何かと校則違反者や風紀も乱すものに容赦がない彼女だが優しい面も非常にある
しかし、自分に甘い面もあるようで…
(番外編)
平日の正午過ぎ。ばあちゃる学園の風紀委員長を務める『八重沢なとり』は焦った足取りで廊下を突き進む。今にも走り出しそうなその足取りは先程、同じアイドル部の仲間であり後輩のピノに出会わなければ自身の立場を振り払ってでも走り出していただろう。
「もぅ!りこさんったらなんてものを開発するんですかぁ!」
思い出すのは昼休憩に入ったと同時に同じクラスのりことの会話だ。
『米っち!ついにさくたまちゃんに抜け駆けさせないための案ができたよ!』
『え?本当ですか!?』
『そう!それで出来たのがこの『八重沢システムMr-Ⅱ』さ!』
『…あの、もう嫌な予感しかしないんですけど』
『従来の牛巻システムの全てを網羅し、さらにばあちゃる号のサポートの為にメンテちゃんに頼んで借りてきた簡易モデルに入れてるからお茶くみにマッサージなんかもできる優れものさ!』
『りこさんりこさん?なんかテンションおかしくないですか!?』
『さらにさらに!米っちのサポートも完備するために『風紀メーター』も実装したよ!開発に手間取ってテストしてないけど問題はない!』
『問題しかないですよぉ!?せめてテストしましょう!?』
『昨晩に徹夜して作ったから牛巻はちょっと仮眠するけど、米っち。八重沢システムのことをよろしくね!』
『よろしくしたくないです!というかせっかく電脳アルバイトから解放されたのですから睡眠はしっかり取ってください!』
『後は、頼んだぜ、米っち』
『りこさぁぁぁんん!!??』
『八重沢システム起動』
『え?ちょ!?』
りこの寝落ちと同時に機械音声と共に何故か起動する八重沢システム。混乱するなとりを横目に自信と瓜二つの八重沢システムは一目散に廊下に飛び出し、そのままどこかへ走り去ってしまった。慌てて追いかけ、途中でピノに出会い八重沢システムの行く先が学園長室であることを突き止めたなとりは現在、愛する人がいるその場へ向かっている最中だ。
「ばあちゃるさん!無事ですか!?」
ノックなどする間もなく扉を開けて入室する。しかし室内には誰もおらず、なとりの声が小さく響いた。間違えたかと首を傾げ、室内を見渡すと仮眠室の扉に目が行く。もしやと思い、扉を静かに開ける。
「な、なとなと~?どうしたっすか~?」
「♪」
そこには敷いた布団に横になるばあちゃる。そしてそのばあちゃるに跨る上半身が下着だけとなった八重沢システムの姿があった。
「な、な、な!なぁぁにやってるんですかぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫びと共になとりの全力ドロップキックが八重沢システムに直撃する。その威力は強力で、吹っ飛ばされた八重沢システムは壁に激突し小さく『異常が発生しました。機能を停止します』というアナウンスと共に動かなくなった。咄嗟の行動ではあったがしっかり靴を脱いでいる辺り、しっかりしている。
「いやー。綺麗なキックっすね!さすがなとなと。けど、もうちょっとお淑やかさは欲しいっすね、完全に」
「はい?あっ!?」
首を傾げるがすぐにばあちゃるの意図を理解する。穿いているスカートであり、その状態でドロップキックなどしようものならどうやってもその下に身に着けているものだって見えてしまう。なとりの顔は瑞々しいリンゴのように真っ赤になった。
「は、破廉恥ですよ!」
「えぐー!?ばあちゃる君は不可抗力っすよー」
スカート抑え悪態をつくなとりにばあちゃるはいつもとは違う雰囲気を纏いながら首を振る。その状態のばあちゃるになとりは既視感があった。
「あ、もしかしてお休み中でした?」
「はいはいはい。よくわかったすね。さすがなとなと」
いつもであれば小さい棘がある言葉が一つは飛んでくるものであるがそれすらなく、帰ってきたのは称賛の声。これは寝ぼけているとなとりは判断した。
「休憩中にごめんなさい。この子を片付けたら離れますね」
倒れている八重沢システムに近づく。AIが停止しているためモデルである体は、りこが学園に持ち込んだ時のようにデータ化することが出来る。データ化処理中のモデルをよく見ると、自身の身体と少々体系が違うことに気付く。なとりの身体の方がモデルより発育がいいというところだ。メンテちゃんから借りたと、りこの発言からこのモデルはデビュー前の体型だと予想がつく。なとりは何故か沸き上がった優越感に浸りながら八重沢システムを収納した。
「ってばあちゃるさん!どうしてお布団片付けてるんですか!?」
データ化し、振り向くとそこには眠りにつくはずのばあちゃるが布団を畳んでいる光景が見えた。ばあちゃるには休憩が必要だと理解しているなとりはその光景につい声を荒げる。
「いやー。さっきの騒ぎで眠気も飛んじゃったんでね。今日の業務を先倒しでやろうと思ったっすよ」
嘘だ。
彼の顔は過去に見た寝ぼけた状態のままである。
「もぅ!そんな顔で言っても説得力無いですよ。ほら、お布団敷いてお休みしましょ?」
畳み途中の布団を奪い、改めて床に敷き、ばあちゃるを横に寝転ぶように誘導するためにポンポンと軽く布団を叩く。柔らかくも反発するそれは非常に寝心地がよさそうである。
「なとなとには敵わないっすね。けど、大丈夫っすよー」
「なぁにが『大丈夫っす』ですか。瞼も半分落ちてる状態でなぁーに言ってるんですか」
ジト目で呆れたように言うなとりにばあちゃるは後頭部を掻く。未だにはっきりしない頭にばあちゃるはつい、思ってしまったことを口に出してします。
「…眠るのが怖いっすよ」
「え?」
「起きたら今の幸せは夢なんじゃかって考えてしまって、そんなわけないのに覚めてしまえば俺はまた一人あの日に戻ってしまうなんて…」
「ばあちゃるさん」
初めて見るその表情になとりは胸に沸くのは彼に何かしてあげたいという貢献的な愛情だ。気付くとなとりはばあちゃるの頭を胸に抱きしめていた。
「なとなと?」
「夢なんかじゃないですよ」
「あ…」
「ちょっと手を伸ばせば私に触れることが出来ます。私だけじゃなく他のアイドル部の仲間にシロさんだって悪態はつくかもしれませんけど触れることはできますよ。大丈夫。ばあちゃるさんは一人じゃないですし、これは夢なんかじゃないです」
「なとなと」
愛おしそうになとりはばあちゃるを撫でる。彼女の胸から聞こえる少し早い心音はばあちゃるに確かな安心感を与える。頭部を撫でる優しい手。暖かな体温に、心地の良い心音にばあちゃるは意識を静かに手放した。
「おやすみなさい。しっかり休んで、元気な姿を見せてくださいね」
「大好きですよ。私のプロデューサー」
覚醒した意識の中、その言葉の意味をしっかりと理解しながらなとりは愛おしそうにばあちゃるの頭を撫でた。