馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の生徒会長
色々と濃い人物がいるアイドル部の少女の一人がその役職についている
彼女には苦手な分野があるようで…?

(番外編)


彼と私とハンバーグ(夜桜たま)

週の真ん中の水曜日。ばあちゃる学園は、本日の最後の授業を終えて放課後になったばかりだ。廊下から生徒たちのはしゃぐ声が聞こえる。それに学長室で執務を行っていた『ばあちゃる』は笑みを浮かべた。

 

「はいはいはい。もうそんな時間ですか」

 

壁に掛けらた時計を見て少し驚いた声を零す。仕事の方に精が出て、気付くと今日の分の作業はほぼ終わってしまった。残りの量を見て、何時も手を貸してくれている生徒会の三人には今日の手伝いは断ろう。そう思ったとき、ばあちゃるの携帯端末にメッセージが届いた通知が鳴り響く。

 

「ん?これは珍しいっすね」

 

送り主はエイレーン一家の一人『ヨメミ』だ。元より仕事仲間の一人で、他人と呼ぶには少し近い関係だが、連絡し合う仲と言われれば少し違う。言うなれば、『仕事仲間以上友達未満』の関係だ。エイレーンとは親密であるが、彼女との仲はそれほどである。そんな彼女からの個別メッセージ。首を傾げながら、ばあちゃるはその内容を確認する。

 

『ごめん、ばあちゃるさん!止めれなかった(´;ω;`)』

 

「はい?」

 

その脈拍のない一文により疑問が深まる。どういうことか聞き返そうとしたその時、廊下から、こちらへ走ってくる足音が聞こえてきた。その音から全力で有ることがわかる。そしてその勢いのまま、学長室の扉が開かれた。

 

「馬Pー!!」

 

「ちょいちょーい!?廊下は走っちゃダメっすよ!たまたま!!」

 

勢いよく開かれた扉から侵入してきたのは見慣れた存在。アイドル部の一人で、麻雀部の部長でもある『夜桜たま』その人だ。よほど全力で走ったのだろう。肩で呼吸をし、その額には汗が滲んでいる。それでも、興奮冷めやらぬまま、しっかり扉を閉めてばあちゃるに向き合う。

 

「馬P!料理教えて!」

 

「…はい?」

 

脈拍もなく放たれた言葉に、ばあちゃるは呆気を取られる。そしてその言葉をゆっくりと理解していき、冷や汗を噴き出る。夜桜たまが…料理…?

 

「は、はいはいはい!たまたま?別に無理して料理を習う必要なんてないっすよ?誰だって得意不得意があるっすからね!」

 

「大丈夫だよ馬P!だってハイポーションを作れるヨメミちゃんだってできるんだよ?私だってやればできるよ!」

 

(そういうことかー!?)

 

散々周りから『料理をするな』と言われ、封印していたそれを何故急に思い直したのか疑問であったが、理由がはっきりした。

ま た エ イ レ ー ン 一 家 か!!

 

「さっきSHRの途中でヨメミちゃんとラインし合ってたんだけどね?」

 

「いやいや、SHRでも先生の話はしっかり聞きましょうね?たまたまは一応、生徒会長なんすから」

 

「えー…だってあの先生の話長いんだもん」

 

「いや、分からなくもないっすけど。それでたまたまの評判が下がっちゃったら、あまりにもつまらないじゃないっすか。やるところはしっかりする。そこはしっかりしましょう?」

 

「はぁい」

 

唇を尖らせながら不貞腐れるたま。そんなたまにばあちゃるは苦笑いを零した。

たまのこんな態度を見せるのは、実は家族とばあちゃるのみだ。生徒会会長の実績は嘘偽りなく、たまは優秀であり、学園内でも一目置かれている人物でもある。そんなたまが、自分の欠点や失敗もなんてことも無く言えて、そしてそれを叱ってもらうことはたまなりの甘え方でありワガママだ。それを知っているからこそ、今のたまの姿はばあちゃるにとって可愛らしいものでしかなかった。

 

「はいはい。それはひとまず置いておいて、ヨメヨメとラインし合っててどうなったっすか?」

 

「むー…それが、料理の話になってね。私がヨメミちゃんに『料理できるの?』って聞いたら『できる』って返ってきて」

 

「ふむふむ」

 

「それで私が『ハイポーション作るのに?』って言うと『いやいや!?あれは企画だからね!?』って返ってきたから『ハイポーションを作れても料理は出来るのか…!?』から『なら私もワンチャンあるのでは?』ってなったの」

 

「いやそれはおかしい」

 

「あー!馬Pもヨメミちゃんと同じこと言うー!?」

 

猫が威嚇するかのように怒りを表す。とはいえ、たまがその結論に至った要因がどうにも理解が出来ない。首を傾げるばあちゃるに、たまは嫉妬を隠さず唇を尖らせながら吐き出した。

 

「だってめめめちゃんが朝に馬Pと一緒に料理したことの自慢ばっかしてくるんだもん。ズルいと思っても仕方ないでしょ!」

 

「…なるほど。そういうことだったっすね」

 

どうにも理解が出来なかった言葉の連結も、その根源にあるのがめめめへの嫉妬であれば納得できる。つまりたまは『料理がしたい』のではなく『ばあちゃると共に料理がしたい』のだ。流石に羞恥心を感じてか、頬を赤く染めて視線を逸らすたまが、どうしようもなく愛おしい。席を立ち、不貞腐れるたまに近づいてそっと抱き締める。

 

「わぷっ」

 

「しょーがないっすね。そこまで言うならばあちゃる君が、しっかりお手伝いするっすよ!」

 

「…いいの?」

 

「もちのロンっすよ。ただし!調理方法はしっかり守ってくださいね?」

 

身長差から胸に顔を埋める形になる。それを堪能するように、顔を押し付けながら頷く。そんな欲望に素直なたまに、ばあちゃるは笑みを浮かべる、それは苦笑なのか、それとも愛しさからくる微笑みなのか。それは笑みを浮かべているばあちゃるにしか知らないことであった。

 

 

 

 

「さて!やっていきましょうか!」

 

「おー!」

 

ばあちゃる宅の少し広めのしっかりしたキッチンにて、背広とネクタイを外した楽な状態からエプロンを羽織ったばあちゃると、制服の上からエプロンを羽織るたまが元気よく腕を上げる。

あのあと近場のスーパーに赴き、食材を購入し来た。合いびき肉に玉ねぎ、あと丁度不足していた塩こしょうに牛乳がテーブルの上に広げられている。初心者でも失敗しにくい、ハンバーグの食材だ。

 

「はいはいはい。それじゃあね、ばあちゃる君は基本指示しかしないのでね、たまたまには調理をやってもらおうと思うっすね、完全に」

 

「りょーかい!…えっと、最初は食材を洗えばいいんだよね?」

 

「そうっすね。とりあえず玉ねぎから…ちょいちょーい!?たまたま!?なんでお肉を洗おうとしてるっすか!?」

 

「え!?お肉って洗わなくていいの!?」

 

「何当たり前のこと言ってるっすか!?水分吸って固くなっちゃうっすよ!」

 

「えぇ…だってほら、なんか汚くない?洗った方がいいよ」

 

「いやいや!?汚かったら売れないでしょ!?流石にお店の人に失礼っすよ!?」

 

「それもそっか」

 

「…たまちゃん。さすがにそれはやばーしっすよ…」

 

衝撃的なスタートに、既に体力の五割を持っていかれる。開幕でこれなのだ。これから先に頭を抱えることしかできない。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さ、次はお肉と混ぜるために玉ねぎをみじん切りにするっすよ。切り方は分かるっすよね?」

 

「…ねえ馬P?別にみじん切りにしなくてもよくない?」

 

「あの、たまたま…なにを…何を言ってるんすか??」

 

「ほら、どうせお肉に混ぜちゃうくらい小さくするなら切らなくてもいいじゃん。それこそ小さくすればいいんだから叩き潰すとか」

 

「ちょっ!?その棍棒どっから取り出しッ!?ストップ!ストップっすよたまたま!?料理はそんな胃に入れば何でもいいわけじゃないっすからね!?」

 

 

――――――――――――――――――――

 

「あはは!馬P、これ楽しい!」

 

「はいはいはい。こねるのを楽しんでくれるのはいいっすけど、大きさとかしっかり調整してくださいっすね。これが今日の晩御飯なんっすから」

 

「あ、そうだった。…ねぇ馬P?」

 

「…なんか嫌な予感がするっすけど、なんすか?」

 

「隠し味を入れるなら今じゃない?」

 

「初心者がありがちなやつっすねそれ!?入れちゃダメっすよ!?最初は、何事もマニュアル通りにやるのがセオリーってやつっすからね」

 

「えー。せっかく馬Pの好物の馬刺し買ってきたのに?」

 

「あれは晩酌用で…ってこら!さらっと冷蔵庫から取り出そうとしない!」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「そうそう。熱したフライパンにお肉を入れて…そうっすそうっす。後は焼けるのをじっくり待つっすよ」

 

「…ねぇ馬P」

 

「…もう予想がつくっすけど、なんすか?」

 

「火力弱くない?焼くんだから強火で焼いた方がいいと思うんだけど」

 

「言うと思った!…火加減はこれでいいんすよ。じっくり焼かないと中が生焼けになっちゃうっすからね」

 

「そうなんだ…じゃあ待ち時間何すればいいの?麻雀?」

 

「火元を見るっすよ!?火を使ってるっすから目を逸らすなんて言語道断っすね、完全に」

 

「えー。だって10分くらいかかるんでしょ?東風戦くらいならできるよ?」

 

「火 元 を み て!!」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「できたー!」

 

「…おかしい。料理ってこんなに体力を使いましたっけ?」

 

お皿に盛りつけられたハンバーグに嬉々として歓声をあげた。そんなたまを横に、満身創痍で疲労し切ったばあちゃるが苦笑する。料理を開始して早一時間弱。こんな短時間にここまで体力を使ったのは、久しぶりだ。額の汗を拭いながら、そんなことを考える。

 

「最後の仕上げっすね。ほら、お皿をこっちに渡して」

 

「え、はい」

 

「どうもっす」

 

首を傾げながらも、素直にハンバーグが乗ったお皿をばあちゃるへ渡す。そして、たまがハンバーグを焼いてる最中に、片手間に支度した千切りキャベツをを盛り合わせる。そしてお皿を横に置き、改めてフライパンに火を通した。手をかざして、フライパンが熱したのを確認する。

 

「ん、よし。…ほいほい、ほいっと」

 

酒、トマトケチャップ、ウスターソースを混ぜながら中火で熱していく。途中でバターも加え解けるように混ぜれば完成だ。簡単なものではあるが、完成したお手製のソースを先程のハンバーグにかけていく。二枚のお皿に少し歪であるが、大よそ同じ大きさのハンバーグに千切りのキャベツ。そしてハンバーグに掛けられたトマトソース。ここに、たまとばあちゃるの共同で作られた『ハンバーグセット』が完成した。

 

「え、馬P凄くない?すごい手際よくなかった?」

 

「お手軽ソースっすからね、慣れればこんなもんっすよ。はいはい。それじゃあね、たまたまはハンバーグをリビングまで持って行ってもらってもいいっすか?ばあちゃる君は、ご飯を持っていくっすからね」

 

「りょーかい」

 

豪華になって返された二つのお皿をもって、リビングへもっていく。大きなテーブルに隣り合わせにお皿を置く。すぐ後にばあちゃるも宣言通りにご飯が盛られたお茶碗をもってリビングにやってきた。

 

「あ、じゃあ私飲み物もってくるね」

 

「助かるっすよ。一緒に買ったお茶が冷蔵庫に入ってるっすよ。コップは…」

 

「シンクの上の棚だよね?さっき見たからわかってるよ」

 

「なら大丈夫っすね。それじゃあお願いします」

 

「わかったー」

 

軽い感じで返事をするが、その表情はどうしようもなく幸せに触れている。昔までのばあちゃるであれば、このような些細な雑用は絶対にさせてはくれなかった。しかし今では、こちらを見ずとも頼ってくれる。そこに見える信頼と親愛が、たまはどうしようもなく嬉しくて、幸せで仕方がなかった。

言われた通りに上の棚にあったコップ二つとお茶をもってリビングに戻る。するとそこでは、ばあちゃるからテーブルを挟んで鎮座するそれなりのサイズがあるテレビに電源が入っていた。そこに映し出されているのは同じアイドル部の『八重沢なとり』の配信が移されている。もしやと思い、時間を確認するとすでに20時を回っていることに驚く。

 

「あ、もうそんな時間なんだ」

 

「おかえりなさい。飲み物はこっちで預かるっすよ」

 

「大丈夫だよ。ついでだし注いちゃうね」

 

受け取ろうとするばあちゃるを拒否し、置いたコップにお茶を注ぐ。コップの八割くらいまで注ぎ、それをばあちゃるに渡した。そして自分の分を注ぎ、零れないように蓋をする。

テーブルに並べられた二人分の晩御飯。これから行われるのは夕食という日常の一コマ。しかし愛する人との共にする特別な一コマでもある。それを噛み締めたいと、たまは思う。視線をばあちゃるに向けると、どうやら同じタイミングで向いたらしく、視線が重なった。それが何故かおかしくて、二人でくすくすと笑いあう。そんな些細なことに胸が踊る。ああ、幸せだ。

 

「さて、それじゃあ冷めないうちに食べちゃいましょうか!」

 

「そうだね。それじゃあ…」

 

「「いただきます!!」」

 

表面が少し焦げており、中も玉ねぎがしっかり切られていないからか、食感もちょっと悪い。おいしくはあるが絶品とは言えない目の前のハンバーグ。その味をたまは、生涯忘れることはないだろう。そんな確信を持ちながら、たまはハンバーグの一切れを口に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、たまたまは今度から一人で台所立つのは禁止っすね」

 

「えぐー!?」

 

 

 

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