既にアカデミーに着いていた二人を呼び出してもらって直接お弁当を渡した。
その際、ちゃんと忘れないことを釘刺しておくのを忘れない。私からの呼び出しにサスケとナルトは待ってましたと言わんばかりの顔をしていて憎たらしいと思った。
「ほらお弁当。次は忘れないようにね」
「ありがと、姉ちゃん」
「ありがとってばよ」
「素直でよろしい!それじゃあ私仕事だから。頑張って。イルカ先生、ありがとうございました」
「いいえ、気になさらずに。いやー、サスケのお姉さんがこんなに綺麗だなんてな」
「あら先生。御上手なんだから!今度チャーシューオマケしちゃいますね」
簡単にナチュラルメイクしてるだけなのに。
「え?」
「え?だからチャーシュー……ハッ!?」
違う違う!今ユウコじゃなくてうちはヒカリだったこと忘れてた―――!!
「あ!間違えました~!間違えました~!急にチャーシュー食べたくなっちゃって私ったら何言ってるのかしらもうダメね!それじゃ失礼します!二人とも頑張りなさいね~」
私はスマイル0円に早口言葉で誤魔化し挨拶を終えてその場から全力で逃走した。
その後、仕事に就いた私はきっちり時間通りに働きお昼になると森の中の切り株に腰かけてお弁当を広げた。今日の任務は火影邸から封印の書を盗もうとした忍びの抹殺及び証拠隠滅。私の目の前にはその裏切りの忍び以下残党共の死体がゴロゴロ転がっている。
大体暗部の仕事なのになんで事務仕事の私が暗殺の始末まで受けなくちゃいけないのか。
「はぁ、疲れた」
「お前よくこの現場で飯食おうと思うな」
一応同僚に当たる暗部の先輩に呆れた様子で言われた。
「なんで?普通に食べれますけど」
「うわ、俺無理」
別に風景を楽しんでご飯食べてるわけじゃないし。こっちは一時間しっかり休んでおかないとまた別の仕事入ってるんだから。
「先輩も食べます?おにぎり多めに作ってきましたけど」
「……一応もらってく」
ナルトが休憩時間に食べるように作って置いた余りもののおにぎりを先輩に渡す。中身はおかかだ。梅干しは、きらしちゃった。
「あーあ、午後から拷問かぁ……、どうやって吐かせようかな。先輩、何がいいと思います?爪の皮一枚一枚剥いで行きましょうか。それとも目から潰していきましょうか。手っ取り早く殺しちゃいましょうか」
「それは拷問の意味ないだろ」
「それもそうですね」
「ヒカリやっぱ変」
「ウフフ、ありがとうございます」
お礼を言って食べ終えた弁当をしまう。お茶をカップに注いでゆっくりと味わってから蓋を閉めてバッグにしまう。お面をつけなおしてバッグを肩に下げて立ち上がり先輩に向き直した。
「じゃ先輩、後の始末お願いします」
「はいはい」
私は次の現場へ向かって移動を始めた。その後も事務的に仕事をこなして17時残業なしで帰りに買い物を済ませて自宅に帰宅。先にお風呂に入って汚れを落とす。
夕食の支度をしながらそういえば、昼間ミズキがナルトがうんたらかんたらと悔しそうに語っていた話を思い出した。ナルトがもっとドベだったら利用してもっと簡単に封印の書を盗ませたのにとか言ってたっけ。
「九尾の狐の話は禁句だったような」
おたまと箸で味噌をぐるぐる融かしながらナルトにも話してあげないといけないなと思った。
自分の中に封印されている存在をいつまでも無視しているのも嫌だろうし、いずれは向きあわねばならない存在。
今日ナルトを呼び出して話してみるかと考えながら次の作業に移った。
◇◇◇
サスケとナルトがなぜか不機嫌に帰って来た。
どうやら一緒の班らしく、上忍の先生はなんとカカシ先生!
最近あんまり会う機会がなかったから元気にしてるかなと思ってたけど話から訊くと相変わらずイチャイチャパラダイスを愛読書としているらしい。変わりないなぁ。それともう一人はサクラちゃん。サスケにラブなのは既に情報入手済み。私の中でサスケのお嫁さん候補ナンバー1だ。それだけじゃない。二人が不機嫌な理由が分かった。
「それにしてもサスケとナルトが……キス……ぷっ!」
「あ!ヒカリねーちゃん酷いってばよ!」
「あんなの無効だ」
どうりでいつも仲良しな二人がいやに距離置いてる原因がそれだったとは。
「ごめんごめん、まさかサスケの隣の席の取り合いに巻き込まれて男同士キスするハプニングなんてなかなかないから。それでナルトはなぜかサクラちゃんにボコボコになされたと」
「意味わかんねーし。サクラちゃん怒ると鬼になるってばよ……」
ガクガク震えだすナルト。よほどトラウマになっているみたいね。サスケはサスケで
「無効無効無効」
とブツブツ呟いて暗い雰囲気で食べ続ける。ファーストキスだったみたい。そりゃショックよね。私は話を変える為、二人からもらった保護者用のプリントに目を落とす。
「『明日はサバイバル演習なので朝食を食べないように。それとお弁当を持たせないようにして下さい。』……ああ、お弁当要らないんだ。でも朝抜くなんてお腹が減って動けないじゃない。二人ともしっかり朝ごはん食べて行きなさい。それとサクラちゃん用におにぎり作って置くから」
「え、いいのかよ」
「だって演習だよ。お腹空くじゃない。お腹空かせてもいいなら作らないけど」
「「食べる」」
二人は声を揃えて言った。見事なシンクロぶりについ笑みが零れる。
「オッケー、じゃ作るわ。サクラちゃんっておかか食べれるかしら?」
「さぁ」
サスケは興味もなく、ナルトは毎回同じ台詞で褒めてくれる。
「ヒカリねーちゃんのはなんでも美味いから大丈夫だってばよ」
「ま、大丈夫か」
それから明日は頑張りなさいと二人を励まして夕食を続けた。
カカシ先生か、明日こっそり手土産もって挨拶に行こうかな。二人がお世話になるんだし。
サスケがお風呂に入っている間、ナルトを連れ出して山に向かった。勿論、しっかりと書置きは残しておいて。
本当はもっと時間を掛けて話してあげればいいんだけど、ナルトも下忍として忙しくなる身。それに今のナルトなら受け入れてくれそうな気がしていた。
案の定、私が話があると誘い出すとナルトは疑いなく着いてきた。むしろ上機嫌でさえいた。
「ヒカリねーちゃんから誘ってくれるなんて大胆だってばよ」
「なにそれ。別にデートじゃないからね」
「ええー!?」
「ほら、もっとスピード上げなさい。私より先に着かないとまた全力鬼ごっこやるわよ」
「行くぜっ!」
発破をかければナルトは全力で私の前方を抜いていく。うん、うんこうじゃないと。
私達は追い抜き追い抜かされて山へ到着。ナルトはギリギリのところで先に着いて、手放しで喜んだ。
「やった!ヒカリねーちゃん追い抜いたってばよ!」
「早くなったね。流石ナルト」
「へへっ」
褒められてナルトは嬉しそうに鼻先をこすぐった。二人並んで湖のほとりで腰かける。周囲は真っ暗だが星空がはっきりと見えるので灯りは必要ない。それでもって邪魔が入らないように結界を張る。どうせ火影は私の行動を読んでいるだろうから先手を打たせてもらう。
「あのね、ナルト。話っていうのはナルトの中に封印されている九尾の狐の話なの。……なんとなく自分の中に棲んでるって感覚なかった?」
「あー、あったかも。気にしたことなかった」
「……大物ね、ナルト。まぁいいわ。それで九尾の狐を封印したのは火影四代目、波風ミナトさん。ナルトのお父さんよ」
「俺の、親父!?火影だったのか!?」
ナルトは食いつくように私に迫って来た。やっぱり火影はこのことすら秘密にしてたのね。
実の両親の思い出もさえも奪われたのにあまりにひどすぎる。やっぱり、火影と私が相容れることはないと感じさせる。
「そう。四代目は九尾の狐を封印する為、赤子であったナルトに封印の術を施した。貴方には里の英雄であってほしいと願ったらしいわ。私も詳しい話は調べられなかったけどナルトはご両親に望まれて愛されてこの世に生を受けたのよ。九尾の狐を封印するためじゃない。ナルト、今はそれだけを伝えたかった。きっとこの先忍を続けていく以上貴方のご両親について触れる機会があるかもしれない。私はもしかしたらその場に立ち会えないかもしれないけど、ナルトは真実をしっかりと受け止めなさい。それが御両親の想いに繋がっているはずだから」
「ヒカリねーちゃん」
「偉そうに言っちゃってごめんね。とりあえず話はそれだけだから。———帰ろうか」
立ち上がって埃を手で払うと背中に勢いよく抱き着いてくるナルトがいた。
「ナルト?」
少しだけ振り返るとナルトは顔を押し付けて声をくぐもらせながら
「……俺って、愛されてたのかな……」
と小さく疑問を呟いた。私はあえて頭上を見上げながら
「分からないな、私はナルトの御両親じゃないから」
と答える。ナルトは僅かに「っ!」と息を呑んだ。だけど続けて言葉を重ねた。
「だけどさ、私はナルトもサスケも大切だよ。家族みたいなもんじゃない。ご両親の代わりってわけじゃないけど、私はナルトが大好きだよ」
「………俺も、俺もヒカリねーちゃんが大好きだってばよ……」
「うん。分かってる」
尚更ナルトはぎゅうっと腕に力を込めて抱き着いてきた。暫く私達は星灯りの下でしばらくゆったりと過ごした。
◇◇◇
家に着きナルトとおやすみと挨拶して別れてから自分の部屋に戻るとサスケがしっかりと私のベッドに腰かけて待っていた。
「お帰り。長かったな」
「ただいま、ちょっと散歩かな」
そう誤魔化して装備していたポーチと武器類を鏡台の上に置く。
「ふーん」
サスケは面白くなさそうに適当に相槌を打つ。
あ、機嫌悪そう。置いて行ったことに拗ねてるのかな。
鏡台の椅子に座って多少風で乱れた髪を櫛で梳かす。鏡越しにサスケの視線がこちらを向いているのが分かるが、気にしないようにする。
「姉ちゃん」
「んー?」
「髪、長くなった」
「そうだね。あの日から切ってないからかな」
そう答えるとサスケは黙ってベッドから立ち上がり私の真後ろに立った。
「………」
「どうしたの、サスケ」
「………」
サスケは答えずに私の髪を一房手に持つ。そしてまるで祈りを込めるように軽く髪にキスをした。まるで尊い儀式のように思えた。サスケは時々あの日の誓いを確かめるようにこのような行動をする。だから私はサスケを安心させるために言うのだ。
「大丈夫。私はちゃんといるわ。サスケ」
「……姉ちゃん……」
サスケは縋るように私の首に腕を交差させて頭をこすりつけて抱き着いてきた。
温もりを確かめるように、私達は共有しあう。
あの日の誓いを忘れない為に。己の目標をたがえないように。
ふと、気づけば外は雨が降っていた。まるであの日の再現をしているように窓に水滴をつける。
―——私達の家族ごっこはいつか崩壊を迎えるだろう。それまでこのぬるく甘く居心地のいい毎日が続けばいいのにと思うばかりだった。