ヤミヤミの桜   作:超高校級の切望

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二人の指南役

「ここが他の島かぁ、ドラム王国とは全然違うんだね」

 

 シトナイが砂をサラサラとすくっては落としてを繰り返していた。冬島出身だもんな、乾いた砂を見たこと無いのかもしれない。

 ちなみにシロウは直ぐ近くにいる。シロクマだからな、ここは暑いし、氷結人間のシトナイの側にいた方が良いのだろう。ちなみにシトナイはひんやりしていて暑い夜は抱き枕にぴったりだったと補足しておく。

 

「クオゥ!」

「ん?わ、何あれ可愛い~」

 

 と、不意に飛び出してきた亀の甲羅みたいなのをつけた小さなジュゴンっぽいのを見つけて駆け寄るシトナイ。あれ、あの珍獣って………

 

「クオォ!」

「きゃあ!?」

 

 いきなり襲いかかってきた珍獣。とっさに剣を抜き防御するシトナイ。子供で小柄とはいえ自分よりでかいシトナイに襲いかかったこの珍獣の名は、クンフージュゴン。

 

「それ、結構強いですよ?」

 

 じっさいシトナイ少し足が浮いていた。

 

「グオゥ!」

「クォ!?クオォン!」

「ガウ!?」

 

 シロウがキレて襲いかかるが流石はクンフージュゴン。爪をかわし顎に一発。シロウの体が大きく仰け反る。

 

「シロウ!?もう、怒ったんだから!」

 

 と、シトナイは何やら赤い丸薬を取り出しシロウに向かって投げ、シロウがそれを飲み込む。ランブルボールかな?それともシロウが赤くなるのか?

 ワクワクしてたらシトナイはクンフージュゴンを剣の腹で殴りつけ浮かせる。シロウは大きく息を吸い込み、吹雪を吐き出した。

 

「………へぇ」

「ふふーんだ!見た!?シロウの特技!私の血を媒介に作った薬で、一時的に能力者みたいになれるのよ!」

 

 凍りついたクンフージュゴンを背に此方に振り返りふふん、と薄い胸を張るシトナイ。この子やばい。何がやばいって、人工悪魔の実の研究してるドフラやガス、それ買ってるカイドウに知られたら誘拐間違いなしって事実がやばい。

 まあでも、この不思議世界なら吹雪吐く熊なんてそこまで気にされないか。クンフージュゴンなんて珍妙な生き物も居るし海王類なんて生物の原則に逆らったような巨大な怪物もいる世界だしな。

 

「でも、それをあまり公言しては駄目ですよ?」

「え、どうして?」

「捕まって変な男に変なガスをかがされて、何でも言うこと聞く人形にされちゃいます」

「ええ!?わ、解ったわ。仲間以外に誰にも言わない…」

 

 と、砂漠の気候で溶けやすい氷がピシリと砕ける。ジュゴンのような見た目だが砂漠だらけのサンディ島に住む生物。寒さに弱いのか暫くガチガチ震え、警戒するシトナイにゆっくり近付くと両手……両鰭を広げお辞儀する。

 

「クォゥ!」

「……へ?何、今度は……」

「クンフージュゴンは自分を負かした相手に弟子入りするんです。さらなる強さを求めて」 

「何その求道者精神!?」

 

 シトナイが距離を取ろうとすると普通について来る。仕方ないのでシロウを呼び食料をやるから離れろと伝えさせる。シロウは人の言葉を理解するからな。こっちは理解できないけど、シトナイならだいたい解る。

 交渉の末三日分の食料を与えた。

 

「…ご飯で離れるなんて、意外と俗物?」

「んー、結局は野生動物ですし、餌をとるために強さを欲してたんじゃありませんの?」

 

 メアリーとアンがそんなクンフージュゴンの生態について話していた。泣く泣く俺たちを見送るクンフージュゴンに手を振り、街を目指す。

 

 

「───っ」

 

 不意に俺が立ち止まる。アンとメアリーもマスケット銃とカトラスを構え、シトナイが首を傾げるもシロウが唸り出すと即座に剣を抜く。

 ボバッ!と砂の中から槍を持ったクンフージュゴンが二匹、無手のクンフージュゴンが二匹現れる。

 

「クオォゥ!」

「クオォ!」

 

 ヒュン!を槍で付いて来るクンフージュゴン。速いっ!首を逸らし回避し、黒帯を放つ。二匹目が槍を回転させながら絡めようとしたので実体化から飲み込む闇へと変化させる。

 

「クオォ!?」

 

 能力者と戦うのは初めてか。このまま飲み込んで──

 

「クアン!」

「───ッ!?」

 

 無手のクンフージュゴンの一匹が拳………前鰭を放つ。黒帯を円を書くように動かし拳を受け流す。クンフージュゴンは大きく上に飛び、尻尾をググッと仰け反らせる。

 

「クゥククゥ!」

「───へ!?」

 

 尻尾から風の刃が放たれる。黒帯で防御し飲み込み、闇から逃れようとしているクンフージュゴンに向けて吐き出すが、今の、まさか──。

 

「この──!」

 

 と、アンが発砲する。普通なら野生の獣程度なら貫く威力がある銃弾だが──

 

「クックァイ!」

 

 が、ガキキィン!と鉄と鉄がぶつかったような音を立てて弾かれる。そのままピクリとも動かなかったので地面に広がっていた闇に飲み込んだが……。

 

「クアン!」

 

 と、残った無手のクンフージュゴンが再び放つ拳。今度は黒帯に飲み込もうとするが槍が二本向かってくる。先程逃した槍持ちのクンフージュゴン達の攻撃だ。俺自身を闇の中に沈め背後に移動すし、そのまま頭を掴み闇に押しつける。

 

「クオオ!」

「させない!」

「グオォ!」

 

 シトナイが氷の矢を連続で放ちシロウが爪を振るう。クンフージュゴンはクネクネと回避する。メアリーもカトラスを振るうがやはり避けられる。

 

「ホワイトショット!」

「クオ!?」

 

 拳を放ち、やはり回避されると同時に飲み込んでいた空気を放つ。予期せぬ広範囲に広がる衝撃バランスを崩すクンフージュゴンを帯で捕らえ闇に引きずり込み、中で圧力をかける。建物だって闇の中で潰すヤミヤミの実の力で押しつぶし、吐き出す。

 

「クオウクウオウ!」

「クウクウ!」

「「クオオ!」」

 

 と、傷だらけになりながらも逃げ出すクンフージュゴン。あっと言う間に見えなくなった。

 

「あれ、弟子入りしない?」

「どういうことですか?」

「……今の師匠が、私達より強いと言うことでしょうね……というか、今のまさか……六式?」

 

 六式?と首を傾げるメアリー。可愛いが答えるのは後だ。六式使いのクンフージュゴン。つまり、六式使いの師匠。

 俺は空飛べるけどアンやメアリーはもちろん泳げないシトナイにも月歩覚えさせたい!というわけで彼奴等を追うぞ!

 

 

 

 そこで見つけたクンフージュゴンが師事する二人。どうみてもケイローンとカルナだ。是非仲間に加えたい!此奴等いれば新世界でもやってけそうだしな。

 と、そんな二人を観察していると先程のクンフージュゴンがクォクォ二人に縋る。と、ケイローンの視線が此方に向いた。

 

「それは彼処に隠れている者達ですか?」

「「「───ッ!!」」」

 

 気配を消していたつもりだったがあっさりばれた。まあ俺は予想の範囲だけど三人は驚いていた。取り敢えず前に出る。クンフージュゴン達が警戒してくる。 

 

「私の弟子が迷惑をかけたようで、申し訳ありません」

「───いえ、クンフージュゴンの性質は知っていたのに縄張りに近付いてしまったのは此方ですから」

「いえいえ、旱魃の影響で海水が逆流して、彼等の住処も広がってますから仕方ないですよ」

 

 にこやかな笑みを浮かべるケイローンらしき人。無手のクンフージュゴンの師事してたのはこっち………。

 

「あなたがクンフージュゴンに六式を教えたのですか?」

「おや、六式を知っているのですか?」

「ねえサクラ、さっきも言ってたけど六式ってなんなの?」

 

 六式という単語に反応するケイローンとクイクイ袖を引っ張ってくるシトナイ。不思議そうなシトナイにケイローンが答える。

 

「六式は海軍に伝わる武術です。指銃、鉄塊、紙絵、剃、月歩、嵐脚……これらを総じて六式。すべて使える者を「六式使い」と呼び、海軍でも使えるのは本部の中尉や少尉以上が殆どですね」

「へぇ、船長はそれを知ってたんですね」

「船長、物知り……ん?海軍?」

 

 と、メアリーとアンが僅かに警戒する。

 

「……それで、私に何か?私の弟子達を見て、師が気になったのでしょうが……」

「あ、と……すいません長々とお話ばかり。まずは自己紹介を……私はクロ・D・サクラと申します」

「………D?」

 

 と、ケイローンが僅かに反応した。が、直ぐに笑みを浮かべ直す。

 

「私はケイローン。元海軍所属で兵の育成をしていました。今は退役して旅をしていますが………ああ、ちなみに彼はここサンディ島で知り合った───」

「カルナだ」

「「「……………」」」

「……………」

 

 三人ともえ、それだけ?と言いたげな顔してるな。それだけだよ、この人は。そういう奴だ。

 

「あ、えっと……シトナイです」

「リード・メアリー」

「ボニー・アンですわ……」

「私達四人はつい最近海賊として旗揚げしたのですが数も四人で実力も伴っておらず、クンフージュゴンに彼処まで武を教えたあなた達に仲間兼指南役になってもらえると助かるのですが……」

「「「───!?」」」

 

 後ろで三人が驚いた気配が伝わる。まあ元海軍を海賊に誘っているわけだしな……。

 

「サクラが男の人を誘った!?」

「私やメアリーを見る目がたまに男が私達を見る目でしたし、そっちの趣味なのかと」

「全部女の子で構成すると思ってた」

 

 おいこら。

 ケイローンは楽しそうに笑っていた。

 

「面白い方達だ。それに、元海軍の私を物怖じせず誘ってくるとは……しかし、やはり海賊を育てるというのは」

「私は基本略奪はしないつもりです。お金はお宝を探す方が良い……略奪するとしても、それは同業者のみに限定するつもりです」

「海賊らしくありませんね。いっそ冒険家と言われた方が納得できますが」

「冒険家では皇帝を名乗れないでしょう?」

「ほう、貴方はあの高みに至る、と?彼等は並の実力者ではありませんよ?」

 

 興味深い、というように此方を見るケイローン。そして、追加で聞いてくる。

 

「しかし、王は目指さないのですか?」

「海賊王には別の者がなりますよ……私自身は、それほど興味は………まあ、私は彼を愛してますから、彼が海賊王になった姿を見たいというのもありますし」

 

 一読者として、キャラ達を愛する身として、ルフィが海賊王になる瞬間はこの目で見てみたい。大好きなキャラだしな。

 

「なるほど、やはり面白い人だ………略奪をしないというなら、私自身断る理由はないのですが…………ええ、海軍の英雄の後は海賊の英雄を育てるのも一興ですかね」

 

 おお、乗ってくれた。となると後はカルナだが………

 

「俺は断る。行くなら、お前だけでいけ。十分だろう」

「…………………」

 

 

 

「全くなんですのあの態度、もう少し言い方というものがあるでしょうに」

 

 カルナの先程の態度に不機嫌なアン。俺はその間に食料を買いあさる。シロウが荷物持ちを手伝ってくれた。いい子だ、後で鮭やろう。

 

 

 

 

 食料をクンフージュゴンに渡す。

 

「これでついてきてくれますか?」

「良いだろう。もとより俺も、力を貸して欲しいと乞われ断るのは本意ではない」

「「「………え?」」」

 

 カルナの対応の違いに困惑する一同。ケイローンは解っていたのか相変わらずにこやかな顔だ。

 

「えっと、だってさっき断るって……」

「今、俺は彼等に教えを乞われていた。俺はケイローン程指南が得意というわけでなし、彼等が望むほどの強さをまだ与えられていないからな」

「つまり、自分はクンフージュゴン達を鍛えなきゃいけないから、ケイローンさんだけ行ってくれ、と?」

「それで、ケイローンは教えるの上手いから僕たち全員教えるのに十分、と?」

「ああ。先程もそう言ったろう?」

 

 言ってねぇよ。たぶん、俺以外の全員もそう思ったはずだ。

 

「それで、次はどこに向かうのですか?」

「空島を目指そうかと思ってます」

「空島ですか……良いですね。彼処は空気も薄く、鍛えるのには最適かと」

 

 そういえばこの人の鍛え方ヤバかったような………。いや、たぶん死なないよね?この人の場合死ぬ気でやれば死にませんよ、とか言いそうなんだけど。

 

「空島?驚いたな、そのような夢物語を信じている者が居るのか」

「馬鹿だと思いますか?」

「まさか。俺はまだこの世界の全てを見たわけでなし、たとえ他者に笑われるようなことであろうと、己が信じたことを信じていると貫く者を馬鹿になどできまい」

「今の馬鹿にしてたんじゃないんだ……」




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