馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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とある管弦楽器部の発表会
その発表会に出場が決まった少年ハートを持った少女
どうやらとあることで悩んでいるようで…?


(番外編)


彼の為に着飾りたい(神楽すず)

「助けてください!プロデューサー!」

 

「はい?」

 

日曜日のお昼頃。今日の昼食は何にしようか悩む『ばあちゃる』の元に『神楽すず』が乗り込んでくる。それが、すずとばあちゃるの長い一日の始まりだった。

 

学園から少し離れた食堂。そこで昼食を共にしたすずとばあちゃるは共に車に乗り込み、談笑していた。

 

「すみませんプロデューサー。またご飯をご馳走になってしまって」

 

「はいはいはい。すずすずは気にしすぎっすよ。こういう時は、年上に甘えるのも重要っすよ?ほら、エイレーンみたいに」

 

「あれは参考にしたくないです」

 

「…言っといてなんすけど、ばあちゃる君もあれは参考にしてほしくないっすね」

 

ばあちゃるの車で揃って微妙な顔をする二人。二人が脳内に浮かべるのは、面倒見はいいが傍若無人のエイレーン。確かに、エイレーンから見習う部分はあるだろうが、それでも悪影響の方も少なくはない。むしろ悪影響の方が多いのでは、とも考えてしまう。

 

「何故かピノさんがエイレーンさんのこと尊敬してますし、ちょっと注意しておきますね」

 

「お願いするっすよ。ピーピーがエイレーンみたいになったらちょっと笑えないっすね」

 

「そんな光景見たら私、首釣りますよ」

 

エイレーンと並んで百合ネタを叫ぶピノを想像してしまい、顔を青くする。その想像を振り払う様に首を振り、話題を変えた。

 

「そ、それで、今日はどうしたっすか?時間的に部活の練習が終わったことはわかりましたけど、結局用件を聞いてなかったすからね」

 

「ああ、そうでした。そういえば、用件言ってませんでしたね」

 

「すずすずのお腹の音で飛んじゃいましたもんねー」

 

「それは言わないでくださいよ―!」

 

羞恥により顔を赤くして助手席に座るすずは叫ぶ。

すずが学園長室に飛び込んできてばあちゃるに用件を言うより先に、すずのお腹からクゥと可愛らしく空腹を訴えてきたのだ。すずもそれには予想外で、何の音が鳴ったのか理解と同時に頬を赤く染めて焦った。

 

『ちがッ!?これは違うんです!?』

 

『…はいはいはい。とりあえずお昼ご飯、食べに行くっすよ』

 

『あうぅぅ…はぃ』

 

恥ずかしがるすずに優しそうに笑みを浮かべ昼食に誘う。その優しさがすずにより羞恥心を募らせた。顔をより真っ赤に染めて、すずとばあちゃるは学園を後にしたのだ。

そんなことがあったため、すずがばあちゃるへと尋ねてきた用件は聞けず仕舞いであった。

 

「それで、用件なんですけど。プロデューサーは近々行われる管弦楽部の発表会は知ってますよね?」

 

「はいはいはい。勿論知ってるっすよ。イオリンも『すーちゃんの演奏見に行こうよ!』と言っていたので、アイドル部全員で見に行く予定っすね」

 

「えぇ!?私、それ知りませんよ!?」

 

「あ!これ言っちゃダメなヤツだ!聞かなかったことにしといてくださいっすね」

 

「無理ですよ!?より緊張しちゃったじゃないですかぁ!?」

 

叫ぶすずに罪悪感を感じるが、同時に涙目の彼女が可愛くて仕方がない。つい、口角が上がってしまう。そしてそれは助手席に座るすずには丸見えだ。

 

「なに笑ってるんですかぁ」

 

「はいはいはい。いやね、申し訳ないとは思ってるっすよ?けど、涙目のすずすずが可愛いなぁなんて思ったりしなかったり?」

 

「なぁ!?…きゅ、急に言うのは卑怯ですよ!?」

 

朝の時の様に顔を真っ赤に染めて叫ぶすず。そんな姿にも、愛おしさしか感じないばあちゃるは『これは重傷だな』なんて、内心で一人で零した。

 

「このままじゃね、埒が明かないのでね。要件を教えてもらってもいいっすか?」

 

「話を逸らしたのはプロデューサーじゃないですか!…もう。なんというかホント、変わりましたね」

 

「これも皆のおかげっすよ。ばあちゃる君も、こんなに素直に思っていることが言えるようになるとは予想外っす」

 

嬉しそうに顔を綻ばせるばあちゃる。いつもの演技かかったその言葉ではあるが、その口調にその声色がそれは素であることが読み取れる。それが嬉しくて、すずも顔を綻ばせた。

 

「ふふ。…えっと、用件でしたっけ?」

 

「はいはいはい。結局聞けてなかったすからね。管弦楽部の発表会があるところまで聞いたっすよ」

 

「ああ、そうなんですよ!その発表会なんですけど。なんか部活の中でおかしな流れになっちゃって」

 

「おかしな流れ?」

 

思い出したように身を乗り出すすずにばあちゃるは首を傾げる。二人の距離がかなり近いことにすずは気付かずに言葉を続けた。

 

「実は今回の発表会なんですけど、服装が自由なんですよ」

 

「へえ、それは珍しいっすね。音楽の発表会とか、ばあちゃる君はそんなに詳しくないっすけど、学生の発表会でそれは珍しくないっすか?」

 

「そうなんですよ。なんでも今回は学生だけじゃなく一般公募もあって、それに合わせて学生も服装が自由になったんですって」

 

思い出す様に指をふらふらと動かしながらすずがそう言う。運転席と助手席。ただでさえ近いのに、すずはばあちゃるのの方を向いて身を乗り出している。二人の距離はもう数センチで触れ合うほどに近かった。

 

「さらに顧問の先生も服装自由だからって、制服じゃなくてもいいと許可しちゃって。部の仲間全員、それに乗り気になんですよ」

 

「なるほどー。つまりそのまま盛り上がっちゃって、逆に制服が禁止になったとかそんな感じっすか?」

 

「そうですそうです!さすがプロデューサー、よくわかりましたね」

 

嬉しそうに笑顔を浮かべるすずに釣られ、ばあちゃるも笑顔を浮かべる。この伝染は以前イオリが言っていた『幸せループ』だと、ばあちゃるは一人納得した。

 

「となるとすずすずの悩みもなんとなくわかってきたっすよ。ズバリ、着ていく服がない!…違うっすか?」

 

「そうなんです!恥ずかしながら私、オシャレについてはよくわからなくて…」

 

「VTuberのイベントとかに行く際も、現地までは制服か似たような服ばっか着てるっすもんね」

 

「う。気付いていたんですね」

 

すずは罰悪そうに顔を逸らす。あからさまなその態度がどこかおかしくて、ばあちゃるは笑みを浮かべた。

 

「おーけーですおーけーです。…けど、それならばあちゃる君じゃなくて、もちもちやちえりんに頼むべきだと思うっすよ。いや、頼られるのは嬉しいっすけどね。適材適所ってやつっすよ」

 

ばあちゃるの指摘はもっともだ。仮にも自分の技術を発表する場である。それの為に着飾るとなれば、異性であるばあちゃるではなく、オシャレに理解が深いもちやちえりに頼むのも道理だ。ならばなぜ?と目の前のすずに問うと、視線を泳がせ羞恥を感じているのか、頬を赤くしたすずの表情がそこにあった。

 

「…その、プロ…ばあちゃるさんに選んでほしい。そう思ったんです」

 

「え?」

 

目の前になければ聞き取れないか細い声ですずは答える。いつもの職業名でなく、名で呼ばれたことに驚いてしまい、聞き返してしまう。その言葉にすずは羞恥を誤魔化すように、笑みを浮かべながら頬を掻く。

 

「確かにもちさんやちえりさんにお願いすれば、素敵な衣装を選んでくれると思います。けど、できるのならばあちゃるさんに選んでほしい。そう思ったんです」

 

「すずすず…」

 

「だってその方が、私が嬉しいです。きっとばあちゃるさんに着飾れた私なら、私の一番を表現できると、そう思ったんです」

 

「ッ!…すずすずも卑怯っすよね」

 

幸せそうに笑みを浮かべるすずに、ばあちゃるは見惚れてしまう。それほどに目の前の少女は綺麗で、素敵な存在で、大切な存在だとばあちゃるは思った。そして、観念したように頷く。

 

「仕方ないっすね。センスが合わないって言われても知らないっすよ?」

 

「ふふ。大丈夫ですよ。だって、プロデューサーですもん」

 

全幅の信頼を寄せながら、安心しきった嬉しそうな笑みを浮かべるすずに、ばあちゃるは確かなトキメキを感じた。この少女の願いを叶えるために、ばあちゃるは車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

「ど、どうでしょうか…?」

 

「…お、おぉぅ…うん。すっごく綺麗っすよ、すずすず」

 

試着室から着替え終わったすずが頬を赤く染め、恐る恐ると出てくる。その姿に、ばあちゃるは固まる。

すずが身に纏うのはワンピース型のパーティードレス。アイドル衣装の様に、スカートはレースの二重構造になっているが、こちらはスカートとレースが共に丈が広く、より清楚感を感じさせる。またレースは後ろ下がりとなっており、すずの美しい足をより輝かせた。さらに襟元は円状に開いており、普段見せない鎖骨を晒す。腕はノースリーブにより、その細く長い腕の健康的な素肌がドレスととてもよく合っていた。スラっとフィットしたドレスは彼女のスタイルの良さを遺憾なく発揮されている。彼女の髪と同じグリーン色のドレスに包まれた神楽すずに、ばあちゃるは見惚れることしかできなかった。

 

「ふふ、変なプロデューサー」

 

「いや、本当に綺麗としか、言えないっすよ。うん。ちょっと言葉が飛んでしまう」

 

控えめに口元を抑え笑みを浮かべるすず。その姿は様になっており、再びばあちゃるは言葉をなくす。目の前の彼女はばあちゃるの視線を掴んで離さない。それほどに目の前の少女は魅力的だった。

 

「そ、それにしても、随分と楽しそうに選んでいたっすね。とてもオシャレが苦手とは見えなかったすよ」

 

「え。そうですか?」

 

「はいはいはい。展示されてるドレスを見ながら色々と吟味してたっすよ。最初はばあちゃる君が選んでいたっすけど、最後辺りじゃすずすずが自分から選んでいたじゃないっすか」

 

ばあちゃるの言う通り、このドレスの専門店に入店した当初はすずの希望通りにばあちゃるが見繕っていた。しかし何着か試着をしていくとすずの方が乗り気になってきたのか、途中から自身で吟味してばあちゃるの前に持っていき『これはどうでしょうか?』や『これはプロデューサー的には似合うと思いますか?』など聞いてくるほどだ。そして、最後には自分で選んだドレスを、ばあちゃるの前で見事に着こなして見せた。その姿は、誰がどう見ても、オシャレが苦手と公言してる人物には思えなかった。

 

「…言われてみれば、服選びでこんなに楽しかったのは初めてかも。なんででしょう?」

 

「え、そうなんすか?」

 

様々なドレスを見ながら懸命に選ぶすずの姿は、ばあちゃるから見てそれは女の子の姿そのものだ。シロや他のアイドル部の子の買い物などによく付き合うばあちゃるはその姿をよく知っていた。だからこそ、すずが零したその言葉は予想外であった。

 

「…ああ。なるほど。これがそうなんですね」

 

「ん?すずすず?」

 

一人納得するすずに首を傾げる。するとすずは嬉しそうに笑みを浮かべ近づき、その華奢な腕をばあちゃるの背に回して抱き着いてきた。その急な行動にばあちゃるは焦る。

 

「すずすず!?」

 

「ばあちゃるさん。私、わかっちゃいました。…これが、『恋』なんですね」

 

「…恋?」

 

抱き着いた状態で見上げてくるすずの表情は嬉しそうに頬を染めていた。至近距離で見るその表情にドクンと胸が高鳴り、頬に熱が集める。

 

「私、さっきも言ったように、オシャレとかよくわからなくて…服にこれといったこだわりはないんですよ。それこそ着れれば何でもいいなんて思うほど興味がないんです」

 

「…それは女の子としてどうかと思うっすよ?」

 

「ふふ、そうですね。私もそう思います。けど、今日は違ったんです」

 

楽しそうにはにかむすずに、確かなトキメキを感じる。気付くと、お返しと言わんばかりにすずの背に手を回していた。

 

「選んでもらううちに、ばあちゃるさんの好みがちょっとずつですけど分かっていって、そこでふと思ったんです『ばあちゃるさんの好みの衣装を私が選んで着たら喜んでくれるかな』って。…気付いたら、もう体が動いていました」

 

「すずすず…」

 

「すっっごく楽しかったです。貴方の為に着飾ることが楽しかった。貴方の喜ぶ顔を想像して悩むことが楽しかった。…そして、わかったんです。これが、これこそが『恋』なんだと」

 

『恋や愛を知らない』。いつだったか、配信の際にすずが言っていた言葉だ。その彼女が今、異性である自分の背に腕を回して頬を朱に染めている。その姿はまさに『恋』する少女だ。その視線が向けられる先は自分。その事実がばあちゃるの高鳴る鼓動を加速させる。そしてそんなすずに応えたいと、ばあちゃるは強く思った。

 

「ばあちゃるさん。私、これからも感情を知っていきたいです。アイドル部の皆と、貴方と共に。そして、『愛』も知っていきたい」

 

「…こんな俺でよければ」

 

なんとか絞り出すその声にすずは笑みを浮かべる。楽しそうに、嬉しそうに。そんな幸せに溢れる笑顔に、ばあちゃるはより頬を朱に染めた。

 

「ばあちゃるさんじゃないと嫌ですよ!だから…これからもよろしくお願いしますね!」

 

彼に抱いた尊い感情と向き合うことができた。その彼と共に、その先の関係をすずは望む。きっとその先に苦い感情を浮かべてしまうこともあるだろう。だが、その一歩を踏み出すことにすずは恐怖を感じてはいなかった。なぜなら、隣には愛おしい彼がいるからだ。その先の幸せな未来を夢見て、すずはばあちゃると共に一歩踏み出いた。

 

 

 

 

 




あとがき

作中に登場したドレスのモデル
パーティドレス フィッシュティール(グリーン)
全体図URL(楽天市場の商品ページなので注意)
https://item.rakuten.co.jp/graceshop-2/da431ze/
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