いつもの様に放課後にアイドル部全員が部室に集まってのミーティング
その日もまた、いつもの様に話が逸れて…?
「はい。それじゃあ毎週恒例の週初めアイドル部定例会を始めまーす」
ばあちゃる学園のアイドル部の部室にて、生徒会会長の夜桜たまの宣言と共にパチパチとちいさな拍手が零れる。前回と同じように脇を固めるのは同じく生徒会に所属する会計の北上双葉と書記の木曽あずきだ。
「まず初めに、とある事件に巻き込まれて今まで休学していた猫乃木もちちゃんが復学します。はい拍手!」
「にゃっほ!にゃっほ~!もちにゃん完全復活だよ!」
「もう!遅いですよ!」
「なとりん~!ノート貸してくれたり色々とホントにありがとね!」
名を呼ばれ立ち上げるもちに溢れんばかりの拍手が送られる。一週間ほど前に起きた事件により、事情聴取や休養の為に休学していたもちは久しぶりの友人との再開に目元には涙が小さく溢れていた。
「この後は予定なければ復学祝いに小さなパーティーやる予定だけど空いてる?」
「ホント!?空いてる空いてるよ!私、今日は超フリーだよ!」
たまの言葉に興奮を隠しきれずに答える。その様子はあまりにも必死で見ていた全員は小さく苦笑した。
「なら早く定例会おわらせよーよ。連絡って何があるの?」
「こらこらゴン、あまりせかすな。と言ってもあまり大したことはないよ。ね、あずきちゃん?」
「自分で確認してほしい、と思います。…はぁい、わかりましたよ」
『ん?』と小さく笑みを浮かべるたまにあずきは根負けし、端末からメモを展開する。
「会長の言う通り大したことはないのですが、二点ほど、あります。一つはまた外部から講師が来ます」
「え、また講師の方を呼ぶんですか?」
「のじゃロリさん来たのは先々週だから、あまり空いてないね」
ばあちゃる一派の言葉に一緒に聞いていたすずも頷く。確かにアイドル部はVTuberとして活動しているがその関係者を学園に講師として呼ぶことはあまりなく、以前に来訪したのは大よそ半年前であり、その時来訪したのもちえりの個人時代の繋がりからのユキミお姉ちゃんこと『姉崎ユキミ』だ。
「うまぴーから誰が来るかもう聞いてるよ。確かね、アカリちゃんが来るって言ってたよ」
「アカリちゃんか!」
「シロぴーとたまーに遊びにくるけど講師として来てくれる初めてだね!」
SNSでわずかであるが交流があるいろはは嬉しそうに声を上げる。ミライアカリは先輩であるシロと非常に仲が良く、シロが学園に来る際に一緒にやってくることが度々あった。直接声を交わすことは少ないがやはり知った顔が来るのは嬉しいものだ。
「もう一個は会長のおかげ、というか、せいというか」
「ん?私?」
急に名を呼ばれきょとんと呆気を取られ、自分の顔に指を向ける。そして、同じ生徒会の仲間の二人から妬みの視線を向ける。
「え、えと?双葉ちゃんもあずきちゃんもどうしたの?」
「抜け駆けはよくないよ、たまちゃん」
「以下同文」
「え?え?…あ」
二人の発言に、クエスチョンマークが頭を埋め尽くすが、『抜け駆け』というワードに答えを導かせる。しかし、それに察せるのはたまだけであり、同じく分からず首を傾げていたちえりが声を上げる。
「抜け駆けって、たまちゃんなにかズルしたのかなー?」
「ズルじゃないよ!ただ、馬Pのお仕事のお手伝いをするようになっただけで」
「それってズルじゃないですかー!」
「えー!?いや、これズルになるの?」
ピノの指摘にたまは首を傾げる。もちろんしっかりとした理由がある以上、ズルとは少し違うのだが、ばあちゃると共に入れる時間は確かに増えるものなのでどうやっても嫉妬心は湧いてしまうのである。
「ほらピノさん落ち着いて。それでそれが何の理由になるんですか?」
「作業効率が良くなったのでメンテちゃんにより有給消化を指示されたそうです。日程はまだ決まってないそうですが、近いうちにお休みをとるそうです」
「うまぴーがおやすみ!いいなー」
「平日に休めるのってなんか特別な感じがしますよね」
多忙の身である大切な人が休みを素直に祝福するのはすずとイオリだ。一緒にいられないのは寂しさを感じるが、多忙さを知っているアイドル部の面々はメンテちゃんの指示には基本的には賛同した。それでも双葉とあずきからの視線は未だに止まらず、耐えきれずにたまは声を上げた。
「もー、わかったよ。今度馬Pの仕事お手伝いする時は二人も誘うよ」
「いえーい」
「優勝した、と思います」
ハイタッチをする双葉とあずきにたまは苦笑を零す。もし、自分も同じ立場なら同じように嫉妬していただろうと容易に想像できるため、それに責めることはできなかった。
「そういやばあちゃる号って最近『困ったら声かける』なんて言ってたよ!」
「プロデューサー、やっとめめめ達を頼るようになったの!?」
「なら積極的にこっちから声をかけていけばいいかもしれませんね!」
たまをきっかけに少しずつ変化し始めたばあちゃるの姿により各々が興奮したように声を上げる。少し前までは全部ひとりでやってしまう姿に心配しかできず、歯がゆかったからこそ今の変化はお世話になっているアイドル部の面々にしては非常に嬉しい変化であった。
「お手伝い申し出るのはいいけど、あまり迷惑かけないようにね」
「ですが、迷惑になるくらい声かけないと手伝わせてくれない、と思います」
「うまぴーだもん。しつこいくらいがちょうどいいとおもう」
「言わんとしてることはわかる」
『自分の時のかなり強引だったし』と内心ぼやく。しかし、その甲斐もあって今の関係を得られたのでたまは苦笑するしかなかった。その時、あずきが操作するPCにメールが届く。そのメールの通知音に以前、追い掛け回せれるきっかけになったため、隅ですずがビクッと肩を震わせた。
「誰から?」
「メンテちゃん、ですね」
「また動画?」
内容は『ばあちゃるさん監視記録です。確認お願いしますねm(__)m』となっている。その文面に首を傾げるが、もちが思い出したように声を上げた。
「あー思い出した!休んでるときに事務所に行ったときにメンテちゃんが件の事件でついに堪忍袋の緒が切れてプロデューサーちゃんの監視をする!って言ってた!」
「ってことはそれはばあちゃるさんの…」
「一日の監視記録、ってこと」
緊迫した空気に意味が分からずイオリは首を傾げる。神妙な顔つきで頷きあい、最後に全員があずきに視線を送る。それに応えるように投影されたモニターに動画が再生された。
「うまぴーの寝顔だー!」
「その、急にアップで映されるのは、ちょっと心臓に悪いですね」
「…あずきちゃん」
「はぁい。スクショして皆さんに送っておきますね」
(…あれ?これ、もしかしてヤバいのでは!?)
背中に冷や汗が伝うのを感じるのはもこ田めめめ。実は未だにアイドル部の面々には毎朝にばあちゃる宅に赴いて朝食を共にしていることは誰にも言っていない。
(こ、これは、めめめ死んだか!?)
朝食を共に作り、共に談笑しながら食べる。もし自分が聴いたら発狂ものだが、それを実行しているのは他でもない自分だ。もし、このことが知られれば、ちえりーらんどの減給程度では済まされない。呼吸が荒くなり、額に汗が伝う。
「急に震えだしてどうかしましたか、めめめお姉ちゃん?」
「うぇ!?な、なんでもないから大丈夫だぞ!」
「お腹でも壊した?トイレ行く?」
「ほほほ、本当に大丈夫!なんかいきなり過去の失敗を思い出しただけだから!」
「あるある。牛巻も仕事してたら最初の方にミスがあったのが見つかって長時間の作業が全部無駄になったのをよく夢で見るよ」
「強く生きろよりこちゃん」
ちえりはハイライトを消えた目で遠くを見るりこの肩をそっと叩く。そんな光景を余所に動画は自動で早送りになり、気付くと朝食を作る場面へと変わっていた。
「メンテちゃんが編集した後っぽいね」
「基本カットが多いですから早送りは珍しい感じがしますね」
「うまぴーって起きるまでいっぱい時間かかるけど、起きるとさっと動いて凄い!」
朝の身支度に着替えを済ませ、後はネクタイを結んで馬のマスクを被り背広を着ればいつものばあちゃるの姿となるところでキッチンへ赴く。そして無音のキッチンに何か思い出したように呟いた。
『そういえば、今日は来れないって言ってたっすね』
「は?」
(ッッセーーーフッ!!!!)
たまの冷えるような低い言葉と裏腹にめめめは力強くこぶしを握り、小さくガッツポーズをとる。思い出してみれば、コラボ配信でいろはの家に泊まった日はばあちゃるの家に行っていなかったことをそこで思い出した。
(さすがいろは!いろははめめめの女神だ!!)
「え、なに?馬Pの感じだとまるで毎朝来てる感じだけど?」
『すっかり朝食食べる習慣ができちゃったすね。軽めでも何か作るっすか』
「え?うまぴーって料理できるの?」
「一人暮らしだから嗜む程度はできるみたい。なとりんみたいな凝ったのは作れないってこの前言ってた!」
双葉の問いに、休学中に何かと行動を共にしていたもちが答える。その際にばあちゃるが作ったお弁当を食べたという自慢話に羨む視線が集中する。よく食べることで知られている双葉からの嫉妬を含む視線は予想できたが、まさかりこからも同じ視線が送られることにもちは小さく驚いた。
「りこちゃんがそんなあからさまの表情するの珍しいね」
「いやその、牛巻もばあちゃる号のお弁当、食べたいなーって」
「ふふ。そうですよね。ばあちゃるさんのお弁当、美味しそうですもんね」
「ううぅ!米っちがいじめるぅ!」
秘密の逢引を知っているなとりは、珍しくも嫉妬するりこに対して笑みを浮かべる。いつも余裕があるりこが赤面をしながらなとりに訴える姿にすずは天を仰いだ。
『…最近一緒に食べてたから気付かなかったすけど。一人ってさびしいっすね』
「ほら!やっぱ誰か来てるよ!しかも最近って言ってる!?シロちゃんだったら最近なんて言わないもん!」
「な、なぁたまちゃん。もし、もしだよ?一緒に食べてるのがシロちゃん以外だったらどうするの?」
「燃やす」
「燃やすの!?」
「ちえりーらんどで永久時給一円の刑かなー?」
「でしたらついでにその作業先に私のゴリラも一緒に配置お願いしますね」
「うっそだろ!?燃えながらちえりーらんどでゴミ箱並べて、ゴリラから逃げなきゃいけないの!?」
「お星さまになっても大丈夫ですわ!隣には私の病院がありますもの!」
「死ぬことも許されないの!?」
あまりの罰の大きさに、めめめは誰にも言わないことを決意した。
動画はばあちゃるが家を出たと同時にカット編集により場面が変わる。そこはどこかのスタジオから近くにある小さなお店のようだ。
「看板見て入ってたけど、ここって何屋さん?」
「茶葉屋さんですよ。お茶葉を専門で取り扱っているお店です」
「前におうまさんに私が紹介したんです!」
「茶葉は贈り物としても使われますし、プロデューサーもそれで購入するのでは?」
ラマーズトリオの答えになるほどと呟き頷く。どうやら予約を入れていたのか、商品を持たずにそのまま店員に声をかけ、会計へと移る。そこでレジ前にある商品に気付いた。
『へぇ。ほうじ茶っすか』
『よかったらどうです?今ならお安いですよ』
そしてレジ前の商品を手に取る。どうやら今の目玉商品で多少の割引をされているようだ。そこでふと、値段が目に映った。その値段になとりは驚愕する。
「五千ッ!?ちょ、そんな高級品!」
『はいはいはい。なら3セットほど頂いちゃいますね。いやね、知り合いにほうじ茶が好きな子がいるんすよね!』
「3つ!?いちまんごせんえん!?!?!待って、ばあちゃるさん待ってください!?」
『全部贈り物として包装してもよろしいでしょうか?』
『お願いしまふぅぅ』
「ばあちゃるさん!?」
ばあちゃるのことだ。きっと購入したほうじ茶の茶葉は全部そのままなとりに送られることは容易に想像できる。しかし、学生であるなとりはその贈り物の予想以上の値段にただただ驚くことしかできなかった。
「…なとちゃん、お茶するとき呼んでね」
「ちゃっかりしてますね、双葉さん」
「じゃああれ、値段気にせず貰える?」
「無理ですよぉ」
「いっその事、学園長室において馬P含めた皆と飲むようのお茶として使えばいいんじゃない?」
「それです!それで行きましょう!さすがです会長!」
いつか貰う高級品の着地点を無事見つけ、なとりホッと安堵の息を吐く。気付くと場面は店を出たところと変わっている。その時、軽快な走る足音が聞こえてきた。
『ぶちとばしていくぜー!!』
『おおうっ!?ってそらそら!?急に飛びついてくると、さすがのばあちゃる君もびっくりっすよ!』
某ダークエルフの物真似をしながらばあちゃるの背に飛びつくのは『ときのそら』。焦るように言ってはいるがその足腰はしっかり力が込められており、多少の衝撃では倒れないように踏ん張っている。そのことを知っているそらは、ばあちゃるならしっかり受け止めてくれるという信頼が生まれ、遠慮なくやっていることを彼は知らずにいた。
『もう、そら!急に走り出さないで!ってばあちゃるさん!?』
「お、えーちゃんも一緒だ」
「猫乃木さんを除いた件の事件の被害者の方々ですね」
そらを追いかけてきた一人の女性、『友人A』はそらと共にいたばあちゃるの存在に驚き、少し赤面をする。
『んん?どうしたっすかえーちゃん?』
『い、いえ。なんでもないですよ』
『んふふふ。えーちゃんねー、あの事件の時にばあちゃるさんにおんぶしてもらったり、腕に抱きついたりしてたこと思い出してるんだよー』
『ちょ、そら!それは言わない約束でしょ!?』
『えー?そうだったかなー?』
「え、そんなことあったの?」
「あっちゃったんだよ。けど、えーちゃんは許してあげて。あの時ガチで怖かったから。もう、ヤバくて叫ぶことしかできなかったくらいヤバい」
「ヤバいを二回も言うほどだったんですね」
「うん。プロデューサーちゃんがいなかったら正直あたしもヤバかった」
青い顔するもちをなとりは優しく背中を撫でる。近くにいたいろはとめめめがそっと手を繋ぐ。当時は興奮もしていたおかげでそこまで気にすることはなかったが、事が終わった後に死ぬ危険性もあったことも知り当時の恐怖が倍増して襲ってきている。それを癒すための休学でもあることはアイドル部の面々には伝えれていることだ。そのため、今のもちの状態は予想できることであったのですぐに対応することが出来た。
「このあとパーティーだよ!嫌なことなんて忘れちゃおう?」
「めめめたちがいるぞ!」
「…うん。ありがとね」
なんとか落ち着き、再び動画へ視線を向ける。どうやらそのまま三人で移動しているようだ。
『結局のところ、真相は分からず仕舞いなんですね』
『はいはいはい。そうっすね、犯人も口を割りませんし。あんな大規模なワールドをあるならきっと協力者はいると思うっすけど』
『まあ、そこは警察さんのお仕事だし、あまり口出しするべきじゃないよね』
『けど、やっぱ気になるわ』
『実はばあちゃる君も納得してないんで知り合いに声かけて独自で調べてるっすよ。よければえーちゃんも参加するっすか?』
『是非!』
『危ないことはダメだよ!』
『大丈夫っすよ。もしものことになったらばあちゃる君が守りますから!』
『あぅ』
『そういうとこやぞー!』
「わかる」
「うまぴーが一番心配だよ!」
「それもよくわかる」
そらとイオリの言葉に全員して2度頷く。雑談はそのまま続き、気付くとそらたちが用があるスタジオについたようだ。別れの挨拶の前にそらは何かを思いついたのか、笑みを浮かべばあちゃるを見た。
『あ、そうだ。ばあちゃるさん、懺悔室はどうだった?』
『ッ!?そらそら!?それをなんでッ!…まさか!?』
急に変わる二人の雰囲気にえーちゃんはオロオロと交互に視線を飛ばす。ばあちゃるはそらの言葉により、先日教会で起きた小さな事件の裏にそらが関与していることを見抜いた。ばあちゃるの睨みつけるような視線に対し、そらは何時ものようににこにこと笑みを浮かべている。
『そら?どういうこと?』
『…私は恋する女の子には諦めてほしくないの。だから、しすたぁと子供たちに頼んで一芝居うってもらいました!』
『な、なんで、そんなことを?』
『ふっふっふー。そんなのあの時のもちちゃん見てれば分かるよー。それにね』
一目えーちゃんの顔を見る。急に視線を向けれてえーちゃんは変わらず混乱しているが、その様子に満足したのかいつもの満面の笑みを浮かべた。
『私も、もちちゃんといっしょだから。だから、諦めてほしくないって思ったの』
『そらそら、それは』
『さて!私たちはここで収録があるからお別れだね!またね、ばあちゃるさん!』
『ちょ!?そら、引っ張らないで!?』
そのまま風のようにスタジオへ駆け込み、その姿は直ぐに奥へと消える。ばあちゃるは少し呆然とし、少し頭を抱えた。
『やばーしっすよこれ、完全に』
「こ、これって」
「つまり、そういうこと、だよね?」
懺悔室の出来事については知らないが、今のそらとばあちゃるのやり取りに肝心なところには気付けた。
「猫乃木さん。これは?」
「…多分、ホント。事件の時もそらちゃんはずっとプロデューサーちゃんを頼りにしてたもん」
二人の会話に何か思うところがあるもちは考えながらそう答える。そして、何か納得したかのように頷いた。
「ありがと。しすたぁ、そらちゃん」
「どうしたの?まだ辛い?」
「ううん!もう大丈夫!ただ、凄い人がライバルだなって思っただけ!」
気付かぬところで背中を押してくれた尊敬する先輩達に礼をし、もちは笑みを浮かべ顔を上げた。
『元気ですかオマエラー!』
『ちょ、急に声出してどうしたのだマスター氏!?』
『いやね。言わなきゃいけない気がしましね』
『マスターさんの発作みたいなもんじゃし、無視安定じゃよ道明寺』
『辛辣過ぎません、ねこますさん?』
『はいはいはい。賑わってるみたいでばあちゃる君も嬉しい限りっすね。完全に』
場面は変わり夜の叙〇苑。ばあちゃる、道明寺晴翔、のじゃロリ、そしてふくやマスターの4人で机を囲んでいた。
『魔女の家』事件の際に協力を頼んだ三人にばあちゃるがお礼として〇々苑に誘ったのが事の発端だ。流石に未成年の晴翔がいるため、飲酒は禁止であるが、それでもやはり焼肉は盛り上がる。開始してまだ間もないのにボルテージは確実に上がっていった。
『しかし、剣持氏が来れないのは残念だったな』
『超残念がってたっすねー』
『VTuberを一番抱えてるにじさんじさんじゃし、未だに後処理に追われてるって言ってたのじゃ』
『それにしてもばあちゃるさん。全員分出してもらっちゃうなんてすみませんね』
『はいはいはい。それなら大丈夫っすよ!ばあちゃる君あまりお金使わないっすから貯まっちゃってますし、なにより皆さんには手を貸してもらったっすからこれぐらいのお礼はさせてほしいっすね。完全にね』
「いいなー!いろはもうまぴーのお金で焼肉食べたーい!」
「双葉もたべたーい」
「はいはい。また今度ばあちゃるさんにお願いしましょうね」
その光景に羨む二人になとりは苦笑を零す。そこでばあちゃるの同姓の交友関係について詳しく知らないことを思い出した。
「何気にばあちゃるさんが友人とどこかに行くなんてあまり聞かないですよね」
「言われてみればそうだねー」
「のじゃロリさんとか向こうから用事込みでくることはよくあるけどね」
『それで、結局事件の真相はわかったの、ですか』
『敬語がおぼつかないぞ、道明寺ィ!』
『無理して敬語にしなくても大丈夫っすよ。今回は完全にプライベートっすかね』
『ぐッ!…うむ、恩に着るぞばあちゃる氏』
『ねこますさんホントにお酒入ってない?明らかに酔ったテンションでしょ、それ』
『…久しぶりの焼肉なのじゃ、察して』
談笑しながらも動画は続く。晴翔の問いに改めて応えるためにばあちゃるは少し喉を整えた。
『今日、そらそらとえーちゃんにあった時に二人にも伝えたっすけど、残念ながら進展はなしっすね。犯人が完全にダンマリ決めこんじゃって』
『ふむ。ワールドのアクセスログなどどうだったのだ?』
『徹底してたみたいっすね。被害者と犯人たちのみしかなかったっすよ』
『ねこますさん伝でお手伝いさせてもらいましたけど、被害が結構でかいみたいですねぇ』
『ワールドうんぬんは妾が勉強してる部門じゃし、今回のことは結構頭にきてるのでこれからもお手伝いしますのじゃ』
『個人で調べることは少ないっすけど、これだけ頼れれるメンバーならすぐに解決できる気がするっすね!』
『えーちゃんも手伝ってくれるみたいですし、百人力っすね!』と締めくくり、ちょうど焼け始めた肉をそれぞれの皿へ乗せる。食事が進み、談笑の中、問題のワードはマスターから放たれた。
『そういやばあちゃるさんってお付き合いしてる女性とかいないんですか?』
「「「「!?!?!?」」」」
瞬間、部室には電流が走る。アイドル部の全員がばあちゃるの好意を向けてはいるが、誰も真実を知るのが怖くてそのことを聞けずにいた。その問題はあまりにも不意打ちに、そして画面越しにばあちゃるに投げられた。
『そういや妾もしらないのじゃ。とりあえずシロちゃんとは違うってのは分かっているんじゃが』
『む。そうなのか?オレはてっきりシロ氏とお付き合いしてるか、それに近い関係だと思っていたが』
『違うっすよ!シロちゃんとはなんというか、家族が近いっすかね。それにもし手を出したりしたらばあちゃる君炎上しちゃうんでね』
『…手を出してもシロちゃんは文句は言うけど、拒否はしないはずじゃよね』
『む?ねこます氏、何か言ったか?』
『なんでもないのじゃ』
『ばあちゃるさんなら多少の炎上なんて何ともないじゃないですか!じゃあじゃあ、お付き合いしていた女性とかは?』
同姓だけの場のためか、いつもよりばあちゃるのガードが緩いことがわかる。さらに場の雰囲気もその話題で盛り上がっている以上、今の状態なら喋ることが容易に想像つく。ゴクリッと誰かが固唾を飲んだ。
『お付き合いも実はないっすけど。告白されてフラれたことならあるっすよ』
『ん?告白されてフラれた?どういう状況なのじゃ、それ』
『その女性、ちょっと過去に色々一緒に行動して、認めたくないっすけどばあちゃる君とはパートナーって感じの仲だったっすけど。とある事情で彼女が抜けることになったっすよ』
『ほうほう。続けて』
『その時に告白されて、そのまま続けざまに『貴方が私に好意がないのはわかります。なので絶対振り向かせて告白させてやりますよ!』なんて言ってフラれました』
「強かな方ですね」
『ちなみにその後『それはそれ、これはこれ!』と言われて押し倒されたっすね』
「前言撤回です!その方最低だ―!?」
あまりの事実に代表としてピノの叫びに各々は頷く。男性陣もあまりの展開にさすがに少し引いていた。
『えぇ…ばあちゃるさんはそれを断らなかったのです?』
『当時は二十もいかない頃だったっすからね、何よりばあちゃる君もその女性に対してある程度信頼はあったっすからまあ、あとは流れっすね』
『その人とはまだ定期的に会っておるのじゃ?』
のじゃロリの質問はまさに今のアイドル部が聴きたい事だった。仕事を共にしなくなったということは離れた可能性もゼロではない。できればそうであってほしいと、すずは祈りを込めた。
『ばあちゃる君も彼女も業界的にはある意味有名人になっちゃったっすからね。会う機会は少ないっすよ』
『と、いうことは会ってないわけではないということか』
『ぶっちゃけ!その女性は誰ですか!』
『グイグイくるっすね、ふくふく。と言ってもここにいる全員知っている人物っすよ。特にこの中ならはるはるが一番付き合いがあるっすね』
『オレが知っているばあちゃるさんほどにキャリアがある女性?…いや、まさかっ!』
晴翔が思い出したのは最近ゲーム部とよくコラボをし、ゲームのスポンサーのような立場にいる人物。それ人は確かに有名人できっとこの業界にいる人物であれば知らぬ人がいないだろう。しかし、その人物はどうもばあちゃるが言う人物と一致しなかった。
『ま、まさかですが、その女性って『エイレーン』氏だったり?』
『そうっすそうっす。動画見る限りまた限界ギリギリやってるなーとは思ってたっすけど、その反応を見る限り相変わらずみたいっすね』
『ぶふぉっ!?エイレーンさん!?』
『た、確かにある意味有名人だ。それこそアイちゃん並みにヤバいやつだ』
その反応は驚愕の一言。のじゃロリは口に含んでいた飲み物を吹き出し、マスターはガチに引いていた。
『し、しかし!あのエイレーン氏が振り向かせるなど響くような告白するとは思えん!』
『はるはるが予想以上に辛辣っすね。けど、その後の行動を考えれば納得っすよ』
『フラれたのに押し倒された、だったよな?』
『…やるな。エイレーン氏ならやるぞ、それ』
『直接対面したことがないのじゃが、強烈な方じゃよね』
『はいはいはい。納得してくれたならね、ばあちゃる君もホッとするってもんっすよ。さてさてさて、ばあちゃる君も答えたっすからね、次ははるはるにも答えてもらいましょう!実際、みりみりとどこまでいったんすか?』
『な!?アホピンクは関係ないだろう!?』
『あ、それ妾も気にある。ほれほれ、さっさと喋った方が吉じゃよ?』
『ねこますさんホントに酔ってないの?めっちゃノッてくれるじゃん』
自然に矛先を変え、ばあちゃるの話題は終了する。これで最後だったのか動画もゆっくりと暗転し、再生し終わったようだ。無音となった部室でたまは静かに携帯端末を取り出した。そしてとある人物の電話帳ページを開く。
「もちちゃん。せっかくだし、パーティー派手にしない?」
「いいね。ド派手にしよっか」
「いろは焼肉食べたい!」
「人の金で食べる焼肉はおいしいですもんね!」
「北上さん。今回は遠慮はいらない、と思います」
「最初からそのつもり」
「みんなと焼肉だー!!」
「私、叙々〇に行きたいです!」
「ちえりも行ったことないから楽しみー!」
「せっかくだしシロぴーも呼ぼっか!」
「今日の配信、誰でしたっけ?」
「今日は11時からたまちゃんだけだから余裕だよ!」
いささか理不尽な行為だということは全員承知の上だが、どうやっても感情が言うこと聞いてくれない。こんな私たちを許してね、なんて苦笑する。それでも彼ならば笑って許してくれるという信頼があった。たまは苦笑した表情のまま、ばあちゃるへと電話を飛ばした。