馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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VTuber業界を影から支えるばあちゃる
業界きっての古株である彼の交友関係はかなり広い
そのため、多忙である彼を心配して手助けしてくれる友人がいるようだが…


幼い嫉妬は彼にだけ(夜桜たま)

週明けの月曜日を乗り越え、火曜日。その日、夜桜たまの機嫌は最上級に悪かった。

 

「むー」

 

「あのー、さくたまちゃん?朝からそんな辛気臭い顔してちゃせっかくの可愛い顔をが台無しだよ」

 

「まぁたこの人は息を吐くように口説いて!」

 

「お米のおねちゃん、どうどうですわ」

 

始業のベルが鳴る時刻より早い時間にアイドル部の面々は部室に集まっていた。理由は単純明快で、現在しかめっ面をしているたまが登校時間よりも早めの時間にグループへ連絡を飛ばした為である。しかし、部員全員がいるわけではない。遅刻の常習犯であるめめめやもち、いろはに加え飼育委員に属するイオリとちえりは現在席を外している。

 

「まったくあの三人は。…撲滅週間が終わってそうそうに遅刻するようなものならさっそく反省文を書いてもらいましょうか」

 

「おお、なとちゃんが風紀を正してる。なら私たちもお仕事しなきゃね、ほらたまちゃん」

 

「朝早くに集まってもらって申し訳ないのですが、緊急の連絡事項が、あります。ほら、会長」

 

「うぅ。はぁーい」

 

同じ生徒会の二人に背中を叩かれ、たまは仕方なくその腰を上げる。そして内容確認の為に情報がある端末を確認の後に顔を上げた。

 

「先日に伝えたと思うけど最近の機材トラブルについてだよ。あの時は馬Pと検討するで終わっていたけど今日、外部の講師の方が来ます」

 

「今日!?ずいぶんと急ですね」

 

「いえ、どうやら別件で学園に来る予定があった様子でばあちゃるさんがついでにとダメもとで頼んだところOKをもらったようです」

 

「随分と軽いね!?」

 

「…ばあちゃるさんがダメ元でお願い?もしかして?」

 

心当たりがあるのかすずは頭によぎった憶測につい、顔をしかめる。その表情にたまは残念そうに頷いた。

 

「すずちゃんの予想通り、講師に来てくれるのはのじゃロリさんのことバーチャルのじゃロリ狐娘元youtuberおじさんだよ」

 

「のじゃロリさんが来るの!?超大物じゃん!?」

 

「『元』?今は違うのでしょうか?」

 

「そうですよ。ピノさんの言う通り現在はYouTuberとして活動は停止してます。ですけど『ねこます』さんというよりこちらの業界的にも知名度的にものじゃロリさんの名称の方が通っていますからそこに『元』を付けた形になったわけです」

 

「しかし、のじゃロリさんですか」

 

興奮を隠せないりことピノとは裏腹にすずとなとりの表情は硬いままだ。それは伝達する側の生徒会のメンバーと同じような表情でもある。

 

「個人勢の先頭を走っていた人だし、配信に至っては私たちの大先輩じゃない!何がそんな不満なのさ?」

 

「確かに機材トラブルなど私たちのように会社を介さず自己解決できるほどの技術力がある方です。ですから、ばあちゃるさんから推薦があったわけですが…」

 

「まぁ、りこちゃんも私たち側だと思うから、見ていればわかるよ?」

 

「いや、それじゃ今わからんやん!?」

 

言葉を濁すあずきと双葉にりこは素である関西弁が漏れる。会長であるたまは未だに不満顔で、訳を知っているであろうなとりとすずもその状態にも寛容な雰囲気を出していた。

 

「少なくとも放課後になれば理由はわかる、と思います」

 

「いやというほどに察することになりますね」

 

「えぇ。それって今言う気はないって言うとるもんやん」

 

「まあまありこさん落ち着いて」

 

話す気のない空気に今度はりこがふくれっ面を晒す。そんなりこを慰めるなとりだが、なとりも口を割ることがないことがわかっているりこはその表情を崩せずにいた。その時、外を見ていたピノが声を上げる。

 

「あー!あれじゃありませんか!?」

 

そう指を指す方角には低身長でいろはとは違うが特色が似ているみこ服をベースにした衣装を身に纏った人物。バーチャルのじゃロリ狐娘元youtuberおじさん のことのじゃロリの姿が確認できた。

 

「もう来たの!?はやない?」

 

「もとは別件で学園に訪れる予定、と聞いています。この時間に来られるのもおかしなことではない、と思います」

 

「そういえば元はばあちゃるさんと会う約束しているって言ってましたね」

 

全員で窓の外を眺めながら件の人物について言葉を交わす。その時、学園から出てくる一つの影。始業の予鈴があと少しで鳴る状況の中、学園から出てくるであろう人物は一人だけ、ばあちゃるだけである。そしてばあちゃるはのじゃロリに近づくと、そのままのじゃロリのことを抱き上げた。

 

「あー!おうまさん、それはセクハラですよ!?」

 

「ピノさんピノさん、のじゃろりさんは姿はあれですが中身は男性ですよ」

 

「バ美肉って言うだっけ?」

 

「そうそう。作ったモデルアバターに自身の意識をインストールして活動している人たちのことだよ。またはダイブ勢とも呼ばれてるね」

 

「だとしてもズルいですよ!?」

 

涙目でばあちゃるとのじゃロリへ指をさす。そんな愛らしいピノの姿に抱きしめたいと感情が沸きあがるが、それ以上にピノと同じようにばあちゃるへの嫉妬の感情が大きく沸き上がり同意するようにたまは頷いた。遠目から見る二人はとても親しいのが見て取れる。

 

「確かに親しそうだけど、そこまで意識することなの?」

 

「みんなは頭を抱えてる原因はそれではないんですよ」

 

「へ?違うの?」

 

振り返るりこになとりは苦い顔のまま頷く。

 

「りこさんもこちら側の人ですし、きっと放課後になるころには私たちと同じになってますよ」

 

「またそれ?」

 

「あ、ちなみに講習は2限でやるから五分前にはここに集まるようにね」

 

「放課後ではないのですか?」

 

「放課後は別件があるから無理矢理やることになったみたい。教師の方には話を通してあるけど一言伝えてからくるように!」

 

「解散!」と締めくくられ双葉とあずきは早々に部室を後にする。それを追いかけるように教室が遠いピノも部室を飛び出した。

 

「けど、1限からじゃないんだね」

 

「急な決定だったし、なにより遅刻者が出るって馬Pが予想していたしね」

 

そう言うたまの視線の先は道路を走って駆け抜けるもちとめめの姿が確認された。すでに諦めたのであろういろははその少し後方でのんびりと歩いている。

 

「あの、三人は…」

 

そんな三人の姿になとりは再び頭を抱えた。

 

 

 

「りこさーん。生きてますか―?」

 

5限の授業が終わり、残すは最後の6限の授業のみ。その間の休み時間になとりは机に頭を伏せている友人、牛巻りこに声をかけた。

 

「・・・いやー、これはきっついわー」

 

「それは授業ですか?それとも」

 

「ばあちゃる号のこと」

 

即答するりこに「でしょうねー」となとりは同調する。そんななとりの視線は廊下を挟んで対面の校舎に向いており、そこにはばあちゃるとのじゃロリが談笑しながら歩いているのが見えた。

 

「仲いいのは聞いていたけどあそこまで仲いいとは思わないじゃん!」

 

「なんというか、今まで我慢してきた分を補う様に絡もうとしますからね」

 

力説するりこになとりは苦笑する。というものの、りこが言うのも納得するものである。今まで他者との触れ合いをまるっきりというほどしなかったばあちゃるが、のじゃロリに対しては遠慮がないのだ。断りもなく抱き上げたり、肩車したり。はたまた冗談交じりに横抱き、通称『お姫様抱っこ』をしていた時はさすがに目を疑った。ばあちゃるからはふざけている口調であるし、のじゃロリもまたそれを理解してか軽い対応だ。しかし、アイドル部の面々は違う。自身から行動を起こさなければ触れ合うこともめったにないそのスキンシップは衝撃的なものであり、妬む気持ちを仕方がないことだ。現に他者に対してマイナスの感情をあまり持たないイオリですら嫉妬をしていた。どこからか取り出したのか、きのこの人形に永遠と愚痴を語っている姿がなとりの視界の隅で確認できる。今不用意に近づけば為の餌食になることは明白であった。

 

「そしてなにより、あの信頼関係はずるい。ほんとずっこい」

 

「あれは妬まないほうがしかたないです」

 

そしてなによりもりこが、アイドル部がのじゃロリに対して妬みの感情を大きく向ける原因はその信頼関係だ。VTuberの同期として、また幾度となくコラボをしてきた二人の関係はアイドル部の面々との関係とはまるで違っている。アイドル部のとの関係はその通りにアイドルとプロデューサー、つまりは主役とサポートであるが、ばあちゃるとのじゃロリの関係を一言言えるのであれば戦友である。アイドル部の面々にはどこか自身を下においてるところがあるばあちゃるがのじゃロリに対しては対等に振舞う姿は衝撃であった。

 

『のじゃおじさん、これ手伝ってほしいっすけど』

 

『え”、妾、今日は客人のはずなんじゃが!?』

 

『まぁまぁ、ばあちゃる君とのじゃおじさんの仲だからいいじゃないっすか』

 

『えぇ…強引すぎなんじゃけど?』

 

と軽い感じで自身の仕事の応援を頼むばあちゃるの姿は初めてで、その光景を見た時の驚きはいまでも忘れなれなかった。

 

「米っちは知ってんだ」

 

「実はのじゃロリさんは学園設立にも協力してくれていたみたいで、たまに委員長会議の際に、ばあちゃるさんと一緒に参加されるんですよ」

 

「だから朝にかぐらんも顔をしかめてたのか」

 

ファンの間で『実質アップランド』と呼ばれているのは知ってはいたがまさかここまで仲がいいとは知らず、思わず感嘆のため息を吐く。

りことなとりがここまで焦燥しきっている理由は実に単純である。ばあちゃるとのじゃロリの関係が羨ましいのだ。自分たちとばあちゃるとの間に信頼関係は確かにあるがそれはプロデューサーとアイドルの関係である。そんな関係だからこそ、ばあちゃるはアイドル部の為に無理だってするし無茶もする。それに応えるためアイドル部は精一杯自分も表現する。それが彼への最大の報いになると理解してるからだ。その関係は決して嫌なものではないのだが、お世話になっているからこそ彼の助けになりたいとも思ってしまうものである。特にりこやなとりは日頃ばあちゃるに感謝しているからこそ彼の力になりたいと願っている。そのためばあちゃるから遠慮なく仕事を任せられるのじゃロリがとても妬ましいと感じているのである。その感情に頭を悩ませていたりこだが、このままではいけないと思い、感情を切り替えるためその頬を少し強めに叩いた。

 

「この感じは牛巻らしくないぞ!よし、話題を変えて授業の話をしよう!」

 

「授業というと、のじゃロリさんがついでに教えてくれたダイブについてですか?」

 

「そう!あれって結構身近なことだったから勉強になったよ!」

 

『ダイブ』。自分の体とは違う肉体『モデル』に意識をいれ、乗り移る技術である。世間にはあまり認知されていなかった技術だが、のじゃロリがVTuberとして自作モデル『みここ』にダイブし配信を開始したのを皮切りに一気に広まった。現在では女性モデルにダイブすることを『バ美肉』といった造語が生まれるほどである。

 

「あれって、端末にAIをインストールするのと原理は一緒だからね。詳しい技術を聞けて牛巻は超満足だったよ」

 

「あずきさんがすごい真剣に聴いていたことが印象的でしたね」

 

「そりゃだってあずきちの専売特許みたいなものだもん。あの技術を使ってるのがあの動画編集神だよ?」

 

「えぇ!?そうなんですか!?」

 

意外な事実になとりはつい声を荒げてしまう。そんななとりにりこは苦笑をし、改めて話をつづけた。

 

「AIのインストールだったら特に技術はいらないんだけど、あずきちの動画編集神は自己進化AIだからね。モデルに入れるとなるとダイブの方の技術も必要になるのさ。今のモデルに入れる際はメンテちゃんの協力があったからできたみたいだけど、最終的には全部自分でやりたいって言ってたから、そりゃ授業も必死になるよ」

 

「はえー。あずきさんにとってあの授業は一番習いたかったものだったというわけですね」

 

授業後のあの悔しいそうな顔を浮かべるあずきを思い出す。生徒会の面々も、自分たちと同じであるならばきっとあずきの内心は授業に対しての感謝と、その講師が妬む対象であるのじゃロリであったため複雑な感情の結果があの表情なのだろう。そう想像ついたなとりはあずきに対し小さく同情をした。

 

「ちなみにミニめめめちゃんはAIだけど、ちびたまちゃんは動画編集神と同じで自己進化AIだよ」

 

「そうなんですか?でもちびたまちゃんが喋っているところを見たことがありませんが?」

 

「ボイスがないんだよ。ほら、動画編集神はあずきちが自分の声で登録してるから喋れるだけで、ちびたまも登録すれば喋れるはずだよ。あ、あとかんたんごんごんも自己進化AIだった」

 

「喋るかんたんごんごん、とは」

 

「米っち、それはいけない」

 

その姿を思い浮かべてしまったなとりは吹き出しそうになる表情を腕で隠した。そのシュールさはひどいものである。そのひどさに笑いを堪える二人から少し離れた席にて顔を伏せていたたまは立ち上がった。

 

「ごめん!今日早退するね!」

 

「は、はい!?ちょ、会長!?」

 

「…行っちゃった」

 

嵐のように立ち去ったたまの背中をふたりは見つめることしかできなかった。

 

 

 

「あのー、ばあちゃるさん?その肩に乗ってるのは一体何なんです?」

 

「ウビッ?この子っすか?」

 

ばあちゃる学園の学長室。窓からは茜色の光が差し込んでいた。部活も終了の時間になり始めのためか校門の方へ視線を向けると生徒が下校していく姿が確認できる。そんな学長室に作業をするのは一組の男女?、ばあちゃるとのじゃロリの二人だ。作業も終盤に差し掛かったところでのじゃロリは作業を開始した時から気になっていたその存在についてばあちゃるへ質問もする。

 

「はいはいはい、この子はちびたまちゃんって言いましてね。ウチのアイドル部に所属している夜桜たまちゃんのことたまたまと共に暮らしている自己進化AIちゃんなんですねー、はいはいはい」

 

「いや、知りたかったのはそうじゃなくて。なぜその子がここにいるのじゃ?しかもなんかめっちゃ妾に鋭い視線を送ってきて怖いんじゃが」

 

ばあちゃるに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めていると思ったら、ばあちゃるの視線が離れたと同時にまるで親の仇を見るような視線を向けられる。これを作業を始めてからずっとし続けられてきたためのじゃロリはどこか生きた心地がしなかった。

 

「のじゃおじさんったら自意識過剰っすよ」

 

「いやいやいや!?今めっちゃ向けられてますよ!?よく見てばあちゃるさん!?」

 

「えー?」

 

疑惑の視線を送りながらもちびたまに視線を向ける。そこには向けらる視線に疑問もを持ったのか可愛らしく首を傾げるちびたまの姿があった。

 

「ほらー、そんな顔してないじゃないっすか。のじゃおじさんの気のせいっすよ」

 

(こ、こいつ~~)

 

その早変わりにのじゃロリは内心で拳を握る。ちびたまのあからさまな態度に首を傾げるがそこで微妙な違和感を覚える。

 

「自己進化AIにしては随分と感情が豊かですね。何歳なのじゃ?」

 

「はいはいはい、たまたまが活動開始してから作られたのでまだ一歳にもなってないっすね」

 

(一歳未満?配信にも参加して色んな人と触れ合っているとはいえ、精神の成熟が早くない?)

 

自己進化AIはその文字通り進化していく。本来、AIはプロクラムされた行為しか行わないが、自己進化AIはそれを学習し、さらに感情を育み成長していく。しかし、AIにとって感情とは理解できるものではない。なのでその精神が育つのも時間がかかるものだ。しかし、目の前のちびたまは自身の感情をしっかり表現し、ばあちゃるに懐いているし、妬みの感情も理解しているからかのじゃロリにもその感情を向けていた。育成期間と成長速度が比例しておらず、のじゃロリは首を傾げるがとある仮定が脳裏によぎる。

 

(釣ってみようか)

 

それは作業中にずっときつい視線をみけて来たお返しだ、と内心思いながら、いたずら心のままのじゃロリは口を開いた。

 

「話はかわるのじゃが、ばあちゃるさんは補佐などは雇わないのかの?」

 

「ッ!?」

 

「補佐っすか?」

 

ばあちゃるより先にちびたまが反応したのをのじゃロリは見逃さなかった。

 

「そうそう。ほら、ばあちゃるさんいっつも忙しいじゃないですか。そんな忙しいなら補佐っていうか助手みたいな雇ったほうがいい気がするのじゃが」

 

「考えたこともないっすね。ふむ、補佐…」

 

ばあちゃるの多忙さは友人であるのじゃロリも頭を抱える案件でもある。現に本日のじゃロリがばあちゃるを訪ねたのは実はシロからの頼まれたのが理由だ。学園長の仕事にアイドル部のプロデュース業、さらに今まで通りのシロのサポートまで行おうとするばあちゃるの多忙さは業界でも非常に有名である。そんな彼を休ませる方法は限られており、その一つがのじゃロリの存在だ。ばあちゃると対等関係であるのじゃロリは数少ないばあちゃるのストッパーの役目を担える。その為、稀に多忙の馬を止めるためシロから頼まれることがあるのだ。

 

「妾もいつもお手伝いに来れるわけじゃないし、シロちゃんもメンテちゃんさんも心配してるし雇ってみたらどうじゃ?」

 

「うーん。考えたことも無かったっすね。大変とは思ったことはないっすけど確かに手伝いがほしいとは何度か考えたことはあるっすね」

 

「じゃろ?一考の余地はあると思うのじゃよ」

 

その会話を聞いていたのかちびたまはばあちゃるの頬を叩く。その表情からはどこか焦りが読み取れる。ちびたまの表情からのじゃロリは自身の仮定が合っていると内心頷く。

 

「いたた、ちょいちょーい?どうしたっすかちびたまちゃん?」

 

「会話に参加できないから妬いているのかもしれないのじゃ。幼い自己進化AIは子供と一緒で感情をうまくコントロールできないものじゃし」

 

「そんなもんっすかねー?」

 

のじゃロリの言葉にちびたまは涙目で睨む。それは羞恥というより非難の視線である。ちびたまの『中にいる』存在に気付いているからこそできる些細な、のじゃロリの仕返しであった。そんな二人を見ながらニマニマと口を歪めていると廊下から足音が聞こえてくる。それは学長室の前に止まり、そのままノックもせずに扉は開かれた。

 

「たまたま?入室前に『失礼します』は言ってほしいっすね、完全に」

 

「…」

 

「ちょいちょーい!?たまたま、無視はひどいっすよ!?」

 

面白いことになった、とのじゃロリは内心思う。ここは空気に徹した方が最善と思い静かに身を顰めた。たまはそのまま声を出さずばあちゃるに近づく。

 

「あのー、たまたま?さすがにずっと黙っていられるとばあちゃる君も困っちゃうっすけど」

 

「?」

 

「いや、そんないい笑顔で首を傾げれても…ってたまたま!?」

 

「♪」

 

たまは椅子に座るばあちゃるの膝に無理やり腰を落とす。あまりにも躊躇のないその行動にばあちゃるはなにも抵抗できないまま自身の膝にたまを座られてしまった。よほど機嫌がいいのか後頭部をばあちゃるの胸に添えてにっこにこの笑顔である。

 

「え、えぇ?ちょっとたまたま?これはさすがにばあちゃる君炎上しちゃうんでね。できればやめて欲しいっすけど?」

 

その問いに寂しそうな表情を浮かべるたまにばあちゃるは言葉をなくす。普段自分に見せないその表情にばあちゃるは小さくため息を吐き、頭を撫でた。

 

「ちょっとだけっすよ」

 

「♪」

 

そんな微笑ましい光景を睨む小さな存在。それは紛れもなくちびたまだった。予想外な出来事に混乱していたのか今までオロオロしていたが二人を見ていると今度はたまに対して視線をぶつけ始める。そんなちびたまの姿にのじゃロリは先程以上にニマニマと口を歪めていた。

 

(しょうがない。手助けしますか)

 

ばあちゃるの見えない角度で端末を取り出し、操作を行う。するとたまとちびたまの体が一瞬硬直した。

 

「あ、あれ?戻ってる?」

 

「ん?満足したっすか」

 

「え、あ、いや。まだ、このままがいいです」

 

「お、やっと喋ってくれたっすね。流石に無視され続けちゃうとばあちゃる君も寂しいっすからね、完全に」

 

硬直が解けた後、今まで口を閉ざしていたたまは小さく言葉を零した。それは作業片手のばあちゃるには内容までは聞き取られなかったようでたまは安堵の息を小さく吐いた。

 

「ねぇ馬P…じゃなくて、ばあちゃるさん」

 

「はいはいはい、なんですかー?」

 

「わたした…私ってばあちゃるさんにとって頼りないですか?」

 

「ッ!そんなわけない!」

 

作業片手で聞いていたばあちゃるはたまのその発言につい声を荒げる。それはいつもとは違う口調でたまはビクッと体を竦めた。

 

「あ、急に大声出して申し訳ないっすね。けど、たまたまが頼りないなんて思ったことなんて一度もないっすよ」

 

「本当に?」

 

「本当っすよ」

 

「本当に本当に?」

 

「本当の本当っす」

 

「だったら私にもばあちゃるさんのお手伝いさせてください」

 

声を荒げた際に空いた作業していた手をたまは包み込むように抱き寄せる。ばあちゃるからは見えないがその表情は愛おしさが溢れていた。

 

「ばあちゃるさんが私たちの為にいろんなところで頑張っていることはわかってます。それに応える方法だってわかってます。わかってますけど…やっぱり心配なんですよ」

 

「たまちゃん」

 

「メンテちゃんや他のVTuberさんと交流する度にばあちゃるさんの多忙さ知って、事ある度に他の皆にばあちゃるさんの心配する声を聴くと私も心配になっちゃうのも仕方ないじゃないですか」

 

こちらを向いて儚げに笑うたまにばあちゃるは見惚れてしまう。

 

「私にできることは何だろうって、考えてやれること何でもやろうって思ってもばあちゃるさんはお手伝いさせてくれないし。そのせいでイライラしちゃうのに肝心のばあちゃるさんは私たちよりのじゃロリさんばっか頼りにするし」

 

「いや、それは」

 

「ふふ。わかってます。これは的外れな嫉妬だって。けどしちゃうんだからどうしようもないですよ」

 

そんな子供っぽい嫉妬を包み隠さず告白する。やはり羞恥は隠せないのか、その頬は朱に染められていた。

 

「けど言質は取りました!今度から私もお手伝いさせてくださいね!」

 

「へ?ちょいちょーい!?ばあちゃる君手伝うの許可してないっすよ!?」

 

「マジンガー?」

 

「マジっすよー」

 

「そんなこと知りません!私がそう言ったからそうなんです!」

 

「えぐー!?そんなシロちゃんみたいなこと言わないでくださいっすよー!?」

 

そんな甘い雰囲気を漂わせる二人を背にのじゃロリは静かに開かれていた扉を閉め、ばあちゃる学園を後にする。

 

「バーチャルのじゃロリ狐娘元youtuberおじさんはクールに去るぜ。…長くてダサい気がするのじゃ」

 

最後まで締まらないのじゃロリであった。

 

 

 

 

 

 

「米っちにばあちゃる号!ハウディー!牛巻が登校だよ!」

 

「りこさんおはようございます!」

 

「はいはいはい、りこぴんおはようございますねーはいはいはい」

 

日は明けて翌日の朝、自身の教室の前に雑談をしているなとりとばあちゃるに声をかける。駆け足でよると風紀委員長が顔を顰めるのをわかっているのでその足はあくまで速足だ。

 

「いい朝を迎えれて牛巻は感激だよ!」

 

「りこさんが言うと洒落にならないですよ」

 

「ははは。ばあちゃる号のおかげで前みたいな修羅場はもうないから大丈夫だよ」

 

「そう言って貰えるとばあちゃる君も頑張った甲斐があるというものっすよ!」

 

「ばあちゃる号には感謝してもしきれないよ!ところでその肩に乗っているのって?」

 

りこが指さす先にはばあちゃるの肩に乗るちびたまの姿があった。ちびたまはばあちゃるの肩に座っており、あちゃるの首に抱き着いている。

 

「ちびたまちゃん、ですよね?私も気になっていたのですが」

 

「はいはいはい、これはっすね、どうやらばあちゃる君はちびたまちゃんに懐かれちゃったみたいでですね。たまたまから学校にいる間だけ預かるように頼まれたっすよ。はいはいはい」

 

「へー、さくたまちゃんからなんだ。ばあちゃる号って自己進化AIに懐かれるよね?」

 

「言われてみればそうですね。動画編集神さんもばあちゃるさんには結構懐いてましたし、かんたんごんごんも」

 

「喋るかんたんごんごん、とは」

 

「り、りこさん!急にそれはズルいですよ!?」

 

先日の会話を思い出し、二人は笑いを堪えるように顔を伏せる。事情の知らないばあちゃるは首を傾げるしかなかった。

 

「よくわからないっすけど、ばあちゃる君はこれで失礼するっすね」

 

「あ、ごめんなさいばあちゃるさん。お仕事頑張ってくださいね」

 

「困ったことあったら何でも言ってよ!牛巻でよければ手伝うからさ!」

 

「その時は頼りにさせてもらうっすよ」

 

それじゃあ、と一言の後にばあちゃるはその場を後にする。笑いの波も引き、落ち着いた二人は教室へ入る。

 

「あ、なとちゃんりこちゃんおはよー!」

 

「イオリさんもおはようございます」

 

「イオリンおハウディー!」

 

教室に入ると同じアイドル部の仲間であるイオリが手を振って歓迎する。鞄を自分の机に置き、改めてイオリの下に駆け寄る二人。そしてイオリと共にいた人物に気付いた。

 

「あ、たま会長もご一緒だったのですね」

 

「さくたまちゃんもおハウディ!」

 

「?」

 

二人の挨拶の言葉にたまは首を傾げる。帰ってこない返事に二人は顔を見合わせた。

 

「あの、会長?さすがに無視はちょっと悲しいです」

 

「これはさくたまちゃんじゃない?」

 

「りこちゃんの言う通り!この子はちびたまちゃんなんです!」

 

「♪ ちびたま、です。よろしくお願いします」

 

「ええええええええ!!!!????」

 

イオリに紹介されてたま(ちびたま)が可愛らしい笑顔を浮かべお辞儀をする。衝撃の事実になとりは驚愕な感情と共に叫んだ。

 

「え、けど、会長じゃないですか!?」

 

「なんだっけー。ほら、昨日のじゃロリさんが言ってた」

 

「ダイブだよね。イオリン」

 

「そう!それです!」

 

浮かばない言葉を言い当てたりこに指をさし笑顔を浮かべる。「さすがりこちゃんだ」というイオリが出すふんわりした雰囲気に場が和む。

 

「ほら米っち。ダイブはモデルの中に意識を入れるみたいなものって言ったじゃない?」

 

「確か言ってましたね」

 

「あれって実はすでにモデルの中に意識やらAIが入っている場合、意識の上書きじゃなくて入れ替わりが発生するんだ」

 

「あ、それは確かのじゃロリさんが言ってましたね。それが自己進化AIにダイブの技術が必要な理由でもあるとも言ってました」

 

「そう!プログラムされたAIだけじゃ入れ替わり発生すると元の体に不備が起きちゃうけど、人の感情と同じように感情がある自己進化AIなら問題がないからなんだ。原理は人の心理やら感情やら色々と関わってくるから詳しくは説明できないけどね」

 

「ってことは今、たまさんはちびたまちゃんの体にいる、と」

 

そこで二人はちびたまが現在、どこにいるのか思い出す。二人の険しくなっていく雰囲気が読み取れないイオリとちびたまは同時に首を傾げた。

 

「りこさん、これを」

 

「ありがとう米っち。ごめんねイオリン。ちょっと牛巻達出かけてくるね」

 

「出かけるってどこに?」

 

「「修羅場」」

 

なとりから稲鞭を一つ受け取り、席を立つ。教室から出る二人をイオリとちびたまは首を傾げたまま見送った。予鈴まで目の前であるが二人には引けない理由がそこにはある。

 

「先日あれだけ抜け駆けはズルいって言っておいてぇ!」

 

「自分こそ抜け駆けしてるじゃん!」

 

その日、学園長室は修羅場になった。

 

 

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