大蛇丸side
初めてよ。
初めて、私の不老不死に理解を示して肯定してくれた相手がヒカリだった。
しかも私よりも年下の小生意気な餓鬼がまさか訳アリ女だなんて誰が考えるかしら。
実年齢、なんて言ってたかしら。忘れちゃった。
私よりも歳くってるのは間違いないわね。
木の葉を出ようと襲撃を受け瀕死の状態の私を、ヒカリは介抱してくれた。
名前を尋ねられ掠れた声で名乗ったら、素敵だと笑みを浮かべた不思議な子。母親が作ったおにぎりだと半分差し出してくれて、その底のない優しさは正直馬鹿だと思ったわ。でもヒカリと話している内彼女の雰囲気に飲まれているというか癒されている自分がいて、不思議だった。どうして、この子は人を包み込むような包容力を持てるのか。
彼女と暢気に会話と続ける内に、ヒカリはとんでもない暴露話をした。まさか写輪眼を発動させられるだけじゃなく、彼女が今まで生きてきた人生そのものを追体験できるなんて。
誰が想像できるかっていうのよ。
一言でいうなら脳みそバーンね。
あれは狂ってる。悪いけどあんな人生なら私はお断り。死んだ方がマシだわ。
けどヒカリは死ねない。死ねないから死に憧れている。
だからと言って死にたがりというわけじゃない。毎回ヒカリとしての人生を楽しみつつ、生まれ変わっていると彼女は何でもないように語るけど、常人なら廃人になっててもおかしくない。もしくは狂ってるか。どちらかのパターンね。
それでもヒカリだから今までもやってこれたんでしょう。
でもヒカリの精神は時折壊れかけているように見える。今もそうだわ。
死を恐れていない。
死を間近に受け止めている。
いつか、訪れるのではなく、自らその危険を招いている。
自分の懐へ招き、愛おし気に死を撫でて愛で、そして導く。自分の内側へ。
待ち合わせ場所は霧が漂う古ぼけた桟橋。指定された小舟に乗りわざわざ変化の術で漁師になって迎えに来てやったのにヒカリは変わらずその貧乳体型のまま、気軽に「や!元気してた?」なんて挨拶を最初にしてくるものだからついクナイ数本投げちゃったわ。軽く避けるのは分かり切っていたけどムカつくわね。
「ねーね、ガトーってさ。バックスポンサーになってくれないかなぁ」
「バックスポンサー?何の」
唐突すぎるのよ、この子はいつも自分のペースで話を進めるから付いてくのがやっとだわ。
というかまずあの霧の忍び送り付けた事謝りなさい。まったく使い物にならないから捨ててきてやったわよ。とんだ仕事だったわ。
「色々と。やっぱり先立つものと言えばお金になってくるじゃない?だからもしもの時ように」
指でお金のポーズを作りその穴からこちらを覗き込むヒカリは私の顔を観察して「あ、また若返った。何回目の不死?」と普通に尋ねてくる。適当に誤魔化して「やめときなさい。足が付くわ」と長年の先輩として教えて上げた。
「そう?」
「そう」
頷き返すとヒカリはあっさりと納得して諦めた。
「そっかぁ。じゃあ脅してもらうものだけもらっておく」
「そうしなさい」
「うん」
素直すぎるわ、相変わらず。ヒカリの場合は相手を選ぶから今のところ私だけかしら。素を出しているのは。それが気を許している証拠として現れているのなら少しは嬉しいというもの。
「後さ、死体を操る術ってある?」
「………ハァ……次から次へと何を考え出すのやら。一変ヒカリの頭の中見てみたいものだわ」
「私が死んだとき見てもいいよ」
「冗談でも嫌いよ。そんな弱気な言葉は」
いつも命を奪っている側なのは承知の上だけど、ヒカリの口から死ぬなんて言葉聞きたくもないし言わせたくもない。
「そっか。じゃあ、大蛇丸には言わないよ」
私限定にするんじゃなくて滅多に言うなって意味なのに、分かってるのかしら。この子は。
「死魂の術があるわ。一朝一夕で覚えられるかしら」
「ああ、それか!必要だから教えてもらえると助かる!大丈夫、多重影分身の術使うから」
「才能の無駄遣い」
「おほほほ!褒めてもらっても天狗になるだけだからもっと褒めて。後は幻術を使って……。タイミングが重要だな。やっぱり私は紛れ込んでた方がいいか。本当はしっかりと見守ってあげたいけどここは二人の成長の為、我慢だわ」
「一人で何呟いてんだか気持ち悪い」
「いやいや気持ち悪いって!一生懸命に考えてやってるのに」
「どうでもいいけど、アレどうするか決めれてるの?こっちは準備できてるけど実行のサイン送るのはヒカリなのよ」
そう、メインの話題が置いてけぼり状態。元々この話をしに会いに来たようなものだもの。けどヒカリは途端に暗い顔になって視線を逸らした。
「………まだサスケが写輪眼を発動できてないわ」
「サスケ君じゃなくったっていいじゃない」
「駄目。サスケじゃないと駄目なの。………イタチはサスケを求めてる。イタチに会わせないと駄目なの」
自分の気持ちを押し殺すのは昔からの癖なのかしら。見ていてもどかしいというか正直イラつく。
「ヒカリはイタチ君に会いたくないの?」
「…………そりゃ、会いたいに決まってる。会えるなら、会いたいよ。ものすごく」
「ヒカリにも人間らしいところがあって安心したわ」
ヒカリがイタチ君に恋心を抱いていると知ったのは手紙のやり取りの中で。
サスケ君に対する愛情とイタチ君に向けての愛情は明らかに差がある。家族としてのものと異性に対するものだった。
けどヒカリは精神的に限界が訪れているのかもしれない。
私の茶化した言葉に何かのスイッチが入ったように彼女の抑圧された感情、心が言葉として溢れ出した。今まで抑えてきたものが一気になだれ込んでくる。
「……そうだね。たまに私、人間だっけって思う時がある。暗部でさ、嫌だなって思ってた暗殺とか拷問とかなんか裏の仕事。もう、慣れちゃった。感覚が麻痺してるの。大勢の死体が転がってる野原でお弁当とか食べちゃうの。これでも人間だっけて思うよね。普通なら食べられるわけない。むしろ吐くばっかりなはずなのに。食欲が湧いてるの。死んでるの見ると、ああ、コイツラは死んでる。でも私は生きてるから食べなきゃって妙な食欲がわきあがる。殺したの私なのに。そう考えちゃったら、ご飯喉通らなくなっちゃって、全部吐いた。吐いても吐いても気持ち悪さ消えなくて、私おかしくなってるのに、おかしいはずなのに、これが当たり前って思っちゃう。いつか、いつか死ぬんだから。今はただサスケの為に、イタチの為にって。頑張らなきゃいけないの。そうやらなきゃいけないの。義父さんと義母さんと約束した。サスケをお願いねって、そう言われた。だから、でも散々走って来た後でふと足を止めるの。これは、本当に私の意思?私が望んで私が決めたから?もうね、分からないの、私が分からない「ヒカリ。もういいわ」」
それ以上言わさない為に口元を手で覆った。ヒカリは縋るようにその手をどけて焦点が定まらない瞳に強張った笑みを浮かべて私に詰め寄ってくる。小舟が大きく揺れた。
「ねぇ、大蛇丸教えて。私、まだヒカリだよね?うちはヒカリでいいんだよね?」
「それ以外に何があるの。アンタはうちはヒカリよ。誰が何と言おうと私の、この大蛇丸の友であるクソ生意気なうちはヒカリは目の前にいるアンタ一人で十分だわ」
ここまで言わせておいてまだいつもの元気を取り戻さなかったら頭一発叩くわよ。
万華鏡写輪眼の影響で使用後に副作用として壮絶な痛みが襲うことをヒカリから打ち明けられた時、出会った時にヒカリから受け取ったあの血が使えるんじゃないかと考えた私は、彼女の為に両目を保護する意味と正体を明かさないように呪いを施した仮面を作った。
ヒカリの血はその理由が不明だけどあらゆる力を跳ね返す作用がある。色々と実験で使わせてもらった確かな結果。あの血を混ぜて仮面を作れば多少の攻撃なら跳ね返すと考えた。
予想は見事的中し、仮面は無事にヒカリの元へ届けられ今に至るけど、やっぱり駄目ね。仮面は痛みを抑える為じゃない。両目を保護するだけの力しかない。
傍でこの子を支えてあげられる人物がいないと、この子は壊れてしまう。
早くヒカリの為にも滞りなくスムーズに行くように調整しなければ。
私なりの励ましに多少、気持ちは落ち着いた様子でヒカリは弱弱しくも笑みを浮かべた。
「………ありがとう。大蛇丸。……もし、また迷う時があったら頬ひっぱたいてもいいから」
「貧乳の方が効き目ありそうだけど」
「それ禁句だから!」
彼女が望む道に付き合うくらい、余裕はあるわ。この黒い瞳に陰り一つなど曇らせやしない。せっかく不死に理解がある面白い友人を得たのに、くだらない理由で手放すのは愚の骨頂。どちらにせよ、ヒカリは失わせないわ。
この大蛇丸の懐に入った限りは、逃がさない。
【賽は投げられた】