馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ある日曜日のとある食堂
日曜日の昼食時間、書き入れ時にもかかわらずあまり客足が少ないその食堂は実は美味しいと近所では評判だ
そんな食堂に、日曜日の昼に良く訪れるようになった男女がいるようで…?



(後日談)


ありのままの彼と歩みたい(神楽すず)

 

「頼み事、ですか?私に?」

 

「そうっす」

 

日曜の正午を少し過ぎたころ。いつの間にか定番となった、日曜朝練の後の定食屋にてプロデューサーである『ばあちゃる』との昼食。その最中に珍しくもない気まずそうな顔でばあちゃるは、『神楽すず』に頭を下げた。

 

「実は最近視力が落ちてきたようで、メガネの購入を検討してるっすよ」

 

「へぇー…もしかして老眼ですか?」

 

「違うっすよ!?流石にこの年で老眼はまだ早いっすよ!?」

 

「けど老眼の始まりって確か30代って聞きましたよ」

 

「マジンガー!?え、これ老眼なんすか!?」

 

相も変わらず、いいリアクションを取るばあちゃるにすずは自然と笑みを浮かべる。内容的に割と深刻と受け取ったばあちゃるは、そんな笑うすずに不満そうな顔を浮かべた。

 

「もう!そんな顔しないでくださいよプロデューサー!冗談ですって!」

 

「えぇ…とても冗談っぽく聞こえる内容じゃなかったっすけど」

 

「まあネットで見た情報なので、もしかしたら本当かもしれないですけど」

 

「えぐー!?やぁっぱ洒落になってないじゃないっすか!?」

 

「ははは!!」

 

同じリアクションをするばあちゃるに、今度こそ声を出して笑ってしまう。無邪気に笑うすずの顔はどうにも憎めなくて、ばあちゃるは誤魔化すように後頭部を掻いた。

 

「あ、そうやって頭を掻いてるとハゲるとも聞きましたよ」

 

「なぁんで急にそんなこと言うっすかね!?もしかしてすずすず、ばあちゃる君のことが嫌いなんすか!?」

 

「ははは!!何言ってるんですか!大好きに決まってますよ」

 

「うッ!…むぅ…そうっすか」

 

ストレートにそういわれてしまえば今度こそ何も言えなくなる。ばあちゃるは頬を少し赤く染めてそっぽを向いた。そんなばあちゃるの姿が物珍しいのか、すずは変わらず笑顔のままばあちゃるも見つめる。そんな二人に、正面から声をかけるものがいた。

 

「相変わらず熱々じゃのぅ」

 

「あ、竜胆さん!お邪魔してます!」

 

「はいはいはい。ミコミコ、お邪魔してるっすよ」

 

カウンター席の奥にある厨房から顔を出すのは『竜胆尊』だ。その姿は配信などで見られる着物ではなく、厨房に合う割烹着姿となっている。

 

「にしてもまさかミコミコがこんな所でアルバイトするようになるなんて思っても見なかったっすねぇ」

 

「ふふふ。これもばあちゃるたちのおがげじゃよ。一昔を思えば、今みたいに妾が人里でこのようにして働くなぞ不可能だったからのう」

 

「はいはいはい。それはミコミコの努力の結果でもあるっすよ。ミコミコが人と交流したいと思って活動してきたからこそ今があるんすよ」

 

「それにの」

 

「それに?」

 

「ここは夜には居酒屋になるんじゃよ」

 

嬉しそうに笑う尊にすずは苦笑を浮かべる。

鬼である尊はVTuberとなった理由は人の文化に興味を持って触れてみたいというのがきっかけである。しかし自分の立場上に人と交流することは出来なかったが、VTuberとして活動していくにつれて、種族に対する偏見も減っていったため、ついに文化に触れるためにこの食堂にアルバイトをことが出来たのだ。ここで初めて顔合わせた時に、嬉しそうに話していたことをばあちゃるは思い出した。

 

「それはそうと、そう言ってくれるとやはり嬉しいのう。よーし、今日はさーびすしてやろうかの」

 

「本当ですか!?」

 

「ふふふ。すずは本当に気持ちよく喜んでくれるのう」

 

目を輝かせて喜ぶすずに尊は嬉しそうに笑みを浮かべる。そして一言残し、尊は厨房の奥へと消えていく。これから出てくるであろう日替わり定食の内容に胸を弾ませながら、すずは話の発端を思い出した。

 

「そういえば」

 

「ん?」

 

「結局プロデューサーの頼み事って眼鏡を買うことでいいんですよね?」

 

「そうっすそうっす。このままじゃ書類整理とかのデスクワークに支障をきたしそうだったんでね、早急に何とかしようと思ったんっすよ」

 

そう言うばあちゃるに、すずは一つ疑問が浮かんだ。

 

「けど、なんで私なんですか?確かに私は眼鏡かけてますけど、オシャレを込みとなると、なとりさんや、もちさんの方が最適だと思いますよ?」

 

「はは」

 

「? どうしたんですか急に笑ったりして」

 

急に零れた様な笑い声を上げるばあちゃるにすずは首を傾げる。その様がより笑いを誘ったのか、ばあちゃるは未だに零れる笑いを口元を抑えながら答えた。

 

「いや、いやいや。すみませんっすね。ただ…」

 

「ただ?」

 

「すずすずもばあちゃる君と同じことを言うんだなって思っただけっすよ?」

 

どこか楽しそうに告げるばあちゃるに、すずは何のことかと思ったが、すぐに思い至る。それは、数日前にばあちゃると共に発表会に使用するドレスを選んだ時のことだ。

 

『…その、プロ…ばあちゃるさんに選んでほしい。そう思ったんです』

 

「…あ」

 

当時の自身の発言を思い出して、急に襲う羞恥心にすずは顔を俯かせた。頬が熱い。落ち着かないくらいに動悸が激しい。それを誤魔化すように、視線を四方八方に泳がせるていると、横にいるばあちゃるの優しい笑顔が視線に入ってきた。

 

「確かに、なとなとやもちもちにお願いすれば、素敵なものを選んでくれるかもしれないっすね。けれど、ばあちゃる君はすずすずに選んでもらいたいと、そう思ったっすよ」

 

「も、もう!!ばあちゃるさんのイジワル!!」

 

当時の自分の発言を少しアレンジして意地悪そうに言うばあちゃるに、すずは照れ隠しの様に小さく拳を振り落とした。力が入っていないそれは、特に防がれることも無くばあちゃるに襲う。ぽふ、と優しくばあちゃるの肩に叩かれた音から、どれほど力が入っていないのかは丸わかりだ。そんな優しい反逆に、ばあちゃるはお返しと言わんばかりにすずの頭を優しく撫でた。

 

「ま、そんなわけっすから。よろしくお願いするっすよ?」

 

「うううううううううう!そう言われたら断れないじゃないですかぁ!!」

 

「はははははは!」

 

「この…スケコマシ!」

 

「スケコマシ!?え、ばあちゃる君がっすか!?」

 

「それ以外誰がいるんですか!すけこまし!バカ!変態!ばあちゃる!」

 

「ちょいちょーい!?ばあちゃるは、ばあちゃる君の名前であって、罵倒じゃないっすよ!?」

 

「ばあちゃるがゲシュタルト崩壊しそうじゃのぅ」

 

周りから向けられる生暖かい視線なんて何のその。痴話げんかを開始するすずとばあちゃるに、尊は呆れ半分にトレーを二人の前に置いた。

 

「ほれ、日替わり定食二人前じゃ。ばあちゃるの方はご飯大盛りになっとるからの。あと、一緒についておるやっこはさっき言った妾からのさーびすじゃよ」

 

「はいはいはい。やっことはまた、渋いのきたっすねぇ」

 

「ありがとうございます!…今日は牛皿定食なんですね」

 

「なんじゃ。ばあちゃるはやっこは嫌いか?もったいないのぅ。酒と最高に相性がいいのに」

 

「いやいやいや。今から昼で合ってお酒を飲むわけにはいかないっすね。あと別に嫌いってわけじゃないっすよ。お酒に合うのも全力で同意するしかないっすね、完全に」

 

「そういえばちえりさんもやっこと日本酒が合うって親戚が言ってたと言ってましたね」

 

「日本酒にやっこ…くぅ!俄然、飲みたくなる組み合わせよのう!」

 

カウンター席に設置られているポン酢を取りやっこに少々かけながら、ばあちゃるは尊に応える。そのポン酢はそのまま横のすずに渡した。

お酒が話題に上がったためか、尊はどこか恋しそうに何かを思い浮かべながら宙を見た。その表情から、きっと今夜の晩酌のことでも考えているのだろうと、解釈した二人は尊をそのままに手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

意識せず合わさる言葉に、二人は自然に笑みを浮かべた。割り箸を割って、一口目に味噌汁を口につける。適温に温かいそれは、喉を通り身体に熱を与えた。それを二人は『美味しい』と思いながら口を放す。その時、ばあちゃるの携帯端末が、ありきたりな着信音が鳴り響く。それに小さく顔を顰めながら携帯端末を取り出し、発信者を確認する。

 

「誰でした?」

 

「メンテっすね。ごめんなさい。ちょい席を外しますねー」

 

「了解じゃ。かわりに肉の一切れ貰うからの!」

 

「店員っすよね!?」

 

「はっはっは!相手が待っておるのじゃろ?ほらほら行った行った!」

 

笑いながら追っ払う仕草をする尊にばあちゃるは小さくため息を吐いて店を出ていく。さすがに冗談ったのか、尊はばあちゃるの皿から何を取る仕草はしない。それも当然か、と思いながらいなくなった隣に小さな寂しさを覚えながらすずは箸を進めた。

 

「それですずよ。先程はどうして騒いでおったのじゃ?」

 

「んぐッ!?き、聞こえてたんですか!?」

 

「むしろあんな大声で言いあっておいて気付かれないと思う方が異常じゃよ。ここ、そんなに広くはないからの」

 

そう言って見直す店内は尊の言葉の通り広くはない。さらに加え、訪れている客もすずから見て見慣れた人物たちだ。フランチャイズしていない個人経営の定食屋故の客の少なさだと、前にばあちゃるが言っていたことをすずは頭の片隅で思い出した。

 

「店の話は置いといて、ばあちゃると何の話をしてたのじゃ?」

 

「なんか野次馬みたいですよ、竜胆さん」

 

「否定はせんよ。実際、野次馬根性で聞いとるもんじゃからなぁ。何より、妾とて女子じゃ。恋愛話には興味があるんじゃよ」

 

楽しそうに女の子している尊にすずは観念したように箸を置く。その行動に、尊は期待の眼差しをすずに向けた。

 

「なんてことないですよ。ただ…その…買い物のお誘いを受けただけです」

 

「ほう!デートのお誘いではないかの!なるほどなるほど。すずが嬉しそうなのも納得じゃのう。やけに乙女の顔をしとるぞ?」

 

「乙女の顔って何ですかぁ!」

 

過去に言われたことない指摘に、顔を真っ赤にしてすずは言い返す。その反応に、尊は楽しそうにコロコロと笑う。それもそのはず、すずのその顔は尊の指摘通り恋する乙女の表情そのものだったからだ。

 

「にしても、あのばあちゃるが共に買い物のお誘いとはのぅ…のうすずや」

 

「…はい?」

 

拗ねた表情にすずに、流石弄りすぎたと尊は反省した。

 

「そう拗ねるな。…買い物の最中な。何かあったら、ばあちゃるに寄り添ってやってほしいのじゃ」

 

「はい?えっと、どういうことですか?」

 

「ふふふ。なあに、その時になってみればわかるさ」

 

意味あり気に笑う尊に、すずは首を傾げることしかできない。問い詰めようと尊に視線を向けると奥の入口からばあちゃるが戻ってくるのが確認できた。

 

「はいはいはい。あ、すずすず先に食べてても良かったのに」

 

「あ、いえ、ちょっと竜胆さんと話が弾んで」

 

「さてさて、お邪魔虫は退散するかの」

 

「あ、ちょ!?」

 

焦るすずの言葉など知らんふりしながら、尊は厨房に戻る。元より客が少ない店だ。事前に言っていれば多少の融通が利く。厨房にいた店長に謝罪の一言を伝えて、改めて業務の一つである配膳に戻った。

 

「ま、すずなら無用な心配じゃろうな」

 

視線の片隅には談笑しながら、楽しそうに食事を勧めるばあちゃるとすずの姿を捕らえる。幸せそうな二人の姿に、尊も釣られて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「それで?プロデューサーはどんな眼鏡がご希望ですか?」

 

大手眼鏡店に着いて早々にすずは、ばあちゃるへそう問いかけた。店内には色とりどりの眼鏡が展示されている。種類も多種多様で、その多さにばあちゃるは少し驚き、困惑しながら答える。

 

「どんな眼鏡と言われてもっすね…そもそも、眼鏡のことについて詳しくないっすからどんなものがあるのかすら分からない状態っすよ」

 

「ふむふむ…なるほど」

 

ばあちゃるの言葉にすずは二、三度頷く。そして、近くに展示されているフレームが卵型になっているものを一つ手に取った。

 

「これは定番の『オーバル型』と呼ばれる方の物ですね。見たまんま、レンズのフレームが卵の形をしています」

 

「あー…なんというか、よく見るやつっすね」

 

「そうですね。先程も言いましたけど、定番中の定番と言っても差し支えないです。あと、ピノさんがピノラボの時とかに掛けている眼鏡はこれだと思いますよ。ほら、この下だけフレームがある型とか一緒じゃないですか?色は違いますけど」

 

「ああ!言われてみればそうっすね!」

 

そう言って持っていた眼鏡を置いて、再び取り出したのは青色の上の上フレームがないオシャレな型だ。すずの言葉にピノが稀に掛けている眼鏡も、今すずが持っている眼鏡の赤色バージョンとよく似ていることを思い出した。

そして続けて持ち出したのは先程よりもレンズが大きくなっている型だ。レンズが逆三角形近い楕円型となっており、どことなくレトロな雰囲気が感じられる。

 

「これは日本でも昔からある定番の型ですね。通称『ボストン型』。アメリカのボストンで流行したことについた名ですね」

 

「お、これは見たことがあるっすよ。確か…なとなとと、もちもちが掛けているタイプっすよね?」

 

「そうですそうです!お二人がお揃いにしたとおっしゃっていたのでプロデューサーの予想通りですよ。そしてつぎは…あ、こっちか」

 

ボストン型の眼鏡を元の場所に戻して辺りを見回す。そしてそこから少し離れた位置にある別の眼鏡を手に取る。今度は先程の二つの眼鏡とは違い、どこかスマートな形をしていた。

 

「これは『スクエア型』ですね。先程までのと違っていて、長方形の形をしています」

 

「あ、これはすずすずが掛けているやつっすよね」

 

「はい!私もお気に入りの型なんですよ!なんというか…こう、スマートって感じでかっこよくないですか!?」

 

「…つくづくすずすずって感性が男の子っすよねぇ」

 

「なんでそうなるんですかぁ!?」

 

ばあちゃるの言葉に、すずは涙目で文句を言う。ばあちゃる自身もスクエア型の眼鏡はすずと一緒で『かっこいい』と素直に思った。しかしそれは、男の子特有の感性だとばあちゃるも理解している。だからこそ、すずのその言葉がまさに男の子で、ばあちゃるは笑いを堪えることしかできなかった。

 

「もう!笑いすぎですよ!」

 

「ふふふ。はいはいはい。すみませんっすね」

 

「反省してる感がまるでないですよね、それ…もう、次いきますよ」

 

頬を膨らまして怒るすずは、未だに笑いを零すばあちゃるを無視して次の眼鏡を手に取った。

 

「次はですね『ウェリントン型』と呼ばれる型ですね。これは最初に紹介した二つと似ていてレンズが大きい型ですよ」

 

「…ああ!それって確か、過去に大物俳優が着けていたことで有名なやつっすよね!?確かどこかのニュースで取り上げいたのを覚えているっすよ!」

 

「え、そうなんですか?昔からある型とは知ってますけど、それは知らなかったな」

 

誰だったか、思い出そうとするが、どうにも喉につっかえた感じがあり、答えが出ない。このままでは袋小路に嵌ってしまうと経験上理解していたばあちゃるは、すずに次の紹介を促した。

 

「最後はこの『ラウンド型』ですね。通称丸眼鏡と見た目も分かりやすいですし、これについては詳しい説明はいらないですよね?」

 

「はいはいはい!最近従業員になった彼と同じやつっすね!ばあちゃる君もこの前に挨拶したっすよ」

 

「え!?あの人ホントに従業員にいるんですか!?」

 

「はいはいはい。昨日、昼寝してるのを見つかって減給されてたっすよ」

 

マジですか…と零れたすずの本音にばあちゃるも苦笑を零す。本人でないにしても、彼と同じ姿が実際に従業員として働いていたのならそれは驚愕するしかない。現にばあちゃるも目撃した当日は二度とは言わず、五度見くらいはした。

 

「一通り説明しましたけど、何か気にいるのはありました?」

 

「うーん。ばあちゃる君はオシャレとかよくわかんないっすから、正直言ってピンとこないっすね。もう掛けれるのであればなんでもいい的な?」

 

「あー…その感覚、わかります。私も友達と洋服とか見に行くと同じ感じになりますね」

 

「…女の子としてそれはどうなんすか?」

 

「きっとダメなんでしょうね」

 

諦めたように笑うすずに、ばあちゃるは苦笑を零した。先日、ドレスを買いに行ったときにも、あそこまで嵌るとは思わなかったと言っていたのを思い出す。あの時は、特別とも言っていたので普段はすずの言う通り、オシャレにそこまでこだわるタイプではないのだろう。透けて見える少年のような、されど恋を知った少女の姿に、ばあちゃるは任せてみたいと思った。

 

「すずすずのオススメは何すか?」

 

「私の…オススメですか?」

 

「そうっすそうっす。きっとこのままばあちゃる君が悩んでもいいものが見つかるとは思えないっすよね。ならいっそ、すずすずに選んでもらいたいと、そう思ったっすよ」

 

「…すけこまし」

 

「ちょいちょーい!?またそれっすか!?」

 

「事実じゃないですかぁ!」

 

熱を感じる頬を悟られないように、すずはばあちゃるに背を向ける。そしてなんとか吐き出せた罵倒に、ばあちゃるはいつもの様に返してくれた。それが何故だか嬉しくて、熱くなった頬のまま、すずは笑みを隠せずにいた。

その時、ふと視線の先にとある眼鏡が映った。それはスクエア型の眼鏡で上フレームはなく、下フレームとナイロン糸でレンズを固定している形している。それは今すずが掛けている眼鏡とよく似たフレームをしていた。

無意識に振り返る。その先にいたばあちゃるが、もしこの眼鏡をかけたのならどうだろうか。自分の掛けている眼鏡とよく似た色違いの眼鏡を掛けるばあちゃる。

そして、その横に立つ自分の姿。それを想像すると自然と胸が高鳴る。気付くとすずは、その眼鏡を手に取って、ばあちゃるに駆け寄った。

 

「…これなんて、どうですか?」

 

「はい?…ほうほう。スクエア型の…ってこれ、すずすずと色違いバージョンみたいなやつっすね」

 

「…いや、でしたか?」

 

「そんなわけないっすよ。濃い目のオレンジ色がなんというか…あのライブを思い出して、ばあちゃる君的には全然好きっすよ」

 

「そうなんですよ。この色、あのライブで最後にプロデューサーへのコールで完全に目に焼き付いちゃって…この色しかないって思ったんです」

 

同じ眼鏡を挟んで、当時を思い出しながら優しい笑みを浮かべる二人。下心もあったのもその通りだが、何故かこの色しかないと思ったのも事実だ。

購入する物は既に決まったも同然であった。

 

「よし。じゃあばあちゃる君はお会計してくるっすから、すずすずはお店の外で待っててくださいっすね」

 

「え?いや、一緒に行きますよ?」

 

「はいはいはい。視力検査とかで有るっぽいですし、長くなりそうっすからやっぱ待っててくれた方が助かるっすね」

 

珍しく拒絶の意思を強く出すばあちゃるに、首を傾げる。ここまで拒絶するのは、それこそ結ばれる前のただのアイドルとプロデューサーの関係の時以来だ。訝しがるすずに、ついにばあちゃるは振り切るように足を進めた。

 

「そういうわけっすからお会計行ってくるっすね!」

 

「あ、ちょ!?」

 

逃げるようにレジに向かうばあちゃるに、より怪しさを感じてしまう。どうも納得できずにばあちゃるに視線を向けていると、不意に横から聞こえる話し声が耳に入ってきた。

 

「さっきのイケメン見た!?」

 

「ああ、今レジに走っていった男でしょ?」

 

「ん?」

 

聞こえてくるのはどうもばあちゃるのことのようだ。レジから離れていく二人の女性に、すずは何故か聞き耳を立ててしまう。

 

「白髪で!あそこまで顔がいいのなんて滅多にいなくない!?こりゃお誘いするべきでしょ!」

 

「相変わらず面食いね、あんた」

 

ばあちゃるの容姿の内容だが、それにどこかすずは自慢気になってしまう。

それは仕方がないことだ。何せ自慢の愛しい人が、世間的にも褒められていることでもある。それを喜ばないほど、すずは器量は小さくなかった。

 

「けど、あの男はやめておきなさいよ」

 

「えー!?なんでよ!?」

 

「だってあの男、顔に傷跡があったじゃない。絶対碌なやつじゃないわよ」

 

「…は?」

 

腹の底から出た怒気が込める低い声がすずの口から零れる。

確かにばあちゃるの顔には大きな傷跡がある。それは過去に46号を連れて研究所を抜け出すために出来た傷だ。それは本人から聞いており、すずも知っていたことでもあった。

何よりすずは、それを名誉の傷でカッコイイとも思っている。それを醜い?碌なやつじゃない?憶測で愛する人を語る二人の女性に、怒りで腸が煮えくり返りそうになる。

感情に任せて動こうとしたその時、食堂で尊に言われたことを思い出した。

 

『買い物の最中な。何かあったら、ばあちゃるに寄り添ってやってほしいのじゃ』

 

「…あ」

 

思えば食堂での尊の言葉はどこかおかしかった。

まるでばあちゃるが誰かと買い物をすることを嬉しそうにするその姿は親の様だ。

尊とばあちゃるがいつからの付き合いかそれは分からないが、あの反応から短い関係でないのだろう。

そしてあの言葉から、ばあちゃるが素顔で誰かと買い物をすることに誰よりも喜んでいることが見て分かった。

 

「…そういうこと、だったんですね」

 

そう感じてくれた尊から言われた言葉。その意味を、その願いをすずは完ぺきに理解した。ならば、後は行動に移すだけだ。高鳴る鼓動を胸に、すずは一歩足を踏み出す。

 

「すぅ…『ばあちゃるさん』!」

 

勢いを込めて、すずの透明感がある叫びが店内に響く。それはまるで、店内にいる全ての人物に聞こえるような叫びだ。振り向いて驚くばあちゃるの腕に、すずは抱き着いた。

 

「す、すずすず!?」

 

「待っているのは性に合わないので、一緒に並びますよ!」

 

周りに、『この人は私の恋人だ』と言わしめんばかりにばあちゃるの腕を抱きしめる。羞恥もある。動機もうるさい。けれど、それよりも。彼の隣に居たい。すずはそんな心の言葉に従った。

 

「いえ、ですけど!?」

 

「それに!」

 

困惑しながらも、離れようとするばあちゃるにすずはそっと頬まで伸びる傷跡をそっと撫でた。

 

「この傷跡を含めて、全てが好きなんです。一緒にいちゃ、ダメですか?」

 

「ッ!?…もう、敵わないっすね」

 

見透かされたその言葉に、ばあちゃるは諦めたように…いや、納得したように肩を落とす。

彼女の評判を気にしての行動であったが、どうやら無粋のものとなってしまった。

しかし、その心には落胆よりも歓喜で溢れていた。

 

「その、なんというか…」

 

「うん?」

 

「こうしてると恋人みたいですね!?」

 

「…恋人っすよ」

 

行動した後に照れるすずに呆れ半分の苦笑をしてしまう。そして、そんなすずに応えるように、抱かれた腕の手を、そっと彼女の手に重ね、指を絡める。俗にいう『恋人繋ぎ』だ。

 

「…これからも、よろしくお願いします」

 

「それは、こっちのセリフっすよ、すず」

 

お返しと言わんばかりに、彼女の名を呼ぶ。どうやらそれは予想外の一撃だったようで、すずはさらに頬を赤くして視線を四方八方に泳がせる。恋を覚えて、共に歩んでくれる彼女と進む未来はきっと楽しいものだろう。ばあちゃるは、そんな未来に思いを馳せた。

 

なお、会計時に店員から『お熱いですね』と言われ、すずがさらに暴走するのは今の二人には知らないことだ。

 

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