馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の屋上
高い作が設けられており、昼休憩時には昼食を食べれる場所として解放されている
しかし、最新鋭の学園なだけあって他に昼食を食べれるところがたくさんあるようで、屋上は人気がないようだが…


彼との秘密な逢引(牛巻りこ)

午前7時55分。朝日も昇り始め通学の時間にしては少々遅いといわれる時間帯。私立ばあちゃる学園の校門前に『八重沢なとり』は立っていた。

既に予冷は鳴り、朝のミーティングの時間が始まる時間であるが、なとりは例外であった。その理由は単純なもので、現在学園では遅刻撲滅強化週間というものを行っているからだ。文字通り、期間中は遅刻に対して重い罰を処するものである。本来教師が閉門を行うのだが、遅刻の常習犯がほぼほぼアイドル部であるため、それを確認したばあちゃるが風紀委員長であり同じアイドル部であるなとりであれば適任だろう、という案を採用したためであった。ばあちゅる自身は冗談のつもりでの発言だったのだ、がなとりがその案に対して乗り気であり、そのままなとりに押し切られる形によりなとり担当で決まったという経由がある。実際は、他人に雑務を頼むことが少ないばあちゃるが、冗談だったとしても仕事を任してくれたことになとりが舞い上がったという裏事情があったりもする。そのためかなとりは非常にやる気があり、強化週間の最終日であるが常習犯であるもちやめめめは既に反省文を書かされていた。何時ものように、お菓子での買収にも乗らないほどの本気度を悟った二人は大人しく通常登校している。

 

「あと一名ですね」

 

ばあちゃる学園は、生徒が少ないのでバインダーに挟んである名簿での確認も楽だとなとりは内心思う。そしてその名簿に書かれている名の中で登校のチェックされていない生徒は『牛巻りこ』だった。

電脳アルバイターでもある彼女は現在、職場が忙しさの佳境に入っており、アルバイトであるりこもそれも身を投じていた。プログラマーでもある彼女は、そのアルバイトで技術的と社会的の勉強を含めて努めているので今回の修羅場でも事前に学園に連絡を入れている。ばあちゃる自身も、りこの配信及び本人の発言から忙しさを感じており、個人で色々と動いているそうだが結果はよろしくないようだ。

 

「今日もお昼からでしょうか?」

 

特にここ最近の忙しさは頂点のようで、通学するのも昼過ぎで登校しても大半は保健室で仮眠を取ってそのまま帰宅の生活だと聞いていた。その状況を聞いた時の感情が再び浮かび、つい顔を歪めてしまった。その時、こちらへ走ってくる足音と同時になとりを呼ぶ声も聞こえた。

 

「こめっちーーー!!!」

 

「りこさん!?」

 

走ってきた人物、牛巻りこはそのままなとりに抱き着く。ゆっくりと勢いを落としてからだったためそこまで衝撃はなかったがそれでもなとりはその衝撃から押し倒されないように腰に力を入れた。

 

「もう!危ないですよ!」

 

「あはは、ごめんごめん!けどちょっと遅刻しちゃったけど久しぶりの朝登校だよ!」

 

悪びれる様子もなく満面な笑みでりこは答える。その姿になとりは毒気も抜け『仕方ないですね』と笑みを零す。

 

「たしか検問してたんだっけ?」

 

「そうですよ。最後のリコさんも来たので今日はもうおしまいです」

 

抱負をやめたりこと共に上履きを閉まってある下駄箱へ向かう。電脳世界の最新の学園であるばあちゃる学園に付けれている設備の一つ、自動で開閉する校門が閉門するのをしっかり確認し学園に入っていく。

 

「いやー、久しぶりに夜にゆっくり寝たから寝坊しちゃったよー。あ、牛巻も反省文を書いたほうがいい?」

 

「いえ、りこさんは今回は対象になっていないので書く必要はないですよ。アルバイトの方は落ち着いたのですか?」

 

「佳境であることは変わりないけど、別の部署が終わったみたいでこっちに応援がきたんだ。そこでアルバイトの牛巻はお先に上がったてことさ」

 

『しかもお返しで連休もゲット!』と満面の笑みでピースサインをするりこになとりは釣られて笑う。

 

「ってことは当面は通常に登校はできそうですね」

 

「そうなんだよ!さらに、どうやらばあちゃる号が何度も問い合わせてくれたおかげで過剰労働が問題になって労働環境の見直しが入っておかげで勤務時間が半分以下になったんだ。だから今後は普通に登校するし配信もやっていくよ!」

 

「おぉ!それは朗報ですね!」

 

りこが過剰労働から解放されたことは勿論、ばあちゃるの活動はしっかり成果に繋がっていることになとりは喜びを浮かべる。そうして談笑を続け気づけば二人は自信が所属するA組の教室にたどり着いた。なとりはりこへアイコンタクトを送り先に入室することを譲った。

 

「ハウディ!牛巻りこが登校だよ!」

 

「ああ!りこちゃんだ!」

 

入ってきたりこに、いの一番に反応したのは同じクラスに所属するヤマトイオリだった。立ち上がり、りこに腕を広げながら近づくと答えるようにイオリに抱き着いた。

 

「イオリンひさしぶりーー!!」

 

「りこちゃんも久しぶり!あのねあのね、お仕事大変って聞いたけど大丈夫なの?」

 

「牛巻はついに解放されたぞぉ!これからは毎日一緒さ!」

 

「ホントにホント!?」

 

「ホントのホントさ!」

 

「やったー!!」

 

抱き着いた状態でイオリはピョンピョンと喜びを全力で表す。それに釣られる形でりこも一緒に飛び跳ね喜びを共にした。なとりはそんな二人の様子を見ながら愛おしさを顔に浮かべる。

 

「こんな日に呼び出しを食らうとは、会長もおいたわしや」

 

登校と同時にばあちゃるに連行されたたまの姿を思い出しながらなとりは一人涙流した。

 

 

 

 

 

「りこちゃん!お昼にしよう!!」

 

昼休みと同時にたまは、りこに飛びついた。本鈴のギリギリで戻ってきたたまは、りこの存在に気づくと授業そっちのけでりこに話しかけようとするが、そこは風紀委員長であるなとりが防ぐ。この一週間でのなとりが融通が利かないことを知っていたたまは、大人しく引き下がり休み時間の度に会話することに妥協した。しかし久しぶりのりことの触れ合いが数分挟んで少々だったことに、不満を貯めていたためたまはお昼を共にするために授業が終了すると同時に動いたのだが。

 

「そううまくはいかない、と思います」

 

「え!?あずきちゃん!?」

 

お弁当片手に別のクラスに所属する同じアイドル部の木曽あずきが姿を表す。そしてその後ろには同じくアイドル部に所属する北上双葉の姿があった。あずき、双葉、たまの三人はこのばあちゃる学園の生徒会にも所属している。その二人が昼休みとともにたまの下に訪れたことの理由を察し顔を青く染めた。

 

「い、いやー。今度じゃ、だめ?」

 

「残念ながら昨日放置した案件なので無理、と思います」

 

「自業自得だよ、たまちゃん」

 

そうして会長たまは双葉とあずきに連れられイオリに手を振られながら教室を後にした。「りこちゃん助けて!!」という断末魔になとりは苦笑を零す。

 

「あら、りこさんお昼はどちらで食べるんですか?」

 

「あー、ごめんごめん。今日はちょっとね」

 

片手で謝り、もう片手の指を上に向けながらりこは謝る。それジェスチャーになとりは察する。そしてりこは頭を下げながら教室を後にした。

 

「あれー?りこちゃんは?」

 

「残念ながら先約があるそうです。それよりイオリさん、一緒にお昼しません?」

 

「するする!」

 

よくわからず首を傾げるイオリに話を切り上げ共に昼食を誘う。窓の外は気持ちのいい晴天が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

りこは、盛り上がる気持ちを抑えきれないように速足で駆階を段け上がる。そして屋上に繋がる扉も前で一呼吸を置き、扉を開けた。そして、いつものベンチには馴染みがある姿、アイドル部のプロデューサーである『ばあちゃる』の姿があった。ばあちゃるは電話に夢中のためか、入ってきたりこの存在に気づいていない。その姿に、りこはいたずらっぽく笑う。そしてそっと背後に回り、向かう最中に購入したスポーツドリンクの入ったペットボトルをチラチラと見える僅かな素肌が見え隠れする首筋に当てた。

 

「ウビバァ!?え、なに?なんすか!?」

 

『急にどうしたばあちゃる氏!?叫び声が聞こえたようだが!』

 

「く、くくく」

 

立ち上がり振り向きながら驚くばあちゃるにりこは堪えきれずに笑い声を零す。電話先の声の主も驚いた声を上げる。そしてリコの姿を確認したばあちゃるは安心したように肩を落とした。

 

「なぁーんだりこぴんっすかー。もう驚かさないでくださいよ」

 

「いや、だって見事なまでに牛巻の姿に気づかないんだもん!いたずらもしたくなるよ」

 

笑いを堪えながら言うと、ばあちゃるは少し不満そうな視線を送る。そして笑いを堪えながらりこはばあちゃるの持っている携帯を指さし、通話中のことを指摘した。

 

「あ、はいはい!はるはる急に大声だして申し訳ないっすね」

 

『いや、それは構わないが問題でもあったのか?』

 

「いえいえ、待っていたりこぴんが驚かしてきたのでつい大声をね。いやね、ほんとに申し訳ないっす」

 

電話相手になんども頭を下げるばあちゃるに、さすがのりこも少し罪悪感が沸いた。そして、そのまま多少会話を続け電話を切る。

 

「もー、電話相手がはるはるだったからよかったっすけど、取引先とかだったら危ないっすから、電話中のいたずらはもう勘弁っすよ」

 

「うう、ごめんよ、ばあちゃる号」

 

「いえいえ。わかってくれればばあちゃるくんもね、完全に嬉しいっすね」

 

反省するりこにばあちゃるはすぐに身を引く。彼自身がりこを含むアイドル部全員、素直に反省してくれるということを知っているからだ。そして再びベンチに座りそしてりこも自然な流れでばあちゃるの横へと座った。

ばあちゃる学園の屋上は、しっかりと転落防止用に柵があり昼食の際には生徒の出入りも禁止されてはいない。しかし、新設校でもあるばあちゃる学園は施設も充実している。緑豊かな中庭に、きれいな食堂とわざわざ屋上まで来て昼食をとる生徒はほぼいないといっても等しい。また本日は少しは寒いのも相まって屋上にはばあちゃるとリコ以外の人物はいなかった。

 

「いやーりこぴん、アルバイト、ほんとにねお疲れ様です。はいこれ、お弁当」

 

「ありがとうばあちゃる号。さすがに今回の修羅場は牛巻をもってしてもヤバかったね」

 

ばあちゃるの労いの言葉共に渡される包みを受け取りながらりこは当時を思い出し苦い顔を浮かべた。

 

「そんなにヤバかったっすか?」

 

「もうヤバいなんてもんじゃないよ!クライアントは締め切り直前で仕様変更を言ってきてね!これがかなーり根元の部分が関わってくるから作業もヤバいってのに納期は3日しか伸びなくて地獄だったよ」

 

「えぐー!?それはかなりやばーしっすね」

 

「もうホントにやばーしだし、社員さんは帰っちゃう人いるし!」

 

りこから放たれる愚痴に、語彙力のないばあちゃるはいつものように相槌を打つ。そんなばあちゃるを知ってか知らずか、りこは貰った包みに入っていたお弁当を取り出し『いただきます!』と一言はさみ卵焼きを口に含んだ。

りこのアルバイトが、佳境から乗り越えた一日目はこうして屋上でばあちゃるが作ってくるお弁当を昼食に、修羅場で貯まった鬱憤を吐き出すのがりことばあちゃるのお決まりとなっていた。きっかけは単純で、りこが抱えていたものにばあちゃるが気づいたのが始まりだ。元々、りこ自身が先頭に立つ気質があり、仲間内には理想の自分でいるというプライドみたいなものがどこかあった。そのためか仲間内に愚痴を吐き出すことはなく、貯めこんでしまうという悪癖があったのだ。しかしそれは人の変化に気づくのに長けており、なにより彼女たちのプロデューサーであるばあちゃるは見抜いた。そして、それは今日のような修羅場上がりで、晴天の日に同じ屋上でりこはばあちゃるに指摘された。最初は誤魔化したりこであったが、知人が絡むと一気に頑固になるばあちゃるは一向に引かず、最後には

 

『牛巻の苦労なんてなんにも知らないくせに!』

 

と叫んでしまった。感情のままに叫んだそれにりこはすぐに誤魔化す様に笑う。それに対してばあちゃるはりこに近づき、頭を撫でた。

 

『悔しいっすけど、ばあちゃるくんは超能力者じゃないんでね。りこぴんが抱えてることは分からないっす。けどね、だからこそ、口にして吐き出してほしいんすよ。それはりこぴんにとって、きっと重たいものだってばあちゃる君にもわかるんですよね、完全に。だから、ばあちゃるくんにもその苦労に共感させてほしいんですよ』

 

『これでもりこぴんのプロデューサーっすからね』と馬のマスクの奥で、優しそうに笑うばあちゃるがりこには見えた。気づくとりこは、ばあちゃるの胸の中で大声で泣いていた。こんなに感情が荒ぶることは初めてで、泣き止み方もわからず感情に抑え方も分からなかったりこは、そのまま自分がもっとも信頼できる人物に身を委ねる。泣き続けるりこにばあちゃるは背中を撫でながらリコをあやし続けた。

それからというものアルバイトの修羅場を乗り越えた翌日はばあちゃると二人で昼食を共にすることになる。最初はりこも自身のお弁当を用意していたが、少しでも休養を取ってほしいと思ったばあちゃるが、りこの分の昼食を用意するようになった。そしてりこにとってこの時間は唯一無二の時間になっていた。

 

「ごちそうさま!今回もおいしかったよ!」

 

「はいはい、りこぴんおそまつ様ですね。卵焼きとか完全にばあちゃるくんの好みで作っちゃいましたけど大丈夫でした?」

 

「まさか甘くてビックリしたけどおいしかったよ?ばあちゃる号の好みっていうよりシロぴーの好みっぽいイメージだったかな?」

 

「シロちゃんのご飯も昔はばあちゃるくんが作っていたのできっと好みが移っちゃんだですねー」

 

空になったお弁当箱を包み、ばあちゃるへ返却する。彼の料理は味は申し分ないが、形が少し歪なところなどいかにも手作りという感じがあってりこは気に入っていた。

 

「もしかしてシロぴーが料理始めたきっかけってばあちゃる号だったりする?」

 

「どうなんでしょうね?昔に『今日はシロが作る』って言って以来、一気にばあちゃるくんより上手になりましたからねー」

 

『昔は味の調え方がわからなくてやばーしでしたよ』とシロが聞けば即ぱいーん案件な昔話を聞かせてくれた。そんな些細な世間話もりこにとっては幸福な一時だ。しかし時間とは有限なものでふと目に入った時計には予鈴の10分前を指していた。

 

「あ、いやー、その、ばあちゃる号?そろそろいいかな?」

 

「え、あ。もうそんな時間なんっすね」

 

ばあちゃるの言葉に、りこは顔を赤く染め小さく頷く。そんなりこに、ばあちゃるもどう発言すべきか言葉を悩み、マスクの上から後頭部を掻いた。

 

「前から言ってるっすけどホントは炎上案件でこんなことしちゃやばーしなんっすけど、ばあちゃる君は、りこぴんのプロデューサーっすからね」

 

「…」

 

無言で睨むりこに、ばあちゃるは観念するかのように両腕を広げた。そしてリコはばあちゃるの胸元に飛び込み、抱き着いた。

 

「ああー。癒されるぅ」

 

「男の抱き心地なんて女の子に比べていいものじゃないっすね、完全に」

 

「チッチッチ。わかってないなぁばあちゃる号は。女の子の柔らかさとかもいいけど男性のこのがっしりした感じとか最高だよぉ。特にばあちゃる号はガタイがいいからなんというか、守ってもらえる安心感?みたいのがすっごいいいよ」

 

『そんなもんっすかね』とりこの意見に、どこか納得ができないばあちゃる。落ち着ける場所を探す様にりこは体をばあちゃるに預け、力を抜いていく。並ぶように座っていた二人は気づけばリコがばあちゃるに倒れこむような形になっていた。

 

「ばあちゃるくんだからいいっすけど他の人にやっちゃダメっすからね」

 

「こんなことばあちゃる号にしかやらないよ。信頼できる…ばあちゃる…号しか…」

 

そのまま力を抜いていき、気づけばりこは眠りに落ちる。誰かに対して、怒りや嫉妬を持つのは思いのほかエネルギーを使うものだ。ましてや限られた時しか発散しないりこは、いつもアルバイトでの憤りを吐き出すとやりきったように眠る。そして完全に回復したりこがあられるのだ。いつも苦労をしている少女の頭を撫でながらばあちゃるは愛おしそうに頭を撫でた。

 

「りこぴん。お疲れ様」

 

眠りに落ちたはずの少女は、聞こえていないはずのその言葉に口角を少し上げた。

 

 

 

 

 

『10分まえです』

 

「うぇ!?なになに!?」

 

耳元になる大ボリュームの音声にりこは目を覚ます。それは自身が配信する際によく聞く音声、牛巻システムの声だった。寝ぼけた目で音声の出所を探すとそこにはそこには見慣れない携帯端末がある。起き抜けの頭で端末を起動するとそこにメッセージが表示された。

 

『はいはいはい!りこぴんおはようございます!ばあちゃるくんはちょっと急用ができたので申し訳ないですけどお先に失礼しますねー。お寝坊したら大変ですので前に頂いた牛巻システムを入れた端末を目覚ましにして置いておきまフゥゥゥゥゥ。午後の授業も頑張って!わきゅわきゅ٩( ᐛ )و』

 

よほど急いでいたのだろう。SNSで使う口調と会話で使う口調。さらに、彼の伝達などで渡される書類などで使われる丁重な文が混ざったなんともチンプンカンプンな文になっていた。それにりこはクスクスと笑い、そして自身に羽織られている大きな背広に気づく。

 

「これってばあちゃる号の」

 

自分の体温か、それともばあちゃるの体温か、どちらの体温かわからないが、まだ少し温かい背広を抱きしめながらりこは顔を綻ばせた。

 

「…ぁ」

 

背広から仄かに香るばあちゃるの匂いに、りこは顔を朱に染める。その匂いになぜか、とても落ち着ける匂いでずっと嗅いでいたくなる不思議な匂いでもあった。りこはその行為に羞恥を覚えるが幸い誰もいない屋上だ。恐る恐る背広に顔を押し付けて匂いを堪能する。そして脳からアドレナリンが溢れてくるかのような感覚に襲われ、容量以上の多幸感がりこを襲う。この幸福をもう一度堪能したいという本能に従いもう一度背広に顔を押し付けようとしたその時。

 

「り、りこさん!?なぁにしてるんですか!?」

 

「げぇ!?こめっち!?」

 

そこに立つのは我らの風紀委員長(笑)の八重沢なとりだ。実はばあちゃるが学園を立つ前にりこのことを事前になとりに連絡をしていた。そのため、予鈴が鳴って授業が開始される5分前になっても戻ってこないりこを心配して、様子を見に来たのが経緯である。

 

「それってばあちゃるさんのですよね!なんで風紀が乱れることしてるんですか!」

 

「ご、ごめんよーこめっちー!」

 

どこから取り出したかわからない愛用の稲鞭を顔を真っ赤にしながら振り回すなとり。身を守るように背広で体を隠すりこ。はたから見ればただの痴話ケンカである。

 

「そんな、ばあちゃるさんの匂いを嗅ぐなんて、なんて羨ましい!」

 

「え?」

 

「え。あ、っちが!はしたないです!はしたないですよ!!」

 

墓穴を掘る風紀委員長(笑)。これを見逃すほどプログラマーの闇は甘くなかった。

 

「ねぇ、こめっち。交渉と行こうじゃないか」

 

「交渉なんて応じませんよ!」

 

「ここでのことを他言無用にしてくれるならさっきの発言を聞かなかったことにするよ。さらに」

 

ばあちゃるの背広をなとりに見せるように広げる。

 

「一緒に堪能しない?」

 

「!?」

 

何を堪能するかなとりは瞬時に判断する。そして悩むように動きを止めた。

 

「今日は週末だし。背広はそんな頻度にクリーニングに出すものじゃない。堪能した牛巻が言うのもなんだけど、やばーしだよ?」

 

「う、ううううううううう」

 

「なにも悩む必要なんてないよこめっち。ここは本能のままに従うのが女の性ってものさ」

 

そして、なとりは震える手でりこの手をとり強く握りしめる。

 

「交渉成立、だね」

 

ここにばあちゃる一派が結成した瞬間であった。

 

この後、りことなとりは仲良く授業に遅刻し教師と嫉妬に狂うたまに追い掛け回された。

 

 

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