馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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決意をしたばあちゃる
彼は行為を向ける彼女たちと今向き合う


俺が彼女たちと歩むための報告会

「よし。みんな集まったっすね」

 

週始めの月曜日。その日はいつもの様に定例会を行う日だ。しかしそれはプロデューサーである『ばあちゃる』に呼ばれ中止となる。アイドル部の面々はいつもの部室ではなく、ばあちゃるが作業室でもある学園長室へと集まった。

 

「えっと馬P?今日って何か大きなこととかありましたっけ?」

 

「はいはいはい。今日はですね、ちょっと大事なお話をしようかと思いましてね」

 

いつもの口調だが、どこか感じる真剣な雰囲気にアイドル部の面々は顔を見合わせる。そして首を傾げながらも、代表としてなとりが一歩前に出た。

 

「大きなイベントなどはなかったはずですけど。もしかして、また新しい仕事でも取ってきたのですか?」

 

アップランドと言えば、キズナアイとは別の方面へと道を切り開いていく企業だ。その証拠に様々なメディア展開に力を入れている。そのことはなとりを始め、アイドル部の全員は経験していることなので理解をしていることだ。てっきり、そのことで新しい仕事を持ってきたのかと思ったが、首を振るばあちゃるに当てを外れたことを理解する。では何のことだろう、と首をさらに傾げるその時、ばあちゃるが着けているそのマスクを外した。

 

「今日は、ばあちゃる君の過去について。お話をしようと思いましてね」

 

少し伸びた白髪を後ろでまとめ、顔には大きな傷跡が残るシロに似た男性の顔。その素顔を、覚悟を決めたような表情を浮かべながら、ばあちゃるはアイドル部の前に晒した。

その行動にりこは驚いた。隙が多く、本人が気づかないところで何度か見たことがあるその素顔。それをばあちゃる自身の意思で、りこ達の前で晒すことは今日が初めてだったのだ。

 

「こうやって素顔を見せるのは初めてっすよね。めめめめとちえりんには何度か見せたことがあるっすけど」

 

ばあちゃるのその言葉に、視線がめめめとちえりに集中する。その視線に、ちえりは『はちゃー』と零しながらバレちゃったと可愛らしくポーズ。めめめは、焦りながらもどこか優位を隠せないその表情に、いろはは小さくイラっとした。

 

「どうしてめめめさんとちえりさんにだけなんですか?」

 

「まあ、これにもばあちゃる君の過去にも関係してるんすけど「呼ばれた気がしたのできました!」呼んでないっすよ!?」

 

「エイレーンさん!?」

 

ムッとした表情を浮かべながら、ばあちゃるへ問うすず。それに困った表情で答えようとしたその時、乱入者が現れた。それは、少し前にミライアカリと共に学園に訪れた『エイレーン』だ。告白する原因でもあったエイレーンに、ピノはいち早く反応した。

 

「ピノさんこんにちは。あの時以来ですね。私をリスペクトしたあの告白は最高でしたよ」

 

「聞いていらしたのですか!?」

 

「いやもう、そこの仮眠室からしっかりばっちりきっちりと!若いってのはいいですね!そう思うよな馬ァ!」

 

「ちょっと!そればあちゃる君に矛先向かうやつじゃないっすか!?完全に!」

 

「炎上は慣れているでしょう?」

 

「それはそうっすけど、それでも唐突すぎるっすよ!?」

 

視線が集中する中、シロとは違うその夫婦漫才にたまは嫉妬を募らせる。一通り叫んだばあちゃるに、エイレーンは珍しく優しげな表情を向けた。

 

「肩、解れましたか?」

 

「え?」

 

「貴方の過去を彼女たちに話すのは、確かに色々と思うものがあると思います。しかし、そう肩を張った状態じゃ話すこともままにならないでしょう?」

 

「…エイレーン」

 

驚くばあちゃるに笑みを浮かべ、今度はアイドル部の方へと振り返る。

 

「配信やアカリさんに貴方の話を聞く限り、彼女たちは貴方を拒絶することなんて万が一にもあり得ませんよ。それこそ、貴方が一番わかっているはずです」

 

「そうだよプロデューサーちゃん!あたしたち、プロデューサーちゃんの過去に何があったのか知らないけど、それでも!どんなことがあったとしても受け入れるよ!」

 

「もちちゃんの言う通りだよ。双葉も、うまぴーにどんな過去あっても関係ない。だって、うまぴーはうまぴーだもん」

 

「もちもち…ふたふた…」

 

エイレーンの言葉に続くもちと双葉の言葉に、ばあちゃるは目頭が熱くなるのを感じた。零れようとする涙を必死に抑えるために大きく深呼吸。そして、決意に満ちながらも、安心した表情を浮かべた。

 

「そうまで言ってもらえるとは、ばあちゃる君も幸せっすよ。…うん。ちょっと長くなるっすけど、聞いてもらってもいいっすか?」

 

「勿論!」

 

力強く反応するいろはに、ばあちゃるは笑みを浮かべ、頷いた。

 

 

 

「そうっすね。じゃあまずばあちゃる君がどこに所属していたか、というところから話したほうがいいっすね」

 

語り始めるばあちゃるにアイドル部、そしてエイレーンはそれぞれソファに席に着いて聞く体制と取る。

 

「今からひと昔前にこの世界を脅かすテロリストがいたことはご存知っすか?」

 

「テロリスト、ですか?」

 

「それ確かえーちゃんから聞いたことがある!確か十年前に世界政府が壊滅させたって聞いた!」

 

首を傾げるなとりの横でもちは、聞き覚えのあるのその単語に反応する。

 

「そうっすね。もちもちの言う通り、そのテロリストの組織は十年前に壊滅したっす。そして、ばあちゃる君は、その組織に所属していました」

 

「ええ!?」

 

「うまぴーが、元テロリスト?」

 

「やはりこうなりましたね。付け加えますけど、この馬。生まれも育ちもそのテロ組織なんですよ。ちょっと酷い言い方ですが、仕方がなかったことでもあります」

 

驚愕するすずと双葉。そしていつものように自身を悪く言うばあちゃるのファローをするのは、意外にもエイレーンだ。

 

「貴方が元テロリストだったことは確かに悪いことかもしれませんが、それは不可抗力な部分でもあるんですから。そういうところ、しっかり伝えないとダメですよ?」

 

「ですが…」

 

「ですがもかかしもありません!まったく。やっぱり来て正解でしたね」

 

「エイレーンさんは、昔のおうまさんを知っているのですか?」

 

「ええ。きっとこの後紹介が入ると思いますよ。それでこの男、自己評価が極端に低いでしょう?さっきみたいに自分が悪い。けど、仕方がなかった部分があるのにそれを言わない、なんてことがあると思ったので今日私がここにいるんですよ」

 

呆れながら言うエイレーンに内心感謝をするちえり。自身とは逆に自己評価が低いばあちゃるであれば、先程のような発言は頷ける。だからこそ、エイレーンのフォローはありがたいものであった。…嫉妬するしないは別であるが。

 

「ほらほら、誤解は解いたわけですから続きをどうぞ」

 

「誤解って…まあ、礼は言っとくっすよエイレーン。それで、ばあちゃる君がそのテロ組織に所属していたことは言ったっすよね?」

 

「うん。プロデューサーは、そこでなにをしてたの?」

 

「その組織は、平和な世界を軍事の力で征服しようとしていました。技術力も当時の世界政府よりずっと上でしたし、軍事力を最低限しか持っていなかった世界政府は、組織に対してはいい様にやられていたっす。しかし、状況が一変しました」

 

「…アイさんの参戦ですね」

 

「アイさんって、キズナアイさん!?」

 

突如出てきた予想外の人物に、たまは驚愕の声を上げる。他の面々を予想外だったようで、その表情はたまと同じく、驚愕で染められていた。

 

「そうっす。初の自己進化AIで、通常のAIに対して絶対的優位にたてる親分の登場は、組織にとって予想の範疇を超えていました。なにせ、相手がAIであればどんなプロテクトも突き抜け、無力化していく存在っすからね。無人機が主力だった組織は一気に不利な状況へとなったわけすよ」

 

「今でこそ自己進化AIでも突破できないプロテクトは多数ありますが、当時は学習し進化するAIなんて理解の範疇を超えた存在でしたからね。戦況が変わっていくのをニュースでよく見てましたよ。…それがまさかキズナアイさんとは知りませんでしたが」

 

「エイレーンは親分と合流する前に離脱したっすからね。一応機密事項なので、他言無用でお願いするっすよ」

 

「了解です」

 

ばあちゃるが釘をさすと大人しく頷くエイレーン。それは事の重大さを理解してる故の素直さだ。そんなエイレーンに満足そうに頷き、改めてアイドル部に視線を戻す。

 

「組織はそんな親分に対抗するべく、ハックから守るため、そして兵器を統括するためのAI、人口の自己進化AIを作成することを決めました。そして、ばあちゃる君はその開発組織にいたっす」

 

「開発組織?ばあちゃる号はあずきちの様に自己進化AIを作っていたの?」

 

「そんな感じっすね。そして、ばあちゃる君は教育を担当していたAI46号でした。最高のAIになるため、二人三脚で他のAIと争っていくうちに、ばあちゃる君は46号にに世界を見せたい。そう思ったっすよ」

 

「46号?…46(シロ)ちゃん?」

 

イオリがふと呟いたそれは、真剣なその雰囲気に飲まれ、誰にも聞こえてはいなかった。そしてそれは、ばあちゃるも同じで、イオリの呟きに気付かず話を続ける。

 

「だからばあちゃる君は、脱走することに決めたっすよ」

 

「脱走!?それって大丈夫だったの!?」

 

「大丈夫なわけないじゃないですか!馬の顔の傷跡はその時出来たものですよ!あの時、私が傷だらけの貴方を見つけた時、どれだけ肝を冷やしたか分かっていますか!?」

 

「う。あの時のことは本当に感謝してるっすよ。エイレーンがいなかったら、ばあちゃる君も、きっとここにはいなかったはずです」

 

急に感情を高ぶらせるエイレーンに、ばあちゃるは申し訳なさそうに表情を浮かべながら、頭を下げる。エイレーンは当時のことを思い出してなのか、その瞳には涙が溢れそうになっている。それに気付いたばあちゃるは、懐からハンカチを取り出し、エイレーンに渡した。

 

「…すみません。取り乱しました」

 

「いえ、仕方がないことっすよ。思い悩む必要もないっすよ、完全に」

 

「ふふ、そうですね。なら、気にしないようにします」

 

「切り替えはや!エイレーンさん強すぎでしょ」

 

ばあちゃるの言葉に笑みを浮かべるエイレーンにもちはその変化の速さに驚く。しかし、そのコントのおかげか、重くなり始めた雰囲気は少し和らいだ。

 

「エイレーンが言いましたが、脱走も容易ではなかったっすよ。命からがらで逃げて、そこでエイレーンに保護されて何とかなったわけっすからね。そして、相手もバカではなかった」

 

「というと?」

 

「連れ出した46号を発信機の役割をして、ばあちゃる君を追ってきたっすよ。それを感知した46号は自身の活動を止める結果になってしまったすね」

 

「…AIの活動停止?それはつまり電源を切っている状態のようなものですか?」

 

「そうっす。そして、ばあちゃる君は46号に世界を見せるのが目的だったすから、その発信機の部分を取り外す、もしくは無効化するために動き出したわけっすよ」

 

「あまりにも自分のことを顧みないこいつが心配で、私もそれに付き合う形になったのが私たちの始まりでしたね」

 

呆れながら言うエイレーンと、申し訳なさそうな表情を浮かべるばちゃる。この二人の関係性を、なんとなくだが理解したピノは小さく嫉妬する。

 

「それに必要なデータを回収するために、ばあちゃる君たちは兵器少女の完成体がいる研究所に忍び込むことになったっすよ」

 

「兵器少女?」

 

「そういえば説明してませんでしたね。世界政府が優位に立つようになってから、テロ組織はあらゆる手を使う様になりました。その一つが、この兵器少女です」

 

「今までは無人機のロボだったすけど、その外見を武装した少女へと変える計画。その計画は世界政府の士気を下げるだけでなく、他にも胸糞が悪くなるような案件が裏にはありました」

 

「色々と察することができますね」

 

苦虫を潰したような表情を浮かべるすず。同様の表情を浮かべるエイレーンとばあちゃるに、なとりを含めたアイドル部はその裏について察してしまい、顔を顰めた。

 

「この兵器少女が、46号並びに人口の自己進化AIの支配下に当たる存在でありますね。この子達も独自のAIを持っていて、それに含まれるデータがばあちゃる君たちの目的のデータというわけっすよ」

 

「本当はデータだけでよかったのにこの男、何を思ったのか兵器少女まで回収するとかほざきやがりましてね。しかも、侵入してる最中ですよ?裸の女の子を背負って脱出してきたときは、もう呆れて何も言えなかったですね」

 

「むえー」

 

何故か赤面するあずきに、りこは首を傾げる。しかし、再び重い雰囲気を漂わせるばあちゃるに意識を持っていかれ、それどころではなくなった。

 

「この兵器少女なんすけど、…実はここにいる皆とも無関係ではないっすよ」

 

「え?それは、どういうことなの?」

 

神妙な表情を浮かべながらばあちゃるは、机にあるPCを操作する。そして空中に表示された画像に、いろはは困惑の表情を浮かべた。

 

「これって、私たち?」

 

「けど、どことなく違うような…?」

 

「あー!りこさん!この私、八重沢システムの私ですよ!?」

 

「あ、ホントだ!?メンテちゃんから拝借したモデルと一緒!?」

 

「…なるほど。夢での身体の違和感はこういうことですか」

 

困惑、驚愕、納得。色んな感情が爆発する中、全員の視線がばあちゃるへと集中する。

 

「なとなとは兵姫『名取』。りこぴんは兵姫『F2Aバッファロー』。すずすずは兵姫『鈴谷』。たまたまは兵姫『多摩』。もちもちは兵姫『グラマンF6Fヘルキャット』。ピーピーは兵姫『P40』。ごんごんは兵姫『金剛』。あずきちは兵姫『木曾』。ふたふたは兵姫『北上』。イオリンは兵姫『大和』。それぞれが、みんなの元の存在っすよ」

 

「元の…存在?」

 

混乱しながら、たまは思ったことをそのまま口に出す。悲痛の表情のまま、ばあちゃるは言葉を続ける。

 

「きっと、ご家族の方から聞かされているかもしれないっすけど、皆さんとご家族は血の繋がりはないっす」

 

「…ええ。それは知っています。ママりから入学前に、教えてもらいました」

 

「なとちゃんも?双葉も入学前に教えてもらったよ」

 

「イオリも!聞いちゃった時は泣いちゃいましたけど、それでも家族だから大丈夫!って言ったら家族みんなが抱きしめてくれました」

 

「イオリンの家族はあったかいね。…牛巻もママ巻に泣きながら抱きしめられたなぁ」

 

懐かしそうに、りことイオリが過去を思い出す。血のつながりがなくとも、彼女たち家族が確かに『家族』であることに、ばあちゃるは嬉しく思う。

 

「つまりあずきたちは、元は兵器少女のAI、みたいな存在だったというわけですね?」

 

「…そうっす」

 

射貫くようなあずきの視線を一切逸らさず、ばあちゃるは頷く。

 

「終戦した後、兵器少女をどうするか、それが何度も議題に上がりました。破棄すべきという意見もあったすけど、世界政府の方々は温情で『せっかく生まれた命、できれば生きてほしい』と言ってくれたっすよ。そこでばあちゃる君はエイレーンに応援を頼みました。そして、一つの案が浮かんだっすよ」

 

「兵器少女のモデルが危険ですから、AIを別に移すことになりました。そしてその移す先のモデルは、今ではある程度認知されていますが、当時は最新鋭の成長する人型のモデル。そして兵器少女のデータを封印して、今の親御さんへと渡されることとなりました」

 

「それが…私たちの出生の秘密…」

 

呆然としたいろはの呟きにばあちゃるの手に力が籠る。彼女たちにこの真実を話すのはばあちゃるのエゴだ。彼女たちと向き合うため、自分の秘密を晒すべきと思った故の行動だ。そしてそれは、非難される覚悟もあった。

 

「それって別になんの問題もなくない?」

 

「え?」

 

なんともない様に言うたまに今度はばあちゃるが呆然とする。そんなばあちゃるを知ってか知らずか、たまは言葉を続けた。

 

「確かに私たちの出生には驚いたけど、私は幸せだよ?シロちゃんに会えて、アイドル部のみんなと会えて…馬Pに恋をして。私は今が一番幸せだって胸張って言える」

 

「たまたま…」

 

「むしろ馬Pには感謝しかないよ!だって、今ここに私たちが居れるのは、その時馬Pが私たちを救ってくれたおかげだもん!」

 

たまの言葉に顔を伏せる。込み上げてくる感情に言葉が出なくなり、目頭が熱くなる。その時、包まれるように抱きしめられる。それは、いつの間にか横に立っていたイオリだった。

 

「イオリン…」

 

「イオリは今の話は、ちょっと難しくてよくわかりませんでした。けど、たまちゃんが言う様にイオリも幸せです。そしてこれからも、ずっと幸せがいいと思うの。シロちゃんもみんなも、幸せがなってほしいです。だから、うまぴーも幸せになろう?」

 

「う…あ…ッ」

 

イオリの体温、言葉、そしてその想い。それら全てが、ばあちゃるを刺激する。溢れてくる涙を抑えることが出来ない。

 

「う…くぅッ」

 

「よしよし。大丈夫だよ。イオリさんは、アイドル部のみんなはここにいるよ」

 

声を殺しながら涙を流すばあちゃるを、安心させるように背を撫でる。

 

誰かの為に奔放する人生だった。自分のことなど二の次の人生だった。しかしこれからは、十三人の少女たちと歩む幸せな人生を望む。ばあちゃるの中に、小さくも確かな我儘が生まれた。

 

 

 

 

 

 

泣きつかれたのか、ばあちゃるはそのまま眠りについてしまう。そんなばあちゃるをなんとか隣の仮眠室へ運び込む。体格のデカい彼を運ぶのに多少の苦労はあったが、全員がそれを苦とは思わなかった。

 

「さて、当人が寝てしまいましたが、何か聞きたいことがありますか?」

 

「一個聞きたいことがあるよ!いーい?」

 

「はいはい。めめめさんどうぞ」

 

元気よく手を上げるめめめに表情を崩し、笑みを浮かべるエイレーン。当てられためめめは少し考えをまとめ、口を開く。

 

「ちえりちゃんとめめめを除いたみんなが元は兵姫ってことはわかったけど、これって偶然なの?あまりにも都合よすぎない?」

 

「ああ、そのことですね。勿論、偶然ではないですよ。私はアップランドの社員ではないですけど、そのことについては聞いてます」

 

やはり、と納得したようにあずきは頷く。誰が考えても今の状況はあまりにも都合がよすぎる。そう思っていたからこそ、その疑問は至極当然だった。

 

「この説明に、実はとある事件が関わってるんですよ。もちさんが関わった『魔女の家』事件です」

 

「えぇ!?あれ関係してるの!?」

 

予想外な関わりについ声を荒げてしまう。その繋がりは他の面々も予想外だったようで、全員驚愕の表情を浮かべていた。

 

「実行犯とは別に裏で糸を引いている存在がいたことはご存知かと思いますが、それがテロリストの残党だったんです」

 

「そういえば、テロリストは世界政府より技術力は上と言っていましたね。なら、もちさんから言っていた無駄に凝っていたワールドの改造技術力もそれなら納得です」

 

「その通りです。そしてこのテロリストの残党。『魔女の家』事件で繋がりが見えるより前から活動をしていることが分かっていたんです。そして、世界政府の一部が不安に思ったんですよ『元兵器少女は大丈夫なのか?』とね。勿論それは、ばあちゃるの元にも届いていました」

 

「うまぴー…」

 

それを言われた時のばあちゃるの心情を思い浮かべると、いたたまれない。双葉の視線が、ばあちゃるが眠っている仮眠室へと向けられた。

 

「そこで考えたのは、アップランドの保護下に入れることだったんです。アップランドのほとんどが戦時中のばあちゃるの関係者で、彼をほってはおけないということで、ついてきてできた会社ですからね。当時の関係者が多い彼の元なら、と世界政府もそれを承認したのですよ」

 

「それが…アイドル部が出来た理由」

 

「ならちえりたちは、何でスカウトされたんだろう?」

 

どこか疎開感を感じながらちえりは呟く。それはめめめも同意見だったようで、そんなちえりに寄り添った。

 

「これは馬から聞いたことですけど、ちえりさんとめめめさんは当初からシロさんの後輩として、スカウトされる予定だったんです」

 

「え!?そうなの!?」

 

「はい。しかし、世界政府からの要請から十人の少女を保護下にいれることを決めた時、シロさんと同じようにVTuberにすることが決定しました。既に十人のデビューが決まった中、これ以上の増員はきついはずなのに、あの馬はそれを押し切ってお二人の加入を決めたそうです」

 

「プロデューサーがめめめたちをみつけてくれたんだ…ッ!」

 

発展途上のVTuber文化で十人のデビューというのは大きな賭けだ。当時は『頭アップランド』を蔑称として呼ばれるほどの無茶なことでもあった。しかし、それでも自分たちを見つけ、さらに導いてくれたばあちゃるにめめめは感謝の念を送る。それは一緒に手を握るちえりも一緒だ。

 

「ほかに質問はありますか?…はい、あずきさんどうぞ」

 

「ばあちゃるさんが話途中で終わってしましましたが、AI46号はどうなったのですか」

 

「あー。彼女のことですか」

 

「46ってシロって読むよね?もしかしてシロちゃん?」

 

イオリのその言葉に全員が驚愕する。考えもしなかった事実の確認のため、視線はエイレーンへと集中した。

 

「シロさんであってシロさんではない。簡潔の述べるのであれはこうなりますね」

 

「『シロさんであってシロさんではない』?あの、それはどういうことなんですか?」

 

「もっともな疑問です。せっかくなのでばあちゃるの話の続きから話していきましょうか。どこまで話しましたっけ?」

 

「いろはたち兵器少女の回収を始めた、って所だよ」

 

「いろはさん、ありがとうございますね」

 

教えてくれたいろはへ軽くお礼を伝え、一呼吸を入れて説明に戻る。

 

「さらっと説明しますと、成功体である兵器少女。つまりピノさんたちの救出途中に46号は再起動に成功しました。欲しかったのはデータだけでしたので復旧は割とすぐでした」

 

「あ、そうなんだ。46号はその救出作戦に反対だったの?」

 

「そうでもないですよ。46号に世界を見せたいが馬の目標でしたが、46号は馬と共に歩みたいのが望みでしたからね。勢いだったとしても、兵器少女の救出作戦は馬の発端だったので46号はよろこんで賛同していました」

 

「そうなんですね。てっきり『おうまさんに危険なことはダメ!』といった感じで反対するかと思いました」

 

「あの子は馬を基本的に全肯定でしたからね、反対するところはあまり想像できませんよ」

 

懐かしそうにするエイレーンに当時、どれほど仲が良かったのかが、なんとなくであるが窺える。そんな三人の様子を、双葉は羨ましいと感じた。しかし、そんなエイレーンの表情は悲痛なものへと変化する。

 

「救出作戦の途中、46号はウイルス攻撃を受けてしまいました」

 

「…それが、原因ですか?」

 

「…ええ。技術力は向こうの方がずっと上です。いくら馬が所属していたとしても、一人でどうにかできるものではありません。彼女を、救う方法は2つ。完全に消去させるか、完全にまっさらの状態にフォーマットするかのどちらしか残されていませんでした」

 

「そんなッ!」

 

絞り出すような、そんな悲しい悲鳴をなとりは上げた。エイレーンも当時のことを思い出してか、その手には力が籠る。

 

「彼女が選んだ道はフォーマットでした。ばあちゃるとの歩んだ道も、絆も、その思い出すら忘れるという選択を取りました。そして、そのトリガーを…ばあちゃるに頼んだのです」

 

「なんで!なんでばあちゃる号に!?そんな選択、ばあちゃる号が可哀想だよ!?」

 

声を上げるりこに、エイレーンは顔を逸らす。しかし、反論は意外なところから飛んできた。

 

「私は、その気持ち…なんとなくわかるな」

 

「さくたまちゃん!?」

 

「だって最期だもん。そんなの、知らない誰かにやられるくらいなら好きな人にやられたい」

 

「私も、その気持ちに共感してしまいました。だから、彼女の選択を拒否することが出来なかった」

 

「…わかるよ。その46号ちゃんの気持ち、たまちゃんの気持ちも。いろは、なんとなくだけどわかる。けどいろはは、うまぴーに『いろはを殺した』なんて、そんな重りを背負っては欲しくないよ」

 

俯きながら零すその言葉に、誰もが言葉をなくす。それでも話を続けなければと、エイレーンは意を決して言葉を続ける。

 

「そして望みのままに、ばあちゃるは彼女をフォーマットしました。しかし、ウイルスの影響は大きく、破損が大きかった彼女だったAIのデータは再起動が不可能だと思われていました」

 

「思われていた?ということはなんとかなったの?」

 

「ええ。ウイルス攻撃を受ける前に、他の自己進化AIと戦闘となり、勝利していました。そのAI64号のデータと、彼女の残ったデータを足して生まれたのが、今のシロさんなんですよ」

 

「64号?…64(ロッシー)ちゃん?」

 

「それがシロさんの出生…」

 

「46号ちゃんはシロぴーの前世みたいな存在だったのか」

 

イオリの呟きは、なとりとりこの言葉に遮られ、誰にも気づかれずに虚空へと消える。

 

「しかし、それは馬に顔に残っているそれより大きな傷跡を残してしまいました」

 

「脱走する理由にもなる子だもん。うまぴー、きっと凄い傷ついたとちえりは思う」

 

「はい。彼の自己評価の低さ、そして自己犠牲の精神の根源はそこにあります。自分が一番守りたかったものを守れなかった事実。それを自身で殺めてしまった事実。それらがばあちゃるを追い詰め、今の自分を省みない行動ばかりするようになってしまいました」

 

「プロデューサー…」

 

ばあちゃるの過去を知れた喜びと、その悲惨さに胸を痛める。気付くと、彼女たちの視線は仮眠室へと向けられていた。

 

「しかし!それも今日までです!そんなばあちゃるを貴女たちは変えることが出来ました!この日を、私は嬉しく思います」

 

「え?それはいったいどういう…」

 

「あんなに手を伸ばしても掴もうとしなったあのバカの手を、貴女たちは掴み取りました!あのバカが、誰かの幸せではなく、自分の幸せを願うことが出来たんです!これを嬉しく思わないわけがないじゃないですか!」

 

「エイレーンさん…」

 

瞳に涙を溜めながらも、笑顔を浮かべ語るエイレーン。そこには胸いっぱいの感謝とちょっぴりの悔しさが読み取れた。

 

「私だけでは、彼を幸せにすることはできませんでした。だから…だからどうか!彼を幸せにしてください!」

 

先程までの、飄々とした態度からは考えられない真剣な様子で頭を下げるエイレーン。その想いは、確実にアイドル部へと届いた。

 

「うん。私たちはこの手を、馬Pと繋いだこの手を絶対に離さない。エイレーンさんの願い、しっかり実現するよ」

 

代表としてたまが、胸に手を置きながら、エイレーンをしっかり見つめ、応える。そこには共にいるアイドル部全員の意思が乗せられていた。

 

「ふふ、ありがとうございます。本当に、心強いですね」

 

「恋する乙女が強いんですよ?知らなかったんですか?」

 

「知ってますよ。ええ、それはもう。だって私も、その一人ですからね」

 

「え”」

 

不穏な発言に視線は引き続きエイレーンに集中する。そこには先程の真剣な雰囲気はどこへやら、いつもの不敵な笑みを浮かべるエイレーンがそこにいた。

 

「ハーレムを容認させたので私も本気で行きますよ?目指すは第一夫人です!」

 

「な、なななななな!?なぁに言ってるんですかぁ!?風紀が乱れてますよぉ!?」

 

「いやいやいや!?既にハーレム容認している内容なんだから風紀なんてないようなもんだよ、なとりん!?」

 

「うまぴーの第一夫人かぁ…えへへ」

 

「おやぁ?どうしたのですかごんごんお姉ちゃん?だらしなく顔を浮かべて?もしかして、おうまさんの第一夫人を妄想していたりしませんかぁ?」

 

「なんでいろは、ピノちゃんに煽れてるの!?」

 

「いやいろは。あんなだらしない顔浮かべてたら誰も弄りたくなるよ?」

 

「めめめちゃんまで―!?」

 

「…あ、これはいつもの雰囲気に戻った。と思います」

 

「ま、こっちのほうが双葉たちらしいよね」

 

真剣だった雰囲気は一変、そこにはいつもの週初めに行われる定例会のような雰囲気が感じられる。たまにシリアスな雰囲気もいいだろう。しかしこっちのような、ドタバタで騒がしい雰囲気の方が自分たちには合っている。なんて、柄にもないことを内心で思い浮かべながら、あずきはその風景を笑いながら見ていた。

 

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