馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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夏真っ盛りの日中
その日、八重沢なとりは自宅に楽しみの食後のアイスがないことに絶望していた。
どうしても食べたいと思ったなとりは、最寄りのコンビニへ出かけることになり…?


(番外編)


彼に頼ってほしい私の幸せ(八重沢なとり)

「あっつー…」

 

とある日の昼下がり。『八重沢なとり』は夏真っ盛りの日差しを恨めしそうに見つめた。八月も気付けば下旬に突入したのに、その暑さは衰えない。額に流れる汗を持ってきたハンカチで拭った。

こんな出かけるには危険と思われるほどの暑さの中、なとりが外にいる理由は単純だ。冷たいものが食べたい。ただそれだけ。

 

「出かけたのは失敗だったのかも…」

 

後悔したが既に遅い。ここまで来てしまえば来た道を戻り、家に帰るよりコンビニに向かった方が早い。小さくため息を吐いて、なとりは足を進めた。

そもそも家に残しておいたアイスを勝手に食べた親が悪い。そんな責任転嫁をしながら最寄りのコンビニ向かっていると、ふと見た事がある車が目に入る。もしやと思い、そっと車内を覗くとそこには予想通りの人物『ばあちゃる』がダルそうな表情を浮かべていた。普段見ないだらしない表情に、どこかおかしくて。なとりはクスリと小さく笑みを浮かべて扉のガラスをノックする。

 

「こんにちは。こんなところでサボりですか、ばあちゃるさん?」

 

「なとなと!?え、なんでここに!?」

 

予想外の邂逅にばあちゃるの顔は驚愕に染まる。そんな顔もどこかおかしくて、なとりはより笑みを浮かべた。

 

「ほら、私の家ってここから近いじゃないですか。ちょっとコンビニに買い物に来たんですよ」

 

「へ?…はいはいはい。そういえばなとなとのお家はここら辺でしたっすね」

 

「その感じ。忘れてましたね?」

 

「完全に」

 

「えぐー、ですよ?」

 

彼との何気ない会話がどうしようもなく楽しい。先程までの沈下していた気分はどこへやら、なとりはすっかりご機嫌だ。

さすがにこの日差しの中なとりを外に出しておくのは忍びない。そう思ったばあちゃるは、とりあえずなとりを車の助手席へと誘導した。

 

「そ、それじゃあ失礼しますね」

 

「どうぞどうぞ…そういやなとなとはばあちゃる君の車に乗るのは初めてでしたっすね」

 

「言われてみれば…そうですね」

 

物珍しそうに、車内を見るなとりに、ばあちゃるは苦笑を零す。ばあちゃるの車の搭乗率は一番は同棲しているシロとロッシー。次に日曜に一緒によく出かけるすず。そして下校の際にばあちゃるが余裕あれば、アルバイト先へ送り迎えに乗るもちにりこ。そして他アイドル部の順だ。

特に助手席に良く乗るシロとすずはまるでマーキングの様にいろんな物をそこに残している。シェガーソケットにつけられている携帯端末用の充電USB端末には、シロのイメージカラーと、すずのイメージカラーの充電ケーブルが添えられている。さらに扉についてあるポケットには学園ですずがよく使用しているうちわまで置いてあった。その様に、なとりは少しむっとなる。

 

「ん?どうしたすか?」

 

「いえ、何でもないですよ?」

 

「それならいいっすけど」

 

「私のことはともかくッ!…ばあちゃるさんはこんなとこでどうしたんですか?」

 

その小さな反応にも気付いたばあちゃるは、なとりの顔を覗き込む。こんな些細なことで嫉妬してしまい、羞恥心を覚えたなとりは咄嗟に誤魔化した。それはどうにも不自然で、横にいるばあちゃるは、変わらず様子を窺うように視線を向けてくる。その視線が恥ずかしくて、なとりは唐突に話題を変えた。

 

「ばあちゃる君っすか?今日は仕事が早上がりだったっすからこれから切らしてた日用品を買いに行こうかと思ってたっすけど、この暑さっすからね。ちょっとアイスでも買っておこうかと思って寄ったっすよ」

 

「なるほど…私と似たような感じなんですね」

 

「いや、食い意地を張ったなとなとと一緒にされるのは心外っすね!」

 

「なぁんでそんなこと言うんですかぁ!?」

 

「ははは!じょーだん、じょーだんっすよ!」

 

「もうっ!」

 

頬を膨らませて怒ったような表情を浮かべるが、内心では今のやり取りに二ヤつく一方だ。ばあちゃるの雑にからかう感じは、どこか彼との距離が近いように感じれる。それがなとりは大好きだった。けれど、意地っ張りな自分が邪魔して、どうしても素直に喜べない。いろはみたいに素直に反応できたのならば、また違った対応をされるのかもしれないが、今は良い。その絶妙な距離感がなとりにとっては心地よかった。

 

「あー…なとなと?ちょっとからかった後じゃ言いにくいっすけど」

 

「どうしたんですか?」

 

言い淀むばあちゃるに、なとりは目を瞬きさせる。どこか戸惑うような、申し訳なさそうな表情を浮かべるばあちゃるは非常に珍しい。そんな表情を見れたことに幸福に感じながらも、なとりは話の続きを促した。

 

「ちょっと、付き合ってもらいたいっすけど…いいっすか?」

 

「はい?」

 

それは今では稀に見るようになった、ばあちゃるからの頼み事だった。

 

 

 

 

 

「ばちゃるさーん!シャンプーはこっちですよー!」

 

「はいはいはい!今行くっすよ!」

 

コンビニを後にした二人は、車を走らせ、少し離れた場所に立つ大型ショッピングモールに訪れていた。夏休みということもあり、普段の平日より人が多い。そんな人込みにも負けず、なとりは一足先に日用品の男性用コーナーに足を運び、ばあちゃるの名を呼んだ。

買い物の付き添いを頼んだのはばあちゃるだが、ここまで乗り気になってくれるとは予想外だ。その姿に、少し困惑しながらも、嬉しそうに一足先に待つなとりにばあちゃるは足を向けた。

 

「ばあちゃるさんはいつもどんなのを使ってるんですか?」

 

「そんなに拘ったことがないっすね。こう、目に入っていいなーと思ったものをテキトーにって感じで」

 

「えぇ!?冗談ですよね、それ!?」

 

「マジマジのマジっすよ。洗えればどれも一緒じゃないっすか」

 

「一緒じゃないですよ!せっかくシロさんと同じ綺麗な白髪なんですからもっと大事にしないと…これとかどうですか?」

 

そう言ってなとりが手に取ったのは、よくCMで見かける薬用シャンプーだ。男性用と謳っているだけあって、そこには様々な効果ズラーと書かれている。かゆみの抑えや頭皮のケアなどなど、悪くないと思ったが、今度は値段を見て驚愕した。

 

「4千円!?え、シャンプーでこんなにするんすか!?」

 

「まあ薬用ですし、これくらいは仕方ないと思いますよ?ほら、ばあちゃるさんだってもういい年齢だから、買って後悔はないんじゃないですか?」

 

「うーん。確かにお金は有り余ってるっすけど…これは…」

 

「悩んだら買う!もし合わなければ、次に別のを買えばいいんですよ!」

 

「そんなもんっすかねぇ」

 

首を傾げてしまうが、こういったのに関してはなとりの方が詳しいはずだ。悩んだが、名取の言う様に薬用シャンプーを買い物かごへと入れた。

その後もなとりの選別の元、ばあちゃるの日用品が選ばれていく。あれでもないこれでもない。こっちの方がいいか、それともあっちの方がいいか。モノを手に取る度に振り返り、ばあちゃるの意見を聞き、なとりは厳選していく。その姿に、ばあちゃるは頼もしいと思うばかりだ。

また、なとりもなとりでこの買い物を全力で楽しんでいた。前々からばあちゃるは自分のことに無頓着だと思っていた故に、今のばあちゃるの日用品を揃える買い物は、まるでなとりがばあちゃるをコーディネートしているようにも思える。また、二人で相談しながら買い物していく行為がなとりが望む『デート』の一つでもあった。その為、この買い物中、なとりは終始頬がにやけて仕方がない様子だ。

そんな二人の買い物は、時にスムーズに、時に立ち止まり相談しながらゆっくりと過ぎていく。気付くと買い物かごの中は後少しで溢れるところまできていた。

これ以上は持ち帰るのに苦労すると判断した二人は、会計へと足を運ぶ。

 

「あ、なとなと。これ、渡しとくっすね」

 

「これって…財布じゃないですか!?」

 

「レジ通ったら荷物を運ぶっすから、なとなとは会計をお願いするっすよ」

 

「あ、そういう…けど、不用心に財布を預けないでくださいよ。ドキッとしたじゃないですか!」

 

「へ?相手がなとなとだから預けたっすけど…何か不味かったすか?」

 

「そういうとこやぞ!」

 

「え、えぇ…」

 

顔を赤くして吠えるなとりに、ばあちゃるは困惑気味だ。さらに周りからの冷ややかな視線にも首を傾げる。何か不味いことをしたのかと困惑しながらも、ばあちゃるはレジを通った荷物のかごを持って移動する。とりあえず重たいものからと順に袋に入れていくと、会計を済ませたなとりが遅れてやってきた。その頬は未だに朱く、疑問に思いながらレジに視線を向けると、会計を務めていた女性店員がにこやかに笑みを浮かべている。これ以上つつくべきではないと、本能でりかいしたばあちゃるは特に触れずに、なとりとともに袋に荷物を入れていく。

少し余裕をもって入れても大きなビニール袋が二個と当初の予定より大荷物だ。何故かこの場を早く去りたいと思っていたばあちゃるはその二つの袋を持ち上げた。

 

「っとと」

 

「ばあちゃるさん?」

 

しかし、利き腕の右手は余裕で持ちあがるが、逆の左手は持ち上がらない。というより、まるで上手く掴めていないとなとりは見て取れた。

 

「…もしかして、ばあちゃるさん。昨日の収録の電気が」

 

「はいはいはい。どうやら、そうみたいっすね。少し痺れるくらいで軽いものなら余裕で持ててたので、いけると思ってたっすけど。はいはいはい…これは予想外っすね」

 

先日の収録とは、二人で行った罰ゲーム込みのとある対決動画だ。その動画の最後で、最大威力の電撃を軽くとはいえ触ってしまったばあちゃるは、収録後も『まだ手が痺れてる』と言っていたことをなとりは覚えていた。まさかそれが今まで残ってるとは予想外だ。そんな状態で荷物を持たせても落としてしまう危険性がある。そう思ったなとりはばあちゃるのかわりに袋の取っ手に手を取った。

 

「なら私が持ちますよ」

 

「いやいやいや!手が痺れてくるくらいでなとなとに持ってもらうことはないっすよ!ここはばあちゃる君が」

 

「けどそれだと落としちゃうかもしれないですよ?」

 

「うっ、それは…そうっすけど」

 

男のプライドか、大人の責任か。ばあちゃるが意地を張る理由はいまいちわからないが、引く様子はないようだ。ならば、となとりは二つある取っての一つを手に取った。

 

「なら…一緒に持ちません?」

 

「なとなと?」

 

「ほ、ほら!これなら重さも半分ですからばあちゃるさんが落す心配もないですし、私も持てる!一石二鳥ですよ!?」

 

どこか支離滅裂なことをことを言いながら叫ぶなとりに、ばあちゃるは笑みを零した。その姿は可愛くて、愛おしくて…抱きしめたくなる衝動に駆られる。しかし自分は大人で、ここは大衆の面前だ。その感情を何とか抑えながら、いつものように彼女の弄るように、少し陽気な声を上げる。

 

「はいはいはい。なとなとは可愛いっすね!」

 

「ちょぉ!?急に何を!?」

 

「いやいや、こんなかわいい子に愛されるばあちゃる君は幸せだなーって思っただけっすよ?」

 

「ばあちゃるさんッ!」

 

「…そういうわけっすから、はんぶん。持ってもらってもいいっすか?」

 

「ッ!」

 

自分には見せたことのない、『頼る時に見せる表情』を浮かべながらばあちゃるは、なとりに微笑んだ。

いつだって頼ってほしかった。いつも一人で抱えて、一人で飲みこんで…一人で何かから目を逸らすばあちゃるの姿を、なとりは知っている。だからこそ、今のばあちゃるの姿は今までなとりが一番見たかったものだ。

『そういうとこやぞ!』と叫びそうになる衝動を何とか抑えながら、改めて買い物袋の取っ手を取った。

 

「行きましょう、ばあちゃるさん!せっかくですから、ばあちゃるさんの家で何か遊びましょうよ!」

 

「お、いいっすね。この前は結局有耶無耶になっちゃいましたし、今度こそ決着つけようじゃないっすか!」

 

「ふふふ!私、負けませんよ?」

 

「それはこっちのセリフっすね、完全に!」

 

そうして男女は、一つの袋を二人で片方ずつ持ちながらその場を後にする。年上と思われる男性は子供っぽい表情を、年下と思われる少女は年相応に、両者が笑みを受かべて甘い雰囲気を漂わせていた。

それを見ていた店員の一人は『幸せそうなカップルだったわ』と零したそうな。

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