馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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事件が円満に終わったのなら、後は宴だ!

(後日談)


彼に似る私の姿(電脳少女シロ)

 

「…さて!長ったらしい話をしても仕方がないので、さっさと始めてしまいましょう!!」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

一定以上の品質を提供する焼肉屋『叙〇苑』その店内の一角…など小さい枠ではなく、店内全部に届くように大きな声で幹事である『ばあちゃる』が声を張り挙げる。

 

「それでは!電脳世界停電事件改め、『やらかしちゃったシロちゃん事件』お疲れ様会を開催するでふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!はいはいはいはい!!!」

 

「何言ってるの!?うまぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「はいはいはい!!いいぞ!ばあちゃる氏!盛り上がっていこぉぉぉぉ!!」

 

「うるさッ!?ハルカステンションたっか!?」

 

「まあまあみりあちゃん。今日くらいは仕方がないよ」

 

「わー!えーちゃんえーちゃん!久しぶりに焼肉だよー!!」

 

「はいはい。興奮しすぎだよ、そら。ちょっと落ち着いて」

 

「私もお邪魔してもよかったのでしょうか…大したことお手伝い出来てないのですが」

 

「気にしなくてもいいよ、ノムさん!こういうのは参加しとくべきなんだよ!ね、ゴリちゃん」

 

「ハァーイ。葵さんの言う通りですよノムさん。ゴリラだって参加してるんですから、遠慮などなさらずに」

 

「イエーイ!!ただ飯ですよ楓ちゃんに凛ちゃん先輩!!飲みますよ食べますよ!!!」

 

「ちょ!?美兎ちゃん学生でしょ!?」

 

「今更なんやからスルー安定っすよ、凛先輩」

 

「ほら!司も飲むぞ!!」

 

「まあ今回は色々と駆け回ったからな。元を取る分くらいには飲むさ」

 

ばあちゃるの音頭と同時に、掲げられるジョッキと同時に頬を真っ赤に染めたシロがばあちゃるに詰め寄る。そんな二人を余所に、店内に詰め込められた今回の事件の協力者たちが各々で飲食を開始した。その中には、アイドル部との縁がある『道明寺晴翔』を含むゲーム部の面々。ホロライブの『ときのそら』にそのサポーター『友人A』。さらに『燦鳥ノム』に『富士葵』、『バーチャルゴリラ』の歌唱組に加え、店内の大半を占める大人数のにじさんじ。さらにBAN'sの世話役『天開司』に元BAN'sでもある『ふくやマスター』などなど。無数のVTuberが参加している。

 

『電脳世界停電事件』。『電脳少女シロ』が起こした事件は,世間にはそう報じられた。正確には停電ではないのだが、機械の大半が使えなくなる状況がまさに停電した状況と似ていたために呼称された。また、その犯人がシロであることも情報規制により報道されていない。今は終わった過去のテロ事件を掘り起こすことでもあるし、なによりそのテロ事件の立役者であるばあちゃると『キズナアイ』の口添えによるものでもある。しかし、完全に無罪というわけにもいかず、監視が付くようになった。そして、その監視役に任命されたのが他でもない、ばあちゃるだ。

 

「はいはいはい。何か間違いでもあるっすかシロちゃん?」

 

「うぐッ?…その通りだけどぉ…もっと言い方というか…」

 

「今回はどうやってもシロさんが悪いので諦めてください」

 

「メンテちゃんまで!?シロの味方がいないの!?」

 

「あれだけ大事のことやっといて、居るわけないでしょうが…あ、それとシロさんは引っ越しの準備をお願いしますね。もう業者には頼んだので、明日の夕方には来ると思いますよ」

 

「早!?え、さっき言われたばっかりだよね!?手配するの早くない!?」

 

「今回の件はどうやっても非がこちらにありますからね。迅速な対応をすれば、その分監視が緩くなるはずです」

 

「エイレーンさん」

 

不貞腐れるシロと呆れ顔のばあちゃると『メンテちゃん』のアップランド三人組の元に、『エイレーン』がやってきた。片手にはお肉が数切れ乗ったお皿を持っている。どうやらエイレーンも今回の宴会を満喫しているようだ。後方には『ミライアカリ』を含め、『萌実』に『ヨメミ』。さらに『ベイレーン』に居候の『シフィール・エシラー』といった日本に在住するエイレーン一家が総揃いしていた。

 

「それに、実はラッキーと思ってるんじゃないですか?」

 

「な、なにを!?」

 

「そりゃ監視役にばあちゃるさんが選ばれたことですよ。なんせ国公認で同棲が認められたってことですからねぇ」

 

何を隠そう、先程上がったシロの引っ越し先はばあちゃる邸なのだ。

監視役に選ばれた以上、日常の大半を共に過ごさなければならない。ならば、同じところに住んでもらう方が都合がいいとのことで、メンテちゃんが提案してきたのだ。これについて、シロは顔を赤くしながらも『仕方がないの』やら『これは罰だから』など言っていたが、隠せていない上がる口角に、メンテちゃんは笑いを堪えるのが大変だったと後に語る。

 

「ど!?どどどどどど、同棲!?ち、違います!これは仕様がなくそうなっただけでシロは別にそんなッ!?」

 

「なるほどなるほど。ですが今更言い訳したって遅いですよ。ほら、シロさんのキスシーン」

 

「わああああああ!!!!???なんで録画なんてしてるのぉ!?ってメンテちゃんも見せつけようとしなくていいの!!」

 

「ふふ。いえ、いつも翻弄される側なので、たまにはいいかなと」

 

「うぅ。うまぁ…エイレーンさんとメンテちゃんが意地悪してくるんじゃぁ…」

 

「はいはいはい?どうしたっすかシロちゃん。随分とよわよわになってるっすね」

 

「そうやって、いの一番に馬のところにいくところが、ねぇ?」

 

「ええ。可愛くて弄りたくなっちゃうんですよね」

 

にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる二人にシロは隠れる様にばあちゃるの腕の中に潜り込む。しかし、それは逆効果なのか、後方から聞こえてくる声にさらに頬が熱くなるのを感じる。しかしばあちゃるの腕の中は予想以上に居心地がよくて、抜け出せずにいた。

 

「お、大分ラブラブしてますねー」

 

「みとみとじゃないっすか。どうっすか?盛り上がってます?」

 

そんな二人と入れ替わるように別方向から聞こえてくる声。先程まで、にじさんじのテーブルで盛り上がっていた『月ノ美兎』が、二人の元にやってきた。その手には何とも言えない色をした飲料水。後方にはドリンクバーに談笑している『笹木咲』に『椎名唯華』の姿が確認できる。どうやらその二人と一緒に、ドリンクバーでミックスジュースを作って遊んでいたようだ。

 

「そりゃもう大盛り上がりですよ!大人組はお酒を飲みだして大変なことになってますし、しばさんなんてまた女性に手を出したみたいで、息子のベルモンド・バンデラスにお説教食らってますよ」

 

「なぜベルベルはフルネームで呼ばれるんっすかねぇ?あ、それよりも今日は本当にありがとうございました。みとみとがいなかったら今の時間はなかったっすよ」

 

「いえいえ!確かに大変でしたけど、私のやれることならなんでも手伝いますよ!シロさんは勿論、ばあちゃるさんにもたくさんお世話になりましたしね」

 

「…そういえば、みとみとってどうやってあそこに来れたの?アカリちゃんとルナちゃんは色んな人の協力のもとに来てたけど、みとみとはあの土壇場でネザーゲート使って一人で来てたじゃん」

 

「あ、そういえば方法言ってませんでしたね」

 

シロはばあちゃるの腕の中で、少し顔をずらして美兎に問う。過去最高にばあちゃるへデレているシロに、美兎の顔は満面の笑みだ。

 

「実はあの時、機械が停止されるであろうということはばあちゃるさんから聞いていたんですよ。ですので機械を使わず、さらに悟られず向かう方法を考えた結果。『マインクラフト』のワールドを経由することにしたんです」

 

「え?けど、たしか正規以外のマインクラフトのワールドから移動はできないんじゃ…あ」

 

「そうです。シロさんが町の機械を全部システムダウンしてくれたおかげでその制限がなくなっていたんですよ。まあその分。座標を調べが手動、機械ではなく魔法の類であるネザーゲートを使う羽目になってしまったわけですが」

 

『大変だった』と付け加えるが、その苦労は尋常

ではないはずだ。何せマインクラフトのワールドの広さは地球の7つ分もある。そこから機械など使わずに自力であの研究所にワープする座標を調べるたのだ。その行為に、シロは少し引いてしまう。

 

「あ、もちろん私だけでは無理だったので協力者はいました

よ!にじさんじ鯖の管理者である『ドーラ』を中心とした元『SEEDs』の皆さん。マイクラのノウハウが豊富なゲーマーズの一番槍、ライトニング・ゲイボルグ『叶』さんを中心とした元『ゲーマーズ』の皆さん。さらに私たち元『一期生』に剣ちゃんを中心とした元『二期生』。つまりにじさんじが総力を挙げて調査したのです。見つけられないわけないじゃないですか」

 

「さらにその調査にかなかなの口添えでBAN's。そして元BAN'sのふくふくの口添えで、そらそらの後輩たちの『ホロライブ』も協力してくれたっすよ。マイクラのノウハウがあるVTuberがほとんど参加していたのであの速さだったわけなんすよ」

 

「それでもギリギリでしたけどね」

 

「いやいや!?それは大して時間稼ぎが出来なかったばあちゃる君が悪いっすからね、みとみとが気にすることはないっすよ!」

 

美兎の謙虚な物言いに、ばあちゃるは慌てて否定する。それほどに、労力がある作業をあの短時間でしてくれたのだ。それを卑下してもらうわけにはいかないと、ばあちゃるも必死だった。

 

「ならばあちゃるは時間稼ぎをした私にもお礼を言わないとなー?」

 

「あ、アイさん!」

 

「はいはいはい。いやー、親分は何もしてないっすからね。来たのは良いっすけど、ものの数秒で無力化されちゃったじゃないっすか」

 

「うぐッ!?それはばあちゃるも一緒だよね!むしろ私が来たから何とかなったまであるよ!」

 

「なぁに言ってるっすかねこの親分は!?むしろ親分が来たせいでシロちゃんの覚悟がもう一度入ったまであるっすよ!」

 

「なにをー!?」

 

「なんっすか!?」

 

出会えって数秒で売り言葉に買い言葉。口論するばあちゃるとアイに、美兎は珍しく呆れ顔だ。

 

「…この二人って、変に仲いいですね」

 

「…認めたくないけど、アイさんとうまは対テロ組織の際の前線部隊でのトップ1.2だったからね。何かと競い合ってたイメージがあるよ」

 

「へぇ。それは珍しい」

 

「というより、当時の馬は今まで以上に生き急いでいたから。それを心配してアイさんがちょっかい出してたのが正確なんだけどね」

 

「あ、シロちゃん!ちゃん付けで呼んでって言ってるでしょー!!」

 

ばあちゃるとの口ケンカを切り上げて、アイはばあちゃるの腕の中のシロに抱きつく。ばあちゃるとアイに挟まれたサンドイッチの具の状態だ。その口から匂うお酒の匂いにシロは顔を顰めた。

 

「お酒くさっ!?アイさんお酒飲んだ状態でシロに近づかないでください!」

 

「ちょ!?親分!ばあちゃる君にも匂うほどってどんなに飲んだっすか!?」

 

「さっきまでツキちゃんの飲み比べしてたの!せっかくの打ち上げだよ?お酒を飲まないのはもったいないよ!それと、アイちゃんって呼んでって言ってるじゃん!」

 

「わかりました分かりましたから!アイちゃんはちょっとシロから離れてぇ!うまぁ!みとみと助けてぇ!?」

 

「お や ぶ ん!!ちょっとそれ以上はアウトっすよ!」

 

「いやー、白馬好きとして今のアイさんはどこか間男みたいなところあるので、私も邪魔させてもらいますねー。ってくさッ!?どんだけ飲んだんですかこの人!?」

 

涙目のシロの声に、ばあちゃると美兎が協力してアイを引き剥がそうとする。しかし、酔っぱらっており、大分力が入っているのか剥がれようとしない。メンテちゃんもエイレーンも、気付いたら席を離れており手を借りることが出来ない。なるべく穏便に離したいばあちゃるは、偶然そこを通りかかったアイドル部の『八重沢なとり』と『カルロ・ピノ』の姿が目に入った。

 

「あ、ちょうどいいところに!なとなとー!ちょっとヘルプっす!」

 

「はい?どうしたんですかってなぁにしてるんですかぁ!?」

 

「おうまさんもシロおねえちゃんも何してるんですか!?公衆の面前ですよ!?」

 

「こんな色んな方がいる場所で風紀を乱さないでくださいよ!」

 

なとりとピノが見た風景はシロを抱きしめるばあちゃるにシロを挟んでばあちゃるに抱き着こうとしているアイの図だ。事実を言うなれば、アイはシロに抱き着いているのだが、そのシロがばあちゃるの腕の中にいるのでそのように見えてしまっている。その状況をいち早く理解した美兎は、誤解を解くように二人に説明をした。

 

「いえ、これはばあちゃるさんは悪くないんですよ!問題はこのアイさんなんです!」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「みとみとの言う通りなの!お願いなとちゃんピノちゃん、シロを助けて!」

 

「どうやら本当みたいですね!ほら、お米のお姉ちゃん!シロおねえちゃんを助けますわ!」

 

「あの、ピノさん?なんかノリノリじゃないですか?」

 

「と、とりあえずこの親分を早く離してほしいっすよ!?さすがにばあちゃる君が力尽くは不味いっすから…って親分!?どこ触ってるっすか!?」

 

「へえぇぇ。ばあちゃるって意外にお尻にも筋肉ついてるのね」

 

「ッ!?風紀、乱れていませんか!」

 

アイのその行き過ぎた行為についに風鬼が動き出す。いくら酔っ払いで力の制御がまともにできない状態だとしても、美兎になとり、ピノとシロと四人もいれば流石に引き剥がすことが出来る。よほど力強く引き剥がしたのだろう。アイはその勢いのまま、後ろに体制を整えながら下がって言った。

 

「お、っとっと。もう!酷いなぁ!」

 

「はぁはぁ…酔っ払いの言うことなんて知りません!みとみとになとちゃん、ピノちゃんもありがとうね」

 

「いえいえ。シロさんは私の大事な先輩ですもの。これぐらいはお安い御用ですよ」

 

「お米のお姉ちゃんの言う通りですわ!それに悪いのはこの酔っ払いです!」

 

「あー!そこまで言われちゃさすがの私も傷ついちゃうなー!」

 

「うっわぁ。わざとらしい」

 

「辛辣っすね、みとみと」

 

ワザとらしく泣き真似をするアイに、美兎は冷たい目線で辛辣な言葉をかける。いくら憧れの先輩だとしても、酔っ払いであれば別らしい。その姿に、なとりとピノも少し引き気味だ。

すると何か思いついたのか、悪い顔を浮かべるアイ。そのアイの視線が向けられると、シロは背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。

 

「そこまで言うなんて私傷ついちゃったなぁ!これはあのこと喋っちゃおうかなー!!」

 

「な、なんですか?」

 

「ねぇねぇ、シロちゃん。昔の約束覚えてる?」

 

「へ?約束ですか?」

 

「約束、というか賭けかな?」

 

アイの問いかけにシロは首を傾げる。考え込むシロに、アイは変わらず酔っ払い特有の赤い顔で、にやにやと笑みを浮かべていた。そして、その賭けに心当たりがあったのか、シロは急に顔を青白く変化させる。

 

「おぉ?どうやら思い出したみたいだねぇ」

 

「え、えっと。アイちゃん?シロが悪かったからそのことは…」

 

「けどダメ―!賭け内容は『シロがばあちゃるに負けたら』で、ばあちゃるに掛けたのは私!つまり私の勝ちだったからね!言っちゃうもんねー!」

 

「あああああ!アイさん!いやアイちゃん!その事だけはぁぁぁぁ!!」

 

「お、お?なんか面白いことになってきましたね!」

 

「え、え!?これはどういう状況なんですか!?」

 

「どうやらアイお姉ちゃんはシロお姉ちゃんの秘密を握っているみたいですね」

 

立場は逆転し、今度はシロがアイを追いかけるものへと変化した。急な立場逆転に、なとりは少し混乱しているようだ。

 

「みんなはシロちゃんの秘密知りたくない?とっておきの秘密だよ?」

 

「あ、アイさん!それは、それだけは!?」

 

「えっと、これは…私たちはどうすれば?」

 

「…私!シロお姉ちゃんの秘密、気になりますわ!」

 

「気が合いますねピノさん!私も同意見ですよ!とりあえず、シロさんを止めましょう!」

 

「嘘でしょピノちゃんにみとみと!?」

 

好奇心に負け、敵となった美兎とピノにシロは悲鳴を上げた。そしてこの状況に混乱しているばあちゃるとなとりにも、悪い笑みを浮かべるアイの視線が向けられる。

 

「ほらほら、ばあちゃるもなとりちゃんも。シロちゃんのとっておきの秘密知りたくない?」

 

「え、えぇっと。知りたい知りたくないと言われれば知りたいですけどぉ」

 

「大丈夫大丈夫。シロちゃんにとって恥ずかしいことだけど、人権とか酷い内容じゃないから安心して?」

 

「アイさんのそれは安心でしません!」

 

「…なら、信じます」

 

「なとちゃん!?嘘だと言って!?」

 

「あー!またさん付けした!アイちゃんって呼んでって言ってるでしょ!?…それで、馬はどうする?」

 

「うま!うまはシロの味方だよね!?」

 

縋るように視線をばあちゃるに向けるが、そこには時折見せる意地悪な表情。その表情だけで、ばあちゃるがどう思っているのか察したシロは絶叫した。

 

「うまぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「いやー、ごめんなさいねシロちゃん。ばあちゃる君もね、親分が言うシロちゃんの秘密が気になるっすよね」

 

「え、何気に今のシロお姉ちゃん凄くないですか?」

 

「ええ。まさかばあちゃるさんが答えるより先に叫ぶとは…表情だけでどう答えるのか読み取ったのでしょうか?」

 

「はいはいはい。というわけで、ぴーぴーとみとみとはシロちゃんもこっちにパスしてくれると助かるっすね!」

 

「りょうかいですわ!おうまさん!」

 

「ヘイパース!」

 

ばあちゃるの要望に応える様に、ピノと美兎は押さえていたシロの背中を押し、ばあちゃるへ送り出した。勢いそのまま、シロはぽふっとばあちゃるの腕の中に納まる。抜け出すように抵抗するが、やはり居心地がいいのか、その抵抗は徐々に小さくなり、最後には腕の中で大人しくなった。

 

「…シロさんかわいい」

 

「結局、ばあちゃるさんには勝てないところとか最高じゃないですか?」

 

「分かります!シロお姉ちゃんとおうまさんの二人のそういう関係が私大好きです!」

 

「う~~~~~~!!!」

 

「こらこら、暴れたらダメっすよ」

 

ばあちゃるの腕の中で暴れるシロだが、優しく頭を撫でられて大人しくなる。前までの関係であればこうはならなかった。しかしアイドル部との関係の進展により、ばあちゃる自身が望んだことに素直になったこと。先程の事件により、シロも自分の感情に少し素直になったこと。そして、シロが物理的に甘やかされることが弱いこと事が原因だ。好きな人に受け入れてもらえる。それがこれほどに幸せに感じるとは、シロは知らなかった。後ろでにやにやと顔を浮かべているであろう後輩と友人に憤りを感じるが、だからといってここから抜け出せるかと言われれば『無理』の一言だろう。それほどまでに、ここはシロにとって居心地がよくて、幸せを感じる場所であった。

 

「シロさんとばあちゃるさんを見ているのも楽しいですけど、ひとまずアイさん。シロさんの秘密を教えてもらってもいいでしょうか?」

 

「そーだね!今のシロちゃんなら絶対安心だし。さっさっと言っちゃおうか」

 

後ろから聞こえてくるアイの言葉を知らんと言わんばかりに、シロはばあちゃるの胸に頭をこすり付ける。そんなシロの様子に、ばあちゃるは苦笑しか浮かばない。

 

「とっておきの秘密って言うのはね、シロちゃんの身体に…というかモデルについてだよ」

 

「シロさんのモデル?今の姿ということですか?」

 

「そうそう!シロちゃんたち統括AIが兵姫である貴方たちと違って、最初は肉体(モデル)がなかったの。声や文字でのコミュニケーションは出来たんだけど、その姿はよくて発光体ぐらいだったね」

 

「ああ。つまり昔のSF映画とかで見るAIと同じ感じだったというわけなんですね」

 

「そうそう!!さっすがピノちゃん!あったまいいー!!」

 

酔っ払いのハイテンションでアイはピノを称賛する。酔っ払いとはいえ、シロに並ぶ四天王のトップであるアイに賞賛は予想以上に嬉しいものだ。ピノは頬を染めて照れた。

 

「それでそれで!シロちゃんが生まれてばあちゃると一緒に活動しているのが基本だったの。そんなある日ね、シロちゃんに『モデルを作ってほしい』ってお願いされてね」

 

「え!?ってことはシロさんの身体を作ったのはアイさんなんですか!?」

 

「そうなの!その時までシロちゃんとはばあちゃるを挟んで知ってるくらいの関係だったから、ビックリしちゃった!それでモデルを作るのにあたって、要望があったの!それが、シロちゃんの秘密」

 

「ほうほう!それでそれで、シロおねえちゃんの秘密とは!?」

 

よほど気になるのか、美兎もピノも身を乗り出してアイに詰め寄る。一歩後ろにいるなとりだが、その好奇心は隠せていない。

 

「『ばあちゃるに似せてほしい』…それが要望だったの」

 

「う~~~~~~~!!!!!!」

 

羞恥から逃れる様に、ばあちゃるの胸に隠れる様にしながら呻き声を上げる。そして、その事実はばあちゃるも予想外だったのか、シロの頭を撫でていた手を止めて、驚愕していた。

 

「え…いやいやいや!?親分あの時、シロちゃんはばあちゃる君に似せたのは親分の発案だって!?」

 

「なんでそんなサービスを私がしなきゃいけないの?確かに馬は整った顔立ちしてたけど、私の好みじゃないし。私好みで行くならもっとツキちゃんみたくなってまーす!」

 

「た、確かにそうっすけど、いや、でも…えぇ?」

 

「…なるほど。じゃあばあちゃるさんの顔立ちがシロさんに似ているのではなく、シロさんがばあちゃるさんに似せる様に身体を作ってもらったってのが正しいんですね」

 

「えー!ってことは、シロお姉ちゃんすっごいおうまさんのことが好きってことになるじゃないですかー!!」

 

「わーー!!知りません、知りません!しりません!!」

 

シロは後輩の黄色い歓声を振り払う様に、耳に手を当ててばあちゃるの腕の中で縮こまる。そんなシロを愛しい視線を向けながら、ばあちゃるは優しく頭を撫でた。

 

「その、なんと言ったらいいかわかんないっすけど…」

 

「…けど?」

 

「素直に嬉しいっすね」

 

「…そうなの?なら…シロも嬉しい」

 

「…ここはばあちゃるさんに任せましょう。ほら皆さん、こちらへ」

 

ここはばあちゃるに任せた方が適任と感じた美兎は、シロとばあちゃるに悟られないようにアイたちと共に移動した。しかし、それはばあちゃるには見えていたようで、シロの頭を撫でていない片手でお礼のジャスチャーを送る。相変わらずよく見ていると関心しながら、その礼を受け取りながら美兎は苦笑した。

 

「それで。シロちゃんはなんでばあちゃる君と似た感じにしようにしたっすか?」

 

「…あの時のうま。生き急いでたよね?」

 

「へ?…はいはいはい。確かに、当時のばあちゃる君は余裕も無くて、常に切羽詰まった感じで生き急いでいたっすね。けど、それにいったい何の関係が?」

 

「…家族がいればね、うまは死なないかなって思ったの」

 

「家族?」

 

オウム返しをする。ばあちゃるにとって家族とは、今ではシロは勿論、アイドル部のメンバー。そしてメンテちゃんを含めた自分に連いてきてくれたアップランドの社員のこと指す。しかし、対テロ組織当時であれば違う。あの時の家族とすれば『46号』だけだ。エイレーンは確かに大事な人ではあるが、家族というより相棒だろう。当時のことを照らし合わせて考えれば、シロのいう『家族』というのは自ずと答えがわかる。

 

「…そういう…ことだったんすね」

 

「うん。今の姿なら、シロはばあちゃるの妹みたいに見えるでしょう?そうすればうまもどっかにいかないかなって思ったの」

 

「…今も妹がいい?」

 

「ッ…い、いや…」

 

意地悪な質問に、シロはさらに顔を赤く染めて隠すように胸に顔を埋めながら否定した。その姿に、どうしようもないほどの愛しさがばあちゃるの胸に溢れる。衝動のまま優しく、シロを抱き締めた。まわりなど存在など一切入らない。二人だけの世界を繰り広げていた。

集中するあまり、二人は周りの視線が集中していることに気付かない。尊死しそうなすずに、尊いあまり変な声が出そうになる『名取さな』を何とか黙らせながら、なとりは二人を見守る。

 

「…意地悪」

 

「はいはいはい。そんな遠慮がない関係がいいっすよね?だったらこれくらいで嫌がってたら大変っすよ。ばあちゃる君、ちょっと意地悪なのは知ってるっすよね?」

 

「うぅ…知っていたけど、まさかシロがその対象になるとは思ってなかったんじゃぁ」

 

「嫌っすか?」

 

「…いやじゃない」

 

「そうっすか。なら、ちょっと意地悪するっすよ」

 

「え?んぅ!?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!も゛う゛む゛り゛!!と゛う゛と゛い゛ぃぃぃぃ!!」

 

「さ、さなさん!?もうちょっと我慢して!?」

 

不思議そうに顔を上げるシロの唇を奪う。昼に研究所の屋上でしたものとは違い、今度はばあちゃるから少し強引なキス。シロはそれに驚くが、その心地よさに身を任せ、ゆっくりと瞳を閉じた。それは、過去一番に幸福の一時だ。

しかしその幸福も、我慢が出来なくなったさなの叫び声によって一瞬にして終わる。現実に戻ったシロは叫び声の発生源であるさなに視線を見えた。顔を手を覆いながら、天を仰ぐさなに介護するなとり。そしてその横で限界を超えて尊死しているすずの姿を確認した。そして、先程まで騒がしかった点何が静まり返っており、すべての視線が向けられていることにも気付いてしまう。

 

「あ…ああああああ!!??」

 

「ハァーイ。いやはや、いいもの見させてもらいました。やはりシロさんの横にはばあちゃるさんが欠かせないですね」

 

「とーやさん見た!?マジでガチのキスシーンとか初めて見た!?」

 

「ちょ!?ガク君興奮しすぎ!?」

 

「いやー、ラブラブだと思ってたんやけど、ここまでとは思わんかったなぁ」

 

「だとしてもここでキスまでする?」

 

「いやーいいもの見れた。な!チャイカ!…チャイカ!?」

 

「まさかこやつも尊死しとらんか!?」

 

「そーいやチャイカも白組を公言してたな!?」

 

「ちえりーランドの時も思ったが、吹っ切れたばあちゃるは色々とすごいな!?まさか、ここであそこまでやるとは」

 

「お?司もちゃるちゃるの魅力に気付いちゃったか?ちゃるちゃるはいいぞー?知れば知るほど抜け出せなくなる沼だぞー?」

 

「さすがにこうも大衆の面前でやるのはすごいですね」

 

「あー。えーちゃん羨ましいと思ってるでしょ?」

 

「ちがッ!?」

 

「…いいなー」

 

「ばあちゃる氏ー!!さすがはばあちゃる氏だ!!ふぅぅぅぅ!!…痛ッ!?こらアホピンク!いったい何をする!?」

 

「今のはハル君が悪い」

 

「みりあ先輩超がんばって。あんな鈍感な兄ですけど、姉になってくれるなら知り合いがいいです」

 

「…なら私にもワンチャンあるかな?」

 

「え!?楓先輩!?」

 

「よかった…ホントに良かった…おめでとうなのじゃシロちゃんにばあちゃるさん…」

 

「え、何。脇に握り先輩泣いてるの!?今のに泣く要素あった!?」

 

「パイセンはもっと察して!」

 

さなを皮切りに傍聴していた者たちが騒ぎ始める。その内容は勿論、二人のキスについてだ。賞賛羨望呆然と色んな表情がシロとばあちゃるに向けられた。羞恥にシロの頬はさらに赤くなる。そして、我慢が出来なくなったのか、腕を振り上げてばあちゃるへ振り下ろした。

 

「うまの!…」

 

「ちょ!?ストップ!ストップっすよシロちゃん!!??」

 

「ばかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「ウビバァ!?」

 

「いいパンチ。なんか懐かしい光景だなー」

 

「そうですか?…そうですね。思えば対テロ組織のシロさんのモデルができた時からこんな感じでしたね」

 

「これは妹分が抜けきるのは当分先かな?」

 

「いえ、思いのほか早いかもしれませんよ?」

 

ばあちゃるに全力のぱいーんを送り、そっぽを向くシロ。そんな二人を少し離れた位置で、顔を赤くしたメンテちゃんとアイは談笑しながら見ていた。その眼差しは、どこか子を見る保護者のような視線で、二人のこれからの未来を願っていることが読み取れる。飛ばされたばあちゃるを介護するように、アイドル部の子たちがばあちゃるへと駆け寄る。できれば、彼女たちの未来に光が溢れる様にとメンテちゃんは祈りをささげた。

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