足りない何かは本人が補わなくてはならない。
夢の中で私は久しぶりに侑子とお茶をした。
というか夢を介してあの馴染みの店に遊びに行ったのだ。
夢の中はなんでもし放題というわけじゃないが、それなりに楽しい所だ。曖昧なようでいて現実の様に手に取れる。
感覚は微妙だけれどしっかりと心に記憶されるのだから。
成長した私を見るなり侑子はフッと小馬鹿にするように目を細めて笑った。
「相変わらず成長してないわね」
「まず私と視線を合わせる!私の胸じゃなくて顔を見てから言え!」
そう怒鳴り返して乱暴に一人酒と洒落こむ侑子の隣に乱暴に座った。んでもって侑子が持つお猪口を奪い取ってぐいぐいと飲む。
てっきり酒かと思いきや水だった。
「これ水じゃん!?」
「フッ、そうくることは予想済みよ。アンタにはジュースでお似合いだわ」
しっかりと本物の酒が入ったお猪口を手に取った侑子は美味しそうに口元に運びくいっと飲んだ。んでもってぶーと頬を膨らませる私にはオレンジジュースが並々と入っているグラスを持たされた。
それでもっていつものやつをした。
「「乾杯」」
キィンと硝子がぶつかる音を起こし私は恨みがましい視線を侑子へと送りつつオレンジジュースを口にする。
「あのさ~、私もう飲める歳なんですけど~」
「ヒカリは酒を飲むと性格変わるから面倒なの。あたしのいない所で飲みなさい」
「へっ!愛嬌があっていいじゃない」
「アンタの絡み方ハンパないのよ。一度体験してみれば分かるわ」
「ちぇ!いいさいいさ。向こうに戻ったら飲むから」
友人を誘って酒盛りでもするもん!
拗ねる私の横で侑子は少し間をあけて尋ねてきた。
「……目の調子はどう?」
「うん。いいよ。違和感ないしこの目のお陰で助けられてる」
「そう、良かった。———でも、分かるでしょう?『使いすぎては駄目よ』。その両目は特別製で使った分だけ後に持ち主に反動で跳ね返る。その死にたくなるような激痛を毎回耐えなければならないのだから」
そう言いながらお猪口を床に静かに置いて侑子の細い指先が私の頬へと伸ばされる。掠めるように撫でられる。
「うん。結構ヤバいよね。毎回クナイで両目刺そうって何回考えたことか」
そう、この目がもたらすのは絶対的な力だけじゃない。それに伴う激痛もあるのだ。この万華鏡写輪眼を発動させたときと同じような痛みを使った後で味わっている。
サスケに心配を掛けまいと毎回毎回夜の山の湖に体を浸らせその中で、ただひたすら終われおわれオワレ!と念じ続ける。悲鳴を押し殺す為に舌を噛み切って自決してしまうんじゃないかと思うくらいに。
そうして気が付けば翌朝になっているというルーティンになっている。でも!本当にクナイを刺すところまでいっていない。なぜなら頼もしい友人が私の為にと作ってくれた仮面があるから平気なのだ。
あの暗部の時も付けている仮面だ。
あれが私の両目を保護してくれている。どんな攻撃にさえも耐えうるというのだが、どこまで耐えれるのか試した事はない。でも一度クナイで傷つけてみたけどまったく傷一つ残っていなかった。呪いでもかけてるのかな。
なんにせよ、非常に助かっている。イタチと会う前に両目失ってましたなんて言ったらイタチが悲しむもの。それは駄目だ。イタチを悲しませることはなんであれしたくないから。
だから私にとって仮面は決して外せないものとなっている。まぁ今回の波の国でつけてる理由は素顔を晒せないってことも理由にあるけどね。いつどこで私の事を嗅ぎつけられるかわかったもんじゃない。一般人に紛れて他の忍びが潜んでいるかもしれないもの。油断はできない。
さて、夢の中と言えど現実世界ではどのように時間が経過しているか分からない。侑子と積もる話をした後、私は名残惜しくも戻ることにした。
「それじゃあまた来るね」
「気を付けて」
「了解!」
にししと笑顔で侑子に挨拶をして私は真っ黒な穴の中に飛び込んだ。
ザラザラとしたものに肌を軽く撫でられ、軽い痛みから意識をゆっくりと浮上させる。
昨夜は森の中で野宿をした。まさかタズナさん家に厄介になるわけにも行かず、いつ寝首掛かれるかもわからない状況だがイオウが警護するからゆっくりと休めと親切に申し出てくれたので安心して眠ることができた。
だが状況的にどう警護しているのか、ついうとうと眠りについた私は分からなかったが、目を覚ましてみるとよく分かった。
私の丈よりも大きくなったイオウのとぐろの中に守られるように寝ていたようだ。通りで手の甲にイオウの肌が当たっているわけだ。むくりと起き上がり大きく伸びをしながら挨拶をする。
「おはよう、イオウ」
「目が覚めたか、ヒカリ」
とぐろの一部からニュッとイオウが顔を出す。
「うん。ずっと起きててくれたの?」
「ああ、我に眠りは不要だからな」
「そうなの?便利ね、蛇って」
その場に胡坐をかいてくわっと欠伸を一つして首をコキコキと左右に動かす。うん、寝違えてはいないね。
「うーん、ここってお酒とか売ってるかな。お店も品ぞろえ悪かったしなぁ」
「朝から酒の話か」
イオウが呆れたように言うが、これは夢の続きの話だ。その経緯を説明するとイオウは珍獣でも見るような目をした。
「ヒカリといると退屈だけはせぬな」
「なにそれ」
「褒め言葉だ」
「ふーん。ならいいけど」
誤魔化されてるような気もするけどこれ以上追及したところでイオウが口を割るとも思わない。付き合いが長い分彼の性格も大体把握している。
そこで丁度お腹がぐ~と鳴ったのでご飯でも作るかと立ち上がった。忍者メシですけどね。
でもイオウはあまりお味がお気に召さぬようで昨日は少し食べただけでもう要らぬと口を閉じてしまった。
だからだろうか、彼は私の手元から忍者メシを軽く叩き落とした。
「何するの」
「そんなもの食せば害するぞ。我が獲物を仕留めた。それを食すが良い」
「は?」
そう言って尻尾の先から何かをズルズルと引きずって来た。
大きな雌鹿だった。かなりの獲物と言ってもいいだろう。
「朝からこれを解体しろと?」
彼の気持ちは嬉しいがゲンナリとなってしまう。なんで朝からグロテスクな気分にならなくてはいけないのだ。
そう尋ねるとイオウは軽く頭を横に振り、尻尾の先から鋭利な刃を突き出した。
それ毒付属じゃなかったっけ?
え?今は付いていない。あ、自分の意思で付けられるの?
それは凄いね。もうなんでもアリですね。ちなみに毒にも種類があって、あ、うん。別に説明とかいらないから。
流石イオウって感じです。うん、はい。
顔洗ってくるねと言い残して川へと向かった。去り際、何処かルンルンしているイオウは早速周囲に血しぶきを巻き散らかして解体を始めた。
朝から肉か、豪勢だな……。
現実逃避したい私は足早にその場から逃げた。
冷たい水で顔を洗って気分リフレッシュして帰って来たけど、すぐに血なまぐさい匂いと白い鱗を血に染めて、ちゃんとできたから褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾振って私の帰りを待っていたイオウの出迎えですぐに清々しい気持ちも急降下。
「見ろ。ちゃんとできたぞ」
「そ、そうだね……。うん、すごいすごい。お肉が綺麗に分かれてる。要らない部位は……」
「我が食べた」
「そ、そっか。うん、あ、別に戻そうとしなくていいよ。要らないから!」
「そうか、毛皮はどうする?これも食べてしまったが。人間はこれを利用するのだろう?」
「だからいらんわ!」
イオウが吐き出そうとするのを全力で止めた。朝から疲れる朝食作りだった。
◇◇◇
野暮用を無事に終えることができた。
だが完璧に最後まで仕上げるためには、とある友人に会わねばならない。その友人とはある場所で待ち合わせをしている。それまでは時間があるので私はカカシ先生によってそれぞれの修行に励む皆を見守ろうとこっそりと覗きに戻った。
サクラちゃんはチャクラをうまくコントロールする術を学ぶため、林の中でクナイを用いた木登りを行っていた。
「結構楽勝だわ」
と言ってもサクラちゃんは繊細なチャクラの調節を上手に操っていてそれはもうあっさりと木登りをクリアできていた。
下でサクラちゃんの様子を見守っていたカカシ先生は両手に松葉杖状態ながらも弟子の成長ぶりに自分の事のように褒めては喜んでいた。
「サクラはチャクラのコントロールに関しては班の中で一番だな」
「えへへ」
ぐーんと首を曲げるほど地上から高く太い木のてっぺんに近い枝に腰かけて照れ笑いをするサクラちゃんもまんざらでもないって感じだ。遠くて見えるのかって?
忍者は視力が良いんです。
けど流石優秀なくのいちだ。アカデミーでも頭脳明晰というのは伊達じゃないね。
もしかしたら彼女には医療忍術の才能があるかもしれない。
アレは繊細なチャクラの練り方が重要だから。壊す方が専門の私には到底無理な話だ。覚えていて損はないかもしれないけどなぁ。
まぁ機会があれば取得するのもいいかもしれない。
さて、サスケとナルトは既に私からの修行によってチャクラのコントロールは完璧。だからサクラちゃんとは別の修行内容に変更されている。それは体術とチャクラの組み合わせというもの。
心の中で頑張ってとエールを送ってこちらに気づいていたカカシ先生に手を振ると向こうも私の気配に気づいていたようで軽く手を振り返してくれた。
「サスケとナルトはどの辺かな~」
見晴らしのよい木の上を移動して周囲を探ってみると
私が二人に教えたのはあくまで修行としてのもので、再不斬と対峙したのが初めての大人との戦闘だ。やはり男女の差は大きく、私と組手などしていた時よりも力の強さは想像以上に二人を苦しめたはず。いかに小柄な体躯を生かしたスピード戦闘と言えど力負けしていては話にならない。
大人との戦闘でどううまく立ち回るかが今後重要になってくる。
だがカカシ先生本人は動けないので当然無理。だが影分身のカカシ先生なら二人の相手をすることができる。
あまり近づくと敏い彼らに気づかれてしまうし、真剣に修行している二人に水を差すのも野暮というもの。遠くからしばし見守っていることにした。
お、何やら一人対二人で組手を交わしているようだ。空中戦ですか。難易度高いですな。
「ほらほら、まだ脇が甘いぞ」
「クソッ!」
あのサスケがいい様に手玉にされている。打つ手蹴りだす技全て叩き落とされている。対してサスケに掛かり切りという状況の中で隙を逃さずナルトが襲い掛かる。
「背中ガラ空きだぜ、センセッ!」
「だがしかーし、そう甘くはないのだ。ナルト」
カカシ先生は余裕そうな動きでサスケのひょいっと避けた。ナルトは体勢を変えれずにそのままサスケにツッコむ。ゴロゴロと二人一緒に地面に転がり落ちた。
「むかつく!」
「っチ、テメェどこ見てんだよ!」
「サスケが避ければいい話だろっ」
自分の非を認めずカカシ先生そっちのけで言い争いを始めてしまった。
あらら。いつもの事ながら仲が良いのか悪いのか。
カカシ先生によって水遁の術で大量の水を頭から落とされ、二人はぽかーんと口を呆けるもすぐに修行中であることを思い出したようだ。遅い。
そこからまた二人タッグでカカシ先生に挑みかかる根性は称賛に値する。
これなら大丈夫そうと判断した私はそろそろ約束の時間が迫っているので心の中で二人に頑張れとエールを送りその場を後にした。