馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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夏休み終盤のばあちゃる学園
夏休み真っ最中のとある日。ばあちゃるはとある業務の為に学園に訪れていた。
そんなばあちゃるの元に、駆け足で駆け寄ってくる存在がいるようで…?



(番外編)


彼に嵌る彼女の理由(神楽すず)

なんてことの無いとある日の昼下がり。ここ、ばあちゃる学園の学園長である『ばあちゃる』は一人、学園長室にて事務作業をしていた。

 

「ん?もうこんな時間っすか」

 

ふと時計を見れば正午前。今日のお昼は何にしようかと頭の片隅で考えながら、固まった体を解す様に背筋を伸ばす。

季節は夏。締め切った窓の外から、微かにセミの鳴き声が聞こえてくる。夏休み中のばあちゃる学園は、いつもと違った雰囲気を漂わせていた。

 

「最近の夏は長いっすね…」

 

十数年前であれば、既に残暑を感じ始めてもいい頃なのに、そんな気配は欠片も感じない。地球温暖化も割と深刻だと、他人事のように考えた。

夏休みも終盤。教員も本来訪れる必要がない日曜日に、ばあちゃるが訪れる理由はだた一つ。

 

「…ちゃ…-ん…!」

 

「おー。来たっすね。この感じ、まぁた何か持ってきたと見るのが妥当っすか」

 

遠くから聞こえてくる通りの良い鈴の様な声。聞きなれてしまった自分を呼ぶ声に、ばあちゃるは一人苦笑を零した。

夏休みに入り、それでもばあちゃるが学園に来る理由。それは、担当アイドル『神楽すず』が所属する管弦楽部の監督のためだった。

 

 

 

 

 

「さて、プールに呼ばれたわけっすけども…肝心のすずすずがまだ来てないっすね」

 

学園にある温水プールに、ばあちゃるは一人途方に暮れていた。あの後、予想通り扉を勢いよく開き入っていたすずに『とりあえずプールに集合して下さい!』と言われ、当の本人は再び廊下を走り去る。止めるタイミングがなく、廊下を走るなとも注意も出来ずにいたばあちゃるは、とりあえずすずの言う通りに、プールに訪れた。

ばあちゃる学園のプールは屋内に設置してある温水プールで冬場にも使用できるモノだ。さらに50mもあり、ビート板など道具も豊富で設備も完璧。まさに部活動をするには打って付けでもある。しかし残念ながら、学園として発足したばかりのばあちゃる学園に水泳部はまだ存在していない。まさに宝の持ち腐れだ。

さらに夏休み真っ最中の今は人っ子一人いない。無音のプールに、内心心細さを覚え始めていた。

すずを待って早十数分。さすがのばあちゃるも少し心配になってきた。

 

「うーん…一回出て、ケータイとかで連絡した方がいいかもしれないっすね」

 

「お、お待たせしました!」

 

そう考えていると背後から待っていたすずの声が聞こえてきた。女子更衣室は丁度ばあちゃるの後ろにあるので背後からの声にも納得できた。多少の文句は言ってもいいだろう。そう思いながら、ばあちゃるは振り向いた。

 

「はいはいはい。遅かっ…た…っすね!すずすず!」

 

「ちょっ、途中でどもらないでくださいよ!」

 

「いやー…ははは。ばあちゃる君もね、男っすからね。こういった反応は仕方がないというか…」

 

振り向くとそこには学園指定のスクール水着を身に纏ったすずの姿があった。すずの内面はともかく、外見で言えば早熟している。分かりやすく言えば、『大人っぽい』のだ。その為、すずのスクール水着姿は、どこかいけない事をしているかのような、そんな錯覚を呼び起こす。さらに、すずの抜群のプロポーションがよりその雰囲気を引き立てた。すずのその内面と外見のギャップに虜になるファンも少ないないが、それは置いておく。

その姿に、さすがのばあちゃるも一瞬目を奪われ言葉を失った。しかし、そこは我らのプロデューサー。すぐに持ち直して、言葉を続けたが、さすがにそれは見破られる。言い訳を小さく零し、話を変えるために大きく咳払いをした。

 

「んんっ!それで、すずすずはどうしてばあちゃる君をプールに呼び出したっすか?」

 

「あ、話逸らした!」

 

「…続けたいっすか?」

 

「え!?あ、あぅ…な、なんでもないです…」

 

下手に誤魔化さず、ちょっと強気に出てみると、すずは一気に顔を真っ赤にして視線を逸らした。何を想像したのか追及するのも面白いが、さすがにそれは可哀想と思ったばあちゃるは、改めて話を戻した。

 

「それで?」

 

「えっと…ほら、そろそろ夏休みが終わるじゃないですか」

 

「はいはいはい。そういえばそうっすね。気付けばもう残り一週間は切ってるっすもんね」

 

「え!?…あ、ホントだ!?」

 

「えぇ…言ったすずすずがそれを知らなくてどうするっすか」

 

「うっ…そ、それはともかく!二学期が始まれば水泳の授業があるじゃないですか!」

 

自分と同じように話を逸らすすずに、ばあちゃるは内心で少し笑う。相変わらずの落ち着きのなさに、ばあちゃるはただ可愛いと、そう思った。

ばあちゃる学園の体育の授業は、少し特殊だ。一般の学校では一学期の6月後半から7月にかけて水泳授業が行われる。しかし、ばあちゃる学園では7月の半ばから夏休みを挟んで9月にかけて行われることになっている。これは授業のスケジュールの都合など、色々の要因が絡むが、一番は『温水プール』というところにある。温水プールの為、実際はいつでもプールでの授業が出来るばあちゃる学園は他の学校と違って、プールでの授業のスケジュールに融通が利く。その為、他の授業や行事を加味した結果、上記のようなスケジュールとなったのだ。

 

「はいはいはい。確かに水泳がありますけど…ああ、そういうことっすか」

 

首を傾げたばあちゃるであったが、その答えがすぐに浮かんだ。少し前の配信で、すずは『水泳が苦手』と言っていた。もしかしなくても、それが答えなのだろう。

 

「その、実は友達に『二学期の水泳の授業で泳げるところを見せる!』と豪語してしまって」

 

「えぇ…自分で泳げないは得意じゃないって言っておいて、なんでそんなこと言ったっすか」

 

「だって、バカにしてくるんですもん」

 

「負けず嫌いっすねぇ」

 

悔しそうに小さく拳を握るすずに、ばあちゃるは思わずため息をつく。すずの性格を知っているのであれば、その友人との会話も容易に想像ができる。大よそ売り言葉を買ってしまい、宣言してしまったのだろう。可愛らしいとも言えるが、彼女の短所ともいえる。

だが、すずが頼ってくれた事は非常に嬉しい。すずにとって、ばあちゃるは頼りにしている存在だと、暗に分かるその姿に、ばあちゃるは笑みを浮かべた。

 

「しょーがないっすね!そういうことなら、このばあちゃる君が一肌も二肌も脱いじゃうっすよ!」

 

「え!?プロデューサーさらに脱ぐんですか!?」

 

「ちょいちょーい!?今のは言葉の綾っすよ!?」

 

「ふふ。分かってますよ」

 

楽しそうに笑うすずの姿に、ばあちゃるも釣られて笑う。ようやく調子を取り戻したすずと共に、入る前の準備体操を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「よしよし!その調子っすよ、すずすず!」

 

「はぁっん…ぷはぁっ…ん…」

 

目の前で自分に向けて泳ぐすずに、水中でも聞こえるように大声でばあちゃるは声援を送る。その声に反応するかのように、すずは不格好ながらもクロールでばあちゃるの姿を追った。

すずの泳ぎははっきり言って下手だ。と言っても水中に沈むかと思えば、しっかり浮くことも出来ている。さらにビート板があれば、しっかりバタ足をすることも可能だった。問題は上半身のフォームだ。息継ぎをしないのであれば腕の動きは問題ないのだが、あるとなると一気におかしくなる。首の動きは大きすぎるため、フォームが崩れ身体が沈む。沈むと今度は身体を浮かすために、バタ足が疎かになりスピードが落ちる。これが息継ぎの度になっているため、泳ぎが遅く、その姿も不格好なのだ。

ばあちゃるはアイドル部の配信は極力リアルタイムで見ており、見逃してもアーカイブで見ている。すずの配信の様子から、彼女はマルチタスクが苦手なのだろう。水泳とは、普段は使わない筋肉を複数使用して行うスポーツだ。それらに加えフォームを気にしないと沈んでしまうという、複数のことをリアルタイムで行うということが、すずにとっては難しいのだろう。

けれど、すずの泳ぎは一応であるが、出来ている。ならば後は、それをマシにするのがばあちゃるの今回の仕事だ。

 

「ほらほら!首を曲げすぎっすよ!もうちょっとコンパクトに!沈みそうになったら慌てず少し力を抜くだけでいいっすよ!」

 

「ぷはぁッ!…ん…はぁ…ぷは…」

 

「そうっすそうっす!いい感じっすよ!」

 

息苦しくなってきたのか、酸素を求めて息継ぎのモーションが大きくなる。このままでは次に身体が沈んでしまうので、聞こえるようにばあちゃるは再び大声で注意をした。

改善点は単純で、息継ぎの首の動きを小さくすることだ。そうすればフォームは崩れず、沈むことはない。そうなれば泳ぐ速度も落ちることなく、その泳ぎの姿は綺麗になるだろう。しかし、水泳は特定の泳ぎを除いて無呼吸の時間が多く存在する。酸素が少なくなっていけば、身体は酸素を求めることに意識を集中してしまう。それを忘れないように、ばあちゃるはすずに声をかけ続けた。

 

「ラスト5メートル切ったっすよ!すずすずファイト!」

 

「はん…ぷは!…んん!」

 

「おお!?」

 

ばあちゃるの声を聞こえたのか、すずはラストスパートの様に泳ぎに力を籠める。短い距離ではあるが、その速さは泳ぎ始めと変わりない。そしてすずはそのまま、ばあちゃるの胸へと飛び込んだ。

 

「ぷはぁッ!…はぁ…はぁ…」

 

「お疲れさまっすよ、すずすず!ナイスな泳ぎでした!」

 

「はぁ…はぁ…ばあ、ちゃるさん…私の泳ぎ…どうでした?」

 

「はいはいはい。始めたころと比べてすっごく綺麗になってたっすよ!そりゃもう人魚みたいでしたっすね、完全に!」

 

「はは…はぁ…はぁ…それは、言いすぎですよ」

 

息絶え絶えながらも、ばあちゃるの過剰の表現にツッコミを入れるすずだが、その表情は嬉しそうに綻んでいた。

確かに誇張の表現ではあるが、すずの泳ぎが始めた頃から見間違えるほど綺麗になったのは事実だ。少ない時間であったが、泳ぎを教えていたばあちゃるがそれを確信している。

身体が求める酸素を身体に送るように、荒い呼吸を繰り返すすずに、ばあちゃるは愛しさを覚える。それは無意識に身体を動かした。

 

「よく、がんばったっすね。すずすず」

 

「…ぁ」

 

そっと抱き寄せて、帽子越しに頭を撫でる。短いその言葉に込めらた想いに、すずは胸が高鳴った。

見上げると、そこには今では見慣れた傷跡残す愛しい人の顔。加速する鼓動に背を押され、すずは小さく背伸びをした。

 

「ん…」

 

迫るすずにばあちゃるは抵抗せず、受け入れる。そして二人の唇は、ゆっくりと結ばれた。

触れるだけのキスだが、すずはどうしようもないほどの幸せに身を委ねる。気付くと、すずもばあちゃるの背に腕を回していた。直接触れる彼の身体は水に浸かっていたためか、少し冷えている。それにすずは、少し申し訳ないと感じた。

 

「…ぁ」

 

そっと離れる唇に、物寂しさを覚える。もう一度したい。そのすずの意思を読み取ったのか、ばあちゃるは軽いバードキスを落とした。

 

「…はは。カルキの味がするっすね」

 

「…ぁぅ…」

 

ちゃかすようなばあちゃるの冗談に、すずは何も言い返せない。胸の鼓動は未だに暴走しているし、頭だっていっぱいいっぱいだ。それでも、どうしようもなく幸せで、つい、すずは本心を零してしまう。

 

「…どうしよう…」

 

「ん?」

 

「なとりさんの気持ちが、分かったかもしれないです」

 

すずの言葉に、ばあちゃるは苦笑する。

あの美術室でのキス以降、なとりは一時期暴走していた。人気が少なく二人になれば所構わずキスを強請ってきた。風紀委員長がそれじゃあ不味いと何度か注意もしたが、その度『虜にしたばあちゃるさんが悪い!』と逆キレされる始末。今ではある程度落ち着いたが、先日家に来て一緒に遊んだ時はヤバかった。気付いたら『負けたら相手にキスする』という罰ゲームが追加されており、勝っても負けてもなとりとキスすることになってしまっていた。

閑話休題

ともかく、すずが言うなとりの気持ちとは、ばあちゃるのキスに嵌ってしまう心境のことを言っているのだろう。本来であれば、その気持ちは押し止めなければいけないが、既に彼女たちと共に生きていくと決めた。ならば、あとは感情のまま、動けばいい。

 

「この先はまだできないっすけど…もっと、したいっすか?」

 

「ッ」

 

その言葉に、すずは勢いよく首を何度も縦に振る。そんなすずの姿にばあちゃるは苦笑を零し、再び唇を落とす。

数回のバードキスから、ついには舌が口内に侵入してくる。口内には、ばあちゃるの言う通りカルキの味と唾液の味がブレンドされてすずの脳内を犯す。プールに来る度に思い出しそう、なんて頭の片隅で思いながらすずは、ばあちゃるの身体に身を預けた。

 

 

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