馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の学園長
女子学園において在籍する数少ない男性である彼に恋心を抱くものは僅かに存在する
そんな南斉を良しとしない者がいるようで…?


彼に抱く独占欲(北上双葉)

 

祝日の昼過ぎ。アイドル部に所属する『北上双葉』は、趣味であるカードゲームのパック購入に近くのカードショップへと訪れていた。目的のものはわりとすぐに購入出来たので、双葉はそそくさとカードショップを後にする。

カードゲームについては色んな人と対戦してみたいと思ってはいるが、双葉はカードショップ特有の入りずらい身内の雰囲気が苦手だった。また、あまりいい噂を聞かないため、プロデューサーである『ばあちゃる』にも長居しないように言われている。自分の身が一番というのは双葉も同意だったので、購入の際はすぐに立ち去るように心がけていた。

 

「…ん?」

 

カードショップを出てすぐのモール街。そこに見慣れた影を双葉は見つけた。男性にしても高い身長。それに見合うガタイのいい体格。そして尊敬する先輩と同じ髪の色。それはばあちゃるの影であった。ドクンと高鳴る胸に笑みを浮かべ、双葉は駆け足でその影を追った。

 

「…む」

 

近づくと、ばあちゃるの隣にはもう一つの影。その影の正体は、最近よく学園に現れるばあちゃるの旧知の友である『エイレーン』だ。その寄り添う二つの影に双葉は顔を顰め、反射的に身を潜めた。

 

「ん?どうしたっすか?」

 

「いえ、誰かに見られていた気がしたのですが…気のせいだったみたいです」

 

振り向いてきたエイレーンに、冷や汗が背中を伝う。別にやましいことはないのに、いけない事をしているような、そんな罪悪感が胸に込み上げてくる。

 

「それにしても、貴方から誘ってくるなんて珍しいですね。一体どういう風の吹き回しなんです?奥手大魔王のばあちゃるさん?」

 

「ちょいちょーい!?ちょっとそれは酷すぎじゃないっすか?エイレーンじゃあるまいし!」

 

「そうやってさらっと私を貶めるのやめてくれます?せっかくアイドル部の子たちと仲良くなっていっているのに、貴方のせいで扱いが雑なんですよ?」

 

「ならピーピーに変なこと吹きこむのやめてほしいっすね。この前ちえりんが、ピーピーにキスされたー!って駆け込まれた時は流石のばあちゃるも度肝を抜いたっすよ!?」

 

二人が話している内容は、双葉も知っている。何せ先日、学園内で話題となった内容だ。

当日は配信があるため、部活動も早め気に切り上げて帰宅したため、その事に知ることになったのは翌日だ。その日の学園は変な雰囲気になっていたのは記憶に新しい。事の発端であるピノを、たいそう可愛がっていたなとりとすずが、すごい剣幕で黒幕であるエイレーンを追い掛け回すことになったほどだ。ばあちゃる学園に通っていて、それを知らない者はいないだろう。

そんな何気ない会話をしながら、二人はチェーン展開をしているコーヒーショップへと入店していく。双葉も二人に気付かれないように、身を潜めながら二人が座るテーブル席の近く席へと座る。ここならば、耳を傾ければ二人の会話は聞き取れる距離だ。ついでに買った微糖の珈琲に口を付けながら、二人の会話に集中する。

 

「…それで?結局用件は何ですか?」

 

「…あー。なんという、か。その…」

 

「随分と言い淀みますね。あ、もしかして、誰かに手を出しました?」

 

「ブッ!?そんなわけないじゃないですか!?流石にまだ早いっすよ!?」

 

「ほほう。『まだ』と来ましたか。これはこれは。あの子たちにいい情報を持って行けそうですね」

 

「…頼むっすから、あの子たちには黙っててくれると助かるっすけど」

 

「善処します」

 

人がまだらとした店内で話すには少し過激な内容だ。しかし、その内容に双葉は頬を朱に染める。誰かに手を出した、とエイレーンが指摘した時は少し焦ったが、その後のばあちゃるの言葉にどうしようもないほどの幸福感が溢れた。勝手に上がる口角を止める術がない。早く卒業したいな、と少し自分勝手な乙女のワガママが胸で大きくなった。

 

「話を戻っすけど、今回のことはゼッッッタイにあの子たちには言わないでくださいっすよ?」

 

「そこまでしつこく言わなくてもわかってますよ。私が信用できないとでも?」

 

「信用できないから言ってるっすよね、完全に。…それで、問題はこれなんすよ」

 

ばあちゃるが懐から出したのはピンク色の可愛らしい封筒だ。直視しないように、横目で見ていた双葉からでもそれは確認できた。

受け取ったエイレーンはばあちゃるに確認を取り、開封して中身を取り出す。怪訝そうな表情で読み進めていき、最後にはあからさまに顔を歪めながらばあちゃるへと視線を向けた。

 

「…『ばあちゃる様へ…貴方に出会ってから二年という月日が経ちます。私は、その二年という時間の間に貴方に恋をしました。これは成立してはいけない恋だとしても、私は貴方にこの思いを伝えたい。よければ月曜日の放課後に、体育館裏に来てはいただけないでしょうか。ばあちゃる学園三年生女子より…』…誰がどう見てもラブレターですね、これ」

 

「…ちなみに、おふざけじゃ…」

 

「残念ながらそれはないですね。わざわざ直筆で丁寧に書かれていますし、なにより緊張からか時々力が入りすぎて文字が潰れている部分があります。…断言します。これは、本物ですよ」

 

「ま、マジンガー…」

 

何とも言えない表情のエイレーンに頭を抱えるばあちゃる。その衝撃的な内容にただただ黙ることしかできない。そして、それに聞き耳を立てていた双葉も同様だった。

 

(いつか来ると思ってたけど…まさかこのタイミングだなんて)

 

普段はふざけた雰囲気しか出さないばあちゃるだが、ここ一番ではとても頼りになる存在だ。それはアイドル部の一員として、彼と共に歩んできた双葉だからこそよく知っている。そしてそれは、ばあちゃる学園へ通う者であれば例外ではない。

新入生の大半は、最初の印象でばあちゃるにいいイメージを持つ者は少ない。しかし学年が進むにつれて、彼の存在がどれだけ偉大か理解していく。現に、双葉が所属する茶道部の一つ上の先輩たちは、全員がばあちゃるに対して恩を感じている。というより、高等部三年生でばあちゃるに恩を感じていない者はいないと言われるほどだ。

だからこそ、いずれは彼に上記のような恋文が来るであろうことは容易に想像がついていた。しかし想像していたとしても、実際贈られたことを知るというのは衝撃的だ。焦る双葉はその感情に頷く。

 

「…それで、どうするんですか?まさか受け入れるとか言わないですよね」

 

「受けるつもりはないっすよ流石に。けど、勇気をもって告白してくれるっすから、せめて会ってあげようと思ってはいます」

 

「…マジですか。答えるつもりがないのに会うんですか?」

 

ばあちゃるのその答えにエイレーンは絶句する。覚悟を決めた表情をするばあちゃると、絶句するエイレーン。それはどこか映画のワンシーンのような光景だった。

 

「たとえそれがこの子を傷つけるものだとしても、ばあちゃる君に出来ることは最低限してあげたいっすよ。それが、『惚れられた者の責任』だと思いますからね」

 

「…あなたがそう決めたのなら、とやかく言う権利はないですけど。本当に大丈夫なんですか?」

 

「勿論っすよ。多少の炎上は慣れたものっすからね」

 

(違うようまぴー。エイレーンさんが心配してるのは違うことだよ)

 

険しい表情のままのエイレーンに楽観的なばあちゃる。そしてエイレーンと同じように双葉も険しい表情を浮かべていた。

双葉が心配しているのは、その女性と二人っきりになるということだ。確かにばあちゃるであれば、大抵のことは難なく解決することが出来るだろう。今回の件も、本人の言う様に多少の尾ひれは引くが、問題なく解決することが出来るかもしれない。しかし、ばあちゃるには弱点がある。それは押しに弱いということだ。これが身内だとなおさら弱い。先日のピノからの『ご褒美』も、結局ばあちゃるが折れた結果になったことは聞いていた。もし、学園の生徒も身内として扱われるとしたら話が変わる。

 

(内容やエイレーンさんの表情から本命も本命、ド本命だよね、あれ。もし諦めきれなくて詰め寄ったりしたら…)

 

その先を想像して、双葉は背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。これは早急に対応すべき案件だ。双葉は、ばあちゃるとエイレーンに気付かれないように、会計を済ませて店を後にした。向かう先はここから近い友人の家。

目的地を見え据えて、双葉は走り出した。

 

「…後のことは任せするしかありませんね」

 

「ん?何か言ったっすか?」

 

「いいえ。今の私じゃやれることはないなと、頭を抱えているところですよ」

 

首を傾げるばあちゃるに呆れ顔を浮かべることしかできない。エイレーンは窓から見えた双葉に後のことを託した。

 

 

 

 

前へ

 

 

「というわけで、助けてぽんぽこちゃん」

 

「いや、急に押し掛けてきて何言ってるの?」

 

「おーけー!任せて!」

 

「受けるのかよ!?」

 

訪れたのは、モール街から少し離れたところに建つ日本屋敷。双葉の友人『ぽんぽこ』とその兄、ぽんぽこ兄が変身した姿の『ピーナッツ君』の自宅だ。チャイムを鳴らし、出迎えてくれた二人に、双葉は内容も話さずに頭を下げる。困惑するピーナッツ君を横に、ぽんぽこは二つの返事だ。

 

「だって双葉ちゃんが頼ってくれたんだよ?受けないわけないじゃん」

 

「せめて内容を聞いてからにしろよ!?」

 

「あ、これおみやげ。来る途中で買ってきたケーキだよー」

 

「おー。双葉ちゃんが選んだケーキならハズレはないね!ありがとう!」

 

「気にしなくていいよ。ワイロのつもりだったし」

 

「こいつもこいつで隠す気がねぇ!?」

 

全力でツッコミを入れるピーナッツ君を余所に、二人はにこやかに会話を続ける。

そんな騒がしい雰囲気もひと段落し、双葉は二人に招き入れてもらい家に入っていく。通されたのは、縁側にそのまま出ることが出来る解放的な居間。部屋の中心には低いテーブルが設置してあり、生活感が溢れている。涼しい風が吹いて双葉の髪を靡く。それが気持ちよくて、つい目を瞑ってしまう。すると今より奥の台所から声が聞こえてきた。

 

「お待たせ!お茶が入ったよー」

 

「あ。ありがとう、ぽんぽこちゃん」

 

「もっと敬え」

 

「ピーナッツ君は何もしてないでしょ!」

 

兄妹漫才をしながら、ぽんぽこはトレイに乗せたお茶とケーキを配る。双葉はスタンダードにイチゴのショートケーキ。ぽんぽこは果実がふんだんに盛られたフルーツケーキで、ピーナッツ君はチョコレートケーキ。小さく『いただきます』とケーキを一口。ふんわりと柔らかいスポンジと甘さが溢れるクリーム。さらにイチゴの酸味が合わさって非常に美味しい。さすが自分が厳選したケーキだ。双葉は内心で自画自賛した。

 

「ん~!!おいしい!これすっごくおいしいよ!」

 

「おぉう。流石は食いしん坊キャラなだけある。…うん、普通に美味しいぞ」

 

「厳選した価値はあった」

 

二人からの賞賛に双葉は得意げに胸を張る。ピーナッツ君はそれに呆れ顔を浮かべたが、ぽんぽこは好みの味でもあったのか、夢中でケーキを口に運ぶ。時間もおやつ時に重なったため、双葉が持ってきたケーキはペロリとそれぞれの胃の中に消えていった。

 

「ごちそうさま」

 

「ご馳走様!双葉ちゃん、ありがとうね」

 

「ごちそうさま!ねぇねぇ、双葉ちゃん、このケーキってどこで売ってたの?ぽんぽこまた食べたくなっちゃった!」

 

「太るぞ?」

 

「ピーナッツ君うるさい」

 

「このケーキね。駅からちょっと歩いたところにある…」

 

よほど好みの味だったのだろう。ぽんぽこはその高いテンションのまま双葉に詰め寄った。デリカシーのない発言をするピーナッツ君に苦言を入れるが、その一連の流れがまさに『兄妹』だと感じれて双葉は好きだ。そこからは朗らかに談笑が盛り上がる。

 

「…そういえば、結局双葉ちゃんの用って何なの?」

 

「あ、そういえば用があって来たんだった!」

 

「おい!それは忘れちゃダメだろ!?」

 

食後のお茶を飲みながら、のんびりと談笑している最中に、思い出したようにぽんぽこが問う。驚いた様子の双葉にピーナッツ君は呆れながらツッコミを入れるが、真剣な表情を浮かべる双葉に二人は顔を見合わせて、姿勢を整えた。

 

「相談なんだけど、今度うまぴーに告白する人がいることが分かったの」

 

「ばあちゃるさんに?」

 

「どこにでもモノ好きはいるもんだな」

 

「双葉はそれを阻止したいんだけど、どうしたらいいかな?」

 

「そんなの、ばあちゃるさんに任せとけばいいんだよ。確かにあの人はちゃらんぽらんなとこもあるけど、そういうところはしっかりしてるよ」

 

簡易的に伝えられた情報に、ピーナッツ君は呆れた表情で言い放つ。その言葉の節々に、ばあちゃるへの信頼が読み取れる。それがまるで自分の様に感じて双葉は笑みを浮かべそうになるが、そこは抑えて答えた。

 

「うまぴーなら普通に断ると思う。けど、問題があって…」

 

「問題?」

 

「その人…ガチっぽいの」

 

「うわー。それはマズいね。ばあちゃるさんのガチでしょ?それ絶対に一波乱あるよ」

 

「なんでだよ。その人がガチだからって、あのばあちゃるさんが率先して問題起こすわけないだろ」

 

「違うよピーナッツ君。ばあちゃるさんは問題ないんだけど、その人の方が問題なんだよ」

 

「へ?どういうこと?」

 

ばあちゃるが軽視されたと思ってか少し苛立ちを露わにしたピーナッツ君だが、ぽんぽこの指摘に今度は首を傾げる。視線を双葉に移しても、同意するように頷く様により疑問が深くなるだけであった。

 

「ほら、ばあちゃるさんって押しに弱いじゃん?その人が、もしヤケになって『せめて』とか言って迫ってきたら断れるかな?」

 

「断れるだろ。確かにあの人は身内やVTuber業界の関係者に対しては甘々だけど、そこまでバカじゃないぞ」

 

「わかんないよー?恋は盲目って言うし、何を盾にされるか想像つかないじゃん」

 

「あ、そういえば言ってなかった。その人ね。ばあちゃる学園の生徒なの。しかも、三年生」

 

「…ちょっと待って。それはマズい。確かにマズい」

 

後出しされたその情報に、ピーナッツ君は顔を青くする。横に座るぽんぽこも同様の表情を浮かべていた。身内でなければ問題はなかったが、ばあちゃる学園の生徒となればそれは身内ではないとは言えない。少なくとも、ばあちゃるが情を持つ対象であるはずだ。

 

「卒業まで残り僅かで、思春期真只中である学生時代の一世一代の告白。先生と生徒の禁断の愛…断られても絶対諦めないやつだよ、これ!?」

 

「しかもよりによって生徒さん!?一度は断るだろうけど、退学するとか言って自身を盾に迫られたら…ああもう!身内に優しすぎるせいで絶対にないって言えないだよ、あの馬ァ!」

 

生徒という情報を加味して、ばあちゃるが断れるかどうかシミュレーションしてみるが、どうにも絶対断るという結論が出てこない。ばあちゃるの底のない優しさが、悪い方への結論で出して頭を抱える状況だ。そんな二人に申しわないと思いながらも、双葉は頭を下げる。

 

「だからどうしたらいいかわかんなくて…一緒に考えて欲しいの」

 

「勿論!双葉ちゃんのお願いだもん!ぽんぽこ、いくらでも考えるよ!」

 

「ケーキ食べちゃったし、なによりあの馬には色々とお世話になってるからな。しょうがない。手伝ってやるよ!」

 

「二人とも…ありがとう!!」

 

心強い二人の言葉に目頭が熱くなる。しかし、何も解決していないのに泣くわけにはいかない。涙を無理やり引っ込ませ、やる気に満ちた表情で二人に視線を向ける。

 

「それで、どんな案があるかな。双葉はうまぴーを告白場所に行かせないってのを考えてるんだけど…」

 

「それは無理じゃないかな。話の流れからもう呼び出しは食らってるんだよね?だとしたら、あのばあちゃるさんが向かわないわけがないと思う」

 

「そーいえばあの馬、遅刻とかめったにしないからなぁ。…じゃあその生徒さんに諦めてもらう様に言うのはどう?」

 

「それも無理かな。そもそもラブレターには名前が書いてなかったの」

 

「ラブレター!?すっごいありきたりだね!?」

 

「このご時世にラブレターなんて、すっごい古風だなその人」

 

「じゃあどうしようか…」

 

ああでもない、こうでもないと色々と案を出すが、これといった最適解が出ずに三人はより頭を悩ませる。気が付けば外は夕暮れ特有の茜色の日差しが居間に指す。夕飯は家に用意されていると朝の出かける前に親から伝えられていた。それにこのまま長居するのは流石に申し訳がない。流石に帰宅しようと思ったとき、ぽんぽこがある案を提案した。

 

「あ!こういうのはどう?」

 

ぽんぽこに伝えられた作戦に、ピーナッツ君は険しい顔を浮かべる。どうやら成功率は低いとおもっているのか、それとも危険性を感じているかは分からない。しかし、双葉はその作戦は名案だと直感が告げていた。

 

「えぇ…それは無理なんじゃない?」

 

「じゃあピーナッツ君は代案あるの?」

 

「うーん。すぐには思いつかないけど、それはマズいと思う」

 

「…いい。それ、すっごくいいよ、ぽんぽこちゃん!」

 

「ホント!?」

 

「マジか双葉ちゃん」

 

目を煌めかせ、ぽんぽこに感謝を述べる双葉。その双葉の様子にピーナッツ君は一抹の不安を覚える。ぽんぽこが挙げた作戦は確かに悪くはない。しかし、それは多少の危険が伴うものだ。

 

「大丈夫だよピーナッツ君。もしもの状況になったらうまぴーに助けてもらうよ」

 

「まあ双葉ちゃんが危険になったらばあちゃるさんも流石に動くか…けど、ちょっと心配だなぁ」

 

「もう時間もないし、双葉がやれるとしたらその作戦がベストだと思う。ぽんぽこちゃんの案でいくよ!」

 

「けどパッと浮かんだ作戦だから穴があると思うよ?大丈夫?」

 

提案したぽんぽこもピーナッツ君の表情から多少の不安を覚えたのか心配そうな表情を浮かべる。その表情を晴らすために、双葉は自信満々に頷いた。

 

「それは大丈夫。あとはアイドル部の友達に協力してもらうよ」

 

「それならいいけど、無茶はするなよ」

 

「もし危ないことになったらいつでも言って!ぽんぽこたち、何時でも駆けつけるよ!」

 

「うん!ありがとう!」

 

日もほとんど落ちていて、夜道と言ってもいいほどに暗くなっていた。親からも安否の確認の連絡も来ている。玄関まで見送ってくれた二人に手を振りながら、双葉は急ぎ足で帰路へ着いた。

 

「提案したのはぽんぽこだけど、ちょっと心配になっちゃった」

 

「まあ大丈夫だろう。他のアイドル部の子たちだって一癖二癖もあるやつばっかだし、なによりあのばあちゃるさんがいるんだ。杞憂に終わるに決まってる」

 

「それもそうだね。あとはばあちゃるさんに任せちゃおっか」

 

後のことは当の本人に放り投げる。それは他人事だからというわけではなく、ばあちゃるであれば何とかしてくれるであろうという信頼からの結果だ。

フアンが完全に消えたわけではないが、安心したように兄妹二人は仲良く自宅へと帰っていった。

 

 

 

 

前へ

 

 

祝日明けの月曜日。週初めの気怠い体に鞭を打ち、なんとか乗り越えた夕暮れ時。ばあちゃる学園の下校時間、つまりは放課後だ。ばあちゃるは件の恋文を片手に体育館裏に訪れようとしていた。

 

「…まさか、この年になってこんなもの貰うとは思ってもみなかったっすね」

 

感傷深かそうに、恋文に視線を落としながら呟く。

知識はあるが、学園というものに通ったことがなかったばあちゃるにとって、ここ『ばあちゃる学園』は理想の楽園でもある。夢を追いかける姿、現実を見据え堅実に生きる姿、未来より今は全力で駆ける姿。そんな、色んな青春の姿が見えるここが、ばあちゃるはどうしようもなく愛おしい。ひたむきな生徒たちの力になれればと、学園運営に精を出すことを苦労とは思ったことはない。それほどにここは素敵な場所だと、ばあちゃるは思っている。

 

「あくまで脇役だと思ってたっすけど、人生何かあるかわかったもんじゃないっすね」

 

困惑した表情を浮かべ、苦笑が零れる。

学長である自分は、生徒から見ればありきたりな脇役だ。脇役の美学など説くつもりはないが、主役を輝かせればそれでいいと思っていた。だからこそ今回の件については本気で困惑した。女子高である以上、数少ない異性である自分にそういう感情が向けられることは絶対にないとは思ってはいなかったが、いざ渡されると焦るものだ。

 

「断ることは変わりないっすけど…」

 

断るのは当然のことだ。しかし、きっと昔の自分であれば、自分を卑下にした発言をしたはずだ。『こんな自分は君には相応しくない』『こんなおっさんにいいところなどない』…そんな言葉を吐いていたと容易に想像できる。そんなんだからシロや友人一同に『自己評価を高く持て!』と言われるわけだが…

 

「うん。勇気をもって好意を伝えようとしてくれているわけですし、しっかりと向き合ってあげましょうか」

 

思い浮かぶのはアイドル部の姿。彼女たちの隣に立つのに相応しい男でありたいと、あの日から胸に刻んでいる。だからこそこの少女には真正面に向き合って、自身を卑下にせず、しっかり断ろう。顔を上げ、前をしっかり見て、ばあちゃるは一歩足を踏み出した。

 

「…って、ふたふたじゃないっすか!?」

 

「あ、うまぴー。やっほー」

 

そこにいた人物はばあちゃるにとって予想外の人物だった。アイドル部の一人、北上双葉。自分がプロデュースするVTuberの一人だ。困惑しながらも、頭の回転が速いばあちゃるは『手紙の差出主が、双葉なのでは』と推測するが、肝心の差出人は3年生と記載があった。双葉は現在2年生なのでそれには当てはまらない。では何故と困惑するばあちゃるに、双葉はいつもの様に安心しきった表情を浮かべ、ばあちゃるに近づいた。

 

「うまぴーもどうしてこんなことにいるの?」

 

「はいはいはい。ばあちゃる君ですね、ちょっっと大事な用があってですね」

 

上目遣いでから可愛らしく笑みを浮かべる双葉。さらにはそのまま距離を詰め抱き着いてきた。それに、ばあちゃるはどこか違和感を覚える。確かに、彼女たちとの関係が進展してからは、距離が近くはなった。だが、普通に話すにしてはこれは近すぎではないか?と。それに双葉は確かに甘えたがりであるが、こうまであからさまだっただろうか?まるでこれは『見せつけている』みたいではないかと思った。

 

「えっと、ふたふたー?ここは一応学園なんでね、ちょっとこれはやばーしで…」

 

「んー?」

 

ふやけた様な、甘え切った声を上げながら胸に頭をグリグリとこすり付ける。まるで猫などの動物が匂いを付けてマーキングするかのように行為。それにばあちゃるの困惑は深まるばかりだ。

 

「ど、どうしたっすかふたふた?こんなに甘えてくるなんて珍しいっすね?」

 

「んー…」

 

何か強請るかのように、身体もこすり付けてくる。ついに観念したばあちゃるは、自分の方からも双葉を抱き寄せた。放課後とはいえ、まだ学園には部活動に励む生徒がいる。いつ見つかるか分からない体育館裏という隠れた場所で生徒と先生である二人が抱き締め合う。背徳感が胸に溢れる。焦る気持ちと何故か昂る身体に困惑していると、小さな声で『もういいかな』という呟きが聞こえてくる。その発信源はばあちゃるの腕の中にいる双葉からだ。

 

「…ねぇうまぴー。双葉たちだって独占欲はあるんだよ?」

 

胸に顔を押し付けながら双葉は零す。その言葉で、双葉の意図が読み取れた。どう知ったかは謎だが、双葉はばあちゃるが告白されるということをリークし、それを阻止するためにこのような行動に出た。『見せつけている』みたいは間違いではなく、きっとどこかでこの光景を恋文の差出人が見てるのだろう。

双葉の想いに嬉しいと思うところもあるが、流石に今回はやりすぎだ。諭すように、双葉の頭を撫でる。

 

「ふたふたの気持ちはすっごい嬉しいっすよ。けど、勇気を振り絞った行動を邪魔しちゃうのはちょっとダメっすね」

 

「うん。それはわかってるよ。けどね、うまぴー。ふーさんは不安なの」

 

「ふたふた…」

 

縋るように、強くスーツを握られる。その強さに、背広越しのシャツは皴だらけだろうなんて、どうでもいいことが頭によぎる。

 

「うまぴーが双葉たちを見放すなんてあり得ないと思う。けどうまぴーは優しいから。知らないところでまた女の子と仲良くなってると思うと、胸が苦しくなるの」

 

「うッ…」

 

双葉の嫉妬心に思うところがあるのか、ばあちゃるは目を逸らす。思い返してみれば、この業界に参入してから随分と異性の知り合いが増えたものだ。まあ、この業界のトップ層が女性で占められているからというのも理由にあるだろう。だとしても、やけに親しい異性の友人が多いばあちゃるは、双葉のその指摘に冷や汗を流すことしかできない。

 

「アイドル部のみんなや、同じVTuberさんの先輩たちならまだ…なんとか納得できるよ。けど、それ以上はちょっと、ふーさんは許せません」

 

抱き着いた状態で見上げてくる表情に確かな怒りが見える。その怒りは、ばあちゃるに向けるものではないとわかってはいるが感情が理解してくれない。なら、甘えながら向ければいいと開き直ることにした。

 

だって、双葉が大好きなうまぴーなら、絶対受け止めてくれるってわかっているから。

 

「…まったく、ふたふたはワガママっすね」

 

「ふふん。ふーさんはワガママじゃないよ。彼女だから当然のことなの」

 

ドヤ顔で宣言し、再び顔を胸に押し付けてくる。その独占欲すら愛しいと感じてしまう自分も大分重傷だな、と考えながら双葉の頭を撫で、少し強めに抱き寄せた。その行為は先程の双葉と同じように、どこか見せつけるような行為にも見える。まるで『そういうことだから諦めてくれ』と暗に示しているかのような、そんな抱負だ。それに双葉の笑みは深くなる。

先程から向けられていた視線は、既に感じなくなった。

 

 

 

 

前へ

 

 

~おまけ~

 

「…北上さん。先日伺った件の先輩についてなのですが…新情報が有ります」

 

「あずきちゃん、ほんとう?あのあとどうなったの?」

 

「まず、あのあとばあちゃるさんがその先輩を見つけ出して、正式に頭を下げました」

 

「うまぴーらしいというか…うん。ふーさんが悪かったからあとで謝りにいかないと」

 

「そうしたほうがいいと思います。…実はその先輩のさらにその後なんですが…」

 

「え?もしかしてまだ諦めてないの?」

 

「なんと言ったらいいのか…これを見てもらえばわかる。と思います」

 

「へ?…スレッド?」

 

「学園の裏サイトです。それで…これです」

 

 

 

【CP厨以外】学園長に一番似合うのは?【お断り】

 

1:CP厨馬組がお届けします

シロちゃんに決まってるだろJK

 

2:CP厨馬組がお届けします

ここは学園長の望み通り月ちゃんで

 

3:CP厨馬組がお届けします

見向きもされてないんだよなぁ

 

4:CP厨馬組がお届けします

俺のちゃる様やぞ

 

5:CP厨馬組がお届けします

いや、何言ってるんだ

俺のちゃる兄だ

 

6:CP厨馬組がお届けします

俺ちゃる民だ!丁重にもてなせ!

 

7:CP厨馬組がお届けします

最近出てくるの早いな

 

 

「…なにこれ」

 

「ばあちゃるさんのファンの闇、通称俺ちゃる民です」

 

「えぇ…アンチじゃなくてファンってことなんだよね?流石に拗らせすぎなんじゃ…」

 

「あの先輩は5番の書き込みの方です。あの後気が狂ったのか、俺ちゃる民となりました。はぁい」

 

「…なんか、すっごく申し訳なくなったんだけど」

 

「あ、ちなみにこの4番の書き込みは会長です」

 

「たまちゃん!?!?!?何やってるの!?」

 

「へ?何の話?」

 

 

 

 

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