―――――――頭が痛い。
それが何によるものなのかもわからず、鈍い痛みが頭を駆け巡る。
いったいこの痛みはなんなんだろうか―――――――――
それを考えようとするも、痛みで思考が纏まらない。
と、自分の視界が真っ暗なことに気付く。目を開いている感覚はある。が、視界が闇に包まれているのである。一先ずこの場が何処かを確認しようと腕を動かそうとして気付く。腕の感覚も無い。脚も無い。四肢を動かそうにもまるで自分の魂だけが肉体から飛び出てしまったかのように目、口、両手足、首…全て動かせない。
動けない状態の自分へと大きな恐怖感が襲う。――――怖い、怖い、怖い、怖い!
あまりもの恐怖に叫び声を上げようとするが、口も動かず、軽いパニックに陥っていることを自覚しながらも、それをどうやっても除くことができない現実に恐怖心が大きく膨れ上がる。
――――ふと、違和感を感じた。自分以外誰もいないように思える空間。自分以外に誰もいない。
白いシャツの上に青いワンピースを着た、その少女がこちらへと視線を向けて立っている。真っ暗な空間に一人だけ。
―――その"
―――――最強に、なりなさい。アタイになったのなら―――――
―――――――きっと、アンタはなれる――――――――
――――――だから――――――
――――きっと、
「ッ!?~~~~~!?」
身を起こす。じっとりとした倦怠感に体中が包み込まれる。
汗によって背中に張り付いた服に嫌悪感を覚えながら周りを見渡す。
―――ここはどうやら誰かの家の中らしい。洋風な造りであり、西洋のお菓子だろうか、天使の輪のような幻想的な見た目をしているケーキがテーブルに置かれている。
自分はいつの間にかこの家のベッドに寝かせられていたようで、ベッドのシーツには自分がかいていたのだろう汗がびっしょりと染み込んでいて酷くうなされていたことがわかる。
誰か人はいないのだろうか、とベッドから起き上がり、部屋を探索しようと足を踏み出すと、突然視界が暗くなる。
一体全体なにが起こっているんだ。と、ここで気づく。大量の汗、それに突然の眩暈。熱中症か脱水症状の類だろう。そう判断し、すぐに立つのをやめ、ベッドに腰掛ける。ふと、疑問が浮かぶ。"何故自分は熱中症になっているのか"についてだ。自分が意識を失っていた間のことはわからないが、その前はたしかそこまで暑くない――――むしろ涼しいくらいの気候だった筈。恐らく秋か冬あたりだろうか。そもそも記憶の最後に残っているのは森の中で散策していることぐらいであり、森の木々の青々とした葉が風で揺られていて――――ん?青々とした葉?
と、思考の海に沈んであまりまわっていない頭で考え込んでいると、テーブルの近くにあった扉から大きな音が鳴った。突然のことに頭の中が真っ白になり、音の元へと顔を向けると、小さく開いた扉と、そこから、ウェーブのかかった金髪の少女が気まずそうにこちらを覗き込む顔が見えた。
―――気まずい空気があたりを包み込む。彼女はここの家主だろうか、ならば自分を救助してくれたお礼をしなければと考え、再び立ち上がるが、またもや眩暈が襲い掛かり、たまらず片手で頭を抑えてベッドに座り込む。
その姿を見た先程の少女があわてたような仕草で扉を開け、自分へと駆け寄る。
「大丈夫!?まだ起きたばかりなんでしょう?大量の汗を掻いているのだからまずは水を飲みなさい!森の瘴気の影響で体の水分が抜かれているでしょう?」
そうまくし立てて、いつの間にかテーブルにおいてあった水入りのコップを手にして自分に手渡す。反射的に受け取ってしまい思わずその少女の方を向いてみれば、彼女が目で"飲みなさい"と訴えてくる。
彼女の言葉に従い水を一気に飲むと、途端に体中に水が染み渡るような感覚を覚える。と、同時に思考がクリアになる。
あ、と思わず声が出る。改めて目にしたその少女には見覚えがあった。自分が気絶する前に微かに見えた少女。七色の魔法使い、アリス・マーガトロイドがそこにいた。
―――この物語はまだ序章だ。だが、この出会いが大きなターニングポイントになったと。そう、僕は自信を持って言えるだろう―――