君の為に変革す   作:サボテンダーイオウ

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うちは残虐事件から一夜明けて。


想いと殺意

ナルトside

 

朝、サスケを迎えに行くのはいつものオレの習慣だ。

っつても今日はアカデミー休みだしな。いつもの日課の修行の誘いってばよ。

 

サスケは鬱陶しそうにしてるけど迎えに来るなとは言わないし、ヒカリねーちゃんだってサスケもまんざらでもないからって言ってくれる。

おばさんも他の奴らと違ってオレに優しいし、イタチにーちゃんもたまに修行を見てくれるし。……おじちゃんはいつもオレを見ると不機嫌そうに顔を歪めるけど、ついこの間家に遊びに行った時におじちゃんと玄関でばったり会っちまった。オレはゲッと顔を歪めてなんて言おうかと焦った。でもおじちゃんはオレを一睨みして素通りしていった。

 

あ、いつも通りの反応なのね。

ガクッと肩を落とすオレの背中におじちゃんは予想外に

 

「イタチが見ていないからといって修行を怠けるんじゃないぞ」

 

と激励の言葉をくれた。聞き間違い!?と驚いて振り返るとおじちゃんはもう姿を消していた。……サスケと同じで素直じゃねーの。でも悪い気はしなかった。褒められるって嬉しい事だって、自分で体験してみて初めて分かった。

 

ヒカリねーちゃんと出会ってからオレは一人じゃないってようやく思えた。

それはヒカリねーちゃんがそう言ってくれたから。

 

『ナルト、泣きたかったら泣いていいんだよ。一人で抱え込まないで。一人では潰れてしまうから。だから私かサスケを頼って。私はナルトのおねーちゃん代わりでサスケはナルトの一番の親友で永遠のライバルでしょ?ほら、ナルトが考えるよりも一人じゃなかったね』

 

ヒカリねーちゃんはオレを太陽みたいだって褒めてくれる。

 

でもオレにしてみればヒカリねーちゃんの方が太陽だってばよ!

 

だって大人だってオレを無視して同年代の奴らだって意地悪してきてたんだ。里の連中はオレを疎ましいって思ってたから。でもあの日、ヒカリねーちゃんにいじめから助けてもらってオレは初めて人の温かさってこんなに胸に沁みるんだって思えた。

あの時からオレの中じゃヒカリねーちゃんこそ、太陽……っていうか、光だな。

 

へへっ、なんか今更だよな。オレ、ヒカリねーちゃんを火影の嫁にするってサスケの前で宣言しちまったし、自分の気持ちちゃんと認めるってこんなにスッキリするんだ。

もしヒカリねーちゃんと出会えてなかったらゾッとするってばよ。そんな暗い未来考えたくもねーぜ。

 

背筋が寒くなってオレはぶるりと身震いをした。

 

「あー、なんか寒いな……」

 

いつもの慣れた道を行くとうちはの区域に掛かる道が里の警備の忍びがいて塞がれていた。

小難しい顔したオッサン二人がオレがやってくるのを見ると、分かりやすく不快感を露わにして仁王立ちしてオレの行く手を遮る。うわ、隠す気もねーってばよ。

 

「おっちゃん達、オレこの先に用事があるんだってばよ。通してくれ」

 

「無理だ。さっさと帰れ」

 

「ここは封鎖領域になっている。火影様の御許可なくば立ち入りは許されん!」

 

手で追い払う真似をしやがって。オレ犬じゃねーし!

 

「はぁ!?いつから火影のじっちゃんがそんなこと決めたんだよ!」

 

「お、おい!火影様をじっちゃんなどと不敬な事をっ」

 

「いいから退けってばよ!」

 

「ま、待て!」

 

へんっ!ヒカリねーちゃんに鍛えてもらったオレがそう簡単に捕まるかっての。

オレは追っ手を完全に振り切ってサスケの家を全力で目指した。

 

その時、ある違和感が気づいた。住宅街なのに、人の気配が一切しないなんておかしい。

ヒカリねーちゃんと山で鬼ごっこしてる時と同じ気分になる。あの時はヒカリねーちゃんがある一定範囲内を結界張ってたからオレとヒカリねーちゃんだけっていう極限状態の中でやってたけど、そこと似たような感覚になる。

 

生活音が一切消えて自分の走る息遣いと鼓動と足音だけが静寂の中を進んでいる。

 

ここって、こんなに静かだったか?

 

あと、鼻先を生臭い異臭が霞める。それはドンドン匂いが広がってオレは手で鼻先を覆わなきゃ進めないくらい広範囲に広がっていた。

 

どうしたってばよ、なんか変だ。

 

ド、ド、ド。

 

玄関先でオレは声を張り上げる。

 

「サスケー!ヒカリねーちゃん!」

 

通いなれたサスケの家はもぬけの殻だった。

人の気配が感じられなくて、急に不安になって勝手に玄関に手を掛ける。

 

「おばちゃーん?」

 

いつもなら真っ先におばちゃんが笑顔で出迎えてくれるのに、いない。

でも石畳の上に靴はある。おばちゃんのとおじちゃんのだ。ヒカリねーちゃんのもある。サスケのも。イタチにーちゃんのだけないな。

 

「おはようってばよー!」

 

再度声を張り上げても返事はない。オレは急に不安になって玄関から裏手に回ってみた。

いつもおじちゃんが手入れしてる庭は立派でオレもいつかこんな庭付きの家を建ててみたいってヒカリねーちゃんに話したことを思い出す。

庭先にも人気はない。ますます不安は増してばっかりだ。

 

「……お邪魔しまーす」

 

オレは結局上がらせてもらうことにした。ちゃんと靴は脱いで。

木目の廊下を歩いて、トイレの前、風呂場、おじちゃんの書斎の前を通った。そこにも人の気配がしない。っていうかこの家からも異臭がする。

 

「一体、なんだってばよ……」

 

異臭の所為で気持ち悪くなってきた。口元を覆って何とか居間まで向かってみた。

ドアを引いて開けると、そこが異臭の発生現場だった。

 

「うわっ!」

 

まず目に飛び込んできたのは、床に広がるどす黒い何かの塊。まるで風船か何かが弾けてあふれ出たようで不気味だった。壁にもその影響で飛び散った染みが点々と広がっている。

 

「………これって……」

 

床にしゃがみ込んで指先で軽く触れて見る。完全に乾いていてオレの指先には付着しなかった。けど匂いが。匂いがアレそのもので途端、オレはその場に腰を抜かしてしまう。

 

血だ。血が、この部屋一杯に飛び散っている。それも二人分。

 

誰かが殺されたんだ。

誰が?誰に?

 

そう理解すると同時にオレはヒカリねーちゃんとサスケを探しに転がりながらその部屋を飛び出た。二階へ上がる階段を這いずるように上がってヒカリねーちゃんとサスケの部屋を探し回る。

 

「ヒカリねーちゃん!サスケ!」

 

でも二人の姿は見つからなくてオレはもしかしてと最悪な結末を想像してしまう。

でもヒカリねーちゃんはなんか無敵っぽいしひねくれ者のサスケがそう簡単に死ぬわけない!と弱気なオレに喝を入れて家から飛び出て、うちはの住宅近辺を走りまくった。

 

そこで初めて気が付ついた。

 

オレ、さっきのおっちゃん達以外に誰とも会ってない。

 

日が昇り始めてもう時間は9時を回っている。それでも人っ子一人すれ違いさえできていない。

 

「ヒカリねーちゃん、サスケ……!」

 

また一人になった感覚が戻ってきてオレは情けねぇけど未知のど真ん中で膝を抱えて蹲ってしまった。

 

怖い。うずまきナルトを認めてくれた二人が消えてしまったら、オレはまた弱虫のナルトに戻っちまうのか。

二人に会えないのがこんなにも悲しく苦しいだなんて。

 

どれだけ自分にとってヒカリねーちゃんとサスケが大切な存在が痛感させられた。

 

そのまま小さくなっていても誰も助けてくれないのに、オレは心の中でヒカリねーちゃんを呼んだ。

 

助けて、ヒカリねーちゃん。

 

「……助けてくれってばよ……!」

 

その時、オレを呼ぶ聞き慣れた声がした。オレが一番信頼して一番安心できる声だ。

 

「ナルト!!」

 

「……え、……」

 

呆けるまま顔を上げるとヒカリねーちゃんが屋根の上から身軽な動きで音もなくオレの前に降り立った。

 

「ナルト、無事で良かった!警備してた人からナルトっぽい子がこっちに入ったって連絡もらったからもう慌てて飛んできちゃった」

 

「ヒカリ、ねーちゃん」

 

本物だ、本物だ!

 

オレはヒカリねーちゃんの胸に駆け寄って飛び込んだ。

ヒカリねーちゃんはオレをぎゅっと抱きしめてくれた。ぎゅうぎゅうに抱きしめて、安堵した声で「良かった、無事で」と心配してくれていたようだ。

 

オレは緊張感と不安から解放されたことで一気に泣いてしまった。鼻水も垂らしながらなのにヒカリねーちゃんはオレが服に顔を押し付けるのを拒もうとはしなかった。それどころか頭を抱き込んで本人が真っ平だと主張する胸に押し付けてくる。

 

「…う、うぅ……は」

 

「ナルト、ゴメン。不安にさせたね。とりあえず移動しようね」

 

ヒカリねーちゃんはオレの頭を撫でてから瞬身の術でうちはの集落から移動した。

 

◇◇◇

 

人気のない公園のブランコに座らせられてヒカリねーちゃんが自販機で買ってきた炭酸ジュースをもらう。けどオレは飲む気になれなくて手に持ったまま顔を俯かせる。

ヒカリねーちゃんが隣のブランコに腰掛けた。

 

「ナルト、家の中に、上がったね」

 

その言葉は確認でオレは黙って頷いた。

 

「忘れなさい」

 

その言葉にオレは反射的に顔を上げて、「なんで」と尋ねた。

 

「夜、眠れなくなるわ。忘れなさい。無理だったら幻術掛けてあげるから」

 

それはヒカリねぇーちゃんの優しさってやつだと思う。けどさ、状況が状況だろ?

なんでそんな他人事みたいに取り乱さないでいられるんだよ。

 

「ヒカリねーちゃん、なんか可笑しいだろ!?おばちゃんは?おじちゃんだっていなかった。サスケは」「サスケは別の場所で休んでいるわ」

 

「じゃ、じゃあイタチにーちゃんは!?」

 

「―——イタチは抜け忍となった。うちは一族を皆殺して逃走中よ」

 

『兄さん』と親しみを込めて呼んでいた相手を呼び捨てにしているヒカリねーちゃんの声は淡々としていてまるで感情を込めずにニュースの原稿を読んでいるみたいないい方だった。

 

「嘘だ」

 

「嘘じゃないわ。昨日、殺された」

 

誰が、とは言わない。けどオレには分かった。嫌でもわかっちまった。

 

「じゃ、あ、あの部屋の血は……?」

 

「………」

 

ヒカリねーちゃんは押し黙る。それが答えだった。

 

じゃあ、オレが触った、あれはもしかしたらおばちゃんの……!

 

そう認めてしまったら、気持ち悪さが込み上げてきてオレは口元を覆ってしゃがみ込む。

 

「……うっ、ゴヘッ……!!」

 

「全部吐きなさい。楽になるから」

 

「う、オェ……っ」

 

オレは胃の中の物を全部吐いた。吐き切って出し終わってもまだ吐き気は収まらず、涙目で苦しむオレの背中を黙ってヒカリねーちゃんは嫌がらずずっと落ち着くまでさすってくれた。

それからヒカリねーちゃんはオレを部屋まで送ってくれた。帰り際、ヒカリねーちゃんは

 

「ちゃんと休んでね。ちょっとゴタゴタして会いに行けないけどこれとりあえずの住所だから。サスケに会ってやって。暫くアカデミーは無理だから」

 

と一枚の紙をオレに差し出した。折りたたまれた紙を開くと二人が住む住所が書かれていた。

 

「なんか、ずいぶん『準備が良すぎる』って感じする」

 

「………」

 

オレの率直な言葉にヒカリねーちゃんは真剣な表情になった。

 

「ナルト」

 

「急に真面目な顔になってどうしたってばよ?」

 

そっと頭の上に手を置かれる。

 

「貴方は私やサスケの想いに引きずられては駄目。ナルトはナルトの道をちゃんと進みなさい。それがいつか袂を分かつ時になったとしてもよ。それが貴方の為になる」

 

「ヒカリねーちゃん?なにいって」

 

「じゃあまたね」

 

ひらりと手を振ってヒカリねーちゃんはあっという間に消えた。どうやら影分身の術だったみたいだ。全然気が付かなかった。

さすがヒカリねーちゃんだな。全然わかんなかったってばよ。

でもオレの為に駆けつけてくれた事実は変わらない。

 

……今日は、もう寝よ。

 

オレは、ベットにつっぶして全部夢になれって念じながら瞼を閉じた。

 

サスケはヒカリねーちゃんが言った通り、しばらくアカデミーを休んだ。

その間、うちは一族が皆殺しにされた話題は里中に駆け巡ってアカデミーでもその話題は持ちきりだった。うちはイタチの抜け忍の事。サスケに対する同情心。

いつもは面倒ごとを避けてるけど今日ばかりは色々陰口叩いてる奴らを見つけたら実力行使でボコボコにしてやった。たとえそれが原因でイルカ先生に叱られてもオレはサスケを悪くいう奴は許さない!って叫んでやった。

 

ヒカリねーちゃん達を悪くいう奴らなんて、嫌いだ。

 

それから数日後、サスケはアカデミーに登校してきた。皆腫れ物に扱うみたいに遠巻きに視線を送る中、オレはサスケに走り寄った。

 

「サスケ!」

 

「よう」

 

「……体、大丈夫か?」

 

「ああ、しばらく休んで体が訛ってる。放課後付き合え」

 

「あ、ああ。別にいいってばよ」

 

いつもオレの方から修行の誘いをしてるってのに。なんかやっぱり変だと思った違和感は放課後、いつもの修行場所で明らかになった。授業を終えてさっさと二人で馴染みの山に向かって体慣らしの体術の組手から相対属性の術を交互に唱えて実際の相対性について体にしみ込ませる。それから瞑想。イメージトレーニング。これが重要だってヒカリねーちゃんは言ってた。戦いに冷静さを欠いたら負けだって。

 

いついかなる時も己と戦え。どこの仙人の言葉だよな。

久しぶりのメニューをこなした後のことだった。

崖の上から夕陽に染まる里を並んで見下ろすオレ達。

 

「ナルト、オレはイタチを殺すぜ」

 

「…サ、スケ……?だって兄ちゃんだろ」

 

あれだけ尊敬しててさ、イタチにーちゃんに認めてもらいたくてあんなに修行頑張ってたのに、今のサスケは、オレが知るサスケじゃない。黒く歪んでしまった。

 

「兄貴だからこそだ。必ず、見つけ出して、この手で殺す!———そして、姉ちゃんをイタチの呪縛から解放するんだ……」(絶対にアイツから、取り戻す)

 

拳を強く握りしめて、そうオレに宣言したサスケの顔をオレはずっと忘れない。

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