タイトル通りロッチナの話です。本編で書けなかったロッチナの過去やキリコの活躍の裏で何をしていたかが明かされます。
続篇のエピソードへ繋がるので、いくつかネタバレも含まれています。
ロッチナ
七耀暦 1168年
エレボニア帝国は帝都ヘイムダルにルスケというごく普通の夫婦がいた。
夫は帝都の企業に勤めるサラリーマン、妻は専業主婦。
そんな夫婦に元にも子どもができた。男の子だった。
ここまでならどこにでもあるごくありふれた話である。
産まれてきた男の子が普通の子どもであるならば。
17年後 七耀暦 1185年
男の子は成長し、軍人になるという夢を持ってエレボニア帝国有数の名門高等学校、トールズ士官学院に入学した。
別段優等生ではなかったが努力家で、生徒会で副会長を勤めるなど、ある種の人望があった。
だが同時に彼は知った。いかに人望を集めようと、この国に敷かれている階級制度が貴族と平民を明確に分けることを。
平民というだけで貴族生徒には疎まれ、貴族階級の教官から目をつけられるということも少なくない。
いつしか彼は高級軍人になって彼らに比肩するほどの権力を手にすることを誓った。
3年後 七耀暦 1188年
トールズ士官学院を卒業した彼は帝国正規軍に入隊、第十機甲師団に配属された。
高級軍人になるべく、必死になって訓練についていったが、同じことを繰り返しているだけで気づけば2年の月日が過ぎていた。
軍の命令が絶対である以上、軍階級が准尉である彼にはどうすることもできずに燻り始めていた。
その時だった。
突然彼は激しい頭痛に襲われた。
まるで万力で思いきり頭を締め付けられるような痛みに七転八倒した。
ただ事ではないことを感じ取った上官は彼の同僚に医務室に連れて行くように命令した。
ベッドに寝かされた後も彼は地獄のような苦痛を味わうことになった。
だが痛みはピタリと止み、頭の中に多くの映像が浮かびあがった。
初めは驚きつつも、その一つ一つの内容を彼は冷静に受け入れた。
そして、彼が最後に見たものは赤ん坊を抱えた青い髪の青年であった。
その瞬間、彼は自分が何者なのかを思い出した。自分はこの世界の人間ではない。
炎と硝煙と死臭にまみれたアストラギウス銀河にて、ギルガメス連合メルキア軍大尉であり、バララント宇宙軍大佐であり、汎銀河宗教結社マーティアルで触れ得ざる者の研究と編纂を行っていたジャン・ポール・ロッチナであることを。
(なぜ私がここにいるのかはわからない。だがこうして全てを思い出したのも偶然ではあるまい。ならばこの世界のどこかにいるはずだ。生まれながらのPS、異能者、触れ得ざる者、キリコ・キュービィーが……)
(それにしてもルスケか。おそらく偶然の一致だろうが、これもあなたの策略か?ワイズマン)
彼──ロッチナはかつての主の名を呟いた。
[ロッチナ side]
七耀暦 1192年
私、ジャン・ポール・ロッチナは表向きはルスケと名乗り、帝国軍人として動いていた。
記憶を取り戻した私が最初に行ったのは権謀術数を用いて有望な同僚や無能な上官を蹴落とすことだった。
軍が完全な縦社会である以上、相応の地位がなくてはいるかも定かではない人間の捜索などできるはずもなかった。
そこで私はとある野心的な上官に賄賂などを用いて取り入り、その上官の出世の邪魔になる軍人の弱味などを握り出世の妨害や濡れ衣を着せるなどの裏工作を行った。
なお、賄賂の出所は第十機甲師団の軍費から抜き取ったものだ。
数年の内に私は准尉から大尉へと順当に出世し、その上官の副官になった。
ある程度権力が固まってきたのを感じ取った私は取り入った上官に部下殺しと軍費横領の罪を着せた。
ちなみに部下殺しの件というのは、以前私が出世の邪魔になると判断して行ったことだったが、死体と凶器を巧妙に隠しておいたのは正解だった。
取り入った上官が部下殺しと軍費横領の罪で更迭されると、帝国軍上層部は副官である私に尋問を行ったが、証拠など出るはずもなく、嫌疑不十分で釈放された。
一部で私が逆に軍上層部の弱味を握ったという噂が立ったが、ハーメル村の惨劇を発端とする百日戦役の勃発によりすぐに消えた。
七耀暦 1198年
百日戦役を終えても、私の地盤固めは終わることはなかった。自由に動くにはもう少し固めなくてはな。
噂とは便利なもので、私のやり方に異を唱えたり糾弾しようとする者はそうそういなかった。
口では何とでも言えるが、次は我が身だろうからな。
そんな時、少佐となった私の耳にある情報が入った。
D∴G教団。
女神を否定し、悪魔を崇拝する狂気的なカルト的宗教団体。
大陸各地から子どもたちを拐い、儀式という名の非人道的な試みを行っているという黒い噂の絶えない集団。
その暴挙を食い止めるべく、リベール王国の高名な遊撃士が有志を募っているということだった。
帝国軍人の多くはつまらぬ正義感から参加を決めたようだが、私は探し求めている人物が教団にいるのではと作戦参加を希望した。
各国の軍、警察、遊撃士などが一同に集う全体的な会合を経て、有志たちは各地の教団ロッジを一斉摘発を開始した。
私が担当したのはノーザンブリア自治州辺境にあるロッジだった。
そこではグノーシスと呼ばれる秘薬を用いて筋力や反射神経を強力なものにする人体実験が行われていた。
私が率いる小隊は瞬く間にロッジを制圧。逃げられないと悟った教団信者どもは全員自害した。
私は狂気的な笑みを浮かべて自害した信者たちには目もくれず、被害にあった者たちのリストに目を通した。
そこにはキリコ・キュービィーの名前はなかった。
だが私はリストの他に、教団の実験目的や内容が書かれた書類をいくつか発見した。
そこに書かれていた内容に、私は自身の目的以上の成果を得たと感じた。
また、他のロッジから押収された書類を密かに持ち去り、自身の物とした。
七耀暦 1200年
ある時、私はひょんなことからキリコを発見した。
たまたま帝都を訪れていた際に彼と思わしき少年を見た。
気づかれないようにこっそりついて行くと、少年は西オスティア街道外れに建つ孤児院に入って行った。
私は探し続けた人物の存在に小躍りするかのような衝撃を受けた。
そこで私は以前から画策していた軍情報局への転属を願い出た。
その際に面接をしたのはあの鉄血宰相の異名を取るギリアス・オズボーン宰相だった。
無事転属が決まったと思ったら、私はオズボーン宰相に呼ばれた。
君は呪いというものを知っているか、と。そしてその呪いが何なのかをも説明された。
オズボーン宰相の話を聞いた私は全てを悟った。キリコだけではなく、あの方も存在していたのだ、と。
私はオズボーン宰相に異能者のことを打ち明けた。
さしものオズボーン宰相は一笑に付したが、私の言葉には真実味があることも感じ取ってくれた。
そこでオズボーン宰相はエレボニア帝国皇帝ユーゲントⅢ世への謁見を取り次いでくれた。
私の話を聞いたユーゲントⅢ世は黒の史書とその原本のことを語った。オズボーン宰相もようやく信じるに至ったようだ。
その後私はユーゲントⅢ世とオズボーン宰相にいずれ異能者──キリコに会わせることを約束した。
その際私はさらなる調査にと情報局大佐の地位、つまり情報局の指揮権を与えられた。
また、この頃に黒の工房の工房長である黒のアルベリヒを紹介された。さて、どちらが本体なのやら。
七耀暦 1202年
私は情報局に転属後、情報局大佐として動く傍ら、キリコの過去や動向を探っていた。
どうやらキリコは14年前、つまり私があの頭痛に苦しんでいた時と同じ時期に転生と呼ぶべき形で現れたようだ。
また、キリコは赤ん坊の時に猟兵団の襲撃により貴族であった両親と使用人を喪い、孤児院に入れられた、とある。
さらに数年前の導力車両による事故の被害に遭ったのがキリコらしい。かすり傷一つない、正に奇跡だったという。
これもキリコの持つ異能の力なのかもしれないな。
ある時、キリコは帝国西部ラマール州の山奥の村に住む老夫婦の養子に出されたことを知った。
そんなある日、キリコが去った孤児院が火災に見舞われるという事件が起きた。
孤児院を経営していた院長と二人のシスター、そして16人の子どもたちが犠牲になった。
原因は不明であり、火の不始末か放火の両方の線で捜査が行われたが、結局打ち切られた。
マスコミは火事とほぼ同時期に起きた帝国遊撃士協会連続襲撃事件と関わりがあるかのように報道したが、私は帝国軍、というより呪いによるものだと見ていた。
かつてのハーメルの惨劇も、帝国正規軍である第十三機甲師団によるものだというからな。
そんなある時、サザーラント州を視察に訪れた際に目を疑う光景を見た。
アグリア旧道の外れで倒れている女を見つけた。
それは私も良く知るテイタニア・ダ・モンテ=ウェルズだった。
私はすぐさま結社身喰らう蛇の執行者である道化師カンパネルラを呼び出し、黒の工房へと送った。
その後、回復したテイタニアの身柄は私が預かることになり、テイタニアは私の推薦と権限で情報局スタッフという形になった。
彼女はなぜここにいたのかはわからないそうだ。
惑星メルキアのグルフェーの砂漠で激しい戦闘の後、キリコに看取られて死んだはずだと言っていた。
七耀暦 1204年
その後も私は命令という形で調査員をラマール州に送り込むなどキリコの行方を追っていた。彼らには命令の真意を判別する術はないからな。
運命が動いたのはその年の暮れのこと。
オズボーン宰相狙撃事件に起因する帝国史上最大の内戦、十月戦役である。
軍情報局としての本業が山積みになり、私は遺憾ながらキリコ捜索を中断せざるを得なかった。
ラマール州の調査員からの報告ではキリコの住んでいた村はジギストムンドとか言う貴族に滅ぼされたとあった。
間違ってもキリコが死ぬはずはないが、異能など彼らが信じるはずもなく、調査は打ち切らせた。
だがある日、帝国西部戦線にて、ある奇妙な噂が流れた。
黄金の羅刹オーレリア・ルグィン、黒旋風ウォレス・バルディアスが立て続けに敗れた。それを成したのは青い髪の機甲兵乗りである、と。
情報局スタッフのほとんどが何をバカなと笑い飛ばしていたが、私とテイタニアだけは違った。
(遂に来たか、キリコ!)
私は情報局員たちに戦時下であるからその噂をみだりに流したりしないよう厳命した。情報局スタッフたちも二つ返事で了解した。
私は独自のルートを使って帝国西部戦線の情報を集めた。確かに一見荒唐無稽なものが多いが、それらは事実だということは知っている。
年が明けて、内戦は終結した。
私は政府の手が及ばないように、キリコに関する記録は全て抹消した。
この頃から私はキリコの力を埋もれさせるのはあまりに惜しいと、どこかの軍学校や士官学校への裏口入学を考えていた。
まあ、本人は気に入らんだろうが。
七耀暦 1205年
その後の調査で私はキリコが帝都近郊の仮説住宅から海都オルディスに身を寄せていることを知った。
どうやらキリコは近郊都市リーヴスに建てられるトールズ士官学院第Ⅱ分校に入学するらしい。
詳しく調べると、分校長に就任が決まっているオーレリア・ルグィンが推薦人であり、逮捕されたカイエン公爵の姪が絡んでいるとあった。
私はさっそく手を打った。
教官として出向が決まっているミハイル・アーヴィング少佐にコンタクトを取り、第Ⅱ分校で検討されている独自のカリキュラムの情報を全て回すよう命令した。
また、黒のアルベリヒに依頼し、実験用機甲兵の設計等を行い、機体の設計図を意図的にG・シュミット博士に流した。
後はただ待つだけだった。
七耀暦 1206年
私はミハイル・アーヴィング少佐から回ってきた情報を元にキリコの動向を注視し続けた。
四月
キリコはクロスベル軍警学校出身者、ヴァンダール家の次男、情報局員"黒兎"という異色のメンツが揃うⅦ組特務科に所属が決定。
担当教官は帝国の英雄灰色の騎士リィン・シュバルツァーだと言う。
機甲兵教練でキリコはヘクトル弐型を駆るアッシュ・カーバイドという生徒と一騎打ちで完勝したそうだ。
ほんのちょっぴり腕が立つくらいでキリコに挑むとは相当の大馬鹿者のようだな。
サザーラントで紅の戦鬼に重傷を負わされたものの、一命を取り止めた。
そこで私は情報局で使用される秘匿回線を用いてキリコを実験用機甲兵フルメタルドッグを隠しておいた場所まで導いた。
その後キリコは結社の神機アイオーンtype-γⅡを灰色の騎士と共に撃破。
ただ、データを見る限りどうも拍子抜け感が否めない。
おそらく機体にリミッターをかけているんだろう。氷のように冷徹かと思えば甘い男だ。だがそれがキリコという男なのだ。
キリコを人間とするなら他の学生たちはせいぜい羽虫。それくらいの開きがあるからな。
五月
キリコは帝都ヘイムダルの百貨店にてチンピラ3人を叩きのめしたという報告を受けた。どうも聖アストライア女学院の女学生を助けるためだったらしい。
しかも、その場にはアルフィン皇女の姿もあったとか。
第Ⅱ分校に乗り込んで来た皇太子とその取り巻きを機甲兵で返り討ちにしたと報告があった。
その後の調査で皇太子は人が変わったようになったという。キリコの毒は今なお健在のようだな。
オルキスタワーにて晩餐会が開かれていたが、結社の執行者による襲撃があり、キリコたちは道化師カンパネルラと戦ったと報告を受けた。
その際、キリコは風の最上級アーツを2回受けても死なず、3回目にいたっては外れたという。さすがは異能者だな。
クロスベルの鳥籠作戦決行の翌日、キリコは学友と共に星見の塔とやらに突入。
塔の最上階にて飛行タイプの神機アイオーンtype-βⅡと戦い、勝利したそうだ。
驚くべきことだが、結社と袂を別った深淵の魔女が手を貸し、フルメタルドッグを転移させたらしい。
キリコと深淵の魔女との繋がりは不明だが、やはり私を飽きさせないな、キリコよ。
そんな中、私はミシュラム近くの湿原で思わぬものを発見した。
衰弱しきっており意識も混濁していたがそれは間違いなく、かつてキリコに敗れたパーフェクトソルジャーのイプシロンだった。
私はイプシロンを至急黒の工房に送り、調整を依頼。
また、いくつかの記憶操作を指示した。当分イプシロンは黒の工房預りだな。
六月
Ⅶ組特務科にキリコに完敗したアッシュ・カーバイドとカイエン公爵の姪であるミルディーヌ公女が移籍した。まあ、ミルディーヌ公女とオーレリア・ルグィンの策略なのは明白だな。
東の街道でキリコとオーレリア・ルグィンが機甲兵教練の名目で一騎討ちを行った。
実質引き分けだったらしいが、オーレリア・ルグィンが負けを認めたとか。
ラマール州にてキリコたちは高位猟兵団のニーズヘッグと北の猟兵と刃を交えたそうだ。助っ人がいたようだが、大した問題でもあるまい。
その日の夜、キリコは結社最強と言われる鋼の聖女に呼び出されたそうだ。
そこでキリコは鋼の聖女の手下の鉄機隊の剛毅と魔弓を封殺したらしい。異能者の肉体に加え、前世の記憶があいまったキリコなら当然かもしれんな。
翌日、黒旋風ウォレス・バルディアス少将からの依頼で貴族連合軍残党の掃討作戦が行われた。
元々キリコの力を測るべく、私は偽名で貴族連合軍残党に接触し、ミラと旧型機甲兵を回した。
相手が誰なのかも確かめもせずに取引を行うとは、チャールズ・ジギストムンドとは本物の阿呆のようで、父親の大失態からは何も学ばなかったらしい。
結果は上々とはいかなかったが、まあ良しとしよう。
その日の午後、ブリオニア島でキリコはよりによって鋼の聖女とその手下の鉄機隊と刃を交えた。
成り行きらしいが、鉄機隊の筆頭を倒したらしい。相変わらず運命の女神は微笑まないな。
翌日にキリコは北の敗残兵どもに乗っ取られたジュノー海上要塞に突入し、神機アイオーンtype-αⅡと戦闘した。さすがに空間を操るタイプには苦戦したらしいな。
その後、何を血迷ったのかキリコは新たにカイエン公爵を継いだミルディーヌ公女の専属護衛人になったという。まあ面白いから良しとするか。
それと、ようやくイプシロンを実戦に出せるようになった。
キリコへの憎しみはフィアナとは別の形で燃やしている。
プライドの高いイプシロンのことだ。自分がキリコのデッドコピーだと聞かされれば当然かもしれんな。
七月
トールズ本校と第Ⅱ分校合同の実力考査にて、キリコは全体の7位を取った。自称糞真面目な男は伊達ではないな。
第Ⅱ分校でOzシリーズが覚醒段階に入ったと報告を知らされた。黒のアルベリッヒは端から見れば暴走に見えると言っていた。
報告書ではキリコとリィン・シュバルツァーとランドルフ・オルランドの三人がかりでOzシリーズの片割れ、アルティナ・オライオンが乗る巨人機ゴライアス・ノアを止めたとある。
キリコたちは特務活動の最中、東のカルバード共和国から送り込まれた特殊部隊ハーキュリーズと戦闘になったそうだ。
一度は逃がしかけたが、トールズ本校と協力することで隊員の一部を拘束することに成功した。
共和国特殊工作員がヘイムダルに多数送り込まれていることはある程度掴んでいたが、上からの命令であることと、キリコの実力を測るために泳がせておけと伝えた。
スパイをわざと見逃していたとも言うがな。
その夜、私はミハイル・アーヴィング少佐を使ってキリコに会う段取りを取り付けた。
無論テイタニアとイプシロンの同席は認めなかった。
そしていよいよその時が来た。
「……入りたまえ……」
「……失礼する……!?」
「はじめまして…………いや、久しぶりだな、キリコ」
「……ロッ……チ……ナ………?」
面白いくらい予想通りにキリコは言葉を失った。
その後私はキリコにこれまでのことを話した。その内容にキリコの怒りを買ったが、まあ予想通りだな。
最後に、キリコにワイズマンについて聞かれたが、私ではなく皇帝や宰相に任せようと判断し、伏せておいた。
話してみてわかったが、やはり信用はされていないようだな。
翌日、キリコを含める第Ⅱ分校はトールズ本校と共に共和国からの特殊工作員ハーキュリーズ掃討作戦に打って出た。
その間、驚くべきことが起こっていた。
およそ800年前に討伐されたはずの暗黒竜ゾロ=アルクーガが復活を遂げたというのだ。
その暗黒竜の眷族にされ正気を失った特殊工作員どもが襲いかかったらしいが撃退され、全て拘束された。
帝都を守るため、リィン・シュバルツァーら旧Ⅶ組とキリコら新Ⅶ組は帝都地下の墓所に突入。
フルメタルドッグを犠牲に暗黒竜を倒したそうだ。伝説の化け物でも異能者を殺せなかったか。
なお、フルメタルドッグは戦闘時に付着した暗黒竜の血や体液に汚染され、スクラップにするしかなかったという。
そろそろキリコに新たな鉄の棺桶を与えてやる時が来たようだ。
私はさっそく黒のアルベリヒに連絡を取った。
その翌日、夏至祭でキリコはミルディーヌ公女とデートをしていた。まあ前世であれだけ苦労したのだ。結末はどうあれ、やつの幸福を祈らずにはいられん。
それにしてもフィアナ、三馬鹿の小娘、テイタニアに続き、ミルディーヌ公女にオーレリア・ルグィンに噂のある紅の戦鬼か。無愛想の割りに女にモテる奴だな。
それはともかく、私は頃合いを見てキリコに接触した。予想通り不機嫌になったが、ミルディーヌ公女の取りなしで渋々車に乗った。
二人を降ろした後、キリコにオズボーン宰相に会うよう告げた。
これで賽は投げられた。鬼と出るか、蛇と出るか。
その夜、ユーゲントⅢ世が青髪の士官学院生に撃たれたと情報が入った 。
使われた凶器は共和国ヴェルヌ社製の小型拳銃で、特殊な樹脂が使われておりセンサーをも潜り抜けられる代物だそうだ。
さらに間の悪いことに、拘束していた特殊工作員の一部がTMP詰所から脱獄した。
以上のことから襲撃犯のキリコ・キュービィーは共和国から送り込まれたスパイであり、皇帝の命を狙う暗殺者と断定された。
どうやらキリコは気づいたようだな。1200年の間、この帝国を覆う呪いにワイズマンが関わっていることを。
おそらくキリコは本来いるはずの刺客の身代わりになったんだろう。やつは理由もなしにバカな真似はしない男だ。
大方、全てを被るつもりなのだろう。やはり本質は何も変わっていないな。
そのまた翌日、私は皇帝襲撃犯並びに共和国スパイの汚名を着せられたキリコに会った。どこで調達したのか、帝都憲兵隊の制服を着ていた。
先を急ぐというキリコを引き止め、私はキリコにプレゼントをした。
それはキリコを含めた装甲騎兵御用達の耐圧服だ。
文句を言いつつ着てくれた。さすがに制服ではフルメタルドッグの真の力を引き出すのに役不足と思ったのだろう。
キリコが行った直後、私はイプシロンとテイタニアにキリコを徹底的に痛めつけるよう命令した。テイタニアはともかく、イプシロンはどうだろうな?
道化師カンパネルラの力で黒キ星杯に入れてもらい、先に突入していたテイタニアと合流した後、イプシロンの元へと向かった。
予想通りイプシロンは瀕死のキリコを殺そうとしていた。死にはしないだろうが、一応上からの命令だからな。
正気に戻ったイプシロンを護衛にして、オズボーン宰相の元にキリコを連れていく。
集合地に行くと計画は既に終了していた。さっそくオズボーン宰相からお叱りを受けた。そこは目を瞑ってほしいがな。
それにしても、壮観だな。七体いる内の六体の騎神が揃っている。まあ、灰の騎神は大分変貌しているが。
後日聞いたことだが、黒の聖獣を追い詰めたはいいが灰の騎神と生徒たちは巨イナル黄昏の成就を恐れて手を出せずにいた。
そこで計画を強行しようと業を煮やした黒のアルベリヒが気を失ったアルティナ・オライオンを手にかけようとした。
それを阻止せんともう片割れのミリアム・オライオンが飛び込み、救出した。だがその隙を突かれ、まだ生きていた黒の聖獣の一撃をくらい死亡、根源たる虚無の剣となった。
そして怒りに我を忘れたリィン・シュバルツァーと呪いで変貌を遂げた灰の騎神が黒の聖獣に止めを刺した。
結果、巨イナル黄昏が完成した。
それはさておき、命令通りキリコを連れて来たは良いが、肝心のキリコは目を覚まさないな。
結局フルメタルドッグもズタズタだしな。
報告を聞いたオズボーン宰相は「最悪の結末は防げたかもしれん」と呟く。
呟きに反応した猟兵王と鋼の聖女は不信感を持ってオズボーン宰相に詰め寄る。
皇太子はキリコを殺そうとでも言うのか、サーベルを携えていた。
蒼のジークフリード改め、クロウ・アームブラストに促される形でオズボーン宰相はキリコについて語った。
皆、さすがに言葉が出ないようだった。
キリコを自身の猟兵団に勧誘したという猟兵王はキリコ体に染み着いた炎と硝煙と死臭に合点がいったようだった。
キリコと交戦経験のある鋼の聖女は腑に落ちたような反応を見せる。
皇太子はキリコを友と呼び、なぜ言わなかったと叫んだ。だがクロウ・アームブラストたちの言うとおり、キリコの決断は誰にも咎められはしないだろう。
皇太子は本気でキリコの友になろうとしたのかもしれんな。
だが皇帝を撃った罪自体は消えはしないだろうし、キリコもたとえ赦されても無罪放免などとは考えてはいまい。
罪は罪だからな。少なくとも、帝国民の納得のいく落とし所に持っていくしかあるまい。
オズボーン宰相の下した答えは、『来たる8月1日に大逆犯キリコ・キュービィーの公開処刑を執り行う』ということだった。
それまでキリコは厳重な監視の下、脱獄は絶対に不可能とされ、帝都市民や犯罪者たちにとって恐怖の象徴である、ヘイムダル監獄へ収容されることとなった。
そしてキリコがブチ込まれる牢屋は政治犯や表沙汰にできない凶悪犯罪者が蠢く特別な場所らしい。
さて、次はどんな手を打つとしようか、キリコよ。
[ロッチナ side out]
次回は、キリコが過ごした孤児院の出来事です。