馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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恒例となった月曜日の放課後
いつもの様に部室に集まるアイドル部であるが、その日はどうやらゲストがいるようで…?

(番外編)


彼についての私たちの定例会リターンズ

「はい。それじゃあ毎週恒例の週初めの定例会を開始しまーす」

 

少し投げやりにも聞こえるような、そんな言い方で生徒会長である『夜桜たま』は宣言した。

いつも通りの月曜日の放課後。アイドル部の部室には、同じようにいつも通りのアイドル部のメンバー12人全員が一堂に会してる。しかし、今日はそこにいつもとは違う面々がいた。

 

「今日から参加することになりました我らが先輩シロちゃんと、その妹…妹でいいんだよね?」

 

「少し違うかもだけど…うん、それで問題ないよ」

 

「そういうわけで妹の『ロッシー』ちゃん!さらにさらに、『メリーミルク』ちゃんも来てもらいました!はい、拍手!」

 

「え、えっと!ロッシーです!」

 

「メリーミルクです。皆様、よろしくお願いしますね」

 

たまに促されて『電脳少女シロ』とロッシー、そしてメリーミルクが立ち上がり、小さく礼をする。そんな三人を迎え入れるように、各々がたまの言葉の通りに拍手をして受け入れた。立ち上がって見えるその光景に、メリーミルクは嬉しそうに笑みを零す。

 

「どったのメリーちゃん?急に笑ったりして」

 

「いえ、まさか私もこの場に呼ばれるなんて思っても見なかったので、今の皆さんを見て嬉しくなったのです」

 

「受け入れるなんて、そんなの当然ですわ!メリーちゃんも私たちの大事な仲間なんですか!ね!ちえりおねえちゃん!」

 

「え!?う、うん!もちろん、ちえりもそう思うよ!?」

 

やけにテンションの高い『カルロ・ピノ』に少し押されながらも、『花京院ちえり』は同意の意味を持って頷く。そんなピノの変なテンションに『八重沢なとり』は首を傾げた。

 

「…なんかピノさんのテンション高くないですか?」

 

「ほら、メリーさんにロッシーちゃんと年下が二人も同時に加入しましたから張り切ってるんですよ」

 

「なるほど!お姉ちゃん振りたいってことかぁ」

 

「そこ!聞こえてますよ!!」

 

「やべ、見つかった」

 

なとりの問いに答えるのは横に座っていた『神楽すず』だ。ふと零れたなとりのひとり言に、すずは自分の憶測を伝える。その仮説に自信があるのか、すずは小声ながらも力強く言い切った。それを横で聞いていた『金剛いろは』は弄りネタを見つけたように意地の悪い笑みを浮かべる。しかし、それらはしっかりとピノの耳にも届いており、小さくお怒りの言葉が飛んできた。

 

「それで、この…定例会、だっけ?どんなお話をするの?」

 

「定例会…というか、ミーティングと言った方が合っている、と思います」

 

「というと?」

 

そんな四人を余所に、シロはとある疑問を進行役の生徒会組に問う。それに応えたのは意外にも書記である『木曽あずき』だ。言い直しみたいなその言葉に、シロは小さく首を傾げながら続きを促した。

 

「会長の言う通り、この定例会は毎週行っております。週初めの月曜日に開催で、内容はあらかじめ決められたスケジュールの確認ですね」

 

「ほうほう」

 

「ふーさんたちの配信は基本自宅だからね。ならそのスケジュール確認とか、調整とかも学園でやった方がいいってうまぴーが言ってこの定例会が始まったの」

 

あずきから引き継ぐように同じ生徒会組の『北上双葉』が続く。道理にもなっているし、馬にしてはいい仕事してるとシロは納得する。そしてもう一つ、今の今まで目を逸らしてきた事実に向き合うことにした。

 

「…ところで、なんでめめめは縛られてるの?」

 

「シロちゃーん!!!助けて―!!!」

 

椅子に縄に縛りつけられた状態で『もこ田めめめ』は敬愛するシロの助けを乞う。あまりにこの場にミスマッチなめめめの状態に、さすがのシロも今の今まで目を逸らさずにはいられなかった。

 

「あれはね、めめめちゃんが悪いんだよ?」

 

「めめめがわるい?」

 

そんなシロの問いに答えるのは予想外にも『ヤマトイオリ』だ。イオリの言葉に同意するように頷く双葉とたまに、シロは更に首を傾げた。

 

「シロちゃんって今プロデューサーちゃんと同棲してるから知ってると思うけど」

 

「ど、同棲じゃッ!?」

 

「今更照れなくても大丈夫だよ?それで話を戻すけど、その同棲してるなら知ってると思うけど、めめめちゃんってプロデューサーちゃんの家に通い妻してるでしょ?その罰があれなの」

 

「むぅ…」

 

照れ隠しのシロの行為をあたかもお見通しと言わんばかりの慈愛の笑みを浮かべる『猫乃木もち』にシロは不貞腐れることでしか返すことが出来なかった。

 

「お仕置きならいっぱい受けてるじゃんかぁ!なんで定例会の度に縛られなきゃいけないんだよぉ!」

 

「めめめちゃん毎日じゃん!絶対イチャイチャしてるじゃん!私もうまぴーともっと一緒にいたい!」

 

「イチャイチャなんてしてないよ!?」

 

「え?羊のおねえちゃんいつもお味噌汁の味見をお馬さんにお願いしてるよね?味見用の小さなお皿に入れて、お馬さんに渡して『どう?』って。それってイチャイチャじゃないの?」

 

「ロッシーちゃぁん!?!?!?!?」

 

「へぇ、そぉなんだぁ」

 

「これはまだ余罪がありそうですね」

 

「…めめめちゃん、吐いた方が楽だよ?」

 

「あ、あうあうあうあうあう…そのぉ、これには訳があってですね!?」

 

予想外の伏兵にめめめの顔は一気に青ざめた。なにせそれに反応して、めめめを囲むように立ちふさがるのはばあちゃるガチ勢と名高い生徒会組だ。特に真正面に立つたまの瞳にはハイライトが消えている。命の危機だ。

 

「ねぇねぇロッシーちゃん。もっとそういうこと教えてくれない?お礼に私に出来ることなら何でもしてあげるよ!」

 

「いろは!聞き出そうとしない!!」

 

面白半分で引っ掻き回そうとしてるいろはを大声でめめめを窘めようとするが、その顔は周りにいる生徒会組のせいで真っ青だ。圧が凄い。

 

「ま、そんなわけでめめめちゃんはお仕置き中なの」

 

「な、なるほど」

 

後方の修羅場なんてなんのその。苦笑するもちにシロは触れるべきではないと思い、めめめから視線を逸らした。

 

「それでさくたまちゃん。今日は何かお知らせとかあるの?」

 

「え?あ、ちょっと待ってね。…んー、特にない、かな。コラボとかイベントもないし、今のところはスケジュール変更もないよ」

 

「あ、そうなの。じゃあなんでシロぴーまで今日いるの?」

 

軌道修正をしたのは『牛巻りこ』。続けて問われるその疑問はもっともだと、シロは頷いた。

 

「馬から聞いていると思うけど、シロとロッシーちゃんが監視対象なのは知っているよね?その監視者が遺憾ながら馬といいうことも」

 

「あの事件での処置故でしたよね?結果的には被害は最小限でしたけど、やはり罰は必要だったんですね」

 

「そこは仕方ないよ。あそこまでやったのにお咎めなしは流石に無いもん。今の状態だって馬とアイちゃんのおかげで破格の境遇だよ」

 

件の事件『やらしちゃったシロちゃん事件』の主犯でもあるシロの処罰は本人が言う様に破格のものだ。街一つの規模を数時間に及ぶ停電を起こす様な事件を起こしたのだが、その処罰が四六時中監視されるというモノである。大人の事情もいくつか絡んでくるが、その功績は『ばあちゅる』と『キズナアイ』の功績によるものが大きい。なので本来シロは監視者でもあるばあちゃるには頭が上がらないはずなのだが、ついいつもの感じに辛辣な対応をしてしまう。そんな辛辣なシロにも、ばあちゃるは何も言わず受け入れてくれるため、甘えてしまっていることにシロは内心頭を抱えていた。

閑話休題

脳内に浮かぶばあちゃるの顔を振り払い、説明を続きをするために、りこたちの方へ視線を向ける。急に首を振るシロに、りこともちは顔を見合わせて首を傾げた。

 

「そ、それでね!監視者は馬なんだけど、馬もプロデューサーの仕事があるからシロと四六時中一緒ってわけにはいかないでしょ?」

 

「言われてみればそうですね。確か、仕事中は監視者をメンテちゃんにお願いしてるんでしたっけ?」

 

「そうそう。だけどね、ここ『ばあちゃる学園』は例外なの」

 

「例外、ですか?」

 

オウム返しをするピノに、シロはニコリの笑みを浮かべた。

 

「そうなの!もともと馬についてきた元レジスタンスや、政府の人たちが総力を挙げて作ったこの学園の防犯システムは本当にすごくてね。それを応用して、学園内であればシロは自由に行動できるようになってるの!さらにアイさんやエイレーンさんの助力のおかげでそのシステムは万全なものになったから政府からのお墨付き!」

 

「ちなみにお馬さんは今別件のお仕事で事務所にいるよー」

 

『優勝した!』と勝気に笑顔を浮かべるシロの横に、ロッシーが付け足すようにばあちゃるの現所在を付け加える。シロとロッシーが学園に入れる理由。そして、その監視者であるばあちゃるの所在がわかり、アイドル部の面々は納得したように頷いた。

 

「…お仕事と言えば、メンテちゃんさんから面白いものを貰いました」

 

「面白いもの?」

 

珍しく主張したあずきに双葉は首を傾げる。同じ生徒会仲間で共に行動することが多いあずきのことは、他の人より知っているつもりだ。こういった時のあずきは、悪戯を思いついた時と同じである。どこからか感じる嫌な予感と、対象が自分ではなかった時の愉悦に胸を膨らませながら、双葉は続きを視線で促した。

双葉の視線に頷き、いつもの様に空中モニターを起動する。そこに自分のPCを繋げた。

 

「メンテちゃんさんから、とあるお仕事で撮った画像を記念として送られて来たんですよ」

 

「あれ?最近お仕事なんてなんてあったっけ?」

 

「んー…あ!りこちゃんの『踊ってみた』だ!!」

 

「え、牛巻の?…ってああ!?ちょ、あずきちストップ!」

 

「時すでに遅し、と思います」

 

表示される画像が何なのか、それが予想できたりこはあずきを制止するが勿論間に合うわけがない。焦りながらも見たあずきの表情は、愉悦に浮かんでいたのをりこは確認する。そして表示された画像には、ばあちゃるとりこの姿が写っていた。

 

「わぁ!りこちゃんカワイイ!!」

 

「あ!すごいすごい!りこちゃんのアホ毛がハートマークですよ!カワイイ!!」

 

「これはこれは…なんとも、いい感じですね」

 

「こういうギャップに私弱いんですよね!最高です!」

 

「いつものアイドル衣装から露出が減っているけどそれ以上に溢れる魅力…これもまた趣、か…」

 

「どっちかというとてぇてぇなのではー??」

 

「なるほどぉ。お馬さんってこういった衣装も似合うもんなんですね…こんど爺やの執事服を拝借して…」

 

「なんとも可愛らしいですね。りこ様の表情も幸せに溢れていてこちらまで胸が暖かくなる素晴らしいものです」

 

「いろは知ってる!これメスの顔って言うんでしょ!?りこちゃんメスの顔してる!」

 

「うがぁー!!なんなん!?みんな寄ってたかってウチを苛めて楽しいんか!?特にいろはぁ!誰がメスの顔や!」

 

「…持ちネタを取られた北上さん。ここで一言」

 

「なんなん」

 

暴走するりこを、双葉とあずきはそのニヤニヤ顔を隠さずにそんな漫才を繰り出していた。

撮影現場だろうか、洋式の屋敷に設置されたソファにてりこは頬を染めて座っている。そのりこの手を両手で優しく包み込みながら、りこへ優しい表情を向けるばあちゃる。その表情に照れながらも、りこはしっかり向き合い嬉しそうに笑みを浮かべていた。

頬も真っ赤で、イオリの言う様に頭の上で跳ねているアホ毛は、りこの感情に釣られてかハートマークを描く。そんな二人を映す画像は、見てるこちらも幸せになるような、そんな気持ちにさせるほどに、りこの乙女な一面を全面に出した素晴らしいものであった。

 

「これシロのところにも送られて来たけどいい画像だよね。滅多に見れないりこちゃんの表情がこれでもか!ってくらい表現されてて、ロッシーちゃんと一緒に初めて見たと時、シロ、感動しちゃった。…正直、ちょっと羨ましい」

 

「え?シロお姉ちゃん、その日お馬さんが帰ってきたときにこれと同じことお願いしてなかったけ?」

 

「ロッシーちゃん?ちょっとお口チャックしようね?」

 

「シロぴーのところにも送られてるの!?なんでなん!?」

 

「メンテちゃんさんからは『幸せのおすそ分け』と一言付け加えられてましたね」

 

「メンテちゃぁぁぁぁぁぁんんんんん!!!!????」

 

混乱の中心にいるりこの叫びは空しく響く。敬愛する先輩のシロや、悪友のいろはたちから向けられる生暖かい目は、どうにもむず痒い。このまま終わるのは胸に籠る悔しさが許すことはないだろう。どうにかと視線を泳がせた結果。りこはとある人物を引きずり込むことにした。

 

「…ねぇ、こめっち。牛巻たち、友達だよね?」

 

「え?ええ。何当たり前のことを言ってるんですか?」

 

「なら…道連れにしてもいいよね?」

 

「はい?…ちょ、りこさん!?まさか!?」

 

「もう遅い!牛巻システム起動!対象はこの前細工したあずきちのパソコン!」

 

「え?」

 

言葉と同時に携帯端末を軽く操作すると、あずきのPCが変わった挙動をする。それは持ち主であるあずきも予想外のことだったようで、珍しく呆気を取られた声がその小さな口から零れた。焦るなとりと呆気を取られるあずきの二人を余所に、起動された牛巻システムは指令されたプログラムを、珍しく問題を起こさずに起動させて、空中モニターに別の画像を表示された。

 

「ストップ!ストップです!?みんな見ないでぇ!?」

 

「また風紀委員長が風紀乱してるよ」

 

「もう風紀なんてなくした方がいいんではないのでしょうか?」

 

「さすがにそれは無法地帯になりますよ!?」

 

「そうなったらすーちゃんが一番問題児になっちゃうね!」

 

「え?それってどういうことですか!?」

 

「あ、この前グループに一瞬だけ流れた画像だ」

 

「はいぃ!?どういうことですか!?」

 

「えっと、覗いていた時にもち様が撮ってまして…それをそのまま」

 

「そこの猫ォ!まぁた貴方ですかぁ!?」

 

「ベストショットでしょ!褒めても良いぞ?」

 

「誰が褒めるかぁ!」

 

立ち上がりもちを追いかけようとするが、それはちえりとイオリの制止によって阻止される。それをいいことに、もちは勝ち誇ったような表情を浮かべて、全力でなとりを煽った。

そんな二人の発端となった画像は、とある日の夕暮れが綺麗な美術室によって撮られた画像だ。真っ赤に染まった顔で強く目を瞑りながら、背伸びをしてばあちゃるとキスをするなとりが写されている。

恋のことになるとどこか意地っ張りになる彼女なりの一生懸命な姿は、りことはまた違った乙女の表情の一つだ。その表情、ばあちゃるの衣類を強く握る手、背伸びするその姿一つ一つが、普段見れないなとりの一面がこれでもかと写されていた。

 

「この時大変だったんだよねー。これ見た後のシロお姉ちゃんったらもうそれはそれは「…ロッシーちゃん?」はい!お口チャックします!」

 

「よろしい」

 

「というかなんてことしてくれるんですか、りこさん!?」

 

「友達だろ!?なら一緒に奈落に堕ちようぜ☆」

 

「巻き込まないでくださいよぉ!?」

 

「…そんなことよりも、あずきのPCに細工したことについて詳しく教えてほしいのですが」

 

ふくれっ面のあずきに、りこはなんてことの無いように笑いながら答えた。

 

「ああそれ?この前の事件の時にちょっと遠隔操作できるように細工しただけだよ。といっても牛巻の牛巻システムと特別なパスで繋がってるだけなんだけどね」

 

「不覚です。まさか牛巻さん如きに出し抜かれるとは…あずきもまだまだ修行不足ですね」

 

「如き!?あの、あずきち?もしかして牛巻のこと嫌い?」

 

「…ご想像にお任せします。ただ…」

 

「ただ?」

 

「このお返しは絶対にしますので覚悟しておいてください…と、思います」

 

「怖ッ!?」

 

「とりあえず牽制です」

 

その言葉と同時に、モニターは拡大をされたりこの画像となとりの画像がでかでかと表示される。物珍しいのか、他のアイドル部の面々は席を立ってそれをまじかで見つめ始めた。

 

「ちょ!?あずきち!?」

 

「なぁんで私まで一緒なんですかぁ!?」

 

「連帯責任…と思います。はぁい」

 

「「理不尽!」」

 

「牛丼コンビうるさいよ」

 

「そうだーそうだー!うまぴーをもっと観察させろー!」

 

「いっそのことプロデューサーだけ残して他を削除とか、そんなトリミングって出来ないんですか?」

 

「「扱い雑!?」」

 

「めめめにも見せろー!!」

 

驚愕する二人と縛られた状態で放置されるめめめを余所に、たまを筆頭に二人の画像は隅の隅まで観察されるのであった。

 

 

 

 

 

「コロシテ・・・コロシテ・・・」

 

「もう牛巻お嫁にいけないよぉ!」

 

「なんかりこさん、定例会の度にそれ言ってますよね」

 

「さ、さすがにやりすぎちゃったかな?」

 

完全に燃え尽きた牛丼コンビに、さすがのちえりも哀れな視線を送ってしまう。不憫だと思いながら視線を逸らすと、そこにはホクホクと満足顔のあずきと、やっと縄から解放されて身体を解しているめめめの姿が確認できる。今後、あずきには逆らうのはやめておこうと、ちえりは胸に誓った。

 

「定例会の度になとりんとりこぴんがよく出てくるけど、なんでだろ?」

 

「あの二人、恋愛に対してよわよわ過ぎるんだよ。それに反応もいいから、ついつい弄りたくなって話題に上がるんだと、ふーちゃんは思うな」

 

「あー、言われてみればそうだよね。うまぴーのことで弄ると二人とも、すっごいいい反応してくれるよね。だからついつい弄ったくなるのは、すっごいよくわかる。私なんて、まともに晒されたことないよ?」

 

「それはたまちゃんがうまぴーに関しては無敵な人になるからだよ」

 

「なるほど」

 

「納得するんだ!?」

 

ふーたまの漫才に本能からかツッコミを入れてしまうもち。

ひと段落して時刻を見るとすでに17時を回っている。本日の配信は20時スタートなのでそこまで焦る必要はないが、そろそろ帰宅した方がいい時刻なのは確かだ。

 

「あと一時間で完全下校時刻だし、今日はここらで解散の方がよくない?」

 

「へ?あー、もうそんな時間なんだ!イオリ、楽しかったから全然気づかなかったよー」

 

「分かる。定例会超楽しい」

 

「いろははずっと笑ってただけだろ!」

 

「ごんごんお姉ちゃん、お米お姉ちゃんとりこお姉ちゃんが弄られてるときずっと笑ってましたもんね」

 

もちの声を皮切りに、各々が変わらず談笑しながらもしっかりと帰宅の準備を進め始める。

連絡事項も伝達済み、何かあればプロデューサーであるばあちゃるから追って連絡が来るだろう。皆に続くように、たまも広げた文房具を片付け始めた。

 

「あ、シロちゃんとロッシーちゃんはどうするの?」

 

「さっき馬の連絡したから大丈夫だよ」

 

「お馬さんの方も仕事が終わって今こっちに向かってる最中だって」

 

「なら安心だね」

 

「帰りにスーパー寄らないとね」

 

ロッシーに微笑みながら伝えるシロの姿は相も変わらず愛らしい。そんな思考に染まりそうになる中、横にいた双葉がそのシロの言葉に首を傾げた。

 

「スーパーってことは、買い物?」

 

「そうだよ。ちょうど冷蔵庫の中が尽きちゃったから今日は三人で買い物予定なの」

 

「そういえば、今日の朝見た時も、ほぼすっからかんだったよね」

 

思い出すように呟くめめめに、双葉は納得したように頷いた。

シロの言葉を疑っているわけではないが、通い妻をしているめめめも同意するのであれば、それは確かな情報なのだろう。そこについて、それ以上追及する気はないのだが、双葉の胸の中に小さな嫉妬が湧いた。

 

「いいなぁ」

 

「ん?なにが?」

 

「うまぴーと一緒に買い物」

 

「「わかる」」

 

たまの問いに素直に答えると、めめめとたまは全力で同意するかのように、激しく首を縦に振った。

 

「私も過去に一回うまぴーと一緒にスーパーで買い物したことあるんだけど…あれ、最高だよ。野菜選びに悩んでるときにふと横見ると、私服のうまぴーがどこか楽しそうにこっち見てるの。天に召されると思った」

 

「なんか最近のたまちゃん、極まってない?馬組さんのヤベーやつみたいになってるよ?」

 

「馬組にとっちゃそれくらいまだまだだよ。せめてあのみたらし動画を周回できるようになればスタート地点かな」

 

「マジでヤベー奴だー!?」

 

「ちなみにふーさんはクリア済み」

 

「嘘でしょ双葉ちゃん!?」

 

「バイノーラルなら双葉にお任せ」

 

胸を張る双葉に、さすがのめめめも少し引かざる負えない。元々生徒会組はばあちゃるに対して極まっていたが、まさかここまでとは思っておらず、めめめは予想以上にダメージを受けてしまった。

 

「プロデューサーと買い物に行きたいのなら、普通にお願いすれば連れてってもらえますよ」

 

「あ、すずちゃん!」

 

帰宅の身支度を終えたすずが、話を聞いていたのか荷物をもって合流する。しかし、その内容はたまと双葉にとって聞き捨てなら無いものでもあった。

 

「お願い?まるでよく一緒に出掛けてるみたいな言い方だね?」

 

「え?ええ。ほら、私って管弦楽部じゃないですか。休日朝練で、日曜日に登校する時がよくあるんですよ。それで、プロデューサーが校内のカギの管理に来てる時があって、その時にはお昼を一緒にしてるんです」

 

「お昼を…」

 

「…一緒に?」

 

「あ(察し」

 

お昼を共にするという、実は生徒会組が未だに達成していないことを難なく言い放ったすずに、めめめは横から感じる二人の気配からこれからの展開が容易に想像ついた。

 

「ええ。それでその時に、後が暇なら一緒に買い物とかしてますね。買うものはその時でマチマチですけど。文房具とか、楽器のウィンドウショッピングとか」

 

「文房具に楽器、ねぇ…」

 

「ウィンドウショッピング、かぁ…」

 

「それはもうデートなのでは?」

 

めめめは訝しがんだ。

 

「…ちなみに、昨日は何買いに行ったの?」

 

「昨日ですか?…『ばあちゃる』さんの眼鏡を買いに行きましたね。なんでも視力が悪くなってきたから買いたいとのことだったので。…な、なんかこれ恥ずかしいですね!」

 

「恥ずかしがるより、目の前の現実に直視した方がいいよ、すずちゃん」

 

流れるようにツッコミを入れるが、残念ながらそれはすずに届いておらず、反応が返ってくることはなかった。

そして、すずの言う『眼鏡』については、めめめも心当たりがある。

本日の朝、いつもの様に朝食を作りにばあちゃる宅の門をたたくと、そこに出迎えてくれたのは朝の書類作業のためか、眼鏡をかけたばあちゃるが出迎えてくれたのだ。予想外のその光景に、当時のめめめは見事なまでに硬直して、ばあちゃるを見惚れることしかできなかった。

その時は、予想以上に似合っているばあちゃるの姿に変に緊張してしまい、眼鏡について言及することが出来なかったが、その原因が予想外のところで発覚したのだ。

そしてその原因であるすずに、めめめは確かに嫉妬の感情を向けていた。さらに追い打ちと言わんばかりに名前呼びだ。嫉妬しないほうがおかしい。

ならば今取るべき行動は一つ。横の二人と一緒にこの火種を大きくしようと、胸に決意を固めた。

 

「つまりすずちゃんは、わりと頻繁にプロデューサーと、二人で買い物してるってことでいいのかな?」

 

「そ、そう言われると照れちゃいますね!ええ、その…通り…」

 

まるで確認するかのように問うめめめに、すずはなんも疑いもなく頷く。頷いてしまった。その言葉を最後まで発するより前に、周りから向けられる鋭い視線に気づく。背中に、冷たい汗が伝った。

 

「あの、みなさん?」

 

「すーちゃん。それはちょっとズルい」

 

頬を膨らまして、滅多に見れないイオリの嫉妬の表情に、すずのオタク心が歓喜するが、今はそれどころではない。

善性の塊であるイオリですらこれなのだ。周りの様子など、手に取るようにわかる。後方には扉。肩には既に持った自分の荷物。すずのこれから行う行動は既に決まっていた。

 

「あの、えっと…きょ、今日は用事があるのでお先に失礼しますね!」

 

「逃げたいぞ!追え!!」

 

「何気にめめめお姉ちゃん並みに抜け駆けしておいて逃げるはズルいですよ、すずお姉ちゃん!!」

 

「そうですよ!大体眼鏡なら私に頼ってくれても良かったじゃないですかぁ!」

 

「それをいうとあたしも主張したくなっちゃうなぁ!とりあえずなとりん!今はすずちんを追うよ!」

 

「…どこかデジャヴを感じますね」

 

「そうだね。なんか大分前に似たようなことがあったような、なかったような…ってシロちゃん早!?」

 

「すーちゃん待てー!!」

 

飛び出したすずを追う様に、アイドル部とシロは続々と追いかける。そして取り残されたロッシーとメリーミルクは、呆気を取られながら顔を見合わせて、同時に笑った。

 

「ここは楽しいところだね!」

 

「そうですね。私もその一員になれたことが凄く嬉しいです」

 

「えへへ。ロッシーもだよ」

 

『ちょ!?なとりさん稲鞭は不味いですってあずきさん!?壁を走らないでください!?…たまさんが指示してる?…これは挟み撃ちする気ですね!こうなりゃ絶対逃げ切って見せますよ!!』

 

廊下から聞こえる、普段の学園では想像できない物騒な音がどうにも心地がいい。それを奏でるアイドル部とシロをBGMに、メリーミルクとロッシーは楽しそうに笑いあっていた。

 

なお、この追いかけっこはばあちゃるが戻るまで続き、ばあちゃるがシロとアイドル部を叱るというとても珍しい光景がその後に展開された。

 

 

 

 


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