に入れられました。

 

女学院での公序良俗の教えは厳しく、先生によっては殿方と手を握ることなどとんでもないと教えていました。

 

もっとも、私は姫様やエリゼ先輩に出会ったので殿方を毛嫌いするようなことはありませんでした。

 

まあ、キリコさんは軽薄や軟派という言葉とは無縁そのもので、どちらかと言えばストイックで真面目で誠実な方ですしね。

 

とにかく、今日はミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンではなくミュゼ・イーグレットとして、一人の女の子としておもいっきり楽しもうと思います。

 

 

 

ヴァンクール大通りにやって来た私たちはさっそく人だかりを発見。

 

「あら?みっしぃのショーのようですね」

 

「みっしぃ?」

 

「クロスベルにあるテーマパークのマスコットキャラクターですよ。とても人気があるとか」

 

「あれ?キリコさんにミュゼさんでしたか」

 

ショーの見物客の中にランディ教官とティオ主任がおられました。

 

「おっ!なんだなんだ、デートか?」

 

「そうなんです♥️」

 

「ランディさん、野暮ですよ」

 

「………………」

 

「でもちょうど良い時間に来ましたね。今、みっしぃと記念写真を撮ることができますよ」

 

「よーし、お兄さんが撮ってやるよ」

 

私たちはみっしぃを真ん中にして2枚撮りました。キリコさんは真顔のままでしたが。

 

 

 

大通りを抜けてドライケルス広場にやって来ました。

 

「さすがに人が多いですね」

 

「パレードはとうに終わっているがな」

 

「あら?あなた方は」

 

振り返るとエイダさんが歩いて来ました。

 

「こんにちは、エイダさん」

 

「はい。キリコさんとミュゼさんでしたね。その節はありがとうございました」

 

「別にいい」

 

「お二人はその……デート、というものでしょうか?」

 

「ふふ、わかりますか?」

 

さりげなくキリコさんの左腕に抱きつきます。

 

「ふえっ!?」

 

「動きづらい、離れろ」

 

「良いじゃないですか、もう少しだけ♥️」

 

「わ、わ、私はこ、これで失礼します!ど、どうぞごゆっくり~~!」

 

赤くなったエイダさんは走り去って行きました。

 

「……………」

 

「ふふ、エイダさんには刺激が強すぎたでしょうか?」

 

「少しどこかに座るか」

 

「そうですね………?あれは何でしょう?」

 

トラム乗り場がなんだか賑わっています。

 

「トラムツアーとあるな」

 

「良いですね。乗りませんか?」

 

「ああ」

 

キリコさんと二人でトラムツアーに参加することに決め、二人でトラム内のシートに座りながらヘイムダル各地区を回りました。

 

途中で居眠りしてしまい、キリコさんに寝顔を見られてしまったのは不覚でした。

 

 

 

ヴェスタ通りに来ると何やら香ばしい匂いが漂ってきました。

 

「キリコさん、どうやらここのベーカリーで創作パンのコンテストをやっているみたいですよ」

 

「やってみたいなら入ってみるか?」

 

「はい!行ってみましょう」

 

中はなかなか賑わっていました。

 

奥のテーブルで手が空いたオスカーさんの指導を受けながら小麦粉を練っていきます。そこから材料を加えてオリジナルのパンを作ります。

 

「完成です。名づけてシベリアンサンドです!」

 

「こっちもできた。バターソルトブレッドだ」

 

私は柔らかいパンにカスタードクリームをはさんだ甘いパンを作りました。

 

一方のキリコさんは生地に溶かした有塩バターを練り込んだシンプルなパンです。

 

さっそく食べ比べてみましょう。

 

「キリコさん、どうぞ」

 

「ああ」

 

キリコさんが私のシベリアンサンドを食べました。

 

「……悪くない」

 

「うふふ、良かったです」

 

その後キリコさんのバターソルトブレッドを半分もらいました。

 

「これ、美味しいです」

 

一口かじるとサクサクの外側とバターの風味豊かな中身が渾然一体となって口の中でハーモニーを奏でるのです。

 

「言われるままに作っただけだ」

 

「いや、お前さんなかなか筋が良いな。どうだ?一緒にパン職人にならないか?」

 

「遠慮しておく」

 

オスカーさんのお誘いをキリコさんは断りました。仮に実現したとしたら頑固な職人さんになりそうです。

 

 

 

お腹を満たして、続いてサンクト地区にやって来ました。

 

「ずいぶんと賑わっているな」

 

「そういえばこの時期はチャリティーバザーが開催されているんでした」

 

「チャリティーバザー?」

 

「女学院の行事で、使わなくなった物なんかを出品するんです。その売り上げは福祉などへの寄付に用いられるんですが、キリコさんは何か出品できるような品物はありますか?」

 

「………ないこともない」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。演習地に置いてあったはずだ」

 

「でしたら、こちらへどうぞ」

 

振り向くと姫様がおられました。

 

「アルフィン皇女か……」

 

「お久しぶりですね、キリコさん。すみません、デート中に。後、呼び捨てでも構いませんよ」

 

「それは周りが良く思わないだろう。余計なトラブルは慎みたい」

 

「あら?そうですか?うーん、キリコさんなら問題はないと思いますが」

 

「もう、姫様」

 

姫様の後ろからエリゼ先輩がやって来ました。

 

「すみません、キリコさん」

 

「それはいい。それよりバザーに出す物を取って来たい。ミュゼ、悪いが」

 

「わかりました。ここで待っています」

 

キリコさんはそう言って南門方面へ歩いて行きました。

 

「行っちゃいましたね」

 

「キリコさんならば問題ありません。キリコさんは糞真面目な方ですから」

 

「それもそうね」

 

「……そこで納得してしまうんですね」

 

「それはそうと、貴女やるじゃない。キリコさんとデートなんて」

 

「はい♥️とっても幸せです♥️」

 

「よくもまあ、公然とのろけられるわね……」

 

「まあまあ。でもキリコさんにならば安心して任せられますね」

 

「そうね。半端な方は絶対にお断りだけど、キリコさんって成績優秀と聞くし、とってもお強いんだもの」

 

「姫様、先輩……」

 

なんだか気恥ずかしいです。

 

30分ほどしてキリコさんが何かを持って戻って来ました。

 

「キリコさん、ご苦労様です。あら?それは……」

 

「ミル、ですか?」

 

「ああ」

 

キリコさんが持ってきたのはコーヒー豆を粉砕するミルでした。

 

「先日ナインヴァリで偶然手に入った。だが既に持っているからな。正直持て余していた」

 

「わかりました。ありがとうございます。ミュゼはその万年筆よね」

 

「はい。よろしくお願いいたします」

 

「それと、出品していただいた方にお菓子とお飲み物を提供させていただいているんです。もしよければどうぞ」

 

「キリコさん、休憩がてら行きませんか?」

 

「わかった」

 

近くのテーブルでお茶とお菓子をいただきながら様子を見ていると、どこかの貴族の方が万年筆を、初老の方がミルを買って行きました。

 

姫様とエリゼ先輩も喜んでくださいました。

 

ただ、帰り際に姫様とエリゼ先輩がキリコさんに「この子をよろしくお願いいたします」と頭を下げられた時にはさすがに慌てました。

 

 

 

ぐるりと回って帝都競馬場まで戻って来ました。

 

「どうやら競馬場ではミニレースが行われていますね」

 

「興味があるのか?」

 

「ちょっと見てみませんか?」

 

「わかった」

 

「ではさっそく…………!あれは……」

 

入り口前で支配人さんと誰かが揉めていました。

 

「あれは……大叔父様?」

 

「……バラッド侯か」

 

キリコさんの言うとおり、支配人さん相手に大叔父様が食ってかかっていました。

 

未だ権力の座に返り咲こうという姿勢はある意味脱帽です。

 

「……揉め事に巻き込まれるのは遠慮したいですね。ですが、あの様子では競馬場内には入れないようですね」

 

「……見つからないように行くか」

 

大叔父様に見られないよう慎重に競馬場に入りました。どうやら向こうも気づいていないようです。

 

競馬場内で行われているミニレースはアマチュア騎手などを対象としたタイムアタックで、ゆったりとした雰囲気でした。

 

「君たちは……」

 

「そちらも来られたか」

 

観客席にはパトリックさんとユーシスさんがおられました。

 

「先月ぶりです、カイエン公」

 

「パトリックさん。ここではミュゼで構いません」

 

「キリコもお疲れ。暗黒竜のことは聞いた。本当にご苦労だったね」

 

「代償は大きかったがな」

 

「あのフルメタルドッグは使い物にならないのか?」

 

「噛み砕かれただけならいいが、体液や血がこびりついてな。スクラップにするしかなかったそうだ」

 

「それらは人体にはかなりの悪影響を及ぼす代物です。そう踏みきるのは正しいかと」

 

「つくづく恐ろしいな、暗黒竜とは」

 

「退治できただけマシだろう」

 

「ああ」

 

「それより、二人はどうしたんだい?もしかして、ミニレースに出るとか?」

 

「キリコさん、出てみませんか?」

 

「レースにか?」

 

「はい。私はその……出られそうにないので」

 

「さすがにカイエン公を出すのは憚られるのでな。その代わり俺が出る」

 

「ユーシス、君がかい?」

 

「たまには馬に乗らなくては落ち着かん」

 

「はは、元馬術部の血が騒いだかい?」

 

「そういえばリィン教官が仰ってました」

 

「リィンめ、余計なことを。キリコ、構わんな?」

 

「ああ」

 

キリコさんとユーシスさんは受付に登録に行きました。

 

「……ユーシスはもとより、彼には良かったのですか?」

 

「………キリコさんにはそれとなく声をかけたことはあります。全て断られてしまいましたが」

 

「……リィンや、彼らには……」

 

「……いずれ伝わるでしょう。私が何をしようとしているのか」

 

「カイエン公……」

 

「……とにかく、今はレースを見ましょう。キリコさんは勝てますでしょうか……」

 

「うーん、さすがにユーシス相手では分が悪いような……」

 

結論から言えばキリコさんはユーシスさんの記録には及ばず敗れました。

 

それでもキリコさんの勇姿はしっかりと目に焼き付けました。

 

 

 

最後に私たちはライカ地区にある音楽喫茶店にやって来ました。私は紅茶、キリコさんはコーヒーを注文しました。

 

「もうそろそろ夕方ですね」

 

「そうだな」

 

「今日は、楽しかったですか?」

 

「ああ。良い息抜きになった」

 

「良かった……!」

 

「お前はどうなんだ?」

 

「とっても楽しかったです。ですから……」

 

「?」

 

「……終わらなければいいなって思います」

 

「……………」

 

「キリコさん」

 

「なんだ?」

 

「また……こんな風に一緒にいてくれますか?」

 

「……気が向けばな」

 

「はい。楽しみにしています」

 

……………本当に、終わらないでほしいです。

 

[ミュゼ side out]

 

 

 

キリコとミュゼが音楽喫茶店で寛いでいると、キリコのARCUSⅡに通信が入る。

 

「リィン教官からだな」

 

「今夜はバルフレイム宮で式典が開かれるそうです。その連絡でしょう」

 

「なるほどな。もしもし」

 

『キリコか。今どこにいるんだ?』

 

「ライカ地区の音楽喫茶店です」

 

『キリコの他に誰かいるのか?』

 

「ミュゼといます」

 

『わかった。それじゃ、17:00までにドライケルス広場に集合してくれ。その後にバルフレイム宮に向かう。遅れるなよ』

 

「了解」

 

そう言ってキリコは通信を切る。

 

「集合ですか?」

 

「ああ。17:00までにドライケルス広場に、だそうだ」

 

「後30分ほどですね。ではお会計を済ませましょう」

 

「ああ」

 

キリコたちが会計を済ませて外に出ると、意外な人物がいた。

 

「おや、キリコ。こんな所で何をしている?」

 

「お前は……」

 

「キリコさん?お知り合いですか?」

 

「はじめまして。帝国軍に勤務するルスケと言う。彼とは古いなじみなのだよ」

 

「そうなんですね(この方……視えません。まるでキリコさんみたいに)」

 

「なぜここに?」

 

「ここのマスターは旨い紅茶を淹れてくれるのでな。見たところ、どうやらお困りのようだな」

 

「別に困ってはいない」

 

「すみません。私たち、これからドライケルス広場に行かなくてはなりませんので」

 

(余計なことを)

 

「なるほど。君たち第Ⅱ分校はバルフレイム宮に集まるそうだな。ちょうどいい。導力車で送って行こう」

 

「よろしいんですか?」

 

「困っている婦女を助けるのも帝国軍人の務めだよ」

 

「ありがとうございます」

 

(どの口が言っている)

 

キリコはルスケの言葉に不信感を覚えながら、ミュゼと共に導力車に乗り込んだ。

 

 

 

「イーグレット伯爵……確か先代カイエン公爵の相談役と言われるあの?」

 

ルスケはミュゼから自己紹介を受け、記憶を辿る。

 

「ご存知なんですか?」

 

「私はラマール州の小貴族出身でね。お会いしたことはないが、名前だけならば知っている」

 

「そうだったんですね」

 

「………………………」

 

キリコはルスケの口から出る言葉に舌を巻いた。

 

「キリコさん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、何でもない」

 

「?」

 

「フッ。さあ、そろそろ到着するぞ」

 

ルスケは導力車を道の脇に停める。

 

「ありがとうございました」

 

「…………………」

 

「キリコ」

 

「?」

 

ルスケはキリコにだけ聞こえるように話す。

 

(鉄血宰相に会え)

 

(何?)

 

(会えばわかる。お前にとって必要な事だからな)

 

(だからどういう……)

 

「確かに伝えたぞ」

 

「おい」

 

ルスケはそれだけ言って去って行った。

 

「キリコさん、どうされました?」

 

「ああ……」

 

キリコはミュゼと共に歩き出す。

 

(鉄血宰相に会え。ルスケ、もといロッチナはそう言った。いったいやつに何があるというんだ?)

 

キリコはロッチナの言葉を胸に、リィンたちの集まる場所へと向かった。

 




次回、バルフレイム宮にて………
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