馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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新学期始まって数日後
いつも通り見回りしていたばあちゃるは2-Aクラスから聞こえてきた聞きなれた声に、首を傾げて中を覗き込んで…?


(番外編)


私の想いに応える彼(2-A組)

「ズルい!!」

 

そんな声が、ばあちゃるに聞こえてきた。すっかり聞きなれたその声に、『ばあちゃる』は何事かと思い、声が聞こえてきた『2-A』組へと顔を覗かせる。そこには声の主である『夜桜たま』に加え、クラスメイトである『八重沢なとり』『牛巻りこ』『ヤマトイオリ』の四名が総揃いしていた。

 

「どうしたっすか?」

 

「あ!うまぴー!」

 

「わ、すっごいタイミング!」

 

「見回りお疲れ様です。ばあちゃるさん」

 

「ハウディ!お疲れ様だよ、ばあちゃる号!」

 

「はいはいはい。みんなも今日一日お疲れ様でした」

 

ばあちゃるの姿に確認した四人はそれぞれ小走りに駆け寄ってきた。アイドル部稼働初期に比べ、彼女たちにの反応の差に、内心苦笑いを浮かべた。

茜色の夕暮れが差し込む教室には、ばあちゃるを含め5人の影しかない。どうやら他のクラスメイトは早々に帰宅やら、部活動やらに励んでいるのだろう。もしくは彼女たちの会話が弾んで、取り残されたのどちらかだ。

 

「はいはいはい。なんかたまたまの『ズルい』って声が聞こえてきたっすけど、どうしたっすか?」

 

挨拶もほどほどに、ばあちゃるはここに訪れた理由を聞く。それにたまは思い出したかのように、ばあちゃるに詰め寄った。

 

「そうだよ!なとちゃんやりこちゃん、それにイオリンだけズルいの!」

 

「?あの、どういうことっすか?」

 

「えっと、会長が言ってるのは、ほら、あれですよ」

 

「牛巻たちがばあちゃる号と夏休み中に会って遊んだことを言ってるのさ。ほら、今のいるのって夏休み中にばあちゃる号と会ってた人たちじゃん?」

 

「ああ。言われてみれば」

 

踊ってみたの撮影で合っていたりこ。コンクールの同席に加え、共に遊んだなとり。そして、旅行帰りに泊まりに来たイオリと、たまを除いて見事なまでに夏休み中に会っていたメンバーだ。ここにあとすずが加わるのだが、彼女は別クラス。となると、夏休みの話題でばあちゃる事が出てきた際に発覚し、たまは嫉妬している構図なのだろう。

 

「私もうまぴーと遊びたかった!なとちゃんに至っては動画まで出してるし!」

 

「あ!それはイオリもズルいと思った!」

 

「この中で一番会ってたのこめっちだし、ちょっと抜け駆け過ぎなのでは?」

 

「ちょ!?なぁんで矛先は私に向くんですかぁ!?それに抜け駆けなら、私よりすずさんの方がしてますよぉ!」

 

「あー…言われてみれば夏休み中、部活動で登校するすずすずとは何かと一緒にいたっすね」

 

「ほらぁ!」

 

「むー…前に抜け駆けはダメですよって言ったのに…すーちゃんったら!」

 

「美術部も合ったんじゃないの、部活?」

 

「ありましたけど、その日は顧問の淡井先生が来てくれてました。ばあちゃるさんと会う日はなかったですね」

 

「たまちゃんとこの麻雀部は学校に来なかったの?」

 

「部員少ないし、今はネット環境が出来てるからね。無理に学園に来る必要がないんだよ。今ほど麻雀部を立ち上げた事を後悔したことはないかな」

 

「えぇ…」

 

本気で悔しい様に表情を浮かべるたまに、ばあちゃるは困惑してしまう。そんなたまの様子に、他の三人も苦笑を浮かべた。

 

「そうだ!でしたら今から少し遊びませんか?せっかくばあちゃるさんもいますし、どこかに出かけるとなると難しいかもしれませんけど、ここで少し遊ぶくらいなら大丈夫ですよね?」

 

「え?…はいはいはい。今日の業務はほぼほぼ終わってるんでね、みんながよければばあちゃる君も参加しちゃうっすよ」

 

「ホント!?」

 

「いえー!ばあちゃる号も一緒だ!」

 

唐突のなとりからの提案に、ばあちゃるは今日の業務を思い出しながら賛同する。ばあちゃると一緒がよほどうれしいのか、イオリとりこはその感情を露わにした。そんな二人の様子に、なとりは笑みを零して最後の一人、たまへ同意を求めるように視線を送る。

 

「たしか会長も今日はお暇でしたよね?」

 

「そうだけど…うーん」

 

「どうしたのたまちゃん?せっかくうまぴーと一緒に遊べるんだよ?」

 

一番喜びそうなたまが、珍しく首を捻っている。何か悩んでいるような、そんなたまに、なぜかばあちゃるは嫌な予感がした。

 

「賛成はさんだよ?けど、ちょっと物足りないなーって」

 

「はい?あの、会長?」

 

「負けたら罰ゲーム…なんて、どうかな?」

 

「いいねそれ!さくたまちゃん、ナイスアイデア!」

 

「罰ゲーム…イオリは負けませんよ?」

 

その発言に冷や汗をかいたのは、ばあちゃるとなとりだ。夏休みに二人で遊んだ際に『負けたら勝った方にキスをする』という罰ゲームを実行していたため、罰ゲームというワードに過敏に反応してしまう。その件について、誰にも漏らしていないので言及されることはないが、それでも不安になってしまうものだ。

 

「そ、そうですね!罰ゲームも悪くないですね!けど、風紀を乱すのはダメですよ?」

 

一瞬『どの口が言うか』と言いそうになるが、ばあちゃるはなんとか抑える。

 

「えぇ~せっかく『負けたらキス』なんてのも考えてたのに!?」

 

「だめに決まってるじゃないですか!?風紀が無法地帯になりますよ!?」

 

「わ、うまぴーが凄い顔してる」

 

「こんな冷たい顔のばあちゃる号も珍しい」

 

ブーメランを繰り返すなとりに、さすがのばあちゃるの視線も冷ややかなものになる。だがすぐに首を振り、その考えを払う。その発言がいくらブーメランでも、なとりは夏休みでの出来事は一切喋っていないのだ。それなのに共犯者である自分が、それを見放してどうする。ばあちゃるはなとりを援護するために、一歩前に出た。

 

「はいはいはい。たまたまもね、そこでストップすよ。さすがに学校でそこまで過激なことやったらばあちゃる君がまた炎上しちゃうんでね」

 

「むぅ、うまぴーがそこまでいうなら…けど、それなら罰ゲームはどうしようか」

 

「はいはーい!イオリにいい考えがあります!」

 

そう言って元気よく手を挙げるイオリ。微笑ましいその姿に、ばあちゃるも笑みを浮かべるが、その手に握られていたのはマジックペン。どうやら危機はまだ去っていないようだ。

 

「あの、イオリン?そのマジックでどうするつもりっすか?」

 

「ふっふっふ!あのねあのね!勝ったらうまぴーに名前を書いてもらうってのはどうかな?」

 

「名前を…」

 

「書いてもらう?」

 

牛丼コンビが首を傾げる。冷や汗が伝う焦り顔のばあちゃるとは対照的に、イオリは楽しそうに頷いた。

 

「そう!勝ったらうまぴーに身体のどこでもいいから『イオリはばあちゃる君のモノ』って書いてもらうの!前にやってもらったことがあるんだけど、すっごいんだよ!」

 

「い、いやいやいや!?なんで勝ったらなんすかね!?誰がどう見ても罰ゲームじゃないっすか!?」

 

「?イオリは嬉しかったからご褒美にしようって提案しただけですよ?」

 

「さ、流石に風紀が乱れて!?…そうっすよね、りこぴんにたまたま?」

 

あの時は酔っていたから勢いで出来たが、それを素面で、しかも彼女たちが学ぶ場所であるこの教室でそんなことは出来ない。というかやったら色々と歯止めが利かなくなる。背徳感がヤバい。焦った様子で、ばあちゃるはたまとりこに視線を送るが、そこにはマジ顔をしている二人がいた。

 

「…さくたまちゃん。悪いけど、牛巻本気で行くよ」

 

「それはこっちのセリフだよりこちゃん。相手がリコちゃんでも、負けられない戦いがあるんだよ」

 

「何とある事情で敵対した親友みたいなシチュエーションを展開してるんすか!?ってなとなと!なとなとならこの状況でも風紀委員長としての務めを!」

 

「風紀は置いてきた。やつはこの戦いにはついてこれそうにない」

 

「風紀委員長が風紀を放棄したら、誰が風紀を守るんすか!?」

 

ばあちゃる、魂のツッコミである。しかしばあちゃるのツッコミも空しく、なとりもまたたまたちと同様に覚悟が決まった表情をしている。そこから、どう言ってもどうにもならないことを、ばあちゃるは本能で察した。

 

「…もう、なんでもいいっすよ」

 

「ん?今なんでもいいって言ったよね?」

 

「言質ゲットだよ、イオリン!」

 

「風紀は投げ捨てるもの」

 

「みんなのやる気も十分!それじゃあいってみよー!!」

 

元気のいいイオリの言葉は、ばあちゃるには死刑宣告のように聞こえた。

 

 

 

 

 

~2-A対決!うまぴーをドキドキさせよう!!~

 

ルール

うまぴーの心拍数を一番高くさせた人の勝ち!

基本はなんでもアリ!けど痛いのはダメだよ?

 

1位のご褒美!

うまぴーに『好きな所』に名前を書いてもらう!

 

「あの、イオリン?なんでここ強調されてるっすか?」

 

黒板に書かれたルールの『好きな所』を指さしながら、それを定めたイオリに尋ねるばあちゃる。その腕には牛巻システムが組み込まれたりこのPCに繋がれており、そこから逐一心拍数が図られていた。

 

「え?だってこう書いとかないとうまぴー逃げちゃうでしょ?だからね、イオリが書き加えました!」

 

「…意外に頭が回るっすね」

 

「えへへ。そんなに褒められても何もでないですよ?」

 

「褒めてないっすよ!?」

 

呆れるばあちゃるに、嬉しそうに笑うイオリ。気を取り直して周りを見るとりこの姿だけ見当たらない。心拍数を図る装置を付けてから、『準備してくる』と飛び出して以来だ。この間に抜け出せないか、考えようとするがそれはたまの携帯端末から流れる通知音により遮られた。

 

「あ、りこちゃんからだ。『先に始めてて』だって」

 

「準備に戸惑ってるのでしょうか?」

 

「もしかして恥ずかしがってるだけかも」

 

「うーん…ちょっと予想がつかないけど、りこちゃんがこう言ってるし、先に始めちゃおっか。完全下校時刻になって、逃げられちゃ元もこうもないし」

 

最後の逃げ道も塞がれ、ばあちゃるは肩を落とした。せめてこの間、この教室に誰も近づかないことを願うばかりだ。

そんなばあちゃるの気も知らず、たまたち三人は、順番決めのためのじゃんけんを繰り広げていた。

 

「やったぁ!イオリの勝ち!」

 

「ってことはイオリさんがトップバッターで私、会長の順番ですね。りこさんはどうしましょう?」

 

「来た時に割り込みって感じで良くない?その方がりこちゃんのインパクトもでかいし」

 

「…やけにりこさんを優位に持たせたいようですね」

 

「りこちゃんが、というよりたまちゃんが最後を渡したくないじゃないかな?」

 

「さぁ、どうだろうね?」

 

わざとらしく笑うたまに、なとりは背に冷や汗が伝う。やはり会長はただモノではない。ここはとっておきを出さざる負えない、となとりは覚悟を決めた。

そこから軽いルールの確認を挟んでイオリは、椅子に座るばあちゃるの前に躍り出た。

 

「それじゃあ…スタート!!」

 

 

 

~ヤマトイオリ~

 

「うまぴー。えへへ…ぎゅー、ですよ?」

 

「い、イオリン!?」

 

ばあちゃるの前に立つと、イオリはばあちゃるの頭に腕を回して、優しく抱きしめた。ばあちゃるの顔は、イオリのその豊満な胸に軽く沈む。女性特有の甘い香りにイオリの優しい雰囲気が、ばあちゃるを包み込んだ。

 

「いつもいつもお疲れ様。イオリさんはいつもうまぴーの頑張りを見てますよ?」

 

「イオリン…」

 

「だから、だからね。今くらいはイオリに甘えてくれると、とっても、とぉってもうれしいかな、って」

 

顔を上げると、そこには恥ずかしそうに顔を朱に染めるイオリの姿。そしてばあちゃるを包む慈愛の抱擁に、甘やかす優しい声。その全てが、ばあちゃるを甘く溶かした。

今まであればいつもの様に強がれたが、既にばあちゃるの身体は彼女たちに頼ることの心強さを知っている。甘えていいということを、知っている。

イオリの言葉に身を任す様に、ばあちゃるはイオリの背に手を回した。

 

「…ほんと、イオリンは優しいっすね」

 

「誰にでもじゃないですよ?うまぴーだから、イオリはいっぱい優しくしたいって思うの。だから、今うまぴーがイオリに甘えてくれて、イオリはとっても幸せです。うまぴーは、幸せですか?」

 

「ああ…すっごい、幸せっすよ」

 

何時の日か、イオリと抱き締め合った幸せループがここにある。いや、今はあの時より数倍に幸せで、ばあちゃるはこの幸せを守っていこうと胸に誓った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「最高瞬間心拍数は130…だね」

 

「平均が100前後でしたから、そんなに高くはないのですけど…」

 

「わかる。分かるよなとちゃん」

 

「「すっごい負けた気がする…」」

 

「あれ?どうしたの二人とも?」

 

満面の笑みで戻ってくるイオリに、なとりとたまは謎の敗北感を味わっていた。それほどまでに特大のをかまして見せたのだ。数字だけ見れば大したことはないが、それでもこの敗北感を拭うことは出来ないだろう。

 

「よし、次鋒八重沢なとり、行きます!」

 

「なとなとがんばってー!」

 

覚悟を決めた表情で、なとりはばあちゃるの前に歩みを進めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

~八重沢なとり~

 

「な、なとなと?なんか表情が硬いっすよ?」

 

「うっ…し、仕方ないじゃないですか、緊張してるんですから!」

 

何故か頬を真っ赤に染め、羞恥に溢れた顔でなとりは吠える。まだ何もしていないのに、ここまで羞恥に悶えているのはなぜなのか。その理由はすぐに分かった。

 

「ば、ばあちゃるさん!失礼します!」

 

「へっ!んぅっ!?」

 

「「あーーーーー!!!!!」」

 

荒々しく顎を持ち上げられて、唇が塞がれた。なとりの後方から聞こえるたまとイオリの叫び声がやけに遠く感じる。一瞬、何が起こっているのかわかっていなかったが、なとりにキスされていることに気付くと、ばあちゃるの頬もなとりの様に真っ赤に変化した。

 

「ぷはぁ!」

 

「な、なななななななとなとぉ!?」

 

唇を離れると、ばあちゃるは立ち上がり一歩引く。なとりとのキスは既に数回行ってきたが、そのどれもが人目に隠れての行為だ。それをまるで見せつけるようにやられてしまえば、さすがのばあちゃるも驚くしかない。

 

「風紀!風紀委員長なんすから!学園じゃさすがに!」

 

「だって!」

 

「へ?」

 

「だって、イオリさんに負けたくなくて…」

 

尻すぼみに小さくなる言葉に、ばあちゃるは冷静になる。よく見て見れば、なとりの表情はキスする前よりずっと羞恥により真っ赤だ。そこから見て取れるように、なとりもよほどの覚悟を決めてキスを実行したのだろう。開始前に言っていたことは嘘偽りないということだ。

ここまで勇気を出してもらえたのであれば、応えなければ男ではない。小さく咳払いして、ばあちゃるはなとりの顔を優しく撫でた。

 

「相変わらず負けず嫌いっすね。それとも…前に言ったように、本当に一番風紀を乱してる子なのかな?」

 

「んなぁ!?ち、違いますよぉ!」

 

「今の状態じゃ、誰も信じないっすよ。けれど…」

 

慌てるなとりをなだめる様に、頬を撫でる。それに甘える様に、なとりはばあちゃるの手に顔をこすり付けた。

 

「なとなとからのキス。とっても嬉しかったっすよ」

 

「な、なぁ!?あ、…あぅ…ふ、風紀!乱してませんか!?」

 

「一番乱してるのなとちゃんだよね!?」

 

「連行だよ連行!!なとなとにはちょっとお話があります!!」

 

「え、あ!ちが、違うんです!イオリさんに会長!話を!」

 

「「聞きません!!」」

 

二人の間に割って入ってきたたまとイオリはそのままなとりの腕を掴んで連れていく。ここで手を出してしまえば自分にも飛び火してしまう。それが予想できたばあちゃるは、そんな三人の様子を微笑ましそうに見守った。

ちなみに瞬間最高心拍数は150だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

~牛巻りこ~

 

「は、ハウディ、ばあちゃる号!待たせちゃったかな!?」

 

イオリとたまによる圧迫尋問の最中、閉められていた教室の扉が勢いよく開かれた。そこから現れたのは、準備に姿を消していた牛巻りこその人だ。しかし、その恰好は先程まで身に纏っていた制服ではなくて、りこにとって、そしてばあちゃるにとっても特別なものであった。

 

「りこさん素敵じゃないですか!」

 

「わぁ!りこちゃんかわいい!!」

 

「うん!かっこいいりこちゃんも好きだけど、今のりこちゃんも断然あり!!」

 

「え、えへへ。そうかな?」

 

照れるりこ衣装は、フリルがいっぱいの可愛らしいドレスだ。ふんわりと膨らむスカートに多彩な装飾を込められたその衣装は、普段見せないりこの魅力をこれでもかと言わんばかりに発揮させる。ばあちゃるも、その姿に目を奪われずにはいられなかった。

 

「けど、りこちゃんそんな衣装持ってたっけ?」

 

「こ、これね。あの撮影の後にばあちゃる号から貰ったんだ」

 

「うまぴーからのプレゼント!?いいなー!」

 

あの撮影とはりこと共に衣装を変えて踊った『馬Pと一緒シリーズ』の二週目のことだ。撮影当時、よほど気に入っていたのか遅くまで着替えずに、回ったりして衣装を堪能していたりこを覚えていたばあちゃるは、撮影後にりこを連れて似た衣類をプレゼントした。カッコいい自分のイメージを大事にするりこが、その衣装を身に纏うことは少ないかもしれないが、それでもあの時の嬉しそうな笑顔が離れず、反対を押し切って送ったのだ。渡した時のあの嬉しそうに照れながら笑うりこの表情を、ばあちゃるはしっかり覚えている。

ひとつ前に比べ、なんと可愛らしいアピールなのだろう。ばあちゃるの胸には安堵が溢れた。しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「…ばあちゃるさんからの贈り物…ですか?」

 

「おやおや?こめっち、もしかして悔しいのかな?」

 

「いえ、どうやらその様子じゃ男性が女性に服を送る意味を知らないようですね」

 

「理由?」

 

なとりの言葉にイオリは首を傾げる。りことたまも知らないのか、同様に首を傾げていた。しかし、ばあちゃるは違う。その意味で贈ったわけではないが、多少でも含まれているのは事実だ。ばあちゃるは焦りながら、なとりの顔を伺う。そこから読み取れるのは、道連れだった。

 

「男性が女性に服を送る意味…それは『着せた服を脱がせたい』…なんですよ?」

 

「へぁ!?そ、そうなのばあちゃる号!?」

 

いつの頃からの共犯者であるりこを道ずれにするために、なとりは楽しそうにその事実を伝えた。その予想外すぎる事実を確認するかのように、りこはばあちゃるに振り返る。多少でも、そんな下心があったばあちゃるは条件反射で顔を逸らしてしまった。それが答えだ。

 

「そ、そうなん…ばあちゃる号が、ウチのことを…」

 

俯いてぶつぶつと聞こえるか聞こえないくらいの声量で独り言を繰り返すりこ。そして覚悟を決めたように顔を上げて、ばあちゃるに近寄り、その胸に身を預けた。

 

「り、りこぴん?」

 

「う、うち…ばあちゃる号やったら、ええよ?」

 

『何が』とは言えなかった。それを言うのは野暮ということは、さすがのばあちゃるだって分かっている。普段とのギャップが激しいりこの姿に、ばあちゃるは無意識に抱きしめた。

 

「今はまだ、その時じゃないっすからね」

 

「あ…そ、そうやね。うち、ちょっと早とちり「でも」…え?」

 

「でも、その時になったら、覚悟してくださいね」

 

「ぁ、ぁぅ…はぃ…」

 

顔を真っ赤にして、狼狽えながらもしっかりと頷くりこに、卒業まで耐えるか少し心配になったばあちゃるであった。

後方にいたたまとイオリは、そんな二人の様子を微笑ましそうに見ていた。

 

「いや!?私の時と対応違いすぎません!?」

 

「実力行使したなとちゃんと、正当に攻めたりこちゃんじゃ天と地ほど違うよ」

 

「なとなとはしっかり反省してね?」

 

「あんまりですよぉ!?」

 

当然の結果である。

なお瞬間最高心拍数は140だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

~夜桜たま~

 

「よし、トリはこの私、夜桜たま!行きます!」

 

ここまできてようやく一番の問題児の登場だ。既にキスという大事ももう一人の問題児がかましてしまった為、たまは何をしでかしてくるか予想できない。どうにかしなければ、そう思ったばあちゃるにある名案が浮かび上がった。

『逆にばあちゃるから仕掛ければいいのでは?』

最初は、ここが学園であることなどの要因により余裕がなかったが、既に三人と攻めを攻略してきたばあちゃるがその限りではない。余裕が出てきたばあちゃるは、反撃に打って出た。

 

「へ?」

 

ばあちゃるの手を取り、胸に当てるというパワー系を象徴するようなストレートなアピールをするため、手を取ろうとするがそれよりも早くばあちゃるがたまを抱きしめる。ばあちゃるとたまの身長差は、かなり離れているが、ばあちゃるが座っているおかげで、たまの顎がばあちゃるの肩に乗るという丁度いい高さになっていた。あまりにも急な行為に、たまの頭は混乱する。

 

「う、うまぴー?」

 

「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」

 

困惑するたまの頭を優しく撫でる。そして、胸に秘めた万感の思いを言葉にして伝えた。

 

「俺は、ずっとたまちゃんの想いに気付いていて無視し続けた…それでもたまちゃんは、俺のことを好きでい続けてくれた」

 

「言葉にしてこなかったっすけど、すっごく…嬉しかったっすよ。こんな俺でも、誰かに好きになってもらえてる。そんな実感をたまちゃんのおかげで、感じることが出来た」

 

「けど、少し前までの俺は、それを素直に受け取ることは出来なかった。あれこれして受け流して、たまちゃんの想いを躱し続けていた…それでも、たまちゃんは俺を好きでい続けてくれた」

 

「遅くなっちゃったっすけど、改めて言わせてもらうっすね」

 

「たまちゃん、大好きっすよ」

 

「…ぁ」

 

誰かを好きになるということは、思っている以上に体力を使う。それが答えが返ってこないものだとしたらなおさらだ。さらにたまは、そういった乙女の感情に鈍い。だから感情のままに『好き』を表現することしかできなかった。

それを長い間無視し続けられても、その想いは決して枯れることはなかったが、それでも、無視され続ける日常は確実にたまの心を疲弊させていく。本人すら気付いていなかったが、その心は割と限界まできていたのだ。

その心を労わるように、ばあちゃるの言葉はたまの胸に確かに響く。それは、たまの恋が報われる瞬間でもあった。

 

「あ、あれ…」

 

「た、たまたま!?」

 

気が付くと、たまの頬には涙が伝う。泣き虫でもあるたまに、その感情の爆発は涙腺の決壊を容易にさせた。

取り止め泣く零れる涙に、さすがのたまも困惑気味だ。そんなたまを安心させるように、ばあちゃるは少し強く抱きしめて、落ち着かせるように優しく頭を撫でた。

 

「…わ、私…うまぴーのことが…ばあちゃるさんのことが好き」

 

「うん」

 

「恋なんて、正直今でもよくわからない…けど、この感情から、目を背けたくないって、そう思ったの」

 

「うん」

 

「けど…肝心のばあちゃるさんは全然こっちを見てくれないし、応えてもくれない。私ね…分からなくなってきちゃって」

 

「ごめんなさいっすね」

 

「許さない…だからもっと強く抱きしめて」

 

要望通り、少し強く抱きしめる。少々強いと思ったが、文句が返ってこないということは丁度いいのだろう。そう解釈したばあちゃるは、その状態を維持し始める。

止まらない涙をそのままに、たまの独白は続く。

 

「分からなくなっても、私がばあちゃるさんのことが好きって事実だけは確かにあったの…だから、私らしく行こうって決めたの」

 

「うん」

 

「変な子と言われてもいい。周りから引かれてもいい。私はばあちゃるさんが好きと私の全部をかけて伝えていこうってきめ…て…ぐすっ…」

 

「…たまちゃんの気持ち、確かに届いてたっすよ」

 

「ほんとう?」

 

「ほんとうっす」

 

「ほんとにほんとう?」

 

「ほんとにほんとっすよ」

 

「ほんとにほんとにほんとう?」

 

「ほんとにほんとにほんとっすよ」

 

「…ねぇ、うまぴー」

 

「はい?」

 

「もう一回好きって言って」

 

「大好きっすよ。今度はばあちゃる君がたまちゃんに言われた分を返すまで、いや、返し終わってもいつだって、いくらだって大好きって伝えるっすよ」

 

「…ッ」

 

そこが限界だったのか、たまはばあちゃるの腕の中で声を抑えずに泣いた。ぐちゃぐちゃになった感情を処理しきれず泣くその姿は、まるで幼い子供のようだ。

 

「心拍数を確認するまでもないですね。勝者が決まりました」

 

「ねー。あんな幸せそうに泣くたまちゃん見ちゃったら、優勝したなんて言えないよ」

 

「ばあちゃる号!牛巻ももちろんだけど、さくたまちゃんもしっかり幸せにするんだぞ!」

 

そう言って教室を去っていく三人に視線で礼を送る。今日はたまも一緒に夜を過ごそう。家に帰ればロッシーや後程帰宅してくるシロもいるが、今たまを帰すという選択はばあちゃるの中に存在しない。きっとシロもたまの様子を見れば受け入れてくれるだろう。

今夜は、いつも以上に楽しい夜になりそうだ。訪れ始めた夜に、ばあちゃるは楽しそうに笑みを浮かべた。

 




どうでもいい本作のアイドル部のクラス分け

2-A
夜桜たま 八重沢なとり 牛巻りこ ヤマトイオリ

2-B
木曽あずき 北上双葉

2-C
花京院ちえり 金剛いろは もこ田めめめ

2-D
神楽すず 猫乃木もち

中等部
カルロ・ピノ
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