英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

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黒キ星杯

キリコはフルメタルドッグに乗り、カレル離宮を目指していた。

 

【さすがにしっくり感じるな】

 

キリコは耐圧服の着心地を懐かしんだ。同時にある可能性を見出だした。

 

【これならリミッターを常に外していても問題なさそうだな。それにしても……】

 

キリコは西オスティア街道に魔獣が一匹もいない状況に違和感を感じていた。

 

【周りを見渡しても気配すらない。いや、まるで魔獣が一斉に逃げ出したかのような形跡もある。この先にいったい何が……む?】

 

フルメタルドッグの視線の先には、トールズ本校生徒数人が見回りをしていた。

 

【……真正面からはマズイな】

 

キリコは山道を脇にそれ、高台に上がった。

 

(なんだあれは……?)

 

機体を降りたキリコは眼前に広がる景色に言葉を失った。

 

カレル離宮があった場所には、巨大な卵のようなものが鎮座していた。

 

さらに卵のようなものの周りには結界が張られていた。

 

(あれが黒キ星杯だというのか。どうやら周りに結界が張ってあるようだ。さて、どうやって…………どうやらあまり時間もないな)

 

キリコが思案していると、黒キ星杯前には続々と集まっていた。

 

(セドリックを除くトールズ本校生徒。閃撃の指揮下の赤い星座に罠使いと破壊獣の西風の旅団。鉄機隊も全員いるな。いや、後は)

 

「……後ろで何をしている」

 

「あはは、バレた?」

 

キリコは背後のフルメタルドッグをペタペタと触る道化師カンパネルラを睨む。

 

カンパネルラは指を鳴らして周りに不可視の結界を張った。

 

「やあキリコ。こんな所で何しているんだい?」

 

カンパネルラはヘラヘラ笑いながら聞いた。

 

「あそこに入りたい」

 

「やっぱりね。君がここに来る用事なんてそれしかないもんね」

 

「……………」

 

「まあいいや。星杯の真後ろなら比較的結界が薄いから僕一人でも君とこれを通させてあげられるかもね」

 

「……………」

 

「さては信用してないね?」

 

「……………」

 

「まあ、仕方ないよね。とりあえずついておいでよ」

 

カンパネルラは結界を維持したまま歩き出した。キリコはフルメタルドッグに乗り、ついて行った。

 

 

 

カンパネルラとキリコは黒キ星杯の真後ろにやって来た。

 

「ちょうどここなら穴を開けられるよ」

 

【……どういうつもりだ】

 

「どういうつもりも何も、期待してるからだよ」

 

【何?】

 

「……ワイズマン、だったよね?」

 

【!?】

 

キリコは驚きを隠せなかった。

 

「巨イナル一や騎神、地精や魔女の眷属に深く関係ある存在。どこからともなく現れ、1200年に及ぶ呪いを引き起こした賢者」

 

【なぜ知っている?】

 

「巨イナル一はなにも皇室アルノール家や教会だけが知っているわけじゃない。我らが盟主様や最高幹部である使徒、一部の執行者はだいたい把握しているよ」

 

「まあ、ワイズマンという名前とキリコの因縁については予想外にも程があるけどね」

 

【………ロッチナか】

 

「やっぱりわかっちゃう?」

 

【あいつがどこに属していようと興味はない。仮に結社の執行者と言われてもいまさらという感じだ】

 

「あはは、なるほど。残念だけど、彼は執行者でも使徒でもない、かといって地精の一員でもない。表向きは帝国軍情報局大佐だけど、いったいいくつの顔があるんだろうねぇ?」

 

【知るか】

 

キリコは吐き捨てた。

 

「彼、君の動向を追ってたみたいなんだよねぇ。とんだストーカーだよねぇ」

 

【…………………】

 

「……ゴホン」

 

ターレットレンズ越しのキリコの視線を感じたカンパネルラを咳払いをして、話を元に戻す。

 

「そこで結社は呪いをどうにかするために、リベールやクロスベル、そしてエレボニアで活動していたのさ」

 

【リベールやクロスベルについてはティータやユウナからだいたいは聞いている】

 

「なるほどね」

 

【帝国での活動とやらは闘争の誘発か?】

 

「へぇ?」

 

カンパネルラは意味深な笑みを浮かべる。

 

【十月戦役でも結社は裏から手を回していたらしいな。表に出ないなら呪いにかこつけて何でも出来るはずだ】

 

「……やっぱり優秀だね。だいたいそんなとこかな。だけど核心には到達してないから70点かな」

 

【…………】

 

 

 

「そういえば、キリコは何しに行くの?」

 

【何しにとは?】

 

「いやだって君、根源たる虚無の剣持ってないでしょ?」

 

【宰相が持っていたあれか。鍵か何かか?】

 

「……やっぱり知らないか。ということはOzシリーズのことも?」

 

【Ozシリーズ?】

 

「Ozシリーズって言うのは、地精の技術で生み出されたホムンクルスのことさ。特性として、戦術殻との完璧な同調が挙げられるよ」

 

【……アルティナやミリアムのことか?】

 

「その通り」

 

【だがホムンクルスとその剣と何の関係がある】

 

「……その根源たる虚無の剣の精製方法がOzシリーズの命を捧げると言ったら?」

 

【何だと?】

 

「君はタイミング的に知らないだろうけど、今ミリアムとアルティナ姉妹は宰相殿と一緒に黒キ星杯内部にいるのさ。目的は言わなくても分かるよね?」

 

【アルティナかミリアムを殺して根源たる虚無の剣を作り出す。そして呪いを撒き散らして黄昏とやらを引き起こす、か?】

 

「その通りさ」

 

【そうか……】

 

キリコは目を瞑る。

 

【それならお前たちは何をしている】

 

「見届けるのさ、世界の終焉をね。もっとも、彼女たちには告げていないし、本校の彼らも命じられるままに守っているんだよね」

 

カンパネルラは出来上がっていく布陣を眺めた。

 

「で?何しに行くの?」

 

【黄昏が起こればやつは出てくるはずだな?】

 

「さあ?そこまでは……って、もしかして?」

 

【そうだ】

 

「やれやれ。君、色々と背負い過ぎじゃない?】

 

【これは俺の問題だ。それに俺はこの世界では異物でしかない】

 

「不器用だねぇ。ワイズマンさえいなかったらこうはならなかっただろうに」

 

【………………】

 

「……わかったよ。おっと、そろそろ彼らが来る頃だね。ではさっそく……」

 

カンパネルラは黒キ星杯に向けて手をかざした。すると、黒キ星杯に機甲兵一機が通れる道が出来た。

 

「どうやったのかは企業秘密ってことで。幸運を祈るよ」

 

【………………】

 

キリコは穴を通り黒キ星杯へと入って行った。

 

 

 

キリコの突入を見届けたカンパネルラは不可視の結界を解いた。

 

「ちょっと!いったいそこで何をしていたんですの!?」

 

鉄機隊筆頭の神速のデュバリィが食ってかかる。

 

「いや?見回りだよ。それより大丈夫なの?リハビリ明けでしょ?」

 

「問題ありません。誰が来ようと、鉄機隊筆頭の名に賭けてここは通させはしませんわ」

 

「ふーん?」

 

「あなたこそ良いんですの?中に入らなくて」

 

「別にいいよ。結末は決まっているんだし」

 

「そうですわね。マスターがいらっしゃるんですから」

 

「でしょ?おっと、来たみたいだよ」

 

「来ましたか……!」

 

デュバリィは剣と盾を携え、所定の位置に付いた。

 

(異物、か。本気でそう思っているんだろうね)

 

カンパネルラは黒キ星杯を見つめた。

 

 

 

[キリコ side]

 

黒キ星杯に入った俺は、妙な空気を感じていた。

 

【一昨日の暗黒竜の寝所と似ているな。とにかく、進むしかない】

 

ローラーダッシュを使わず、歩行にして探索を開始した。

 

 

 

徘徊している魔獣はさすがに手応えがある。

 

現在、フルメタルドッグの武装はへヴィマシンガン、そして弾倉しかない。

 

まあ、リミッターを常時外しているのでそれほど苦にはならないはずだ。

 

弾倉は両脇に一つずつ、背中に三つあるが余裕綽々などとは思わない。

 

【それにしても、なぜ宰相の一派の姿が見えない?連中なら俺かⅦ組が突入してくることぐらい読んでいるはずだが】

 

ここに来るまで魔獣はいたが、罠の類いは一つも無かった。

 

こうなって来ると俺、もしくはⅦ組を最奥まで誘い出すのが目的なのかもしれない。

 

迷路のような回廊を通り抜け、俺は大きな門の前にやって来た。

 

【?】

 

だが俺は妙な感覚を覚えた。

 

【……………】

 

俺は意を決して門をくぐった。

 

 

 

【これは!?】

 

門をくぐった瞬間、目の前の光景が変わった。辺りは暗く、周りは人々の叫びと悲鳴で渦巻いていた。

 

【逃げている人間の服装……まさか……!】

 

見覚えがありすぎる。帝国や周辺諸国ではまず見られない、ローブのような服装。

 

 

 

【ここは…………惑星サンサ!】

 

 

 

間違いない。だが周りには建物がズラリとある。おそらくぼろぼろにされる以前のことだろう。

 

なら彼らが逃げてきた方向には……

 

【レッドショルダー……!】

 

遠くから右肩を暗い赤色で染めたスコープドッグの大軍が押し寄せて来た。

 

レッドショルダーたちは火炎放射器で無差別攻撃を始めた。逃げ遅れた人々は呻きを伴い焼かれていった。

 

そんな中、俺は一人の子どもを見た。

 

【あれは……俺か?】

 

スコープドッグの一機が子どもに向けて火炎放射器を放つ。子どもは全身を焼かれ倒れた。

 

俺はこの光景に怒りを覚えた。

 

【………いい加減にしろ!!】

 

俺はわき目もふらずフルメタルドッグを走らせる。その瞬間、周りの景色は消え失せた。

 

【俺を屈服させたつもりか……】

 

今のはおそらく、ここを通る者への罠なんだろう。

 

だとすると、Ⅶ組も何かしら過去の古傷を抉られているのだろうか。

 

【……行くか】

 

俺は呼吸を整え頭を冷やし、探索を再開した。

 

[キリコ side out]

 

 

 

一方、黒キ星杯の外では遊撃士、教会、魔女の支援を受けたトールズ第Ⅱ分校と結社、猟兵団、地精の支援を受けたトールズ本校の抗争が続いていた。

 

その最中、カンパネルラは不可視の結界を張り、二人の男女と話していた。

 

「じゃあ、君たちも入りたいんだね?」

 

「そうだ。道化師と呼ばれるあなたの力をお貸し願いたい」

 

「我々はキリコを追っているのでな」

 

「良いよ。それにしても君たちも大変だよね、あのロッチナの命令とはいえ」

 

「道化師殿」

 

「ハイハイ。それで?君たちだけで?」

 

「いや、あれも頼む」

 

女は後ろにあるものを指差した。

 

「わかった。それじゃ、頑張ってね~」

 

カンパネルラは男女と指定したものを黒キ星杯へと送った。

 

(さて、キリコはどこまで抗えるかな?)

 

カンパネルラは不可視の結界を解いた。

 

 

 

[キリコ side]

 

その後も俺は惑星ガレアデでのダウンバースト、惑星モナドでのバーコフ分隊の暴走とザキの死、小惑星リドでの裏切り、ウドの街での拷問、デライダ高地での仲間の死、クメンでの内乱、謎の戦艦で受けた精神的拷問、惑星サンサで会ったゾフィーの憎悪と悲愴、惑星クエントでのフィアナたちへの仕打ち、ア・コバでのバトリングで人質にされたフィアナと戦わされた時を見せられた。

 

そして──フィアナの死。

 

頭ではわかっているが……こればかりは忘れられない。最期の言葉、あの眼差しは特に……。

 

とにかく、こんな悪趣味な場所は一刻も早く出なくてはな。

 

俺はローラーダッシュを加速させ脱出した。

 

 

 

気づけば俺はかなり広い場所へと出た。

 

すると、俺が通って来た門から駆動音が響いてきた。どうやらここからが本番らしい。

 

へヴィマシンガンを構えていると、見たこともない機甲兵がやって来た。

 

【新型か……?】

 

【…………】

 

機甲兵?はアサルトライフルと盾を構えた。

 

【一度しか言わない。邪魔をするな】

 

【…………】

 

機甲兵?はいきなり発砲してきた。

 

【速い……だが!】

 

俺は冷静に回避し、引き金を引いた。弾丸は盾に防がれたが、一気に距離を詰める。

 

すると向こうもアサルトライフルを撃ち、距離を広げる。

 

【やはり手練れか】

 

【……………】

 

機甲兵?は盾を捨て、アサルトライフルを乱射し始めた。

 

焦りか挑発かは知らんが、チャンスだ。

 

【行くぞ】

 

俺は一気に距離を詰め、相手の懐に飛び込む。機甲兵?は左に旋回するが俺は見逃さなかった。

 

へヴィマシンガンの銃撃を相手の脚部に撃ち込む。脚部を損傷した機甲兵?はバランスを崩して動かなくなった。

 

俺の方も余裕はないので敢えて止めは刺さずに先を急ぐことにした。

 

[キリコ side out]

 

 

 

フルメタルドッグが去った後、機甲兵?のコックピットから女が出てきた。

 

「………………」

 

【貴女ほどの人が逃したのか】

 

女の後ろからもう1機の機甲兵?が歩行してきた。

 

「作戦に支障はあるまい。向こうも少なからず消耗したはずだ」

 

【……まあいい。後は私に任せるがいい】

 

女の言葉を聞いた機甲兵?はフルメタルドッグを追って行った。

 

(キリコ………)

 

 

 

キリコはほとんど一本道の回廊を突き進んでいた。その際、先ほどの相手のことを考えていた。

 

【さっきの敵……そこいらの兵士よりも強かった。機体の性能だけでなく、乗っていたやつの腕もあるんだろう。だがなんだ?何か重要な事を見落としているような……】

 

その時、遠くからぶつかり合うような爆音が響いた。

 

【どうやらⅦ組も戦っているようだな。黒の聖獣とやらも近いか?】

 

キリコは残りの弾数を確かめながら、最後の戦いが近いことを予感した。

 

【道化師はアルティナかミリアムの命と引き換えに根源たる虚無の剣が出来ると言っていた。ならなんとしてでも宰相からあの剣を奪わなければな。たとえⅦ組に銃を向けることになろうとも、最悪の結末だけは防がねばならない。罪を背負うのは俺だけで十分だ】

 

キリコは操縦捍を握り締め、悲壮の決意を固める。

 

 

 

【追いついたぞ!】

 

またもや広い場所に出た。その直後に背後から声が響いた。

 

【まだいたのか!】

 

キリコは戦闘体勢に切り替えた。目の前には先ほどと同じ機甲兵がいた。

 

【フフフ、キリコよ。この先には行かせんぞ】

 

機甲兵?からくぐもった声が響く。キリコはそれを変声器によるものだと推測した。

 

【俺を知っている?誰だ?】

 

【知りたいか。知りたくば……】

 

機甲兵は機甲兵用ブレードを構えた。

 

【仕方ない】

 

フルメタルドッグもへヴィマシンガンを構えた。

 

 

 

[キリコ side]

 

【ウオオオオッ!!】

 

【グッ……!】

 

さっきのやつよりも速く鋭い。

 

こちらが撃ち込んでも向こうは全てかわしきった。

 

逆に向こうの攻撃を避けようとしてもかわしきれない。

 

それにしても、この戦い方には覚えがある。

 

【どうした!?この程度か!】

 

【……………】

 

【怖じけづいたか。ならば死ねぇ!】

 

機甲兵?は機甲兵用ブレードでコックピットを貫こうと突進してきた。だがそれが俺の狙いだ。

 

【ここだ】

 

突進攻撃が当たる寸前でフルメタルドッグのローラーダッシュによる旋回で回り込む。

 

【何っ!?】

 

俺は迷いなく引き金を引いた。銃撃を受けた機甲兵?は機甲兵用ブレードを落とした。

 

【この……!】

 

【まだだ】

 

そのままの勢いで相手の頭部にアームパンチをくらわせる。相手はバランスを崩して膝をついた。

 

【グウッ……!】

 

【先を急いでいる。邪魔をするな】

 

俺は相手のコックピットに狙いを定める。

 

【………フフフ…………】

 

【?】

 

相手は突然笑い出した。

 

【フハハハハ……!!】

 

【何が可笑しい?】

 

【……確かにお前は強い。かつてサンサで私を倒しただけはある】

 

【!?】

 

かつて……?それにサンサだと……!?

 

【作戦上ではお前を痛めつけることだが、変更する。キリコ、お前を殺す!】

 

突如、機甲兵?から黒いオーラが浮かび上がる。

 

【これは……!?】

 

【そして……!】

 

機甲兵?は別の武器を取り出した。穂先が弧を描いた長い槍だった。機甲兵は軽く長槍を振り回して見せた。

 

【それは……!?】

 

【知っているはずだ、お前なら!】

 

……知っている。だがこの世界には存在しないはずだ。

 

【これでも信じられんか?ならば変声器も必要ないな。よく聞くがいい】

 

くぐもった声でなく、若い男の声が聞こえてきた。

 

【!!?】

 

声を聞いた俺は頭が真っ白になった。同時に先ほどの動きに納得がいった。

 

銃撃をかわしきるほどの高い反応速度と操縦技術、バランシングと呼ばれるこの世界には存在しない武術に使われる長槍。

 

そして忘れもしないあの声は………。

 

 

 

【……イプシ……ロン………?】

 

 

 

戦うために生まれた人間兵器。クエントの伝承の手を加えられた民。完全なる兵士パーフェクトソルジャー。

 

かつて俺と同じ女を愛し、そして殺し合った相手だった。

 

[キリコ side out]

 




次回、最終話です。
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