今日は恒例となっているナルトの家へ泊りに行く日である。
一晩泊まるだけなので軽い荷物だけでいい。
私は自分の部屋を出て台所にいる母さんに声を掛けた。
「母さーん、ナルトのとこ行ってくるよ」
「気を付けて。ナルト君によろしくね」
父さんはナルトを快く思っていないので私が泊りに行くことも気に入らない様子だが、これは私の意思でやっていることでうちはとは関係ない。なのでこの件に関しては譲らない。その点、母さんは理解ある人で助かった。最初こそ驚いていたものの、結局九尾に原因があるのであってナルト自体は素直で元気な少年と知ってもらえたことにより偏見するようなこともなかった。
「わかった。サスケは?」
「もう玄関で待ってるわよ」
いつも準備は素早い子だけど今日はいつもよりも早いわね。
「ありがと。行ってきまーす」
私はお礼を言って玄関へと急いだ。ちょっと背伸びしたヒールが高めのサンダルを履いて玄関のドアを引くと、背中にリュックを背負ったサスケが立っていた。
「行こうぜ、姉ちゃん」
「もう。そんなに急がなくてもナルトは逃げないわよ。ホントにナルトが大好きなのね」
「違うから!」
「ムキになるのが怪しい」
「あーもう!行くぞ!」
にししと含み笑いする私の手を取ってサスケは誤魔化すように歩き出す。引っ張られる速さで歩かれるので「ちょっと早い」と文句を飛ばすとサスケは「あ」と気が付いてゆっくり歩いてくれる。
ご近所さんでは仲良し姉弟と微笑ましがられているが、
いつも手を繋いで歩いている、というわけじゃないけどスキンシップとしてサスケは私に触れたがる。人前を気にしない大胆な性格で割と堂々としているから私も慣れた。むしろ意識して距離を置こうとすればサスケは、今にも捨てられる子猫のように「……なんで離れるんだよ」と泣きそうな顔をする。
これはかなり胸を突いた。
キューンではなく、ドきゅーんだ。
私は速攻に「ゴメンね!ちょっとイライラしてたの」と抱き着いて誤魔化すしかなかった。まさか弟離れって必要なのかと実践してみただなんて言えないじゃない。
サスケだから為せる技ともいえる。
昔から積極的だったけどやっぱりアカデミーじゃかなりモテるらしい。これは未来の嫁候補を探すチャンスかもしれない。
夜にナルトを交えて好みのタイプの女の子でも探ってみるか。
「ナルトん家に荷物置いてからナルト誘って買い物に行こうね。今日は何しようかな」
「俺肉じゃががいい。姉ちゃんの美味いから」
「ナルトの意見も聞いてからね」
「……っチ……」
「コラ舌打ち」
「フン」
反抗期突入なのかと禿げになりそうなくらい悩んだけど母さんにしてみれば、私限定だそうだ。でも結構悩みすぎて五円玉ハゲが出来たときは泣きそうになった。
サスケはハゲようが何だろうが姉ちゃんは姉ちゃんだと励ましてくれてマジ私の弟天使!と拝みたくなった。
◇◇◇
ついこの間まで一緒にお風呂に入っていたのについに「もう入らない!」とサスケに拒否されてしまった。
サスケ曰く、「男は皆狼なんだぞ。………俺だって男だし」って。
頬赤く染めてさ。もう、気になる女の子が出来る年頃なのねってついため息ついちゃった。
でもナルトはあんまり気にしてないみたいだからこの間の泊まった時に一緒に入ろうとしたらサスケがスゴイ形相で俺が一緒に入るって素早い動きでお風呂場にナルト引っ掴んで行っちゃった。
男同士の友情を風呂場でも感じていたいだなんて。
本当二人は仲がいいわ。お姉ちゃん、焼きもち焼いちゃうぞ。
ナルトの家に着いた私達は満面の笑みで出迎えてくれたナルトを引っ張って買い物へと出かけた。
「ナルトは何が食べたい?」
「肉たっぷりの肉じゃが!」
ナルトの意見も肉じゃがだった。以心伝心かしら。まぁ、好評なのは私も嬉しい。普段よりも多めに食材を買った。一人暮らしできっと栄養バランスが偏りがちなナルトの為に一週間分作って置くためだ。……本当、里の未来ある子供を一人暮らしさせるなんて火影っていうのはどういう考えでさせてるのかしらね。
夕暮れ時の帰り道、ナルトとサスケに荷物持ちをしてもらって大助かり。私は軽い子袋だけ持っている。
「ヒカリねーちゃん、それも俺が持ってやるってばよ」
「え、いいわよ。もうナルト両手一杯じゃない」
「いーの!俺が持ちたいんだって」
「えー、別にいいのに」
「姉ちゃん、俺が持ってやるよ」
「いやサスケももう両手塞がってるよね?」
「あぁ!俺が持つって」
「いや俺が!」
二人の言い合いが始まると終わりが見えないのでさっさと立ち止まる二人を置いて歩き出した。すると慌てて二人が追いかけてきて小さく笑ってしまった。
こういう時男の子がいると頼もしいなって思う。ヤバイ、気持ちはオカンの気分だ。
散らかっていた部屋をナルトとサスケで片づけさせて私は準備に取り掛かる。
夕食作りの時も二人は積極的に手伝ってくれた。まぁ、包丁使うのは私だけど混ぜたりお皿並べたりするのは二人でもできるからね。二人のリクエストで作った肉じゃがはあっという間にお代わりをされて無くなってしまった。お弁当の分取り忘れた。ま、いっか。明日は別のにしよう。
夕食の席でナルトは米粒飛ばしながら一代決意に立ち上がった。
「ヒカリねーちゃん!俺は火影になるってばよ!」
箸をグッと握りしめて席を立ちあがったので軽く窘める。
「そっか。目標は大きい方が良いね。頑張れ。そしてさっさと座りなさい」
ナルトはすぐに座りなおした。サスケは「ドベが」と冷めた視線を送る。
「ヘヘッ!そしたらヒカリねーちゃんを火影の嫁にしてやるぜ」
「は?」「な!」
胸を張ってどこか偉そうに笑みを浮かべるナルトはそう言って漬けておいたたくわんを口に放り込んでバリバリ噛む。そしてぐっと飲み込んでから理解できずに置いてけぼりの私とサスケに言い直す。
「だから火影の嫁!超最強の火影の嫁だってばよ」
「……なんで私?」
ナルトの夢は理解できたけどそこでなぜ私が嫁にならなくてはいけないのか全く意味がわからない。怪訝な顔で私は箸をテーブルに置いてサスケが「ん!」とお代わりと差し出したご飯茶碗を受け取ってご飯を盛りに行く。
「ハァ!?そんなの俺がヒカリねーちゃんを好きだからに決まってるじゃん」
鼻先を指先でこすって照れながら言うナルト。
これは告白というものか。いや、でもナルトに限ってそれはないか。私はご飯を盛りながら淡々の言い返す。
「家族の、でしょ?それに悪いけど、私火影って大っ嫌いなの」
「え!?」
驚いて箸を落とすナルトを一瞥して「はい」とサスケに並々に盛られたご飯茶碗を渡す。
そしてしっかりとナルトに言い聞かせるように彼の目を見て話す。私が火影を嫌う理由は打ち明けずに。
「ナルトの夢は応援するわ。けど火影の嫁ってのは辞退する。他に可愛い女の子がいるじゃない。たとえば、そう、ヒナタちゃんとかサクラちゃんとか」
「嫌だ!俺はねーちゃんがいいんだって!」
ダンッ!とテーブルを叩いてナルトは身を乗り出してくる。茶碗が空で良かった。今の揺れで倒れてしまったから。
「だから私は火影嫌いなの。火影の嫁なんてもっと嫌」
「そんなー」
そんな中、静かに食していたサスケが自身の茶碗と箸をテーブルに置いた。もう空だわ。
「ナルト、表出ろ」
そう殺気を込めた声音で手裏剣を三枚くらい投げる。だがそれがナルトへ到達する前に私がお鍋の蓋で防ぐ。グサッ!グサグサと刺さる手裏剣にもうこれ使えないわとため息をつきたくなった。
「サスケ!部屋の中で手裏剣投げちゃ駄目って言ってるでしょ?」
「姉ちゃんは黙ってろ。ナルト、さっきの撤回しろ。お前に姉ちゃんを嫁になんかやるか!」(嫁にするは俺だ)
「ハァ!?上等だってばよ!相手なってやるぜ」(弟にしか見られてない奴に言われたくないってばよ!)
「アンタ達、揉める話が違うでしょ!私を争いの元にするなっ」
私の制止を振り切って二人は目にも止まらぬ速さで玄関を素足で飛び出てご近所迷惑な喧嘩を始めた。しかも人様のお宅の屋根に上がってクナイ構えて手裏剣投げて体術交えての肉弾戦。術を使わないだけマシだったけど最終的に私が、
「お色気の術!ボディービルダーver」
を実行したのでボディービルダーの黒光りした肌とプーメランパンツに当てられた二人は
「「グ八ッ!!」
と同時に血反吐を吐いて倒れた。
恐ろしいボディービルダー悩殺ポーズ。小娘には到底真似できぬ領域である。
というか性別が違うかとズルズル気絶した二人の首根っこ引っ掴んでアパートに戻った。
私と修行して大分成長してるなと感じたけど、今の戦い方で二人の実力を思い知らされた。この子達、下忍のレベル超えてるわ、と。
一連の騒動の件はやはりカカシ先生のお耳に入ることとなり、責任を取らされることになった。
二時間先生のお部屋で正座しながら反省の文章を延々と繰り返し書かされるの罰をくらった。理不尽すぎる!
「それで今回は何が原因であーなったの」
「ナルトが火影になるついでに私を火影の嫁にするって宣言してサスケがキレました」
「……ふーん……」(まぁ大体予想通りの展開だけど、なんか面白くないねぇ)
机の前で正座してひたすら同じ文章を書いている私の後ろで椅子に座り監視を続けるカカシ先生は唐突に私の髪に手を伸ばしてきた。
「なに、くすぐったいですよ」
「いや、髪綺麗だなぁーと思って」
「髪は女の命ですからね。気遣ってますもの」
指で遊ばれる髪先が揺れるたびにくすぐったさが生まれる。目の前の作業に集中しようにも乱されてばかり。
「カカシ先生、邪魔しないでくださいよ」
「いやー、癖になりそう」
「あのねぇ、先生ってば」
いい加減やめろと抗議しようと振り返れば意外とカカシ先生と距離は詰められていた。いつの間にかすぐ後ろにカカシ先生はしゃがみ込んでいて目と鼻の先にすぐマスクをした顔がある。私は目を瞬かせて固まってしまった。
「………」
「いやー、よくよく見るとヒカリ可愛い顔してるね」
ニッコリと微笑まれ私は照れくささから顔を逸らす。
「……それはどうも。てか顔近い」
片手で先生の口元を押しやって退かそうとするけどその手を大きな手で取られた。私は驚いて息を呑み、逸らした視線をカカシ先生へと向ける。
「っ!」
「いつも大人を揶揄うからお返しだ」
そう言ってカカシ先生はマスクをゆっくりと外して驚く私の頬に触れるだけの優しいキスをした。端正な顔立ちで私を見つめる視線は男の表情だった。
でもあっという間に『先生』の顔に戻る。その動作一瞬のことでキスされたと気づくまで数秒を要し、我に返った頃慌ててカカシ先生から机を乗り越えて後方に飛びのいてしまった。
「………ハッ!?セクハラっ!」
「はいはい。しっかりやろうね。まだ一時間あるから」
自分でやっておいて私の動揺など構わずにまたカカシ先生は椅子に座っていつもの愛読書に耽る。私は腹立たしさと恥ずかしさからその場に地団太を踏んだ。
「悔しい――!」
「初心だね~」
「キィ~」
大人の余裕ってものを思い知らされた。
(まだまだ気分は子供だけどいつか絶対仕返ししてやるんだから!)
(うーん、微妙な距離だな。なんだろ、これ)