馬Pとアイドル部とVTuber   作:咲魔

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最近話題上がる誘拐事件
主に学生が被害に合っており、その被害者は後が立たない
被害者の共通点があるとすればそれはとあるゲームをプレイしたとのことだが…?


彼の雄姿に湧きあがる想いは(猫乃木もち)

「へ?ここどこ!?」

 

鬱蒼とした森の中。そこに焦ったように周りを見回す人物、『猫乃木もち』は一人で立っていた。

 

「おかしくない!?私さっきまで普通に道路を歩いてたよね!?」

 

あまりにも急な展開にもちは大声で困惑を吐き出す。しかし、それに応えてくれる存在は勿論はおらず。よりもちは混乱する。

 

「た、確か今日はプロデューサーちゃんと放課後にキャッチボールする約束してるからその確認の為にいつもより早めに家を出て、そういえばこれ以上遅刻したら補習かもってなとりんに言われたのを思い出して『早く出てラッキー』なんて考えながら、またたびさんの呟きを確認していてたら途中で黒猫を見てそして…」

 

今の状態に至るまでの過程を振り返る。それはどこもおかしなことも無く、いつもの日常と変わりはしなかった。だからこそ今の状況が明らかに異常で、その為もちは冷静な判断を取れず、焦りだけが募る。

 

ガザッ

「ヒィ!?」

 

不意に不自然に草木が揺れる。さらにそこから明らかになにかの気配を感じ、もちの背中には冷たい汗が伝う。恐怖により体を縮こませる。草木の揺れは大きくなり、ついにはそこにいた気配が存在を露わにした。

 

「や、やっと知ってる人がいたぁ」

 

「キャァァァァ…あ?あ、あれ」

 

そこから現れたのは長袖のシャツにジーパンといったラフな衣装に身に纏う青髪の眼鏡女子であった。その姿はどこか見覚えがあり、もちは脳内で検索を始めた。

 

「えっと、ばあちゃるさんが担当する.LIVEのアイドル部に所属する猫乃木もちさんですよね?」

 

「あ、はいそうです」

 

「よかった合ってた。私はホロライブに所属するときのそらの動画編集などしてる友人Aと呼ばれるものです」

 

「あー!えーちゃんさん!」

 

あと喉仏というところでつっかえていた答えがわかり、つい大声を出してしまう。えーちゃんの苦笑にもちは頬を赤くなるのを感じた。

 

「さんは付けなくてもいいですよ。周りからもそう呼ばれてますしね。ところでここ、どこかわかります?」

 

「あ、えーちゃんもわからないんですか?私も気付いたらここにいて彷徨ってたところなんです」

 

「もちさんも?」

 

「ってことはえーちゃんも?」

 

情報の共有をしてみるがどちらもほぼ同じで、気が付いたら森の中にいた、ということ以外なにも分からずにいた。このままではらちが明かないということもあり、二人は恐怖に震えながらも歩き出す。

 

「えーちゃんはここに来る前は何してたんですか?」

 

「今日は午後からばあちゃるさんと打ち合わせがあったけど、午前は暇だったからそらが『ばあちゃる学園を見てみたい』っていうから学園の方に向かってたはずだけど路地裏にいる黒猫見たて気づいたらここに」

 

「えーちゃんさんも!?私も登校中に黒猫に見て気づいたらここにいました!」

 

「もちさんも!?」

 

予想外の共通点に両者は驚きの声を上げた。静寂な森に声が響きその不気味さに二人はさらに体を縮こませ震える。その時、えーちゃんが立ち止まる。並走していたもちはその様に気付きえーちゃんの方へ視線を向けると、その顔はさらに青ざめていた。

 

「えーちゃん?」

 

「あ、あれはなんでしょうかね、もちさん?」

 

「はい?」

 

震える指を指し示す方向へ視線を向ける。森の中は相も変わらず暗闇でよく見えない。目を凝らしてよく見ていると、明らかに人のものではない頭部のような輪郭が見えた。

 

「も、もちさん。見えました?」

 

「見えません。見えないったら見えません」

 

「見えてますよね!?この現実を拒否するのはやめよう!?」

 

「いやいやいやいや!?あれは受け入れたらヤバいやつじゃん!?なら平和に見なかったことにする方がいいに決まってます!」

 

「見なかったことってことは見えてるよね!?現実を見よう!見つめなおそう!?」

 

「私は!現実を!否定する!三天結盾!私は『拒絶する』!」

 

「さ、さんてん?拒絶、っああ!ブリーチか!急に厨二病に逃げないで!?ってうわあああ!?なんか来たぁぁぁぁ!?」

 

「えーちゃん!?」

 

草むらから何かが飛び出してきて、そのままえーちゃんに飛びつく。流石に見て見ぬふりは出来ず、振り返るが自身の目の前に何かがいることに気付く。条件反射で見え上げてしまい、その冒涜的な頭部に喉が引きつる。

 

「ヒィ!?」

 

「はいはいはい。やっっっと見つけましたよ。もちもち」

 

「ヒ、ヘ?あ、あれ?もしかしてプロデューサーちゃん?」

 

「えーちゃんんんんんん!」

 

「え?この声そら!?覆い被さられてて何も見えない!?」

 

冒涜的な頭部をよくみればそれは見慣れた親愛なるプロデューサーのマスクであった。もちは安心したことによる脱力により腰が砕ける。横に目を向ければえーちゃんの頭を抱きかかえるように覆い被さるそらの姿が確認でした。

 

「そーらー!私は大丈夫だからちょっと離してーー!?状況がわからないよ!?」

 

「はいはいはい。ほらそらそら、とりあえずお話ししますから離してあげてくださいね」

 

「ううぅ。わかったよ」

 

名残惜しそうに離れるそらにえーちゃんは開けた視界にほっと肩を落とした。そして、ばあちゃるに手を引かれ立ち上がる。その表情は先程のような先に不安を感じるようなものではなく安心を感じるものであった。

 

「ありがとうございます、ばあちゃるさん。ところでここ、どこなんですか?」

 

「あ、そうだよプロデゥーサーちゃん!私もえーちゃんも気付いたらここにいて訳も分からなくて途方に暮れてたの!」

 

「あ、えと、ここは「はいはいはい!ここはとあるゲームを題材にしたバーチャルワールドですね!実はお二人には今からこのワールドを攻略してもらうことになったんですねーはいはいはい」…え、ばあちゃるさん?」

 

そらの発言を遮るようにばあちゃるは大袈裟なモーションを取りながら説明を行う。その彼の姿に呆気をとってしまうそらだが、長い付き合い故に何をしようとしているのか読み取り、いつも通りににこにこ笑いながらばあちゃるの横に立つ。

 

「企画?」

 

「そう!えーちゃんともちちゃんにはその題材になったゲームと同じようにこのワールドをクリアしてほしいの。ね!ばあちゃるさん?」

 

「ちょいちょーい!?そらそらが説明しちゃったらばあちゃる君の出番無くなっちゃうっすね、完全に!」

 

「その企画、私は何も聞かされてないですよ?」

 

「そりゃそうだよー。今回のターゲットはもちちゃんとえーちゃんだもん」

 

「私とえーちゃんさん?仕事で一緒になったことないのになんで?」

 

「それは、この先の建物を見てもらえれば分かるっすね。はいはいはい」

 

そしてばあちゃるを先頭に森を進んでいく。相変わらず森は薄暗いが徐々に獣道は広がっていき、ついには開けた場所に出た。そこには明らかにこの深い森の中には不釣り合いに綺麗な屋敷が姿を露わす。

 

「黒猫に森を進めば屋敷?ま、まさかここって?」

 

「お、さすがもちもち。察しがいいっすね!そう!ここはあの有名ゲーム『魔女の家』を題材にしたワールドなんですよ!はいはいはい」

 

「ぎゃああああ!!やっぱりぃィィィィィ!!」

 

最近は配信から離れ、動画投稿に専念しているためホラーゲームからも離れていたもちは過去のトラウマが蘇り、頭を抱えて絶叫した。そんなもちにそらはさらに笑みを深める。

 

「企画として上がもちもちの動画とそらそらとえーちゃんが投稿したプレイ動画を見てコラボを提案してきたっすよ」

 

「ワールドまで作ってきたみたいで、うちもばあちゃるさんの方もノリノリになっちゃって、ならさらにドッキリも仕掛けたら取れ高になる!ってことで二人には内緒にしてたの」

 

「…その割にはさっき本気で心配してくれてたみたいだけど?」

 

「あ、そr「いやー実はですね、元々二人ともここに飛ばされるはずが座標がずれたのか少し離れた場所に飛ばされちゃったっすよ。この館はしっかり作りこまれてるっすけど、それ以外はまだ開発途中で危険かもって聞いたらそらそらが飛び出しちゃったわけっすよ」…も、もう!ばあちゃるさん!それは言わないでって言ったじゃないですかー!」

 

「あれ?そうでしたっけ?」

 

非難するようにばあちゃるの腰を押す。その際にそらは本人にしか聞こえないように小さく礼を申した。えーちゃんからの疑惑の視線は完全には解消されてはいないが納得はしてくれたようでばあちゃるはほっと肩を落とす。

 

「ホントはばあちゃる君たちは二人の見えないところから実況する予定だったっすけど、『四人の方が面白い!』なんて言うもんっスからね、このままそらそらとばあちゃる君も合流しますよー!」

 

「よ、四人もいればさすがに怖くないし、経験者が多いから余裕だ!」

 

「残念だけどそうはならないよー?四人で攻略する代わりに難易度は私たちも知らないし、セーブポイントの黒猫にも話しかけるのを禁止だよ」

 

「え゛。あの初見殺しまみれをノーセーブ!?流石にきつくない?」

 

「残念ながら目標はノーセーブクリアだからねー。諦めよう?」

 

「そんなぁぁぁ」

 

非常なそらの一言にもちは再び頭を抱えた。そんなもちににこにこと笑みを浮かべながらそらは屋敷に視線を戻した。

 

「よーし!尺もあるし、さっそく攻略していこう!」

 

「おー」

 

「声が小さいよ、もちちゃん!」

 

「うううううう。こうなりゃやけくそだぁぁぁ!うおおおおおお!!」

 

「おお!もちちゃん燃えてる!」

 

玄関にいる黒猫を無視し、二人は先に屋敷に入っていく。そんな二人に「元気っすねー」とどこか他人事化のように呟いた。

 

「はいはいはい。それじゃあね、あばあちゃる君たちも入っていきましょう!」

 

「ばあちゃるさん」

 

「はい?」

 

「あとでしっかり詳細を教えてくださいね」

 

「ウビッ!?」

 

怒りが読み取れるえーちゃんの笑顔にばあちゃるの背筋に冷や汗が垂れる。そのまま先に入っていった二人を追う様に入っていくえーちゃんい誤魔化す様に後頭部を掻いて、追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔女の家ダイジェスト

 

 

~開幕、『わたしの へやまで おいで』~

 

「開幕即死トラップってまーじっすか!?えぐー!?」

 

「むしろそれを受けて普通に戻ってくるプロデューサーちゃんがえぐーだよ!?」

 

「もしかしてばあちゃるさん、チートキャラなのでは?」

 

「あのトラップって部屋の外から見るとああなってるんだねー」

 

 

~とある病気の少女の話~

 

「あれ?私がやった時と内容が変わってる?」

 

「こっちはエクストラになってるねー」

 

「はいはいはい。確かリメイク版に追加された新難易度でしったっけ?」

 

「それです。最近私とそらで実況しましたよ」

 

「えーちゃんの絶叫がヤバかった!」

 

「すっごいいい笑顔のそらちゃんが怖い…あ、やば。破っちゃった」

 

 

~巨大テディベア~

 

「「ぎゃあああああああああ!!!!!!」」

 

「鼓膜が、破れる!?」

 

「やばーしやばーし!?あれって、あん肝っすよね!?そらそらのあん肝の親戚みたいなもんっすよね!?」

 

「うちの!あん肝は!あんなに目が血走ってない!!」

 

 

~二階、図書室~

 

「はいはいはい。いやー食堂は激闘でしたねー」

 

「まさかコックが襲ってくるなんて思いもしなかったよ」

 

「そしてそのコックとばあちゃるさんで戦闘になるなんてね」

 

「ホラーゲーム、とは?」

 

「ばあちゃる君もね、今回はプレイヤーなのでね、全力で協力していきますよー。そしてこのエレンちゃんのことエレエレがあの病気の少女かな?」

 

 

~二階、展示室~

 

「やった!ざまぁ!追いつけるもんなら追いついて見せろ!」

 

「えーちゃん元気だ!」

 

「追っかけてくる頭部に腰抜かして、プロデューサーちゃんのおんぶされてるからちょっと情けないのは気にしない!」

 

「ちょいちょーい!?これ、どこまで逃げればいいっすかー!?」

 

 

~三階、魔女に日記~

 

「あ、これは私も見たことがある!」

 

「日記と物語がごっちゃに入ってるよー」

 

「ノーマルとエクストラの混合難易度なのかな?」

 

「いやいやいや、憎いからって両親を×しちゃダメっすよーエレエレ」

 

(…?何か、違和感がある?)

 

 

~三階、大蛇の部屋の前~

 

「やだぁぁ!つぶ貝を犠牲にしたくないよぉ!」

 

「いや、気持ちはわかるけどね。もちちゃん、入れなきゃ進まないし」

 

「…よし!もちもち。ここはばあちゃる君にお任せっすよ!」

 

「いやいやいやいや!?コックは何とかなったけどさすがにあの大蛇はヤバいですよ!?」

 

「男はやらなきゃいけないときがあるっすよ。ま、あばあちゃる君は最強ですし、ステゴロで何とかして見せますよ!」

 

「ば、ばあちゃるさぁぁぁぁぁん!!??」

 

数分後

 

「勝った」

 

「勝つんだ!?」

 

 

~四階、とある病気の少女の話2~

 

「え!?ここでユッケが出てくるの?」

 

「あ、そっか。ノーマルを普通にクリアすると悪魔のことは知らないまま終わるんだったね」

 

「黒猫さん。悪魔さんなんだよー?」

 

「ふむふむ。両親のことはやりすぎっすけど、生い立ちとか考えるとさすがに可哀想っすね」

 

 

~四階、問いに 答えろ~

 

「いやー、問いの途中で急に黒猫が出てきて喋る前にそらそらが蹴っ飛ばしたのには驚いたっすね」

 

「だって、喋ったら縛りが失敗でしょ?なら喋る前になんとかしないと」

 

「だとしても過激すぎるよそら」

 

「やけにつぶ貝が騒がしかったけど、なんだったんだろう?」

 

 

~とある病気の少女の話~

 

「はいはいはい。これ、黒猫は確信犯っすね完璧に」

 

「ページが破れてるのは元からだっけ?」

 

「確かそうだったよ?」

 

(また、何か違和感があるような?なんだろう)

 

 

~再度一階、食堂~

 

「ばあちゃるさんがコックさん倒しちゃったからすっごい楽」

 

「コックさえいなければここは楽だもんね。それでばあちゃるさんはなんで怒ってるんですか?」

 

「いやね、今朝にお味噌汁頂いたのでね、あそこまで何かを煮てるの見て、食に対する冒涜だなって思ったりしちゃったり?」

 

「うちのプロデューサー、めっちゃいい人。けど、今気にすることじゃないよね!?」

 

 

~最上階、とある… ……の話~

 

「うわ、全部赤文字だ」

 

「赤ペン先生みたいだねー」

 

「やっぱり黒猫が原因っすね、完全に。巻き込まれてくうちにエレエレも諦めちゃって…これ、エレエレ何も悪くないっすね」

 

(これってもしかして?確かもう一回あったよね。それで合ってたら言ってみよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

~最上階、魔女の日記~

 

「あのー。もちもちにえーちゃん?流石にこんなにくっ付かれるとばあちゃる君も歩きにくいかなーって思ったり?」

 

「「私に死ねと!?」」

 

「そこまで言ってないっすよ!?」

 

「わー。ばあちゃるさん両手に花だね!」

 

最上階の毒沼を強引に突破した四人は抜けた先の庭園を歩き進む。ホラーに耐性のないもちとえーちゃんはそれぞればあちゃるの腕に抱き着きついている。よほど堪えているのだろう。抱き枕よろしく全身でばあちゃるの腕を抱きしめていた。女性特有な柔らかさにばあちゃるはマスクの下で赤面をする。

 

「もちちゃんならともかく、私みたいな貧相な体にばあちゃるさんが満足するわけないでしょ」

 

「そんなことないっすよ。えーちゃんもしっかり女の子っすよ。いやー、これ以上言っちゃうと炎上案系なんでね、自重しますけど、本心っすからね」

 

「え、あ、あぅ。ありがとうございます」

 

ばあちゃるの発言にえーちゃんは頬を赤く染め、俯く。本心かどうかは別としてやはり頼りにしている異性に賞賛されるのは照れてしまう。それを横で見ていたもちは嫉妬心を隠さず、声を荒げる。

 

「あー!プロデューサーちゃんったらまた口説いてるー!そういうとこやぞー!」

 

「えぐー!?ってまたってなんですかまたって!?ばあちゃる君は誠実な馬人間っすよ!?」

 

「…えい!」

 

言い争う二人を横目に見ていたそらはばあちゃるの背中に飛びつく。腰に抱き着く形となり、これによりばあちゃるの身動きは完全に取れなくなってしまう。

 

「ちょいちょーい!?そらそらまでどうしたっすか!?」

 

「えへへ。わたしも怖くなっちゃからばあちゃるさんに守ってほしいなー?」

 

「絶対嘘だ。さっきまで私ともちちゃん見ながら笑ってたのに怖くなっったなんて絶対嘘だ」

 

「んー?何かいった、えーちゃん?」

 

「なんでもないよ!?」

 

「あ、また本があるよ!」

 

庭園を進むと広場でる。その中央には不自然に机が置いてあり、そこには『魔女の日記』と記された本がひとつ。中心にいたばあちゃるが本を開いた。本の内容は最後に見たものの続きとなっており、白の紙に血を連想させる真っ赤な文字で文が綴られている。

 

「また、真っ赤な文字」

 

「内容はエクストラと同じで心身ともに魔女になってしまったエレンちゃんのことみたい」

 

「これは…えぐいっすね」

 

「…うん。やっぱり」

 

読み進めていく途中にもちの確信を持った発言に全員の視線が集中する。そして懐から出したのは紙切れを全員に見えるように本の横に置いた。

 

「これは最初の物語で私が破っちゃったやつなんだけど、見て。なんか字体が違くない?」

 

「言われてみれば、そんな気がするかも?」

 

「うーん。最近はずっと端末からしか見てないからちょっと自信がないなぁ」

 

首を傾げる二人にばあちゃるが助け舟を出す。

 

「はいはいはい。ばあちゃる学園の図書室はとある方の要望で貸し出しには本のタイトルと名を書いてもらう様になってるっすよ。それでそれで、なんと、もちもちは図書委員を務めてるっすから字体の見分けはこの中なら一番だと思うっすね。完全に」

 

「ありがとプロデューサーちゃん。それで字体って結構人の癖が出るものなの。いままで見てきたやつで字体が違うのは最初のこれで、残りは全部一緒になってるの」

 

「えっと、つまり『病弱の少女の話』とそれ以外で書いてる人が違う。ってこと?」

 

「そう!これって何かの手掛かりにだったりしないかな?」

 

もちの指摘にこれまでの頭脳担当であったえーちゃんは思考に落ちる。これは謎解きの手掛かりにしてはあまりにも難解であり、そもそも本編の『魔女の家』でも使われなかった謎だ。悩んだ末にえーちゃんはばあちゃるへと視線を向けた。

 

「あまりにも情報が不足しすぎてる。これは『魔女の家』とは関係ないものだと思うの。だからばあちゃるさん、そろそろ教えてもらってもいいですか?」

 

「…そっすね。もう終盤みたいですし、話しておいた方がいいかもしれないっすね」

 

「え?それってどういうこと?」

 

「ばあちゃるさん」

 

「大丈夫っすよ、そらそら。もちもちもえーちゃんもそらそらも、ばあちゃる君が守るっすよ」

 

ばあちゃるとそらは失踪事件のこと、それが『魔女の家』をやったプレイヤーが標的だったこと。そして、えーちゃんともちが標的としてここに連れ去られたことを話した。

 

「幸いばあちゃる君とそらそらは二人がここに飛ばされるところを見てたっすからね。あとはばあちゃる君の能力使って無理やり追ってきた感じっす」

 

「わたしはえーちゃんが心配で居ても立っても居られなくなってばあちゃるさんに無理やりついていたの」

 

「だから森で再会した時にあんな行動だったのね」

 

「もしかして今までのトラップって」

 

「違法で作ったワールドっす。ただじゃすまないのは確かっすね」

 

ばあちゃるの言葉にもちは体温が急激に下がるのを感じた。そしていままで物理的に襲ってきたコックの幽霊や大蛇など、なぜ積極的に対峙してきた理由を理解する。

 

「もしかしてプロデューサーちゃん!?」

 

「ああ、大丈夫っすよ。言ったっすよね?鍛えてるって」

 

焦るもちの落ち着かせるためにいつものようにおちゃらけた雰囲気を纏いながら力瘤を見せる。未だにその顔は青いが多少は安心させることが出来たようだ。

 

「それで、もちちゃんの日記の字体の違いから、ばあちゃるさんがわかったことってありますか?」

 

「ほぼほぼ憶測っすけどいいっすか?」

 

ばあちゃるの言葉に三人は頷く。

 

「まずこのワールドを回って、作ったやつはかなり凝り性だと思ったっすよ。ばあちゃる君は『魔女の家』についてはもちもちの配信での知識しかないっすけど、かなりの再現率だと感じたっす」

 

「そうね。無印にMV版と両方をそらとプレイしたけど、ほんとによくできてると思う。家に入る前にばあちゃるさんが言ってた企画で作ったっていうのも信じそうになったもの」

 

「えーちゃんもそう思うならやっぱよほどってことっすね。それでこの家、というよりワールドには『主』が別にいると思ったっすよ」

 

「「あるじ??」」

 

首を傾げるもちとそらにばあちゃるは『軽く説明するっすね』と話を折る。

 

「そうっすね。よし、じゃあばあちゃる君が配信で使ってるワールドを例にしましょうか。はいはいはい」

 

「プロデューサーちゃんが使ってるっていうと、あのテレビだけおいてある無人島みたいなとこ?」

 

「それっす!いやー覚えていてくれてばあちゃる君感激っすね。それで話を戻すっすけど、すごーくわかりやすく言うと島を運営しているのがアップランドで島の主がばあちゃる君ってことになるっすね。運営が許可してる範囲内なら主はいくらでもワールドを弄れたりしちゃいます。ま!ばあちゃる君は何も権限貰ってないっすけどね!」

 

「ああ、わかった!お家を借りる時の仕組みと一緒だ!」

 

自虐を無視していうそらにばあちゃるは小さく肩を落とした。

 

「あ、それで納得するっすね。まぁそらそらの言う通りでもあるっす。他に例を挙げるならちえりーランドとかも同じ感じっすかね?」

 

「あー、そらならわたしもわかるよ!」

 

「それで主が別にいるってどういうことですか?」

 

逸れ始めた話題を修正するためえーちゃんは改めてばあちゃるに問う。

 

「こんな凝り性ならきっとこの『魔女の家』に見合う主を連れてくると思ったっすよ。それに、ここに入る前ギリギリに捜査に協力してくれてたのじゃおじさんから連絡がきてですね。これがその内容っす」

 

懐から携帯端末を取り出し、全員が見える位置に置いて届いたメールを開示する。内容は簡潔で『失踪事件の半年前に似たような事件が数件あり。最初の被害者の捜索届も添付しておきます』。そのままスクロールすると十歳くらいの少女の顔写真が現れた。その画像に三人は目を見開く。

 

「これってまんまエレンちゃんじゃん!?」

 

「なるほど。これならばあちゃるさんの言ってることも納得があります」

 

「そう言ってもらえると嬉しいっすね。もちもちの日記の字体の違いも、きっと最初のやつだけこの子に書かせてあとのをそれも見本に書いたものだと思うっすよ」

 

「ん?なんで最初だけ?」

 

「あ!時間だ!」

 

「うぇ!?どうしたのそらちゃん!?」

 

急に声を上げたそらにもちは身を竦める。

 

「時間がなかったんだよ!だから最初の一冊だけ書かせてあとは自分で書いたんだ!こんな綺麗な字だもん。よっぽど字を書くことが得意な子じゃなきゃ、ノーマルの日記とエクストラの物語を半年で全部書かせるのは無理だよ」

 

「はいはいはい。ばあちゃる君もそらそらと同じ結論に至ったっすね。何故全部書かせてから犯行を行わなかったかは分からないっすけど、攫われて恐怖に震えてる状態で書くっすから半年なら一冊出来れば上出来な気もするっすね。完全に」

 

「ああーなるほどねー」

 

そらとばあちゃるの解説にもちは納得する。そして、破った日記のページに目を向けた。とても丁寧に書いてある文字列だが、よく見ると少し震えている文字だ。恐怖による手の震えだと予想が付いたもちは胸が痛める。

 

「こっちの考えとしてはこのエレエレ(仮)を保護しようと思ってるっす。全権限が運営している向こうにあるのはわかりきってることっすけど、家の主を味方につければ付け入る隙くらいはできるかもしれないっすからね」

 

「…ならそこに私の案もつけ加えてもらってもいいですか?」

 

「はいはいはい。えーちゃんの案ってなんすか?」

 

手を上げるえーちゃんに視線が集中する。喉を整えるためにコホンと小さく息を吐き、口を開く。

 

「家を回って襲ってくるもの全てが組み込まれたAIなのだと思います。指示された行動はするけど、予想外の行動をされるとエラーで止まっちゃうやつです。現にばあちゃるさんに撃退されるとそれ以降行動はなかったですからね」

 

「言われてみれば、コックの幽霊はばあちゃるさんが撃退したらもう出なかったもんねー」

 

「お、さすがそら。いいとこに気付くね。それでこんなに膨大なAIを使用してるならきっと統括AIもあると思うの」

 

「はい!統括AIってなにが違うの?文字通り統括してるってのは予想はつくんだけど」

 

元気のよい問いにばあちゃるはマスクの下で笑みを浮かべ人差し指を立てて説明する。

 

「はいはいはい。もちもちの言う通りそのまま同時に動く数多くのAIを統括するAIっすね。ただ、こっちは問題などが起こった際に学習して再び起きないように成長しなきゃいけないので使われるのは基本的に自己進化AIになるっす」

 

「自己進化AIはかなり精密でできてて弄ろうものならほぼ100%で起動しなくなるの。さらに犯罪などに使われないようにAIがそっち方面で使われるようなら通報する仕組みになってるわ」

 

「けど、この違法ワールドは機能してるよ?」

 

「ああ、なるほど。機能だけして閉じ込めてるっすね」

 

ばあちゃるの発言にえーちゃんは嬉しそうに指をさした。

 

「そう!弄ることはできないけど通報をさせないようにすることはできるの!違法だけどね。それで全部の権限を運営が持っているとしても主はこのエレンちゃん(仮)だから救出した後は私に任せてもらえれば統括AIに多少の権限、最悪ここから抜け出すくらいの権限は奪い返すことはできる!」

 

「おお!えーちゃん頼りになる!」

 

「問題は、その統括AIがどこにいるかっすね。もしトラップの一つにやられいたらやばーしっすね。完全に」

 

「トラップにやられる?…あ!」

 

ばあちゃるの発言にもちは思い出したかのように持ってきていた鞄から助け出したカエルの『つぶ貝』を取り出す。話を聞いていたのかゲコゲコと高ぶったように鳴いていた。

 

「プロデューサーちゃん!この子じゃない!?統括AI!」

 

「え!?このカエルがっすか!?」

 

「…いや、可笑しな話じゃないですよ。あそこのカエルは『魔女の家』をプレイしている人なら犠牲になることが分かってるから大蛇の所で食べさせてしまいますもんね」

 

「あー。そうだよね。今まで攫われた子達がプレイ済みの子だけならあそこで迷いなく入れちゃうもんね。納得だー」

 

「処分した後にAIの挙動がおかしくなったらまた新しい統括AIを設定して安定したら再びプレイヤーに処分させる。このサイクルなら自己進化AIも権限を自身で奪還できるように進化する前に処分できるってことっすか。よくこんな吐き気がするクソみたいなこと思い浮かぶな」

 

小声ではあるが、口を荒げて呟く。すぐに気を取り直し顔を上げる。

 

「はいはいはい。これで、完璧に反撃できるっすね!」

 

「そうだね!じゃあ、エレンちゃん(仮)を救出にいこう!」

 

決意を新たに進むばあちゃるとそらに一歩遅れてえーちゃんともちは歩き始めた。そこでえーちゃんがどこか驚いた顔をしていることに気付く。

 

「どったの?」

 

「え?ああ、昔読んだ統括AIの誕生について読んだ本のことを不意に思い出しただけだよ」

 

「あ、ちょっと気になるかも」

 

先日のじゃロリに自己進化AIやダイブのことを習ったもちにその話題はタイムリーであり、つい気になってしまう内容だ。それに苦笑しながらえーちゃんは言葉をつづけた。

 

「私もうろ覚えよ?確か、もともと平和になった世界にテロリストたちが戦争に使用するために開発したの。戦争に使用するロボットだったかな?それを使うにあたってハッキングなどされても守れるように、さらに指示もできる様に作られたのがその統括AIだったはず。たしかその計画名も見たんだけど…」

 

「おーい、もちもちにえーちゃん!!早く来ないと置いていくっすよー!」

 

「あ、今行くー!!」

 

少し離れたところからばあちゃるの声が聞こえ、離されてしまったことに気付く。二人は顔を見合わせ、追いつくように駆け出した。

 

「あ、思い出した!確か『少女兵器プロジェクト』だ!」

 

聞いたことのない言葉をとりあえず頭の隅に置き、もちはばあちゃるへと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいっすか三人とも。開けるっすよ」

 

ばあちゃるの確認に頷く。目の前には先程までいた廃墟ではなく、しっかりした扉。プレイ通りであればこの扉の先は魔女エレンの自室。自分たちはヴィオラではない。故にここからは完全に未知の領域だ。誰かが固唾をのむと同時にばあちゃるは扉を開いた。

 

「…誰?悪魔さん?」

 

部屋の中央にベットに一つの人影。それは先程確認した最初の被害者である、魔女エレンによく似た少女だ。しかし、その見た目は画像と違い頬はこけ、目は隈がひどいことになっている。画像のあるような顔立ちからひどくかけ離れていた。

その様子にもちはなんと言葉を発せばいいか分からなくなった。助けを求めるように、プロデューサーであるばあちゃるに視線を向ければ優しく頭に手を置かれ撫でられる。それはまるで『任せておけ』とでも言うような安心させるものであった。

 

「どーもー!世界初!?の男性バーチャルYouTuberのばあちゃる君です!フゥーーーーー!!」

 

それは彼が動画の開始時、または登場時にいうお決まりの挨拶だった。いつものようにおお振りのリアクションを取りながら自然とエレン(仮)へと近づく。そしてそれに続くかのようにそらも立ち上がった。

 

「持ちネタ終了だね、ばあちゃるさん!」

 

「ちょいちょーい!?そらそらー!いきなりひどいじゃないっすか!」

 

「そらとも。あ、まだそらともじゃなかったね!じゃあ未来のそらともさん、元気ー?ときのそらだよー」

 

「こらー!無視はダメっすよ、そらそらー!」

 

「え?え、え?ばあちゃるさんにそら、さん?」

 

完全にペースを握られたエレン(仮)は目をパチクリさせながら動揺している。部屋に漂わせていたどこか陰湿な雰囲気はすでななくなった。流れを掴んだ二人に敵わないな、と思いながらももちは追いつくように二人に並んだ。

 

「にゃっほ~にゃっほ~!ばあちゃる学園アイドル部の猫乃木もちです!初めましてだよね?よろしくね!」

 

「え、あ、はい。よろしくお願いします」

 

差し出された手に困惑しながらも応えてくれる、これだけでもちにとってエレン(仮)は助けるべき存在となった。それはばあちゃるにとってもそらにとっても同じだ。未来のファンになるであろう少女を救えなくて何がVTuberだと、三人の心は一つとなった。

 

「はいはいはい!今日はですね、なんとなんと!この三人で貴女を助けになんかきちゃったわけなんすよ!はいはいはい」

 

「急なコラボだったけど、無事ここまでこれたよー!」

 

「いやー、リアル魔女の家、大変だったねー」

 

「はいはいはい!いやー、ばあちゃる君のこの拳でね、デュクシデュクシと悪い奴は倒してきたっすからね。もう安心しかないっすね、完全に!」

 

「あながち間違ってないから何も言えない!?」

 

「あ、あの!」

 

声を上げるエレン(仮)に三人は一旦視線を少女に向ける。六つの目に少し怯みながら言葉を続けた。

 

「私、ここから出ません」

 

「えー!?なんでー!?」

 

「そうだよ!だってここ何にもないよ!」

 

「だって、私。色んな人を×しちゃった」

 

少女の言葉にそらともちは言葉を失う。それは以前よりこの家に招かれた者たちのことだろう。コンティニューなどないこのリアル脱出ゲームに無理やり参加させられた人たちは少なくはない。少女が直接手を下したわけでなくとも、彼女はこの家の主となってしまっている。まだ十も満たない子供だ。それに責任を負ってしまうのも仕方がないことであった。

 

「だから私は」

 

「君がやりたいことはなんだい?」

 

「え?」

 

視線は言葉を発したばあちゃるへ集中する。その言葉はいつもの様子はなく、どこまでも暖かくなる安心感を感じるものだった。

 

「君がここに無理やり連れてかれて、色んなことをやってしまったことはわかったっすよ。けど、今はそれを置いといて、君のやりたいことはなんだい?」

 

「私の、やりたいこと?」

 

「そう。例えばゲームをやりたい、とか。大きな声で歌を歌いたいとか。色んな人と関わっていきたいとか。君だけのやりたいことを教えてほしい」

 

ベットの前に座り込み、少女の手をその白い手袋越しに包み込む。頭を撫でられたことがあるからこそわかるが、あの手袋は案外薄く、手の体温を感じられるものだ。その証拠に、手を握られた少女はばあちゃるの人肌の暖かさに困惑している様子が見て取れた。

 

「け、けど。私、やりたいことなんて、言えない!」

 

「なぁに、心配することなんてないっすよ!困ったらばあちゃる君が相談でもなんでも乗りますよ!背中だって押してあげるっすよ!」

 

「ならわたしたちはあなたの手を引っ張ってあげる!確かに進むのは怖いけど、一人じゃないよ!」

 

「後ろにプロデューサーちゃんがいて前にそらちゃんがいる。なにそれ最強じゃん!なにも怖がることなんてないよ!ワガママ、いっぱい言っちゃお?」

 

ばあちゃるの手の上からそらが、さらにその上からもちが手を包む。それはとても温かいものであり、頼もしいものだ。少なくとも、抑え込んでいた少女のワガママを吐き出すほどの力は確かにあった。

 

「わ、わたし、『生きたい』!やりたいことなんていっぱいあって分からないけど、何もやらないまま終わるなんてゼッタイヤダ!だから、助けて」

 

「任されたっすよ、完全に!」

「任せて!」

「もちのロンだよ!」

 

何でもできる気が湧いてくる頼もしい三つの言葉に少女は確かな安心感を感じる。それはこの部屋に押し込まれてから久しく感じたものだった。その時、窓の割れる音が鳴り響いた。

 

「ごめん皆!少ししか持たなかった!」

 

「むしろいいタイミングだよ、えーちゃん!」

 

後ろから声を上げるのはばあちゃるより預かった端末により出した空中のパネルを操作するえーちゃんだ。統括AIを通して家にハックし最後のシステムを抑え込むという役目を担っていたのは彼女である。えーちゃんにより抑え込まれていたのは本家『魔女の家』において主人公を追ってくるラスボス的な存在。それが今、窓を割って部屋に侵入してきたのだ。

 

「ほらほら!ばあちゃる君の背中に乗って!逃げるっすよ!」

 

「わ、わわ」

 

「急いで!なんかもう動き出しそうだよ!?」

 

「うっわ、ゲームでも結構グロかったのに実際見るとやばい」

 

あまりのグロテスクなその姿にもちは無意識に後ずさりをする。そしてばあちゃるが少女を背に背負うと当時に部屋を飛び出す。それに遅れるようにその存在も這い蹲って追ってきた。

 

「ぎゃああああああ!?見た目がヤバいヤバい!?」

 

「やばーしやばーし!完全にR指定貰っちゃうやつっすね、完全に!?」

 

「あ、えーちゃん!?」

 

「大丈夫!障害物ならもう停止させてあるよ!」

 

二階廊下から走り出し階段を滑るように降り、大食堂を駆け抜ける。本編通りであれば脱出の際に椅子などが動いて妨害してくるものだが、それはすでにえーちゃんがハックをした際に停止させてあるため起きなかった。最後にエントランスから外に繋がる扉へ、入った時より一人多い状態で飛び出した。

 

「脱出ーーーー!!!!!!」

 

「ゲームクリアでフゥ――――!!!」

 

「やった!勝った!優勝した!!」

 

「おーさすがアイドル部。シロちゃんとおんなじこと言ってるー。あ、すっごい動いてたけど大丈夫?」

 

「…うん、ちょっと酔ったけど大丈夫」

 

喜びを分かち合う五人。入った時とは違う禍々しい館を背に和気藹々と話しながら歩き始める。しかし、その行方に立ちふさがるのは一つの小さな影。それは途中から姿を見せなかった黒猫だった。

 

「あ、悪魔さん」

 

「途中から様子が見えないと思ったら好き勝手やってくれてよ!ただで帰すと思ったか!」

 

「あー!途中から全然に見なかった黒猫だ!」

 

「見えなかった?」

 

「多分、つぶ貝が妨害してたかもしれないっすね」

 

「道理であんなに堂々と作戦会議してたのに何もしなかったわけね」

 

その姿に恐怖するのはばあちゃるの背負われている少女だけで、他四人はその存在を忘れている様子である。その様子はより黒猫を苛立たせた。

 

「そんな態度をとれるのも今のうちだ!オレの権限を使えばお前らなんて容易に捕まえれることを忘れるな!」

 

「ふーんだ!そんなの怖くないですよーだ!」

 

「ちょ!?そら!挑発は不味いって!?」

 

「ならお望み通り、お前からだ!」

 

黒猫の影から腕のようなものが飛び出し、それはそらへ目掛け飛んでいく。しかしそれはそらをとらえる前に何かに弾かれた。そして同時に黒猫突如として現れた光る球体に閉じ込められた。

 

「何!?」

 

「はっはっは!かかったなまーぬーけー!私がいる以上そらに手を出させるわけないでしょうが!」

 

「いえーい。私の演技も悪くないよねー?」

 

「え!?そんな打ち合わせしたっけ!?」

 

対誘拐用のプログラムを発動させ、そらを守り同時に拘束プログラムを起動させて黒猫を捕縛させた。一切の打ち合わせなしのそらとえーちゃんによる阿吽の息による行動だ。その自然な流れにもちは目をパチクリと瞬きさせた。

 

「クソっ!だが、これぐらいならすぐに抜け出せる!」

 

「バーカ、数秒あれば十分なの!」

 

「あとは任せたよ、ばあちゃるさん!」

 

「お任せフゥ――――!!」

 

そう声を上げる唯一の男性へ黒猫は視線を向ける。いつの間にか少女をもちに預け、上着を脱いで軽くネクタイを緩めている。それは動きやすいようにしていると分かった。そして自身の状況を確認する。少し離れているが背には魔女の家、正面にいるばあちゃるとの距離は約5メートルと助走つけるに丁度いい距離。そして自分が入っている球体はサッカーボールと同じくらいの大きさだ。これにより導き出された未来の姿を黒猫は理解した。理解してしまった。

 

「ま、まて!?」

 

「ばあちゃる君もね、実はかなーりおこっだったりっするっすよ。だから、手加減はなしで逝くっすよ!」

 

大地を踏み出し、力強い足取りで助走をつける。それは猫の姿のため通常よりも何倍も大きいばあちゃるが迫ってくるのは確かな恐怖を黒猫は感じた。そんな黒猫の心情などしらんと言わんばかりに足を思いっきり振り落とした。

 

「ばあちゃる君んンンン!!シュートォ!」

 

力強い叫びと共に黒猫の入った球体の檻は蹴り飛ばされる。悲鳴も上げれないほどの衝撃と共に球体は魔女の家の二階の窓から部屋に入っていった。

 

「ナイスシュート!」

 

「フィニッシュは任せたっすよ!もちもち!」

 

「任された!つぶ貝!」

 

もちの呼ば声に『ゲコ!』と返事を上げ、鞄からカエルのつぶ貝が現れる。そしてエレンだった少女に視線を送る。

 

「え、な、なに?」

 

「つぶ貝があなたにリンクを飛ばしてるだけだから心配ないよ。それとここからはあなたの力も貸してほしいの」

 

「わたしも?」

 

「難しいことはないよ!つぶ貝があなたにワードを送るからそれを私と一緒に詠唱してほしいの。そうすればあの因縁の家とはオサラバできるの!」

 

その言葉に禍々しい色をする館に視線を向ける。家の存在に黒猫の脅迫に恐怖心しかなかったが今は違う。力強い味方がいるとわかると今まで自分を虐げてきた家にやり返したいという小さな復讐心が胸に湧いた。

 

「うん!やる!」

 

「オッケ―!つぶ貝、よろしくね!」

 

そして少女はもちと並ぶように立ち上がる。久しぶりの大地の感触に少し感動を覚えるがすぐに持ち直す。そしてつぶ貝から送られてるワードをもちと合わせて詠唱を開始する。

管理者である黒猫が檻に閉じ込められた今、このワールドの権限は主である少女と統括AIであるつぶ貝へと移行する。

そして主である少女とつぶ貝に権威の使用を許可されたもちが同時に権限をフル活用すれば制限のない違法ワールドであるここでなら、なんでもできる。そう、文字通り『なんでも』だ。それこそ、もちが愛読する漫画の術だって使用ができる。

 

「「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ 破道の九十 『黒棺』」」

 

詠唱完了と同時に魔女の家は漆黒の棺のように包まれる。そして棺の中で何かが押しつぶされる大きな音が鳴り響いた。

 

「はっはっは!これが完全詠唱の『黒棺』だ!君ごときでは理解する事すらできまい!!」

 

「もちちゃんノリノリだー!」

 

「え、あれ完璧に押しつぶれてる感じですよね?流石にヤちゃってないですよね?」

 

「はいはいはい。一応、統括AIが間に入ってるんでね、大丈夫っすよ。…けどあの感じ、統括AIもかなーりおこだったみたいっすね、えぐー」

 

「馬ー!もちちゃん!どこにいるのー!?」

 

やったことがとても同情できることではないのでばあちゃるは形だけの同情を送る。そして反対側の森から自分たちを呼ぶ声が聞こえる。えーちゃんが家にハックをしたと同時に外部に救難信号を飛ばしたので、それを頼りに応援がきてくれたのだろう。そして自分を呼ぶ、愛おしいその声に返事をしようと声を上げようとした。が。

 

「ばあちゃるさん!?」

 

緊張の糸が抜けたかのようにばあちゃるはそのまま倒れる。三人ともばあちゃるに駆け寄る。そしてそこには寝息を立てる姿が確認された。

 

「寝ちゃってる?」

 

「みたいね。シロさんの声が聞こえて安心して力が抜けちゃったのかしら?」

 

「今日は一番頑張ってたもんねー」

 

寝息を立てるばあちゃるにホッと、肩の力が抜ける。もちにとってそれが緊張の糸が切れるきっかけだった。力を抜けながら、もちはそのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

「あ、起きましたか?」

 

もちが意識を取り戻すとそこは知らない天井だった。そして横にいるのは金髪ロリのツインテ少女は、自身が動画を上げる際などに力をよく借りる縁の下の力持ちのメンテちゃんだ。少し混乱する頭で外を見る。既に日は落ちており、綺麗な星空を描いていた。

 

「えっと、私は?」

 

「もちさんはあの後倒れてここに運ばれたんですよ」

 

「あ、そっか。私、気絶したんだ」

 

脳内に未だにある霧を振り払う様に頭を振る。徐々にはっきりしてくる意識にここは病院だと気づく。

 

「私、どれくたい寝てたの?」

 

「一日もたってないですよ。時間で言うと、大体11時間くらい寝てましたね」

 

時計を見ると針が指す時間は10時半。攫われたのは7時前後だとして逆算すると救援が来たのは11時頃。ならおおよそ4時間ものの間、あの『魔女の家』に捕らわれていた計算になる。体感ではその倍は滞在していた気がするもちはその短さに驚いた。

 

「後日でいいので、皆さんにお礼を伝えてくださいね」

 

「え?」

 

そういってメンテちゃんは廊下に繋がる扉を指さす。長時間の睡眠に体が思うように動かないが踏ん張って立ち上がり、扉を開けて廊下に出た。

 

「うわ」

 

そこには自分を除くアイドル部が全員が座った状態で眠りに落ちていた。すずとイオリは肩を預け合い、ピノはいろはに抱きしめられている。なとりに至ってはもっとも扉に近い位置を陣取って眠っていた。あまりの状況に言葉が出ず、メンテちゃんに視線を向ける。

 

「皆さんとっても心配してましたよ。とても配信できる状態ではなかったので夜の配信はおやすみにしましたらこの状態で『帰らない』の一点張りで」

 

「みんな」

 

心配させてしまった罪悪感以上に湧くのは愛されているという喜びだ。涙を出さないように堪えるが、一滴二滴と小さく流れた。

 

「あ、プロデューサーちゃんは!?」

 

「ばあちゃるさんなら反対側の個室ですよ。瞬間移動などの能力を多用しすぎた原因の過労でしょう。少なくとも明日1日はベットから絶対に出させません」

 

涙を拭いながら一緒に脱出したはずのばあちゃるの安否を心配しての問いの答えは思った以上に重傷というものだ。青い顔をするもちにメンテちゃんは慌てたように付け足す。

 

「あ、外傷などはないのでほんとに休憩させれば回復しますよ。もともと有給も貯まってましたし、ちょうどいいと思います」

 

「はは、そうだよね。プロデューサーちゃん、ずっと仕事してたし、ちょっとは休まないとね」

 

その後、まだ本日中にまとめなければいけない案件があるようでメンテちゃんは一、二言話して立ち去った。メンテちゃんが立ち去ったのを確認し、もちは音を立てず部屋を出て、対面の個室に入室した。室内は電気がついており、ベットに眠るのはいつもの馬のマスクを外したプロデューサー、ばあちゃるの姿とともに、先程まで看病していたのだろうと思われるシロがベットに頭を枕にして眠っていた。

 

「ふふ。愛されてんじゃん」

 

いつも邪険に扱っているシロがもっともばあちゃるに近い場所でいる。その光景はもちにとって、とても尊いものであった。そんなシロの邪魔にならないように、シロとは逆側に立つ。

 

「プロデューサーちゃん」

 

名を呼び、その頬を撫でる。既に半日以上たっているその頬にはチクチクと髭が指をくすぐった。それは未知の感覚でもちは小さく驚いた。

 

「今日は本当にありがとうね。プロデューサーちゃんがいなかったか私、きっとダメだった」

 

それは嘘偽りない本心だ。森の中でばあちゃると再会して、魔女の家を探索している時、そして犯人である黒猫と対峙していて少しも恐怖心を湧かなかったのは近くにばあちゃるが立っていてくれたからだ。それはいつも配信や動画投稿するときも同じであるともちは改めて再確認できた。

 

「最高にかっこよかったよ」

 

思い浮かべるのは今日のばあちゃるの雄姿。言動はいつも通りであったがその行動は常にもちやそらたちを守るために立ちまわっていたことを理解していた。そしてその安心感はやはり凄まじいもので私を含め、全員が不満を言わずに攻略できたのは間違いなくばあちゃるの功績だ。

 

「こんなの惚れ直すに決まってるじゃん」

 

自身の発言に頬を赤くする。彼に恋心を抱いたのはいつだったかは既に覚えていない。ただ、彼が常に自分の背中を押してくれる。肯定してくれるだけでもちは強くなれると確信していた。感謝と、そしてそれ以上の愛情をこめて、もちはその唇を重ねた。

 

 

 

 

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