英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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終章黒キ星杯篇始まります。


終章 星杯篇


七耀暦1206年 7月18日

 

トールズ士官学院第Ⅱ分校生徒キリコ・キュービィーによる皇帝襲撃から一夜。

 

帝都ヘイムダルにはかつてない厳戒態勢が敷かれていた。

 

無論それは襲撃犯のキリコ捕縛のためでもあったが、ドライケルス広場で行われる重大な発表の場の警護でもあった。

 

キリコは監視の目をかわしながら、来るべきチャンスを待っていた。

 

 

 

[キリコ side]

 

(どこもかしこも憲兵隊だらけだな)

 

アッシュを隠した後、俺は帝都へと戻った。

 

合意の上とは言え皇帝を撃った以上、その辺をのこのこと歩くわけにはいかない。

 

俺は今、チンピラやマフィアなどのごろつきがたむろするブロン通りに身を潜めている。

 

ここはヘイムダルのごみ溜めなどとも言われており、政治家などの闇取引なんかに使われることが多いらしい。

 

だが状況も状況なのか、こんな治安の悪い場所でも憲兵はやって来るようだ。

 

「おい、そこの。てめえだよ、すかした顔しやがって」

 

「………………」

 

「なんかあやしいな。ちょっと来てもらおうか?」

 

「………………」

 

「悪いことなんか考えるんじゃねぇぞ?どこのチンピラか知らねぇが、てめえなんざ適当な罪くっつけりゃいくらでも……「悪いな」!?」

 

俺は迷いなく憲兵の腹に一撃を食らわせる。完全に不意をつかれたのか、憲兵は動かなくなった。

 

(どうやら見咎められていないな)

 

俺は路地裏まで引きずり、着ている服を交換した。幸いサイズは合っていた。

 

だがこの時初めて俺はこの憲兵に違和感を覚えた。

 

(言葉とは裏腹に大分若い。リィン教官とそれほど変わらないだろう。それにこの顔つきから柄の悪さは感じられない。皇帝や宰相の言っていた呪いの影響かもしれないな)

 

(呪いと言えば、皇帝を撃った瞬間からあの妙な感じがしなくなった。おそらく皇帝を撃つことで贄とか言う役目から解放されたようだな。あの時止めていなければアッシュがこうなっていただろう)

 

俺は憲兵を拘束し、第Ⅱ分校の制服を処分した。

 

(行くか)

 

俺はブロン通りを抜けて、ヴァンクール大通りに向かった。

 

 

 

ヴァンクール大通りは帝国時報を手に取る市民が多かった。俺も新聞売りから買って読んでみた。

 

そこには出身地不明の某士官学院生による皇帝襲撃のニュースがデカデカと載っていた。

 

内容を読む限り、俺は某国から送り込まれたスパイで皇帝の命を狙った暗殺者ということになっていた。

 

市民、いや国民の不安を煽るのに十分効果覿面だな。

 

ちなみにアッシュは襲撃の共犯者に仕立てあげられたばかりか、人質に取られ行方不明と載っていた。無事ならばいいのだが。

 

どうやらドライケルス広場で何か重大な発表があるらしく、俺は帝国時報をくずかごに捨て、ドライケルス広場に行ってみることにした。

 

 

 

ヴァンクール大通りを通り、ドライケルス広場にやって来た。

 

ドライケルス広場には大勢の帝都市民が集まっていた。また、中央の銅像の前にはセドリックや宰相にルーファス総督が揃っていた。

 

俺は広場入り口で様子を伺っていた。

 

(始まるな)

 

しばらくして、設置された壇上にセドリックが上がった。

 

『親愛なる帝都市民の皆さん。そして全国の方々。エレボニア帝国皇帝、ユーゲントが嫡子、セドリック・ライゼ・アルノールです』

 

セドリックは威風堂々といった口調だった。

 

『いまだ陛下の重篤状態は続いています。無論、最高の医療体制が敷かれていますが容態は危険域とのこと……どうか皆さんも女神に祈っていただければと思います』

 

『ですが、今回の手で再認識しました』

 

セドリックは突如顔を上げた。

 

『現在の帝国が置かれている潜在的な"危機"を。今回の実行犯の背後にどのような"国家"危機が関わっていたのかを』

 

帝都市民たちは固唾を飲んで聞いていた。

 

『そこで私は皇太子として、陛下の代理として、この件についての全権を委ねたいと考えています。ご存知、ギリアス・オズボーン宰相。そして今回、事件の対応に協力してくれた、ルーファス・アルバレア総督に』

 

ルーファス総督は軽い挨拶の後、マイクの前で事件にヴェルヌ社製の特殊な拳銃が使われたこと、共和国の特殊部隊が帝国入りしていたことを告げた。

 

(おそらく特殊部隊を引き入れたのも俺ということになるはずだ。だが問題は……)

 

そうこうしているうちに宰相に変わった。

 

『帝国政府代表、ギリアス・オズボーンである。今は陛下のご恢復を祈るしかないが……此度の件、まことに慚愧に堪えない。どうして喰い止められなかったのか……己の不甲斐なさに打ち震えるばかりだ』

 

(一応、そういうことは言うんだな)

 

『だが諸君!果たしてこのままでいられようか!?度重なる国境侵犯に武力侵攻、あろうことか帝都に破壊工作員を大量に送り込み、そして今回の凶行──』

 

『それが意味することは明白である!数百年におよぶ帝国の宿敵、東の脅威、カルバード共和国による"宣戦布告"であると!』

 

宰相は一度周りを見渡した。

 

『貴族も平民もなく、個人や団体の違いなく……この危機を乗り越えるため、全国民の総力を結集することをお願いしたい!』

 

『それを可能にする画期的な新法を近日中に成立させる予定だ』

 

 

 

『国家総動員法──それがその新法の名前である!』

 

 

 

宰相は高らかに宣言した。

 

「………………」

 

国家総動員法。戦争をやるから国民全員が国家に協力しろという法律か。

 

バララントの大バラン主義とか言う思想に似ているな。

 

『オオオオオッ!!』

 

集まっていた帝都市民たちから大歓声が挙がる。

 

(この法律が成立すれば、物資は持っていかれ、国民のほとんどが兵士にされる。これもワイズマンの目論見だろう。戦争自体に興味はないが、このままでは済ませられないな)

 

俺は国家総動員法の真意を知らない帝都市民の大歓声をよそにドライケルス広場から立ち去った。

 

 

 

「?」

 

ブロン通りに戻ろうとした時、突然妙な気配を感じた。

 

(一人、か)

 

どうやら尾行されていたらしい。

 

俺は敢えて角を曲がり、路地裏に入ると後ろのやつは慌ててついて来た。

 

さらに角を曲がり、身を潜める。

 

追いかけて来たやつが俺を見失ってまごついているところでそいつの背中にアーマーマグナムの銃口を当てる。

 

「動くな」

 

「ヒャッ!?」

 

情けない声だがどうでもいい。俺はそいつをこちらに向かせ、胸ぐらを掴み、銃を向ける。

 

「あ、あやしい者ではありませんよ~」

 

「………………」

 

これほど信用できない言葉があるだろうか。

 

「さっきから何の用だ?」

 

「み、道を聞こうとしてたんですよ~」

 

「……付かず離れずで尾行しながらか?」

 

「いや、あははは~」

 

「………………」

 

俺は引き金を引こうと指をかけた。すると──

 

「待ってください!」

 

突然シスターが駆け込んで来た。

 

「あんたは、リーヴスの教会の?」

 

「はい。シスターのロジーヌです。お願いです。この人を離してください」

 

「こいつを?」

 

「はい。実はこの人は私の上司なんです。誤解を与えたならば謝ります。どうか……」

 

「………………」

 

ロジーヌの懇願に俺はこの胡散臭いやつを離した。

 

「いや~、助かりましたよ、ロジーヌ君」

 

「まったく、何をしているのですか、ライサンダー卿」

 

「いや~、彼と少し話してみたくて」

 

「とにかく、謝ってください」

 

「ええ、そうですね。申し訳ありませんでした、キリコ・キュービィー君」

 

ライサンダー卿と呼ばれた男は俺に謝罪した。

 

「なぜ俺の名前を?」

 

「それについては説明させていただきます。まずは……」

 

男は指をパチンと鳴らす。その瞬間、結界のようなものに包まれた。

 

「!? 何をした……!」

 

「少々憚られる内容なので、法術を使わさせていただきました」

 

「法術?」

 

「七耀教会に伝わる術のことです。まあ、私のは少々特殊なものですが」

 

「……教会が何の用だ?」

 

「キリコ君、落ち着いて聞いてください。君は帝国に古くからある呪いに贄として選ばれたのです」

 

「巨イナル一とやらのか?」

 

「ご存知でしたか……!」

 

「昨夜に聞いた。だが、何者かもわからない相手にこれ以上明かせないな」

 

「そうですね。とりあえず、自己紹介をしましょう」

 

男は襟を正して、咳払いをした。

 

「七耀教会は封聖省、星杯騎士団《守護騎士(ドミニオン)》第二位《匣使い》トマス・ライサンダーと申します」

 

(星杯騎士団(グラールリッター)……教会が抱える武力集団だったか。汚れ仕事もこなす事から、存在を疎んじる者も少なくないらしいが)

 

「そしてこちらは従騎士のロジーヌ君です」

 

「何度か会っていますが、よろしくお願いいたします」

 

ロジーヌは恭しく挨拶をした。

 

「……あんたたちのことはわかった。だが教会が呪いと関係あるのか?」

 

「ええ。そのことも踏まえて、情報交換をしませんか?」

 

「キリコさん、貴方のことはリィンさんからもそれなりに聞いています。どうか話していただけませんか?」

 

「……………わかった」

 

俺は昨夜のことと、皇帝からもたらされた呪いのことについて語った。

 

無論、アストラギウスのことに触れないよう言葉を選んだが。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「……まさか、贄の役目を自ら引き受けるとは」

 

「信じられません……」

 

「さっきも言ったように、俺は呪いの根源と関係があるらしい」

 

「……なるほど。良くわかりました。本来、キリコ君は贄の役目とは異なるんですね?」

 

「……次はそっちだ」

 

「わかりました。では、お教えしましょう。我々七耀教会と巨イナル一の関わりを」

 

「………………」

 

トマスは咳払いをした。

 

「巨イナル一についてはキリコ君が皇帝陛下や宰相から聞いた内容と同じです。巨イナル一の災厄の後、当時一豪族のアルノール家が調停者となり、ここヘイムダルを拠点に復興を成し遂げました」

 

「エレボニア帝国の建国か」

 

「そうです。その際に、アルテリア法国から派遣された聖職者が信仰を利用して、アルノール家の統治の体制を支えることに貢献しました。この功績を讃え、第3代皇帝シオンの時代にヘイムダル大聖堂が建立されることになったのです」

 

「七耀暦81年だったな」

 

「エクセレント!いやぁ、さすがリィン君の教え子ですね~」

 

「教官を知っているのか?」

 

「勿論。何を隠そう、私はトールズ本校で歴史学を教えてましたから。懐かしいですねぇ」

 

「……そうか」

 

「すみません。ライサンダー卿は歴史の話になると長くて。それでいて良く脱線するんです」

 

ロジーヌがキリコに謝る。

 

「……ゴホン。そこから長い間、教会は巨イナル一とその呪いを監視してきました。そして、1年半前の煌魔城とクロスベルの碧の大樹の出現を機に、本格的に介入することを決めました。そして、昨夜のことが起きました」

 

「……………」

 

「誤解を恐れずに言いますが、私はキリコ君を拘束するつもりでした」

 

「皇帝を撃ったからか?それとも贄だからか?」

 

「両方でですね。ですが、キリコ君の話を聞いて考えが変わりました。キリコ君、君はたった一人で立ち向かうつもりですね?呪いの根源とも言えるものに」

 

「ああ」

 

「キリコさん……」

 

「リィン君たちにも頼らずに?」

 

「俺の問題とあいつらは関係ない」

 

「キリコ君はエレボニア皇帝を襲撃しました。今や君は帝国に住む全員から憎悪されているでしょう。それだけではありません。下手をすればリィン君たちとも刃を交えるかも分かりません」

 

「こうなることは覚悟の上だ」

 

「……わかりました。止めても無駄のようですね」

 

「ライサンダー卿!?」

 

「本当なら、これからリィン君たちの元へと連れて行こうと思いましたが、てこでも動きそうにありません」

 

「………………」

 

「ですが、助言しておきます。どうやら宰相や皇太子殿下はカレル離宮へ向かうようです」

 

「何?」

 

「キリコ君は黒キ星杯というものをご存知ですか?」

 

「皇帝が言っていた。何なんだ、それは?」

 

「七体の騎神が完成した後、残された巨イナル一を抑えるため、大地の聖獣はその呪いを一身に受けました。しかし、強力な呪いに侵された聖獣は変質してしまい、黒の聖獣へと堕ちたそうです」

 

「呪いの次は聖獣か……」

 

「まあ、半ばお伽噺とされていますからね。ですが、聖獣は存在します。リベールには《古竜》、クロスベルには《神狼》と言った具合にね」

 

「………………」

 

キリコは今さらながら、この世界の事に言葉を失った。

 

「黒キ星杯はその黒の聖獣を封印したものなんです。そして、星杯の置かれた場所こそがカレル離宮なのです」

 

「その黒の聖獣とやらを討てば黄昏というのが起きると皇帝は言っていたが」

 

「そのとおりです。呪いが帝国全土に撒き散らされた時、世界は闘争の渦に呑まれ、終焉を迎える。まさに黄昏という言葉がぴったりでしょう」

 

「共和国との戦争はそれに繋がっているというわけか?」

 

「おそらくは。リィン君やエマさんも言っていたでしょうが、これこそが表と裏の連動です」

 

トマスはそう断言した。

 

「……行くのですね?」

 

「ああ」

 

「私はこれからリィン君たちと会ってこれからのことを話し合って来ます。キリコ君、君のことは敢えて伏せておきましょう。ではまた」

 

「キリコさん、七耀の加護を」

 

匣を解いたトマスとロジーヌは去って行った。

 

(………黒キ星杯。そこに答えでなくとも何かがあるかもしれないな)

 

キリコはカレル離宮を目指し、帝都西門へと向かった。

 

 

 

一方、キリコとアルティナとアッシュとミリアムを除いた新旧Ⅶ組は、ヘイムダル大聖堂にてローゼリアからキリコがユーゲントⅢ世とオズボーン宰相から聞いたものと同じ話を聞いていた。

 

「巨イナル黄昏、それが本当に起きると?」

 

「うむ、間違いなくな。あのキリコの手により皇帝、厳密にはアルノールの血が流れたことで黒キ星杯が顕現した」

 

『………………』

 

ローゼリアの断言に新旧Ⅶ組の顔が沈んだ。

 

「それにしても妾としたことが。まさか贄を見抜けなんだとは」

 

「本当にキリコ君がその……贄、なんですか?」

 

「皇帝を撃ったことで役目を果たしておる。だがどんな形であれ、呪いの発動は贄によって起きる」

 

「………………」

 

「ミュゼ……」

 

ミュゼは昨晩から一睡も出来ず、目は赤く泣きはらしていた。

 

(キリコさんが私たちに、ヴァイスラント決起軍に加わらなかったのは、こういうことだったんでしょうか……。でも、キリコさんが呪いなんかに飲み込まれるはずが……。もう……いったい何を信じれば………)

 

ミュゼは自己不信に陥っていた。

 

「ですが、まだ間に合うかもしれません。黒キ星杯の奥底で眠る黒の聖獣さえ何とかなれば防げるかもしれません」

 

「あの大地の聖獣か……」

 

ローゼリアは顎に手をやる。

 

「あの星杯の中に入れさえすれば、妾が抑えられるんじゃが……」

 

「──さすがにそれは無理じゃなくって?」

 

「え……」

 

「なっ!?」

 

「貴女は……」

 

「姉さん!?」

 

大聖堂内に現れたのは、蒼の深淵ヴィータ・クロチルダだった。

 

「久しぶりね、婆様」

 

「久しいのぉ、不良娘が。無理とはどういう意味じゃ?」

 

「そのちんちくりんなナリで?」

 

「やかましい!」

 

ローゼリアは憤慨した。

 

「なんかヤバいの?」

 

「元々はもっと身長も風格もあったんだけど、セリーヌとグリアノスを産み出した時に幼児化したのよ」

 

「……それもあって、本来の半分ほどしか力は出せんのじゃ」

 

「だから私が協力しようってのよ」

 

「クロチルダさん……」

 

「正直癪だけどね」

 

「エマ、見せてもらおうじゃない。どれだけ成長したのか」

 

「……わかった。でも約束して、今まで何処で何をしてたかを」

 

「ええ。良いわよ」

 

エマとヴィータはそう約束した。

 

「それで、何か手があるんですか?」

 

「私と婆様で顕れるであろう黒キ星杯に術を使って通り道を作るの。リィン君たちはヴァリマールと一緒に突入してもらうわ」

 

「ならば、私もお供させていただきましょう」

 

大聖堂にトマスとロジーヌが入って来た。

 

「トマス教官!?それにロジーヌ……」

 

「お久しぶりですね~リィン君たちにバレスタイン教官。新Ⅶ組の皆さんははじめましてですね」

 

「教官、この方は?」

 

「かつてトールズ本校で歴史学を教えていた人さ。まあ、今回は本業で来たんだろうが」

 

「本業?」

 

「リィン、何か知ってるの?」

 

「なるほど、そういうことだったのね」

 

サラはため息混じりに言った。

 

「サラ?」

 

「さしずめロジーヌは従騎士か何かかしら?」

 

「騎士?」

 

「まさか……」

 

「そう、歴史学者は世を忍ぶ仮の姿。実は私、星杯騎士だったんです!」

 

トマスは両手を広げて言いはなった。

 

リィンたちはその場違いなテンションの高さについて行けず、ロジーヌは頭痛を覚えた。

 

 

 

「まさかトマス教官が教会の星杯騎士団とはな」

 

「しかも守護騎士。12人いる高位の騎士で、その実力は結社の執行者に匹敵すると言われているわ」

 

「確か、そちらの総長さんは鋼の聖女さんと同格と言われているんだったかしら?」

 

「なっ!?」

 

ヴィータの言葉にクルトは空いた口が塞がらなかった。

 

「まあ、その話は良いでしょう。それよりよろしくお願いいたします、緋の魔女殿」

 

「匣使い、守護騎士の副長か。まあ良いじゃろう」

 

「トマス殿はローゼリア殿のことも知っておられるのか?」

 

「ええ。緋の魔女殿は古くから私たち七耀教会と協力関係にあります」

 

「そうなんですか!?」

 

「協力と言っても互いに利用し合っていただけじゃがな」

 

「そして、その内の一つである夜の眷属との騒動が小説になっているのよね」

 

「小説?」

 

「夜の眷属って確か……」

 

「エマさんが言っていたわね。吸血鬼とか……」

 

「もしかして、《紅い月のロゼ》ですか?」

 

「大当たり♪」

 

ミュゼの言葉にヴィータが微笑んだ。

 

「ええっ!?」

 

ユウナは驚きの声を上げた。

 

「まあ、小説の挿し絵の魔女がこんなロリババァじゃ驚くのも無理ないわね」

 

セリーヌは首をかきながら言った。

 

 

 

「それとリィン君、紹介したい人物がいるんですが」

 

リィンたちが落ち着いた所を見計らい、トマスが口を開く。

 

「まだ誰か星杯騎士の方が?」

 

「リィン君、君のよく知る人ですよ。そうですね、ウォーゼル卿」

 

トマスの言葉にガイウスが苦笑いを浮かべる。

 

「ええっ!?」

 

「ガイウス!?」

 

「フフ……」

 

ガイウスはリィンたちの前に出る。

 

「一応、そういうことだ。星杯騎士団守護騎士第八位、《絶空鳳翼》ガイウス・ウォーゼル」

 

『………………』

 

リィンたちは言葉が出なかった。

 

「すまない。隠すつもりはなかったのだが」

 

「もしかして、半年間連絡がつかなかったのって……」

 

「ああ。アルテリア法国で修行を積んでいた。そして先月、正式に守護騎士となった」

 

「そうだったんですね」

 

「ガイウス、ブリオニア島でガイウスの背中から見えたのって……」

 

「ああ、聖痕(スティグマ)だ。我が師バルクホルンのな」

 

「確かその人って……」

 

「内戦中に各地を回っていた神父さんよね」

 

(かつて、ノーザンブリアの塩の杭を古代遺物で回収してくれた人ね)

 

「その人の聖痕……。ガイウス、もしかしてその人は……」

 

「ああ。亡くなられた。帝国軍と共和国軍に巻き込まれた集落を救うためにな。死の淵ある師は俺に自身の聖痕を継承した。その直後に息を引き取った」

 

ガイウスは目を瞑った。

 

「彼は私たち守護騎士の中でも古参の騎士で尊敬する大先輩でした。彼が赴いているノルド高原が攻撃されていると知った私は大急ぎで向かいましたが、到着する頃には手遅れでした……」

 

トマスは眼鏡のブリッジを上げる。

 

「しかし、ガイウス君が聖痕を引き継いだことがわかり、葬儀の後私はガイウス君とアルテリア法国に行きました。その後半年間の修行を経て、守護騎士第八位に就任したというわけです」

 

「そんなことが……」

 

「リィン、そんな顔をするな。先月は故あって使うことは出来なかったが、師から受け継いだ騎士の力、今こそⅦ組のために使おう」

 

「ガイウス……!」

 

「ホントにスゴい……!」

 

「ああ……!」

 

「そうですね」

 

「……ではそろそろ向かうとするかの。ぐずぐずしているとまた……」

 

『キャアアアアッ!!』

 

突如外から悲鳴が響いてきた。

 

「チッ、言ってる側から……!」

 

「どうやら魔煌兵が顕れたようだぞ!」

 

「ここは俺たちの出番だ!」

 

「すまぬ!少々時を稼いでくれ!」

 

「わかりました、みんな、行くぞ!」

 

『おおっ!!』

 

リィンたち新旧Ⅶ組は大聖堂から飛び出した。

 

 

 

「………………」

 

残ったヴィータはトマスに話しかける。

 

「キリコ君が贄ってことになってるけど、本当は違うのよね?」

 

「ええ。本人によると、自ら贄の役目を引き受けたとか」

 

「……本当なの?」

 

「ええ。実は先ほど、キリコ君と話して来ました。あのハーメルの遺児の身代わりとして、皇帝陛下を撃ったそうです」

 

「……………」

 

「それともう一つ。どういう意味かは分かりませんが、キリコ君は呪いの根源と闘う運命だとか」

 

「そう……」

 

ヴィータは先に大聖堂を出た。

 

(キリコ君が何を考えて、そうしたかはわからない。でも、ちゃんとあの子に謝らせないとね)

 

ヴィータは空を睨む。

 

(覚悟しなさい。どんな事情があろうと、女の子の涙より重いものはないのよ……)

 

 

 

「元気そうだな。皇帝暗殺未遂犯」

 

「………ロッチナか」

 

一方、帝都西門を出たキリコは声の主を言い当てる。

 

「カレル離宮、いや黒キ星杯へ向かうつもりか」

 

「そうだ。悪いが急いでいる」

 

「ならばこっちに来い」

 

「何?」

 

「それでは動きづらかろう。車に乗れ」

 

「…………」

 

キリコは導力車に乗り込もうとした。そこにあったものを見て、顔をしかめた。

 

「どういうつもりだ?」

 

「お前にはこれがいるだろう?」

 

「……感謝も礼も言わん」

 

「わかっている。さあ、着るがいい」

 

キリコは車内にあった物に着替えた。

 

「……やはり似合っているな。その赤い耐圧服は」

 

「………………」

 

ロッチナが用意したのは、キリコが前世で長らく着ていた装甲騎兵の赤い耐圧服だった。

 

「新しい機甲兵を用意した。この先に隠してある」

 

「一つ聞きたいことがある」

 

「何だ?」

 

「フルメタルドッグの製造元だ」

 

「なんだ、そんなことか。黒の工房だよ」

 

「何だと?」

 

「そことは少々付き合いがあってな。いずれ工房長にも会わせよう」

 

「………………」

 

「ではな、キリコ曹長」

 

「………………」

 

キリコはヘルメットを被り、フルメタルドッグの置いてある場所へと向かった。

 

 

 

「行ったか。………そろそろお前たちの番だ」

 

ロッチナは二人の男女に声をかける。

 

「やっとか」

 

「……………」

 

「やつを、キリコを殺せば良いのか?」

 

「いや、痛めつけるだけで良い。ただし徹底的にな」

 

「了解した」

 

「……わかった」

 

「期待している。お前たちのその力をな」

 

ロッチナはそう言い残し、導力車で去って行った。

 

「行くぞ」

 

「ああ………」

 

二人の男女は動き出した。

 




次回、キリコが単身黒キ星杯へ突入します。

ブロン通りはニューヨーク市にあるブロンクス区から取りました。
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