馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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とある日の昼休み
その日は学園長であるばあちゃるは、仕事のモチベーションが非常に高かった
旧券時間でもある時に、ふと窓を見て見ると…?

(番外編)


彼らが考える私の食育計画(木曽あずき)

9月に入って既に半ば。夏の暑さも、全盛期に比べ大分おとなしくなり、今では少し肌寒いくらい日もあるくらいだ。

そんなとある日の平日。ばあちゃる学園の長『ばあちゃる』はいつもの様に、執務室である学園長室にて軽い書類処理を行っていた。

 

「んー…これは再確認、っすね。ピーマンにでも投げときましょう」

 

独り言を言いながら、書類を一つ一つ処理していく。机の片隅には空になった弁当箱。昼休憩が入ったと同時に食べたシロ特製のお弁当は、ばあちゃるの舌を潤して今はもう腹の中だ。愛する人お手製のお弁当は活力が沸く。居ても立っても居られなくなったばあちゃるは、まだ昼休憩中というのに常務に入っていた。

そんなことばかりしているから、最近の仕事の終わりが早いのだ。メンテなどにさらに仕事を要求するも、過労で倒れる一歩まで働いた経験があるばあちゃるに、緊急時以外で通常以上の業務を任せるわけにはいかないと断られる始末。完全に身から出た錆なので言い返すことも出来ない。

見回りとも考えたが、学園唯一の男性が意味もなく見回りするのは流石にマズい。ならばどのように時間を潰そうか。書類の処理をしながら、ばあちゃるは片手間にそんなことを考えていた。

ふと、窓の外を見る。青空が見たくなったなどではなく、ただ何となく外の様子を見ようと思った。そんな突拍子のない思考の元、見た窓の外には予想外の光景が広がっていた。

 

「あずきち!?」

 

「あ、見つかった」

 

窓の外。そこに不自然に垂らされたロープから、担当VTuberの一人『木曽あずき』が下りてきているところがばっちりとばあちゃるの目に止まった。見られると思っていなかったあずきも、少し驚いた反応をしている。

 

「ちょいちょーい!?え!?なんで上から!?というか何でロープ!?」

 

「…とりあえず、入れてもらってもいいですか?」

 

「あ、ああ!そうっすね!今開けるっすよ」

 

慌てながらばあちゃるはあずきの正面の窓を開ける。昼頃はまだ暑く、冷房の効いた部屋に外から熱気と共に、ロープにぶら下がっていたあずきを招き入れた。相変わらず表情が読み取れないが、どことなく涼しそうだ。

 

「…学生はこの暑い中授業してるのに、冷房効いた部屋でぬくぬくと、いい御身分ですね」

 

「ばあちゃる君一応学園長っすよ!?あと全教室に冷暖房完備してるっすから、環境はどこも同じじゃないっすか!?」

 

「ああ言えばこう言う…何様ですか?」

 

「プロデューサーっすよ!?え!?プロデューサーっすよね!?ばあちゃる君!?」

 

「何当たり前の事言ってるんですか」

 

「言ったのあずきちっすよね!?」

 

「そうでしたっけ?」

 

「なんなんっすか!?」

 

「…ふふ」

 

ノリよく茶番に付き合ってくれるばあちゃるに、あずきは小さく笑みを浮かべる。このなんてこのない小さな幸せを感じる時間が、あずきはどうしようもなく好きだった。

しかし、この時間を楽しんでいる暇はない。追って生きている彼女であれば、いの一番にここを突き止めてくるだろう。

 

「…すみません、ばあちゃるさん。ちょっと隠れさせてもらいますね」

 

「ちょちょ!?あずきち!?」

 

慌てるばあちゃるを無視して、ばあちゃるが座る椅子の横から机の下に潜り込む。さすが学園長の机といったところか、内部は小柄なあずきが入っても、少し余裕がある。ただ、真正面にばあちゃるの股間があることが少し恥ずかしい。

 

「…多分、追っ手が来ると思うので、『あずきは来なかった』と伝えてもらえますか?」

 

「あひ?追っ手って?」

 

「うまぴー!」

 

追求しようとするばあちゃるを遮るように、学園長室の扉が勢いよく開かれる。一応、学園のトップなのだからもう少し丁寧に扱ってほしいと内心で愚痴をこぼしながら、ばあちゃるは来訪者に視線を向けた。

 

「ってふたふたじゃないっすか。そんなに慌ててどうしたっすか?」

 

入ってきたのはあずきと同じアイドル部でクラスも一緒の『北上双葉』その人だ。よほど急いでいたのか、荒い呼吸を整えながら持っている携帯端末を操作している。誰かと連絡を取っているのだろうか。そんな疑問を浮かべているとばあちゃるの携帯端末から通知音が響いた。

 

「携帯見ていいよ。ふーちゃん、ちょっと息を整えるから」

 

「そうっすか?ならお言葉に甘えて…」

 

双葉の言葉に甘え、ばあちゃるは自分の端末を開く。通知音の正体はとある人物からのメッセージのようだ。軽く目を通した後、ばあちゃるは端末をしまった。

 

「誰からだったの?」

 

「はいはいはい。メンテちゃんからっすね。いつも通りの業務連絡なんで、ふたふたが気にする必要はないっすよ」

 

「ふーん」

 

「それでそれで。ふたふたは急にばあちゃる君のところに来てどうしたっすか」

 

当初聞こうと思っていたことを問うと、双葉は思い出したかのように声を荒げた。

 

「そうだった!ねぇうまぴー。あずきちゃん来てない?」

 

「あずきちっすか?…ここには来てないっすね」

 

一瞬視線が机の下に向くが、先程あずきに言われた通りに誤魔化した。ばあちゃるの言葉に、双葉はがっくりと肩を落とす。

 

「予想が外れちゃった…なら、双葉は急いでるからもう行くね」

 

「はいはいはい。一応言っとくすけど、廊下は走っちゃダメっすよ?」

 

「…善処する」

 

「ちょいちょーい!?そんなこと言ってなとなとに捕まって困るのはふたふたっすよ!?」

 

「うまぴーが許可したってなとちゃんには言っておくね」

 

「えぐー!?とばっちりじゃないっすか、完全に!?」

 

『じゃあねー』と慌てるばあちゃるを余所に、双葉は学園長室の扉を閉める。バタンという閉まる音を確認したあずきは、机の下から顔を出した。

 

「助かりました、ばあちゃ…る…さん…」

 

「あ、やっぱりここにいた」

 

「だろ?人間が頼る先なんて馬しかいないんだよ」

 

そこには退出したはずの双葉と、自身が作成した『動画編集神』がいたずらに成功したような、そんな表情を浮かべて立っていた。どういうことか、振り返ってばあちゃるに視線を向けると、ばあちゃるは苦笑を零しながら携帯端末の画面をあずきへと見せる。先程送られてきたメッセージの送り主には見慣れた『動画編集神』の文字。そして文面には『人間が逃げてくるから逃がさないようによろしく』と書かれていた。

 

「…北上さんが先程出たようにも思えたのですが」

 

「あ、これ?ただ開けたドアを閉めただけだよ?」

 

「こんな簡単な策にかかるなんて、まだまだだな、人間」

 

ケラケラ笑う動画編集神に小さくイラつきを感じながら、どうにか抜け出せないか策を練る。そんな三人の蚊帳の外にいるばあちゃるは、おそるおそるに尋ねた。

 

「はいはいはい。ばあちゃる君、これほったらかし食らってるやつっすね、完全に。それでそれで?ふたふたと動画編集神はどうしてあずきちを追いかけてたすか?」

 

「それはね、これだようまぴー」

 

「これは…スニッカーズ?」

 

ばあちゃるの問いに、双葉は懐から棒状のチョコ菓子を取り出した。購買でも売ってあるそれは、ばあちゃるにも見慣れたものだ。

 

「これ、あずきちゃんのお昼ご飯なの」

 

「…は?」

 

驚愕の発言に、ばあちゃるは反射であずきに視線を向ける。その視線から逃れる様に、あずきは顔を逸らした。それは双葉の言葉に頷いたのと同じだ。

 

「しかもお昼これ一本なの。ありえなくない?」

 

「まじんがー?」

 

「マジだぞ。こいつの食の細さに、おじいさんたちが心配しててな。それで私がこいつに相談したんだ」

 

『同じクラスだし協力してくれると見込んでな』と付け加える動画編集神。双葉はあずきと同じクラスに加え、生徒会も共にしていれる。さらに食に関しては人一倍関心があるので動画編集神の人選は大当たりだ。

 

「それで教室でお弁当を食べようとした時にあずきちゃんが逃げ出して…」

 

「まさか窓から逃げ出すとは思わなんだ」

 

「なぁるほど…だから窓から下ってきたわけっすね」

 

そして視線はあずきに集中される。さすがに居心地が悪いのか、あずきは珍しく視線を四方八方に泳がせた。

 

「いや、だって食べれる方がおかしくありません?」

 

「は?」

 

「いえ、美味しいのは分かるんですけど…そんなに食べれる方がおかしいじゃないですか」

 

言い訳がましく言うあずきだが、それは悪手だ。なによりその言葉に双葉は見て分かるように不機嫌を表している。このまま爆発させても解決できると思うが、せっかくだから援護してやろうと、ばあちゃるは悪だくみをする。

 

「編集神、編集神。お弁当はもってきてるっすよね?」

 

「へ?ああ。一応持ってきてるぜ。おばあさん特製の人間好物特盛弁当だ」

 

「おっけですおっけーです。それじゃあ、あずきち?」

 

「はい?ひゃっ!?」

 

「うまぴー!?」

 

身構えるあずきを抱き上げ、そのまま応接用のソファーに座り、膝にあずきを乗せる。そのままあずきの身動きを封じる様に、後ろから身体を抱きしめた。

 

「ば、ばあちゃるさんッ…その、この格好は少し恥ずかしい、です」

 

「残念ながら、今のばあちゃる君には聞こえないっすね。というわけでふたふたに動画編集神もこっちに」

 

「なるほどそういうわけか」

 

「え?…あぁ、そういうこと」

 

いち早くばちゃるの意図を呼んだ動画編集神は、どこからかお弁当箱を取り出した。それをソファー前に設置されているテーブルに広げる。そして動画編集神のアイコンタクトでようやく意図に気付いた双葉は、ばあちゃるの横に座り、動画編集神から箸を受け取った。

 

「というわけで、あずきちゃん。はい、あーん」

 

「ッ!?」

 

「はいはいはい。いくら暴れてもばあちゃる君は動きませんからねー。諦めてふたふたのあーんしてもらってください」

 

「諦めろ人間。既に四面楚歌だぞ」

 

人前でばあちゃるに抱きしめられている現実だけで充分恥ずかしいのに、それに加え友人である双葉からのあーん攻撃。ポーカーフェイスが得意のあずきも、さすがにこの状況には赤面してしまう。

抜け出そうにも身動きを取ろうとすると、ばあちゃるからの抱きしめる力が強くなる。それがどうにも恥ずかしくて、あずきは抵抗するのをやめて、観念するかのように、大人しく口を開けた。

 

「んー…あーんって言ってほしいけど、さすがにそこまではお願いするのはダメかな?」

 

「…できれば勘弁してください」

 

「あずきちは恥ずかしがりやっすねー。そういうところもかわいいっすよ」

 

「…ぁぅ…」

 

「珍しく照れてる人間を激写。これでおじいさんおばあさんにもいい報告できるな」

 

「…帰ったら覚悟してください」

 

脅しをかけるが、赤面しており、さらに羞恥のせいか少し涙目になっている状態でされても恐怖など露ほどにも感じない。動画編集神も『おおこわっ』と軽くあしらう程度だ。

羞恥を感じながらも、あずきは確かな幸福に包まれていた。愛しい人に抱きしめられて、大好きな友人に食べさせてもらう。なんとも奇妙な体験だが、そこにあずきは確かな幸せを感じていた。それはそれとして、動画編集神と双葉には近いうちにお返しをしよう。双葉から差し出されるおばあさん特製の卵焼きを頬張りながら、あずきは静かに決意した。

 

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