果たしてヒカリが企む目的とは?
再び対決する日までカカシ先生のリハビリに付き合ったり、火影からの状況報告の書類を書いたり、知り合いのお見舞いしてお菓子差し入れして茶化したしに行ったり、イオウとのんびりしたり、里での暮らしにはないまったりとした時間を過ごすことができた。
けど私にはきっとこんな暮らしは似合わない。
いつも血と喧騒と争いがお似合いな私だ。最初この世界に産まれた時はきっとあっさりと死ぬと思ってた。でもこうやって地位ある立場を受け取って、それなりに誰かの人生を奪って掌握しようとしてて、それが恐ろしいと思う自分がいる。
これはほんとに正しいことなのか。
間違って進んでいるんじゃないか。
「……なんだか思ってた人生よりも違うみたい」
「どうした?いきなり」
首に巻き付いているイオウが私の小さな呟きに凭れていた頭を持ち上げて尋ねてきた。
「そう、ね」
私は咄嗟に笑みを作り誤魔化すようにイオウを撫でた。
「ちょっと人生について考えてみた。それだけ」
「……人の生は我らよりもずっと短く儚いものだ。だからこそ、足掻くのだろう。その命花火のように散らすために」
「足掻く、か」
「主もそうなのだろう?」
「そうだね。足掻いてる。誰に恨まれようと蔑まれようと―――あの人の為に」
でもサスケを見ていると、本当にあの人の為だけに動いているのか自信がない。あの子が可愛く愛おしく思える。
彼の成長が嬉しく、いつか巣立っていく事が寂しい。
これもあの人の為にやっていることだから?
だからいつか解放されることを惜しんでいるのかな。
あの人の為に過ごせる時間を名残惜しんでいるというの?
分からない。今までの生の中でこんなに悩むことはなかった。だからこそ、戸惑っているんだ。私は。
「理由が何であれ我にはヒカリが輝いて見える。まずはそれだけでよいのではないか。難しく考えるな。それは主の決意を鈍らせるぞ」
「……うん……」
迷いは命取り。
今はごちゃごちゃ考えるのをやめよう。
迷いを振り払うように軽く頭を横に振った。それでもって気合を入れる為に自分の両頬をパチンと手で叩いた。
「よし!」
もし、命のやり取りの中でサスケが写輪眼の片鱗を見せるようなことがあれば、タイムリミットは定められる。
早くて二か月半か。次なるステップへ向けた時間は。
「……行こうか、イオウ。彼らの生き様を見届けに」
「有無」
今日で波の国の争いは終わる。終わらせる。
サスケと、ナルトの為に。
◇◇◇
サスケ、貴方はまだ人を殺していない。
自分の手で殺すことはその罪を一生背負う覚悟を持たなきゃいけない。
口先だけで殺すなんていくらでも言える。けどまだ貴方には早すぎる。だから今学べることを思いっきり学んで吸収して。
私だけじゃない。ナルトが相手だけじゃない。
もっと他の相手に視野を広げて自分の可能性を広げていって欲しい。
それはナルトにも同じことが言える。
忍びにはどうしても掟というものが存在する。
その掟を守って初めて忍びとして一人前とされる。
どんなに胸が張り裂けそうで悲鳴を上げていたとしても、感情に流されてはいけない。もし、掟を破れば忍び失格の烙印を押される。それが掟であり忍びを縛る楔。
里を捨てることは簡単だ。
でも捨ててしまったら戻ることは容易ではない。
だから里の中で生きながら、自分が自分である為に忍びとしての道を見出して欲しい。
誰かに言われたから従うのではなく、自分の意思で突き進む道を見つけて欲しい。それがきっとナルトを強くさせる。
彼が夢だと語る火影の道だって正夢になるかもしれない。
私に予知なんて大それた能力ないけど、もしかしたらナルトならなるんじゃないかなって思ってる。
ハクは再不斬を庇って胸を貫かれ死んだ。
殺したのはカカシ先生。
霧の中、彼らの悲しみと怒りが肌に突き刺さるように感じる。
これは忍び同士の戦いで情は捨てなきゃいけないものだ。でもカカシ先生は動揺して固まってしまった。
再不斬は狂ったように笑って「良い道具だァ」ともう死んでいるハクを褒めた。
そしてハクごとカカシ先生を斬ろうとさえした。
これは忍びの戦い。
感情など、感じてはならない。常に自分が生き残ることだけを考えなければ果てに待つのは死のみ。
けど、でも。
忍びだって人間だ。生きている。
時に感情のまま動くことだってある。
今がその時だ。
再不斬の攻撃をカカシ先生は自分の腕をハクの胸から抜き取ることで避けられた。ハクは力なくカカシ先生の腕の中に倒れる。目を見開いたままの状態で死んでいるハクの瞼をそっと閉じてあげたカカシ先生の顔は怒りに満ちていた。
「ナルト」
「っ!」
「お前はそこでみていろ。これは俺の戦いだ」
カカシ先生は情に流されやすい。忍びは情を捨てないといけないのに。でも私はそんなカカシ先生を好いている。
彼ならナルトやサスケを導いてくれる。
私の分まで。
きっと再不斬は死ぬだろう。
先に旅立ったハクを想って涙しながら。
結局の所、彼もまた情に流された忍びに過ぎないのだ。
私も、弱い忍びだ。いつかはサスケを捨てる日が来るのに。
たまにサスケとナルトと過ごしているとああ、まだこんな平穏な日々が続けばいいのにと願っている。着々と準備を進めているにも関わらず、たまに全てを放棄して逃げてしまいたくなる。平和の中に。
それが始めた者として許されないことも分かっているからこそ、願ってはいけないと自分を強く戒める。
「どうした」
おっと、感傷に浸りすぎた。今の私はガトー一派の男という役割だった。
「いや、なんでもねぇですよ」
筋肉だるまのいかにも用心棒と言った野太い声で返す。一歩前にいる無防備に背中を向けている『ガトー』へ。
そう、今私は変化の術でガトー一派に潜んでいる。
すぐに首と胴体を切り離すこともできる距離だ。だがあえてその道を選ばない。これには深い深い訳がある。
まず第一にこの変化の術とは別に他の術を同時進行で発動させている。
しかもタイミングよく入れ替えさせるのは大変だった。
でも霧のお陰で姿をくらませることは可能だったので、問題なく行けた。んでもって今の私の両目は万華鏡写輪眼を発動させている。周囲にバレないようにサングラス掛けてるけどね。これだけの大量の人数に幻影を掛けたのは初めてだからうまくいくか心配だったけど杞憂だったわね。
「行くぞ」
「ウッス。―――オメェ等行くぞ」
そう声掛けすると後ろの汗臭そうな男共から殺る気に満ちた声が複数上がる。複数どころじゃないか。100人近くあるかもしれない。うげ。悪臭がスゴイ。コイツラお風呂入ってないわね。
鼻を抓みたいのを堪えて出来るだけ口元で息するように頑張る私って健気だわ。ああ、これならお色気の術のボディービルダー(私専用)の方が良かった!
きっとナルトなら今の木の葉のシステムそのものを変えてくれるんじゃないかって。そう希望を抱いている。
だから彼らの成長に貢献できるならなんだってやる。
なんだって。
その他大勢の中にいる私は今の所、カカシ先生たちにバレている気配はない。変化の術を使いつつ、他の術も同時進行という難易度だが私にすれば万華鏡写輪眼を連発するよりは遥かにマシというもの。まぁ、万華鏡写輪眼を使うと激痛が待ってますということになるんだけどね。それも慣れればなんてことはない。
一人になってただ耐えれいればいいんだから。
私はきっと、耐えるということに麻痺しているんだと思う。
いつまでも解放されることはないと諦めているから。だから耐えられている。きっと他の人だったら心が折れてしまうだろう。
いっそのこと殺してくれと懇願さえするはずだ。
だが私は死んでもたとえ殺されても何度も繰り返す呪い所持の命。この命に終わりは来るんだろうか。
ああ、駄目だ。今はそんなことを考えている場合じゃない。
集中しなきゃと己を律する。
丁度ガトーが再不斬に対して罵りを始めた頃だ。さぞ滑稽に見えるだろう。私の周囲にいるガトーの部下たちは上司が何かに対して喚いているのを困惑しているようでそれぞれヒソヒソと囁き合っている。だが声を掛けようとするものは誰もいない。そう、誰もが異物に対して抵抗を示すのは当たり前だ。だから私が代表して声を掛ける。男声に変化した私の声がガトーの動きを止めた。
「ガトーさん!」
「なんだ!」
「島民の奴らがオレ達に刃向かおうって武器やなんなら携えてこっち向かってますぜ」
「ふん、精々なことだ。おい、お前ら半々に分かれて止めて来い。残りは再不斬と他の忍びを始末しろ」
「へい。お前ら、行って来い!」
くいっと親指で後ろを示して指示を送る。それに頷くガトーの部下達は下卑た笑みを浮かべて移動を開始した。
それに焦ったカカシ先生たちだったが、チャクラを使いすぎたか動くこともままならない様子だ。ナルトが騙し作戦に出たか、影分身の術で人数を増やしたのを見習ってカカシ先生もはったり行為で同じく多重影分身の術を発動させた。
「うわっ!」
「数が増えやがった!?」
それに驚くガトーの部下達。だが私が
「そんなのはったりだ。気にせずツッコめ」
と声を張り上げる。するとカカシ先生は驚愕したように私を見つめた。なぜ分かったか不思議でならないのね。だから彼に伝わるように口元に指先を当てがって静かにジェスチャーをした。それで私の正体が誰なのかやっと理解したカカシ先生は大きく目を見開いた。
もう瀕死状態にあるにも関わらず再不斬はガトー一派を止めようと単身一人でナルトから借りたクナイを口にくわえて突っこんでくる。その勢いに負けて恐れ慄く部下達は一斉に武器を再不斬へと構えてた。刀で斬る者。そのまま刺すもの。とにかく必死に再不斬と止めようとする者たちの手によって再不斬の体には何本もの刀が突き刺さった。それでも再不斬は諦めずにガトー目指して突っこんでくる。
ガトーは悲鳴を上げて私の背に隠れた。
「ま、守れぇ!!そのために雇ってやってんだ!」
「もっとお金くれるんでしたら守ってあげますよ」
「なに?!いい、くれてやるくれてやるから私を守れっ」
「そのお金何処にあります?秘密主義者の貴方の金庫を探すのは面倒だからね」
「へへ、私の部屋だ!いいから私をっ」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
私は後ろから鬼気迫る再不斬に背を向けて恐怖に顔を引きつらせるガトーにとびっきりニッコリと笑ってフッと横に倒れるように避けた。
「なっ」
その瞬間!グサッとガトーの胸には口に加えた再不斬のクナイが突き刺さった。
「後は用事ないんで死んじゃってくださって構わないですよ。ガトーさん」
「ガッ!」
血反吐を吹き出しながら裏切り者と罵りを受けるが、私は笑って見下ろした。
「ありがとうございます。貴方のお金存分に役立てますね」
そうお礼を伝えて再不斬によってガトーの首が飛ばされるのを見送った。おー、綺麗に飛んでった。弧を描くように飛んで行ったガトーの首はゴロゴロとガトー部下たちの間に転がる。皆、恐れをなしてその場から逃げ腰に離れた。
唯一、動かない私と私の前で血だらけで立ち伏す再不斬だけが異様に場を支配する。
もはや気力だけで立っているのだろう。私は彼の横をすり抜けながら手を伸ばしてトンッと彼の腕を軽く押した。
「お疲れ様」
と労いながら。先にこの場から脱したのは再不斬の方だった。押された勢いのまま再不斬はドッ!と前のめりに倒れた。
もはや使い物になるまい。よくあれだけ動いてくれた。
だがまだ油断はできない。しっかりと地中に埋めるまでは。
再不斬を一瞥して絶句するガトー一派、カカシ先生たち。それに丁度タイミングよくやって来た島民たちへこの戦いの終幕を告げた。しっかりとガトーの首を掴みあげ掲げて、皆見ろと注目させる。
これがお前達が今まで傅き、憎み、恐れていた者の成れの果てであると。
「ガトーは死んだ。もう双方無駄な争いはしなくてもいい。ガトーの部下達は雇い主に給金をもらった分だけで去れ。島民は好きなだけ橋を造れ。争いは、終いだ」
「アンタは、誰だ」
島民の誰かがそう呟いた。いや、もしかしたらガトー一派の者か。どっちでもいい。戦意喪失した彼らには私が異形の者としか認知できていないはずだ。それでいい。恐怖とは一番心に傷をつける。
「私?私は————」
ガトーの首を地面に落としてボフン!と変化の術を解いた。
屈強そうな男から小柄な女へと変化したことに驚く皆の衆。しっかりと狐の仮面をつけバレることはないはず。
丁度いい風が吹いた。風が髪を揺らす。ゆっくりと人差し指を口元に持ってきてポーズを作る。
「内緒」
知る必要はない。もうすでに終わった事なのだから。
ガトーは死に、再不斬は死に、ハクは死んだ。
主要人物は去ったのだから脇役も早々に去るべきなのだ。
残るのは英雄達〈ヒーロー〉だけでいい。
気を取り直して私は少しだけ仮面を上げ口元だけを出して呆ける二人に声を掛けた。
「ナルト、カカシ先生、私先に里へ帰るわ。気を付けて帰ってきてね」
「ヒカリねーちゃん!」
我に返り、呼び止めようと走り出すナルトに手を振り瞬身の術でその場を立ち去った。
最後に挨拶しなければならない相手がいるのだ。
すぐ近くに動けないでいるだろうサスケの元へ。
直接戦闘を見てはいないが、きっとハクが再不斬と同様に止めを刺したと見せかけて首のツボに千本を刺したことにより一時死亡と見せかけられたはずのサスケはサクラによって介抱されていた。
「サスケ、サクラちゃん。やっほー」
「姉ちゃん!」「ヒカリさんっ!?」
ヒラヒラと手を振ってサスケの前にしゃがみ込む。突然音もなく出現した私に吃驚する二人の後ろでタズナさんも驚いて腰を抜かしている。あら、年寄りには刺激が強すぎたかしら。
「無事みたいね。良かった」
そう言ってサスケの頬を軽くむにゅっと抓んだ。サスケは私の手首を抑えて
「どうして姉ちゃんが」
と戸惑いを隠せないようだ。
「説明すると長いんだけどね。里に帰ったらちゃんと説明するよ」
「本当に?嘘つかないよな?」
「うん。サスケにはちゃんと説明するから」
「分かった」
「良い子だね。サスケ」
わしゃわしゃと髪を撫でるとサスケは嫌そうに顔をしかめて手を退かそうとする。
「やめろよ。そんな歳じゃねーし」
「そうだね。大きくなったね、サスケ」(もう少しで、か)
本当に大きくなった。手のかかる義弟はいつの間にかこんなにも成長していて嬉しい反面少しだけ寂しい気持ちになる。
感傷に浸る私をサスケは怪訝そうな顔で見つめてくる。
「なに?」
「別に、よし。サスケの顔もみたしそれじゃあ先に帰るよ。お姉ちゃんは。あ、その首の千本はカカシ先生に抜いてもらってね。自分で抜いちゃ駄目よ」
そう言ってサスケから手を離して立ち上がる。サスケも続くように地面に手を突いて立ち上がろうとする。
「あ」「サスケ君無理しちゃ駄目だよ」
「大丈夫だよ、これくらい」
それをサクラちゃんがすぐに気づいて手を伸ばして支えてあげた。サスケは強がって見せるけど足元がふらついている。
「…………」
すぐ目の前にいる私が動くよりも先にサクラちゃんはサスケだけを見ていてすぐに動けた。こちらが固まってしまうくらいに。これはお邪魔虫ですよね。
「分かってるって。それよりも一人で帰るのか?一緒に帰ればいいのに」
「サスケは暫く動けないでしょう?それに、再不斬とハクのお墓作ってあげなきゃね」
「………そっか。終わったか。ナルトは?」
「大丈夫よ」
そう教えると、素直じゃない義弟は
「フン、ならいい」
と嬉しそうに目を細めた。口調は素っ気ないのにね。
もうナルト大好きっ子だな。
「じゃあね」
「気をつけろよ、姉ちゃん」
ヒラヒラと背を向けて手を振って別れた。
私の後ろで「離れろよ」とか「駄目!怪我酷いんだから」とか仲の良い会話が聞こえた。
……姉離れももうすぐかと思うと少し胸がチクリと痛んだのは気のせいだと考えたい。でもこれでサスケは写輪眼を発動させた。これで次のステップへ進めるわ。
その準備の前に……この首、繋がっていればいいけどとため息をつかずにはいられない。
なんせ、火影に嫌味な手土産を持ち帰るのだから。
あーあ、頭下げるくらいで勘弁してもらえないかなぁ。
「駄目だったらイオウに食べてもらおうかな」
「我がなんだ?」
私の物騒な冗談に服の隙間からイオウが顔を出した。
「……んーん、なんでもない。帰ろう、イオウ。木の葉に」
「ああ。だが我も一緒でいいのか?」
「バレなきゃ平気でしょう?それとも帰る?」
そう尋ねるとイオウはしばし思案したのち、首を振った。
「いや、これも乗りかかった船というもの。ヒカリが何を望み、何処へ行くのか共に最後まで付き合おう」
「……ありがとう。心強いよ」
小さくともその存在に励まされ、私は約束した場所へ向かった。木の葉に共に行くために。
【波の国編完】