馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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町の離れにある教会
そこには町にて有名なシスターが勤めていることで有名でどんな悩みも聞いてくれるらしい
また、個人情報の秘匿のため、最新鋭の設備が施された懺悔室があるようで…?



(番外編)


彼への想いとあたしの決意(猫乃木もち)

「ほえー、ここが教会かー」

 

平日のお昼過ぎ。『猫乃木もち』は自身が通う学園から少し離れたところにある教会へプロデューサーである『ばあちゃる』と共に訪れていた。本来、学生であるもちは平日であるため学園に通わなければいけないのだが、とある事件に巻き込まれた結果、一週間ほどの休学を指示されている。

 

「プロデューサーちゃん。ここにエレノアちゃんがいるの?」

 

「はいはいはい。そうっすよ。あの事件の後、ご家族の方たちがこちらに越してくれる事になったっすよ。それでエレエレにはカウンセリングとして同年代と触れ合いを目的にここにボランティアとして通ってもらうことになったっすね。はいはいはい」

 

『エレノア』。それは先日にもちとばあちゃるに加え、『ときのそら』と『友人A』が巻き込まれた通称『魔女の家』事件においての被害者の一人だ。事件当初は『魔女の家』に登場する『エレン』と呼ばれていたが、本名がエレノアと判明したことによりもちはそちらの名を呼んでいる。

 

「当日も思ったけど、活発そうな子だったもんね。身体が回復すればあとは運動すれば元気になれるよ!」

 

「はいはいはい。向こうの方じゃ死亡扱いされてたらしいすっからね。ご両親もそれなら再スタートとして丁度いいと言ってったすよ」

 

「思い切りのいい人たちでよかったよ」

 

行方不明になって半年。エレノアの両親は諦めなかったが周りはそうではなかった。その為、エレノアが無事に回復し復学しても無駄なトラブルを予想した結果の判断である。その判断にばあちゃるは感銘し、せめてお手伝いとしてエレノアが早くこちらに馴染むように学園とは別に交流の場となっているこの教会を紹介したのだ。

 

「エレノアちゃんは学校はどこになるの?」

 

「はいはいはい。それはですね、この教会からも最寄りの学校に転校予定っすね。この前にあった時は『ばあちゃる学園に進学する!』と言っていたのでもしかしたらウチの中等部に来るかもしれないっすよ?」

 

「お!ってことはピノっちの後輩ができるじゃん!」

 

「ピーピーに伝えたら喜びそうっすね、完全に」

 

「かかれー!!」

 

「え!?」

 

「ウビッ!?」

 

そんな談笑をしながら教会へ入ろうとするがそれより先に教会から複数の影が飛び出す。現れたのは小さな影、子供の影だ。それは掛け声と同時にばあちゃるに飛びつく。体格のいいばあちゃるは最初の2,3人程度なら余裕をもって受け止めていたが、さすがに7,8人と増えれば耐えきれず、ついには押し倒されてしまった。

 

「プロデューサーちゃん!?」

 

「えぐー!?ちょいちょーい!みんな重いっすよ!?」

 

「馬先生先週ぶり!」

「マスク外せマスク!」

「重くないよ!」

「抱っこしてー!」

 

「こ、これはいったい?」

 

ばあちゃるを押し倒した子供たちは彼の言葉など聞かずに好きに言葉を吐く。ばあちゃるの腹に乗る者。マスクを無理やり取ろうとするものと、もはや好き放題である。あまりの急な展開にもちはそれを少し離れた位置で呆然と見ることしかできなかった。

 

「こらー!おうまさんに失礼でしょー!」

 

「うわ、シスターだ!」

「お説教されるぞ!」

「逃げろー!!

「ほら、馬先生も!」

 

「ウビッ!?ばあちゃる君はシスターに用がッ!ちょ!?助けてシスタァァァァ!!」

 

飛び出してきた教会の奥から聞こえてきた可愛らしい声が響くと、子供たちは慌てだして逃亡を図る。そしてそれは、何故かばあちゃるも同行する形となった。振り払えば容易に脱出は出来るが、彼がそんなことをできるとは思えない。もちの予想通り、ばあちゃるは振り払えずに引っ張られ教会に隣接されている遊具広場へと連行された。

 

「もう!やんちゃなんだから!」

 

「あー!しすたぁだ!」

 

「はい?あら、もちちゃん!?おうまさんとご一緒だったのですか?」

 

教会から現れたのは『にじさんじプロジェクト』所属でVTuber界きっての清楚(真)と謳われる『シスタークレア』その人だ。教会での業務中だったのだろう。その姿は見慣れたシスター服を身に纏い、片手にははたきが握られている。

もちとクレアは直接的な共演はないが、もちが登録者5万人の記念の際にクレアからお祝いを貰ったことが付き合いの始まりだ。偶然にもクレアが飼っている猫の名前も『もち』であることから、クレアの方ももちに対して前々から親交を深めたいと思っていたとのこと。それ以降も直接会うことはなかったがSNSでは仲良くしているのを目撃されている。

 

「おうまさんが同行者がいると伺ってましたけど、もちちゃんだったなんて!感激です!」

 

「にゃはは。そこまで喜んでくれると嬉しいです!あ、そういえばしっかりと自己紹介してなかったですよね!ばあちゃる学園、アイドル部所属の猫乃木もちです!よろしくお願いします!」

 

「そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ。配信の時みたいに力を抜いて、ね?改めてシスタークレアです。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

固くなるもちに優しく諭す。その柔らかな優しさにもちは赤面をする。そんなもちの様子にクレアはくすくすと笑う。

 

「そ、そういえば!しすたぁはプロデューサーちゃんが来ること知ってたみたいだけど、なんでなの?」

 

「くすくす。実はおうまさんにエレノアちゃんことを相談されまして。でしたらここでボランティアとしてくるのはどうか、って提案したんですよ」

 

「え!?しすたぁが発案なの!?」

 

「そうなんですよ。先日まで放送していた番組でおうまさんとそらさんと共演させて頂いたおかげで、今でもお付き合いをさせてもらっていまして。先週にそらさんと一緒に顔を出されたときにそのことを聞いたので力になればと思いまして」

 

「それで教会だったんだぁ。プロデューサーちゃんと教会って結びつかないから想像できなかったけど、そういうことだったのかー」

 

予想外の協力者にもちは感嘆の声を上げる。思い出すのは既に終了した番組に共演していた三人の姿。その関係がそれで終わらず、未だに続いている事実にもちは胸が熱くなるのを感じた。

 

「あ、そうだ!プロデューサーちゃん連れ去られたんだった!?」

 

「それなら大丈夫ですよ。おうまさんはこの教会で人気者なので来訪される度にああやって連れてかれちゃうんです」

 

「あ、毎度のことなんだ」

 

予想外な答えにもちはガクッとコミカルに肩を落とした。その様子にクレアは笑みを零す。

 

「おうまさんはまっすぐな方ですから。子供はすぐに見抜いて懐いちゃいまして。なので来訪されるときはいつも時間に余裕をもってもらっているんです」

 

「あー。言われてみれば確かに。エレノアちゃんに会うだけならすぐに終わっちゃうもんね。道理でくる前に見たプロデューサーちゃんの予定が空いてるわけだ」

 

ここに向かう前に聞いたスケジュールを思い出す。教会での所要時間がやけにあるとは思っていたが、その理由が分からずじまいで首を傾げていたが、ようやく納得できた。

 

「ああなっちゃうと長いですよ。丁度私も休憩時間ですし、良ければ一緒にお茶でもどうですか?」

 

「いいの!?お邪魔しちゃいます!」

 

元気よく返事するもちに再びくすくすと笑みを零す。

 

「ではいきましょうか。今の時間なら中庭がちょうどいい日差しで気持ちいいはずです」

 

「わぁ、しすたぁとお茶だ!楽しみ~」

 

「くすくす。あ、そうだ!」

 

教会の中に招き入れる途中に思い出したように振り返る。急のその動きにもちは目を白黒させた。

 

「宣伝になっちゃうんですけど、この教会の懺悔室って最新鋭を使っているので外部に漏れることがほとんどないんですよ。もし、悩みなどあれば利用してみるのも手ですよ?」

 

「は、はぁ?」

 

脈拍のない宣伝にもちは首を傾げる。付け加えるように『一応教会の宣伝もお仕事なので』というのだが、それでもどこか不自然感が抜けずに残る。しかし、それよりも先に集中することがあると、もちはそのことを頭の片隅へと追いやった。

 

 

 

「フゥ――――。ここまでくれば安心っすね」

 

子供たちから逃げるように目の前のあった扉の中に隠れ、一息とる。子供の元気は底なしだと知ってはいたが、実際目の当たりするとより深く実感する。ばあちゃる自身も体力には自信があったが、さすがに十人前後の子供同時に1時間以上も相手をするのは体力が持たなかった。

 

「しっかし、ここはどこっすかね?」

 

小さい個室に小物を置く小さなテーブルと腰かけ用の椅子、そして小窓だけが設置された部屋。見たことのない構造にばあちゃるは首を傾げた。とりあえずテーブルを探ると小さなメモが置いてある。そこには『懺悔者側のボイスチェンジャーが故障、使用しないように!』と注意文が書かれていた。

 

「ああ。ここ、懺悔室っすね」

 

日中は教会から抜け出せないクレアの為に、とある番組で共演することになっていたばあちゃるとそらは打ち合わせの度にここに訪れていたことを思い出す。その際にクレアから懺悔室のことを聞いていたのだ。なんでも最新鋭であり、神父側と懺悔者側の両者にボイスチェンジャーが付けられており、個人の情報を秘匿できるようになっている。もちろん、望めば使用しないこともできるがこのご時世、極力個人情報を公開したくない人が増えての設置だとクレアが語っていた。

 

「ん?」

 

その時、反対側の個室の扉が開く音が聞こえた。防音もしっかりしているためか、微かでしかなかったが小窓から人影が見え、それが事実だと確認した。

 

「え、っと。神父さま?いらっしゃいますかー?」

 

(ッ!?もちもちー!?)

 

つい、漏れそうになる声を抑えながら驚愕する。隣に入ってきたのは共に教会へ訪れた猫乃木もちであることにばあちゃるは驚きを隠せない。声がそのまま聞こえてくるところからボイスチェンジャーが故障していることは確かだろう。そしてもちの発言からばあちゃるが隠れたこの部屋は神父側ということも分かる。

 

「あれ?いらっしゃいますかー?」

 

「はいはッ、…はい。聞こえますよ。すみません、ちょっと喉が」

 

「あ、わかります。いっぱい喋ると喉が痛くなっちゃいますよね!にしても、しっかり声変わってるんですね」

 

「え、ええ。貴方の方もしっかり加工されて聞こえてますので安心してください」

 

何時ものように返事を連呼しようとするが、寸前で気付き、演技をする。メモに書いてあった通り、故障しているのは懺悔者側だけのようで、ばあちゃるの声はもちにはしっかり加工されて聞こえていることが彼女の発言からわかる。その事実にばあちゃるは小さく息を吐いた。

 

「その、それで、懺悔。聞いてもらってもいいですか?」

 

「はい、かまいませんよ。あと、無理して畏まらなくてもよいですよ。話しやすい喋り方の方がすんなりと言葉も出るものですし」

 

「え、いいんですか!?」

 

それっぽいことを演技しながら伝えるともちは驚愕した声を上げる。それに苦笑しながら言葉を続けた。

 

「もちろんです。ここは誰にも言えないことを吐き出す場所ですから」

 

「え、っと。それならそうするね!えへへ。もち、じゃなかったあたしのは懺悔、というよりは悩みなんだけど」

 

「構いませんよ。悩みも貯めこむだけでは潰れてしまいますからね」

 

こうして、ばあちゃるは罪悪感を感じながらも、奇妙な状況からもちの懺悔が始まった。もちはアイドル部の中では交友関係が広く、その関係の悩みだと予想する。学園内であれば学園長であるばあちゃるには相談しにくいことだろうと思い、なら神父として的確なアドバイスをしようと意気込んだ。

 

「その、あたし。恋を、してるんです」

 

「ん゛ん゛!!??」

 

「へ?神父さま?なんか変な声が?」

 

「い、いえ。ちょっと唾が喉に。どうぞ続けて」

 

「は、はぁ」

 

予想していなかった事につい咽てしまう。

ばあちゃるとしてはアイドル部においては恋愛は禁止にしてはいない。もちろん、問題の種になりえる事を抱えるのはよろしくはないだろうが、彼女たちは花の十代で女子高生だ。その多感の時期を大人の都合で潰してしまうのはもったいない。たとえその果てが決していいモノでなくとも彼女たちの成長に繋がるのであれば支えることが大人のやることだと考えていた。ただ、その悩みの相談先がばあちゃる本人でない事。そして、何故か胸に湧く彼女の想い人への嫉妬心にばあちゃるは困惑した。

 

「その人はあたしたちの為にいろんなことしてくれて。そりゃあもう感謝なんかじゃ足りないくらいお世話になってて」

 

(…ん?)

 

「いつ恋したのかなんて分からないけど、気付いたら好きになっちゃったんです。にゃはは、それなのにその人。いっつも変わらないし、私たちのこと娘みたいなものな感じしか見てないし!まぁ、そんだけ歳離れてるから仕方ないんだけどさ。それがなーんか悔しくて悔しくて。つい困らせたくなっちゃうんですよ」

 

離していくうちに緊張が抜けたのだろう。友人と話すような軽快なマシンガントークが続く。問題はその話題の人物だ。

 

(も、もしかして。これってばあちゃる君のことだったりしたり??)

 

もちがアイドル部として活動し始めてからの友好関係はある程度把握している。そもそも近所報告よろしくにもちは自分のことをよく話す。また、ばあちゃる学園は女子高であり、もちの言う『お世話になっている相手』とはばあちゃる自身思い浮かばなかった。

正直、その予想はばあちゃるにとって完璧に予想外だった。もちの言うように年齢だって一回り離れているし、自分の彼女に対する扱いも、他のアイドル部の子達と同じで、年の離れた距離感の近い娘として扱っていた。それ故に、まさかもちの想い人が自分だと、考えもしなかった。

 

(あれも実は彼女なりのアプローチっすか?)

 

思い出すのはもちのダンス教師をやったと日のことだ。あの時の彼女の行動にはさすがに冗談が過ぎると思っていたが、それが恋故の行動だとしたら多少は納得できた。その事実が、彼女の想い人が自分である証拠だと理解してしまい、ばあちゃるは頬が熱が帯びる。そしてその胸には思ってはいけない感情だと理解しながらも嬉しさを隠しきれなかった。

 

「けど、その人のことが好きな人はあたし以外にもいっぱいいるし、あたしの大事な友達たちだって好きだってわかるの。だから、あたしは一歩引いてたんだ。踏み込みすぎると、あの人があたし以外を選んだ時、耐えられなくなるような気がして。けど…」

 

「…」

 

次の言葉を待つ。ここは懺悔室で、彼女は吐き出す人だ。なら催促するのはお門違いだとばあちゃるは考えた。少しの沈黙の後、もちは意を決して口を開く。

 

「ついこの前に大きな事件に巻き込まれたの。始めはどうしようもないくらいに怖くて何も考えられなくて、『もうだめだ―!』なんてふざけることも出来ないほどにどうしようもなかったんだけど、その人がいつものように助けに来てくれたの」

 

『魔女の家』事件。合流した時のもちの姿を思い出す。それはいつもの元気な姿とはかけ離れていて、顔も青ざめており、身体だって恐怖により震えていた。その弱弱しい姿は抱きしめて安心させてやりたいほどに酷かった。

 

「いつものように『やぁっと見つけたっすよー』なんて言ってるのにさ。肩で呼吸するくらい疲れてて、あたしを見つけるために頑張ってくれたんだってすぐにわかっちゃったんだ。気付いたら、恐怖なんてどっかいって安心感と嬉しさが胸に込み上げて。『ああ、あたしはどうしようもないほどにこの人が好きなんだ』って気付いちゃったの」

 

いつだったか、もちが『プロデューサーちゃんがいればあたしは何でもできるよ!』と言ってくれたことを思い出す。過大評価だ、なんて思っていたが事件当日の彼女の活躍を思い出すとそれも決して嘘ではないと理解した。それほどまでばあちゃるに信頼、親愛を向けていることにどうしようもないほどに嬉しい。

 

「あたし、どうすればいいのかな。もう前みたいに一歩後ろで見ていることはできない。けど、あの人が、あたし以外選ぶのは見たくないよ」

 

感情が高ぶり、声は涙に濡れる。プロデューサーとして言わなければいけないことはわかっている。けれどばあちゃるはその選択を選ぶことはない。先ある少女の未来を曇らすことなどそもそも選択肢にはないのだ。だからばあちゃるは、いつものように彼女の背中を押すことにした。その事実を知っている自分が一番傷つくことが分かっていたとしても。

 

「君は…どうしたいんだい?」

 

「え?」

 

「それはきっと茨の道だ。どうしよもないほどに過酷の道だ。周りから後ろ指をさされるような道でもある。諦めてしまった方がきっといいのかもしれない。けれどあえて聞くよ。君は、どうしたいんだい?」

 

「ッ!そんなの!決まってるじゃん!!諦めたくないよ!」

 

椅子から立ち上がり、吠えるようにもちは叫んだ。我慢していた感情を吐き出すようなその声は涙も混じっている。

 

「好きなの!どうしようもないくらい好きなの!!隣にいれるだけで幸せで、もしこれから先も一緒にいられるなら何て考えるだけで口が勝手ににやけちゃうくらいに好きなの!!けど、友達も好きなの!あたし、わかんないよぉ」

 

「…道は一つではないっすよ」

 

「え?」

 

神父の言葉にもちは俯かせた顔を上げる。扉の先にいる神父の影が想い人と重なる。

 

「言わせたいやつに好きなだけ言わせておけばいい。自分が幸せだと思うゴールを見つけてそこに突っ走ればいいっすよ!わかんないなら頼ればいい。だって貴女は、一人ではないのでしょう?」

 

その言葉にもちは親友たちを思い出す。彼女たちも自分と同じ感情であるならば、求めているものは一つ。道はかなり険しいが、不可能ではないだろう。

 

「にゃはは。こんなとんでもないアドバイスをするなんて、神父さまって悪い人なんだー」

 

「はて、なんのことっすかね」

 

惚ける神父にもちは笑いが込み上げてくる。なんて、あの人に似ているのだろう。胸には神父へ対する感謝の気持ちが大きくなっていた。

 

「ありがとうございました。あたし、やります!」

 

「…茨の道です。とても過酷ですよ?」

 

「それでも、あたしは『あたしたち』の幸せを諦めたくない。どうせなら、みんな幸せになるほうがいいに決まってるもん!」

 

「…そう、っすか。なら、私は止めません。頑張ってください」

 

「はい!」

 

元気のよい返事と共にもちは懺悔室を後にした。神父側の扉を小さく開け、その背中を見る。やる気に溢れるその背中にばあちゃるは満足げに頷き、扉を閉めて椅子に座り込んでしまう。

 

「…やってしまった」

 

マスクを外し、顔を手のひらで覆いながら呟く。あんなアドバイスをしてしまった以上、もちからのアプローチはより過激なものになるだろう。そしてその矛先が自分であることも発覚している。これからのことを考えると頭を抱えてしまう。

 

「えぐー…マジンガー…」

 

口癖はいつもと違い弱弱しく空気へ溶ける。

 

―彼女の恋心を知っていながら気づかないフリをしなければならない。少なくとも卒業するまでは応えてはいけない。大丈夫。耐えることは慣れている―

 

「頑張るしかないっすね」

 

―しかし、あそこまでまっすぐな好意を情熱的に語られると、どうも感情が高ぶってしまう。ああ、この動機は気のせいであってほしいものだ―

 

誰にも見られていないのに口角が上がるのを手のひらで隠しながら、悲壮感あるはずのその決意は何故か歓喜に震えていた。

 

 

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