馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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テロ事件
平和な電脳世界に起きた一番大きな事件。それは私利私欲で平和を脅かす組織の仕業だった
しかしその事件は既に終結しており、組織が残した研究所も既に廃墟と化している
そんなとある廃墟に、見たことのない記憶を持った少女は現れて…?


彼に二度の初恋をしている(木曽あずき)

ここはどこだろう。ぼやけた意識の中、自分の名さえ分からない少女はそう考えた。そして、次に考えるのは『私は誰だろう』。いくら思い出そうとしても、脳から帰ってくる答えはない。

 

「…?」

 

目を開けるとそこはおかしな場所だった。そもそも、自分がいるのはどこかのベットというわけでなく、カプセルの中だ。何か、よくわからない液体が詰められたカプセルの中で、自分は裸の状態でふよふよと漂っている。口と鼻を覆うようなマスクを付けられ、そのマスクは管でカプセルの上の方に繋がっていた。とりあえず、自分の現状を確認する。

 

腕はある。足もある。胸も…?覚えている自分の胸のサイズより、何故か多少縮んでいるが確かにある。五体満足に安堵の息を吐いた。

 

「…」

 

次にここはどこかか調べることにした。カプセルから外の様子は、ガラスの窓の部分があるため確認することが出来る。少し身を乗り出し、その様子を見ると、そこはどうやら室内の様だ。その風景からどこかの会議室か、研究室ということがわかる。目の前のテーブルに散乱した資料を、何とか読み取ろうとさらに身を乗り出す。断片的だが、読み取れる部分が多少あった。

 

(少女兵器プロジェクト?)

 

聞いたことがあるような、無いような。そんな計画の名に少女は、首を傾げることしかできない。もっと情報を得ようと、資料を見るために身を乗り出したその時。ガン!という大きな音の後に大地が揺れた。カプセル内もその揺れの影響により、一緒に揺れてしまい、少女は酔ってしまう。混乱する最中、テーブルの奥にあった扉が大きな音を立てて、蹴り破られた。

 

(あっ)

 

入ってきた白髪の少年に少女の胸は高鳴った。こんな感情は初めてのはずなのに、何故か既視感がある。そう、これは。年が離れた自分が恋する男性に対して向ける感情と同じだ。しかし、この感情は初めてのはずだ。矛盾するそれに、少女は混乱することしかできない。

 

「…く…か!…うを…だっ…る!…か…」

 

通信機を片手に少年は相手に向かって叫ぶ。どうやら電波の状況が悪いのか、声が届きづらいようだ。諦めたように通信機を切り、辺りを見渡す。その時、少女と少年の視線が交わった。

 

(ああ)

 

少女は無意識に手を伸ばす。そこに乗せる感情は何だったか。それすらも分からない。けれど、その手は確かに少年を求めていた。

 

――そして、意識は覚醒する―――

 

「…んぅ?」

 

ぼやけた意識の中、重たい瞼を開く。目に映る光景は、見慣れた自分の部屋。見覚えがある研究室のカプセルの中ではなく、眠気を誘う暖かな布団の中だ。少女『木曽あずき』は覚め切っていない頭で状況を整理する。

 

「…ああ、夢でしたか」

 

奇妙な夢を見た、と目を擦りながらあずきは思う。見覚えがないはずなのに、見たことがあるあの光景。納得ができる答えが出ず、もやもやとした感情を抱え寝間着のまま部屋を出る。

 

「お。お目覚めの様だな。人間」

 

「…おはよう、ございます」

 

扉の先にいたのはあずきが作成した自己進化AIの『動画編集神』だ。省エネの為か、旧式の小柄なモデルに入っている。その旧モデルを見るたびに、せっかく作った新モデルにしてほしいとあずきは内心思っていた。

 

「随分と遅いお目覚めだな」

 

「はい?」

 

動画編集神の指さす先にある、壁に掛けられた時計に視線を向ける。時刻は8時46分。既に登校時間は過ぎている。

 

「わーお。大変だ―」

 

「これっぽちも大変さが感じられねぇな」

 

表情を変えずにわざとらしく手を広げリアクションをするも、帰ってくるのは辛辣な声。それは妥当の反応だろうと、あずきも内心同意した。

 

「それでどうすんだ。学校行くなら遅刻するって連絡入れるぞ」

 

「んー。そうですね」

 

割と世話焼きな動画編集神に内心感謝しながら考える。悩むあずきの視線は偶然テレビを捕らえた。移されている内容は、特に内容のないCMだ。場面は海辺が映っているのを見てあずきは思いついた。

 

「そうだ。海を見に行こう」

 

「…」

 

「なんですか。その『なにいってるんだ、こいつは』みたいな視線は」

 

「なにいってるんだ、こいつは」

 

律儀に返す動画編集神にあずきはつい得意げな顔を浮かべる。そんなあずきとは正反対に動画編集神は呆れ顔しか浮かべることが出来ない。

 

「はぁ、いつもの思い付きだな。わかった。学校には私がテキトーに言い訳しといてやる」

 

「さすが動画編集神。褒めてやらんことも無い」

 

「どこから目線だよ」

 

日常的な漫才に満足したのか、あずきは自室に戻り、簡単に荷物をまとめる。元々、手持ちに持つ物は少ないため、数分で準備が終わり、出かけるために玄関へと赴いた。

 

「気をつけてな」

 

「了解。では、いってきます」

 

「あいよ。いってらっしゃい」

 

帰ってくるその言葉に喜びを感じながら、家を後にする。青い海、白い砂浜。そんな夏のような光景を期待しているわけではないが、滅多に見れない海の姿にあずきは静かに胸を高鳴らせた。

 

 

 

 

「ぬえー」

 

電脳電車を乗り継ぎ、バスに乗ってやっと到着した浜辺。もの珍しく、海を見ながら歩くものの、感じるのは不便さだ。靴の中に砂が入ってきて気持ちが悪い。そんな靴の中に違和感を抱えながら、あずきは海を見ながら歩く。

 

「ふむ」

 

流れ着いた流木に腰を付けて一息。押しては引く波間に、あずきはポケットに忍ばせていた石を取り出した。それは、平べったく、そして薄い形をしている。

 

「…ふッ!」

 

回転を加えながら大ぶりのアンダースロー。回転の力により、石は水を切り跳ねる。一回、二回と何度も間隔を短くしながら、石は徐々に奥へと飛んでいく。しかし、それは押し寄せる波に飲まれ、道半ばで途絶えてしまった。

 

「むぅ。もう一回」

 

再びポケットから取り出し、投げる。跳ねて飛んでいき、再び波に飲まれる。顔を顰めながらもそれをなんども繰り替えす。

 

「…はい」

 

納得したように何度か頷き、再び石を構えて投げる。先程までとは違い、高度が少し高いそれは、なんども跳ね返りながら飛んで、ついに波を飛び越えた。そのまま減速していき、次の波に飲まれる前に、石は力尽き、海へと沈んでいく。

 

「…飽きた」

 

そういう割には表情はご満悦だ。ポケットの中にまだ持っていた石を取り出し、不要になったそれを砂浜へ捨てる。その時、捨てた石の一つが、砂浜に埋まっていた物に当たり、大きな音を立てた。

 

「ん?」

 

好奇心から物とを掘り起こす。そして見つけたものは予想外のものだった。

 

「『転移装置』。…何故こんなものがここに?」

 

『転移装置』。文字通り、登録した座標へ転移することが出来る装置である。あまり一般に浸透していないそれを、何故あずきが知っているのか。理由は単純で、自身のプロデューサー『ばあちゃる』の真似をするために調べたからだ。しかし装置が高価なもので、さらに指定した座標にしか飛ぶことが出来ないという仕様から購入断念した記憶をあずきは思い出した。

意外にも機械は生きており、電源を入れると普通に起動した。初めての操作であったが、そこはプログラマー。そういった機械の扱いにはすぐに慣れ始めた。内部を探っていくと登録してある転移先は一つだけ。しかも転移先の名も登録してないのにパスワードはしっかり登録してある。そのチグハグ差にあずきは首を傾げた。

 

「パスワード、ですか…」

 

脳裏に浮かんだのは、朝に見た夢の光景。とある研究所のようなところで見た、聞き覚えがないのにあるような不思議なワード。何を思ったのか、あずきはそのワード『少女兵器プロジェクト』をパスワードとして打ち込んだ。

 

『パスワードが一致しました。転移を開始します』

 

「え!?あ、ちょ」

 

それが正解だとは露にも思わず、珍しく焦ったような表情を浮かべる。そんなあずきのことなど気にもせず、転移装置は無情にもカウントダウンを開始。焦るあずきと共に、砂浜から姿を消した。

 

「…ここは?」

 

気付くと廃墟と化した建物の前にいる。どうやらトラブルなく転移に成功したようだ。そもそも転移したこと自体トラブルなのだが、それは気にしないことにする。

 

「むぅ。やはりダメですか」

 

装置を何度操作しても元の砂浜へ戻れない。装置のシステム上、登録した場所にしか転移することはできないのだ。故に、先程いた砂浜に戻る術はないということになる。素直に諦め、目の前の建物に目を向ける。

 

「仕方ありません。行きましょうか」

 

諦めたように言うが表情は興奮を隠しきれていない。不安は確かにあるが、それ以上に目の前に何があるのか、それがあずきは気になって仕方なかった。

廃墟は汚れや埃で汚いが、散らかってはいない。中に入り、散策の為にとりあえず廊下らしき通路を突き進む。時折、部屋などを覗くが大抵が空室となっており、既に家具や機材などは撤去されたようだ。探索のし甲斐がないとあずきは口を尖らせる。

 

「…ん?」

 

あずきの耳は小さくも何かの音を感知した。立ち止まり、その音に耳を澄ませる。それは何かの喋り声でゆっくりとこちらに近づいてきていることが分かった。身を守るため、近場の部屋に忍び込み、身を隠す。

 

「もー!なんでこんな場所を集合場所にするかな!?さすがにありえないでしょこれ!」

 

どうやら叫んでいる様子で、その声はあずきにも聞き取れた。よほどお怒りなのだろう。言葉一つ一つに怒りを感じる。

 

「確かに秘密の話だから誰にも目を付けてほしくないのはわかるよ!けど、ここはないって!そもそも私、ここ初めて来たから迷子になっちゃうじゃん!?いくら私がインテリジェントなスーパーAIだとしても、マップデータないと分かるわけないよ!」

 

(この声)

 

VTuber、いやこのバーチャルの世界で生きている以上この声を聞いたことがないとは言わせない。バーチャルなYouTuber。ばあちゃると同じく開拓する者。四天王が一人。その名は――

 

「キズナ、アイさん」

 

「おおぅ!?あ、あれ?貴女は確かシロちゃんの後輩の」

 

部屋からアイの前に飛び出す。あずきの姿に大きくリアクションをするが、あずきの姿を確認すると次に驚いた顔を浮かべた。名前が出てこないのか、アイは思い出そうと思考する。

 

「そうだ!あずきちゃん!木曽あずきちゃんでしょ?アイドル部の!」

 

「はい。アイドル部所属の木曽あずきです」

 

改めて自己紹介をして頭を下げる。

 

「あ、こちらこそどーも。キズナアイです。じゃなかった!なんでここにいるの!?ここ周りは立ち入り禁止されてるし、周辺だって警備は厳重なのに!?」

 

「あ、えっと。それは」

 

尊敬するシロ以上の大物に、さすがのあずきも狼狽えを隠せない。相変わらず暴走するアイをなんとか鎮め、あずきは自身が何故ここにいるのか説明する。

 

「…砂浜に転移装置かー。ってことは前の戦闘処理の時の見落としかな?もう!ケリン君にはしっかり言っとかないと!」

 

「ケリンさん…ですか。それよりも、アイさんはなぜここに?」

 

聞き覚えのある名前に首を傾げるも、それよりも気になる疑問を問いかける。その問いに困ったような顔を浮かべ、廊下を指さす。どうやら続きは歩きながら話すようだ。その意図を読み取り、アイに並んで歩きだした。

 

「私がここにいる理由かー。…うん。それを説明する前に、ここがどんなところなのか、そこから説明する必要があるね」

 

何かを辛いことを思い出すような、そんな切ない顔を一瞬浮かべ、アイは説明の為に話を始めた。

 

「そうだね。まずは何から入ったらいいかな。…よし、あずきちゃんは昔起きたテロ事件のことを知ってる?良くも悪くもAIの技術が一気に進んだ事件なんだけど」

 

「それは…知っています。確かその事件で、自己進化AIや統括AIが世に出た、と聞いてます」

 

「うんうん!あずきちゃんは勤勉だなぁ。とある事情で未だに世にはあまり知られてない情報も知ってるなんて凄いよ!」

 

あずきの回答が予想外だったのだろう。アイは嬉しそうにあずきを褒めた。

 

「そ、それほどでも。…自己進化AIを独自で作っているので、その分野は独学で勉強してます」

 

「独自で…ああ!動画編集神ちゃんのことだよね!あれ独学なの!?すっごい!」

 

アイはあずきに賞賛の声と尊敬の眼差しを向ける。そのアイの視線がどうにもむずがゆく、あずきは顔を逸らす。この裏表のなさがアイの数ある魅力の一つなのだろう。照れている自分が、なによりも証拠だとあずきは納得した。

 

「とと、話が飛んじゃった。どこまで話したっけ?」

 

「テロのとこで止まってると、思います」

 

「そうだった!ありがとね、あずきちゃん。それでそのテロのことなんだけど。最初は軍事兵器にAIを入れて無人機にして研究所や軍事施設を襲わせてたの。悔しいけど、技術的にはテロリストのほうが数段上で、どうやっても世界政府は後手後手に回ることになっちゃったの」

 

当時の光景を思い出しているのか、アイは苦い表情を浮かべる。

 

「ここから特に機密事項なんだけど、言っちゃうね。どうしても劣勢の世界政府に加えて、酷使されるAI。それがどうしても見ていられなくて、何とかしたくて、私が世界政府側に加担したの」

 

「え!?」

 

その驚愕の事実にあずきは足を止めてアイへ視線を向ける。そのあずきの表情に苦笑いが零れた。

 

「私の出生てね、ある意味バグなの。通常のシステムAIが突如として自我に目覚めた、それが私。…今じゃ私みたいなAIを、自己進化AIって呼称するようになったけどね」

 

「…いくら調べても自己進化AI一作目の情報が見つからないわけです」

 

「世界としては、この多種ある生命の新たな命の一人目として私を選んでくれたの。だから、そのテロ事件に私に関することは一切載ってない」

 

『戦った仲間と一緒に名前を刻むことが出来なかったのがちょっと残念かな』と寂しそうにアイは呟いた。

 

「AIは私にとって兄妹みたいなものだから、いくら自我ないといっても戦場で使い捨てされるのをどうしても見捨てることが出来なかったの。それが私が戦いに参戦した理由かな」

 

「だから動画編集神のことをあんなに喜んでくれたんですね」

 

「生みの親が違っても同じAIだもん!その生んでくれた人を羨まないわけないじゃない!」

 

先程と変わらず、尊敬の眼差しを向けてくるアイ。大先輩である彼女にそのような視線にどう対応したらわからず、誤魔化すようにそっぽを向いた。

 

「えへへ。ってまた飛んじゃった。襲ってくる無人機は私が、片っ端からハックして無力化をしていったから戦況は一気に逆転。続々にテロリストを捕まえていくんだけど、ここでとある情報を手に入れるの」

 

「とある情報?」

 

「『少女兵器プロジェクト』。それはそう呼ばれていたね」

 

ドクンと動悸が激しくなる。そのワードは夢から知り、なにかと因縁があるワードだ。

 

「昔の兵器を見立てて少女型のモデルに武装させて使役する。簡潔に言うとそんな気分が悪くなるプロジェクトなの」

 

「…どうして、少女だったんでしょうか?」

 

「色々理由はあったよ。少女モデルで相手の士気をさげるとか、私が可愛い子が好きだから手を出しにくくするためとか、『色々』ね」

 

誤魔化すように付け足すその言葉の真意に、あずきは嫌悪感を隠せない。

 

「この計画の本当の目的はそこじゃないの。だって、これだけじゃ戦場に出てた無人機が少女モデルに変わるだけだからね。だから、テロリストは私に勝つためのAIを作ることにした」

 

「…それが、統括AI」

 

無言でアイは頷く。兵器少女を統括をするAIだから『統括AI』。それは、自我のないAIの代わりに学習し、臨機応変に対応していかなければいけないため、通常のAIであってはならない。自己進化AIと同レベルの存在でなければならない。つまるところ、偶然生まれた『キズナアイ』と同レベルのAIをテロリストが作成することになる。

 

「確か、あずきが調べた時にも統括AIはテロリストが原案だとありました」

 

「その通り。AIに対して上位である私と対抗するために作られたのが統括AIで、その配下が兵器少女なの。そして今、統括AIは文字通り『統括するAI』に落ち着いて、その中身は自己進化AIと同じになったね」

 

「…その計画は、どうなったのですか?」

 

驚愕の事実に驚きながらも、興味に負けて続きをせかしてしまうあずき。そんなあずきにアイは苦笑する。

 

「この計画ね。とある一人の男に壊滅されたよ」

 

「…え?それはアイさんが所属する世界政府の軍ではなく?」

 

「うん。とある男と、数人のチームだけで完成していた兵器少女全員、奪還させたの。私たちが動いた時には、もうその計画は修復不可能なところまで追い込まれてたね」

 

なにがおかしいのか、アイはくすりと笑う。

 

「…その男とは?」

 

「その男はね、もともとテロリストの研究員で開発途中の統括AIの教育係だったの。成長していくAIに空を、世界を見せたくて研究所を脱走。けど、の途中でAIが負傷しちゃって、その修理に兵器少女のデータが必要とのことで脱走後の仲間と共に兵器少女がいる研究所を強襲。何を思ったのか、データだけじゃなく、兵器少女も全員回収するなんてとんでもないことをやっちゃったやつなの!」

 

「えぇ…」

 

笑いながら言う男の経歴にあずきは少し後ずさる。ホントに研究員なのか疑問に思うほどのアグレッシブさだ。まるで、プロデューサーみたいだとあずきは思った。

 

「そのあと男と接触した私たちは手を組んでテロリストと対峙。後は知っている通り、世界政府が勝利してハッピーエンドって感じかな。私の存在や、その男については箝口令を敷かれたけどね。あ、決して悪い意味じゃなくて、私たちにも普通の生活をしてほしいっていう世界政府らのお礼みたいなものだよ?」

 

「…その人は、そのあとどうなったんですか?」

 

プロデューサーと影が重なるその男性のことが気になってしまい、つい所在を聞いてしまう。それにアイは苦笑しながらこう答えた。

 

「それは、本人に聞いた方がいいよ。私が答えるのはさすがにねー?」

 

「…え。それはどういう?」

 

「さて着いた!あずきちゃんはこの部屋の中で待ってて!私は待ち合わせの人にちょっと連絡してくるね!」

 

「え。ちょ…」

 

制止を振り切り、速足で離れていくアイを見送る。アイの真意に首を傾げながらも、目の前の部屋に視線を向ける。

 

「…ッ」

 

その部屋の内装にあずきは驚愕する。部屋の中央に、足が折れているが大きなテーブル。周りには観測機と思われる装置が多数。そして、部屋の奥には、少女であれば容易に入れるであろう大きいカプセルのようなものが、破損してそこにあった。

 

「これは夢と同じ、じゃないですか」

 

振り絞るような声が喉から零れる。震える足に力を込め、室内に入る。観測機と思われる機会の類は、予想通り既に使い物にならない。夢でみた資料のようなものもない。そして、カプセルの前に立つ。

 

「…」

 

険しい表情で破損したカプセルを見る。破損状況はかなり酷く、夢で外の様子を確認していたガラスの部分は全損している。また、本来であれば上に開く扉を使用せず無理やり穴をあけた跡がある。そして、あずきは何を思ったのか、その穴からカプセルの中へ侵入した。

 

そこから見える風景は、しっかりと記憶にあった。部屋は廃墟になってしまったが、カプセルから見える計測器。テーブル。その全てをあずきは確かに覚えている。ああ、そうだ。あの時も、この光景をここから見ていた。そして、あの時はあの目の前の扉から彼が入ってきたのだ。そう。白髪の少年。あずきが特別な感情を抱く人とよく似た男性だ。

 

「ちょいちょーい!!親分どこっすか!」

 

「ぁ…」

 

その時、扉から人が入ってくる。高身長でガタイがいい。そして、白髪でその顔には大きな傷跡を残す男性。見間違えるはずがない。あずきが特別な感情を抱く人物、ばあちゃるその人だ。その光景は、記憶の中の情景と重なる。無意識にあずきは、夢と同じようにばあちゃるへと手を伸ばした。

 

「ばあ…ちゃる…さん」

 

「ッ!あ、あずきち!?なんでここに!?」

 

あずきの存在に気付いたばあちゃるは慌てたように室内に侵入する。そしてカプセル内にいるあずきを空いていた穴から救い出すように取り出した。そのばあちゃるの腕、抱き上げてくれる力。ああ、そうだ。私はあの時から――

 

「おそーい!いつまで待たせるつもりだぁ!?」

 

「そんなことより親分!なんであずきちがここにいるんすか!?」

 

入ってきたアイに、あずきを抱きかかえたままばあちゃるは問う。その覇気は、あずきを想ってこそだとアイは気付いていた。

 

「私は悪くないよ!どうやらちょっと問題があったみたいなの」

 

「問題って。ここはッ!」

 

「分かってる。けど今はそれよりも。ばあちゃるは先に話をした方がいいんじゃない?」

 

アイの言葉に息を飲み、腕の中のあずきを見る。このまま隠し通すことはできない。ばあちゃるは覚悟を決めた。

 

 

 

 

「さて、何から話したらいいっすかね」

 

研究所の屋上。扉は壊され、侵入にこれといった苦労はなかった。アイには下で待機をしてもらい、屋上にはあずきとばあちゃるの二人っきりだ。

 

「…アイさんからは、大体は聞いています」

 

「おやぶーん。一応、機密事項なんすからほいほい話したらダメっすよ」

 

あずきの言葉にばあちゃるは頭を抱える。確かに、聞いた話の内容が漏れたりしたら大変だ。なんせ、今じゃ世界的に有名なキズナアイがテロ事件に関与していたのだ。大問題でしかない。

 

「…ばあちゃるさんが、脱走した元研究員だと聞きました。本当なんですか?」

 

「…本当っすよ」

 

その言葉に驚きはない。元々、その研究員の存在がばあちゃると重なっていたので逆に納得するほどだ。そんなあずきを気付いていないのか、何か苦しそうな表情を浮かべながらばあちゃるは言葉を続けた。

 

「親分からどこまで聞いたかわかんないっすけど。ばあちゃる君はあの戦争に関わっていたっす。しかも、元テロリストとして」

 

「あ、聞きたいのはそこではないです」

 

「えぇ…ばあちゃる君、割と覚悟してきたっすけど」

 

ばっさりと切り捨てるあずきに肩を落とす。イオリに押してもらった覚悟も、晩年の想いもまさに肩透かしだ。

 

「あずきが聞きたいのは一つです。何故、兵器少女まで救おうとしたんですか?アイさんの話では、救出する必要はなかったはずですが」

 

「何故、救おうとしたか…すか」

 

その質問は、ばあちゃるにとってよほど予想外だったのだろう。当時に記憶を懸命に振り返る。そして思い出したのは一つの光景だ。

 

「手を、伸ばしていたからっすね」

 

「ッ!?…手を、ですか?」

 

「はい。確かに兵器少女の救助は、最初は組み込まれていなかったっすね。けど、最初に侵入した研究所でその少女がばあちゃる君に手を伸ばしてきたっすよ」

 

顎に手を置きながら、当時を振り返る。必要なデータを回収した。協力者であるエイレーンに誘導を頼んでいたので、後は脱出だけとなったその時。兵器少女がばあちゃるへと、手を伸ばしていたのだ。何故か頬を赤く染めながら、何かを望むその表情にばあちゃるは、気付いたら少女を救助していた。

 

「その後は一人救助したなら全部救助してやるってことになって。無事に成功体の兵器少女計十人を救助して親分が所属する世界政府と協力体制をとることになったっすよ」

 

「…そう、いうことですか。…はぁい。実に、ばあちゃるさんらしいです」

 

納得したように、嬉しそうに頷くあずきにばあちゃるは首を傾げる。珍しく、本当に珍しく笑みを浮かべながら、あずきはゆっくりとばあちゃるに近づいた。そして首を傾げるばあちゃるのネクタイを引っ張り、顔を近づかせてその唇を奪う。

 

「うむぅ!?」

 

「♪」

 

驚愕するばあちゃるなど気にせず、あずきはそっとその唇を舌で舐める。そしてもう一度唇を合わせ、そっと離れた。

 

「あ、あずきち!?」

 

「…ばあちゃるさんの過去に何があったか。そんなことは知りません。ですが、そんなことで私たちが止まると思ったら大間違いです」

 

「そ、そんなことって」

 

その発言は、ばあちゃるにとって驚愕の一言だ。元とはいえ、世界に仇名すテロリストの一員で自身が関わった研究により多くの命が失われた。それを記憶がないとはいえ、関係者であるあずきに言われることは思ってもみなかった。

 

「過去は過去。ばあちゃるさんが生きているのは私たちと同じ『今』です。選択は、ばあちゃるさんに託しますが。あずきは、貴女と共に歩む未来を望みます」

 

「あずきち…」

 

「まぁ断られても諦める気は毛頭ない、と思います」

 

悪戯っぽくあずきが笑う。滅多に見せない、表情豊かな彼女にばあちゃるは目を離せない。

 

「さて、そろそろ下校時間なので帰りたい、と思います」

 

「…下校って。ここ、学校じゃないっすよ?」

 

なんとか絞り出したその言葉にあずきは苦笑し、何も言わずに屋上を後にした。呆然とあずきが通っていった階段に続く扉を眺める。思い浮かべるのはアイドル部との日常。彼女たちの愛情。それをしっかりと受け止める。

 

「…あずきちゃん。かわいいね。しかも凄くいい女の子」

 

「…あげないっすよ」

 

気付くと隣に佇むアイに釘をさす。

 

「ばあちゃるのモノとでも言う気?生意気な!」

 

「…そうっすよ。あずきちも、アイドル部の皆も俺のモノだ」

 

その発言に、アイは驚いたようにばあちゃるに視線を向ける。そこには似合わない赤面をする男が一人。

 

「めっずらしぃ。ばあちゃるが独占欲を出すところなんて初めて見た」

 

「ばあちゃる君も初めてっすよ」

 

「ふふ。ホント、変わったね。その指し伸ばされた手を絶対に離さないでよ!離したら許さないからなぁ!」

 

強気に笑うアイに力強く頷く。

 

進みたい未来が出来た。共に歩きたい人達が出来た。歩き出す覚悟が出来た。

 

ばあちゃるは、ようやく自分の道を歩き始める。その隣には、13人の少女の姿が共にあるだろう。

 

その確かなキズナがアイには見えた。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

アイに自宅近くに転移してもらい、全速力で帰宅をする。自宅に入ると靴も脱がず、玄関の扉に背を預け、ずるずると腰を下ろした。

 

「うぅぅぅうぅ」

 

頭を抱えうねり声をあげる。その顔は頬だけではなく、耳も首も真っ赤になっていた。

 

それは仕方がないこと。だって初恋なのだ。数分もない前世の(ような)記憶の初恋。さらに『木曽あずき』になってからした初恋。その両方が想うのは同じ人物だ。あずきの中には二人分の感情が渦巻いている。

思い返せば、自分がシロを追いかけるようになったのもばあちゃるが原因だ。シロの顔つきは、ばあちゃるとよく似ている。初めて見たシロに胸がときめいたのも、兵器少女時代に見た初恋のばあちゃるの顔を似ているからに他ならない。その想いは徐々に大きくなり、ついにはオーディションまで受けに行ったのだ。その想いが気のせいではないと、あずき自身がよくわかっている。

そして、アイドル部に所属してから偶然見たばあちゃるの素顔。あの時の衝撃だって、あずきは覚えている。元々好印象だった彼へ気持ちは恋心となり、一気に膨れ上がった。あずきにとってばあちゃるは文字通り、『運命の人』だったのだ。

その人に告白をした。口づけだってした。背中を押すことだってできた。懸命に隠したが、あずきの感情はもう限界を通り越していた。

 

「どうした人間。腹でも下したか?」

 

「…うるさいです」

 

心配する動画編集神に力ない声で返す。初めて見るあずきの姿に、動画編集神は楽しそうに笑った。

 

「くく。まるで初恋した相手に、また初恋して勢いに任せて告白してきたみたいな顔だな」

 

「うぅ!?…晩の鍋に放り込んでやる」

 

顔をさらに赤くして、子供の様にぼやく生みの親が可愛くて仕方がない。動画編集神は、笑いながらあずきの未来が幸せで溢れていることを祈った。

 

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