英雄伝説 異能の軌跡   作:ボルトメン

73 / 77
英雄伝説 異能の軌跡最終話です。


黄昏

【……イプシ……ロン………?】

 

キリコは機甲兵?から聞こえてきた声に茫然自失となった。

 

【久しぶりだな、キリコ】

 

【なぜ……ここに………】

 

【愚問だな。私は戦うために生まれたPSだ。戦場ならばいてもおかしくはなかろう】

 

機甲兵?のパイロット──イプシロンは堂々と告げる。

 

【お前もこの世界に転生して来たのか?】

 

【そんなことはどうでもいい。キリコよ、その命もらい受ける】

 

イプシロンは機甲兵?の操縦捍を握り締める。

 

【待てイプシロン!その機体は何だ!?】

 

キリコは頭を左右に振り、イプシロンに問いかける。

 

【何?】

 

【……先ほどお前の機体から黒いオーラのようなものが吹き出すのが見えた。俺は似たようなものを見たことがある】

 

キリコは機甲兵教練での出来事を思い返した。

 

【フッ……。知りたければ教えてやろう】

 

イプシロンはスピーカーの音量を上げる。

 

【まずこの機体は機甲兵ではない。既存の機甲兵に魔煌兵の技術を組み合わせた新世代の機動兵器。その名は魔煌騎兵だ】

 

【魔煌機兵……だと?】

 

【これはその量産機に当たるゾルゲだ】

 

【ゾルゲ……】

 

【そしてお前が見たという黒いオーラとは魔煌兵の技術の副産物のようなものだ。見るがいい、このような技ができる】

 

ゾルゲは長槍に黒いオーラを纏わせた。

 

【それは……】

 

【魔導というそうだ。使いようによっては戦いながら傷を治すことが可能というが、はたしてな】

 

【……………】

 

【聞きたいことはそれだけか?では行くぞ!】

 

魔煌機兵ゾルゲは長槍を構える。

 

【イプシロン……!】

 

フルメタルドッグもへヴィマシンガンを構えた。

 

キリコとイプシロン。

 

似た者同士とも言える二人の男が激突した。

 

 

 

[キリコ side]

 

【ウオオオオッ!!】

 

イプシロンの乗るゾルゲの猛攻に俺は完全に後手に回っていた。

 

元々ドラッケンⅡ以下の性能と既存の機甲兵と魔煌兵とのハイブリッド機である魔煌機兵とでは機体スペックに開きがあった。

 

これが機甲兵同士ならなんとか食い下がれたかもしれない。

 

だが魔煌機兵の攻撃の一つ一つはあまりに高い。おそらくあの黒いオーラが出ている時が本領発揮と言ったところだろう。

 

だが何か違和感を感じる。

 

【殺してやる、殺してやるぞ!キリコ!】

 

【……………】

 

【貴様さえ、貴様さえいなかったら私は!】

 

【……………】

 

俺の知るイプシロンとは思えない罵声が響く。確かに尊大でプライドにすがってはいたが、それはあの司祭や双子にそう調整されていたからだ。

 

ここまで恨みつらみで戦うやつではなかった。

 

【まさか魔煌機兵とは……!】

 

俺はゾルゲの攻撃を捌きつつ、ある推論を導き出した。

 

【なぜだイプシロン。なぜそうまでして俺を殺したい。俺とお前の戦いはサンサで決着が着いただろう。無意味な戦いはお前の、PSとしてのプライドが許さないはずだ】

 

【……………】

 

ゾルゲの動きが止まった。

 

【……確かにあの時、私はお前に敗れた。PSである私が同じPSに負けたのなら私は満足だった。だが!】

 

ゾルゲの黒いオーラが揺らめきだした。

 

【死んだはずの私はこの世界で目覚めた。混乱する私にやつは言った。お前が、キリコが生まれながらのPS、異能者だと!】

 

【……………】

 

【とんだ笑い話だ。私やプロトワンはお前をモデルとして造られたデッドコピーにしか過ぎんというわけだ。コピーがオリジナルに敵うはずがない……!貴様に分かるか!この屈辱が!】

 

【イプシロン……】

 

【絶望に染まった私は自害しようとした。だが自害を押し留めた彼はこう言った】

 

 

 

【異能者とて無敵ではない。最高にして最強の力を与えよう。そして奪い取れ、とな】

 

 

 

【……………】

 

【そして私は力を手に入れた。後はお前を殺し、私が本物だと証明するだけだ】

 

【……そこまで堕ちたか】

 

【何っ!?】

 

【お前を唆したやつが誰かはどうでもいい。だが俺の知るイプシロンならそんなものは突っぱねたはずだ】

 

【黙れキリコ!】

 

【……そんなことをした所でフィアナが喜ぶとでも思ったか?】

 

【黙れ!たとえ悪魔に魂を売ろうとも、貴様を殺す。貴様に見せてやろう、この魔煌機兵ゾルゲの力を!】

 

ゾルゲから黒いオーラが爆発的に吹き出した。

 

【信じたくはなかったが、イプシロンも呪いに飲まれているのか……】

 

やっと違和感の正体に気づいた。もう俺の知るイプシロンはいない。フィアナのことも意に介していないようだ。

 

【行くぞ!】

 

ゾルゲは長槍を上段から振り下ろす。

 

【ッ!】

 

それをギリギリでかわして銃撃を撃ち込む。だがゾルゲは銃撃をかわして鋭い突きを放つ。頭部をかすったが戦闘に支障はない。返す刀でゾルゲのコックピットにアームパンチを放つ。

 

【ぐあっ!?】

 

どうやら正確にヒットしたようだ。ゾルゲは2、3歩下がる。

 

【かかったな!】

 

【しまった!】

 

だがこれがいけなかった。敢えて攻撃をくらい、自身の間合いに強引に引き込む。それがイプシロンの作戦だったようだ。

 

振り下ろされる長槍をかわしきれず、フルメタルドッグの右腕を肩ごと叩き斬られた。

 

【クッ……!】

 

左腕で銃撃をしつつ、一旦距離を広げる。

 

【どうした!?臆したか!】

 

ゾルゲはさらに横薙ぎに長槍を振り回す。次はかわせた。

 

【このまま離れても埒が開かない。ならば!】

 

俺はフルメタルドッグを接近させ、ゾルゲに密着するほど距離を詰める。その際にへヴィマシンガンを捨てた。

 

【貴様……!】

 

【得物が長過ぎたな】

 

そのままゾルゲのコックピットにアームパンチの連打を叩き込む。

 

ゾルゲの体勢は完全に崩れたようだ。

 

【これで……!】

 

へヴィマシンガンを拾った後、俺はミッションディスクを挿入し、アサルトコンバットの集中放火を浴びせた。

 

【グオオオオッ!?】

 

もろに受けたゾルゲはバランスを崩し、後ろの壁際に激突した。機体の損傷は甚大で火花が散っていた。

 

【勝負あったな】

 

俺はゾルゲにへヴィマシンガンを向けながらそう告げた。

 

[キリコ side out]

 

 

 

【……やはり強敵だったな。ストックしていた弾倉はほとんど使いきってしまった。だが行くしかあるまい】

 

キリコは黒キ星杯最奥を目指すべく動かないゾルゲに背を向けた。

 

【!?】

 

その瞬間、キリコの体にぞくりとした感覚が走る。

 

振り返ると、ゾルゲは黒いオーラに包まれていた。

 

【まさか、まだ……!】

 

キリコが思わず躊躇していると、ゾルゲはゆっくりと立ち上がる。

 

【……オオオオッ………】

 

【ッ!】

 

キリコは操縦捍を握りしめ、攻撃に備える。

 

【ウオオオオオオッ!!】

 

ゾルゲから黒いオーラがあらゆる方向に撒き散らされる。黒いオーラを受けたフルメタルドッグの体勢は崩れた。

 

【キリコォォォッ!!】

 

イプシロンの駆るゾルゲから憎悪の一撃が放たれた。フルメタルドッグは左肩から右脚まで抉られ、コックピットが剥き出しにされた。

 

【ぐあっ!】

 

【死ねぇぇぇっ!!】

 

ゾルゲは黒いオーラを纏った長槍の連続攻撃を叩き込む。

 

フルメタルドッグは頭部、左腕、右脚、左脚をバラバラに斬り裂かれ、後ろの壁際まで吹っ飛ばされた。

 

「……うぐっ………」

 

キリコはコックピットから倒れこむように出た。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ………」

 

ゾルゲの一撃は直撃は避けられたが、爆風だけは避けられず、キリコは左肩から斬られていた。また、砕かれた破片が腕や足に多数突き刺さっていた。

 

「……グッ………!」

 

拳と膝をつくキリコの足元には決して小さくない血溜まりができていた。呼吸も荒く、目は霞んでいた。

 

だがゾルゲは瀕死のキリコに止めを刺そうと長槍を振り上げる。

 

【……シ……ネ……ェ………!】

 

イプシロンは狂気の笑みを浮かべる。

 

「……………」

 

それでもキリコは立ち上がろうと腰を踏ん張り上げる。

 

【……シ……ネ…………キリ……コ………】

 

イプシロンは操縦捍を握り締める。

 

 

 

「そこまでだ、イプシロン」

 

 

 

【!?】

 

突如銃声が響き、イプシロンが振り向くとそこにはルスケとキリコの物とは違った耐圧服を着こんだ女がいた。

 

「イプシロン、私は痛めつけろとは言ったが殺せとは言っていない」

 

【……………】

 

「とはいえ、それに飲まれていては多少は致し方ないか」

 

【飲まれて………?……ッ!?私は何を……?】

 

「記憶もないか。まあいい。とりあえず降りろ。お前はキリコを手当てしろ」

 

「………ああ」

 

ルスケは女にそう指示し、女は半死半生のキリコに近づく。

 

「……………」

 

「………久しぶりだな、キリコ」

 

「………誰……だ……?」

 

「……グルフェーの砂漠、そう言えば分かるか?」

 

「……!?………」

 

女はヘルメットを脱いだ。その顔をキリコは知っていた。

 

「……テイタ……ニア………?」

 

「……ああ」

 

テイタニア・ダ・モンテ=フェルズ。

 

汎銀河宗教結社マーティアルにて秩序の盾の称号を持ち、ネクスタントと呼ばれる人間兵器。

 

そして彼女もまた、キリコに惹かれ、キリコを愛した女である。

 

「………………………………」

 

疲労と出血多量で、キリコは今度こそ意識を手放した。

 

 

 

十分後、テイタニアは処置を終えた。

 

「………終わったぞ」

 

「ご苦労。まあ助かるかは1割弱といったところか」

 

ルスケは手当てを受けたものの、目を覚まさないキリコを見ながらそう推測した。

 

「さて、現時点をもってキリコを拘束。これより、オズボーン宰相の元へと連れて行く。テイタニア特務中尉は置いてきた魔煌機兵でキリコを護送、イプシロン特務中尉は私の護衛だ」

 

「わかった」

 

「……了解した」

 

テイタニアは魔煌機兵ゾルゲに乗り、キリコを掬い上げた。イプシロンは長槍を手にルスケの後ろに付く。

 

「準備はできたか?」

 

【できている】

 

「……ああ」

 

「では行こう。向こうも終わっているだろうからな」

 

ルスケたちはオズボーン宰相のいる黒キ星杯最奥へと向かった。

 

 

 

1時間ほど前

 

【それでは始めるとしよう、リィン。世界を絶望で染め上げる、昏き終末のお伽噺を】

 

黒の騎神イシュメルガに乗ったオズボーン宰相は、黒の聖獣を打ち倒した結果、呪いに飲み込まれたリィンと灰の騎神ヴァリマールにそう告げた。

 

【オ……オオオォォ………】

 

「きょ……教官………」

 

「こんな……ことになるなんて……!」

 

「………………」

 

(教官だけでなく、カレイジャス号の乗っていたオリヴァルト殿下にアルゼイド子爵に遊撃士の方まで……。キリコさん………!)

 

ユウナとクルトは心が折れ、ミュゼは気を失ったアルティナは抱き抱えていた。

 

【……リィンさん…………】

 

【リィン……クソッ……!】

 

やむを得ず宰相の案に乗ることになり、緋の騎神テスタ=ロッサに乗ったセドリックと正気を取り戻し、蒼の騎神オルディーネに乗ったクロウは歯を食いしばり、拳を握り締めていた。

 

【これがアンタらの望んだことかい?え?】

 

【……はい………】

 

紫の騎神ゼクトールに乗ったルトガーと銀の騎神アルグレオンに乗ったアリアンロードことリアンヌは呪いが帝国全土に撒き散らされていく様子を感じ取っていた。

 

「フン…………」

 

マクバーンはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「ミリアムちゃん………」

 

「………………」

 

妹のように可愛がっていたミリアムの散華にクレア少佐は崩れ落ち、レクター少佐は肩に手を置く。

 

(これで騎神は6体。残る1体の"金"は………)

 

ルーファス総督は並び立つ騎神を見つめていた。

 

「キリコ、結局来なかったな……」

 

「そうなった場合、こちらの損害はさらに多かったでしょう。それだけでも感謝するべきかと」

 

残念そうに言うシャーリィを執行者《告死線域》となったクルーガーが窘める。

 

【さて、次は君たちだが……】

 

「!」

 

「くっ……!」

 

オズボーン宰相の声に新旧Ⅶ組に緊張が走る。

 

【この場は見逃してやろう】

 

『え!?』

 

オズボーン宰相の言葉に新旧Ⅶ組は呆然となった。

 

【こうして巨イナル黄昏が完成した以上、君たちにもはや用はない。そこの魔女の力でも使って脱出するといい】

 

『………………』

 

【言っておくが、これは最大の慈悲だ】

 

「………ッ!」

 

新旧Ⅶ組は慈悲という名の威圧に動きを封じられ、決断を迫られた。

 

「……行きましょう」

 

「エマさん!?」

 

「……セリーヌ、リィンさんをお願い!」

 

「ああもう、わかったわよ!とりあえずあそこで良いのね!」

 

「うん!」

 

エマは悔しさに耐えながら、転移の魔法陣を展開する。

 

「ま、待ってください!教官は……!」

 

「良いから行きなさい!あいつはあたしがなんとかするから!今のアンタたちじゃ無駄死にするだけよ!」

 

「………行こう、ユウナ……!」

 

クルトは自分の無力さに打ち震えながらユウナの背中を押した。

 

「………………」

 

そんな中、ミュゼは一人離れた。

 

「ミュゼ……?」

 

「すみません、私はここまでです」

 

「え……?」

 

ミュゼは懐から蒼い羽を取り出した。

 

「その羽は……」

 

「アンタ、なんでそれを……」

 

「訳はいずれ。オズボーン宰相、ではまた」

 

ミュゼはどこかへと転移していった。

 

【フッ……】

 

「ミュゼ……」

 

「……今はおいておくしかあるまい」

 

「ユーシス……」

 

「皆さん、準備が整いました!」

 

エマが新旧Ⅶ組を呼び寄せた。

 

「では………行きます!」

 

エマは新旧Ⅶ組と共に転移していった。

 

 

 

新旧Ⅶ組が去った後、オズボーン宰相はため息をついた。

 

「遅刻だぞ。ルスケ大佐」

 

「申し訳ありません。さすがに手間取ったようです」

 

ルスケは肩を竦めながらイプシロン、テイタニアと共に歩いて来た。

 

「なるほど。やはり来ていたか」

 

オズボーン宰相はゾルゲの手のひらで横たわるキリコを見つめる。

 

「どうやら自ら呪いを引き起こそうと画策していたようです」

 

「皇帝襲撃に加えてか、確かに最悪の結末は防げたかもしれんな」

 

「……おいおい。そりゃどういう意味だい?」

 

「……ご説明、願えますか?」

 

ルトガーとリアンヌがオズボーン宰相に詰め寄る。

 

「私にも分かるように説明を願います。彼は父を、陛下を撃った男です」

 

セドリックはサーベルを抜いて近寄る。

 

「俺も混ぜてもらおうか」

 

クロウはオズボーン宰相を睨みつけながら歩いて来た。

 

「クロウ・アームブラストか。煌魔城以来か」

 

「俺はそいつが何なのかはどうでもいい。だがここまで来れば無関係じゃねぇだろう。とりあえず、納得のいく説明をしろや」

 

「……いいだろう。特に巨イナル一に関わる者には関係があるだろうからな。そこの使い魔よ、お前も聞くがいい」

 

「………………」

 

オズボーン宰相は事件当日のことは勿論、キリコが異世界から転生して来たこと、黒の史書にひっそりと書かれている異能者であることをその場にいた全員に語った。

 

 

 

『……………………』

 

話を聞いた者たちは茫然自失となった。

 

「……なるほどな。どおりで炎と硝煙と死臭を感じるはずだぜ。元兵士で傭兵なら戦い慣れてるはずだ。いや殺し慣れてるって言うべきか」

 

ルトガーはキリコの体に染み着いた臭いの正体に感嘆した。

 

(転生………そのようなことが………。キリコ・キュービィー………だから貴方は………)

 

リアンヌはキリコが辿ってきた過去を知り、キリコの姿勢に納得がいった。

 

(不死の異能に神殺しに転生者って……なんてやつなの!?)

 

セリーヌはただ呆然となった。

 

「皇帝撃って呪いを発動させて、それら全部おっ被ろうってか。不器用にも程があんだろ」

 

「馬鹿げている!」

 

クロウの言葉にセドリックは声を荒げ、感情的になった。

 

「それならそうと一言くらい、相談してくれても、良かったじゃないか!僕は彼を、キリコを友達だと思っていたのに……!」

 

「たとえダチだろうと、言えないことくらいあるもんだぜ?てめえの親父を撃つってんなら尚更だろうよ」

 

「彼は、我々の想像をはるかに越える大きなものを背負っていたのです。善悪はともかく、その決断を咎めることは誰にもできません」

 

「なんもかんもてめえが被れば誰も傷つかない、誰にも相談出来ずに一人でそう考えたんだろうよ。勿論、相応の覚悟ってのが要るんだがな」

 

「………………」

 

クロウとリアンヌとルトガーの言葉を受けたセドリックはうなだれた。

 

「それで、彼は巨イナル一に関係があると?」

 

「そのようだ」

 

オズボーン宰相は落ち着きをはらっていた。

 

「おそらく私から剣を奪い、自力で黒の聖獣を討とうとしたのだろう。結果的には間に合わず、最悪の結末を迎えてしまったわけだが」

 

「異能者だか何だか知らないが、人の身の分際で……」

 

オズボーン宰相の話を黙って聞いていた、地精の長にして黒の工房の工房長、黒のアルベリヒは苦々しげに言った。

 

「そう馬鹿にしたものではない。むしろここまで来られただけでも称賛すべきだろう」

 

オズボーン宰相は目を覚まさないキリコに賛辞を贈る。

 

「キリコ………」

 

「お言葉ですが皇太子殿下、罪は罪です」

 

「………ええ。罪は罪。宰相閣下、総督閣下、後はお任せします」

 

「承りました」

 

オズボーン宰相は一礼し、すぐにルスケたちの方を向いた。

 

「至急、キリコ・キュービィーをヘイムダル監獄へ連行せよ。監視は徹底的に行うよう指示せよ。私の名前を出しても構わん」

 

「了解しました」

 

「リーヴェルト少佐は警備の編成を頼む。混乱が予想されよう。アランドール少佐は各方面に通達。内外に広めるようにな」

 

「……了解しました」

 

「了解しました」

 

「では、日時は……」

 

「ルーファス、調整は君に任せる。ではこれより帰還する。君たちもご苦労だったな」

 

オズボーン宰相はそれだけ行って去って行った。他の者たちもそれぞれ動き出した。

 

 

 

翌日 7月20日

 

帝都ヘイムダルに一つのニュースが流れた。

 

皇帝襲撃犯並びに共和国のスパイが捕縛されたことである。

 

帝都市民はもろ手を挙げて喜ぶ一方で、一部の市民が犯人を出せとヘイムダル監獄に押し寄せるというアクシデントも起きた。

 

だがそれを沈静化させるニュースが発表された。

 

 

 

『来る8月1日、大逆犯キリコ・キュービィーの公開処刑を執り行う』

 

 

 

この日、帝都ヘイムダルはかつてない大歓声に包まれたという。

 

 

 

かくして、呪いはばらまかれ、巨イナル黄昏が始まった。世界はの運命は大きく変わろうとしている。

 

これが終わりの物語か、それとも始まりの物語か。はたまた"神"か不死の異能者によって歪められた物語か。

 

現時点でその問いの答えを知る者はいなかった。

 

それはキリコ・キュービィーでさえも……

 

 

 

 

英雄伝説 異能の軌跡 完

 




今回で英雄伝説 異能の軌跡は一旦完結とさせていただきます。

連載が1年近く続けられたのも皆さんのおかげです。


今後の展開については活動報告に書いておくのでご覧下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。