軌道に乗り出したアイドル部は『踊ってみた』の動画を投稿を始めた模様
そんななか、ダンスの練習をするものが現れ始めた様子で…
(番外編)
時刻は午後4時。日も傾き始め学園の生徒も続々と下校を始める時間、体育館に一人の少女がいる。足元より少し離れた場所に置かれた携帯端末からは軽快な音楽が響き、少女はその音に合わせて体を動かす。
「ああ!?また間違えた!」
リズムに合わせて動かしていた体を止め、端末の音楽を止める。失敗による苛立ちの表情を浮かべ、鞄から水分を補給するためにペットボトルを出すが、残念なことに中身は空であった。
「しまったー。そういや、6限の前に飲んじゃったんだ」
少女『猫乃木もち』はガクッと肩を落し、改めて財布を取り出す。体育館から近場の自販機はどこだったか考えながら振り向くと、体育館の入り口には見慣れた姿があった。
「あれ、プロデューサーちゃん?どったの、こんなとこで?」
そこには高身長で体格のいい体をスーツで包んだ冒涜的なマスクをした男性『ばあちゃる』が小さいビニール袋を片手に立っていた。もちの挨拶にビニールを持っていない手を小さく上げ、挨拶をした。
「はいはいはい。ばあちゃる君は学園の見回りっすね。さっき上で会ったすずすずに体育館にもちもちがいると聞いたので差し入れも持ってきたっすよ」
「お、ありがとプロデューサーちゃん!けどお仕事はいいの?」
「いやー、それがですね。ずっとお仕事してたらメンテちゃんから連絡着て『見回りでもいいので体を動かせ』と言われちゃったっすよ」
「ああ、そういう」
ビニールから出されたスポーツドリンクを受け取る。購買で購入したばかりなのだろう。受け取ったスポーツドリンクはいい感じに冷えていた。
ばあちゃるの発言から、言われてみれば本日はばあちゃると会うのは初めてだということに気付く。先程の発言から一日中デスクワークをしていたことが容易に予想できる。学長室には監視カメラはあるとも聞くし、それで確認したメンテちゃんが多少でも運動をさせるためにそう指示したのだろう。
「もちもちは放課後まで体育館で何してるっすか?」
「いやー、今日の体育がダンスの授業だったんだけど、すずちんがすっごいカッコ良かったの。それが羨ましくてちょっと練習しようと思った次第なわけです。へへ」
「はいはいはい。すずすずのダンスは見栄えがいいですからねー。あ。勿論もちもちのダンスも素敵っすよ。完全に」
「本当に~?プロデューサーちゃんってそういうの全員に言ってそうだよね」
「いやー、みんな超絶にかわいいっすからね!つい言っちゃうのも仕方ないっすよ!」
「もう!調子いいんだから」
予想以上に汗を流していたのだろう、一口で半分も減ったスポーツドリンクを見て密かに驚く。床にそのまま座り込もうとするとサッと、上着を下に敷くばあちゃるに小さく胸が高鳴る。
「ダンスが凄いと言ってもすずすずも最初は酷かったっすよ?」
「へ?ああ、そういやあの動画撮るにプロデューサーちゃんも協力してたんだっけ?」
「はいはいはい。すずすずに踊りを教えたのもばあちゃる君だったりしちゃいますねー」
思い出すのは先日に公開されたすずの『踊ってみた』の動画だ。前の定例会で発覚してから数日で編集を終え、無事に公開されて今では人気動画の一つとなっている。その踊りを指導したと誇らしそうに語るばあちゃるにもちは天啓が舞い降りた。
「そーだ!すずちゃんに教えれたのならわたしにも教えてよ、プロデューサーちゃん!」
「ウビッ!?ずいぶんと急っすね」
「体を動かす様に言われてるでしょ?ならいいよね」
有無を聞かずに携帯端末から動画を選びばあちゃるに密着し再生する。少女にしては成熟したその肉体にばあちゃるはマスクの下で視線を明々後日の方へ飛ばし、赤面をした。
もちは信頼した相手だとパーソナルスペースが一気に狭くなる。他のアイドル部の面々とのやり取りから見てもそうだと、ばあちゃるは理解していた。しかし、それが異性である自分でも同じとなると少々困る。いかんせん、彼女なりの信頼の証であるためばあちゃるは強く言えないでいた。
「どったのプロデューサーちゃん?」
「い、いえいえ!何でもないっすよ。はいはいはい。それでどんな踊りなんすか?」
誘惑には流されないと、決意を固くしばあちゃるはもちの携帯端末に視線を落とした。
「はぁはぁ、はぁ」
「はいはいはい。いい感じになったんじゃないっすかね」
「プロデューサー、ちゃん、って、意外とスパルタ、だよね」
夕暮れが濃くなる時間。体育館に残る二人は対照的だ。方や疲労の色が強く、汚れなど気にせずに床に寝転ぶもち。方やいい運動でもしたかのように疲労の色はあまり見せず、シャツの腕まで捲り、スーツでもある程度動きやすい格好で余裕のばあちゃる。二人は何度か練習を繰り返し最後に通しで踊った結果が今の状態であった。
「そうっすか?」
「そうだよ!確かに厳しいことは言わないし常に褒めてくれるけど、求めてくる要求がなかなか高くて大変だったよ!?」
「うーん。けど、もちもちならついて来れると思ったからやったっすけど、嫌でした?」
「う゛。そうゆうとこだぞ、プロデューサーちゃん!」
滅多に見せないばあちゃるからの信頼の言葉に運動によるものとは違う熱を頬に感じる。当の本人は『えぐー!?なんでそうなるっすか!?』などとほざいているが、どう考えても悪いのはばあちゃるだと、もちはそう完結した。
「い”!?も、もちもち!この上着を着てください!」
「えー。まだ体が熱いからヤダ!」
「いいから!汗で大変なことになってるっすよ!」
「へ?」
ばあちゃるの指摘を受け、視線を自身の体に向ける。汗により着ていた体操服は肌に張り付き、さらに汗により下着が透けていた。その事実にもちはボフン、と顔が一気に朱に染まる。
「プ、プロデューサーちゃんの趣スケベマン!」
「えぐー!?じゃなくて!異性が俺しかいないかもれないっすけど、隠さないとまずいっすからね!完全に!」
珍しくばあちゃるの一人称が『俺』なっていることにもちは気付く。そこで少し冷静になってばあちゃるに視線を向けてみると頭は馬のマスクと共に明後日の方向へ向いており、挙動もどこかおかしい。そんなばあちゃるにもちは悪戯心が騒いだ。
「ねぇ、プロデューサーちゃんってお胸がおっきい方がいいの?」
「な、なにを急に言うっすか!?」
「だって、アイドル部の子ってみんなお胸が豊かじゃん?一番下のピノっちだって同年代にしては大きい方だし。前々から気になっていたんだ」
胸を強調するように寄せてばあちゃるを挑発する。そんなもちにばあちゃるはさらに挙動が怪しくなる。
実際にアイドル部の面々はその年齢に対して身体は成熟している。皆がそれぞれ平均よりも上であることは少なからず理解しているし、実は選ばれたのは身体からでは?ということも考えたこともあった。選出したのはばあちゃると聞いた当時は嫌悪感が多少あったが、今は好いている男性の理想の体型であることが誇りとなっている。
「いやーそのっすね、はいはいはい」
「もう、そんな慌てちゃ答え言ってるようなものだよ」
ゆっくりと距離を詰め、彼の胸元に体を預ける。動けないであろうばあちゃるも、さすがに無理やり引き離すことは出来ずに受け入れざる負えない。どこかその雰囲気は甘くなっていた。
「あたし、プロデューサーちゃんなら、いいよ?」
「い、いや。流石にばあちゃる君が炎上しちゃうでね。ほら」
「プロデューサーちゃん?」
「う」
いつものように誤魔化そうとするばあちゃるをASMRで鍛えた囁きをお見舞いする。ばあちゃるの腕は未だに宙を彷徨っているが、このままいけばその腕はきっと自身の腰を抱いてくれる。甘い未来に期待をし、もちはさらに身を寄せた。
が。
「なぁぁぁに、してるんですかぁ?」
不意に、そう不意に聞こえた地を這うような声が響いた。その声に先程まで火垂っていた体は冷水を浴びたように冷める。声の発生源である入り口に視線を送ると、そこには二本の稲鞭を構えた親友がいた。
「げぇ!?なとりん!?」
「部活が終わって教室に戻ったら、まだもちさんの荷物があったから様子を見に来てみれば、風紀乱れていませんかぁ!?」
全速力で駆け寄ってくる風鬼委員長にもちは持ち前の反射神経で抜け出し、逃げ出す。距離的にそうそう追いつけかれないが、こっちは疲労しているし、何より運動神経はなとりの方が上だ。いずれ追いつかれることを理解しているもちはとりあえず言い訳から始めた。
「だってせっかくいい雰囲気までいったんだよ!?もうその勢いに乗るしかないじゃん!」
「なにも学園でやることないじゃないですか!風紀も乱してますし、何よりズルいですよぉ!」
「授業さぼってプロデューサーちゃんとお昼寝してる方がずっと抜け駆けだし、風紀乱してると思います!!」
「うるさいうるさいうるさぁい!!」
追いかけっこを開始する二人を放置されたばあちゃるは他人事のように眺める。その内心、結構いっぱいいっぱいで、ばあちゃるは密かになとりに感謝した。
この後二人とも仲良くなとりの稲鞭の餌食となった。