カカシside
うちは一族がうちはイタチによって皆殺しにされた。オレはその報告を受けた時、全身の血が凍りつくように体を動かせなかった。
ヒカリ、が死んだ?
まさか、だってあれだけイタチに可愛がられていたのに。
サスケだってそうだ。誰よりも家族を愛していた男が、全てを壊すはずがない。
信じられない、そう信じられないとオレはつい叫んでいた。
「カカシさん!」
オレは報告を受けたその足で制止を振り切り、唯一の生存者が匿われいるという火影の元へ向かった。そう、火影自らその生存者を保護している部屋へ。
幸い建物は近くオレは瞬身の術で火影の部屋で走る。
そして無礼を承知で火影の執務室へのドアを乱暴に開けた。
「三代目、オレです!はたけカカシです、失礼しますっ!」
そう声を荒げて室内に入ると、目の前に三代目の執務机が置いてあり、そこに腰かけていた火影三代目は「カカシか」とオレの姿を認めて視線で部屋の脇に置いてある来客用のソファへ向けた。オレはそれに続けてそこへ視線をやる。
すると、黒髪の少女とタオルケットに包まり少女に抱きしめられながら眠る少年がいた。
黒髪の少女は雨に濡れていたのか、髪が少ししっとりしていていつもの溌剌とした姿とは少し違っていた。弟を見守る表情も慈愛に満ちていた。
ヒカリだ。サスケもいる。
瞬間自分の心に歓喜の感情が生まれた。忍びとしてあってはならないことだが、本当にそう思った。
「ヒカリ、サスケ」
オレは足早に二人に近づく。するとヒカリはオレを見ずに静かにという意味を込めて唇に人差し指をつけた。
「カカシ先生、サスケようやく眠った所だから」
「あ、悪い」
オレは声のトーンを落としてヒカリの前に膝を着いた。ヒカリはオレを見ずにサスケの髪を優しい手つきで撫でる。
「ヒカリ、報告は聞いた」
「うん」
「うちはイタチは抜け忍になった」
「うん」
「……ご両親の事は、残念だった」
「うん」
「……ヒカリ、……お前」
先ほどからヒカリはオレを見ない。見ようとしない。いや、視界にすら入っていない。
何かがおかしい。オレはそっとヒカリの顔に手をやり、顔を上に持ち上げた。
ヒカリは抵抗なくされるがままオレを視線を合わせる。その瞬間、オレは息を呑んだ。
「ッ!ヒカリお前、それ……」
写輪眼を会得した者がさらに力を得る場合、万華鏡写輪眼が発動することがある。
だが特定の人物のみで今まで開眼できたものは数少ない。
いつも黒目のクリクリとした愛らしい瞳はなかった。少女の両目にはその万華鏡写輪眼があったのだ。しかもヒカリは万華鏡写輪眼を発動させたまま、ニコッと微笑んだ。
「これ、イタチとお揃いなの」
「イタチと違う模様になっちゃったけどでもこれでいっかと思って」
「イタチの大切なサスケも守れるしイタチの想いを守れるから」
「ヒカリ、まず落ち着け、な?…グッ!?」
オレはイタチイタチと連呼するヒカリを落ち着かせようと両肩を掴んだ。だが、ヒカリは変わらず場違いな笑みを浮かべてオレの手首を掴んだ。あり得がないが子供の力とは思えない強い力でぎりぎりと締め上げられオレは苦痛に顔を歪ませた。
「私と、イタチの邪魔をするなら、カカシ先生でも殺すよ」
まるで羽虫一匹殺すようないい方でヒカリはオレを殺すと宣言した。
オレは目の前の少女に起こった異変に付いて行けず呆けることしかできなかった。ヒカリはふっとオレから興味を失ったように手を離しその細腕に眠るサスケを抱き上げてオレの脇を通り抜ける。三代目を一瞥し、オレと会話していた時よりも淡々とした声で
「火影、さっきの件よろしくお願いします。私の方がいつでもいいので」
と三代目の返事も聞かぬまま。瞬身の術で部屋から風のように消え去った。三代目は一呼吸遅れてからここにいないヒカリに向けて「わかった」と呟いた。
オレは今まで起こった事実を受け入れることができず、よろよろと立ち上がり三代目に詰め寄った。
「三代目!一体ヒカリはどうしてしまったのですか!?なぜ万華鏡写輪眼が開眼されているのです!?」
「ヒカリは目の前で義父母をイタチによって殺された。唯一の目撃者だ」
「っ!」
なんてことだ。一族だけでなく家族を目の前で殺されて平気でいられるはずがない。
だってヒカリは、まだほんの子供で守られて当然の立場のはずなのに。その深い悲しみから万華鏡写輪眼を開眼してしまったのか。
「アレは儂を恨んでいるだろう。その恨みはどの『根』よりも重く深い。まるで黄泉の闇のようにな」
「…そんな…」
「カカシ、心せよ」
「何を、ですか」
聞きたくないと本能的に感じた。だが三代目はあえてオレに命を出すのだろう。
三代目が机に両肘をつき手を組む。そしてオレを射貫くように口に出した。
「うちはヒカリはいつの日にか、里に牙を向くやもしれぬ。その時は、情を捨て、『敵』と思え」
「何を馬鹿言ってんですか!!そんなことあるはずがない!」
だがオレはその命に反発した。机を思いっきり叩いて抗議した。
してはならないと分かっていながらそうせずにはいられなかった。そもそもなぜヒカリが敵にならなきゃならない。あの子が、ある意味問題児の目を離せない子が里を滅ぼす存在となる?
だが三代目にはヒカリの何かを感じ取ってあえてオレに言ったのだろう。
「あの子にはそれだけの理由があるんじゃよ」
「……そんなこと、あるはずがない……!」
力なく項垂れるしかできなかったオレはヒカリを探して理由を問い詰めることもできず、自分の腕に忌まわしく残るヒカリの尋常でない力で絞められた手の痣がその証拠としてしばらく残り続けた。
あの事件から二日後、ヒカリは中忍試験を瞬く間にクリアしオレと同じ上忍になることが決まった。上忍への推薦は三代目自らによるそうだ。
その時顔を会わせたヒカリはあの時とは違う、いつものヒカリに戻っていた。
「これからはカカシさんって呼ぶことにしますね。それともまだカカシ先生のほうがいいかな?」
人を揶揄うような人懐っこい笑みでオレを見上げてくるヒカリはくるりと背を向けた。ぐーんと腕を空に突き上げて軽く伸びをする。
「ねぇ、カカシ先生。万華鏡写輪眼の事、秘密だよ?」
「あれ、火影とカカシ先生しか知らないの。もしバレたら私、里にいれなくなっちゃう」
ヒカリは腕を下して風に揺れる黒髪を手で軽く押さ、顔だけを少しだけ振り向かせた。
「だから」
「ね?せんせ、内緒だよ?」
オレが知らない少女の笑い方をするヒカリが、いた。