運動部は勿論、管弦楽部などの文化部も練習の為に午前中のみ、責任者となる教師がいる場合は解放されている
多忙である学園長は、よく日曜日にも事務処理のなどで通勤しているようだが…
「ん、んー」
日曜の午前11時頃。休日で閉まっているはずの学園の最上階の教室に一人の少女がいた。少女は片手に持ったヴァイオリン掴んだ状態で固まった体を伸ばす。ヴァイオリンを持つ手とは逆の手に所持する弓は指先に力が入らないため今にも落ちそうになっていた。
「11時、ですか。思ったより時間がたつのは早いですね」
伸ばした体を解しながら少女、神楽すずは自身が没頭していた時間に軽く驚愕した。
休日である日曜にすずが学園にいる理由は部活の休日練習というありきたりな理由だ。すずが所属する管弦楽部は祝日や休日などで学園が休みの際、午前中の監督係の教師がいる間のみ練習用にと学園を解放していた。防音設備があるとはいえ、やはり自室より空間が広い教室である練習がとても有意義であることを知っていたすずは本日の監督者であるばあちゃるに連絡をし開門と同時にヴァイオリンの練習に励んだ。練習開始は8時だったと思い出したすずは3時間物の間ずっと没頭していたことに驚く。
「いい時間ですし。最後に通してやって終わりにしましょう」
一呼吸置きヴァイオリンを構え、弓を弦に置く。目線を譜面とメトロノームを交互に見ながらリズムを取りながら演奏を開始する。奏でる音はリズムに乗り響き渡り、教室内はすずの音に染められた。時折、眉を顰めながらもすずは曲を弾き続け、そして楽譜の最後まで弾き終える。
「ふぅ」
緊張から出た汗をハンカチ拭い一息入れる。
一曲を完走した達成感は確かにあるがそれ以上にすずが自責の念を感じていた。所々に些細なミスなどがどうしても気になってしまい楽しさを見いだせなくなってしまっていたのだ。このままではいけないと思い、休日練習でも合わせの練習ではなく技術を上げるためのソロでの練習をしていたのだがどうも悪循環に嵌っていることにすずは気づけずにいた。頭を抱えていたすずにふと扉からパチパチパチと控えめな拍手の音が聞こえたため、すずは顔を上げ扉の方へ視線を向ける。
「いやー、すずすずの演奏はいいっスね!ばあちゃるくんは感動しちゃいましたよ!」
「ばあちゃるさん!?」
そこにいたのはガタイのいい背格好をスーツに包ませた冒涜的な馬のマスクをした男。そしてすずが所属するアイドル部のプロデューサーを務めるばあちゃるが立っていた。なぜここにと驚くが監督者がばあちゃるであることを思い出したすずは一人頷き納得する。
「あ、もしかして五月蠅かったですか?」
「いえいえ、そんなことないですよ!むしろ心地の良い音に釣られて顔を出しちゃった感じですね」
肩を解す様に回しながらばあちゃるはそう言う。登校時、学長室でデスクワークをしているのを見ていたすずは今の時間まで作業をしていたのだと想像がついた。
「いえ、そんないいものじゃなかったですよ」
「すずすずは謙虚っスね!ま、それも美徳ってやつです」
マスクのせいで表情は見えないが口調から朗らかに笑っているのが想像につく。ばあちゃるは声で感情が読み取りやすいとアイドル部内で有名であり、稀に『あの時は笑っていた』や『その時は悔しそうだった』など話のタネにも上がることを思い出し、すずはくすりと笑った。
「それですずすず、他の管弦楽部の皆さんは下校しちゃったッスけどまで練習します?」
「え、私以外帰ったですか!?」
「はいはいはい、そうっスね。もうね学園に残るのはすずすずとばあちゃる君だけッスね、もう完全に」
ばあちゃるの返答に驚愕の顔で固まる。しかし思い出してみると本日の部に投稿していた管弦楽部の仲間は調整などで長居はしないと分かれて練習を行う前に言われていた。練習に集中しすぎていたため完全にそのことが頭から抜け落ちていた事実にすずは顔を朱くした。そして登校時に学園長室に顔を出した際にばあちゃるは昼に用事があることを思い出し今度は顔を青に染めた。
「ご、ごめんなさいばあちゃるさん!すぐに下校しますね!」
「あ、まだ大丈夫ッスよ!ばあちゃる君のお仕事もね、そんな急を有するものじゃないッスからね」
慌てて支度をするすずにばあちゃるは止める。しかし責任感は強いすずは申し訳なさそうな顔を見てばあちゃるはあることを思いついた。
「あ、ならこれからばあちゃる君とお昼とかどうっスか?」
「お昼、ですか?」
首を傾げるすずにばあちゃるは懐から車のキーを見せながら頷く。
「休日なので学園の食堂は閉まってますし、お昼は外食にしようと思ってたッスよね。だからすずすずがよければ一緒に行きませんか?」
「え、けどそれはお礼にならないような?」
「いい年した男が学生の美人さんと一緒にお昼出来るなんてご褒美にしかならないっスね、完全に!」
「特にアイドル部内で飛び切りの美人なすずすずとなら最高以外何物でもないっスよ!」と豪語するばあちゃるにすずは顔を朱に染める。
「それでばあちゃるさんがいいなら、ご一緒しますよ」
「マジっすかー?いやー、休日に学園で仕事してみるもんっスね。今日は完全に幸運っスね、これは」
変わらず賞賛の言葉を投げてくるばあちゃるにすずはさらに顔を朱に染めながら笑った。
「鳩だー!」
公園の中央の噴水前の大量の鳩にすずは少年のような叫びと共に走り寄る。すずに驚く鳩は一斉に空へ飛び出し、当の本人であるすずは「おー」と感嘆な声を零した。そんなすずにばあちゃるはマスクの下で苦笑した。
お昼過ぎの時間帯にばあちゃるとすずは学園から少し離れた公園に来ていた。周りから食後は多少の動くようにとシロを主体に周りから言われているばあちゃるはこのように食後の運動として軽い散歩を行っている。学園内ならば校舎内を散策しているのだが本日はすずと共に外食のためその食堂から近いこの公園に赴いた。
お昼過ぎとはいえまだ正午を少し過ぎた時間帯のため休日の公園にしては人はまばらだ。そんな人の少ない公園をばあちゃるとすずは二人並んで歩きだした。
「近所にこんな大きな公園があるとは知りませんでした」
「まあこっちは学園からちょっと離れてますし、なによりすずすずの家からしたら学園の反対側ッスから仕方ないッスよ」
「それでも同じ市内ですし、知らなかったことがなんか悔しいです」
「えぇ…」
少年のような思考にばあちゃるはおもわず困惑の声を零す。荷物などはまとめて学園に置いてきたのでばあちゃるもすずも軽快な足取りで公園を進む。
「あ、お昼ご飯ありがとうございます。まさか奢っていただけるなんて」
「いえいえ、気にする必要はないッスよ。むしろ学生であるすずすずにお金を出させるなんてばあちゃる君が許せないッスね」
すずの謝罪にばあちゃるは特に気にせずそう返す。共にした食堂で自身の分を支払うつもりであったすずであったが会計は気付いたら済まされていて自身の財布すら出すことすらなかった。
「ですがこれじゃお礼じゃなくなっちゃいました」
「すずすずが気にする必要はないッスよ。さっきも言ったッスけど一緒にお昼取れただけで充分ご褒美ッスから」
「けど、納得できないですよ。何か手伝えることはないですか?」
そう言うすずにばあちゃるは困ったと顔に浮かべる。しかし、なにか思いついたように動きを止めたが「やっぱないッスねー」と言葉をつづけた。しかし、その瞬間を見逃すほどすずは甘くはなかった。
「なにかあるんですよね!何でも言ってください!何でもやりますよ!」
「ちょいちょいちょーい!女の子は簡単に『何でもやります』なんて言っちゃダメッスよー!?」
「そんな『なんでも』なんてばあちゃるさんにしか言わないですよ」
「ウビッ!?」
「それより私にやれることってなんですか?」
軽く流されたが何気に凄いことを言われた気がする、とばあちゃるは内心思うが何もなかったかのように続けるすずにばあちゃるは受け入れるとは別にして要件を伝えることにした。
「お願い、というよりお仕事なんっスよ」
「お仕事?案件動画みたいな感じですか?」
「動画は動画ッスけど、内容はダンス動画ッスね」
「ダンス!?」
予想しなかった内容にすずはつい声を荒げる。
「あ、ごめんなさい。でもダンスですか?たまにシロさんも踊ってたりするダンスですか?」
「そのダンスっすね」
改めて確認するすずに肯定するばあちゃる。右手の人差し指を立て、ばあちゃるは言葉を続けた。
「アイドル部全員の配信がスタートして大体半年経ちましたしそろそろアイドルっぽいことをやっていこうと話が上がってきてるッスよ。そこで第一案として通ったのが」
「ダンス動画ってことなんですね」
「そうっスね。ダンスならうちのシロちゃんを始め親分にアカリン、さらに有名どころならヒメヒメとヒナヒナの二人やそらそらとかとか色んなVTuberがやってますし通常の動画配信以外で手を出していくのなら最適ってことで決まった訳ですねー、はいはいはい」
「なるほど」
ゲーム実況や雑談放送の他に並ぶジャンルとして『踊ってみた』が有名なことはすずも知っていた。ばあちゃるが言うように先輩であるシロも色んな踊ってみたの動画を見たこともあるし、実況や雑談などが主であるアイドル部が行っていくのであれば最善であることも納得できる。しかしすずはとある疑問が拭えなかった。
「どうして私を一番手の候補に考えたですか?」
このような新しい案件、というよりアイドル部で何かを行う際の一番手として挙げられるは夜桜たまだ。たまはアイドル部で一番最初に配信を開始し、学園の生徒会長という役と彼女の人柄かいつもアイドル部を引っ張っていく存在である。そんなたまと同じように何故自分が一番手の候補に挙がるのかすずには理解ができなかった。
「すずすずも予想がついていると思うッスけどたまたまが最有力候補ではありますねー。常に一番手を務め、アイドル部を引っ張っているリーダーのような存在でもあるッスからきっとたまたまでも案は通るッスね、完全に」
「ならそれは私が勤めるべきではないですね」
元々ばあちゃるに無理にお手伝いできることはないかと強引に聞いたことが発端である。事が思いのほか大きいことであり、自分では荷が重いと感じていたすずは安心のためかほっと息を吐いた。
「いえ、これはすずすずに行ってもらいましょう!」
「はい!?」
驚愕なことを言うばあちゃるにすずは顔をあげる。そこには『いいことを思いついた』とちょっと悪そうな顔を浮かべるのをマスク越しに感じた。
「いやーさすがばあちゃる君。これは名案ッスよ!そうと決まれば早速行動するッスよー!時間は有限ですからね!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
自己完結しやる気を燃料に走り出そうとするばあちゃるを止める。急な展開で頭は未だに追いついていないがすずが解決したい疑問は一つだ。
「な、なんで私なんですか!?」
「え、そりゃばあちゃる君がすずすずのことが好きだからッスよ?」
「…え?」
帰ってきた答えはすずが予想外を遥かに通り越したもので混乱を極めた結果、すずの頭は試行するのを放棄した。
「今日の練習での演奏を陰ながら聞かせてもらいましたッスけどすずすずの奏でる音はこうばあちゃる君にビビっと来たんですよね」
「へ、私の音?」
「そうっスよ。今日練習してたでしょう?」
なんてことの無い風に言うばあちゃるにすずは深いため息を吐く。無駄に緊張をして損をした感じではあるが言葉足らずのところがばあちゃるらしいとすずは思った。
「どうしたんすか?」
「いえ、大丈夫ですよ。けど、なんで私の音なんですか?私より上手な音を奏でる人ならいっぱいいますよ。歌であればなとりさんやめめめさんとか」
音は決して楽器から奏でるものではない。ばあちゃるが言っているのは人が奏でるものであるとすずは理解していた。なので雑談配信などで稀に歌を歌っている部内の仲間を例に挙げる。しかし、それにばあちゃるは首を横に振った。
「なとなとやめめめめもきっと素晴らしいものができると思うッスね、完全に。けど、ばあちゃる君が見たいと思ったのはすずすずの音ッスね」
「私の?」
自身を指さすばあちゃるに首を傾げながら問うと答えるように頷いた。
「さっきも言ったッスけど、今日の演奏を聴いて、いや今日だけじゃなく前々からなんすけどばあちゃる君はすずすずの奏でる音のファンなんですよね。だから今回の企画がばあちゃる君の下に届いたとき、いつもなら真っ先にたまたまが浮かぶすけど今回は浮かばずにもやもやしてたんすよ。そして今日の演奏を聴いて頭を掠めたッスよ、『今回はすずすずで行こう』って」
「え、けど。そんな素振りしてなかったじゃないですか」
「こんなこと自分で言いうのもどうかっスけど、ばあちゃる君がなんも考えずに誰かを昼食に誘いますか?」
「あ」
言われ思い出す。ばあちゃるはシロを除くだれかと二人っきりで食事をするのは珍しいことであった。大抵一人かスタッフなどを交えた複数人と共にしている。学園の場合は食堂か学長室だ。そこまで思考して何故ばあちゃるがすずを食事に誘った理由を察した。
「私を説得するため?」
「はいはいはい、さすがすずすずッスねー。大正解すよ、これは完全に」
「そして説得しようとしたところで私が『何でもする』って言ったからばあちゃるさんがそれに反応して?」
「エグ―!?すずすずエスパーみたいッスね!?」
「けど私でいいんですか?」
大袈裟にリアクションをしていたばあちゃるに不安そうなすずの声が聞こえた。ばあちゃるは足を止めすずと向き合い、小さく震える手を取り目線を合わせて声をかけた。
「今回の案件。すずすずも思っている通りすずすずが一番手をやる必要はありません。ですけど、ばあちゃる君はすずすずの踊りを見てみたいと思ったッスよ。だからこれはばあちゃる君のワガママですね」
「ばあちゃるさんの、ワガママ」
「そうっス。ばあちゃる君はすずすずの音が大好きなファンっスからそんなすずすずがどんな踊りを表現するのか気になって気になって仕方なくなっちゃったすよ。だからどうしても無理であるなら断ってくれても構わないです。けど、どうかばあちゃる君のワガママをかなえてくれないッスかねー?」
ズルい人だ、とすずは思う。いつもは全部自分で抱え込んで、自分で何とかしてそれで炎上などしてもいつも何ともないようにする人。そんな頼ってほしい人にこんな頼まれ方したら断われないとすずは苦笑する。そしてこのままやられっぱなしは性ではないとすずの少年ハートは訴えた。
「わかりました。その話、お受けします」
「ホントっスか!?いやー、断られたら「ただし!」ウビッ?」
「私も少し、ワガママ言ってもいいですか?」
それは少し日が沈み始めた昼過ぎの出来事であった。
「「「おー」」」
とある収録スタジオの楽屋。そこにはばあちゃるとシロに加え、同じく収録に来ていた二人組のVTuberの『田中ヒメ』と『鈴木ヒナ』の四人が空中に投影されたモニターに釘付けになっていた。
「アカリちゃんと一緒で身長高くて手足が長いとダンス映えが凄いね!」
「曲は原曲ってことは歌は別取りって感じなんですか?」
「はいはいはい、今回はね、ひとまず仮ってことなのでね、踊りだけ取ったって感じッスね」
四人が見ているのは先日の祝日に学園で仮として踊り撮影したすずの動画であった。自身とは強みが違うすずの踊りにヒメヒナは目線を離せずにいた。
「踊りのチョイスはばあちゃるさん?」
「はいはい、そうですよー。今回はダンス映えを目的っスからね、すずすずの服装とも会う踊りをばあちゃる君が選ばせてもらったっスね」
「ナイスチョイス!ヒメもヒナもこんな感じの曲は踊ったことないから詳しくないけど、すっごい合ってるね!」
「そんなに褒められるとばあちゃる君、照れちゃうっスねー」
ヒメヒナ二人の予想以上の賞賛にばあちゃるは羞恥を誤魔化す様にマスク越しに後頭部を掻いた。しかしここに不機嫌な少女が一人。それはばあちゃるの横で同じくすずの動画を視聴していたシロである。
「どうッスか、シロちゃん?すずすずかっこかわいくないっスかー?」
「すずちゃんは最高にかわいいしカッコイイよ。もし否定する人がいたらそれは救済対象だよ。けど、シロが言いたいのはそこじゃなくて!」
バシッと効果音が聞こえそうな速度で放送されている動画を指さした。
「なぁんで馬も一緒に踊ってるの!?」
シロが言うように動画にはすずが踊る横にばあちゃるの姿が確認できた。登録されたカメラワークがソロ用のためか時々画面から消えるがそれでもすずの横にいることがわかる。しかも二人の距離はかなり近かった。
「すずちゃんの動画なら馬がいる必要ないよね!?なんでいるの!」
「はいはいはい、それはですね、すずすずにお願いされちゃいましてね」
「お願い?」
興奮を隠さないシロにばあちゃるは慣れたように続ける。
「はいはい、そのお願いっていうのはですね、『初めてなのでよければ一緒に踊ってくれませんか?』というかわいいものだったすよね。いやー、すずすずてぇてぇてぇてぇ」
「それってつまり『Shall We Dance?』なんじゃ…」
「あれ?シロちゃーん?」
そんなすずの言葉をどこか深読みし、シロは思考の海へ落ちていく。しかしその時、ヒメの特徴なゲラ声による笑い声が響いた。
「ヒメヒナちゃん!?どうしたの!?」
「ど、どうしたんすか!?」
「あ、あははははははははww」
「だ、だめ、これはずるいぃぃww」
笑う二人が指さすのはすずの踊りが投影されているはずのモニターだ。そちらに目を向けるとそこには奇怪な物が映し出されていた。
☆DAISUKE★
★DAISUKE☆
「は?」
そこにはサングラスをかけたウキウキお姉さんが映っていた。原因を知っているであろうばあちゃるに視線を向けるとそれに察したのか、ばあちゃるもマスクが動くほどの速さで首ごと視線を逸らす。
「ねぇ、馬。これは、どいうことぉ?」
「いや、あの、そのですねー。ばあちゃる君はですね、はいはいはい、どうもすずすずのお願いに弱くてですねー」
しどろもどろになりながら視線を合わせず答えるばあちゃるにシロは視線は鋭くなる。プロデューサーであるばあちゃるがこんなイメージを(既に遅いが)損なうことを許すはずはない。つまり、これはすずからの希望ということだ。
「ねぇ”ぇ”ぇ”ぇ”。なんで断らなかったの!?これ明らかにすずちゃんの清楚メトロノームの参考とかに使われるやつじゃん!!」
「い、いやけどシロちゃん。シロちゃんだって滅多にお願いしないすずすずがもしお願いされたら断れないじゃないですか!」
「そ、それは」
なんやかんやで親バカアップランドでもあるシロはすずがお願い想像しそれを断れる気がしなかった。そのためばあちゃるに言い返せなくて言葉詰まった。
「し、シロはいいの!けど馬はプロデューサーなんだから断らなきゃダメでしょー!」
「う、ウビッ!?シロちゃんストップ!」
「馬のバカーーーーー!!!」
「ウビバァ!?」
ヒメヒナの笑い声をBGMにばあちゃるは無事にシロにぱいーんされるのであった。
登校途中、ピロンという軽快な音が端末から漏れる。確認するとそれはメールを受信した通知であり、そのまま通知に触れてメールを確認する。
「メンテちゃんでしたか」
件名には『ご依頼の品です』と簡潔なものであった。首を傾げ、メールに添付されていた画像ファイルを開く。
「ああ」
そこに映し出されていたのは先日にプロデューサーであるばあちゃるとともに踊った時のワンショットだった。それをみて提出した動画でばあちゃるとすずが二人映っている場面を画像にして送ってほしいと依頼したことを思い出した。
それはすずもばあちゃるも背を向けている画像であった。人から見れば顔を映らないなどダメ出しを受けそうだがすずがこの画像が好きだった。ばあちゃるを思い浮かべるとどうしてか胸が熱くなる。その理由は図書委員長でもあり本をよく読むすずにはなんとなくであるが理解していた。甘酸っぱくてほろ苦い、そしてどこか胸が苦しくてどこかとても愛おしくなるこの感情すずにとって尊いものである。
「ふふ。向き合うためにも力をくださいね、プロデューサー」
サイズをリサイズし綺麗に二人が映るようにして待ち受け登録する。そして胸に秘めたこの暖かい感情と共に神楽すずは一歩前に踏み出した。