それは一般の学校と変わらずだが、遅刻者もほぼ常連と化している
アイドル部の中にもその常連者がいるようだが…?
「あああああああ!!!!遅刻だぁー!!!」
叫びながら歩道を全力疾走する一つの影。可愛らしい垂れたアルパカの耳にもこもこと柔らかそうな髪をした少女、『もこ田めめめ』である。
「くっそぉ!今日は早く起きれたのに何でぇ!?」
足を止めず思い出すのは今朝の出来事だ。のじゃロリが訪れた日に続いて二日連続で遅刻し風紀委員長のなとりに反省文を書かされてしまった為、今日こそは!と意気込んだ結果は登校時刻より余裕がある時刻に起床することに成功した。朝食の時間まで余裕があるとつい起動していしまったのは某ゲーム機。もっとも旬である99人で争うパズルゲームを開始してしまったら最後、登校時刻は過ぎてしまい遅刻まで秒読みとなってしまった。
「いや、これはめめめは悪くない!あんなに夢中になるものを作るほうが悪いんだ!」
などと、ひどい責任転嫁を行いながらもその足は休まず動く。めめめの脳裏によぎるのは稲鞭を構えた鬼の風紀委員長。何故かここ最近になって風紀を正すことに力が入っている彼女を前に三日連続で遅刻をしようものならと考えると背筋が凍えてしまう。
「い、いや!この調子ならきっと間に合う!めめめは諦めないぞぉ!」
想像を振り払うよう首を勢いよく横に振り、前を見据える。めめめが言う通り、今のペースを維持すれば予鈴には間に合わないが本鈴が鳴るより前には何とか学園には入れる。学園に入ってしまえばこちらのもので、朝のミーティングに遅れても『保健室にいました!』など言い訳をつけば遅刻にはなない。そう計算を行いながらその勢いのまま交差点を曲がった。
「ぐえっ!?」
「ウビッ!?」
誰かにぶつかったと認識すると同時に倒れる恐怖により瞼を固く閉じる。しかし、やってきたのは地面に転ぶ衝撃では無く、力強く腕を引かれたことによる痛みだ。引かれるまま、めめめの体はぶつかった相手の胸に収まった。
「ふぃー。もうそんな速度で曲がっちゃ危ないっすよーめめめめ」
「うぇ、プロデューサー!?」
頭上から聞こえたのはもっとも聞きなれたであろう男性の声。自身が所属するアイドル部のプロデューサー、ばあちゃるの声だった。顔を上げるとそこには珍しく馬のマスクをしておらず、シロと特徴の似た男性の顔、ばあちゃるの素顔がそこにあった。
「あ、あれ?プロデューサー、いつものマスクは?」
「ん?はいはいはい、どうやらさっきぶつかった時に飛んじゃった見たいっすね、完全に」
ばあちゃるの視線の先にはいつもの冒涜的な馬のマスク。めめめを離すとばあちゃるはマスクを拾い、土埃を払ってから改めて被りなおした。
「ぁ、被っちゃった…」
「何か言ったっすか?」
「ああああ!何でもないです!」
「なんでもないならいいっすけど、めめめめはケガはないっすか?」
高速で首を横に振るめめめにばあちゃるは首を傾げた。羞恥により、赤くなった頬を誤魔化しながら痛みがないか体を確認する。
「うん!めめめは何ともないぞ!プロデューサーも大丈夫?めめめ、かなりの速度でぶつかったと思うけど」
「はいはいはい、ばあちゃる君は何ともないっすよ!これでも体は鍛えてるっすかね。はいはいはい」
力こぶを出す様にアピールをするばあちゃるにめめめは怪しむ。知り合ってから今までの付き合いから目の前にいる自分の恩人は事ある度に体調のことを隠すことを知っている。じーっとばあちゃるを見つめていると遠目で見える学園から予鈴が鳴った。
「あらら、予鈴が鳴っちゃったっすね」
「え”、あ!これ遅刻確定だぁ!?」
そこで自分の状況に気付いためめめは頭を抱えた。予鈴から本鈴までの時間はわずか五分であり、学園までの距離はまだ多少あってどうやっても五分で門をくぐることは不可能である。そんなめめめにばあちゃるははぁ、と小さく息を吐いた。
「しょーがいないっすね。今日はばあちゃる君のほうからなとなとにはなんとか言っておくっすよ」
「え!本当!?」
「『登校途中で偶然会って、話し込んでいたら遅れてしまった』でなんとかなるっすね。はいはいはい」
「せ、せめて『配信について相談してた』って言ってもいい?」
「おお!そっちの方が説得力があるっすね!さすがめめめめ!」
言えない。ばあちゃるの言う通りになとりに報告するものなら最悪、生徒会室に出頭になるなんて言えない。
めめめはばあちゃるから目を逸らしながら氷点下の視線を送る生徒会役員と風紀委員長の脳裏によぎった。このままではいけないと思い頭を切り替え、ばあちゃると共に歩き始めた。
「プロデューサーも遅刻?」
「違うっすよー。ばあちゃる君は今日の出勤時間が9時なんっすよ」
「え、ずっるい!めめめもそれぐらい登校時間なら遅刻しないのになー」
「そうなると自動的に下校時間が遅れるっすね、完全に」
「あ、それは嫌だ」
他愛もない雑談を繰り広げながら学園へと向かう二人。限りない幸福がめめめの胸からこみ上げ来て自然と口角が上がっているのがわたってしまし、少し頬を赤くした。
「けどプロデューサーっていつも早い時間から学園にいるようね?なんで今日は遅めなの?」
「はいはいはい。実はですね、こないだから仕事を手伝ってもらったおかげいつもより早く家に帰ることが出来たっすよ!やらなきゃいけないこともあったっすけど周りにお手伝いをお願いしたっすからね、帰った後は撮りためてたサッカー見てすぐに寝ちゃったわけなんですねーはいはいはい。で、起きてみたらいつも起きる時間より1時間遅くて結果こうなったわけっす」
「寝坊したの!?プロデューサーが寝坊するなんて初めて聞いたかも」
「実際に初めてっすからね。ばあちゃる君も時計見てビックリしちゃいましたよ、完全に」
「その代わりぐっすり寝れたおかげで元気は百倍っすよ!」なんて続けるばあちゃるにくすくすと笑いながらめめめは相槌を打つ。その時、意識していなかっためめめのお腹から「ぐぅ」と小さくなった。その音の発生源に即気付いためめめはさらに頬を赤くしお腹を押さえた。
「あ、ちがっ!?待ってまって、今のなし!」
「めめめめのお腹からっすねー」
「なんでそうズバッっていくかなぁ!?」
いつも通りのデリカシーのないばあちゃるの発言にめめめは涙目でばあちゃるを睨みつける。さすがにその視線に申し訳がなくなったのか鞄からゼリー飲料を取り出した。
「ばあちゃる君のっすけどめめめめにあげるっすよ。さすがに食わずに昼まではきついっすからね」
「うぅ、ありがとうプロデューサー」
お礼を言い受け取るが相も変わらず視線は非難の色を示していた。いつまでも視線を向けていても仕方がないので諦めて受け取ったゼリー飲料の封を開き口に含んだ。ゼリーを吸いながら横に視線を向けるとばあちゃるも同じようにゼリー飲料を飲んでいた。
「プロデューサーも朝食を食べなかったのか?」
「ウビッ?違うっすよ。これがばあちゃる君の朝食っすよ」
「え”!?」
予想外の答えにめめめは目を見開いた。
「いやいやいや!?プロデューサーの体格でこれだけじゃ絶対足りないでしょ!?あと、これをご飯とカウントするのはない!」
「めめめもシロちゃんと同じこと言うっすね。けど、朝は時間ないっすからね、完全に」
「時間がないからってせめて炭水化物は取ろう!?」
力説するめめめにばあちゃるはマスクの下で苦笑を浮かべた。めめめの言い分は理解できる。しかし、どうしても時間の朝に作業しながら摂取できるものとしてならゼリー飲料が楽だとばあちゃるの中で確立してしまっていた。これを回避するためにばあちゃるはもう目の前にある校門へ速足で駆け出した。
「ちょ!?プロデューサー!」
「もう1限目は始まっちゃってますけど、なるべく早めに教室に参加してくださいっすね!それじゃ!」
「あ、こら!逃げるなプロデューサー!!」
そんなばあちゃるを追う様にめめめも学園に駆け足で入っていった。
なお、二人とも無事に授業を抜け出してきた風紀委員長に捕まり、廊下で正座をさせらた。
「うーん」
日が傾き、夕暮れが鮮やかに彩る黄昏時。めめめは帰宅途中に寄り道を決行した。中央にある噴水が特徴な広い公園にめめめは考え事をしながら歩く。
「遅刻をしない方法、かぁ」
その内容は自身の遅刻癖であった。今回はばあちゃるが庇ってくれたがいつもその幸運が続くわけではない。
「朝は、起きれてるときはあるんだよなぁ」
本日のように朝に問題なく起床できることも多々ある。しかし、そんな日に限ってついゲーム機を起動してしまい、結果遅刻をしてしまう。ゲームを起動しなければいいだけの話ではあるが、めめめは空いている時間ができてしまうとそれを潰す行為をしてしまうという悪癖があった。ゲームであったからこそギリギリで気付けたが、これがモデリングなど始めてしまえば遅刻どころの騒ぎではないのは明白だ。しかし、解決策は思い浮かばず、うんうんとうねっていると少し離れた先のベンチに見慣れたピンク髪のツインテールが見えた。めめめの友人であり、他校のゲーム部に所属する桜樹みりあである。
「お、みりあちゃんだ!」
まさか外出先で他校の友人と出会えると思っていなかっためめめは高ぶる気持ちのまま相手の名前を呼ぼうとする。しかし、そこでめめめはみりあから漂ういつもとは違う雰囲気に首を傾げた。
「…」
(みりあちゃん、だよなぁ??)
息を殺し、静かにみりあの下に近づく。違うと感じたのは雰囲気だけでなく、その表情もだった。まるで愛おしいものを見ているその表情は普段見れる小悪魔チック表情からまるっきり違うものだ。そんな表情をさせるものは何か、めめめはつい気になり、音を出さずにみりあの前を横切ることにした。
(ぁ)
無意識に出たその声は納得のため息だ。みりあが愛おしい視線を浮かべ、自身の膝に頭を乗せ撫でているのは、みりあと同じ部に所属する副部長の道明寺晴翔だった。彼とみりあの仲は傍から見れば良好とは言えない。しかし、そんな二人の仲には確かに友情以上な特別な感情があると、めめめは感じ取っていた。つい、そんな二人に見惚れていたら顔を上げたみりあと目が合う。
「あ”」
「…ち、違うの」
横切るはずが立ち止まって見ていればさすがに気づかれるものだ。みりあは何を見られたの理解したのかその頬は徐々に朱に帯びた。
「え、えっとぉ。おじゃましました?」
「めめたんこれは違うの!?帰ろうとしないで!?」
「いやー。めめめも馬に蹴られたくないし」
「馬先生がそんなことするわけないじゃん!違うからね!?」
「いや、馬は馬でもうちのプロデューサーのことじゃないよ!?」
「そうだけど!そうじゃなくて!?」
「ん…んん?」
訳の分からない口論は晴翔の呻き声で中断された。黙った二人に晴翔は再び寝息を立て、みりあの膝の上で意識を落とした。
「せ、セーフぽよ」
「で、結局なんでこうなったの?」
また離れようとすればみりあに妨害され今度こそ晴翔が目を覚ましてしまうだろう。みりあの様子を見るに、晴翔は寝かしておきたいことが理解しためめめは諦めてそうなった原因を聞いた。
「その、昨日からハルカスがなんか編集作業もせずになんか調べもの始めてね。動画編集も余裕持ってやってるから私たちは特に何も言わなかったんだけど、どうやらこの馬鹿、徹夜してまでその調べものやってて今日何度も先生に怒られてたの」
「へぇ、道明寺が珍しいね」
常に上から目線で偉そうであるが、学業においては思いのほかしっかりしているのが道明寺晴翔という人物だ。まだ知り合って長くはないが、そのことはめめめも理解している。
「んで、ふらふらになりながら帰るもんだから心配になってついていったらこの公園で座るなりすぐに寝付いちゃってね!放置してもよかったんだけどこのまま窃盗なんかあったらその、そう!部活仲間として可哀想かなって思ったもんで横で起きるの待ってたらこいつが倒れてきたの!」
「ほおー、ふーん」
『なんでついていったの?』やら『起こさなかったの?』やら『なんで頭を撫でてたの?』やら聞かない。それは無粋というものだ。なのでめめめはニマニマと口元を歪ませながら適当に相槌を打った。
「めめたん信じてなーい!」
「メメメシンジテルヨー」
「すっごい棒読みだぁ!?」
「あ、ちょっとみりあちゃんストップ!」
「ん、んん?…!?」
顔を真っ赤にして詰め寄ろうとするみりあにめめめは声をかけるは時すでに遅い。さすがに動きすぎたために晴翔が目を覚ました。目を開け、すぐに状況を把握した晴翔はすぐ様に飛び起きた。
「あああああああ、アホピンク!?ついに頭の中身でピンク色に浸食されたか!?」
「は、はああああああああ!?わざわざみりあが心配してやったのに何その言い草!?ありえなくない!?」
「頼んだ覚えはない!」
「なんだとぉ!」
「二人とも落ち着けぇ!」
声帯をマックスに使って言い争いをする二人にめめめは両者の頭をはたく。両者の視線が向けられるがそんな二人にめめめは深く溜息を吐いた。
「急な状況に驚くのは分かるけど、起きてその言葉はどうかとおもうよ道明寺」
「ぐッ!?」
「みりあちゃんも、煽っためめめが悪いけど少し落ち着こう?それじゃあ、売り言葉に買い言葉だよ」
「う”」
めめめの言葉に居心地悪そうに視線を泳がす。しかしそれも長くは続かず、先に動いたのは晴翔の方であった。
「事情はどうあれ、お前はここで寝てしまったオレを見張っていてくれたのだな。謝る、すまなかった」
「…みりあもあの状態でハルカスが起きたらどんな反応するか、大よそ予想がついていたのにあんな言葉言っちゃってごめん」
「ならめめめも。煽っちゃってごめんね、みりあちゃん」
三者の謝罪が終わると自然に笑みが零れる。先程までの荒れた雰囲気はすでにどこかへ行ってしまったようだ。
「あ、みりあちゃんに聞いたんだけど最近ずっと調べものしてるんだって?」
「あ、そうだハルカス。そのことについて教えなさいよ」
「まぁ、別に隠してることではないし構わんぞ。広い目で見ればもこ田も無関係ではないしな」
「へ?めめめも?」
まさか自分が関係しているとは思わず、すっとんきょな声が零れる。
「広い目、と言っただろう。調べものとはばあちゃる氏よりの依頼だ」
「馬先生から?めっずらしー」
「そうだな。実際オレも初めてだ」
「プロデューサーが道明寺に、ねぇ」
ばあちゃるが身近な自分ではなく他校の晴翔の方へ頼みごとをしたという事実にめめめはどこか寂しさを覚える。
「そんな顔をするな。ばあちゃる氏がオレに依頼したのは単純に他校の状況を把握したかったからだ」
「え?それってみりあ達の学校も関係してるってこと?」
「そうだ。先週くらいから注意喚起されているだろう?行方不明者がでている、と」
「あー、そういうや週初めにたまちゃんが言っていたような気がする」
その日はそれどころの騒ぎではなくなってしまったのですっかり忘れていためめめに晴翔は冷たい視線を送る。
「まあそのことでばあちゃる氏がオレ達の学校を含め、近隣の学校へ行方不明者の調べものをしていてな。オレにその共通点はないか探してくれと依頼されたわけだ」
「プロデューサーなら全部自分でやっちゃいそうな気がする」
「オレもそう思って聞いたら『はいはいはい、それはですね仕事は複数人でやるほうが効率がいいって知ったんすよ。いやーばあちゃる君も最近とある子に教えてもらっちゃいましてねー』と言っていたぞ」
「うわ、ハルカス声は似てないのに雰囲気すっごい似てる」
「地味にムカつく」
「なぜに!?」
そんな二人の引いた視線に小さく咳払いをし、話を戻す。
「そんなわけで、ばあちゃる氏に頂いたデータからずっと共通点を探していたのだ。あのばあちゃる氏が初めてオレを頼ってくれたのがその、嬉しくてな。つい徹夜までしてしまった」
「ハルカス、馬先生のこと尊敬してるって言ってたもんね」
「へー。そんなことがあったのか。それで、何か進展はあった?」
「いや、これと言って特には。あえて言うなら全員がゲーム好きってことくらいだが、このご時世、ゲームをしない学生の方が少ないからな。それは特に気にする必要がないと除外した」
お手上げとジェスチャーで表現し、晴翔はそう締めくくった。そして視線を改めてめめめへと向けた。
「それでもこ田。お前は何か用があるのか?」
「え?めめめが?」
「そういやめめめちゃんとは偶然目が合っただけだったからね。特に用事とかはないんじゃない?」
「そうなのか?」
そう問い返す道明寺にめめめは思い出す。これを明かすのは少し恥ずかしいが、自身だけではすでに袋小路に入っている問題であったため、めめめは羞恥を押し殺して二人に悩みを打ち明けた。
「いや、相談はあるっちゃあるよ。その、遅刻癖ってどうやったら治るかな?」
「遅刻だと?」
「あー、めめめちゃんSNSでよく言ってるもんねー、遅刻するー!って」
SNSでよく絡むみりあはめめめの事情にすぐに察する。知人に自身の失態を知られていることにめめめは、羞恥により頬を赤くする。
「ゔ、その、みりああちゃんの言う通り、割と遅刻しちゃうんだ」
「朝弱いのか?」
「いや、そういうことはないぞ。今日だって余裕持って起きれたし」
「あれ?今日も朝に遅刻する!ってツイで言ってなかった?」
「ゔゔっ!?」
痛いところを付かれ、めめめは肩を落とし観念したように今朝の出来事を話した。
「それはもう『ゲームをやるな』としか言えないぞ」
「うう!分かってるけどさぁ!」
「みりあもめめたんの言うこと、わかるなぁ。早く起きて中途半端に時間が余るとついやっちゃうよね」
「だよねみりあちゃん!仲間がいた!!」
「それで遅刻したら元もこうもないだろうが!」
「グハッ!?」
ド直球の正論にめめめは崩れ落ちる。さすがにその姿に気の毒になったのかみりあは晴翔へ助け舟を求めた。
「なんかいい案ないのハルカス」
「正直、自制しろとしか言いようがないが、そうだな。あえて手を考えるなら目的を作るだな」
「目的を作る?」
晴翔の助言を聞き直しながらめめめは顔を上げ姿勢を正す。晴翔はいつものように尊大な態度をとりながら語りだした。
「単純にゲームを始めてそれが原因で遅刻してしまうのは、もこ田の中で登校することよりゲームの続きをやることが優先順位が上になっているからだ。なら、登校することの方を優先できるような目的を持つことで解決できるはずだ」
「そうは言っても、プレイ中のゲームより学校を優先できるものかなぁ?」
「難しく考えることはない。学業は学生にとって本分だが、それが全てというわけではないだろう?朝に友人に挨拶するとか単縦な理由でも構わない」
「ハルカスはなんかやっているの?」
「オレはゲーム部の動画の編集などしている関係でな、朝に編集した動画の見直しをやるようにしている。これを家でやろうものなら遅刻確定だから早めに学校へ登校して部室で確認作業をしているな」
「あー、言われてみれば、朝に部室行くといっつもハルカスいるもんなー」
「んー。朝のうちのクラスかぁ」
晴翔のアドバイスにめめめは思考に海に落ちる。晴翔の言う通り目的を持つというのはいい案だと思ったが、それでも早朝に学校に向かう理由が思いつかない。同じクラスであるちえりは、飼育委員に所属しているため割と朝のミーティングのギリギリまで会うことはない。同じくクラスを共にするいろはは、めめめより遅刻することは少ないが、彼女は配信の時とは違い素では人見知りが激しく、ちえりとは別に朝のミーティングまで席を外していることが多々ある。めめめが遅刻が多くなる要因に、朝のクラスには仲のいい友達が総じていないというのも一つの理由だ。その為、晴翔のアドバイスはどこかしっくりこなかった。
「別に学校に理由を持たせなくてもいいぞ。一緒に登校する友でも居れば、待ち合わせなどに遅刻しないようになるだろう?」
「残念ながらめめめの家は、他の皆と少し家が離れてるんだ。近いとすればプロデューサー…の、家…」
そこで今朝の出来事を思い出し、めめめの頭に名案が浮かぶ。しかしそれは冷静に考えると少し羞恥を覚えるものだったのかその頬は改めて熱を帯びた。しかし、これ以上の名案はないと自身の頭が訴えてくるのでめめめはその直感を信じることにした。
「よし!これでいこう!!ありがとね、みりあちゃんに道明寺!!」
「ちょ、めめめちゃん!?」
走り出しためめめにみりあは呼び止めるがめめめは止まらずそのまま公園の出口へ向かっていく。途中で一度振り返り大きく手を振って、そのまま公園を後にした。急のことにみりあは脱力してベンチに背を預ける。
「嵐みたいなヤツだな」
「そうだね。けど可愛いでしょ?」
「どーだが」
横に座る晴翔と共に去っていた人物の話題に軽く談笑する。日はまだそこまで落ちておらず、言うなれば夕暮れ前の時間。これからどうするか悩むみりあに道明寺は声をかける。
「アホピンク」
「なによハルカス」
「いや、さっきたたき起こされて、あの騒動で眠気はすっ飛んだと思ったんだがな。ひと段落したらまた眠気が襲ってきた」
「…それで?」
「その、すまないが、一時間くらい仮眠をするから、オレを見張っていてほしい」
「はぁ!?」
予想外の申し出にみりあは頬を朱く染め、勢いのまま晴翔へ視線を向けた。そこには確かに眠たげの晴翔の姿がある。少し違うとすれば、その頬がみりあと同じくらいに朱くなっていることくらいか。晴翔も羞恥を覚えているという事実にみりあは何故か上がる口角を抑えられずにいる。
「しょ、しょうがないなー。このみりあちゃんがハルカスのワガママを聞いてあげるぽよ!」
「クク。そう、か。お前は見て、くれているのなら、安心、だな」
「…ハルカス?」
改めて晴翔を見ると、羞恥の為か顔を赤くしたまま眠りに落ちていた。その姿に何故自分がこんなに焦っていたのかとバカバカしくなる。そして、寝息を立てる晴翔を弱く引っ張り、倒れてくる頭をその膝で受け止めた。
「いつもお疲れ様。晴翔」
二人を撫でるように、小さく風が靡いた。
「暇だ」
朝日が上がり始める早い時間、一人で暮らすには大きすぎる家のリビングにてばあちゃるは一人ぼやく。学園に向かうには早すぎる時間になぜ彼が起きているのかは単純で、いつものように起床したにすぎない。ワーカーホリックである彼は、効率を求めもっとも頭が冴える朝に前日の仕事の見直しを行うようにしている。その為どんなに眠りにつく時間が遅くとも起きる時間は変わらない。しかし、今日は少し事情が違った。
「たまちゃんが有能すぎる」
のじゃロリの来訪以降、有言実行と言わんばかりにばあちゃるの仕事を手伝う生徒会長の姿を思い浮かべる。彼女は的確に作業を行うため、ばあちゃるの業務が通常の二倍三倍の速さで片付くのだ。伊達にマニュアルもしっかり固まってもいない創立一桁の学園で生徒会長を務めるだけはある。『たまちゃんには頭が上がらないな』と内心で苦笑しながらばあちゃるは思った。
「ハルハル達に頼んだ件の定期連絡までまだ余裕があるし、なにしようか」
そんなたまに押され、友人に頼んだ案件を思い出す。晴翔の他に刀也にのじゃロリに件の失踪者について多方面から視点の意見を求めて応援を頼んだ。晴翔と刀也はなぜか凄いやる気に満ちていてそれをのじゃロリに問うと『そりゃ(尊敬する人に頼まれれば)そう(なる)よ』と言われ首を傾げた。本日に一度、調べたことについて定期報告があるが今はまだ早朝。一応PCで連絡がなかったか確認したが予想通りまだ来ていなかった。その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「こんな早朝になんでしょうかねー。はいはいはい、今出ますよー」
そもそも来客もないこの自宅のチャイムを初めて聞いたとどうでもいいことを考えながら玄関の扉をかけた。
「お、おはよう!プロデューサー」
「はいはい、はい?おはようございますねー、めめめ?」
「えへへ、来ちゃった」
扉の先には学生服を身に纏った自身がプロデュースするアイドルの一人、もこ田めめめがはにかみながらそこに立っていた。そもそも来客者の予想などできなかったが、それでも予想すらしなかった人物にばあちゃるは首を傾げた。
「えっと、上がってもいいかな?」
「あ、はいはいはい。外はまだ肌寒いっすもんね。どうぞどうぞ、上がっていいっすよ」
寒さのためか頬を赤くしているめめめを見て、一旦思考を中断し家に招待する。遠慮がちに『お邪魔します』と一言からばあちゃる宅へ足を踏みいれた。そういえば、とばあちゃるは自宅に迎え入れるのはシロを除いて初めてだと思い出す。
玄関で抜け、リビングに足を進めためめめは珍しいものを見たかのようにきょろきょろと周りに視線を飛ばす。
「そんな見ても珍しいものはないっすよ」
「いや、めめめ男の人の家に入るなんて初めてなんだ!だから全部が珍しくて」
「はいはいはい。見るのは構わないっすけど散らかさないでくださいねー」
「そんなことしないよ!」
からかいの言葉にめめめは怒ったような態度を示す。『冗談っすよ』なんて言ういつもと違うばあちゃるの雰囲気に、めめめは毒気を抜かれ頬を書いた。
「それで?こんな朝早くにばあちゃる君になんの用事っすか?」
「いや、用事っていうか、私のワガママっていうか」
「?」
言い淀むめめめに首を傾げる。しかし言い淀んでいるだけで伝える意思が見える為、ばあちゃるはめめめが言葉を繋げるまで待つ。
「その、私って遅刻の常習犯じゃないですか。だからどうやったら遅刻しなくなるか考えたの」
「ふむふむ」
「みり、友達にも相談に乗ってもらって思いついたのが朝になにか行動する目的を持つってことなんだけど、今度はその目的をどうしようかって悩んじゃって」
「なるほど。それで目的は決まったっすか?」
「うん。その目的が今の状況になるんだけ、ど…」
「それはどういう?」
朝に目的を持つことで遅刻をなくす。その案に対してばあちゃるは納得した。確かに彼女は学園での遅刻はもちに並んで多く、なとりも頭を抱えていたのを覚えている。しかし、その目的でばあちゃるの家に訪れる理由がわからず、つい素で聞き返してしまう。
「ほら、プロデューサーって朝ごはんしっかり食べないじゃん!それを思い出したら『ならプロデューサーの朝ごはんを作るのを目的すればいいじゃん』ってことになったの!」
「えぇ…自分の朝食じゃダメだったっすかね?」
顔を真っ赤にして羞恥を隠す様に声を大きくして言うめめめにばあちゃるはあまりの突拍子のなさに首を傾げた。
「自分のじゃきっと数日で忘れちゃうよ。大切な人なら絶対忘れないと思ったから来たの!」
「そ、そうっすか。けど、もしばあちゃる君が出かけてたらどうするつもりだったっすか?」
「ア゛」
「考えてなかったっすね、完全に」
ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔと呻くめめめにばあちゃるは小さくため息を吐く。勢い任せの行動に軽蔑されたのかと一瞬頭をよぎり青ざめるが『ちょっと待っててくださいねー』と一言。そして立ち上がりクローゼットから何かを取り出しめめめに投げ渡した。
「これってエプロン?」
「ばあちゃる君の予備で申し訳ないっすけどね」
「え、ってことは?」
希望に顔を輝かせばあちゃるへ顔を向ける。それに笑みを浮かべ仕方なさそうに言葉をつづいた。
「めめめめの好意の行動っすからね。よしとします!だけど、作るのはめめめめだけじゃなくて、ばあちゃる君も一緒っすよ?」
「うん!」
受け取ったエプロンを身に纏い、ばあちゃると共にキッチンへ向かう。数分後、キッチンからは野菜を切る音に何かを煮込む音、そして食欲をそそる匂いと共に生活感あふれる二人の音が聞こえ始めた。
「「ごちそうさま!」」
仲良く二人で手を合わせ声を揃える。どこかおかしかったのか、二人は顔を合わせ、小さく笑った。そのまま使用した食器をシンクにいれ洗い物を開始。洗うのはめめめで拭くのはばあちゃるだ。
「プロデューサーって料理できるなんて知らなかった!特にあの甘い卵焼きがめめめは好き!」
「はいはいはい。そんなにやらないっすけど、料理をするのは好きっすからね。多少嗜む程度はできるっすよ。ばあちゃる君的にはめめめめが思いのほかできていてビックリっすね。てっきりごんごんやたまちゃんみたいかと」
「それは失礼が過ぎるなぁ!?なとちゃんほどじゃないけどめめめも料理をするんだ。得意、ってほどでもないけどね」
「謙虚っすねー。ばあちゃる君はめめめめが作った味噌汁が好きっすよ。ばあちゃる君の好みってのもあるけど、野菜の味と味噌がいい感じに合っていてまた食べたいっすね」
「えへへ。ならまた作るね!」
幸せそうな談笑をしながら著職の後片付けは着実に進み、最後の茶碗もばあちゃるが拭き終わる。時計を確認すると登校するにはちょうどいい時間。登校するかどうか考えているとばあちゃるから手拭き用の小さめのタオルが渡された。
「プロデューサーはこれからどうするの?」
「はいはいはい。今日もばあちゃる君は早く出る予定もないんでね。これから予定でも組もうかなと思ってますね」
「学園には来る?」
「一応向かいますけど、昼に別件で抜けちゃいますね。今日は、ホロライブのそらそらとえーちゃんと打ち合わせがあるっすから」
「そっかー」
つい、寂しそうな声が零れてしまう。多忙な彼が学園を途中で抜けることは珍しいことではないがそれでもどうしても寂しさというものを感じてしまうものだ。それに察したのかばあちゃるは荒っぽくめめめの頭を撫でた。
「午前中はいるっすから、用があっても無くてもいつでも来てもいいっすよ!」
「わああ!髪が乱れるぅ!!」
あまりされないばあちゃるからのスキンシップに顔に熱が集まる。それを誤魔化すかのように声を大きく抵抗するがあくまでフリだ。彼の顔にこっそり視線を向けるといつもはマスクで見えないいたずらが成功したような、どこか嬉しそうな顔が見えた。
「ん?連絡着てるっすね。ちょっと席を離れるっすよ」
「ぁ、うん。めめめも支度してる!」
端末片手にキッチンから出ていくばあちゃるを寂しそうな目線で見送る。先程まで撫でられていた頭に自分の手を当て、感触を思い出す。そこでばあちゃるの距離感がどこかいつもより近いことにめめめは気付いた。それはここが彼の自宅故か、それともめめめが彼との距離が近くなったのかはわからないがどこかいつもと違うそんな雰囲気にめめめは破顔した。
エプロンを脱いでたたみ、登校の準備をする。エプロンはどこにしまえばいいか聞き忘れていたことに思い出し、ばあちゃるが戻ってくるのを待つ。すぐに荒っぽい足音共に焦った様子のばあちゃるが戻ってきた。
「プロデューサー、どうしたの?」
「ちょっと急がないとやばいことができまして。申し訳ないっすけどばあちゃる君は先に出ます!」
「え、ちょ!?」
「これ、うちの合鍵っす。エプロンは適当に置いといてください!」
「プロデューサー!?」
めったに見せない余裕のない表情のまま、いつもの馬のマスクを片手にばあちゃるは飛び出した。そんなに緊急な要件なのかとめめめはばあちゃるの心配をする中、ふとリビングにおいてあるノートPCが視界に入った。メールの通知により画面は映っており、好奇心によりめめめはPCを覗き込んだ。
「メールは道明寺から?」
閲覧済みなっているのはきっと携帯端末と互換がしていると察する。てっきりメンテちゃんなど会社からの通達だと思っていたが当てが外れたようだ。そこで先日、晴翔がばあちゃるから依頼されていることを思い出す。好奇心に負け、メールの内容を確認するようにPCを操作した。
「音声ファイル?」
文面は一文字もなく、代わりには添付されていたのは一つの音声ファイル。迷惑メールの類かと疑うが、そのメールアドレスは確かに晴翔本人のものだ。めめめは首を傾げながらその音声ファイルを再生した。
『すまないばあちゃる氏。ちまちま文字を打っている余裕がなかったので、このような形で送らせてもらう!』
荒い呼吸の晴翔の声が聞こえる。呼吸する感じからどうやら走っているようだ。
『まず頼まれていたことだが厄介なことが分かった!行方不明者は全員学生で行方が掴めなくなるのは朝と夕方。つまりは登下校のタイミングだ!これはオレではなく、ねこます氏からの情報でばあちゃる氏も知っているものとして詳しくは省く!そしてここからがオレが調べたことだ!チッ!信号などがオレを止めるな!』
信号に捕まったのかイライラと悪態をつきながらも呼吸を整える様子が聞こえる。
『行方不明者の共通点としてゲーム好きが挙げられる。これは今のご時世よくあるものと思ってスルーしていたが他に調べるものがなかったから詳しく調べた。結果として行方不明者全員がとあるゲームをしていることが分かった!ネット犯罪も多くなっているからか行方不明者のPCの中も証拠品として検査されるようになった賜物だな!』
『それで問題になっているゲームだが、タイトルはばあちゃる氏も知っているはずだ!そのゲームとは『魔女の家』だ!たしかアイドル部の誰かが配信でやっていたな!?保護したほうがいい!オレもみりあの保護に向かう!以上だ!』
そこでファイルは終了した。衝撃的な内容に放心するがそれどころではないことに気付き、急いで自身の携帯端末を出す。そして電話帳を開き、コールをかける。
「お願い、出て…!」
『…おかけになった電話は電源が入っておりません』
しかし帰ってきたのは無常のシステム音。電脳世界であるこの世界で電波が繋がらないということはありえない。ましてアイドル部には自身の携帯端末に加えばあちゃるにより仕事で使用する連絡用の端末が渡されている。これは文字通り連絡する際にのみ使用される物で充電忘れの防止にバッテリーも通常より大きめなため電源が切れることもありえない。そして、めめめがかけたのはその連絡用の端末だ。
「もちちゃんッ!?」
めめめの悲痛な叫びがリビングに響いた。