英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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今回で帝都篇最終話です。




18:30

 

「乾杯!」

 

バルフレイム宮にて祝賀会が始まり、皇帝ユーゲントⅢ世の乾杯の声が響いた。

 

拍手が鳴り止むと、旧Ⅶ組、本校生徒、第Ⅱ分校生徒たちは翡翠庭園にて招待客らと歓談をしていた。

 

キリコはクルト、セドリック、フリッツと話していた。

 

「キリコ、楽しんでいるかい?」

 

「ええ」

 

「ここなら敬語じゃなくても咎められないと思うよ」

 

「……そうか」

 

「クルト。彼はいつもこうなのか?」

 

「まあね。ただ、人によってあからさまに態度を変えたりはしないから、意外と好感は持たれるのかな?」

 

「僕としてもその方が全然良いな。信頼が持てるよ」

 

「……………」

 

「殿下……」

 

「それよりクルトとも付き合いも長いし、年も変わらないし敬語じゃなくても良いよ」

 

「殿下!?そ、そういうわけには……!」

 

「ミュラーさんだって兄上とは対等だと思うけど?あ、ミュラーさんの方がむしろ上かな?」

 

「あ、兄上と僕とでは立場が違いますから!」

 

「………………」

 

「フフ……おっとすまない。また挨拶回りだ。それじゃあね」

 

セドリックは他の招待客の元へと向かった。

 

「忙しないな」

 

「やはりお忙しいようだな」

 

「キリコ、クルト」

 

「「?」」

 

フリッツがキリコとクルトに話しかける。

 

「殿下ほどではないが、俺もⅦ組と戦いたいと思っている。あのフルメタルドッグが戻って来たら殿下だけでなく、俺の挑戦も受けてほしい」

 

「……………」

 

「フリッツ……」

 

「まあ……言いたいことはそれだけだ。ではな」

 

フリッツも離れて行った。

 

「フリッツ、本気だったな」

 

「ああ」

 

「そういえばフルメタルドッグっていつ戻って来るんだ?」

 

「そこら辺は博士が段取りをしている。俺はデータ収集に専念していれば良いと言われている」

 

「……本当に無茶苦茶だな」

 

「全くだな」

 

「あ、僕もアルゼイド子爵閣下に挨拶してくるよ。キリコはここにいるのかい?」

 

「ああ」

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

クルトはそう言って離れて行った。キリコはグラスの水を飲み、息を吐いた。

 

 

 

18:45

 

「おや?一人かな?」

 

「?」

 

振り返ると、そこにはルーファス総督が立っていた。

 

「クロスベルのルーファス総督ですか」

 

「ああ、久しぶりだね。せっかくだから声をかけさせてもらったよ。君とは一度話してみたかったからね」

 

「俺と?」

 

「一応、1年半前の内戦では貴族連合軍総司令などと言う肩書きを背負っていたのでね。君の名前は何度か報告で耳にしたことがあるんだ」

 

「……………」

 

「当時、私は君についての報告を一笑に伏したことがある。あまりに馬鹿馬鹿しいとね。だがオーレリア将軍やウォレス少将が敗退したと聞いた時はなんというか、頭が真っ白になったよ。全体の士気に関わるから前カイエン公には黙っておいた。まあ、それが正しかったかどうかは別として」

 

「……カイエン公爵に黙って軍を動かすなり何なりと方法はあったはずですが?」

 

「それも策として考えた。だが時期が時期でね。結局、帝都侵攻作戦を出すしかなかった」

 

「……………」

 

「キリコ君。君に起きた不幸のことはだいたい把握している。それを踏まえて聞きたいんだが、君は貴族に対して疑問を持ったことはあるかい?」

 

「疑問?」

 

「ああ。ただそう生まれただけで平民を差別し、自らを優良と言って憚らず、平気で愚行を犯す。そんな連中をどう思う?」

 

「人間のクズみたいな連中もいるでしょうが、リィン教官やあなたの弟のように信頼できる貴族もいる。それくらいです」

 

「そうか」

 

ルーファス総督は微笑んだ。

 

「弟も幸せ者だな。では失礼するよ」

 

ルーファス総督は優雅に去って行った。

 

(やつは何が言いたかった?それに前カイエン公を強調して言った。ミュゼのことも知っているようだな)

 

「フ、珍しい組み合わせだな」

 

「ええ、まったく」

 

「む……」

 

キリコの元にオーレリアとウォレス少将が歩いて来た。

 

「元総司令殿がお前と話していたのでな。ある意味敵同士であったからな」

 

「……内戦のことについてです」

 

「そうか。まあ、恨みつらみを掘り返すような小物でもないか」

 

「鉄血の子供たちの筆頭格"翡翠の城将"。あまり気を許すなよ。まあ、そなたなら言うまでもないか」

 

「………………」

 

「それはそうと、少しばかり飲み食いしてもバチは当たらんぞ?」

 

「あまり腹は空いていないので」

 

「噂によれば、そなたカイエン公とデートしたそうではないか?ん?」

 

「………………」

 

「まあ、良い。私も陛下のご尊顔を拝謁せねばな」

 

「それではな」

 

オーレリアらは中央付近へと移動した。

 

 

 

19:10

 

(さすがに今は会えないな)

 

キリコはオーレリアらと歓談するユーゲントⅢ世やオズボーン宰相を眺めた。

 

「キリコさん、ですね?」

 

「!」

 

振り返るとプリシラ皇妃が立っていた。

 

「はじめまして、プリシラと申します」

 

「はじめまして」

 

キリコは一礼をした。

 

「それにしても、なぜ俺の名前を?」

 

「貴方のことは息子と娘から聞いています。特にセドリックは貴方のことばかり話していますので」

 

「……そうでしたか」

 

「キリコさん。セドリックの成長に一肌脱いでいただいた事、母としてお礼を言わせてください」

 

「礼には及びません。あれは成り行きです」

 

キリコは首を横に振る。

 

「あの子のことはオリヴァルト殿下からお聞きになっているのでしょう?」

 

「はい」

 

「最初はただ、キリコさんを越えると言ってがむしゃらに突き進んでいたようです。ですが、日を追うごとに言動や姿勢も変わっていき、今では以前のようなセドリックへと戻りました」

 

プリシラ皇妃は優雅に、丁寧に挨拶をするセドリックを優しく見つめる。

 

「あの子に必要なのはきっと、心を許せる友人なのかもしれませんね」

 

「……………」

 

「キリコさん。新たなⅦ組としての活動、応援しています」

 

「ありがとうございます」

 

プリシラ皇妃は一礼してユウナたちの所へと向かった。

 

「……………」

 

キリコは近くのテーブルのグラスの水を飲んだ。

 

「キリコ」

 

顔を上げるとリィンが立っていた。

 

「教官?」

 

「先ほどプリシラ皇妃様と話していたのを見たんだが、失礼はなかっただろうな?」

 

「無論です」

 

キリコはリィンにプリシラ皇妃との会話の内容を話す。

 

「殿下に必要なのは心を許せる友人、か……」

 

「…………」

 

「君がどう受け止めるかは任せる。おそらく殿下にとっても君は好敵手といった位置付けなんだろう」

 

「…………」

 

「まあ、今は置いておいてもいいだろう。それよりプリシラ皇妃様は……」

 

「あそこですね」

 

キリコはプリシラ皇妃と明らかにテンパっているユウナとフォローするアルティナとミュゼのいる方向を見る。

 

「……ちょっと心配だから行ってくるよ」

 

「どうぞ」

 

リィンはユウナたちの元へと向かった。

 

「………………」

 

キリコはグラスの水を飲み干す。

 

「フン、ここにいたのか」

 

「博士……」

 

シュミット博士がキリコの隣に立つ。

 

「何かありましたか?」

 

「実験用機甲兵のことだが、今月限りで終了とする」

 

「なぜ急に?」

 

「データが揃いつつあるそうだ」

 

「そろそろ聞かせてください。フルメタルドッグの出所を」

 

「調査中だ」

 

「……そうですか」

 

(この様子だととっくに何か掴んでいるな。まあいい、後でロッチナを問いつめてみるか)

 

「だが慢心はするな。実験用機甲兵が終わっても私の研究は終わることはない。期待している」

 

シュミット博士はそれだけ言って離れた。

 

「………………」

 

その後キリコはアルフィンとエリゼ、レーグニッツ帝都知事、イリーナ会長、グエン前会長、ハイアームズ侯爵らと順に挨拶を交わした。

 

 

 

19:35

 

他の学生たちや招待客がダンスをしている中、キリコは隅のテーブルにいた。

 

「キリコさん」

 

そんなキリコにミュゼは話しかけた。

 

「どうした?」

 

「踊らないんですか?」

 

「踊ったことはないからな。別に興味もやる気もない」

 

「……分校長からの伝言です。こういった式典におけるダンスは慣習である。必ずダンスには参加すること、だそうです」

 

「………………」

 

「……ちなみに、背いた場合は今度の授業でダンスパートナーに強制指名するそうです」

 

「何だと?」

 

「強制指名だそうです♪」

 

「……チッ………」

 

キリコは滅多にしない舌打ちをした。

 

「……踊れば良いのか?」

 

「はい。不慣れでしたら、私がアドバイス致しますので。それとキリコさん、ダンスは殿方から誘うのが礼儀ですよ」

 

「…………わかった」

 

キリコは服の埃を払い、右手を差し出す。

 

「踊ってもらえるか?」

 

「はい!喜んで!」

 

キリコはミュゼと共に中央に向かう。

 

音楽が響く中、キリコはミュゼのアドバイスを受けながらダンスをした。

 

(そう、そこでステップです。そしてこの曲のタイミングでターンです)

 

(……こうか)

 

(エクセレントです!)

 

キリコとミュゼは一曲が終わるまでダンスを続けた。

 

「キリコ君ってホントすごいよね。ダンスまでこなせるんだもの」

 

「ミュゼのフォローはあったんだろうけど、結構様にになってたな」

 

「なかなかやりますね」

 

「クク……死角なしかよ」

 

「………………」

 

ダンスの様子を見ていた者たちからは好評であったが、キリコは再度踊る気にはなれず、元いたテーブルに戻った。

 

 

 

19:50

 

「ようやく話せそうだな」

 

「………………」

 

キリコは空のグラスをテーブルに置き、野太い声の主の方を向く。

 

「彼から話は聞いているな?」

 

「ええ、ルスケ大佐から聞いています」

 

声の主──オズボーン宰相は頷いた。

 

「私はもう少し客人と挨拶を交わさなくてはならん。これでも多忙の身なのでな。案内役を用意しているから先に行っていてほしい」

 

「わかりました」

 

「楽しみにしているよ」

 

オズボーン宰相は去り際にキリコの耳元に何かを囁く。

 

(異能者よ)

 

「ッ!?」

 

キリコは茫然自失となり、去って行くオズボーン宰相の背中を見つめた。

 

「……………………」

 

そしてその様子を胡乱げに見つめる者がいた。

 

 

 

20:00

 

キリコはバルフレイム宮の応接室に通されていた。

 

「………………」

 

少しして、オズボーン宰相がやって来た。

 

「待たせたかな?」

 

「いや……」

 

「フ、動揺しているようだな。まあ、無理もないか」

 

「………………」

 

キリコは拳を握りしめる。

 

「君の疑問に答える前に、いくつか話さなくてはならないことがある」

 

「話さなくてはならないこと?」

 

「このエレボニア帝国にかけられた呪いについてだ」

 

「呪い?」

 

キリコは怪訝な表情を浮かべた。

 

「君は百日戦役が勃発した理由は知っているかね?」

 

「確か、帝国とリベール双方の行き違いらしいが」

 

「実際は違う。あれは帝国軍によって引き起こされたものだ」

 

「帝国軍に?理由も無しにか」

 

「そう。帝国軍にリベールを襲うメリットはない。にもかかわらず、戦争は起きた。なぜならそれは衝動的に起きたものだからだ」

 

「何だと?」

 

「帝国人は質実剛健で生真面目、そして誇りを重んじる気質を持っている。そんな彼らが衝動的に戦争を起こせるか?」

 

「………………」

 

「ここまで言えばわかるだろう。呪いという言葉の意味が」

 

「そんなわけのわからない話を信じろと?」

 

「──そなたの言いたいことはわかる。だが事実なのだ」

 

「なっ……!?」

 

「陛下……」

 

後ろの扉からユーゲントⅢ世が入って来た。

 

「………………」

 

「だが宰相、何ゆえ彼に裏の真実を明かす?」

 

「彼が異能者だからです」

 

「何と、そなたが……!」

 

「なぜ……それを……」

 

キリコはユーゲントⅢ世とオズボーン宰相の顔を交互に見つめる。

 

「そなたの疑問もよくわかる。だが今は余と宰相の話を聞いてほしい」

 

「……………………」

 

キリコは体勢を整える。

 

「フッ」

 

ユーゲントⅢ世はオズボーン宰相の隣に座った。そして口を開いた。

 

「そなたは《巨イナル一》という言葉を耳にしたことは?」

 

「……ラマールで結社の鋼の聖女がそんなことを言っていた」

 

「巨イナル一。およそ1200年前に焔の眷属が授かった焔の至宝と大地の眷属が授かった大地の至宝がぶつかり合い、大地を割り天を引き裂く大災厄の末に精製された鋼。この究極にして不安定な力の源を封印すべく、人々は様々な方法を取ったが、いずれも失敗に終わった」

 

「………………」

 

「最終的に考え出されたのは大地の眷属が七つの器を作り、焔の眷属が器に鋼の力を注ぎ込むというものだ。そのやり方は成功した。それにより産み出されたのがそなたも知る騎神なのだ」

 

「騎神…………」

 

「そしてその二つの眷属は後に地精と魔女の眷属となる。君も知る旧Ⅶ組の魔女はその末裔に当たる」

 

「………………」

 

「だが、巨イナル一には重大な問題が残されていた」

 

「重大な問題?」

 

「巨イナル一の源となった二つの至宝はそれぞれの眷属の願いを受け入れ、争った。その際に彼らの持つ闘争本能などが深く影響されていたのだ」

 

「闘争本能…………」

 

キリコは顎に手をやり、黙考した。そして結論にたどり着いた。

 

「まさか、呪いとは……」

 

「そう。巨イナル一は帝国全土に呪いという形でそれを植え付けた。人の闘争本能や憎悪の感情を強め、突発的に惨劇を巻き起こす。エレボニア帝国の歴史はそうして血と焔にまみれてきた。先ほど宰相が語った百日戦役も呪いがもたらしたものなのだ」

 

「なぜそうまで言い切れる?」

 

「……黒の史書というものを知っているか?」

 

「リィン教官がリーヴスの教会のシスターに黒い本を渡していたのを見かけたことはあるが……」

 

「まさしくそれだ。そして皇位を継いだ者のみが黒の史書の原本を読むことが許される」

 

「原本?」

 

「先ほどそなたの教官にも話したのだが、原本にはこれまで歴史の陰で何が起こったのか。そしてこれから何が起こるかまで全て書かれている」

 

「なら未然に防ぐことはできるはずだ」

 

「……試していないとでも思ったか?」

 

ユーゲントⅢ世は悲しげに目を伏せる。

 

「この史書に書かれた未来を避けようと努力することはできる。だが、避けようとすればするほど歪みが大きなものとなる。原本に書かれていることは正確であり、避けられぬ宿業なのだ」

 

「では、これまで起きた大きな戦争や内乱は」

 

「黒の史書原本に書かれていたことだ。巨イナル一誕生から騎神の完成、暗黒竜の蹂躙、獅子戦役、塩の杭事件、百日戦役、クロスベル事変と十月戦役。全てな」

 

「………………………」

 

「そして、余も宰相も呪いにより大事なものを喪っている。言わば同志なのだ」

 

「大事なもの……」

 

「ああ。たとえば……リィンの母親」

 

「教官の母親………!まさか、あんたは……」

 

「フフフ、君は息子の教え子というわけだ」

 

「………………………」

 

キリコは開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

キリコは頭を左右に振り、一旦思考をリセットさせる。

 

「……呪いについてはわかった。だが、俺と何の関係がある」

 

キリコの問いにオズボーン宰相はキリコに向き直る。

 

「先ほど陛下が仰られたように、巨イナル一の誕生には焔の眷属と大地の眷属の争いが原因となっている。問題はそこだ。なぜ対立するに至った?」

 

「知るわけがないだろう」

 

「そして巨イナル一の誕生をきっかけに、二つの眷属は手を取り合い、封印するに至った。何が原因だ?」

 

「……戦い?」

 

「そう、闘争が二つの眷属に調和と進化をもたらした」

 

(闘争……調和……進化……………ちょっと待て)

 

キリコは三つの言葉からあるものを呼び起こす。オズボーン宰相は構わず続ける。

 

「1200年前、陰で二つの眷属を煽り、戦わせた者がいたという。その者は自らを賢者と名乗り、暗躍していたようだ」

 

「!」

 

キリコは眼を見開いた。

 

「全てそいつが関わっているというのか?」

 

「黒の史書原本にて賢者という言葉が出てくる。だが原本では、賢者は封印の際に命を落としたと書かれている」

 

(そういうことか。別に最初から信用していたわけではないが、ロッチナ……)

 

 

 

「……………?」

 

ここでキリコの頭は急速に冷えていく。

 

「そういえばなぜ俺が異能者だと?」

 

「根拠は二つ。一つはあのルスケ大佐から聞かされた。あまりに馬鹿馬鹿しいと思っていた。もう一つを見るまではな。……陛下」

 

「うむ」

 

ユーゲントⅢ世は懐から封筒を取り出した。

 

「これは?」

 

「黒の史書原本から書き写したものだ。原本の最後の頁にひっそりと書かれている文だ」

 

ユーゲントⅢ世は封筒を中の紙をキリコに渡した。

 

 

 

『異界より来たりし不死の異能者』

 

 

 

「…………………」

 

書かれていた内容にキリコは茫然となった。

 

「異界より来たりし不死の異能者。異界が何を意味しているのかはわからん。不死の異能者というのは君は信じがたいが死なない異能の力を持っていると推測できる。黒の史書に書かれていることならば信じざるを得まい」

 

「……………………そうか」

 

キリコは全てを悟る。

 

「どうした?」

 

「…………話そう。全部を」

 

「全部?」

 

「俺がここにいるまでのことをだ」

 

「すると、そなたは……」

 

「異界というのは文字通り異世界。俺はこの世界の人間ではない」

 

「何だと?」

 

「転生、とでも言えばわかるか?」

 

「転生……」

 

「それに今言った賢者という存在、俺の知るやつと同じかもしれない」

 

キリコはユーゲントⅢ世、オズボーン宰相にアストラギウス銀河、ギルガメスとバララント、百年戦争を。自身が確率250億分の1で誕生する異能者であり、その能力のことを。そして宿敵のことを打ち明けた。

 

「「………………」」

 

ユーゲントⅢ世とオズボーン宰相は驚きを隠せなかったが、黙ってキリコの話を聞いた。

 

「多くの戦いを乗り越え、俺は寿命が尽きて死んだ。だが気がつくと俺は赤ん坊の姿になっていた。アストラギウスの記憶と異能と共にな」

 

「よもや、そのような世界があるとはな。国同士ならいざ知らず。天に輝く星々の間での百年の殺し合い。まさにこの世の地獄よ」

 

「そして、あらゆる機械に精通し、ずば抜けた身体能力を有する不死の異能者」

 

「簡単に信じるのか……?」

 

「得心がいったからだ。君を見た時、他の学生とは比べ物にならない異彩を放っていた。歴戦の戦士を思わせるその眼はいったい何かと思っていたが、何て事はない。それに見合うだけの戦い、すなわち人を殺してきた数が違うのだ」

 

「百日戦役と内戦の両方の経験しようとも、そなたのような眼をする者は一人もおらぬ」

 

「……………」

 

「そして、宿敵とやらか……」

 

「3000年もの間世界を陰から支配していた"神"。その"神"を君は滅ぼした。よもや"神殺し"を達成していたとはな。だがその"神"が巨イナル一に関係していると?」

 

「100%確証はないがな(だが皇帝が言った事とやり口が似ている。闘争を調和と進化を源などと宣っていたあの連中に)」

 

「………なるほど」

 

オズボーン宰相は意味深な表情を浮かべる。

 

「君は呪いと闘う宿命にあるということか」

 

「………………」

 

 

 

「一つ聞きたい。なぜ呪いのことを俺に教えた。避けようもないものならば知らせなくてもよかったはずだ」

 

「……………」

 

ユーゲントⅢ世はキリコの目を見る。

 

「そなたの教官は呪いが成就されると聞いても、Ⅶ組としてだけではなく、我が息子セドリックや数多の卒業生を含めた、トールズ士官学院として、道を見出だすと言った。内戦の末期に煌魔の城が顕現した時と同様、最後まで抗うことを余と約束したのだ」

 

「リィン教官が……」

 

「余はそなたの教官が道を見出だすことを見守ろうと思う。そしてそなたにもな。この言葉とて予言なのかどうかは分からぬが、賭けてみようと思う」

 

「………………」

 

「……私は予定通りこのまま進めて行くつもりです。キュービィー、リィンやミルディーヌ公女に伝えておくといい。その道とやら、見出だせるものなら見出だしてみろと」

 

「……最後に一つだけ」

 

「何だ?」

 

「呪いが成就されればどうなる?」

 

「ああ、それは……」

 

「……?」

 

キリコは背後から妙な気配を感じ、構える。

 

「どうした?」

 

「……何で……お前がいやがる……?」

 

「アッシュ……?」

 

 

 

応接室に入って来たのはアッシュ・カーバイドだった。だが身に付けている服装は制服ではなく、執事を思わせるスーツだった。

 

「アッシュ……?」

 

「退いてくれよ………殺せないだろう……」

 

「殺すだと?」

 

「そうさ……頭ん中に声が響くのさ……」

 

アッシュの左目から何かが噴き出す。

 

「……コロセ……コロセ……イチバンワルイヤツヲコロセってさあっ!」

 

「これは……」

 

「なるほど、贄か……」

 

「贄?」

 

「呪いに選ばれた者のことだ」

 

「……ああ……思い出してきたぜ………サザーラントの山奥の……あの村に俺はいたんだ……なのに……あの二人は……俺を見捨てた……死んだものとして……」

 

「そうか……そなた、《ハーメルの遺児》か」

 

「まさか三人目がいたとはな」

 

「…………………」

 

アッシュは懐から小型の拳銃を取り出した。

 

「……うう………」

 

「アッシュ……」

 

「これが呪いの力だ。帝国人は呪いによる強制力に突き動かされ、時に信じがたい愚行を犯す。ハーメル村の惨劇もまた同じなのだ」

 

「答えろよ……悪いやつをって……俺は誰を殺れば良いんだ……?この……疼きを癒すには……誰を消せば良いんだ……?」

 

「ならば私を撃て」

 

オズボーン宰相が前に出る。

 

「お前の故郷のハーメル村の惨劇を隠蔽し、全て無かったことにしたのはこのギリアス・オズボーンだ」

 

「てめえ……が……」

 

「ああ、狙うならここを狙うと良い。仮に心臓を狙っても万に一つも効果はないぞ」

 

オズボーン宰相は自身の眉間を指さす。

 

「……うう………」

 

「いや。その責、余が引き受けよう」

 

「陛下……!?」

 

ユーゲントⅢ世がオズボーン宰相を制した。

 

「この帝国での災いは全てエレボニア皇帝である余の責任。ハーメルの遺児よ、念願の仇を取るがいい」

 

ユーゲントⅢ世は両手を広げる。

 

「……ふざけんな……なんでそんな……」

 

「そなたの埋めようのない怒りと悲しみは、全てを知りながら見て見ぬふりをしていた余が受け止めよう」

 

「なんで……あんたは………」

 

アッシュの動きが一瞬鈍る。

 

「許せ」

 

そこを狙ったキリコはアッシュにボディブローを打ち込む。さらに延髄に手刀を振り下ろす。

 

「がはっ!?」

 

アッシュは地に伏し、意識を手放した。

 

「キリコ・キュービィー、君は……」

 

「ギリアス・オズボーン」

 

キリコはオズボーン宰相を見据える。

 

「……何だ?」

 

「頼みがある」

 

「頼み?」

 

 

 

「アッシュの左目の呪いを、俺に移してほしい」

 

 

 

「……何だと?」

 

「出来るはずだ」

 

「正気か?」

 

「言わずもがなだ」

 

「………全てを捨てるつもりか?居場所も、仲間も」

 

「覚悟の上だ。それに」

 

「?」

 

「汚れ役は俺一人で良い」

 

「………………」

 

オズボーン宰相は目を伏せ、顔を上げる。

 

「……良いだろう」

 

オズボーン宰相は右手を前に出した。すると、右手に禍々しい剣が顕れた。

 

「それは?」

 

「《終末の剣》まあ、魔剣とでも思えばいい。さて、始めるぞ」

 

オズボーン宰相は終末の剣をアッシュの上にかざした。すると、アッシュの左目から呪いがするりと抜け出す。

 

「……良いんだな?全てに憎まれ、たった一人血塗られた道を歩むと」

 

「それが、俺の運命なら」

 

「そうか……」

 

オズボーン宰相は笑みを浮かべ、キリコの方に剣を振る。

 

「……グッ……!」

 

呪いは正確にキリコの左目に当たる。その瞬間、キリコの頭の中に無数の声が響く。

 

(コロセ……コロセ……コロセ……。ワルイヤツヲコロセ……)

 

「…………」

 

(タメラウナ……ヒキガネヲヒケ……チデソメアゲロ……)

 

「黙れ……」

 

(アカキ……チシオ……ミギ……カタ……)

 

「黙れと言っている」

 

(ワレラ……ウラミノ……コエ……シタガエ……!)

 

キリコは声に抗うように感情を爆発させる。

 

 

 

「たとえ神にだって、俺は従わない!」

 

 

 

その瞬間、呪いの声と揺らめきは静まっていった。

 

「さすがに驚かされた。まさか力ずくで呪いを押さえつけるとはな」

 

「強靭な意志がなければ出来ぬ芸当だ。これも異能者ゆえか……」

 

「………………」

 

キリコはアッシュの手に握られていた小型拳銃を取り上げる。

 

「では、キリコよ。余を撃つがいい」

 

「……それも予言か?」

 

「うむ。古き血が流される時、黒キ星杯が顕れるとある」

 

「黒キ星杯?」

 

「そして、黒キ星杯の底に眠る黒き聖獣を根源たる虚無の剣で討つ時、巨イナル黄昏が起きるという」

 

「そうか……」

 

キリコはユーゲントⅢ世に小型拳銃を向ける。

 

「異能者キリコ・キュービィーよ……」

 

「……………」

 

「現世を生きるそなたには要らぬしがらみを背負わせてしまう。すまぬ」

 

「……………」

 

「武運を」

 

「……ああ………」

 

キリコは引き金を引いた。

 

 

 

「陛下!!」

 

銃声を聞いた新旧Ⅶ組、ランディ、トワ、ミハイル、セドリック、アルフィン、プリシラ皇妃、レクター少佐、クレア少佐、ルーファス総督が駆け込んで来た。

 

「な……!?」

 

そこで彼らが見たのは血溜まりを作り、倒れたユーゲントⅢ世。そして気を失ったアッシュを担ぎ、ユーゲントⅢ世を見下ろすキリコだった。

 

「キリ……コ……?」

 

「……………」

 

キリコは茫然とするリィンたちを一瞥し、逃走を試みる。

 

見計らったオズボーン宰相がサーベルで斬りかかるも、キリコは持っていた小型拳銃でオズボーン宰相の足元に撃ち込む。

 

オズボーン宰相が怯んだ隙にキリコは窓を蹴破り、飛び出す。その直後、着水する音が響いた。

 

「クッ……!」

 

オズボーン宰相は窓から下を見つめる。

 

「へ……陛下……」

 

「お父様!!」

 

「姫様!」

 

ユーゲントⅢ世の姿を見たプリシラ皇妃は気を失い、アルフィンは駆け寄ろうとしてクレア少佐に止められる。

 

「クソッタレ……!完全にノーマークだったぜ」

 

レクター少佐は苦々しげに吐き捨てる。

 

「……凶器はこれか」

 

ルーファス総督はキリコが落として行った小型拳銃を拾い上げる。

 

「……この刻印はカルバード共和国のヴェルヌ社の物ですね。特殊な樹脂を使用していてセンサーにも引っかかりにくいタイプです」

 

「どうしてそんな物が……」

 

「おそらく、彼は共和国特殊工作員と通じていたのでしょう」

 

「ま、待ってください!」

 

ルーファス総督の推測にリィンが食ってかかる。

 

「彼が、キリコが共和国のスパイとでも言うんですか!」

 

「そうですよ!現に彼は何人もの特殊工作員を捕まえて……」

 

「演技ということも十分考えられる。そうだな?アランドール少佐」

 

「……実はな、ほんの少し前に特殊工作員数名が脱獄しやがったんだ。しかも情報局の裏を完全にかいた形でな」

 

「「な……!?」」

 

リィンとトワは絶句した。

 

「それに見ただろう。彼は宰相にさえ銃を向け、窓を割り逃走した。おそらくカーバイド君は陛下暗殺の共犯者に仕立て上げられた上、人質にとられた。そして使われた凶器は共和国製の銃。辻褄としては全て合うが?」

 

「それは……」

 

「それにしても惨い。正面から3発も撃つとは。皇帝暗殺犯ならやりかねないだろうが」

 

「…………嘘です」

 

「ミュゼ……?」

 

ユウナは震えるミュゼを見る。

 

「だって……キリコさんが……そんなことをなさるはずがありませんもの……何かの間違いです……そうですよね……教官……?」

 

「………………」

 

リィンは顔を伏せる。

 

「……嘘だって……言ってください……」

 

「……ユウナ……ッ……!」

 

「……ッ!……はい……!」

 

ユウナはアルティナと共にミュゼを連れて行く。

 

「嘘だって……嘘だって……!」

 

「ミュゼッ!」

 

ユウナはミュゼを抱きしめる。

 

「嘘だって言ってください!!」

 

ミュゼはとうとう堪えきれなくなり、涙を流した。

 

「どうして……どうしてキリコ君が……」

 

ミュゼを抱きしめながらユウナは困惑した。

 

「理解……不能です……」

 

アルティナも茫然となる。

 

「…………………」

 

クルトは拳を握りしめ、怒りを押さえつけようと躍起になっていた。

 

「…………………」

 

セドリックは気を失った母と泣きじゃくる姉とエマに応急処置を受ける父を見る。

 

「……キリコ。これが……君の答えかい?」

 

セドリックはこれまでにない冷たい声を発した。

 

「宰相。父を守ろうとしてくださったこと。お礼申し上げます」

 

「弁解はいたしません。どのような罰でも受ける所存です」

 

「いえ。貴方はこの国に必要な方です。今は貴方が頼りです」

 

「は……」

 

次にセドリックはルーファス総督の方を向く。

 

「総督。直ちにキリコ・キュービィーを帝国全土に指名手配を」

 

「分かりました。罪状は皇帝暗殺未遂、国家反逆罪。なお、周辺諸国にも伝達いたします」

 

「すぐに取りかかってください。クレア少佐、母と姉をお願いします」

 

「……分かりました、殿下」

 

セドリックはリィンの方に近づく。

 

「残念ですよ……リィンさん」

 

「殿下……」

 

「第Ⅱ分校は帰還せず演習地に待機、一時帝都憲兵隊の監視下に置きます。アーヴィング少佐、これは命令です」

 

「……仰せのままに」

 

ミハイルはうなだれた。

 

「キリコ………!」

 

リィンは歯を食いしばった。

 

 

 

一方キリコはサイレンの鳴り響く帝都を走り抜けていた。

 

[キリコ side]

 

(どうやら俺に安らぎというものは与えられないようだ。自ら選んだとはいえ前世と同様、また独りになってしまったな)

 

俺はアッシュを担ぎながらも何とか見つからずに帝都西門に到達した。

 

(1200年前から帝国の蝕む呪い。黒の史書。それらにやつが関わっているなら、俺がこの世界に転生してきたのも納得だな。おそらく俺がいなかったらアッシュがこうなっていただろう)

 

俺は立ち止まり、バルフレイム宮の方角を振り返る。

 

(黒の史書とやらが大昔からの物ならあの文は俺に対するメッセージだろう。いつ現れるかわからない俺への)

 

俺はアッシュを木陰に寝かせ、目立たないよう偽装した。そして来た道を戻る。

 

(良いだろう。性懲りもせずに俺をつけ狙うなら………

 

 

 

もう一度殺してやる。ワイズマン)

 

 

 

砕けたはずの過去、死んだはずの〝神〟が、俺を新たな戦いに引きずり込む。

 

このまま行こうと退こうと俺に待つのは地獄しかない。

 

ならば、俺は……。

 

[キリコ side out]

 




以上で帝都篇は終わりです。


次回、終章黒キ星杯篇です。最終回まで後ちょっとです。
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