馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の昼休み
各々が自由に昼食をとっている時間で学園長である『ばあちゃる』は睡眠不足を解消するために昼寝をしているとのうわさだが…


彼とアイドル部と電脳少女
お昼寝は彼の腕の中で(八重沢なとり)


「失礼します。プロデューサー少しいいです…あらいない」

 

私立ばあちゃる学園の二階にある学園長室と記された扉を開けながら、中にいるはずの人物に声をかけるものの、その人物は不在であった。

 

「おかしいですね、確か今日は一日中学園にいるって朝の時に聞いていたのですが」

 

首を傾げなら学園長室に入室する。朝のミーティングの際に、確かに学園長である『ばあちゃる』から伝達された内容を思い返しながら少女、『八重沢なとり』は作業で使われる机の前まで足を進めた。

 

「整理されていますが、片付けれてはいない。出しっぱということは、席を外しているのでしょうか?」

 

机の上に、先程まで使われていたであろう整理された資料も目視しながら考察する。ふざけた見た目とは裏腹に、仕事に対しては誠実である彼が、資料などを片付けずに帰宅するはずないとなとりは知っていた。もしやと思い携帯端末を取り出し、連絡がないか確認するもそれらしきものはない。ではどこに、と思考しながらふと横に目を向ける。

 

「ああ、仮眠室ですね」

 

そこは学園長室からのみ入れる仮眠室の扉だった。学園設立の際にばあちゃるの激務を予想した同僚であるシロ及びメンテちゃん、ついでにピーマン君がせめて学内での休憩時に仮眠を取れるようにと作ったものである。仮眠の為に、席を立ったのであればこの整理だけで終わっている机の状況にも、納得ができるとなとりは一人頷いた。そして「失礼します」と小声で仮眠室へ入室する。

 

「あ、畳を敷いてあるのですね」

 

入ってすぐの三和土には見慣れた白い靴。そして予想していたよりも広い仮眠室の片隅に布団が敷いてあり、そこにばあちゃるがいた。いつも着けている、馬のマスクと靴とお揃いの白い手袋は離れた位置に置かれている机の上に整理されて置いてある。

 

「寝相いいんですね。てっきり悪いものかと」

 

配信の職業柄かつい考えていることを口に出してしまう。それは聞かれてはいなかったが、やはり多少の羞恥はあったのか、なとりの頬は少し赤くなった。誤魔化すように咳払いをし、ばあちゃるが眠る布団の前に座り、顔を覗き込む。白髪に整った顔立ち。それはシロとよく似ており二人が並べば誰もが兄妹だと思うほど特徴は似ている。しかしばあちゃるの顔には痛々しい大きな傷跡が残っていた。

 

「この傷跡のせいで、いつも顔をあのマスクで隠しているのですか?」

 

気づいた頃からばあちゃるは馬のマスクを被っている。それはVTuberとして活動する前、思い返してみれば出会った時からしていた。

 

「別に私たちは気にしませんのに」

 

ばあちゃるは隠しているだろうが、アイドル部はすでにその素顔について気付いていた。なとりが気づいたのは、.LIVEとしてのミーティング時の休憩中に一人離れて珈琲を飲んでいる姿を確認した時だ。初めて見た素顔だったが、何故か「ああ、ばあちゃるさんか」と確信できるものでもあった。部内で確認すると、やはり全員その素顔に気づいていてその発覚した原因も全部ばあちゃるの不注意だ。「馬Pらしいね」といったのはたまだったか、それで皆で笑いあった記憶を新しい。一応隠していることだからばあちゃるから告白があるまでは内緒にしようと部内で決まったことでもあった。色んな感情が胸に思いながら無意識になとりはばあちゃるの頬を撫でた。

 

「…わ、私は何を!?お、起こさなくては!」

 

ふと我に返り羞恥を誤魔化すように、ばあちゃるの体を揺らし起床を促す。しかし思い返してみれば、要件はそこまで急を要するものでもないのでこのまま寝かしておこうと揺らすこと辞めたが、丁度ばあちゃるから呻き声が聞こえた。

 

「ん…んん?なとなと、ですか?」

 

「ああ、ごめんなさいばあちゃるさん!起こしてしまいましたね!」

 

寝ぼけた様子で手の甲で目を擦りながらばあちゃるは上半身を起こす。寝ぼけているのか、半目の状態でぼぅっと焦点を合わないその顔はシロがよく見せる同じ半目の時の表情とよく似ていた。

 

「急の予定ではなかったのですが、ちょっと相談したいことがありまして様子を見に来たのですが、起こしてしまってごめんなさい」

 

なとりは言葉とともに頭を下げ謝罪をする。しかし返事は帰ってこない。普段通りであれば「大丈夫でふよ」と大げさに手を振りながら返事を返してくれるはずだった。不審に思いなとりは顔上げる。

 

ふと、なとりは不意にシロが過去に注意してくれたことを思い出す。『寝起きのばあちゃるには絶対に近づいてはいけない』ということを。

 

「あの、ばあちゃるさ…きゃ!?」

 

顔を上げ、ばあちゃるの顔を確認するより前に腕を引かれる。急なことに抵抗できずなとりの体は前のめりに倒れ、そのままばあちゃるに抱き留められた。

 

「な!なななななななな!!??」

 

なとりは、自身はどのような状況か認識したと同時にその顔を烈火の如く朱に染めた。そして、離れようと体を動かすより前にばあちゃるの腕が背に回る。その状態が、抱きしめられているのもだと理解するとなとりは更に混乱した。

 

「ばばばばばば、ばあちゃるさん!?」

 

「いやーなとなとはかわいいですねー」

 

慌てて名を呼ぶが、帰ってきたのは彼がよくなとりに言う定番な誉め言葉だ。いつも通りであれば軽く返事をし聞き流すことができたが今回は違った。普段とは違い寝起きのためかどこか抜けた声に腰に回された腕により優しく抱きしめられ耳元に囁かれる。

 

「風紀委員長としても頑張っていてホントいい子ですー」

 

(こ、これはいけない!)

 

そう思うものの体は動かせない。抱きしめられてはいるがそれはあくまで抱き寄せるレベルの力なので全力で抵抗すれば簡単に抜け出せるのだがなとりはそれができなかった。それは抜け出すの際にばあちゃるを傷つけることへの抵抗を感じたのか、それとも別のなにかが要因なのか混乱するなとりの頭では理解することはできない。

 

(さ、幸い寝起きですし私はこのまま耐えればばあちゃるさんが再び眠りにつくか起きるでしょう)

 

「いやーばあちゃる君はこんないい子をプロデュースできるなんて誇りですよ」

 

そう思考するもののばあちゃるからの囁き攻撃は未だに続く。語彙力がないことで有名な彼なので、いづれ自分が慣れていくものだと考えたが甘い考えだと思い知った。

 

(だとしても私はまけません!!)

 

何に対して敗北するのかはよくわからないがなとりは決意を新たにした。

 

 

 

 

――――5分後――――

 

「あぁ^~~~~」

 

勝てなかった。

即堕ち2コマも真っ青の速さでなとりは陥落した。気づけば二人揃って敷いてある布団の上に倒れており、なとりは、ばあちゃるの抱き枕のように優しく包み込むように抱きしめれている。絶えなく続く誉め言葉に一切慣れることなく、なとりは既に耳まで真っ赤にしていた。

 

「なとなとは髪もきれいっすね。ずっと撫でても飽きないしいい匂いですよ。いやーホントになとなとはばあちゃる君の誇りっす」

 

背に回した内の片手でなとりの頭を撫でる。その際にも髪を乱れないように繊細に注意しながら優しく撫でることに気づいてしまい、より胸の鼓動が加速する。なとりの心臓は色々と限界に近かった。

なによりなとりを深みに落としているのは、ばあちゃるの胸元から微かに香る男性特有の匂いだ。元々なとりはほうじ茶好きを公言しているように香りには敏感な方である。ばあちゃるからは消臭などをしっかりしているのか匂いは特にない。香るとしても柑橘類の爽やかな匂いだ。しかし抱きしめらればあちゃるとの距離もほぼゼロとすると話は別である。

 

(か、考えがまとまらない!)

 

ばあちゃるから香るその匂いは着実になとりを深みに落とす。胸の鼓動はより早くなり、思考もまとまらず霧がかかったかのような錯覚も覚える。そしてなにより体に熱が発するかのように熱かった。このまま身をゆだねようと楽になるだろうと理性とは反対に体の力は本能に従い徐々に抜けていく。

 

「なとなとー。なとなとー」

 

(…ん?)

 

頭を撫でる手が徐々に弱まっていく。同時に耳元で囁く声にもより力が抜けていき、とうとう名前を呼び続けるだけのものになった。これを好機と見たなとりは恥を捨て、最後の力を振り絞り自身の腕もばあちゃるの背に回し、あやす様に撫でる。それは思考しての行動ではなくほぼ無意識の行動だった。

 

「…私たちのためにいつもありがとうございます」

 

「…いやー、僕は好きでやってますよー」

 

「ふふ、知ってます。けどお世話になっているのは本当なので素直に受け取ってください」

 

「そう、言われちゃいますと、照れますねー」

 

そっと顔を覗き込むとばあちゃるの瞼は落ちていた。レム睡眠と呼ばれれる状態なのか定かではないが、既にばあちゃるの意識はほとんど落ちており、なとりの呼びかけには条件反射で返事をしていたのだろう。そう分析したなとりは極度の緊張状態から抜けたためか急に眠気襲われた。まともに回らない意識の中、寝やすいように頭をばあちゃるの胸に寄せた。

 

「…大好きですよ。私のプロデューサー」

 

朦朧とする意識での発言を理解しないままなとりは意識を手放した。

 

 

 

 

 

「馬の寝起きの酷さについて?」

 

「うん!」

 

私立ばあちゃる学園の来客用の入り口に二人の少女がいる。片方は学園の長であるばあちゃるとVTuberとして同期である『電脳少女シロ』。そしてもう片方は蒼と白が特徴的の活発なイメージを彷彿とさせる衣装を纏うのは『ミライアカリ』。2人はVTuberが集う生放送の打ち合わせの後、一緒に昼食をし、シロが学園に用事あるとのことなのでアカリもこの後には特に用事はなにもないので同伴し学園に赴いた。

 

「アカリちゃんにその話したっけ?」

 

「シロちゃんからは聞いてないよ。ついこの間、偶然のじゃロリさんと会ってねー。その時ばあちゃるさんの話で盛り上がってその時に聞いたんだ」

 

「のじゃロリさんが?」

 

「忙しそうにしてたよ」とアカリは心配そうな顔を浮かべた。『バーチャルのじゃロリ狐娘元Youtuberおじさん』のこと、のじゃロリは不定期に動画を上げているVTuberの仲間で、他にキズナアイと輝夜月と合わせて四天王と呼ばれている仲である。のじゃロリは現在、VTuberとしての活動は控え、元々目指していた夢の為に裏方としての活動を主にしている。VTuberとして共演はほぼ無くなったが、同じく裏方としても活動しているばあちゃるとは、未だに付き合いがあるのでシロも昔ほどではないが時折姿を見かけていた。そんなのじゃロリであれば確かにばあちゃるの寝相の悪さについても知っていてもおかしくはないだろう。

 

「その時はのじゃロリさんが急用で抜けちゃって、結局聞けずじまいだったからどうしても気になっちゃってね」

 

「えー。どうしよっかなー」

 

「お願いシロちゃん教えて!時々思い出す度に気になって作業が止まっちゃうの!」

 

「ね?」なんて可愛く首を傾げる。そのアカリの姿に内心「ずるいなぁ」なんて思いながらシロはニコっと笑顔を浮かべた。

 

「しょーがありません!特別に教えてあげましょう!」

 

「わー!シロちゃんありがとー!」

 

ぱちぱちと拍手をするアカリにシロは笑みを零す。それに釣られてかアカリもくすくすと笑い声を上げた。学園が授業中だということを思い出したシロは慌てて人差し指を口に当てて「シー」とアカリに送る。それに気づいたからアカリは慌てて両手で口を塞ぐ。辺りを見渡し、特に変化がないことを確認し二人は改めて声を出さずに笑いあった。

 

「のじゃロリさんから聞いていると思うけど馬の寝起きは本当にひどいの。もともと低血圧ってのもあるけど目覚ましが起動して10分くらいはその場でぼーっとしちゃうのです」

 

「10分も!?え、その間目覚ましは鳴りっぱなし?」

 

「鳴ってないと二度寝しちゃうよ」

 

靴を来訪者用の下駄箱に入れ中に入っていた履物に履き替える。先程の反省を踏まえ声は小声だ。

 

「だから寝起きの馬はうるさいから近寄らないほうがいいの」

 

「えーホントにそれだけ?」

 

納得いかないと表情に出し、アカリは問う。「それだけ!」と少し力強く言うがアカリの視線は一向に解けない。それに諦めたようにシロは口を開いた。

 

「馬って恥ずかしいくらいに褒めてくるよね?シロちゃんはカワイイですよー!って感じで」

 

「え?ああ、そうだね。シロちゃんのことは別格に褒めるけど共演した子やアイドル部の子とかもすっごい褒めてるね」

 

急に話題が変わるもののアカリは同調し頷く。実際ばあちゃるは共演者に対しても「〇〇はいい子っすねー」とよく賞賛する。その褒め方はファンなどから貰う誉め言葉とは違いどことなく父性を感じるものであった。そのためアカリ自身ばあちゃるに賞賛されることは嫌いではないし、不思議と下心を感じさせないため共演する機会の多い子からも概ね高評価だ。

 

「あれって馬の中では結構セーブしてるの」

 

「え゛!?あれで!?」

 

意外な事実に驚愕する。アカリが知っているばあちゃるが褒めるときはそれはもう全力で体で表現しながら発言してくるのでその事実は信じられないものであった。

 

「現に馬ってボディタッチって絶対にしないんだよ」

 

「あー言われてみれば私もばあちゃるさんと振れたことあるのは挨拶の時の握手くらいだ」

 

思い返してみるとシロの言う通り、ばあちゃるは絶対に自身からの接触してきた記憶はない。また共演者とばあちゃるの会話もできる限り思い返してみるがやはり思い当たることはなかった。

 

「後輩のアイドル部の中でもピノちゃんの頭を撫でるときとかもちにゃんやイオリンに抱き着かれるときくらいしかボディタッチないの」

 

「ほえー身内でもきっちりしてるなんてばあちゃるさんらしい」

 

「けどそれって関係あるの?」と首を傾げるアカリにシロは何故か頬を少し朱に染めながら言葉を続ける。

 

「寝起きの時はそのリミッターって言うのかな?それがないの。だからその、寝起きの時に近づくと抱き着かれるの!」

 

「ばあちゃるさんが!?」

 

「うん!でもっていつも以上に力が抜けたような声で褒めてくるの!」

 

羞恥を隠すように語尾を荒げるシロにアカリは少々大げさに引く。内心では(これはシロちゃんもやられたなー)なんて考えているがそこをつけば最悪救済されてしまうことは彼女との付き合いで分かり切ったことだった。白熱するシロに相槌を打ちながら目的の物がある学園長室の扉を開けた。

 

「馬―入るよー」

 

「開けながら言うんだ」

 

遠慮のないシロの態度に再び引く。これがシロとばあちゃるの距離感だと知っていてもやはりちょっと衝撃はある。それは彼女たちと既に半年以上の付き合いがあるアカリでも同じだった。

閑話休題

室内には肝心のばあちゃるは居らず作業スペースと思われる机の上には整理された資料が並べられていた。

 

「あれ?ばあちゃるさんはお出かけ?」

 

「この時間なら仮眠室で寝てるよー」

 

シロが指さすほうには仮眠室と書かれた表札とともに扉があった。

 

「アイドル部ができてから馬が忙しくなりすぎちゃったから社内でせめて『学園で作業する時は仮眠するように!』って作られたの」

 

「ばあちゃるさんが仮眠するなんてなんか想像つかないな」

 

「最初はアカリちゃんの予想通り仮眠なんかしなくて、時間が空けばシロの収録とかの手伝いしてたんだけどさすがに馬の勤務時間がヤバいってことで強硬手段とることになりました」

 

そういってシロの指が指すほうには監視カメラが一つ。ご丁寧に仮眠室の扉を映す様に設置されていた。

 

「休憩の開始時間に仮眠室に入らないかカメラで確認して入ってないなら馬に電話すること様になったの」

 

「うわ。徹底してる」

 

しかしそこまでしないとばあちゃるはそこまでしなければきっと休憩しないだろうとアカリは確信していた。シロの言う通りばあちゃるのワーカーホリックぶりは業界では有名な話だ。自身のチャンネルにアイドル部のプロデュース。さらにシロのサポートとなればその仕事量は尋常じゃないことは容易に想像がつくことだった。

 

「あ、用事ってなんだったの?」

 

「馬に預けてた荷物を取りに来たんだけど。ここにないなら仮眠室かなー?」

 

机で何か探していたシロはアカリに並ぶように仮眠室の扉の前に立つ。「寝てると思うから静かにしなきゃね」と小声で楽しそうに笑うアカリに釣られてクスリと笑う。そしてシロは静かにその扉を開けた。

 

それは「教師と生徒の禁断の愛だ―!?」とアカリが絶叫する3秒前。そしてシロがばあちゃるをぱいーんする5秒前の出来事だった。




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