馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の補習
普段は放課後に行うのだが、生徒の都合上で祝日に登校してもらうこともある
それはアイドル部のような特殊な都合の時のみだ
そして今日、とある生徒が祝日に補習に来たようで…?


(番外編)


彼の暗い顔は見たくない(ヤマトイオリ)

「むむむむむむっ」

 

祝日の午前11時。『ヤマトイオリ』は一人、机の上に置かれている答案用紙とにらめっこを続けていた。本来であれば、ばあちゃる学園も休園しているが、イオリはテストに赤点を取ってしまった為、補習に呼び出されてしまう。その為、いつも賑やかなクラスの様子は影を潜め、静観な姿を見せている。

 

「うまぴーたすけてー!」

 

「はいはいはい。いやね、これはテストなんでね。いくらばあちゃる君でもお手伝いはちょっと出来ないっすね」

 

「むぅ!うまぴーの意地悪っ!」

 

「意地悪!?え、いやいやいや!?これテストっすよ!?」

 

顔を上げ、二つ前の席からこちらを見ているアイドル部のプロデューサー『ばあちゃる』へ助けを乞う。何故ばあちゃるが、ここにいるのか。それは補習の教師として、赴いているに他ならない。二人っきりの補修の真っ最中だ。その事実にイオリは胸を躍らせるが、目の前の答案用紙がそれを許してくれなかった。

 

「いおりーん。このテスト乗り切れれば長かった補習は終わりっすよ?せっかくの休日なんですし、遊びたいっすよね?」

 

「イオリはうまぴーと遊びたいです!」

 

「はいはいはい。ばあちゃる君もね、今日はフリーなんでね、買い物でもなんでも付き合うっすよ。なんでね、とりあえずテストを終わらせましょう?」

 

「ホントにホントにぃ!?なら、イオリンもね、頑張ります!」

 

ふんす、と鼻息荒く拳に力を籠める。その挙動一つ一つが可愛らしく、ばあちゃるはマスクの下で小さく笑みを作った。気合を入れて答案用紙に向き合うイオリだが、その勢いも徐々に落ちていき、ついには止まってしまう。うんうんと頭を捻るイオリに、『甘やかしすぎはいけない』と思いながらもつい手助けをしてしまう。

 

「…さっきの問題の、最初の式を当てはめて見てはどうっすか?」

 

「え?…おぉ!解けたようまぴー!すごい!うまぴー頭いい!」

 

「解いたのはイオリンっすから頭いいのはイオリンっすよ」

 

「あそっか。イオリは頭がいいのです!」

 

そう自分すら褒めるイオリに、上がった口角が元に戻らない。以降の数学の問題は、その公式を使えば解けることに気付いたイオリはその筆をゆっくりと、しかし確実に進めていく。そんなイオリにふと、悪戯心が湧いた。鞄からタブレットを取り出し、以前ダウンロードした問題を探る。

 

「イオリンイオリン」

 

「ん?どうしたのうまぴー?」

 

「ちょっとボーナス問題っす。これ答えれたら追加得点あげちゃうっすよ?」

 

「ホント!?やるやる!」

 

「問題は三問。行くっすよ?どん!」

 

ダブレットに開示される問題は以下の通りだ。

 

①5と7の最小公倍数を書きなさい

 

②16の約数を全て答えなさい

 

③16と24の最大公約数を書きなさい

 

以上の三問を確認後イオリは、小さく怒りの感情を顔に浮かべ、ばあちゃるに口を尖らせた。

 

「うまぴーイオリのことバカにしすぎ!これくらい簡単だよ!」

 

「言ったっすね?タッチで反応するっすから、そのまま答えを書き込んでどうぞっす」

 

「ふふん!数学が得意なイオリにはおちゃのこさいさいですよー」

 

特に悩む様子もなく、タブレットへそのまま書き込んでいく。自信満々に返されたタブレットへ視線を落とした。

 

①5と7の最小公倍数を書きなさい

35

②16の約数を全て答えなさい

1,2,4,8,16

③16と24の最大公約数を書きなさい

8

 

見事なまでの全問正解である。

 

「おお!大正解っすよ!これは一問に5点の追加をあげちゃいます!」

 

「やったー!ふふん!こんな問題、間違える人なんていないよー」

 

「…ええ、そうっすね」

 

胸を張るイオリのその言葉に、ばあちゃるの脳内に『げんきですか!オマエラ!』と挨拶する、とあるそっくりさんの顔が浮かぶ。何故か悲しくなって目頭から熱いものを感じた。

 

「イオリン。下には下がいるっすよ」

 

「?どうしたのうまぴー?」

 

「いや、ちょっと悲しいことを思い出しただけっすよ」

 

急に謎の発言をするばあちゃるに、イオリはクエスチョンマークを浮かべることしかできない。そんなイオリに、呆れ顔で答案用紙を指さす。それに気づいたイオリは、再び回答用紙と格闘を開始した。

 

そんなイオリを眺めていると、不意に思い浮かぶのは夕暮れの光景。忘れもしない、いろはの大舞台だ。彼女の告白は、確かにばあちゃるへと届いていた。みんなと歩む未来。その道はきっと険しいだろう。しかし、シロにアイドル部のみんながいれば、どんな道だろうと、どんな困難だろうと乗り越えられる。それは、ばあちゃる自身もそう思っている。

 

(しかし…)

 

それでも考えてしまう。彼女たちと自分が釣り合うわけがないと。暗い感情が胸から溢れてくる。指し伸ばす彼女たちの手を取ることが出来ない。取ってはいけないと過去の自分は言ってくる。目の前が暗くなるのを感じた。

 

「うまぴー?」

 

「ッ!?な、なんすかイオリン?」

 

呼びかける声に、驚きながらも返事をする。目の前には、心配そうにこちらを覗き込んでくるイオリの姿。このままではいけないと、暗くなる感情を無理やり飲み込んだ。

 

「ど、どうしたっすか?あ、もしかして解き終わったっすか?」

 

「ねぇうまぴー?もしかして悩み事、あります?」

 

「あ、…いや」

 

問いかけるイオリに何も言えなくなる。前までのばあちゃるであれば、自分の感情を殺して飄々といつもの自分を演じれただろう。しかし、アイドル部との交流が彼を変えた。ばあちゃるは無意識にアイドル部の子達に対して、嘘をつきたくないと思っている故の現象だ。それに気付けないばあちゃるは、言葉が詰まる自分に困惑するしかない。

 

「よし。うまぴー。ぎゅー!」

 

「い、イオリン!?」

 

胸元に飛び込み、背に手を回して抱き着いてくるイオリ。その突拍子のない行動にばあちゃるは反応できずにいた。自身の胸に重なるように当たる、イオリの豊満な胸。女性特有の甘い匂いが鼻をくすぐる。ばあちゃるはマスクの下で赤面をした。

 

「うまぴーが何を悩んでるのか、イオリにはわかんないよ。けど、うまぴーには暗い顔をしてほしくない」

 

「イオリン…」

 

「イオリ、おバカだから。たまちゃんみたいに相談に乗ることはできないし、りこちゃんみたいにすごい発明でお手伝いすることも出来ないです。でも、うまぴーの力になりたいの」

 

背中に回る腕の力が強くなる。マスクのせいでイオリの顔は見えないが、そこには自分を心配する表情を浮かべていることは容易に想像がつく。愛おしさが、胸に溢れる。

 

「そんなことないっすよ。イオリンのその想いが、何よりもばあちゃる君に元気をくれる。頑張ろうと思える」

 

「…ホント?」

 

「ホントにホントっす」

 

「えへへ。それならイオリも嬉しいです」

 

マスクの口から、赤面しながら照れ笑いを浮かべるイオリが見える。そんなイオリへの愛おしさにばあちゃるは、気付いたら抱き締め返していた。

 

「おぉ!うまぴーからのぎゅーだ!」

 

「お、お返しっすよ、イオリン!ぎゅー!」

 

「すごいすごい!うまぴーすごいよ!なんかすっごいイオリは幸せです!」

 

照れながらも抱き返すばあちゃるに、イオリのテンションは鰻登りに上昇する。幸せそうに笑みを浮かべるイオリに、ばあちゃるも幸せを感じる。幸せループはここにある。

 

「イオリン、ありがとう」

 

「ん?イオリ、なにもしてないよ?」

 

「そんなことないっすよ。イオリンは、ばあちゃる君にとっても凄いことをしてくれたっすよ」

 

「そうなの?よくわかんないけど、どういたしまして!」

 

幸せを全開にして笑うイオリと向き合うために。こんな自分に告白してくれたピノといろはに向き合うために。ばあちゃるは、過去を見つめなおす決意をきめた。

 

 

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