馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園中等部
その中で一人、高等部と同じ部活に所属する生徒が存在する
彼女は、最近の学園長とおねえちゃん方の関係が気になるようで…?


好奇心は彼への恋の背中を押す(カルロ・ピノ)

 

「あ、おうまさんにおねえちゃん方、ごきげんよう!」

 

「あらピノさん、おはようございます」

 

「おっすおっすおはよう!」

 

「ふぁ…ん。はいはいはい。おはようございますねピーピー」

 

先日のアイドル部とシロに加え、ばあちゃると共に行った焼肉パーティーから一日を明け、早朝。校門前にて談笑するなとり、めめめ、そしてばあちゃるを見つけたピノは駆け足で駆け寄る。ピノの後方には通学に乗ってきた車が静かに走り出した。

 

「めめめおねえちゃんがこんな朝早くから登校してるなんて珍しいですね!今日のお天気は雨でしょうか?」

 

「ピノちゃんヒドイ!?」

 

「ははは。けど、最近のめめめさんは遅刻を全然しないんですよ。今日だってばあちゃるさんと一緒に登校してきましたし」

 

「おうまさんと?」

 

苦笑するなとりの言葉に視線をばあちゃるへと向ける。ピノの視線に気づき、眠たげの雰囲気を誤魔化しながらばあちゃるは答えた。

 

「はいはいはい。めめめめもね、最近は早起きなんすよ。今日だって朝ごはんをいっしょn「わぁぁ!!わぁぁ!!??」ウビィッ!?」

 

「お、おうまさーん!?」

 

「ちょ!?どうしたんですか、めめめさん!?」

 

言葉の最中に錯乱したようにばあちゃるのマスクの鼻先を殴る。ばあちゃる本人へのダメージはないが、その衝撃にマスクはばあちゃるの頭を軸にグルグルと回転した。その光景は稀にみるバグちゃるで見慣れたものだが、当の本人は視界が遮られて混乱は免れない。急なその行動になとりとピノの視線がめめめへと向けれらた。

 

「えと、その、そう!登校中に会って朝ごはんの話をしたんだよ!ね!プロデューサー!?」

 

「え?いや朝はいっしょ「そうだよね!?」ウビィ!?…はいはいはい。そうっすね。ばあちゃる君のお家とめめめの家は近いっすからね。その時に偶然会って朝ごはんの話をしたんすよ」

 

「そ、そうなんですね。…あれ?けどさっき、ばあちゃるさんはめめめさんの早起きのことを知ってるみたいな感じでしたが?」

 

「そ、その時に自慢したんだよ!ほら!めめめ先週くらいから遅刻してないでしょ!?」

 

「いや、本来遅刻はしないのが普通なのですが」

 

「えぐー!?」

 

「めめめおねえちゃん…」

 

憐れむピノの視線にめめめは『そんな目で見ないで―!』など言いながら大袈裟に答えた。尊敬する姉のような先輩ではあるが、如何せん全員癖が強すぎる。なんて自分にも帰ってきそうなことを思うピノだった。

 

「まあめめめさんは置いといて。ばあちゃるさん、また眠そうにしてますけど、しっかり寝れてますか?」

 

「はいはいはい。いやー、夜は早めに寝れてるんすけど、なぜか寝不足感が抜けないっすね。完全に」

 

「ってことはやはり安眠出来ていないのですね」

 

「え?大丈夫なのプロデューサー?」

 

調子を取り戻しためめめは自然の流れでばあちゃるの横から見上げる。その距離の詰め方は自然で、どこか特別な関係を感じさせるそれは、ピノの胸にチクリと針を刺したような痛みを与えた。

 

「はいはいはい。大丈夫でふよ。その為に昼休憩に仮眠を取っているようなもんっすからね」

 

「昼の仮眠ってそういうことでやっていたのですね」

 

「仕方ない、また昼に顔出しますね。お茶とか飲んでリラックスしたらゆっくり眠れるでしょう」

 

「いやー、嬉しいっすね。なとなとが来てくれると、ばあちゃる君も安眠出来るんすよ。ただ眠る前の記憶があやふやなんすけど、何か迷惑かけたりしてないっすよね?」

 

「大丈夫ですよ。あれくらい迷惑とも何ともなりません。…むしろ役得です」

 

「なとちゃんなんか言った?」

 

「いいえ!何でも!?」

 

「むー」

 

めめめだけではなく、なとりもばあちゃるとの距離感に違和感を覚える。少し前までピノと同じようにどこか壁があったはずなのに二人にはそれがない。ばあちゃる自身も二人に対して信頼以上の感情をどことなく読み取れた。そんな三人がとても羨ましいと胸が訴えてくる。

 

「おうまさん!私(わたくし)も何かお手伝いしますわ!」

 

「はいはいはい。ピーピーもありがとうございます。けどばあちゃる君は大丈夫っすからね。ピーピーには配信を頑張ってほしいと思うっすよ」

 

「むー!そうじゃなくてー!」

 

優しく頭を撫でてくるばあちゃるに抗議の声を上げる。ばあちゃるとの直接的なスキンシップはピノの特権だと考えていた。しかし、気付くと自分以外の皆は徐々にばあちゃるとの距離を縮めていく。そのことにピノは焦りを覚え始める。

そんな二人を微笑ましそうに見ているなとりにめめめ。その時、校門の外から声が響いた。

 

「ばあちゃるさーん!!逃げてぇー!」

 

「ウビ?この声は、アカリン?」

 

聞き覚えがある声に振り替える。しかし、肝心のアカリの姿ははるか後方におり、目前にいたのはばあちゃるがよく知る人物だった。

 

「うーーーーまーーーーー↑↑↑!!!!」

 

「げぇ!?エイレーン!?」

 

驚愕するばあちゃるへ飛び蹴りを繰り出す。しかし、寸でのところで反応することが出来たばあちゃるは身体を逸らしこれを回避。空振りに終わった飛び蹴りから体制を整え、綺麗に着地して振り向き、ばあちゃると対面した。

 

「チッ!躱しましたか」

 

「躱すに決まってるっすよ!?唐突になんすか!?というか今日呼んだのはアカリンであってエイレーンは呼んでないっすよ!」

 

「着いてきました」

 

「いやいやいや!?あんた仕事は!?」

 

「そんなもの萌美さんに押し付けましたよ!」

 

「相変わらずハチャメチャっすね!?」

 

「それほどでもないです」

 

「褒めてないッ!?」

 

「こ、これは」

 

「一体全体どういう状況なんです!?」

 

「やっと追いついた!」

 

突如として現れた女性とばあちゃるで起きた一連の流れを三人は呆然としてみることしかできなかった。時折に辛辣な部分を見せるばあちゃるだが、基本的には誰に対しても紳士的な対応をする彼がこうも言葉を荒げて雑な対応する姿は、三人とって初めてでどうしても混乱することしかできない。そんな呆然とする三人の前に息を荒げながら『ミライアカリ』が現れた。

 

「もうエイレーン!急に走り出さないでよ!それにばあちゃるさんに迷惑かけないでって言ったじゃん!」

 

「いやいや、アカリさん。こんな馬面がこんなかわいい子がいっぱいいる学園の長なんですよ?一発蹴り入れたって問題ないじゃないですか」

 

「理不尽!?」

 

「かわいい子がいっぱいでズルいってのは同意するけど」

 

「アカリンも何言ってるんすか!?」

 

「アカリさんの同意も得ましたし、覚悟しろ馬↑↑!!」

 

「来るのは構わないっすけど全力で抵抗するっすよ!?」

 

「ズルいけど!ばあちゃるさんにはいっぱいお世話になったんだから迷惑かけるのはダメ!」

 

「うっ」

 

アカリの訴えにばつが悪そうにし、そっと臨戦態勢を解く。そんなエイレーンも確認しながらばあちゃるもまた抵抗態勢を解き、後頭部を軽く掻いた。そして視線をアカリへと向けた。

 

「ちょっと早いっすけど、ばあちゃる学園にようこそ。アカリン」

 

「ははは。ウチの者がお騒がせしてごめんなさい。改めてお邪魔します!」

 

「ちょっと。それじゃあ私がお邪魔みたいじゃないですか!」

 

「いや、どう考えてもお邪魔っすよね?」

 

「後で覚悟しとけよ馬!アカリさんからもなんか言ってください!」

 

「今回はばあちゃるさんと同意見だよ」

 

「アカリさん!?え、私の味方がいないんですか!?」

 

「なんでいると思ったっすかね」

 

「あ、あのー?ばあちゃるさん、そちらの方は?アカリさんのことは知ってますけど、初対面ですよね?」

 

「ん?あ、はいはいはい。そういえば紹介がまだでしたね」

 

盛り上がる三人になとりが先陣を切って割り込む。ばあちゃるの発言やVTuberとして活動しているため、正確には誰なのかは知っている。しかし、紹介がない以上、勝手に名を呼ぶの失礼だと思った故の行動だ。それを読み取ったばあちゃるはそっとエイレーンの背中を押し、三人の前に立たせる。

 

「知名度だけはあるっすから知ってると思うすけど、こいつは『エイレーン』。『アニメ娘エイレーン』というチャンネルで活動してる人っすね」

 

「今は萌美さんやヨメミさんのサポートに回ってますから活動は控えてますけどね。あとそこにアカリさんはウチの娘みたいなものです」

 

「娘?あれ、アカリちゃんってENTUMの所属じゃ?」

 

「所属はENTUMだけど、ほら、私って記憶喪失じゃん?実はその時にエイレーンに拾われたの」

 

「ああ、そんな設定ありましたね」

 

「おおう!?シロちゃんに聞いてたけどピノちゃんって思った以上に辛辣だ―!」

 

『設定じゃないよー!?』なんて涙目に訴えるアカリに苦笑が零れる。素直にカワイイと思えるアカリの姿になとりは人気の理由を納得した。

 

「拾ったというか託されたというか…まぁ、それは置いといて今日は馬に用があってアカリさんについてきたわけなんです」

 

「エイレーンがばあちゃる君に用なんて変なことに巻き込まれそうで嫌なんすけど」

 

「むしろ巻き込まれに来た、ってのが正確です。聞きましたよ件の事件」

 

「もしかして、もちさんが巻き込まれた事件ですか?」

 

「それです」

 

なとりの発言にエイレーンは頷きながら腕を組む。流石にこのまま立ち止まって会話をするのは登校する生徒の邪魔になると判断し、歩き出した。

 

「アップランド、upd8ににじさんじ。さらにホロライブ。こうもVTuber関係の事務所の人間が個人で集まって何かしているのなら参加するべきだと思いましてね」

 

「遊びで集まってるわけじゃないっすけど」

 

「そんなこと分かってますよ。VTuber業界は今は落ち着いてきてますけど、まだまだ大きくなっていきます。ならその関係者とパイプを繋いでおくのも手でしょう?」

 

「おお。エイレーンが意外にも考えてる」

 

「相変わらずに目ざといっすね。…まぁ、エイレーンの実力は理解してるっすけど、本当に今日来たのはそれが理由っすか」

 

「そんなわけないじゃないですか」

 

そうして足を止め、なとりとピノへ視線を送る。どこか観察するようなその視線にピノは恐怖心を抱き、なとりの背中に逃げた。

 

「エイレーン?」

 

「…カワイイ貴方の子達も見たかったですし、なにより貴方の様子を見に来たんですよ」

 

「ばあちゃる君の?」

 

何のことかわからず、首を傾げながら自身に指を向ける。その様子に『変わりませんね』と呟きながらため息を吐いた。

 

「貴方は昔から自分を度外視して作業するじゃないですか。今では貴方の同僚さんに仲のいい狐さんとかいるみたいなので問題ないと思ってましたけど、それでも心配だったのですが」

 

「…な、なんすか」

 

「なるほど。貴方が変わるきっかけはこの子達でしたか。うん。悔しくないと言えば嘘ですけど、今のあなたを見れただけ私は満足です」

 

その心底ホッとするような安心した表情をするエイレーンをアカリは初めて見た。面倒を見てくれる時の親の顔ではない。それは言うなれば『女の顔』だ。そんな二人の仲にピノは、また胸の痛みを覚えた。

 

「さて、私の予定の半分は終わりましたし、さっさと残り半分の話をしましょうか」

 

「ちょっと!今日はアカリが講師として来てるんだからアカリが先だよ!」

 

「はいはいはい。それなら続きは学長室でしましょう!なとなと、めめめめ、ピーピー。授業サボっちゃダメっすよ!」

 

「は、はぁ。…んなぁ!?サボるわけないじゃないですか!ねえめめめさん!?」

 

「お、おう!?そうだぞ!ただでさえ遅刻が多くて補習のリーチなんだ!サボるわけないよ!」

 

「めめめさん…」

 

「そんな目で見ないでぇ!?」

 

憐れむなとりの視線にめめめは抱き着く。そんないちゃつく二人を横にピノは学長室に向かうばあちゃる達から視線を外せずにいた。

 

 

 

 

前へ

 

 

 

「はぁ」

 

時間は一時半。ばあちゃる学園は昼食の昼休憩を終えて5限目の授業が開始してる。本来であれば中等部であるピノも自身の教室で授業を受けてなければいけない。だが、ピノは現在、誰もいない中庭にて紅茶を飲んでいる。要はサボりだ。

 

「ピノ様」

 

「あ、じいや。ありがとう」

 

背後から現る初老の男性。カルロ家に仕える執事であり、ピノの専属でもある。女子高であるばあちゃる学園であるが、学園長であるばあちゃると共に学園に出入りできる数少ない男性だ。空となったカップに紅茶を注ぎ、背後へと姿を消した。

 

「むー」

 

香りを嗅ぎ、一口。紅茶特有の甘さを味わいながら今朝のことを思い出し、顔を顰める。

尊敬する姉のような先輩とばあちゃるの距離感。明らかに近くなったそれに、ピノは嫉妬心を抱いていた。アイドル部の中で一番年下で、ばあちゃるから直接的なスキンシップも一番多い。子供とみられているのはネックであったが、それでもシロを除いて自分が一番ばあちゃるに近いと思っていた。しかし、気付くとそれは変わっていて、なとりもめめめも少し前であれば、離れたであろう距離にいても拒まれず、自然に受け入れていた。それだけで驚愕する出来後でもある。そしてなにより、ピノにおいて一番驚愕だったのはエイレーンの存在だ。アイドル部が発足されてからばあちゃると一番付き合いが深いのは自分を含めたアイドル部の面々で、身内といっても差支えがない関係である。だからこそあの遠慮のない二人の関係は眩しく見えた。ズルい、と思った。

 

「どうしたらいいんでしょうか」

 

その問いの答えは返ってこない。そもそもこの感情が恋愛かどうかすら、ピノには判断できなかった。怖くて、羨ましくて、そして幸せになるこの感情はきっと恋だと憶測でしか判断できない。いつもの自分であれば好奇心のままに行動できたであろうが、きっとばあちゃるはそれを優しくではあるが断るだろう。そういう方だと、幼いピノでも理解ができた。もし断られたら?なんて考えると足が竦む。こんな躊躇することも初めてでどうしていいかわからず、ピノは動けずにいた。

 

「何か悩んでるみたいですね(@`▽´@)/ 」

 

「そうなんですよ。その、恋愛関係でちょっと」

 

「恋のお話?私でよければ相談乗りますよ?(๑ᵔ⌔ᵔ๑)」

 

「ほんt…っ!?あ、淡井先生!?」

 

ぼやきに帰ってくる返事に不審に思い、顔を上げると人外の角を生やした金髪の女性『淡井フレヴィア』が対面の席に座っていた。後方に消えたはずのじいやがいつの間にか淡井先生の横に立っており、自分と同じ紅茶をカップに注いでいる。その様子に淡井先生は『どーも(๑ᵔ⌔ᵔ๑)』と微笑みながらカップを受け取った。

淡井フレヴィア。愛称は淡井先生で、ばあちゃる学園の臨時教師兼アイドル部の副顧問。彼女はばあちゃるが外部から連れてきた人物だ。これといった担当科目はなくオールラウンダーであり、急な欠勤などで教師が抜けた時に教壇へ立つ。副顧問であるため、アイドル部とは他の教師より親しい中でもある。また、アップランドに所属はしていないが、一人のVTuberとして活動もしていたりする。

 

「いやいや!?じいやもなんで普通に紅茶を注いでいるんですか!?というかいつの間にいらっしゃったんですか!?」

 

「丁度時間が空いて、廊下を歩いていたら中庭でサボってるピノちゃんが見えたからね。せっかくだから一緒にお茶しようと思って(≧∇≦*)」

 

「教師が生徒と一緒にサボるなんて聞いたことないですよ!?」

 

「ここはばあちゃるさんが学園長のばあちゃる学園だよ?普通なわけないよ(´ε`;)」

 

『共犯者だね(≧∇≦*)』といい笑顔で言われてしまえばもう何も言い返せない。諦めたようにため息を吐き、再び席に座る。

 

「それで、ずっと百面相してるけど何悩んでるのですか?(。·ω·。)」

 

「見ていらしてたんですか!?」

 

「あんなにコロコロ表情変わってれば悩んでることくらいわかりますよ。廊下で見たときから思い詰めてた雰囲気は見て取れましたし(*´ω`*)」

 

「う。そんなにわかりやすかったですか?」

 

「うん。超わかりやすかったよ(;'ω'∩)」

 

その言葉にピノは頭を抱える。すぐに表情に出ることわかっていたがまさかここから離れた窓から見て取れるくらいわかりやすいとは予想外だ。ポーカーフェイスの練習をしようと心に誓った。

 

「その、相談に乗ってもらってもよろしいでしょうか?」

 

「いいよいいよ!私でよければなんでも相談に乗りますよ(๑ᵔ⌔ᵔ๑)」

 

ニコニコと笑みを浮かべる淡井先生にピノは意を決してその感情を話した。もちろん、本人の名を晒すわけにいかないので仄めかしながらであるが。

 

「なるほど。ばあちゃるさんのことですね!(≧∇≦*)」

 

「私が隠した意味がないじゃないですか!?」

 

もう色々と台無しだった。『ははは』と苦笑する淡井先生に頭を抱えることしかできない。

 

「けど、そんなに悩む必要はないよ」

 

「え?」

 

顔を上げ、淡井先生に視線を向ける。そこには優し気な笑みを浮かべ、こちらに柔らかな視線を向ける淡井先生がそこにいた。

 

「確かに、恋は怖いです。その人に嫌われたどうしようとか、あの人が気づかなかったらどうしようとか考えちゃいますね」

 

「それは…そうです」

 

「恋敵が多いとさらに大変ですよ。どうしてもそこに私の方が好かれているとか、あの人はなんであんなに距離が近いの?なんて意味も無くて不毛なことも考えちゃう」

 

「…」

 

その言葉にピノは俯く。思い返してみれば自分は常に『年下であり、ばあちゃるとのスキンシップが多い』と脳内で考えていた。それは淡井先生が言う様に『自分は尊敬する姉のような先輩たちより上』と考えていることに他ならない。どうしようもないほどの自己嫌悪に襲われ、瞳に涙が貯まる。

 

「けどね。そんなこと気にしなくていいんだよ」

 

「…え?」

 

「だって人ですよ?嬉しいって思うのだって嫉妬するのだって人として当然のことですよ。問題はその感情をどう処理するかじゃない?」

 

「どう…処理するか」

 

「抱えてたって仕方ないからね。いっそその膨れる感情をひっくるめて全部相手にぶつければ良いんですよ!喜びも悲しみも嫉妬心も!全部恋心に乗せてぶつけるの!」

 

強く力説する淡井先生に何故か苦笑しか沸かない。淡井先生の言うことは単純でそして自分が嫌う子供のようなやり方だった。けど、今はそのやり方が正しいと思える。

 

「そんなの、子供みたいじゃないですか」

 

「いいじゃないですか。実際今は子供なんですし。感情に赴くままにぶつかってみればいいんですよ。そんな子をばあちゃるさんは見捨てると思います?」

 

「そんなわけッ!?」

 

そこでばあちゃるが常日頃言っていることを思い出す。『子供はとりあえずやってみればいい。失敗なんて気にしなくていい。それフォローをするために俺たちがいる』。ならば、今からやることは決まっている。

 

「そうですよね。おうまさんなら任せても大丈夫ですよね。…淡井先生」

 

「はい?」

 

「私、ちょっとどうしてもやりたいことができたので6限も自主欠席しますね!」

 

「宣言とはいいね!任せて。こっちは私がなんとかしておきます!(≧∇≦*)」

 

空になったカップをじいやに預け、ピノは一目散にある人物のいる学園長室へと足を走らせる。小さくなっていくその背を見ながら淡井先生は温かさを感じる笑みを浮かべていた。

 

「青春してるなー(๑ᵔ⌔ᵔ๑)」

 

「…貴方様も諦めてはいないのでしょう?」

 

「さぁ?ノーコメントでお願いします(;'ω'∩)」

 

じいやの指摘に頬を赤く染め、言葉を濁した。

 

 

 

 

前へ

 

 

 

「おうまさん!!」

 

「ウビィ!?」

 

階段を駆け抜け学園長室の扉をノックせずに勢いのまま開ける。中で机に向かい作業していたばあちゃるはノックなしの訪問に本気で驚いたように全身で反応したのがわかる。その様はどこか可愛らしくピノはクスリの笑みを零した。

 

「ピ、ピーピー?どうしたっすか急に。そもそも今は授業中なんじゃ?」

 

「私、おうまさんに言いたいことが、伝えたいことがあります!」

 

困惑するばあちゃるを前にピノは声高らかに宣言する。この先、何が起こるか不安で胸が張り裂けそうだ。だがそれ以上に、自身が望む未来を掴めた時の未来を想像すると胸が高鳴って仕方がない。相反する二つの感情を胸にピノはその頬を真っ赤に染めて想いのたけを叫ぶ。

 

「わたくし、おうまさんのことがすきです!だいすきです!」

 

「ッ!?」

 

その叫びにばあちゃるは硬直する。その叫びは以前とある懺悔室にて聞いた想いと同じだ。そしてそこでようやく彼女が『あたしたち』と言ったことを意味を理解する。困惑するばあちゃるに気にせず、少女は想いを言葉に紡ぐ。

 

「この感情がいつから私の中に出来たのかわかりません。けど、いつの間にかできていて、そして、いつの間にかこんなに大きなものになりました」

 

「正直、この感情に私は恐怖を覚えました。『もし嫌われたら』とか『受け入れてもらえなかったら』なんてマイナスのことばかり考えてしまいます」

 

「けど、それ以上に色んなことを学べました!これから先の未来を思い浮かべるだけで嬉しくなれる。一緒に歩くことに喜びを得られる。貴方のことを考えるだけで幸せになれる!」

 

「私はこの感情の先をしりたいです。だから、一歩踏み出します」

 

宣言通り、ピノは一歩前に歩みを進める。元々好奇心旺盛な子だ。きっと恋に対して嫌な思いをしたことも発言から読み取れる。それでも『知りたい』という意思が彼女を踏み出させた。

 

「本当は、未だって足が震えて怖いんです。けど、『失敗してもいいんですよね?』」

 

その発言に言い逃れが出来ないことを理解する。なんたってばあちゃる自身が彼女たちに言い聞かせてきた言葉だからだ。しかし、受け入れることはできない。けれど拒否することも不可能だ。ばあちゃるはその意思を言葉の乗せる。

 

「…俺はその告白を答えることはできないっすよ」

 

「ふふ。わかってますよ。おうまさんは立場だってありますし私達の保護者のようなものでありますから。なら私がやることは一つです」

 

羞恥からの真っ赤な顔を隠そうよせず、いつもの悪戯を思い浮かべる子供のような笑みを浮かべた。

 

「絶対、ぜっったいに振り向かせて今度はおうまさんから告白させてやりますよ!」

 

「これは、困ったな」

 

実際、自分の立場的に危険な状況であることは変わらない。なんせ二回りも下の教え子に告白されるという状況だ。もし外部に漏れたりした、今度こそ言い逃れが出来ない本物の炎上案件だ。だのに、そのまっすぐの好意はくすぐったくて、嬉しくて。マスクの下で笑みを零してしまった。

 

「覚悟してくださいね?『ばあちゃるさん』!」

 

「はは。これは、やばーし、っすね」

 

恋に恋する14歳の少女のそれは、実るかどうかはわからない。けれど、その恋はきっと少女に愛を教えるだろう。それは、とある昼時に起きた恋が愛へと変わり始める物語の始まり。

 

 

 

 

前へ

 

 

 

「お、おおう。き、禁断の恋だよ!?エイレーン!?」

 

「アカリさん声のボリューム落として!バレちゃいますよ?」

 

学園長室からは入れる仮眠室。そこには本日客人として来ていたアカリとエイレーンがいた。アカリは講師としての仕事以外、今日はフリーだったため講習がある放課後まで余裕があった。授業中に出歩くのはさすがに気が引けたためこの仮眠室で休憩の時間以外は時間を潰している。ばあちゃるもちょくちょく顔を出すし、なによりシロが置いていった軽く遊べる小道具があったためそれほど退屈はしていなかった。ルービックキューブで遊んでいるその時、外から扉が開く大きな音。何事かとのぞき見をしているとピノからの大胆な告白劇を始まってしまった。

 

「ばあちゃるさん。一年くらいの付き合いだけどホントいい人だから幸せになってほしいけど」

 

「まぁ、あの男が二回り下の、さらに自分が担当している子に手を出すとは考えられませんけどね」

 

「それは私もそう思う。ばあちゃるさんガード超固いし。それよりも、エイレーンっていつからばあちゃるさんのこと知ってるの?」

 

「…ちょっと昔に色々あったんですよ」

 

その言葉にこれ以上の追及は無理だとアカリは理解する。一度口を閉ざしたネタはその時が来るまで語ることはない。長い付き合いからそれを知っているアカリはそうそうにこの話題から離れた。再びのぞき見をするとピノは変わらず真っ赤の顔のまま、ばあちゃるへいたずらな笑みを浮かべている。

 

「絶対、ぜっったいに振り向かせて今度はおうまさんから告白させてやりますよ!」

 

「ッ!?あの子」

 

「え、お、お?どったのエイレーン?」

 

その告白は聞き覚えがあった。感情のまま、自分が思い描く未来を吐き出す告白。それは正しくエイレーンが過去にばあちゃるに送った言葉だった。

 

「ぁ」

 

そしてばあちゃるを見た。困惑しながらもその告白を真正面から受け止め、満更でもない様子がマスク越しで浮かべている。自分の時と違うその反応にエイレーンの胸には嫉妬心よりも歓喜で溢れていた。

 

「貴方も、ようやっと前に進めることが出来たんですね」

 

「エイレーン?」

 

過去にばあちゃると別れる前。彼は人生最大の別れを経験をした。エイレーンが告白した理由には自分の想いを伝えるのと同時に、ばあちゃるをここに繋ぎとめる意味も持っている。そこに効力があったか定かではないが、その告白に、初体験には裏があったのは確かだ。もちろんその行為に後悔はない。しかし後ろめたさがあった。だからこそ一歩踏み出せず今まで公式では会わないようにしていたのだが。

 

「これは、いいものが見れましたね」

 

目の前の男女に改めて視線を向ける。年の差は大きいがそのばあちゃるの姿は確実に『今』を生きていることが見て取れた。

 

「なら、私も動き始めますか」

 

「さっきからどうしたの?」

 

「いいえ。ちょっと惚れ直しただけですよ」

 

エイレーンが見せる初めての『恋する少女』のような表情にアカリはただ見惚れることしかできなかった。

 

 

 

 

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