最近その遊園地に厄介なファンがいるようで…?
平日の日が落ち始める夕暮れの5時半。アイドル部の一人『花京院ちえり』は、プロデューサーの『ばあちゃる』とともに.LIVEの運営会社であるアップランドの事務所に赴いていた。
「ねぇねぇ、うまぴー?結局ちえりが呼ばれた理由はなんなの?」
「いやー。それがばあちゃる君にも知らされていないっすよね」
「そうなの?」
指示された会議室に向かう途中、ちえりはそう聞いた。しかし、帰ってきた答えは予想外のものだ。アイドル部のプロデューサーであるばあちゃるには、それこそ些細なことでも知らされるようになっている、そのばあちゃるすら知らされていないことは、どういうことなのだろう。ちえりは首を傾げた。
「ばあちゃる君も、ついさっきにメンテちゃんに『お客さんが来ているので、対応をお願いします。あとちえりさんも同伴でお願いします』としか言われてないっすよね」
「それだけじゃ呼ばれた理由がわかんないね。けど、お客さんかぁ。ちえりも一緒に合うお客さんって誰だろう?」
「それも謎っすね。…それとちえりん?」
「んん?なぁに?」
身長差によりばあちゃるを覗き見上げるように視線を合わせる。勿論、可愛らしさを忘れないように上目遣いである。それはばあちゃるにも効果的だったようにで、少し頬を朱に染めた。
「い、いやー。事務所なんすから、そんなにくっ付くことないっすよ?」
「ええー!うまぴー、ちえりとくっ付くの嫌なの?」
「いやじゃないっすよ!?ただほら、一応世間の目を気にしたほうが…」
「だいじょーぶ。アップランドのみんなは理解してくれてるよ!ね?」
ぎゅっと強く腕に抱きつきながら、すれ違う社員に見せつけるように問いかける。返ってくるのは『お熱いね!幸せになるんだぞ馬!』という激昂の言葉。その言葉に、ばあちゃるは掌で顔を覆う。
「理解力ありすぎじゃないっすかね…」
「エイレーンさんが言ってたけど、アップランドの社員さんのほとんどがうまぴーを追ってきた人なんでしょ?なら当然なのでは―?」
「…俺って、幸せ者っすね」
小さく零したその本音に、ちえりは慈愛の笑みを浮かべる。ばあちゃるの幸せを願う一人として、この気持ちが伝わるように、腕に力を込めた。
「そうだぞー?だからうまぴーも、もっと自信をもつべきだと思うの!ちえりちゃんみたいに!」
「ちえりんのそれはちょっと参考にならないっすね!」
「なんでー!?」
仲睦まじく談笑していると目標であった会議室の前にたどり着く。さすがに客人の前ではやるべきではないと、理解しているちえりはそっと腕を離す。しかし、その二人の距離はアイドルとプロデューサーの距離にしては近かった。
一言挨拶を入れ、扉を開けて中へ入室する。そこには、ばあちゃるが知る人物が三人いた。
「ホモホム!?それにオレオレにつかつか!?え、どういう組み合わせっすか!?」
「お久しぶりです、ばあちゃるさん!」
「会いに来たぞー」
「初対面なのにあだ名なのか…」
室内にいた三名。『佐藤ホームズ』、『探偵オレンジ』。そしてBANsの世話役であるバーチャル債務者YouTuberの『天開司』だ。その関係性が全く見えない三人に、ばあちゃるは驚きを隠せない。混乱の中、このまま固まっては話が進まないと思い、ちえりと共に席に着いた。
「はいはいはい。それで、三人揃ってどんな用件なんすか?ばあちゃる君、ちょっと三人の接点が分からなくて混乱してるっすけど」
「俺たちがこうして集まったのは、ばあちゃるさんが関係してます」
「うまぴーが?」
首を傾げるちえりとばあちゃるにホームズは頷く。それに続くように、横にいたオレンジが口を開く。
「馬が前にテロリスト残党の調査をオレンジたちにしたでしょ?あれに進展が、というかちょっと問題がでちゃったわけ」
「ッ!?確か、残党の処理はもう終わったはずっすよね?」
「ああ、終わった。問題っつうのはあいつらが残したブツなんだわ」
終わったはずのその話題にばあちゃるの雰囲気が変わる。その変わった雰囲気に司は面白そうに口角を上げ、オレンジに続く。
「ばあちゃるさんも知っているように、テロリストたちの技術力は本物だ。その技術力を駆使して作られたとある道具が問題なんだ」
「とある道具?」
「そうそう。馬のことだからもう情報は入ってると思うけど、最近話題に上がってるでしょ?あれ…なんだっけ?」
「ど忘れかよ。…モデルコピーの件だ」
「はいはいはい。それはのじゃさんから聞いてるやつっすね」
「ねぇねぇうまぴー。その、モデルコピーの事件ってなぁに?」
ばあちゃるの横に座るちえりが服の端を軽く引っ張りながら質問をする。その光景にホームズは微笑ましそうに、オレンジは意地の悪い笑み、そして司は呆れた表情を浮かべながら見ていた。
「そうっすね。ついでにそのモデルコピー事件についても軽くまとめましょうか」
「まぁそうだな。あんま大きくなってない事件だし、知らなくても当然か」
「俺たちは探偵だし、司はそういった案件がよく入ってくるだろうけど、一般人はそうじゃないからな」
「見直すにはちょうどいいんじゃない?」
三者の同意を得て、ばあちゃるは頷く。そして件の事件『モデルコピー』について語りだした。
「今、のじゃさんやのらのらが主に活動してるVRChatで起きている事件っすね。VRChatについては、はしょっちゃうっすけど、簡単に言うと文字通り『モデルをコピー』という事件が最近起きているっすよ」
「モデルをコピーって…今の身体が複製されるってこと!?」
「間違ってないな。フリー素材のモデルのやつが、次の日に有名コテと同じモデルになっているのが事件の発端だ」
「ノラネコさんの、量産型のらきゃっとさんみたいに、配布してるモデルじゃないからその界隈はかなり話題になったんだ」
「ばあちゃる君も、のじゃおじさんからある程度は聞いていたっすけど、それがウチとなんの関係が?」
「それについて話す前に、これを見てほしいな」
そういってオレンジが見せてきたのは携帯端末だ。ばあちゃるが受け取り、ちえりと共にその画面を見てみる。そのには、とあるSNSのあるユーザーの画面が映し出されていた。
「これは…」
「ッ…」
アイコンをちえりのファンの総称である従業員のものであるが、その呟きはファンに値するものではなかった。ちえりに対しての賞賛は問題はない。しかし二人が顔を顰めるのは、その引き合いに他のアイドル部の子や、余所のVTuberを出すという醜悪のものだ。
「酷いよ、これ…」
「…このユーザーはメンテちゃんから聞いたことがあるっすね。マシュマロでも、セクハラ的なのを何度も送ってきているやばーしなやつっす。マシュマロさんの報告と、そのひどい人間性にウチの方ではブラックリストに入ってるっすよ」
「なるほど。だから情報通のばあちゃるさんが今回の件で動いていなかったのか」
「私とホームズさんはそのモデルコピー事件について追っていて、その道具所持者の一人がこの男と突き止めたの」
「んで、俺は姉崎にちょい頼み事されてな、その最中にこの二人と合流したわけよ」
「姉崎って、ユキミお姉ちゃん!?」
急に登場したのはちえりにとって懐かしい名だ。姉崎ユキミのこと『ユキミお姉ちゃん』。配信とコラボをよく行うVTuberであり、BANsとのコラボも多くしている。ちえりもアイドル部に加入する前、ソロで活動している際にユキミとコラボをしたことがある仲なのだ。
「あいつ、面倒見がいいだろ?その問題のファンについて、嫌な噂を聞いたってことで俺に調査を頼んできたのよ。んで、ちょい調べたら他の案件で追ってる二人を知ってな」
「情報共有のために合流して、ちょっと事が大きくなりそうだから馬に直接話そうってことになったわけ」
「なるほどなるほど、おーけいです。…それで、ホムホムたちが分かっていることを教えてもらってもいいっすか?」
ばあちゃるから出る雰囲気に司は固唾を飲む。イベントなどで見るいつものばあちゃるであるが、今の姿はどこか威圧感を感じる。彼が怒りを感じていることは、誰が見ても明白だった。
「調査の結果、こいつは今『ちえりーランド』にいる可能性が高い」
「え!?だってこの人、ブラックリストなんだからちえりたちに関係するところに入れるわけが…あ」
「気付いちゃったか。そう、ここでモデルコピーの案件が出てくるの」
「つまり従業員のモデルをコピーして、あたかも前からいたかのように、ちえりーランドにいるってわけっすか」
「あそこは確か、花京院が経営している遊園地であると同時に公式のファンが集う場所みたいなところだろう?そこにそいつが居たらヤバいんじゃねぇか?」
司の指摘にちえりは背中に冷たい汗が伝う。こんな自分勝手な人物のせいで、ちえりが大事の従業員(ファン)に被害が合うのかもしれない。そう考えると腸が煮えくり返る。
「…解決策はある。ちょっと強引だけどね」
「それはなんですか?」
「馬がおとりになるんだよ。こいつ、馬に対してもボロクソに言ってるから馬がちえりーランドでプロデューサー特権とかで何かやればきっと釣れるよ」
「それなら「ダメ」ち、ちえりん?」
オレンジの提案に、同意しようとするばあちゃるを遮る。見上げてくるその瞳から怒りが読み取れた。ちえりのその行動にばあちゃるは驚き、どもりながらも相手の名前を呼んだ。
「それはダメ。それじゃうまぴーがまた傷ついちゃうよ。そんなのは絶対に嫌!」
「いや、けどこれ以外方法は」
「そんな方法知らない!そんな方法しかないならちえりも一緒にやる!」
「いやいやいや!?それこそダメっすよ!?」
「…いや、そっちのほうが効果的かも」
「ホムホム!?」
駄々をこねるちえりに、困惑するばあちゃるは意外な援護に驚愕する。その援護をした佐藤ホームズは、顎に手を添えながらちえりと向き合い、真剣な表情を浮かべた。
「ちえりさん。先程の発言に偽りはないですね?」
「ないよ。ちえりはうまぴーが傷つくのは絶対反対。もしその方法しかないなら、ちえりも一緒じゃないと嫌」
「嫌って、ちえりん。これは結構大ごとで」
「大ごとだからって、うまぴーが傷ついていいわけじゃないじゃん!そんなのちえりは認めないよ!」
「おー愛されてるねぇ」
「さすがの信頼関係だな。噂通りとは感服するわ」
「ちょっとヒートアップしてきたな。ほら皆さん落ち着いて」
ホームズの言葉に我に返り、頭を下げるばあちゃる。ちえりも少し落ち着いたが言葉を取り消すつもりはないのか、ばあちゃるから顔を逸らした。
「ちえりさんの覚悟も聞いたわけだし、思いついた作戦も言ってしまおうかな」
「それでそれで、ホームズの作戦はなーに?」
「簡単だよ。ちえりーランドでばあちゃるさんとちえりさんがデートをするんだ」
「へ?それでいいの?」
その提示した作戦はあまりにも単純で、ちえりは呆気のない顔を浮かべて聞き返してしまう。そんなちえりに、ホームズは笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「さっきも見せたように、こいつは重度のちえりさんのファンだ。なにせブラックリスト入りしたのに、それを掻い潜ってまでちえりーランドに侵入する筋金入りだぞ?」
「なるほど。そんなやつが、男と仲睦まじく歩く花京院を見たらどうなるか容易に想像つくな」
「そこを私たちで確保するってことね!」
「いやいやいや!?そんなことしたらちえりんにも危険が!?」
「え?ばあちゃるさんは、大事なアイドル一人も守ることも出来ないと言うんですか?」
「くッ!卑怯っすよホムホム!」
そう言われると何も言い返せなくなる。恨めしそうな視線をホームズに向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。ばあちゃるのその言葉の中の答えを読み取ったホームズは笑みを浮かべる。
「本人の同意も得たわけだし、この作戦で行きましょうか。二人もそれでいいか?」
「オレンジはいいでーす」
「ここまできたら付き合うわ」
「ちょいちょーい!?ばあちゃる君は同意してないっすよ!?」
「うまぴー、もう諦めてデートしよ?それとも、うまぴーはちえりとのデートはいや?」
「そんなわけッ!?…ああもう!分かったっすよ!こうなりゃヤケクソだ!意地でも犯人捕まえるっすよ!!」
「「イェーイ!」」
ちえりの懇願についに陥落するばあちゃる。それにオレンジとホームズはハイタッチをした。その横で司は呆れた表情ながらも、口角が上がっていることから笑みを浮かべているのが読み取れる。
ここに探偵二人に債務者一人、プロデューサーとアイドルという不思議なチームが生まれた。
「…早く来すぎたっすかね」
日曜の昼前。ちえりーランドの入門ゲートの前にばあちゃるは立っていた。しかしその恰好は、いつもの馬のマスクにスーツではなく、カジュアルな白色のシャツの上に紺色のジャケット。ジャケットに合う様に、黒色のスラックスを身に纏っている。髪にも多少手を加えているのか、いつもの様に少し長い白髪は後ろで束ね枝毛が見えなくなっていた。やはり顔の傷は目立つが、それを差し引いても年齢に合う大人な雰囲気と、服装が非常にマッチしている。まさに『理想の貫禄がある男性像』そのものであった。
「…えっと、ばあちゃるさん?」
「はいはいはい。そうっすけど、どうしたっすか従業員06(2)さん」
ばあちゃるに声をかけるのは、デフォルメされたモデル『従業員さん』に身を包む人物。古株の従業員の一人だ。ばあちゃるもまた従業員の一人でもあるため、彼との付き合いも割と長い。そんな彼が困惑していることに、ばあちゃるは首を傾げた。
「いや、あんたそんなにイケメンだったのか。知らんかったぞ」
「えっとばあちゃる君がっすか?いやいや、確かにばあちゃる君はハイスペックすけど、イケメンと呼ばれたのはあんまりないっすね」
「いやそれは、あんたがいつも馬のマスクしてるからでしょーが。…まあその傷跡を見れば隠したくなるのはわからなくもないけどな」
やはり目立つのかと内心思いながら、傷跡をなぞる。その行動にどこか居心地が悪くなったのか、従業員の彼は話題を変えた。
「それで、今日はちえりちゃんのデート風動画を撮るんだろう?」
「はいはいはい。そうですそうです。…やっぱ炎上してるっすか?」
「してはいるが、まあ相手はあんただからな。勤め歴が長い奴ほどあまり騒いでないな」
「あ、そうなんすね」
返ってきた答えが予想外だったのか、ばあちゃるは小さく驚く。プロデューサーの傍ら、何度もちえりーランドで働いているため、従業員の中ではそこそこに評価が高い。その為か今回の偽装ではあるが、動画の為としてのデートも思いのほか受け入れられていた。
「あ、けど。異常に騒いでるやつが一人いたな。そいつが異常だったからか、他の従業員も割と冷静になれていたとこもあるわ」
「…そいつの詳しい情報、教えてもらってもっすか?」
「あん?いいけど、どうしてだ?」
「もしあまりにも過激でしたらこっちで対応するつもりっすからね。一応情報が持っといた方がいいでしょう?」
「まあ、それもそうだわな」
その理由に納得したのか、従業員はその問題の人物についてをデータをばあちゃるへ送る。そして、送られてきたデータは別行動で動いているホームズたちへと送った。
「まあお前さんなら心配ないと思うけど、ちえりちゃんを泣かせるなよ?」
「ばあちゃる君がそんなことするわけないじゃないっすか」
「そうだな。いらない心配だったわ。さて、俺もゴミ箱並べに戻るかね」
片腕上げて従業員ゲートへと去っていく姿はどこか哀愁が漂う。しかし、振り向く前に見えたその表情はやる気に満ちていた。あれこそが真の従業員の姿だと、ばあちゃるは一人納得する。
「…昇給を訴えた過去がすでに懐かしいっすね」
色々と台無しだった。
ふと携帯端末を覗くと、ちえりから連絡が一つ。『うまぴーどこー(>_<)』という可愛らしい一文だ。それに近くにいることを読みとったばあちゃるは、辺りを見回して、ようやくその姿を見つけた。
「はいはいはい!ちえりーん!すみませんっすね!気付くのが遅れちゃったっすよ!」
「あ、遅いよーっ…うま…ぴー?」
「はいはいはい。そうっすけど、どうしたっすか?」
ばあちゃるの姿を確認すると怒っていた表情が一変、徐々に頬を赤くしていき言葉も詰まる。そんなちえりの反応が予想外だったのか、ばあちゃるは首を傾げた。
「えっとぉ、うまぴー、だよね?」
「そうっすよ?え、どこかおかしかったっすか?」
「ううん!ううん!!おかしくないよ!むしろすっごくかっこいいよ!!」
「そ、そっすか?その言われるとばあちゃる君も嬉しくなっちゃうっすね」
「はじゃー…身だしなみを整えればかっこよくなると思ってたけど…こんなにすごいなんて予想外だよぉ」
全力で賞賛するちえりに照れてしまう。彼女の様子から、その言葉に嘘ではないことはわかる。だからこそ照れが出てしまい、小声でつぶやいた内容が聞き取れずにいた。
「ん?何か言ったっすか?」
「ううん!?言ってないよ!うまぴーがかっこいいなぁなんて思ってないよ!…あぅぅ」
「い、今のは聞かなかったことにするっすよ!」
「…それも嫌」
「え、えぐー」
零れた本音すら受け入れてほしいというちえりにばあちゃるも赤面してしまう。甘酸っぱい雰囲気をか持ち出しながら、なんとか次に進もうとばあちゃるは入場ゲートへ目を向けた。
「ほ、ほら!ちえりん、デートに行くっすよ!」
「…うん!」
差し出された手を嬉しそうに取り、ちえりはばあちゃると共に、ちえりーランドの門を潜っていく。ちえりはこれからの幸せな時間に胸を躍らせた。
ちえりーランドはその広大な土地に反して遊べる場所は意外と少ない。永遠と従業員がゴミ箱を並べている広場。Dead by Daylightが行われていると言われる森。そして目玉の、ゴンドラがとてもよく揺れて、お客に恐怖と吐き気を叩きつける観覧車『くたば輪』を含む少数の遊具だ。正直、デートをするのであれば他の遊園地の方がいいのかもしれない。
「ほらほらうまぴー!ジェットコースターに乗ろう!」
嬉しそうに先導するちえりの姿を見ると、デートする場所は彼女が喜んでくれればどこだってかまわないと、ばあちゃるは納得した。
「いやー。実はばあちゃる君、ちえりーランドのアトラクションに乗るのは初めてなんすよね!ちょっと楽しみで胸が躍っちゃうっすよ!」
「そうなの?よーし、なら今日はいっぱい楽しんじゃおうね!」
「おー!」
~ジェットコースター(プロVer)~
「ちえりんちえりん?」
「なぁに?」
「このジェットコースター、なんで入口からコースターまでこんなに長いっすか?」
「それはね、お客さんがたくさん並べるようにするためだよ?」
「え、けどお客さんなんて「んー?うまぴー何か言ったぁ?」言ってないっすよ!?」
「変なうまぴー」
「いやいやいや。えぐーっすよねこれ、完全に」
~Dead by Daylightが行われていると言われる森~
「なーんかやばーしな感じがする森っすね、完全に」
「…あちゃー。これ、ちえりたちサバイバーで参加しちゃってるのでは―?」
「…え?ばあちゃる君、DbDやったことないっすよ!?」
「ここはこの花京院ちえりに任せなって♪」
「おお!ちえりんは頼りになるっすね!…ってうわぁ!?キラーが来たっすよちえりん!ここはやっぱ拳で抵抗っすか!?」
「逃げるようまぴー!ちえりはこっちに逃げるからうまぴーはそっち!」
「離れ離れになるやつっすねこれ、完全に!うわぁぁぁ!?こっち来たァ!?」
~くたば輪~
「ここだけすっごい行列っすね。ようやく、乗れるっすよ」
「…ねぇ、うまぴー」
「はいはいはい?どうしたっすかちえりん?」
「確かに犯人の動向は気になるけど、今はちえりとのデートだよ?そんなに携帯ばっか見てるとちえり、寂しいよ」
「あ、いや。…そうっすね!今日はホムホムたちが後ろにいるっすから、頼ることも大事っすね。これはばあちゃる君がダメダメでした。…だからここから挽回させてもらってもいいっすか?」
「うん!期待してるようまぴー」
「期待には応えて見せるっすよ!…ところでこの観覧車、変わった形してるっすね。いつもゴミ箱並べに集中していたからよく見てなかったっすけど、ゴンドラってこんなに揺れるもんでしたっけ?」
「うまぴー、しっかりちえりのことを守ってね?」
「はい?…うおおおお!?なんだこの観覧車!?揺れるってレベルじゃないっすよ!?」
「うまぴー!ちえりのこと話しちゃやだよ?」
「ならせめて安全の為に、シートベルトを設置するところからやった方がいいと思うっすよ!?ゆ、揺れッ!?新感覚観覧車ッ!?」
「キャー(≧∇≦)」
~ジェットコースター(ちえりVer)~
「はいはいはい。これね、完全にね、やばーしっすね!」
「もー!うまぴーさっきからそればっかり!もっと感想教えて―!」
「設計するのは配信で見てたっすけど、足が地に着けないのがこんなにやばーしとは思わなかったすね!これを採用するとはさすがはちえりんっすよ」
「でしょでしょー?もっと褒めるがよいぞー?」
「はいはいはい。これ以上褒めるとね、さらにやばーしの作っちゃう気がするのでね、ここで褒めるのは終わりにしまーす!」
「なんでー!?」
「…冗談っすよ。最高に面白かったっすよ、ちえりん」
「は、はじゃー!?不意打ちは卑怯なり―!?」
「あー!!楽しい!!」
露店で売っていたハンバーガーを片手にちえりは、満面の笑みを浮かべる。そんなちえりに釣られてか、横に並ぶばあちゃるも笑顔だ。
「うまぴーもたのしい?」
「最高っすよ!ちょっとあれ?って思うのもあったっすけど、それもちえりーランドの魅力だと思えば問題なしっすね!」
「聞かなかったことにします♪」
「えぐー!?」
いつも通りの大袈裟なリアクションをするばあちゃるにさらに笑みを深める。好きな人と一緒に過ごす時間がこんなに尊いものだと、これほど幸せを感じるものだと、ちえりは知ることが出来た。それが何よりの収穫なのだろう。満面の笑みがそれを物語っていた。
手に持ったハンバーガーを食べ終わった頃、ばあちゃるがポツリと言葉を零した。
「…ばあちゃる君、時々不安になるっすよ。本当にこんなに幸せでいいのかって」
「うまぴー?」
「あの子がいなくなって、シロちゃんが生まれて。今まで誰かの為に全力で生きてきた。そして、あの日。俺はみんなとの幸せを選んだんだ。けど、たまーに昔の自分が言ってくるっすよね。『お前は幸せになっていいのか』って」
「いいにきまってるよ!」
ちえりは即答する。ばあちゃるの悩みなど些細なことだと振り払う様に。いつもの自信に満ちた笑みを浮かべ、ばあちゃると向き合う。
「うまぴーは今までいっぱい苦労したんだよ。だったらその分幸せにならなきゃだめだよ。ならなかったら許さない」
「ちえりん…」
「うまぴーが言うあの子が、どんなことを考えていたのかなんてちえりは知らないよ。けど、ちえりはうまぴーに幸せになってほしい。そしてその隣に、ちえりも立っていたい」
伝えるのは自分の願い。常に自分に自信があるちえりだからこそ、誰かを代弁するのではなく。自分の意思を届ける。そして、変わらずに満面の笑みを浮かべた。その力強い願いは、今の彼になら届くと確信もしているからだ。
「…ちえりんはかわいいっすね」
「でしょー?けどちえりはね、もっと可愛くなりたい。その為にうまぴーが必要なの。ちえりの隣で幸せなうまぴーがね。だから、どっかに行くなんてゼッタイに許さないんだから」
「行くわけないっすよ。俺が幸せになるのにもちえりんが必要っすからね」
寄り添ってくるちえりを、抵抗せず受け入れる。そっと重ねられた手を繋ぎ、次はどこへ行こうか会話を紡ぐ。きっと二人なら楽しい時間でしかないと、分かり切っていても弾む心を抑えられずにいた。
しかしそんな楽しい時間は、突如入ってきた存在に遮られた。
「ちえりちゃん!」
二人の前に従業員の一人が躍り出てくる。飛び出してきた方向を見ると、どうやら他の従業員の制止を振り切って出てきたようだ。そして、その従業員番号には見覚えがあった。
「ちえりん」
「う、うん」
「なんだよ、お前!さっきからオレのちえりちゃんとイチャイチャしやがって、邪魔なんだよ!」
ちえりを守るように、ばあちゃるは前に出る。そのばあちゃるを、まるで親の仇の様に憎しみが籠る瞳をして、その従業員は罵倒してくる。それはデート前に聞いた従業員と同一人物で、ホームズたちの調査で判明したモデルコピーの犯人でもあった。
「いい年したおっさんなんかより、オレの方がちえりちゃんを満足させれるに決まってる!なのに、なんでおっさんがそこにいるんだ!」
「…」
「ハッ!だんまりかよ!言い返すことも出来ない雑魚がちえりちゃんの横に立つんじゃねえ!!」
険しい表情を浮かべながら暴言を吐く従業員を見詰める。その異常な風景に野次馬が次々と現れた。お客さんに広場でゴミ箱並べをしている従業員。そして、その中にホームズたちの姿も確認できた。しかし、このままではこの従業員を捕まえることが出来ない。確かに今の彼の行為は問題行動だが、それで逮捕するにはまだ一歩足りなかった。
「ちえりちゃん!そんな情けないおっさんと一緒にいたくなんてないよね!?今助けるよ!」
自分勝手に吠えるその男に、ばあちゃるは静かに怒りを募らせた。お前なんかにちえりの何がわかるのか、と明確な敵意が湧き上がってくる。怒りの中、一つ妙案を思いついた。少々危険だが、この案なら目の前に男を確実に暴走させることが出来る。
なにより、『ちえりは俺のモノだ』と周りに知らしめることが出来る。密かに灯る独占欲が、ばあちゃるの背を押した。
「…悪いが、ちえりは俺のだ」
「え、うまっ…むぅっ!?」
「なぁ!?」
まるで目の前の男に見せつけるように、ばあちゃるはちえりの唇を奪う。その行動はちえりにも予想外であったようで、唇を合わせた状態で目をパチクリさせる。そして、徐々に現状を理解したのか、頬だけではなく顔を一気に朱に染めた。しかし、混乱しながらもそれを拒否はしない。むしろ望むように、ばあちゃるの背に腕を回した。
その光景に目の前の男が我慢できるわけがなかった。感情のままに、腕を振り上げる。
「て、テメェェッ!!」
「お は ク ズ ッ!待ってたぜ、この時をよォ!」
「オレンジちゃん!カメラは撮ってるかい!」
「もち!この通りばっちり!!」
「な!?なんだ、てめぇら!?」
飛び出してきた司とホームズに取り押さえられる男。ホームズの言葉に、後方にいたオレンジは手に持っていたカメラを大きく掲げる。その見事なコンビネーションは、周りの野次馬は一切反応できずに、事件は決定的な証拠を残して未遂で終わらせた。
「放せッ!このッ!?」
「悪いっすけど、貴方はここで終わりっすよ。…俺の大事な子に傷つけた罪、償ってもらうぞ」
「ヒィッ!?」
普段の声からは、想像もできない絶対零度の視線とドスの効いた低い声。見下ろされる状態から男は、全身でその殺気を受けて気を失ってしまった。
こうして、ファンを自称する悪質な犯罪者に纏わる事件は大きな被害を出すことなく、無事に終了した。
「はえー。そんなことあったんだー」
「『あったんだー』って、いろは興味ないのかー?」
「そんなことないよ!?ちえりちゃんにうまぴーも関わった事件でしょ?気になってるよー!?」
事件の日から一日開けて月曜日の昼下がり。Cクラスに所属する『金剛いろは』と『もこ田めめめ』は件の事件について語り合っていた。といっても事件のことを語り合っているというよりは、メンテちゃんより聞いためめめが、そのままいろはに伝えているだけである。
「それでそれで。そんなことあったんだから、うまぴーは炎上したの?」
「確かにしたけど、それがメンテちゃんの予想より燃えなかったみたい。今じゃ話題にすらなってないしね」
「言われてみればそうだね。いろはも、朝にSNS見たけどそんな話題は見なかったなー」
ポケットから取り出した携帯端末で、再びSNSを開く。多少でも炎上しているのであればトレンド入りでもしているかと思い探るが、そんな情報もない。どうやらめめめの言う様にそこまで大事にはならなかったようだ。
「けど、従業員さんの前で、その、ちゅ、ちゅ―しちゃったんだよね!?燃えないほうがおかしくない!?」
「落ち着けいろは!?なんで急に照れ始めたんだ!?」
「照れてないもん!」
「お、おう。そっか。…かわいいないろは」
「うぇ!?…めめめちゃんも可愛いよ!」
「な、なんだこの流れ!?」
両者顔を真っ赤にして何故か発生した告白合戦に、めめめはツッコミを入れる。始めた原因はめめめであるが、それは言ってはいけない。コホンと一息入れて話を戻す。
「炎上しなかった理由なんだが、結構単純でね。犯人が原因なんだ」
「へ?とんでもない極悪犯だったの?」
「ある意味そうかも。押さえつけられた後、犯人の行動とSNSでの発言をその場で公開したの。それはもう酷くてね、ちえりちゃん以外のアイドル部の悪口やそのファンの悪口ばっかだったの」
「うっわぁ。それは最悪だね」
その悪口を明確にはしなかったが、そのめめめの顔から大よそ想像がついてしまい、いろはも顔を顰めてしまう。
「そんでね、事前に伝えられていたデートの理由も、そのちゅーも、犯人を炊き付けるための行為だよーって説明したの。それで従業員さんたちは何とか納得してくれたみたい」
「ほえー。そうなんだ」
「後はプロデューサーの信頼が厚かったからかな?ほらうまぴーも、最初期からちえりーランドでちょこちょこ働いていたでしょ?あのおかげでそこまで燃えなかったみたい」
「それでも多少は燃えたんだね」
「『とりあえず馬は燃やす』ってことで燃やされたみたい」
「なぁんだ。それじゃあいつも通りだね」
『とりあえず馬は燃やす』。それは、ばあちゃるが多少でも関わっていれば、よく使われるワードの一つだ。その責任をばあちゃるに押し付け、炎上させる。文字にすると一見最悪であるが、これはある意味VTuber界ではお約束の一つだ。このワードが出たということは、ばあちゃるにかかる火の粉はその程度だということが分かる。安心したように、いろはは肩を落とした。
「…ところでいろは。あれ、なに?」
「…はじゃー…」
めめめが指さす先には件の関係者、花京院ちえりの姿があった。しかし、その様子はどこかおかしい。その顔は熱に浮かれていて、視線も虚空を見ている。もしや体調でも崩したのか?とめめめは心配するが、それは横で呆れた表情を浮かべたいろはに砕かれた。
「ああ、あれ。あれはね、昨日の出来事を何度も思い出してダメになってるちえりちゃんだよ」
「…なんて?」
「もぉ!耳が遠くなるには早いぞめめめ!だからあれは、昨日の出来事を何度も思い出してダメになってるちえりちゃん、だよ!」
「聞き間違いじゃなかったのか…そっかぁ…」
あまりにもひどい理由につい顔を覆ってしまう。気を取り直して、あらためてちえりに視線を向ける。先程と変わりはしないが、いろはの言う通りであればあの顔はただ惚けているだけだ。それがわかると、胸に湧くのはズルいという小さな嫉妬心。それを理解した瞬間、めめめは次の行動を決めていた。
「よしいろは!今からプロデューサーの所に突撃だ!」
「え!?けど、今はなとちゃんがいるはずじゃ?」
「そんなの知るか―!あんなちえりちゃんを見て、我慢なんてめめめはできないよ!ほら、いろはも行くよ!」
「ちょちょちょ!?待ってめめめちゃん!?いろは、まだ心の準備が―!!」
「…はぁ、うまぴー…はじゃー…」
思い出す様に唇をなぞるちえりを余所に、いろはとめめめは教室を飛び出す。恋する少女たちの昼下がりは、騒がしくもありながら、ゆったりと過ぎていく。
なおその日、めめめといろは、さらになとりは全員寝坊して5限目の授業に遅れた。