馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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ばあちゃる学園の生徒会室
そこでは生徒会メンバーが放課後に集まって生徒の代表として学園のあれこれを決める大切な一室である
そんな生徒会室だが、どうやらほとんどの仕事が既に済んでおり、少し暇にしているようだが…?


(後日談)


彼と彼女にまつわる噂(メンテ)

「むー」

 

平日の放課後。生徒会の役員である『夜桜たま』、『北上双葉』、『木曽あずき』の三人はあと僅かな書類とのんびりと処理している。

学園長である『ばあちゃる』からのお手伝いも無くなってしまった生徒会組は、忙しかった時期と比べて仕事の量は非常に少ないものとなっていた。既にほとんど片付いているのか、双葉は片手にお菓子を、あずきはマルチウィンドウにて別の作業を同時にこなしている。

たまも目の前に開かれたワードのソフトと同時に、麻雀のアプリを開きながら、なんとも面白くない顔を浮かべていた。

 

「むー…」

 

「…」

 

「…北上さん」

 

「やだ。いっつも双葉じゃん。たまにはあずきちゃんがどうぞ」

 

「むえー」

 

聞け、と暗に伝えてくるたまに、あずきは双葉に応援を頼む。しかし、どうにも機嫌が悪い双葉は、駄菓子のミニドーナツを口に頬りながらそっぽも向いた。これは梃子でも動かない。そう理解したあずきは、小さくため息を吐いてたまに視線を向けた。

 

「…会長。いったいどうしたんですか」

 

「聞いてくれる!?」

 

「流し聞きで良ければ」

 

「えー!しっかり聞いてよー!?」

 

「仕事が残ってるでしょ!ふーちゃんも聞いてあげるからさっさと話す!」

 

「さっすがふーさん!愛してるー!」

 

『調子がいいんだから』と憎み切れない呆れた視線を向けるも、たまは軽く受け流す。こうなってはどうやっても、たまには敵わない。二年という短い付き合いから、それを理解していた二人は作業を一旦止めて、たまの話を聞く体制を整えた。

 

「実はこの前に事務所に言った時なんだけどね?」

 

「夜桜さんはよく事務所に行きますね」

 

「え?だって配信の際に何かやらしたら怖いじゃん。確認とか、そういった注意することの知るために行ってるけど…おかしいかな?」

 

「たまちゃんって、そういうところは真面目だよね」

 

「あとうまぴーに会える!」

 

「…欲望にも忠実ですね」

 

嬉しそうに笑うたまに、二人は揃って苦笑を零した。賢明で、それでいて努力家で、不思議と人を引き寄せる我らの生徒会長。面倒くさいと思うことあれど、嫌いには慣れなれなかった。

完全に聞く体制になった二人に気をよくしたのか、たまは開いていた麻雀アプリを閉じて話す態勢を整えた。

 

「それでね、うまぴーと合流して事務所に入ってすぐにメンテちゃんと会ったの。どうやら作業がひと段落して、休憩に入るところだったみたい」

 

「あの事務所。自販機が少し離れてて不便ですよね」

 

「けど種類が豊富だし、双葉は気にしないなー」

 

「私もふーさんと同意見。悩むことはあるけど、色んなものが選べるのは得だよね。…って話が逸れちゃった。本題なんだけど、この時のうまぴーとメンテちゃんの会話が問題なの」

 

「会話…」

 

「…ですか」

 

同時に首を傾げる二人に、たまは苦笑を零す。タイプが違うとはいえ、波長が合うのだろう。双葉とあずきの時折出す妙にあった呼吸を思い出して、たまは内心で笑みを浮かべた。

 

「そうそう!事務所に戻る時にうまぴーと一緒に歩いててね、向こうからか徹夜明けなのか眠そうに目を擦りながら歩くメンテちゃんがやってきたの。そのすれ違い時にうまぴーがメンテちゃんに声をかけてね…」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

  『はいはいはい。徹夜明けお疲れ様っすね、メンテ』

 

 『…あー。ばあちゃるさんもお疲れ様です』

 

 『眠たそうだけど大丈夫?』

 

 『大丈夫ですよ。久しぶりの徹夜で限界ですけど…今日はもう帰るだけですから。…あ、ばあちゃるさんあの件なんですけど』

 

 『それなら終わってるっすよー。そーいうメンテこそあれはやったっすよね?』

 

 『誰に物言ってるんですか、当たり前ですよ』

 

 『え?』

 

 『はいはいはい。ならさっさと帰って身体を万全に戻してくださいっすね。舵取りにはやっぱメンテがいないと現場は回らないっすからね』

 

 『大分安定してきましたけど、やっぱり私か貴方がいないとどうにもならない時がありますからね。…せめてあの野菜モドキがもうちょっとまともだったら…ッ!』

 

 『ピーマン君については諦めましょう。能力はあるので『いればラッキー』程度に考えればダメージも最小で済むっすよ?』

 

 『期待するだけ無駄ってことですか…はぁ…じゃあ私は帰りますね。…あ、ばあちゃるさん』

 

 『ああ、あのことっすね。やっとくから心配ご無用っすよ。そーいうメンテこそ』

 

 『分かってますよ。寝て起きた時に余裕があればやっておきます』

 

 『出来たらいいっすから、自分の体調を最優先してくださいね?』

 

 『え…あの、二人とも?』

 

 『おーけいおーけい。…それじゃあたまちゃんにばあちゃるさん、お先に失礼しますね』

 

 『お疲れ様ー…ってたまたま?どうしたんっすかそんな訳の分からないモノを見た様な目をして?』

 

 

―――――――――――――――――――

 

「主語、とは」

 

「え。それってたまちゃんでも何の話してるか分かんなかったの?」

 

「無理無理。途中で出てきたピーマンのことはおおよそ分かるけど、最初と最後の部分は分かんない。なにを了解したのか、何を聞いて納得したのか一ミリも分かんない」

 

たまの語るその内容に双葉は勿論、普段表情があまり変化しないあずきも困惑をその顔で表した。二人の反応にたまは、内心んでほっと安堵し、同調するように話を続けていく。

 

「あの後うまぴーに何度も話の内容を聞いたんだけど、逆に『普通に話してただけっすよ?』なんて言われながら心配されたの。まことに遺憾だよ!」

 

「つまりうまぴーとメンテちゃんにとってそのやりとりはどこもおかしくなかった、てことになるのかな?」

 

「ですが、あの二人ってそんなに阿吽の呼吸をするような仲でしたか?」

 

あずきの問いたまと双葉は同時に首を横に振る。

 

「双葉は聞いたことない」

 

「ふーさんと同じく私も聞いたことないなー。そもそも相談やなんやらで事務所に行く率がトップの私たち二人ですら聞いたことがないんだもん。きっと他の子も知らないはずだよ」

 

「と、なると…知ってそうなのはシロさんくらいしか「呼んだ?」シロさん?」

 

「えへへ。失礼するね?」

 

たまの返答に、あずきは考える様に浮かんだ敬愛する先輩の名を挙げる。その時、まるで返事をするかのように、扉から件の先輩『電脳少女シロ』がにこやかに笑みを浮かべながら入室してきた。

いきなりの客人に三人とも驚くが、そこは流石の生徒会組。てきぱきと動き出し、シロを席に座らせて、備品である紅茶カップに『カルロ・ピノ』が厳選した紅茶を注いで差し出した。

 

「ありがとう!…それでうまとメンテちゃんの話してたみたいだけど?」

 

「そうなの!シロちゃん何か知ってる?」

 

シロの問いにたまは頷き、双葉たちと同様にシロにも説明をする。話を聞いていくうちにシロの表情は、どこか困ったような、言うなれば呆れた表情を浮かべていた。

 

「あー…そっか。アイドル部の子たちは二人のあれを見た事ないだっけ?」

 

「うまぴーとメンテちゃんのこと?…少なくても双葉はさっきたまちゃんから聞いたのが初めてかな」

 

「そっかー…みんなはシロと違って、基本家で配信するスタイルだから修羅場時のうまたちを見た事ないのか」

 

『それじゃあ仕方がない』と納得するように、シロは一人頷く。そんなシロの様子に、あずきとたまは顔を見合わせて、首を傾げる。

 

「シロさんの言い方ですよ、まるで修羅場のときのお二人は会長の言っていた状態になっていることになるんですが…?」

 

「あずきちゃんの言う通り。正確には二人とも、じゃなくて片方が修羅場ってるとたまちゃんが見た状況の様に分かり合っちゃうの」

 

苦笑しながらシロから言われたその意味がよくわからず、疑問は募るばかり。首を傾げる三人に、シロは内心『うちの後輩は可愛いなぁ』と的外れなことを思いながら、続きを口にする。

 

「なんて言ったらいいのかな…あの二人はシロより…もしかしたらエイレーンさんより付き合いが長いかもしれないの」

 

「え!?そーなの!?」

 

「うん。少なくともシロが生まれた時からメンテちゃんはうまと一緒にいたよ。その時は今よりうまの近くにいて…側近とか、右腕なんて呼ばれてたなぁ」

 

「…今のばあちゃるさんとメンテさんとは違うんですね。というか、あの二人はなんといったらいいか…」

 

「あー…言われてみれば言葉に困る二人だよね。相棒とは違うし…シロちゃんが言う様に右腕とも違う気がする」

 

「信頼し合ってて、心も距離も物理的距離も凄く近いんだけど、なんというか…下心がない?」

 

「「それだ!(です)」」

 

「おー。双葉ちゃんもあずきちゃんも息ぴったり」

 

阿吽の呼吸を繰り広げる生徒会組に、シロは称賛の拍手を送る。ばあちゃるからある程度は聞いていたが、この三人はとても仲がいい。魅力的な部分がそれぞれベクトルが違うが、それが上手い感じに絡み合ってより鮮やかに輝く。その光景に、シロは心からの賞賛を送った。

元々、今日は学園に来る予定はなかった。しかし、現在(頑なに認めないが)同棲しているばあちゃるから頻繁に生徒会室に行くことを進められていたのだ。彼女たちの仕事を邪魔するのは忍びないと思っていたが、ふとばあちゃるのその言葉を思い出して、本日の業務後、事務所には向かわずにここに訪れることにした。結果的にばあちゃるの言う通り、普段見ない三人の別の魅力が見えてシロは大変満足した様子である。

閑話休題

コントを繰り広げる三人に『コホン』と軽く咳払いをして、軌道修正を図る。それに気付いたのか、三人ともシロに視線を戻して、軽く姿勢を正した。

 

「話を戻すね!そんな昔からの関係だったうまとメンテちゃんなんだけど、仕事が忙しすぎて修羅場状態になると、たまちゃんが見た様な状況を繰り広げることがあるの」

 

「けど私もふーちゃんも相談とかで割と事務所に行くよ?あんな二人、初めて見たけどなぁ…」

 

「アイドル部が結成してからは、ある程度落ち着いてきたからね。それにその頃くらいからうまがみんなと距離の取り方に悩んでて、メンテちゃんもそのことを気にかけていたから起きなかったと思うの」

 

「…なるほど。シロさんの言葉を、会長の言ったお二人の様子に当て嵌めて考えると『修羅場時、もしくはそれに近い状況』で、尚且つ『両者が意識していない状況』時に起きる無意識な行動、ということですか」

 

「あずきちゃんが正解!はなまるあげちゃいます!!」」

 

「いえーい。優勝しました」

 

いつもの表情だが、どこかホクホクと満足気にも見える笑みを浮かべるあずきに双葉もたまも釣られて笑みを浮かべた。どこか近寄りがたい独特な雰囲気を漂わせるあずきだが、その内面は自分たちとそんなに差異はないことは知っている。たまと双葉があずきこの事が好きなように、あずきもまた双葉とたまのことが大好きなのだ。わかり合ってる三人だからこそ、今のあずきが本当に喜んでいることがわかる。そんな信頼関係にあずきは居心地の良さを覚えていた。

喜ぶあずきを横に何かを思い出したように、シロは苦笑を零した。

 

「一番訳が分からなかったのはあの時だなぁ」

 

「あの時?」

 

「うん。シロがVTuberとして活動してすぐにうまが活動停止したでしょう?あの時って、ノウハウもない全くの新しい環境だったから、事務所内は常に修羅場だったの」

 

「…そういえばシロさんは最初から毎日投稿でしたからね」

 

「そうなの!元がレジスタンスや対テロ組織なんて物騒なことしかしてこなかったから、事務作業もぐだぐだでうまなんてことある度に『やばーし』って言ってたの!」

 

「うわぁ…すっごい想像できる」

 

「もしかして、事務所内の人たちがうまぴーの口癖が不意に出てくるのって」

 

「うん。その時が原因。すっかり事務所で浸透しちゃってうまの近くで作業してた人たちに移っちゃったよ」

 

「伝染病みたいですね」

 

「でんwwせんwwびょうwwキュイwwあずきちゃん、最高ッ」

 

あずきのその言葉が余程ツボだったのか、シロはお腹を押さえていつもの笑い声を上げる。それはシロだけでなく、双葉とたまも同様だったのか口元を抑えて小さく笑っていた。

 

「あーッ、最高すぎるよあずきちゃん…それで、なんだっけ?」

 

「修羅場のあの時です」

 

「そうそう!そんな修羅場が佳境の時なんだけど、舵を執っていたのがうまとメンテちゃんだったから揃って事務所で寝泊まりしてたんだけどね、修羅場7日目に突入した時の二人がね、もう凄かった」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 『あー…メンテ』

 

 『…なんですか』

 

 『あれ』

 

 『終わってます。そういう貴方は』

 

 『昨日の昼に○○に任せたのであとで確認するっすよ。それと』

 

 『抜かりなしです。…あ、あれのあれってどうなってたっけ?』

 

 『確か…切らしてたはずっすね。残ってたとしても残り僅かっすよ』

 

 『ばあちゃるさん』

 

 『嫌っすよ』

 

 『…』

 

 『…』

 

  『『じゃーんけーん、ポン!!』』

 

 (パー)

 

 (グー)

 

 『うし。というわけで任せました』

 

 『えぐー!?マジンガー!?』

 

 『??????????????』

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「会話、とは?」

 

「あれのあれって何??じゃんけんに負けたのメンテちゃんなのになんでガッツポーズしてるの????しっかり休んで?」

 

「なんなん?」

 

「混乱するのも分かるよ。シロも横で見てて訳が分からなかったもん」

 

混乱する三人に苦笑を零すシロ。呟いたように、当時のシロもそんな二人の横で今のたまたちと同様に混乱していたことを思い出した。

ちなみに『あれのあれ』は『事務所にある休憩部屋に設置されたシャワー室のシャンプー』で、じゃんけんの勝ち負けの逆転は時折二人で行われているものらしい。会話して。

 

「あの二人は変わらないですね」

 

「あ、エイレーン先生」

 

「エイレーン先生!?!?」

 

そんな談笑の中、再び扉から入ってきたのはエイレーンだ。その姿に双葉は何気なく放った『先生』というワードにシロは驚愕した。

 

「え!?先生!?どういうことなの!?」

 

「ふっふっふ!何を隠そう、臨時教師として就職しました。よろしくお願いしますね♪」

 

「え…えぇ…エイレーンさんが教師ぃ?」

 

想像できないその姿にシロは困惑するばかり。そんなシロの様子も仕方がないといった感じで、双葉は苦笑を零した。

 

「実は先日、淡井先生が学園の教員になったの。それで臨時講師は一人はいた方がいいってうまぴーが言って募集かけたらエイレーンさんが…」

 

「ええ。私が来ました!」

 

「えぇ…エイレーンさん、教員免許持ってたんだ」

 

「そんなもの馬が学園長を務めることになった時に取りましたよ。まあ当時は接触はするべきではないと判断したのですが、むしろそれがいい感じに事を運びました」

 

「さすが行動力の塊」

 

呆れるたまの横で、先日にばあちゃるとアイドル部と共に行われた淡井先生の就任パーティをシロは思い出す。臨時教師の募集をすると、先日ばあちゃるが言っていたことを覚えていたが、まさかそれがエイレーンとは予想もしなかった。

引いているシロに何故かドヤ顔を浮かべていたエイレーンは、小さく一息を入れて話を戻す。

 

「それで、馬とメンテの話をしてましたね?実はあの二人、ほぼ兄妹みたいなもんなんですよ」

 

「兄弟?」

 

想像しなかったその言葉に、あずきはオウム返しをして首を傾げる。それはシロを含めた他の三人も同様で、説明を求める様にエイレーンに視線が注がれた。

 

「馬が46号と脱走するより前…つまり研究所にいた頃になるんですが、実は馬もメンテもデザインベビーなんです」

 

「あずきちゃんあずきちゃん、デザインベビーって?」

 

「…人口で作られた人のことをしまします。バンクに提供された精子と卵子を試験管の中で受精させ、大きくなるにつれて培養液を浸したカプセルの中で育った人たちのことです」

 

思い出すのは兵姫『木曽』の記憶。数秒しかないその光景は、ばあちゃるもメンテも経験したものとは、あずきにとって予想外の事実だった。

重いその真実にたまと双葉の顔が強張る。それはシロも同じで、先程までの朗らかな雰囲気はどこへやら。重苦しい空気が漂う。

 

「けどデザインベビーは法律で禁止…ってそんなのあの組織が律儀に守るわけないか」

 

「その通りです。実際、あの戦いでテロ組織に所属している下位の人間は総じてデザインベビーでした。…重苦しい話はここまで。話を戻しましょう」

 

吐き捨てる様に言うと、エイレーンは伏せた顔を上げた。それは先程までの真剣さはなく、何時ものエイレーンの姿だ。

 

「馬とメンテはそれこそ隣同士のカプセルで育ち、ほぼ同時にカプセルから出て組織に育てられました」

 

「それが、兄弟と言われる所以」

 

「ええ。そこから二人は競い合う様に共に勉学に励みました。それが組織が仕組んだ駒を作るものだとしても、二人は良いライバル関係だったそうです。基本はばあちゃるが一歩上で、それをメンテが追いかけるような関係だったそうですが」

 

「そう…なんだ」

 

メンテとばあちゃるから聞いたであろう衝撃の事実に、四人は言葉を失うばかりだ。好きな人の重たすぎる出生の衝撃が未だに抜けない様子でもある。

しかしそんなものは些細なことだ。彼女たちの出生だって引けを取らない。ましてやそんな事実に彼女たちのばあちゃるに向ける愛は衰えるわけがない。エイレーンはそれを確信しているからこそ、この話を語っているのだ。

そして、その確認は的中する。困惑してる様子だった四人は顔を見合わせて軽く笑みを浮かべる。どうやら自分の中でその事実を飲み込んだようだ。強い人たちだと、エイレーンは彼女たちに尊敬の念を送った。

 

「それで馬が46号と共に脱走した後、馬がいない環境にメンテは今までの様に実力を発揮できなくなったんです」

 

「まあ、兄弟のように育った人が脱走なんてしまもんね。そんな状況で無理なんてできるわけないよ」

 

「けど組織育ちのメンテはなんで実力が発揮できないのか分からなかったんです。そして考えた結果」

 

「結果?」

 

「『馬はメンテの一部。それが抜けたから全力で仕事が出来ない』となったそうです」

 

「訳が分かんないよ!?」

 

反射で絶叫するたまにエイレーンも同視するように頷く。実際に意味が分からない。

 

「安心してください。最初に聞いた時は私も訳が分かりませんでした」

 

「あ、エイレーンさんもなんだ」

 

「…一体どうしてそんな結論に?」

 

「組織では余分なことは一切教えることはなかったそうです。現に馬も46号を外を見せたいと思ったことに当時はかなり困惑してましたからね。メンテがそんな曲解するのも大分変かもしれないかもしれませんが、そう言った事情があれば納得するとこも…まあ、出来なくはない?」

 

「先生も疑問形じゃん」

 

双葉の冷たい視線をエイレーンは、乾いた笑いで誤魔化す。それは自身も信用し切れていないことを示しているようなものだ。

 

「ま、まあ!それをそう納得したメンテはばあちゃるの後を追う様に脱走。まだアイさんと合流する前、つまり兵姫時代のあなたたちの奪還作戦中に合流したんです。そしてそこから、今までずっと彼女はばあちゃるの横に立ち続けています」

 

「ってことは、メンテちゃんは誰よりもうまぴーの隣にいるんだ…羨ましいなぁ」

 

「わかります。非常に妬ましい」

 

「たまちゃん、エイレーン先生。本音漏れてる」

 

似たように悔しそうに呟く二人に双葉は呆れ顔だ。その横であずきはどこか納得したように一人頷く。

エイレーンが言うことが本当なら、ばあちゃるとメンテの阿吽の呼吸も納得だ。幼馴染。それこそ生まれた時から共に居るのだとしたら、先程提示した『修羅場の状況』…つまり『余裕がない状況』でならばあの信頼関係もおかしくはない。ちょっと行き過ぎているとも思われるかもしれないが、あの二人は出生から今までの経歴までまさに波乱万丈だ。少しおかしくなっても仕方がないのだろう。けれど、何故普段からあの呼吸を合わせれないのだろうか。

その疑問は、双葉を挟んで先にいるたまも同じように浮かんだようだ。

 

「…あれ?それなら普段からあの仲の良さじゃないとおかしくない?さっきも話してたけど、私たちが会いに行くときはそんな素振り見せてなかったよ」

 

「ああ。それは私の原因です」

 

何食わぬ顔で手を挙げるエイレーンに全員の冷たい視線が突き刺さる。『またお前か』と訴えかけるその視線に、エイレーンはカラカラと楽しそうに笑った。

 

「あまりにも馬に近くて私も嫉妬まみれだったので『馬のことが好きなんでしょ?』と何度か言ってやったんですよ。最初は『自分の一部に恋をしますか?』なんて言われましたけど、しつこく言うと自分と向き合う様になって、気付いちゃったみたいですよ。それ以降、一定以上距離を詰められたり、馬のムーブに見惚れることが多くなって今の状態になったんです」

 

「何とんでもない強敵を起こしてるの!?」

 

「いやだって!誰がどう見ても好きなのにそれを頑なに認めないんですよ!?同じ人を好きな者として、それは認めるわけにいかないじゃないですか!」

 

「うっわぁ…悔しいけどエイレーンさんの言うことも分かっちゃうよ…けど許せないかな」

 

「一時期メンテちゃんのうまの対応が変だったのはそのせいなんだ…」

 

「…救済します?」

 

「とりあえず保留かな」

 

生徒会室に響く姦しい声。恋敵である人物の話題なのに、その室内は楽しそうな雰囲気が漂っていた。

 

 

 

 

 

「あ、ばあちゃるさん。一体どうしたんですか?こんなところで珍しい」

 

「はいはいはい。言われてみればここに来るのは久しぶりっすね」

 

少女体系のメンテには少し大きいTシャツに着古したハーフパンツ。そんな完全にプライベートの服を身に纏いながら、客人のばあちゃるを迎え入れた。

アップランド事務所のビルの一室。そこにはビルの一室にしては珍しく畳をが敷かれており、押し入れまである和室だ。ちなみに押し入れの中には布団が仕舞われている。間取りは、ばあちゃるにとって馴染みの深い学園の休憩室とほぼ同じだ。というより、こちらを参考にして休憩室が作られたと言った方が正しい。

ここはアップランド事務所の仮眠室も兼ねた休憩室。少し前まで、メンテとばあちゃるがもっともお世話になった部屋と言っても過言でもない一室だ。

 

「珍しい?そうでしたっけ」

 

「はいはいはい。ばあちゃる君もね、アイドル部発足してからは学園長として学園に行く都合でここに来ることがなくなったっすからね、完全に」

 

「あー…言われてみればそうですね。特にここ数ヶ月は、貴方も変わってここにお世話になることもてんでなくなりましたもんね」

 

「そうっすね。頼ることって、大事だったんすね」

 

「何をいまさら。私は散々言ってきたと思いますけど?」

 

「うっ」

 

辛辣なメンテな言葉にばあちゃるは言葉を詰まらせる。その顔がどこかおかしかったのか、メンテはクスクスと笑みを浮かべた。

 

「ま、やっと分かってくれたのなら、それでいいですよ」

 

「いつもすまないっすね」

 

「それは言わない約束ですよ。ん…こくっ…っとと」

 

簡易のテーブルに置かれた缶ビールを口に含み、口端から零れた液を拭う。顔は既に真っ赤で、出来上がってるとも言えるほどだ。

メンテはいつだってばあちゃるの痛いところを突いてくる。しかし、そこから感じるのはいつもばあちゃるを案じてのこと。それが分かるからこそ、ばあちゃるはそんな辛辣な言葉が心地よく聞こえた。

今なら、素直に言葉にできるだろう。ばあちゃるは被っていた馬のマスクを脱ぎ、缶ビールの横に置いた。

 

「いつもありがとうございます」

 

「ん?どうしたんですか急に」

 

「いやっすね、ばあちゃる君、メンテにいっぱいお世話になってる訳っすから。たまーにはね?お礼を言おうかとね」

 

「素面なのによくやりますね。…よし」

 

呆れ顔のメンテは何かを思いついたのか、持っていた缶ビールの中身を一致に喉に流し込む。度数はそれほどでもないが、それでも急に流れ込むアルコールに喉が熱くなり、頭もクラクラする。

少し酔えた今の状態なら、この恥ずかしい素面の男に返事は出来るだろう。メンテは嬉しそうに笑い、缶ビールを馬のマスクの横に置いた。

 

「今更なんで気にすることはないですよ。なんたって私と貴方は『一心同体』なんですから」

 

「懐かしいっすね、それ。久しぶりに聞いた気がするっすよ」

 

「私も、久しぶりに言った気がします」

 

揃って過去を思い浮かべ、顔を見合わせて揃って苦笑を零す。

『一心同体』それはメンテがばあちゃるへの想いを勘違いしていた時に出来た二人の不思議な関係だ。『ばあちゃるはメンテの一部だから一緒にいなければいけない。その逆も然り』。今思い出しても奇妙な関係だ。恋心を勘違いして出来た関係ではあったが、メンテにとってそれは非常に心地の良いものだった。

エイレーンにより自覚された恋心から、今の今まで言えなかったその言葉を今はスラスラと言える。お酒は偉大だと、メンテは内心そう思った。

 

「にしても…凄いところまで来ましたね」

 

「そうっすね。脱走した時、まさかこんな未来に来れるとは…いえ、掴みとれるとは思っても見なかったっすよ」

 

「勿論、まだ走れますよね?」

 

「なぁに当たり前のこと言ってるっすか。そんなの当然っすよ」

 

自信満々に胸を張るばあちゃるに、ドキリと胸が高鳴る。些細なことなのに反応するなんて、自分も意外と重傷だと、メンテは自虐した。

 

「けど、たまには止まることも大事っすよ。走り続けるってのは大変っすもんね?」

 

「へ?」

 

「『一心同体』、なんすよね?全く、無理するくらいならばあちゃる君を呼んでほしいっすよ」

 

呆れ顔に頭に手を置くばあちゃるに呆気を取られる。そしてその言葉の意味を理解すると、一気に顔が熱くなる。きっと、今の顔が赤いのはお酒のせいだけではない。

 

というか、何なのだこの男は。いくら背の差が40くらいあるからって無遠慮に頭を撫でてて。同い年なんだぞ、まったく。今の私がどんな思いをしているかなんて知らないで…ホント、ズルい人だ。

 

「…こ、今回は一人でやれると思ってしまったんですよ」

 

「本当っすか?」

 

「本当です。次からは…頼ります」

 

「ならよし」

 

いつもツインテールにしてる解けた髪を乱暴にかき乱す様に撫でる。

確かに、この後は寝るだけだから多少乱れても構わないが、だからといってこれはない。けれど、メンテはそれを怒れずにいた。むしろ、嬉しいとも感じていた。

 

「…」

 

「メンテ?」

 

そっとばあちゃるの横にすり寄り、身体を預ける。甘えるメンテにばあちゃるは静かに受け入れた。

元々メンテは、この恋心を実らせる気はさらさらなかった。ばあちゃるの心にはいつだって46号がいて、シロがいて…自分は入り込む余地はないと思っていたからだ。しかしそれは、アイドル部の子たちによってこじ開けられた。

彼女たちの純真な思いがばあちゃるの心に寄り添い、背中を押し、手を指し伸ばして、隣に立ったのだ。そんな純真な想いを無下にするほど、ばあちゃるという男は腐っていない。彼女たちに助けられて、立ち上がり、仕舞いにはシロの心も救い上げた。 その姿に、どうしようもないほどに惚れ込んだ。

 

だから、私もまた、一歩踏み出してもいいだろうか…彼にワガママを言ってもいいのだろうか…

 

その疑問を浮かぶと同時に、脳裏に掠めたのはばあちゃるの笑顔。

もう、我慢することは出来ない。メンテは、勘違いした自分の感情と向き合うことを決めた。

 

「あの…ばあ…なぁっ!?」

 

「相変わらずちっこいっすねメンテは」

 

「な、なななななっ!何してるんですか!?」

 

抱き寄せられ、ばあちゃるの腕の中で一緒に敷かれた布団に倒れ込む。しっかり選択して会ったのだろう。予想よりずっとふかふかして気持ちのいい布団だと、頭の片隅でそんなどうでもいいことを考えた。

 

「何って、メンテがしてほしそうにしてたっすからやったっすよ?」

 

「…ぁ」

 

当たり前のことに言うばあちゃるに、メンテは一人納得する。

なんてことはない。メンテが一歩踏み出すと同時に、ばあちゃるもまたメンテの手を引いたのだ。『一心同体』であるからこそ、メンテが望むことに応えたばあちゃる。踏み出したメンテと手を引いたばあちゃるが同時に通じ合ったかのように同時に行動した。その事実が、メンテはどうしようもないく嬉しかった。

 

「…ばあちゃるさん」

 

「はいはい。なんっすか」

 

「こんごとも『よろしくお願いしますね』」

 

「それは、こちらのセリフっすよ」

 

お酒も回ってきたのだろう。最後の力を振り絞って、精一杯の告白をばあちゃるに伝える。通じ合っているのだ。きっとこれだけで、意味は伝わるはず。確証もない信頼だけの確信を胸に、メンテは夢の世界に旅立った。

 

 

 

 

後日仮眠室にて、ばあちゃるとメンテが共に布団で眠る画像が.LIVE公式垢より投稿され、ばあちゃるがプチ炎上するのはまだ別のお話。

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